【Tier1姉妹 ３．元カノ■女は僕なしでは進めない】 紙城境介／成海七海 角川スニーカー文庫
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四姉妹の恋心、大暴走! 7年前との決着、そして桜音の正体は――?
「そういうわけで、あんまりベタベタしないでね。もうわたしのだから」
梅瑠の怒濤のごときゴリ押しに負け、2ヶ月限定の暫定彼氏になった織見。
「あたしだってせんぱいのこと好きなのに!」
梅瑠の勝利宣言に、竹奈々もまさかのカミングアウト!?
そんな姉妹が織見を取り合う光景は、菊莉曰く“7年前”に近い状況で――。
織見は過去を思い出すため、吉城寺家の伊豆旅行に同行!
そこはかつて、織見が四姉妹からひとりを選んだ場所だった。
次第に思い出される、楽しくも苦々しい記憶。
『本当に好きなのは誰なのか、ちゃんとひとり選んでよ!』
せめぎ合う姉妹の絆と恋心、そして桜音の正体は――!!
このサブタイにもなっている「元カノ■女」が色んな意味で曲者でしたね。
果たして、７年前織見くんに選ばれたのは誰だったのか。どうして、幼い男女の淡くも温かい家族のようだった関係は破綻し、崩壊してしまったのか。いや、どうして……に関しては、男女の修羅場になってしまったから、というのは明言されているのだけれど、どうしてそんな事になってしまったのか。誰が引き金を引き拍車をかけ油に火を注いで藪をつついてヘビを出してしまったのか。
なんにせよ、織見くんにしても姉妹たちに関しても、七年前の過去がどうしてもトゲ、どころか中途半端に曲がって刺さっている釘みたいになっていて、思いきれない原因になっていた。過去の傷跡が痛むどころか、下手をすると新たに釘にひっかけてしまい、またぞろ新しいキズを作ってしまうか、足で踏み抜いて歩けなくなってしまうかもしれない。
ともなると、どうしたって及び腰、慎重になるというもの。少なくとも、七年前の知らないことには出っ張った釘がどこから伸びているのかわからないと、避けることも抜くことも出来ないのと同じことだ。
まあ織見くんの場合、この四姉妹との関係を断ってしまいさえすれば、出た釘に苛まれることはないんだろうけれど、それを毛頭するつもりもなく七年前の真実を熱心に追っているのは、生活のため云々以上にこれからも四姉妹に関わりたいと思ったが故なのだろう。
押されると押されただけ受け入れてしまうことがおおよそバレてしまった織見くんだが、だからと言って受け身でいいと思っているわけではないのだ。受け身どころか、受けきれてなくて押し倒されてばっかりなんだけれど。よく貞操が守られているな、という程度には暫定彼女となった梅瑠に襲われているが。
改めて言うならば、この暫定彼氏彼女という、暫定という冠こそつくものの独占権を主張する梅瑠の攻勢こそが、事態を否応なく動かし始めたというのは間違いないでしょう。
結果として、過去に一番しがらみがなかった梅瑠が、プロゲーマーとしての自分を彼に支えられ、彼に救われ、彼に守られたことで、過去に囚われることなく現在において織見に惹かれ恋をして、真っ向から彼のことを啄みはじめた。過去に囚われていない梅瑠には躊躇はないし、足を止める理由もない。
織見くんが押されれば押されるほどコロコロと転がってしまうことはもう公にバレてしまっているので、梅瑠の好きなようにさせていたら本当に彼女の思うがままになってしまう。
どうしても過去に引きずられて動かなかった娘たちでも、いや過去に囚われ織見という男の子に呪縛されている娘たちならなおさらに、これはどうしても無視できない。
何らかの反応、リアクションはとってしまうだろう。
菊莉？ 彼女は過去から現在に至るまで傍観者ならぬ俯瞰者を気取りつつ、さり気なく織見くんの一番近しい相棒気分でいる迂闊者なので、後方で腕組みして頷いているのに忙しいので、この場合は動かない。動かなさすぎて、置いてけぼりを食らって、あとになって慌てだすあたりがまあ大変にアレなのだが、織見くんわりとそういうところ好きそうなのよね。
それはともかくとして、梅瑠の堂々としたアプローチに、やはり露骨に変な態度になってしまったのが蘭香である。この女、前に男嫌いのくせに織見に対してグズグズになってしまったときもえらい情緒が不安定だったけれど、今回もあからさまなくらいに挙動不審、というかテンション下がって鬱々とした状態になり、絶対になんかあるだろう、という有り様になっている。
単に梅瑠に先を越された、という焦りや敗北感とは違う反応なんですよね。その鬱々感が、自分自身に対して向かっているような、そういう暗さなわけである。
まあその派手な暗さに目を奪われて、ある意味当たり前な反応を示した竹奈々の方への意識をはぐらかされていた、とも終わってみれば言えるんですよね、これ。
リアクション、という意味では物凄く真っ当で物凄く直球で、これ以上無いくらいあからさまな反応を示しているのが竹奈々である、という意識がその時点では全然なかったんだよなあ。
まあまさか、犯人が単独犯ではない……いや、連携した複数犯ではなく、単独犯が二人いた、というのが正しいんだけれど、まさかあれとこれが別々だった、とは思いもしていなかったものだから、うまいこと視線・注目点を誘導されてしまった。
七年前の真実の追求は、まさに子供の頃四姉妹と旅行し遊び回って、その関係の終わりを迎えることになったあの時の場所である伊豆へと、またぞろ一家揃って旅行することになって、決定機を得ることになる。
というかこれ、完全に保護者の芳乃さんの思惑通りだろう。親心か親切かそれとも、何かの意図あってのものか。いずれにしても、状況を決定的に動かしに来たのは間違いない。或いは、作者にせっつかれたのか。
いずれにしても、ここで七年前の真実が明らかになり、そこで過去の精算が行われ、曲がって刺さっていた釘が引き抜かれる、ということになるとどうなるのか。
ある種、行動理性に制限をかけていた、リミッターをかけていた障害そのものがなくなるということ。
好きという気持ちに枷をつけて押し留める必要がなくなるということ。
そして、織見にとってもそれは自分を苛む父親の醜いあり方を、自分が繰り返してしまうことへの生理的嫌悪感を、軽減する。或いは言い訳してしまえる精神状態になる、ってことになるのかな。
色んな意味で、各人が許された、許した、受け入れることへのハードルがなくなった、というのを意味するんではなかろうか。
……単に、歯止めがきかなくなる、という話ではなかろうか、ともうこの巻の初手から歯止め自分から取っ払ってた梅瑠と菊莉の姿。そして後々の澱の払われた蘭香のプッツンきちゃった状態を見てしまうと、これもうどうするんでしょうね。まだ竹奈々が年相応に初々しいのが救いである。
織見くんももうまんざらじゃなさそうだしなあ。こっから続くならどうなるんでしょうね。いや、本当にラブコメ全開路線にするにしてもどういう収拾するんだ？ もう誰も歯止め効いてないんだぞ？！ｗ
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
