【装翼のドラグーン ~高校生からはじめる! 移動都市でSF傭兵生活~】 天酒之瓢／ピナケス カドカワBOOKS
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自称常識人高校生の”非常識”と最強チートに歴戦の傭兵たちもドン引き!?
ごく普通の高校生だった巻嶋朝輝(まきしまあさき)は、700年後の未来で目を覚ます。そこは「異蝕体(オルト)」と呼ばれる異形の生命体によって人類が滅亡寸前に追い込まれた、荒廃した世界だった。
早速襲われた彼は、なんと体当たりで敵をぶちのめす。自身の内から湧く謎のエネルギー源に、封じられていた強化武装(アームドエイヴィス)「クロウゴースト」が応えたのだ。傭兵として活躍する傍ら、ペースト食に飽きて日本の食事を再現して仲間に驚かれたり――と、未来世界は案外彼の肌に合うようで……?
あっ、【ナイツ＆マジック】の天酒之瓢さんの作品だ。
という事で、当たり前のようにロボットものだと思ってました。何しろ、はるか未来で異星からの侵略者によって人類そのものが滅びかけているような時代が舞台ですからね。ぶっちゃけSFである。
SFなら、ロボだろう。
と、思いながらよくよく読んでみたら、あれ？搭乗するタイプとちょっと違うぞ？ というかこれ、装着？ 身につけるタイプ？ パワードスーツの飛行版？ そう言えばタイトルにも装翼とか書いてるわ。てか、表紙絵でヒロインがなんか装着してるわ。
これ、完全武装型のパワードスーツじゃなくて、自分の体の大半をさらしながら、手足の延長みたいな機械を装着して戦うタイプのメカか。
一昔前のインフィニット・ストラトスとか、スカイガールズなんかで使っていた強化外骨格タイプのメカですね。これ、思いっきり生身さらしているから、普通だと戦ってたら破片やら銃弾やらを食らってあっという間にくたばりそうな見た目なんですよね。なにしろ、装甲らしい装甲がないんだから。
なので、バリアは必須なんですよこの手の武装って。物理的な装甲ではなく、なんかよくわからん理論で構築された不可視の壁が絶対に必要になってくるのである。
ある意味近未来型ビキニ鎧というべきなのかもしれない。
本作では普通に男も装着しているし、別に特別性のレオタードみたいな特殊スーツを着る必要もないみたいだけれど。
というわけで、昨今では懐かしいと思える飛行型外骨格でのエントリーだ。懐かしい、の部類ですよね？ 最近、この手のメカが出てる作品ってありましたっけ。言うほどアンテナ高くないからなあ。
さても、西暦という世界基準の暦すら無くなってしまうほどに文明が潰えてしまった未来世界。科学技術だけは未来だけあって非常に高くはあるんだけれど、人類の生存権がほぼ移動都市にのみ限定されるほどに侵略生命体に追い詰められている状況なので、形成される社会がもうディストピアなんですよね。技術レベルはともかくとして文明文化のレベルは徹底して落ちてしまっているようですし。
食事の概念ですら、下層の人間は栄養補給以外のなにものでもなくなっていますし。
そんな中に突如現れた自称古代人の高校生・巻嶋朝輝。彼がこの未来に突如現れた理由に関しては、明言はされずに濁されているんだけれど……これ、転生とかじゃなくて、いやある意味転生なのか？ 科学的転生？ なぜ彼がその復活、転生の対象に選ばれることになったのか、については明らかになった時は納得しかなかったんだけれど、これってある意味トラックに轢かれるのと変わらんくらい、単なる運不運の問題だよなあ。
少なくとも、選ばれて人類決戦存在として喚ばれたわけではないのは間違いないだろう。ただ、現れた彼、巻嶋は普通の高校生なんかじゃなかったわけだ。
厳密には、一般的な高校生の枠組みの範疇から外れてた規格外の人間、ってわけじゃないんですけどね。スペックに関してはそれこそ凡庸だろう。頭だって別に飛び抜けて良いわけじゃないし、転生による技術知識なんかのチートを誇るのに、未来人ならぬ古代人ではちとハードルが高すぎるだろう。
彼が特別で異端であったのは、つまるところ考え方だ。平和な時代の社会的倫理観が消え失せて捻じくれてしまったこのディストピアで、彼が我が家の家訓、父親が残した訓示として誇り貫こうとするそれは、いっそ素朴と言っていいくらいの真っ当な正しさなんだけれど、ディストピアだからこそそういうお題目が心に響き魂に刺さるときがある。
そのお為ごかしならざるお題目を、我が身を捨てても貫こう。自分よりも他者を救おうとする姿勢を眼の前に突きつけられたら、何某かの感化というものは生まれてしまうものだ。
そういう意味では、巻嶋は実に主人公らしい主人公と言って良いかもしれない。最初に彼を拾った機械知性体ベリタスが、ついつい彼を見捨てられずに世話を焼いてしまうほどに。
まあこのベリタス、他の機械知性体と比べてみても情緒がありすぎる、というかほぼ人間と変わらないくらいの感情があるようにしか見えないんですけどね。見た目ただの球体なのに。
むしろ、作中で一番人間らしい常識人、と言えるかもしれないくらいには真っ当なんですよね、ベリタス。こういうやつはだいたい一番迷惑かけられながら仕方なさそうにせっせと世話を焼くんだ。美少女型じゃないのもまた愛嬌。
むしろおかしいのは、自称普通の高校生の巻嶋のほうだろう。現代人とは違う古代人だから、ちょっと考え方がおかしい、みたいな扱いを受けているけれど、巻嶋の家訓に対する傾倒っぷりは現代でも十分に以上である。というか、今どきそこまで家訓なんかにこだわらないし、それを人生の生きる指針としているなんて人は滅多といないだろう。指針の仕方、頑ななまでの遵守志向は異常ですらある。
普通はそこまでやらない。少なくとも、自分の命を捨ててまで貫こうとするものじゃない。現代では。
まあおかしいんですよ、彼。そもそも、現代で暮らしていた頃の彼って……父の残した家訓が呪いのように機能していたっぽいんですよね。その家訓ってお父さん別に普通の当たり前の良いことしか言ってないんだけれど、その父親の不慮の死後の家庭環境においては、彼の残した家訓というのは巻嶋少年にとって、その家族にとって決して救いや支えになるものではなかったんですよね。
それどころか、巻嶋少年にとっては自由を束縛され未来を踏みにじられるしがらみであり、枷にしかなっていなかったんじゃないだろうか。それでも、父が残してくれたものだから、と捨てられず離せずしがみついていた、そんなのが家訓だった。
いやそれより悪いかもしれない。巻嶋少年にとって父が残してくれた家訓というのは、拘束具であると同時に追い詰められ踏み潰されていく彼の心を守る最後の拠り所であり、縋るものであり、正気を保つために必要な命綱だったんじゃないだろうか。この指針がなかったら、果たして彼の心が保てたかどうかわからないとすら思う。それくらい、彼の家庭環境って悪かった、中身がグズグズになっていたように見える。
彼に、家族への愛情は残っていたのだろうか。家訓には家族を守らなければならない、みたいな項目があり、巻嶋自身も言及していたと思うのだけれど……。
この未来世界に放り出されてからこっち、彼が残された家族を思い出すことってほとんどないんですよね。死に別れてしまっただろう母や姉に対して、会いたいとか未練を見せたことがない。思い出したのって、悪夢のときだけでしょあれ。
守るべき家族に対して思い出さないとかじゃなくて、意識することすら避けているようにも見える。
いきなり遠い未来の地にたった一人放り出されて、それなのに過去の世界の社会のあり方とか倫理感価値観などについては良く説いているのに、そこに帰りたい素振り、懐かしんで悲しみ苦しむ様子は全然見当たらないんですよ。
それでいて、父の残した巻嶋家の家訓とやら、多分父親がまだ小さな子供である我が子に向かって、本当に当たり前の正しいことを教えるための教育法だったんじゃないか、と思えるほどにホント当たり前のことしか言ってないんですよね。恩はちゃんと返せとか、家族は守れとか。
でも巻嶋は、その家訓こそが自分が在る上での基本にして最上の理念である、とでも言うように現実すら無視してそれを貫こうとするのです。そうすることで自分が死ぬことになったとしても、一瞬の躊躇もなく。
ある種の盲目さすら感じさせるその遵守の姿勢。そこに狂気を感じるのはおかしいでしょうか。
過去において、その家訓に縋ってしがみついていないと、心が壊れそうだったから。守るべき家族から逃げ出すか我慢できずに壊してしまいそうなほど、精神面が崖っぷちに立たされていたからこそ。
この未来世界に来ても、家訓を貫いて生きることから逃れられなくなってるんじゃないか。無意識に、それを至上の命題、最優先事項にしてしまっているんじゃないか、と思うところあるんですよねえ。
生命線であり最後の縁であり、正気を保つよりどころであったからこそ、今更その位置から動かせない。
というような側面を、巻嶋の言動から感じ取っていました。或いは、ベリタスも彼のどこかに危うさを感じていたからこそ、目を離せなくなっている部分もあったんじゃないだろうか。
本人まったくそのあたり、自覚なさそうなのも含めて。
というか、ベリタスかなり確信的に巻嶋の危うさ、理解してますよね、これ。その上で、巻嶋を庇護すべき最優先にしているあたり、彼の機械知性体としてどっかオカシイのかもしれない。或いは、機械知性体としての本分を見つけたのかもしれない。
巻嶋の明るく脳天気なくらいの陽の性格は、異星の侵略生命体の追われ、移動要塞都市の内部の厳格な身分制度……虐げられ人間扱いされないことが当たり前みたいになっている、未来を生きる人達にとって光にも似た眩さを放っているけれど……。
現代での、あの悪夢から見えた彼の日常の様子では、もう鬱々として虚ろな目をしてそうだった巻嶋の様子と全然違うんですよ。なんかこう、闇というか危うさみたいなものを感じるんだよなあ。
今の命がけだけれど、家訓を守ることで正しさを示せる、それを正しいと認められ受け入れられるこの世界こそが、ベリタスやエイヴリルたちのような生きることにちゃんと必死で、一生懸命で、それでいて周囲に優しく在れる人達と共に居ることの出来るこの未来こそが、彼にとっての望むべき世界なのかもしれないが。
Ａｍａｚｏｎ
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