【魔術漁りは選び取る ２】 　らむなべ ／EEJU MFブックス

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未来を願う光が、二人を優しく包み込む。

貴族の養子として引き取られてから二年が経ち、アンドレイス公爵家の側近候補に選ばれたカナタ。公爵家の三人の子供達と交友を深めながら過ごす日々の中、カナタは最終的に誰の側近となるのか試される事となる。
ある日、公爵家が主催するパーティーの開催が決定した。しかし、長子セルドラと次子ロノスティコの間で後継者争いが浮上し、子供達の関係が崩壊しかかった状態のままパーティー当日を迎えてしまう。さらに前夜祭に狩猟大会、そして舞踏会に乗じて公爵家の没落を謀る派閥や王位継承のために動く者達の陰謀が絡み合い、カナタは己の過去と向き合いながら混迷を思わぬ事態へと導いていくのだが――。
命を賭したその選択が、全ての未来を大きく変えていく。

カナタが仕える事になったアンドレイス公爵家の子供たち、思ってた以上に…ホントに思ってた以上に良い子達だった。
男性恐怖症の長女ルミナと気難しそうな次男のロノスティコについては顔を合わせてすぐにカナタに懐いてくれたんだけれど、長男のセルドラに関してだけは尊大で自信家で自分勝手というところが垣間見えたので、これあんまりうまく行かないんじゃないかな、と危惧していたのですけれど。

いやあ、ロノくんにしてもセルドラにしても、こんな兄弟想いの良い子たちとは思わんかっただけに、貴族として以前に兄として弟として、お互いを信じて守ろうとする姿には、人としての矜持みたいなものを感じて感動すらしてしまいました。
貴族の子弟としては、兄弟だろうと家のためならより良い結果を求めて相手を蹴落とし、場合によっては殺し合って優れた血を残す事もまた貴種としての在り方である、というのをちゃんと弁えた上で、貴族である以前に兄弟である事を選び取る、その勇気と気高さですよ。
これはもう、カナタはこの三兄弟誰に仕えるんでも、なんの文句もないですわ。義兄であるエイダンがセルドラの側近になっているので、二人でセルドラに仕えるというパターンはあんまりなさそうなのですけれど。いや、そもそも側近として仕える、という形がこの巻の怒涛の展開で消え失せそうではあるんですが。
そのエイダン兄さんも、最初期の不仲が嘘のように今や兄として、カナタの事可愛がってくれてますからねえ。その途方もない魔法の才能を弟が持っている、というのを理解し踏まえた上でしっかり弟として扱い、先に側近として仕えている経験を惜しみなく弟に伝えて、導いてくれるのですから、滅茶苦茶いい兄様なんですよねえ。カナタも素直に尊敬してますし。

いやもう、周りの人が大人たちだけじゃなくて、みんなカナタにとって尊敬して慕うに値いする人ばっかりなんで、もうカナタがふんだんに水と栄養を与えられてすくすくと伸びていく大木みたいに健やかに、素直に、まっすぐに成長しているんですわ。
彼が辛く苦しい現実、悔いや自身に対する失望など足を止め、苦悩に頭をたれてしまった時なんかでも、すぐに気づいて声をかけてくれる人がいるし、彼の苦しみ後悔を解きほぐして彼を言葉で、愛情で教え導いてくれる人もいる。
カナタ自身の器の大きさでもあるんでしょうけれど、あのただの貧しくも賢明に生きる庶民のシングルマザーでありながら、あまりにも高潔だった母親の背中を原風景とし、孤児となりながら愛情を持って生きるすべを仕込んでくれた傭兵団の団長と副団長。父親と母親代わりと言っていい二人に心の在り方や教養など基盤となるものを教えられ、貴族の養子に召し上げられてからも新たな家族に、本物の家族同然の愛情をもって育てられ、主君の家の人達にはただの主従ではない親愛をもって導かれ、なんか物凄く素晴らしい人とのつながりによって、カナタという名剣が鍛え上げられていってる風情がありますよ。
それも、彼を助けてあげたい、手を差し伸べてあげたい、彼と一緒に大きくなっていきたい、と思わせるカナタの健気さ、愛嬌、素直さ、ひたむきさ、親しみやすさ、そして気高さや高潔さというものがあってこそ、なんでしょうけれど。同時にそういう少年を創り上げているのも人格形成していっているのもまた、周囲の人達との関わり合いからなんで、ほんと相乗効果なんですよねえ。
義父とアンドレイス公爵は、カナタを利用し駒として最悪使い潰すつもりだった、と言ってますけれど、ただの駒とするには愛情注ぎすぎてますし、彼の意見を聞かずに切り捨ててしまったのは無意識にもカナタの事を駒として見ていたからだ、と自己分析まで出来てしまっている上に、それをちゃんと本人に頭さげて謝ってくるとか、並の大人じゃ出来ないですよ。カナタ自身は、自分が駒扱いされることはなんにも思ってないどころか当然くらいには考えてたでしょうから、そこまで深く本気で謝られる筋合いなんて無いと思ってたでしょうし、カナタが思ってた以上に本気で愛されていたからこそ、の謝罪だよなあ、これ。
そして、そんな夫たちをぶん殴って叱ったお母さんズがまた、すごい大人たちですわ。
こういう人達に育てられたからこそ、元々実の母の薫陶もあって貧すれど立派な人であったカナタがいささかも損なわれることなく、いろんな善き側面を大きく深く広くしていって、今に至ってるんだろうなあ。
なんか、ほんと心ある人ならみんなカナタみたいな子、ちょっと接するだけで好きになっちゃうんですよ。そういうカリスマ性、というのか愛嬌というか、人好きするところあるんだよなあ。
一巻のある意味ラスボスだったブリーナ夫人、この人も色んな意味でカナタにぞっこんだったわけですけれど、処刑される寸前に自分の息子と面会して、処刑の要因となったカナタのことを、あなたも好きになるわ、なんて言い残してるんですよねえ。
どう考えてもブリーナ夫人が悪いんだけれど、それでも息子としてはそれまで何の悪心も抱かずずっと良い母、良い魔術師として生きてきた母を惑わせ、死に至らしめたカナタのことは、悪くないと理性でわかっていても、感情として納得できないし憎しみすら抱いていたのは当然の事だったのですけれど。
実際、会って話してみると、母とカナタの関係が一方通行ではなく、あれだけの殺し合いに発展しながらお互いに師弟としての信頼と敬意が些かも濁っていない、今もブリーナ夫人の事を師匠として敬意と感謝を抱いている様子を目の当たりにして、ブリーナ夫人の息子さん、もう母の言い残した通りカナタの事好きになっちゃってるんですよねえ。
ああ、これもう許してるわ。許すとか許さんとかそういうレベルじゃなくて、完全に気に入っちゃってるわ。母の仇とわかっていながら、それ以上に母の遺した大事な最後の弟子で、ちょっと身内意識すら抱いちゃったわ、というのが伝わってくる態度を見せていて、もうくすぐったいというか思わずニヤついてしまうというか。
このあたり、カナタの魅力というか、人からどう好かれるのかを一番如実に示していた関係のように見えましたねえ。

そういう人と人とのつながり、絆の強さ。相乗効果的に人としての在り方を高めていく関係が随所にうかがえるからこそ、そういう関係そのものを無思慮に、悪意たっぷりに、邪悪に断とうとしてくる輩に対して、カナタという存在は無慈悲なほどの怪物と成りあがるんですね。
絶対に許さないモンスターになる、というべきか。それは言わば守護騎士とも言えるんですけれど、現れ方が完全に確かに怪物感ありありだったんですよねえ。
でも、だからこその頼もしさ。絶望を吹き飛ばすだけの絶対的な迫力がありましたよ。
これもう、ルミナからしたらシチュエーションも相まって、完全に撃ち抜かれましたよね。そして、ルミアとカナタの知られざる関係性が明らかになってしまえば、それは運命的ですらある。
一つ間違えれば、その事実はルミアとカナタの心に取り除けない溝を穿つものになったのでしょうけれど、カナタが母から与えられ受け継いだ高潔さは、母の最期を罪としなかった。ルミナが幸せにならなければいけない絶対的な理由へと転換してくれた。
これもう、ルミナからしたらどうしようもなく唯一無二にならざるを得ないでしょう。
デナイアルの魔術って、ゲームのボスキャラで登場したら無理ゲーに近い反則みたいな内容なんですけど、意外とゲーム的にはボスのギミックとしてはありそうだったりするのが、なんか嫌だなあ。初見殺しは間違いないでしょ。攻略を読むか、余程死にゲーとして何度もアタックして法則と手順を確定させないと絶対無理なやつですよこれ。
宮廷魔術師という圧倒的格上相手に、その初見殺しを乗り越えてしまうんですから、カナタくんヤベえですわ。マジヤベえですわ。
個人的にメリーベルとデナイアルってわりと長い付き合いになるのかと思って見ていたので、中盤からの急展開はかなり意外でありました。これ、カナタの近しい大人たちみんなかなりの善い人たちなので油断してましたけれど、王族関連完全に魑魅魍魎の跋扈する魔窟じゃないですか。悪意たっぷりの謀略塗れで、指先触れるだけでも汚染されそうなヤバさが伝わってくるんですが、今後カナタがさらに立場あがっていくようなら、どう足掻いても触れないといけない領域なんでしょうなあ。
もう、向こうから注目されるに違いない目立ち方をしてしまいましたし、ルミナを幸せにするには奥に引っ込んでいるわけにはいかなくなったでしょうからね。
幸いにして、今まで以上に周りの人達が味方として全面バックアップしてくれそうな勢いなので、そういう意味では心強い限りです。特に一番力握ってそうな母親二人が物凄く前のめりになってますからねえ。
こっからの展開が、ほんと楽しみになってきた。






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