【クズに金貨と花冠を ２ ひとりぼっちの最強少女は自称悪徳商人に拾われ幸せになる】 もちもち物質／高嶋しょあ オーバーラップノベルス
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大好きなみんなに囲まれて、幸せ満タン！
ネールとランヴァルド、ふたりぼっちの旅は続く。
冷夏によって食糧難の兆しが見える王国北部では治安が悪化しており、武器の需要が高まっている。
自称悪徳商人のランヴァルドとしては急いで武器を調達し、北上して売りさばきたいところ。
だが、純真無垢な最強少女のネールと共に行くならば、事（こと）が順調に進むはずはなく……!?
「なあ、ネール。たしかに人を助けるのは素晴らしいことだ。けど限度ってものがあるんだぞ……」
『三歩進めば人助け』の雇い主（ネール）に苦言を呈すものの、やる気に満ち溢れた美少女の前では『悪徳商人』も形無し！
命を狙われる貴族令嬢の影武者を務めることになったり！
持ち帰った『お気に入りの石』が実はドラゴンの卵で、ぷにぷにの赤ちゃんドラゴンのお世話が始まったり！
ネールとの毎日はやはりすこし想定外で、けれどもなぜだか笑顔と喜びがあふれていて――!?
復讐に燃える青年と行き場のない少女のハートフル冒険譚、世界が広がり色づき始める第二幕。
ええぇぇぇえ、ちょっとなあ、ここまで……ここまで自覚のない善人ってなかなかいないと思うぞ。
だいたい善良な人って、多かれ少なかれ自分が善良寄りなスタンスで居る自覚はあると思うんですよ。善いことをするって、心がけあってのことで、自然に無自覚にそれができる人もそれが当たり前のこと、当然でいちいち誇るべき事でもない、と思っていても、意識すらせず呼吸するように善行を為す、というのは結構難しいと思うんですよね。
でもこのランヴァルトくん、ホントの本気で自分が善行を為している事に気づいていない。自覚がない。なんなら、上っ面だけ良い振る舞いをしておいて実は裏で悪いことを考えているつもりですらいるのである。
いやあ……それはもうさすがに無理がありすぎだよ、ランヴァルトくん。
君の自称悪徳商人の自称って、自称石油王とか自称海外の王族とか自称織田信長の末裔くらいには信憑性が乏しいんですよ。たちが悪いのは、この自称は当人が本気で信じ込んでいる自称なんですよねえ。
よく、主人公の言動を勝手に思い込みで誤解して盲信して、美化して後付で意味づけして虚像を膨れ上がらせて信仰の対象みたいにしちゃってる、勘違い系みたいな物語がありますけれど。
本作はその真逆みたいな話ですよね。
ネールがランヴァルトの事を完全に信じ込んで、彼のやることなすことに目をキラキラ輝かせて、凄いと感心したり、なんてカッコいいんだろう、なんて素晴らしい人なんだろう、なんて善い人なんだろう、ともう夢中になっていってしまうのですけれど、そんなネールをランヴァルトはこの子を騙して良いように利用してやってるのだ、となんて自分は悪い商人なんだろうと悦にすら入ってるんですが……。
いやいやいやいや。これ、現実的にランヴァルトがネールに対してやってることを冷静に、客観的に、予断を挟まずにありのまま見てたらさぁ……ネール、なんも勘違いも美化も誤解もしてないんですよ。
この男、本当に自分がどれだけの事をネールにしてあげているのか、わかってないのか？ 金銭も物品も地位も名誉も、何なら優しさや慈しみや甲斐甲斐しいまでのお世話や教育教養知識に知恵、人生や命すら与えてる。ガチで何もかもをこの子に与えてあげてるんだぞ。
もちろん、ただで奉仕するばかりではなく、ちゃんとリターンも考慮に入れて実際色んなプラスを得ているけれど、ただの利害関係ではあり得ないほどの途方もない量と質のものをこの商人は、一人の少女に捧げまくっているのだ。
おまけに、意識して何かあげている分だったり、見返りを期待して投資しているものばかりではなく、あげてる意識のないものも山程あるんですよね。
こ、この男、なんかすごく自然にさっきからネールにあれこれあげまくってるんだけど、これあげてる意識ないよなあ、というシーンが一巻と比べても加速度的に増えてやんの。
ネールも感謝の心は絶対に忘れないんだけれど、ランヴァルトに対して甘える事ができるようになってきたのか、結構わがまま……わがままじゃないんだけど、おねだりというか、自分の希望をランヴァルトのお願いできることが多くなってるんですよね。人助けでランヴァルトの時間を奪っているのもそうですし、竜の卵に関してもあれは結構なおねだりだったんじゃないでしょうか。
それをランヴァルトってば、愚痴りながらも全部青信号で許しちゃってるんだからさあ、ダダ甘じゃないですか、ネールに対して。ダダ甘ですよ。
まったく、言動は上っ面の愛想だけ良い胡散臭い商人そのものなんだけれど、一緒の行動しているとどうしてもその根本の善良さが滲み出まくってしまっている事を目の当たりにしてしまうんでしょうねえ。
かなりランヴァルトの事を警戒していただろうメイドのウルリカさんをして、しばらく一緒にいたことで、この人どうしようもない善人だ、と思い知らされてたみたいですし。
主人の貴族が珍しいくらいのお人好しである上に、家中がお家騒動の真っ最中ということで、ウルリカさんも自分が気をつけねば、と警戒度マックスだったにも関わらず、ですよ。家中でも監察役を担っていたような人なので、特に疑り深く行動する人であり時期であったにも関わらず、ですよ？
まあ、咄嗟に他人を突き飛ばして自分が地割れに落ちちゃうような人が、どう転んでも悪徳商人なんぞ名乗れんよなあ。でも名乗ってるんだよなあ、こいつ。
そして、自分を善い人だと言うネールたちの事を、人を見る目がないやつらだ、と言って呆れているのですけれど……あんたこそが自分を見る目がなさすぎなんですってば！！
さても、偶然襲われているところを助けた貴族の娘さんが、どう見てもネールと瓜二つ、という……これ何か血縁でもあるのか？ と疑いたくなるようなそっくりさんだったのをきっかけに。
お家騒動で命を狙われているという彼女から依頼され、影武者として本家へと赴くことになったネールとランヴァルト。そこでランヴァルトは、前回自分を騙して全財産を奪い取った相棒だった商人と運命の再会を果たすことになるわけですけれど。
そこで因縁の相手と影に日向に駆け引きして、相手のお家乗っ取りの陰謀を暴くべく、暗躍し合うわけですが、ランヴァルトくん善良の鬼ではあってもお人好しとはまた別の辣腕の商人であり、暗殺の網から自力で逃れた貴族の御曹司だった、という切れ者でもあるんですよね。善い人ではあっても、甘ちゃんではないわけだ。親しくなった人に心を開いて味方してしまう人であっても、誰彼構わず慈悲をふりまき、敵を見逃してしまうようなタイプじゃあないんですよね。
ネールの武力を借りつつも、きっちり相手の策略を上回って、追い詰めていく姿は頼もしいばかりでした。全然強くないのに、危ない場面でもネールをちゃんと守るし、ネールがピンチのときは駆けつけるんだよなあ。そりゃあもうネールもかっこよすぎてデレデレになっちゃいますよ。
なんなら、ウルリカさんも結構惹かれてましたよね。
結局、ネールがエヴェリーナお嬢様と血縁だった、という事は全然なかったんですけれど、血族にのみ反応する古代遺跡に、妙な反応があったように、ネールの血筋か出自になにか裏があるのは間違いなさそうなんだよなあ。
そんなネールを、英雄に仕立て上げてなりあげていこうとしているランヴァルトだけれど、彼女を表舞台のひな壇にあげるというのは、何かしらの激烈な反応を呼び起こしそうでちょいと怖いものがありますなあ。
この巻での進行は、お家騒動の一件の決着ですっぱり終わらず、その次の章と思しき北の地の竜殺しの話にちょっと踏み込んだところで終わっているのですが、こちらもなんか領地単位のゴタゴタに知らずに首突っ込んでるんじゃないか、という不穏な空気が流れているところで終わったので、続きが気になる気になる〜。
そして、その不穏な空気になんも気づいてなさそうなランヴァルトくんですよｗ
Ａｍａｚｏｎ
Ａｍａｚｏｎ
