【ファンタジー何とか 1　〜うろ覚えのゲーム世界で伝説の悪役として生きるには〜】 　東中島北男 ／ Yuzuki オーバーラップ文庫

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悪逆非道の道を征く――はずが、なんでヒロインからの好感度上がってるんだ!?
原作再現のため伝説の悪役を目指す、爽快ループファンタジー！

死を覚悟した瞬間、男はとあるRPGの悪役キャラ・ゲルドに憑依していた。
「このゲームってたしか……ファンタジー……何だっけ？」
あやふやな記憶の中で唯一覚えていたのは、「ゲルドはヒロインを誘拐し破滅を迎える」ということだけ！
破滅回避のため悪事も働かず気ままな生活を送っていたゲルドだったが、ある日を境に３年周期のタイムループに巻き込まれてしまう。
自身の原作改変が原因だと考えたゲルドは、ループ脱出と破滅回避のどちらも叶えるヒロイン誘拐計画を立て、ついに悪役として動き出す！
はずだったが、うろ覚えの悪役ムーブがなぜかヒロインとの仲を深めるきっかけになってしまい……!?



もう既にタイトルからして、主人公のゲルドの雑さというか適当さがあふれ出てるぅぅ。
いや、彼の性格が雑でいい加減で考えなしなのは、それはそれで個性なのでいいんですよ。そういう雑さだからこそ、死んだり３年経ったりしたらループして戻ってしまう、という状況にもあまり堪えてないし、結構厳しいであろう展開でもあんまり気にせず鷹揚に構えてますしね。鈍いにも良し悪しがあるということで。
それに、不思議と彼って人から好かれやすいみたいで、元々相当の嫌われ者だったにも関わらず、だいたい３年が経過する頃には周囲の人達から好かれ慕われてたりするんですよね。
あの能天気で何も考えてないようで実際考えてない陽なキャラクターが、意外と周りからは頼もしく朗らかで親しみやすい人柄に見えるんだろうなあ。
わりとその時に立った立場次第ではちゃんと責任から逃げずに、やるべきことはしっかりとやるので、慕われるのも的外れではないんですよ。
ただ深く物事を考えたり、先々を見越して考えたり、一度立ち止まって考えたり、という考えることをしないだけで。

……この男、ループした直後は今後どうするか、前までの展開を踏まえて考えて行動に移すんだけれど、一度行動に移したあとは物事に関してほとんどなんも考えないんですよ。気にしておくべきこと、今のうちにやっておくべきこと、途中で立ち止まって現在の状況を踏まえてもう一度今度どうするか考えておくべき場面が多々あっただろうに、最初に路線を決めたあとはほんといい加減に何も考えんとそのルートの上を流されていくのである。
いや最長でも３年という短い時間だけれど、それはそれで一つの人生ですよ？　もうちょっと、もうちょっと頭使おう！？　頑張って思慮を巡らそう！？
最初に設定を決めて、あとはオート、みたいな感じで人生決めてほへらほへらと笑ってるこのゲルトくんの適当さたるや、もういっそ凄いとすら言えるのかもしれません。

まあそんな彼でも、ループするごとにせっかく親しくなった人達との人間関係がリセットされ、元の嫌われ者に戻り、警戒と嫌悪と侮蔑の目で見られるのは相当に堪えるらしく……あれだけ能天気で図太いというか感性が鈍感っぽいゲルトですらこれだけダメージ食らってるんだから、きついんだろうなあ人間関係リセット。
まあこれがあるからこそ、ゲルトが毎回ループしたあと、前回と違うルートに行こうという意欲が湧いてくるんでしょうけどね。適当なこいつのことだから、途中で元に戻ってしまうとは言え安楽、みんなとワイワイ楽しくやれる時間が続くなら、別に何度ループしてもおかまいなし、現状維持！　を選び兼ねないところがあるからなあ。楽に流されるというか、別に検証マニアとかではないんで、ゲームに対する思い入れや熱量もないものだから、他のルートを虱潰しに調べていくみたいな熱量や好奇心はなさそうなんですよね。
だからこそ、関係リセットという辛い思いを避けるために、毎回違うルートを選ぼうととりあえず考えて行動に移す流れになるんですね。このへん、よく練られているんじゃないだろうか。実際に練ったかはわかりませんけれど。

ただ、ホントに毎回別のルートへと進んでいく上に、人間関係がリセットされてその人間関係を再構築するためにトライすることが殆ど無いので、短いスパンでゲルト以外のキャラクターは登場しなくなっていくものだから、主人公以外の登場人物の存在感が希薄なんですよ。
一番身近なおつきのメイドのシノが、わりかし登場頻度多めだけれど、その彼女も初っ端専属から外される展開になりますし、学園編になるとそれ以降登場しなくなりますからね。どうしてもメインヒロインというのには弱い。

ようやく終盤になってミリーをはじめとしたゲームの原作キャラが登場してきて、これで本編に突入したんだろうか。でも、いまさら原作と同じ行動を取ったところでループが終わるとはとても思わないんだけれど、何周も何周も原作スタートまでたどり着くまでに人生繰り返しておきながら、そのへん特に深く考えてないんですよね。恐ろしく時間あったんだから、考察とかしなかったの！？
しかも、うろ覚えのままの記憶のもとに原作再現しようとするし、そもそも再現するつもりがあるのか、というくらい原作の悪役であるゲルトの行動のトレースが雑、いい加減、適当、そして特に改めるつもりもなし！　という感じでやっていくので……練習とかリハーサルとかも全然やってないし脳内シミュレーションもやってなさそうなんだよなあ。これまでの時間まじでなんもそのあたりの事に頭使ってなさそうで、その場で思い出し思い出ししながら一発勝負、勝負にもなってないな、雑な演技で巻き込むミリーに対しても行き当たりばったりで呆れられ、いやもうほんとにこいつはｗ
能力だけはループしてもリセットされないものだから、ガンガン強くはなってるんだけれど、中身はさっぱり成長していない適当チャラキャラなので、なんかもう親しくなったミリーさんの方がこいつ、私がどうにかしないと、になっちゃってるじゃないですか。
今まで慕われてきたケースも、おおむねこの人自分が見てあげないと、系の思われ方だったんじゃないだろうかｗ
まあこういう軽薄で空っぽで、だからこそ重くならず変に深刻にならず、話をふわふわと進めてくれるゲルトのキャラクターこそが、本作の肝で、面白い部分なんでしょうけどね。
いやほんと、もうちょっと考えて！とは思うけれど、別にその考えなしにストレスを感じるような事はほとんどないので、それはそれで人徳だよなあ。

とはいえ、これだけミリーと仲良くなってしまうと。いまだかつてなく一人の人と深く仲良くなってしまいましたからね、こっからループして戻って関係リセットはゲルトだけじゃなく読んでるこっちまでダメージ致命傷になってしまうのですけれど、どうするんだろう。
原作ゲームの開始にあわせて、ループの開始地点も変わるんだろうか。

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