【機甲猟兵エルフリーデの屈折した恋愛事情 1 〜最強パイロットは無礼なスパダリにキレている〜】  灰鉄蝸/中村エイト オーバーラップノベルス

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「――俺の犬になれ、英雄」「わたしが美少女だから……?」「……違う」 「おもしれー女」な最強パイロットとスパダリ貴族の出会いが、狂った世界を変革する!!

「ベガニシュ帝国」――周辺の国々を侵略してきたこの軍事国家に、「バナヴィア王国」が併合されて十五年の月日が流れた。

祖国を滅ぼした帝国で、人型兵器「機甲駆体(バレットナイト)」のパイロットとなることを余儀なくされたバナヴィア人の少女エルフリーデ。
人質に取られた妹のために戦い続けた彼女を待っていたのは、被支配民族である彼女の活躍を危惧した勢力による謀殺だった。
帰還不可能な任務を命じられ、奮戦の果てに命を落とそうとしていたエルフリーデだったが、突如戦場に現れた謎多き貴族の青年クロガネに命を救われる。

「俺の犬になれ、帝国の英雄」
不遜な言葉に反感を抱きながらも、妹を救うためにクロガネと契約を交わすエルフリーデ。
彼女はクロガネの剣として戦う中で、その過去と目的、そして不器用な優しさを知ることになり……?

最強の戦乙女が宿命に反逆するSF英雄戦記、堂々開幕!!



Web版の連載は既読済み。まー、めちゃくちゃ面白くて、ネット小説を紹介する企画記事なんかでも取り上げさせて貰ってます。連載自体はだいぶストーリー進行しているのですが、だからこそというべきか。改めて書籍版として最初からの話の展開をまとめて読むと、新たな発見がありますなあ。
新たな発見というよりも、登場人物の解像度があがった、というべきかもしれません。その後の登場人物たちの行動、功績、思想、感情などの変化、変遷を見てきたからこそ、まさにこの最初こそがターニングポイントだったんだな、と最初から読み直すとよくわかるんですよね。
特にクロガネ。
あらすじにもある通り、いきなりエルフリーデの事を犬呼ばわりする大変失礼というかノンデリな言動で当たってきて、エルフリーデをムッとさせてしまった男です。タイトルにすら無礼とか言われてますよね。
ただ、会話対話を続けていくとクロガネって愛想も可愛げもないんだけれど、解説好きでやたらと回りくどくて不器用で、とまあやや天然のきらいもある男性なんだけれど、何より誠実でその芯に確固とした信念に近い善性を持っていて、ノンデリどころかむしろ気遣いと配慮の塊みたいな、まさに包容力のあるスパダリって感じなんですよ。
まかり間違っても年頃の女の子を犬呼ばわりするような男とは程遠い、真逆の人間性なわけです。連載の方を読んでた頃は、クロガネって最初の頃だけなんでエルフリーデに対してこんな無礼で傲慢に見える態度取ってたんだろう、って不思議に思ってた所あるんですけれど、改めてこの第一章を通して読んでみるとクロガネの罪悪感を基盤にした精一杯悪ぶってエルフリーデの憤りを受け止めようという彼の心境がもう明晰に描かれてるんですよね。
そして長き長き年月を、これは世界の滅びを防げなかった贖罪なのか後悔なのか、現行世界が地獄のような有り様になっているその原因であるという重責を一人で背負い込み、どちらかというと後ろ向きにこれ後始末に人生を費やしてきた男にとって、その贖罪を果たすための道具としてまだ若い子供のような少女を使わなければならない罪悪感に、彼女から恨まれ憎まれ罵られでもしなければ気がすまなかった、というような心境が垣間見えるんですよね。
そのわりに、誠実さとか優しさとか宝物を扱うような心を尽くした配慮が随所に垣間見えてしまって、エルフリーデもあんな無礼なことばっかり言うのに私に対してやってること全然違うくない? とんでもなく助けられてない? とかなり混乱困惑クエスチョンマークが飛び交ってしまうわけですが。
いい人である事を全然隠せてない上に、その苦悩が無表情の奥から如実に見えてきてしまうわけだ。
まあそんな感じでエルフリーデをまあやや分裂したような態度で扱っていたクロガネですけれど、多分に彼女のことを見縊ってたってことなんでしょうなあ。
ただの被差別民の平民の普通の女の子から、戦場の英雄へと駆け上がった彼女は、ハリボテやプロパガンダによって作り上げられた英雄なんかじゃなく、ただ戦場で無敵を誇るだけの強いだけの英雄でもなく、人の理想を体現する本物の英雄だったわけだ。
十万年の苦悩を焼き払う、鮮烈な光だったのだ。
彼女のその戦場での無類の強さに目をつけて、謀殺されそうになっていた彼女を手駒として手に入れたクロガネだけれど、最初の頃の言動を見る限りその強さは認めていても、エルフリーデのこと子供扱いしてるんですよね。本来なら守られるべき子供である、と認識している。まあその子供を戦いの尖兵として使おうってんだから、罪悪感半端なかったんだろうけれど。
ところが、エルフリーデの戦場の強さのみならず、心の強靭さと柔らかさにクロガネ、メタメタに感化されていくわけですよ。そのエルフリーデを見る眼がどんどん変わっていく変遷は、こうして通して見るとほんとよくわかります。
そして、クロガネが長きに渡る苦悩の象徴に決着をつけたあと、ある意味これまでの人生の目的を見失いかけた彼に対して、エルフリーデが与えた許しと何気ない示唆は、これ決定的なまでにクロガネの歩みを変えてるんですよね。
連載版で先まで読んでいるのでわかるんですけれど、クロガネがこれからエルフリーデを伴って成していく事と、彼が過去にどれだけ歴史に対して主体とならず傍観者であり続けてきた姿がもう、全然違うんですよね。護国卿にまつわる話なんか見るとクロガネの姿勢、もう全然違うもんなあ。
歴史に対する責任の取り方が、決定的に変わっている。
そのあまりにも大きすぎる転換点こそが、改めて最初から読んでみるとこの巻で描かれてるんですよ。
ああもうクロガネ、エルフリーデにどうしようもなく脳焼かれてるじゃないか。
ある意味、これ以降のクロガネって、エルフリーデの願いを叶えるための献身にすべてを費やしているようにすら見えます。彼の真っ当すぎる性質と善性は、人を世界を幸福に導くことに何の躊躇いもないでしょう。でも、彼の苦しすぎる過去が彼にそれを世界にもたらす資格があるのかずっと疑念を抱かせていたようにも見えます。エルフリーデという存在は、それを一切合切振り払ってしまった。それは自分を罪深い存在だと背負い続けた彼そのものを肯定するものであり、許しそのものであり、彼の善性の在り方の背中を押して寄り添うものだったわけだ。エルフリーデが彼の剣になる、という宣誓はまさにそれなんですよねえ。
そしてクロガネにとって、この地獄のような世界を少しでも良くする事は責務である以上に、愛すべき少女の願いを叶えるための献身になったんじゃないだろうか。これ以降の彼の精力的なまでの活動の原動力って、もう彼女への無垢なる愛に見えるんだよなあ。ってか、そのへん隠しもせず堂々と公言しだしてるような気もするけれど、のちのち。

一方でこのおもしれー女英雄こと、いやまじで愉快系面白天然ヒロインですよね、エルフリーデって。この娘の方も、境遇としては地獄を見てきて、唯一の希望である妹のティアナも人質同然に確保されて理不尽なまでに強いられながら戦って戦ってしがみつくように生き残ってきたわけで、世界に対して絶望に似た感情しかいだけていなかった。
それをクロガネに九死に一生を得る形で救われて、拾われるなんてとんでもない、凄まじいまでの厚遇、厚遇どころじゃない庇護を受けて、その相手の不器用なまでの言動の合間から垣間見える苦悩に手を触れて、まーーー、こっちはこっちで凄まじくクロガネに影響受けてますよね。
根本は一切変わっていない、というか境遇の凄まじさに曇っていたものがクロガネに与えられたもので晴れた、というべきなのかもしれませんが。
彼女の方もまた、彼の苦悩を祓うために自らを一振りの剣と定義するのであります。それもまた、絶対的な献身なんですよね。このコンビ、お互いに尽くし合ってスパイラルしながら駆け上がってるような関係だよなあ。
それでいて、二人で自由に会話しているとなんか端から聞いていると何ズレた会話弾んでるんだ? とイチャイチャしてるのかボケボケしているのかよくわからん、ぽんこつ愉快な有り様になっているのが不思議で面白いんですよねえ。これを一番近くでいつも聞いている執事のロイが、作中で一番いい空気吸ってるやつ扱いになっているのは、大いに納得である。
エルフリーデのある意味容赦のないツッコミというか、身も蓋もなくばっさりと切り捨てる物言いにいちいち無表情にショック受けながら素直に言い方変えたりするクロガネ、大変可愛らしいスパダリです。
エルフリーデの可愛げのないのが可愛いかも、というクロガネへの感想、凄まじく頷けますなあ。
まあかくいうエルフリーデも、恋愛面やシスコンっぷりは無類のぼんくらですが。手に負えないレベルの。どうしてこうなってしまったんだ、というレベルのw


さて、本作のもっとも最強の見所であり肝となるのが、ロボットアクションでしょう。

尋常じゃないです。

まー、今まで長い事けっこうな数の作品読んできたつもりですけれど、こと小説というジャンルでロボット、人型兵器を扱った物語において、本作のアクションシーンのそれは極天に近いと言って過言ではないでしょう。まじで一位二位を争うくらいなんじゃなかろうか。
これほど読んでてはっきりと脳裏に戦闘シーンの映像が上映されるの、ないですよ。聞いた覚えのないクライマックスBGMが脳内でジャンジャカ鳴り響きながら、わけわからん意味不明のスピード感で明晰なほどくっきりと情景描写が、様々なアングルから浮かんでくるわけですよ。
もう初読のときはテンション上がりっぱなし、興奮しっぱなし。なんじゃこりゃー!? と目を剥きながら、ノンストップのそれこそ音速ばりのスピードで展開していくシーンの連続に、うおおおおおおお!?ってなもんですよ。圧倒されっぱなし。
ロボットものでこのスピード感は、ほんとバケモンです。ってか、作中でもエルフリーデの操るアシュラベールは怪物扱い、悪魔扱いですけれど。いやあ、あれはもう訳わからんレベルだわ。あのエルフリーデのセンスでしか扱えないどころか、操縦できなくて即死しますレベルのハチャメチャで強引な仕様、そこから繰り出される馬鹿じゃないの?という危険運転からのアホみたいな神がかったアクションは、ほんと力任せと繊細さが頭おかしいんじゃないかって感じで、大好きです。
読んでるこっちが頭、熱暴走しそうになる。エルフリーデ、英雄としてパーフェクトすぎんじゃよ。かっこよすぎるんですじゃよ。ほんと好き。

あと、この世界観もめっちゃ好きなんですよね。がっつりSFなんだよなあ。科学技術の再発展の仕方とか、この懲りようがもうどストライクです。あの人型兵器「機甲駆体(バレットナイト)」に備わった「電脳棺(コフィン)」という設定は、人の限界を超える機動を行えるという観点をはじめとしてめっちゃいい設定ですよね。ある意味、ロボットものの限界を拡大するシステムだと、この「電脳棺(コフィン)」の設定を活かした色んな展開を見ても、そう思います。いいねえ、いいなあ。好きだなあ。

そして、社会情勢の複雑さ。英雄エルフリーデの立たされた被征服民族出身ゆえの、そして両親を自民族の独立テロの巻き添えで殺されたという難しい立ち位置。クロガネという男の立つ国家の中の境界線上。国際情勢、社会情勢、国民感情、様々な複雑な因果関係が、ただ強いだけでは何も成し遂げられない環境を構築している。
エルフリーデは本当に強いです。無双です。ちょっと意味不明レベルの戦士であり、人間か疑うレベルのパイロットです。
技量だけじゃあなく、そのカリスマ、心根は、そして機会を掴む運、度量、根性、不屈さはまさに人の願いを体現する理想の英雄と言って良いでしょう。
でも、彼女個人では、たった一人では、彼女は世界を変えることは出来ない。
彼女に戦う力を与えるのは、戦う目的を与えるのは、思想を、願いを、描くべき夢を、手繰り寄せるべき未来の形を、現実に抗うためのすべてを、平穏を培うためのすべてを与えてくれる者こそ、クロガネなのです。
エルフリーデは真の英雄です。そして彼女をなりたいものにさせるためにすべてを捧げるスパダリこそが、クロガネであり、そのクロガネの剣として立ちふさがるものすべてを薙ぎ払い、幸せになるべきものを助けていく者こそがエルフリーデ。なんという相互関係。
いわゆるひとつの「無敵」の二人ですよ、これ。そのコンビにして、一派にして、集まりとなるだろうハジマリこそが、この一巻なんですよね。
最高に面白かった。アシュラベール初陣の戦場を比喩じゃなく切り裂いていく蹂躙戦は、テンションまじでおかしくなりましたよ。あの頭沸騰するような感覚は滅多と味わえないだろうなあ。まあ、本作のクライマックスバトルでは、このレベルのがだいたい味わえるハメになるのですが。
ここはまだ最初の一段目です。助走段階とも言えます。

やべえでしょ?w

いやあ繰り返しになりますけれど、改めて通しで読むと解像度がまた全然違ってきます。読む度に世界観に、ストーリーに、登場人物たち、その深みにハマれる作品は最高ですよ。
今、一番おすすめしたい一作です。

……アシュラベール、想像通りのアシュラベールらしい禍々しさと推進力の化け物らしいデザインで、良き、良きですよ。好き!