
【シートン動物戦記】 芝村 裕吏/しずま よしのり エンターブレイン
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
この「動物好き」の軍人は、やがて「獣王」と呼ばれるらしい――
貴族の長男であるシートンは、ミーデシア王国でタブー視される「獣人好き」の噂を自ら立てて実家の家督を継がずに軍人となった風変わりな男。そんな彼が将校として率いるのは、差別された獣人が集中配備された敵国ミーデン共和国との国境の部隊だった。
平和ボケした空気が流れていた最前線だったが、突如敵国ミーデンの大軍が自国領内に侵攻。奇襲を受けた自軍は撤退を余儀なくされるものの、シートン率いる部隊の獣人たちはマイペースなまま。そして、この命懸けの撤退戦において、獣人たちの活躍こそが、シートン自身が生き残るための大きな命運を握っていた。
普段の「獣好き」の振る舞いからトラ系の虎次郎軍曹、イヌ系の麦姫兵長など個性溢れる面々の「獣心」を掌握していたシートンは、これまで見向きもされなかった獣人の戦闘能力を活かした大胆な戦いに打って出る――それこそが、後に「獣王」と呼ばれる男とその部隊の伝説の始まりだとは知らずに。
シートン動物記、幼い頃愛読したなあ。ファーブル昆虫記とシートン動物記は幼い子供のバイブルでした。
今はどうなんでしょう。昔と同じくらいの知名度はあるのでしょうか。
ってか、今になって思い返してみると、内容ほぼ全く覚えてない! 辛うじて、狼王ロボの話だけはよく覚えているけれど、それ以外全然思い出せない。昔の幼児向けのでっかい文字の単行本だったと思うんだけど。
さても、本作は動物記ではなく動物戦記だ。戦記物である。
手掛けるのは、【ガンパレード・マーチ】や【マージナル・オペレーション】を筆頭に近・現代戦、さらにはファンタジー世界の本格戦記などを多く描いてきた芝村裕吏先生。
本作も、銃火器や将官士官などが存在しつつも貴族出身者が優遇されていたり、王政を強烈に否定する民主主義原理主義の共和国が居たりと近代の終わり頃が舞台の物語ですね。さらに、この世界には獣人族が存在していて、人の社会に取り込まれる形で支配下に置かれている。
主人公は、貴族出身ながら紆余曲折と自主的な判断もあって、出世コースからハズれ辺境に配属された軍の士官。獣人狂いとの評判で、軍に所属させながらも人の組織に馴染めずにいる獣人たちをうまく使うことで、突如共和国の侵攻ではじまった戦争の最前線を、暴れまわることになるわけだ。
……これ、地味に人類と魔王軍との抗争の真っ最中でもあるのか? 勇者もいるみたいなんだが、一人戦略兵器みたいな感じで、人類国家同士の対立の調停みたいなのも担ってるっぽいぞ。大変だな、魔王軍相手にしてるだけでも手一杯だろうに、なんで人間同士の争いにまで首突っ込まないといけないんだ?
いや、人間同士が争ってたら無駄に国力が消費されちゃうから、それを止めるのは当然なんだろうけど。
まあそういう大局的なところはさておいて、主人公は局地的な、それこそ最前線のさらに一番前に立たされて、あまりに大規模な共和国の軍勢の侵攻を何とか主力が後方で準備を整える時間を稼ぐために、孤軍奮闘することになっていく。
最初は辺境の街の大隊の中の部隊の一つをまとめていただけなんだけれど、その大隊が壊滅しちゃったために生き残りをまとめていくうちに、唯一敵軍に遊撃で大打撃を与えて足止めに成功する部隊になってしまい、仕方なく孤軍奮闘という形になっちゃった、って感じですねえ。
彼の唯一の武器は、自国含めて各国がその運用を人間のそれに当てはめてしまったがために、まるで力を発揮できない穀潰し状態になっていた獣人たちを、獣人たちの特性に合わせた運用を構築することで最大限活用することが叶ったその柔軟な指揮能力なんですが……。
これ、単に獣人に気に入られて獣人たちが力を発揮してくれるようになった、という話とはちょっと違うんですよねえ。確かに、獣人たちには気に入られまくって、彼らから獣王として認められ受け入れられていくわけですけれど、獣人戦記じゃなくて動物戦記というタイトルなのは結構大きな意味があるように思います。
本作の獣人って、他のファンタジー作品に出てくるような獣人とはちょっと、いや結構だいぶ違う気がします。
一般的な獣人種というキャラクターって、文化的な違いや価値観の相違はあっても、あくまで獣の姿をした「人間」なんですよ。
でも、本作の獣人って、人間の姿とそれに近しい知性を持った「動物」なんですよね。
動物なんですよ。人間じゃないんだ。
この違いはかなり大きいと思います。
本作では獣人って、人間から見下されてるし、馬鹿だと思われてるし、虐げられ良いように利用され使われています。そういう意味では被差別種族ではあるんですよね。
ただ、うん。多分、この獣人達は差別されている、虐げられているという観念に乏しい気がする。
人間の側が獣人たちを理解できず、理解しようとしていないのはそのとおりなんですけれど、でも主人公のシートンに限らず、人間たちは彼ら獣人の価値観や考え方、性質や特性を学んで理解し、その在り方に歩み寄ることは出来るんですよ。そういう能力は持っている。やるかやらないかは別として。その品性があるかないかも、まあ個別に有無はあるでしょう。でもまあ、人間全体として彼ら獣人に歩み寄れる能力はあるわけだ。
でもこれ、獣人側は多分違う。彼らは彼らが理解できる範疇でしか人間を理解しようとしない。
作中で頻繁に彼ら獣人が言うんですけれど、人間の謎ルールという言い回しで、自分たちに理解の出来ない人間たちの考え方や行動規範をまとめてしまい、その意味や理由を考えず、どうしてそういう考え方をするのかという疑問を一切抱かず、謎ルールだから仕方ない、と放置しちゃうわけです。
そもそも、理解しようという考えがない、概念がないみたいに思える。
わかりやすく言うと、人間が犬やネコや馬なんかを飼う時、付き合う時、彼らの性質にあわせて歩み寄り彼らと交友を深めます。
彼らを従わせる場合でも、彼らの性質に則った上で訓練を施したうえで、人間側の意図に沿うように慣らしていきます。
でも、ワンコやネコや馬たちは、どれほど人間たちに愛情を抱いてくれても、親愛を持ってくれても、だからといって自分たちの種族の性質、特質を超えて、或いは辞めて逸脱してまで、人間側に歩み寄ってくれるわけじゃない。
深い愛情も交わせるでしょう。相互に理解も出来るでしょう。でも、動物たちは動物である範疇を超えて、人間側に歩み寄ることはない、と言えるんじゃないでしょうか。
人間側だって人間をやめて動物側に歩み寄るなんてことは出来ないんだろうけれど、人間は人間のまま異種族、別の動物の性質、生態を理解してそれに合わせる、尊重することができるからこそ、他種族と共存できるんだよなあ。
動物たちは、多分許容できるか出来ないか、という範囲なんですよ。その枠を自分から超えることはない。
そして、許容できなかったらどちらかが絶滅するまで争うしか無い。実際、獣人達は自分たちの中で許容できなかった種族、猿と馬の獣人をその歴史の中で根絶やしにしているそうです。
そして彼らは、今のところ人間とその社会に関しては、許容の範疇にあるらしく、人間社会の支配の中で淡々と生きているようです。
厚遇とはまったく逆の扱いのはずなんですが、彼らからは怒りや恨みといったネガティブな感情は見られず、だからといって人間に好意を抱いているという素振りもさっぱりありません。えらく冷めてますよね。
そんな中で個別の人間に傾倒したり、好きになったり、というのはあるみたいですけれど。
ただシートン中尉に関しては別格で、彼は獣人の理解者であり、人よりも自分たちに近いもの、として捉えているようです。なんか、いつの間にか獣王として奉りはじめてますし。
……いやあ、これはほんとうの意味での対等な共存って、難しそうだなあ。よっぽど、シートンのような獣人への扱い方接し方、その考え方への理解が人類全体に進んだとしても、なまじ言葉が通じる分、向こうから歩み寄らない集団と人間の集まった組織とがちゃんと付き合えるだろうか。
少なくとも、人間のトップが獣人をまとめて、人間側とすり合わせないとマトモに交友も出来ないんじゃないだろうか。今のように、理解しないまま支配するか。多少の理解を進めた上で支配するか、くらいなんじゃないだろうか。
ただ、共和国側の獣人と人間のハーフの指揮官は、考え方がほぼ人間寄りなんですよね……そうだよね? 微妙な所に動物的価値観が働いてる、とかないよね? いや、あるのかな、よくわからんかった。
ただ、その在り方の愚かさはまあ人間なんですよ。少なくとも、シートンが率いる部下の獣人たちの思考と比べると非常に人間らしい。
ということは、人間の血が混じれば動物よりも人間的な価値観も持ち得る可能性もあるわけだ。あの女指揮官、サーシャはもう愚劣な過激派でしかなかったけれども。
いやでも、最後あれ死なずにシートンたちの捕虜になった、ということはここからシートンの動物へのアプローチ的なものがあのサーシャにも発揮されて、サーシャの動物的在り方が見えてくるんだろうか。
わからん。
あと、シートン側のヒロイン的なワンコの獣人である麦姫、彼女も人間と獣人のハーフらしいのだけれど、こっちは完全に動物寄りなんだよなあ。環境によるものなのか、生来のものなのか。
……ってか、この娘シートンの実子疑惑があるのが怖いんですが。
ともかく、進軍路にある街や村を虐殺していく共和国軍に、避難民を守りながら殿をつとめていたシートンたちの部隊が、圧倒的な質量を誇るはずの共和国の侵攻軍に痛恨の一撃を食らわせたところでこの巻終了しているんだけれど、果たしてこの最後の一撃が戦争の行方そのものを左右するものになるのか否か。
本国ではシートンくん、唯一共和国軍相手に暴れまわる英雄扱いになってるみたいだけれど。










































































































































































































































































































































































































































































Amazon
Amazon