
【城塞幼女シルヴィア〜実は万能な生活魔術を使って見捨てられた都市を発展させます〜 1】 サエトミユウ/ハレのちハレタ GCノベルズ
Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
「私が城塞のあるじです」
▼あらすじ
公爵令嬢のシルヴィアは【生活】という未知の魔法属性を「ハズレ」だと判断され、領地の端の城塞に厄介払いされてしまう。
しかし、当の本人はそんな仕打ちなどどこ吹く風。
何故なら、彼女の生活魔術は「生活にひっす」と感じたものを全て魔術として実現できる前代未聞の属性だったのだ!
【支配】の魔術で従えた家畜たちと共に城塞に向かう道すがら、
元近衛騎士のエドワード、元服飾職人のジーナと出会う。
どうやら二人も誰かから酷い仕打ちを受けたことがあるようで……?
一人きりでも生きていける生活魔術がみんなと生きる日々を豊かにしていく――!
つよかわ幼女と溺愛従者たちの、心温まるリノベーションファンタジー再始動!
主人公が家族や仲間から酷く虐げられる形でスタートするのはもう定番の一つとなっているけれど、主要な登場人物が全員、人間の悪意によって尊厳を踏み躙られ人生を毀損され搾取されたうえで、誰かに助けられたわけでもなく、自分でその境遇、環境から逃げ出してきたというパターンはさすがに珍しいんじゃなかろうか。
信じていた人たちに裏切られ、そもそも愛されてすらいなかった。最初から利用し愚弄し嘲るつもりで側に居た。それを、仲間や家族だと思いこんでいた。思い込まされていた。思い込まないでもなければ、耐えられなかった。
そんなんですよ。
もう、人間不信になるに決まってるじゃないですか。
そして、主人公のシルヴィアは話を聞く限りでは生まれてからこの方、少なくとも物心つくころにはもう既に家族から見向きもされなかった。実際に養育する使用人たちですら、シルヴィアに対して何の親愛も向けなかったどころか、仕える者としての最低限の礼儀すらなかったと思われる。
つまるところ、この少女は生まれてこの方、愛されたことも優しくされたことも慈しまれた事もなかったのだ。正の方向を向いた真っ当な感情を、一切受け取らずにここまで生きてきたと思われる。
ネグレイトここに極まれり、だ。
愛を知らず教えられずに育った彼女は、情緒そのものが殆ど育っていなかったようにも思われる。幼女にしては明らかに感情の濃淡が乏しく、人間にも世界にも何も期待していないように見えた。諦めすらそもそも知らず、淡々と。しかし、自分の何も与えられない環境には見切りをつけて。
彼女は母から辺境の打ち捨てられた城塞を与えるという言質を取って魔術による契約を成立させて、生地を後にしたのだ。振り返ることなど一切無く。
あれだけの境遇でありながら、シルヴィアは特に家族や家の使用人に対して思う所はないようだ。怒りや憎しみ、恨み辛みといったものは何もなく、未練や羨望といったものもなにもない。
無関心、とでも言った方が早いか。
何も与えられなかったから、ネガティブな感情すらも育たなかった、というのならそれはそれで悲惨以外のなにものでもない。
しかし、それは同時に人類にとっての幸いだったのではないだろうか。これ、もしシルヴィアが負の感情に支配されていたとしたら、そのまま魔王か邪神にでもなっていたんじゃなかろうか。
そうなっていておかしくない境遇である。
そうなれていてもおかしくはないくらいの魔術なのである。彼女の生活魔法ってのは。
……これ、完全に名称詐欺でしょ。生活魔法といういかにもしょぼく聞こえる魔法だから、と家族が能力もそれ相応と思うのは仕方ないと思う。だからといって、役立たずと虐げるのは違うけれども。
実質、ほぼ万能魔法、というか全能魔法なんじゃないだろうか。神の奇跡、神の御業と言われても不思議なくらいルール無用の何でもあり。生活に必須、つまり生きるために必要なら何でも起こせるし何でも発生できる、どんな効果もつけられる、ってなんだそりゃ、てなもんである。
まあ勿論ただではなく、魔力を使用して行なうので大きな改変、改変だよなこれもう、改変には大きな魔力消費が伴うので、シルヴィア本人の魔力が尽きてしまうと当人がぶっ倒れてしまうので、無限になんでもあり、とは流石にいかないようだ。
しかし、使う本人がどれだけ賢かろうがまだ幼児なので、加減を知らない。子供の中でも幼児というのは体力が尽きるまで全力で動き回り、切れた途端ぱたんと動かなくなって寝てしまう、なんて言うけれどシルヴィアもその類なんですよね。
叱られても説教されても、つい使っちゃうところなんぞは、確かにお子様なのである。言うことを聞かないとか言われたことを覚えてない、じゃなくて瞬間的にそのことに頭が一杯になっちゃってつい止められていた事が頭から吹っ飛んで使っちゃう、というのはほんとお子様あるある。
エドワードとジーナに出会い、彼らから人として当たり前の優しさや配慮、人間らしい生活というものを与えられたことで、はじめて人として当たり前の喜怒哀楽を芽生えさせていくシルヴィア。
情緒が殆ど育っていない状態でも、何だかんだと人に求められたら応えてしまうあたり、本質的に優しい娘なんでしょうけどね、シルヴィアって。唯一、実家で心を通わせていた家畜たちとの交流が、彼女の最低限の情緒や情感を育てていたのかもしれませんが。
それを言うと、エドワードもジーナもあれだけ筆舌にしがたいひどい目にあいながら、人間不信と言っても不思議ではないものを抱えながらも、搾取される原因の一つとも言える善性を捨てられなかったのは、根っからの良い子なんでしょうね。
エドワードは出奔してから犯罪にも手を染め、他人を騙して奪う側に回っていたみたいですけれど、それでも性根が捻くれきらなかった。家畜を引き連れたった一人で旅する幼女シルヴィアを、利用するつもりではあったにせよ、見捨てられずについつい一緒についていき、あれこれと世話を焼いて懐かれてしまったあたり、本当にねえ……。
人を信じられない、人間不信になるだろうという境遇だったのは、のちに家臣団に加わることになるカロージェロも同様で。人間のどんな些細な罪も視覚化されて見える、って人間とは生きているだけで罪深い存在だ、という証明を延々と見せつけられ続けているようなもので……。
よく折り合いつけられたよなあ、これ。しかも、人間の中でも下劣さ罪深さでは汚泥のような相手に出会い、その男のせいで殺されかけた上に故郷から逃げ出さないといけなかったわけで。
これもう、人間という存在が邪悪、滅ぼさないと! という思想に走ってしまっても不思議じゃない境遇なんだよなあ。
人間に絶望して、人間を滅ぼそうとするスケールのでかい悪役になる人が、だいたいこんな感じの人生歩んでたりするんですけど。
下手しなくても、エドワードもジーナも、そしてシルヴィアも。人間とは存在そのものが悪、邪悪。存在してはいけないのだ! とか言い出しても不思議じゃないんですよね。
そういう人たちが集まったわけですから、あまりに何でも出来すぎるシルヴィアの魔術と相まって、ここに魔王軍を結成する、みたいな物語になっててもおかしくなかったですよ、これ。
しかし、人間から騙され虐げられ踏み躙られたシルヴィア、エドワード、ジーナの三人が出会ったことで、人間への負の感情が増幅されるのではなく、お互いの優しさに触れ合うことで人間捨てたもんじゃない。少なくとも、人と関わり合う事は恐れることじゃない。この三人の間なら絶対的に信じられる、という絆が形成されていった、というのは一つの奇跡みたいなものだったんじゃないでしょうか。
ただ、この三人の絆が強すぎたせいで、ある意味閉じた関係になってしまい、後発のカロージェロとの関係がややこしい事になってしまったきらいもあるんですよね。
カロージェロ自身が、自分の能力に振り回されて、罪を許す聖職者としてではなく、罪を裁く側になってしまいかけてしまったことで、余計に拗れたということもあるのですけれど。
身内同士でありそれぞれ大切な人を守ろうとしてのひたむきな思いからながら相手を信用できなかったことが、トラブルを大きくしてしまった。これを見ると、シルヴィア以外の人たちは多かれ少なかれ人間不信を解消しきれていなかった事がわかるんですよねえ。それだけ根が深いとも言えるのだけれど、この一件を機に、自身の至らない部分をそれぞれが痛感しただけに、二度と同じ過ちは繰り返さないだろう、ってくらいの人間性はエドワードにもカロージェロにも見出させているので、二人とも仲良くはならんだろうけれど、いいコンビになれるんじゃないでしょうかね。
なんとかこの一巻でタイトルにもある城塞にたどり着き、そこで地盤と人材とを確保して地固めは出来た、と考えるべきなのかな。どうも、元の実家含めてシルヴィアを主と頂くこの城塞と城下町にあちらこちらからちょっかい掛けてきそうな気配もあるだけに、2巻の展開楽しみです。























































































































































































































































































































































































































































Amazon
Amazon