【冷血貴族の婚約拒絶録~オレは絶対に、結婚などしない~ 1】  小鈴危一/生川 SQEXノベル

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絶対に結婚しない“冷血卿” VS 絶対に結婚させたい“叡智の傑物(公爵令嬢)”貴族の威信と知略を懸けた紳士淑女の�猝�あり�畉�約頭脳バトル――開幕!!
「わたくしと結婚してくださいませ、ゼノル様」「――オレは絶対に、結婚などしない」“冷血卿”ゼノル・グレン・ロドガルドは、経済力や軍事力に優れた超名門伯爵家の当主を齢十七で務める神童。家柄・頭脳・胆力を持ち合わせた彼のもとには頻繁に縁談も舞い込むが、これまで何故か全て断り続けていた。そんなある日、求婚のために令嬢自らが突然伯爵家へ乗り込んで来るトラブルが発生!?相手は羞花閉月な公爵令嬢レイシア・リヴィ・アガーディア。しかし、この女――美しい顔の裏に切れの良すぎる頭脳をもつ、とんでもない“傑物”だった!婚約か破滅か……すべてを懸けた遊戯が始まる


おお、これぞ結婚を巡って繰り広げられるまさに恋愛頭脳戦!
ただし両片思いの友達以上恋人未満のカップルによって行われる甘酸っぱい駆け引き、とは程遠い。
ってか、両方ともに相手に対して異性への感情など皆無! 恋愛感情など皆無!
皆無の状態で、絶対に結婚したくない若き公爵と、絶対に結婚したい公爵令嬢による身の破滅をも担保にした智謀の限りを尽くしたせめぎあい。
かたや、主人公に結婚の約束を取り付け頷かせるために、あらゆる謀略、策略、情報戦、世論戦、経済戦を仕掛けてきて、否応無く受けざるを得ない状況を強いてくる公爵令嬢レイシア。
彼女の凄まじいところは、この結婚を受けさせるための策略の中に、色仕掛けが一切ない所。ハニートラップどころじゃなく、異性として意識させる、恋愛感情を抱かせる、女としての魅力で落とす、という方向性の作戦は最初から一切持ち込まれてないんですよね。
はたして、最初からその方向性ではまったく期待していない。
「羞花閉月」なんていう絶世の美女をあらわす慣用句が用いられるほどの美貌の持ち主でありながら、彼女はその美を武器にして振るうことはしなかったのである。
それがはたして、主人公のゼノルには端から通じないもの、として考えていたのか。それとも、彼女が目的を叶えるために手段を選んでしまったのか。これについては、最後の方で彼女の心境というか思惑というか、考えが語られているのでそこを見ればわかることだろう。
いずれにしても、かの令嬢の叡智は賢者のそれではなく、相手をハメて陥れて選択肢を失わせて、否応無く要求を受け入れざるを得なくなる状況を整えた上で、相手にも利益を提示して、WINWINでいけますよ、というむしろこちらから受け入れたくなる心理をも擽る狡猾なる謀略家であり政治家であり、いわゆる指し手のそれでありました。
これに対して、主人公のゼノルが打った手は、尽くレイシアの仕掛けを真っ向から、或いは横殴りで、或いは裏から、いずれにしてもどの方向からでも叩き潰して意味を失わせる、効果を破綻させる、提示された以上の利益を計上する、といった「かかってこいやおらぁ!」というような策謀返しのぶん殴りである。叩き潰しである。真っ向からの殴り合い謀略戦である。
頭脳戦なのに、なんでこんな足を止めての殴り合いみたいな攻防してるの!?
レイシアの方も、涼しい顔で仕掛けてきているわけじゃなく、自分の資産や名望、人脈を売切しての身を切っての作戦なんで、まじでお互いに良い所にスマッシュヒットを喰らいあいながら、ボコボコになりながらの殴り合いって感じだったんですよね。
頭脳戦とはこれいかに。少なくとも、両者安全地帯から駒を動かして指し合う、といった指し合いではなく、血を流しながら手の届くところで顔を突き合わせながら、相手にまいったと言わせようとしあうゼロ距離頭脳戦だったので、なかなかの迫力であり読み応えでありました。

レイシアにしても、ゼノルにしても、お互いに譲れない理由があるがゆえに一歩も引かない決死の攻防が繰り広げられるのですが、結婚するしないでなんでこんなことになってるんだ?と思う所でもあるのですけれど、お互いへの恋愛感情が介在しない戦いであるので、これはこの場合これで間違っていないのか。
とはいえ、これだけ智謀を交えればお互いへのリスペクトも進むわけで、いやゼノルさん、性格相当にアレなところがあるので本気で鬱陶しがってただけなのかもしれませんが、レイシアのこと認めてはいるんですよね。
親しい間柄の人に似た者同士、と呼ばれるほどガッチリと噛み合った冴え渡った頭脳。ある意味割り切りのよい性格は、相性としてもよく噛み合っていて、もしこの二人が本当に夫婦になっていたらがちで国内最強の夫婦になっていて、手が付けられないことになっていたかもしれません。
レイシアの方はわりと本気でゼノルのこと気に入ったようですし。文句なしに膝を地面につけられて完敗もしましたしね。
とはいえ、ゼノルの方にも結婚しない明確な理由があるわけで、それがある限りはレイシアとは絶対に結婚はしないのでしょう。
もし、ただただ恋愛感情のみで添い遂げようというのなら、レイシアとの結婚というのはあながち悪い選択ではなかったと思うのですよ。レイシアなら、そのへんきっちりと割り切って尊重もしてくれたでしょうし。彼女としては、その才覚を振るえるのなら一番の座に拘るところでもなさそうですしね。
ところが、ゼノルの方はそうした現実的な着地点というものをまったく考慮に入れてないみたいなのです。彼にとって打ち勝つべき敵というのは、国内で最も天才的な才女どころじゃない。この男、時代そのものを自分の前に這いつくばらせて、本気で勝つつもりなのである。
それは浪漫とか愛は勝つとかの夢物語の成就などではなく、ただただリアルの、襟首掴んで現実に引きずり落とそうというリアリズム。
なんという傲慢、なんという自信家。それは一途なのであろう、純粋なのであろう。でもそれ以上に彼の愛には、畏怖を覚える。やってやらぁ、という気概を感じる。
それはもう、格好良いじゃん、てなもんだろう。