【ロード・エルメロイII世の冒険 11.星冠密議(3)】  三田誠/坂本 みねぢ TYPE-MOON BOOKS

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「いいや、安易な展開はカットといこう」

シャの国の「光色祭」で宣言された神明裁判。王の殺人未遂事件の潔白を証明し、真実を究明するため『針』を登ることになったII世たち。
 応援に駆けつけたエルメロイ教室の卒業生・スヴィンの力を借り、残り三組の登山隊とともに頂上を目指す。宙に近い場所で行われる、未だ謎多き星冠密議にも参戦するためにも。
 一方、アトラス院の院長・ズェピアの登山隊の前には山嶺法廷の番外・ムシキが漆黒の深淵から姿を見せる。
 知の巨人と仙人が相対した時、神話級の死闘が繰り広げられて……!?

 山嶺の脅威が魔術師の資格を問う『ロード・エルメロイII世の冒険』第十一巻!

グレイがほんとライネスの事が好き好きすぎてエライことになってるんですけどー!?
ええ、なんかもうこれ友達の域越えてないでしょうか。ライネスの手作りの料理に昇天しちゃったり、ライネスが針の登頂には同行しないと分かった途端絶望のどん底に落ちてしまったり。ライネスの一挙手一投足に感情がジェットコースターなんですが。
これ、グレイたんグレイたんと気持ち悪いことになってるスヴェン笑えないんですけどw
グレイのライネスラブ、師匠ラブよりも熱量高いよなあ。

さて、今回星冠密議への参加のために、主だった登場人物全員が「針」への登頂を行なうことになったのですが、ペペさんと遠坂凛が軍団長ヤシャクラマのチームに加わることで、エルゴの記憶飽和とグレイの問題を解決するためのチームも分散することに。
また、アトラスのズェピアとシオンがビシュラガのグループに入り、合計4つのチームがそれぞれ別れて針の登頂を行なうことになった。
これ、冷静に考えるととんでもない登場人物の数になっているのだけれど、現地のシャの国で出会ったメンバー含めて全員が掘り下げられ、登場機会が少ないということもなく存在感を示していて、話から置いていかれていない、というのは構成的に見ても凄まじいとすら言えるんじゃないだろうか。
なんなら、主人公のはずのロード・エルメロイ二世が高山病に苦しみ登山でヒーヒー言ってる分、一番大人しくて一番目立ってなかったことすらある!
まあその彼とて、ちゃんと山嶺法廷の重要人物であるシャ=アクゥラとの邂逅で事件の核心に切り込むような話をしてるのだから、全然阻害されていないのだが。ってか、そのシャ=アクゥラから、星冠密議に参加するような魔術師が高山病になるとは思わなかった、とか言われて治療してもらってたんだが。先生ぇ。
ともあれ、登山というのはあとがきでも触れられているのだけれど、どれほどの人物でも自分と向き合わなければならない、とされているように、意外とチーム内での対話が重きをなされてるんですよね。登頂の合間の休息の時間は、命を預け合って自然の急峻に向き合い続けたもの同士が重ねる連帯感が、なにかと自分をさらけ出してしまう場、というのか。
だからこそか、シャの国の重鎮たち。宰相ダルマス、軍団長ビシュラガ、司祭長ダルマスの三人もその立場や役職、責任を一時脱ぎ捨てて、ただ一人の人間としての素顔を対話の中で見せてくれる。そこで見えてくるのは、若き幼馴染3人組の青春であり、若き日の心をまだどこか失わないまま今この時を迎えている大人の姿であり……。
それにしてもまさか、ダルマス・ぺぺさん・カルマグリフ卿・母后シャンタの組で恋バナが始まるとは思わんかった。このメンツで恋バナしようぜ、と言い出すペペさんがさすがすぎる。そしてちゃんと恋バナが出てきて人物像や人間関係の理解と不可解さが深まっていくのは、なんかもう凄いね。

そして、この巻の見どころはやはりアトラス院長ズェピアと仙人ムシキとのガチバトルである。この世界の最高峰、ラスボス級だろう二人がこんなところで本気で激突するとかほんとなんなの!?
ってか、ズェピアがほんまもんの化物で度肝を抜かれた。仙人としてのムシキの非常識なまでの不死性も相当なんだけれど、ズェピアのそれはちょっと突き抜けてるんですよね。まじで超越存在じゃないか。月姫のメルティブラッドでよくシオンと志貴はこんなんに勝てたな。さらにワラキアの夜として突き抜けてしまってたはずなのに。
でもそれ以上に印象的だったのが、ズェピアとシオンの親密な親子関係だろう。ズェピアが不覚を取ったのは、シオンを巻き込んで相手を攻撃できなかったから、ですしね。そしてシオンの言動から感じる父親への尊敬と親愛。けっこう素直に「父さん」呼びしてますしね。
しかし……その絶体絶命に陥ったシオンを白馬の騎士のように救いに入ったエルゴに対してのシオンの対応って、あれ? エルゴのヒロインってシオンだったっけ?と思ってしまうような乙女っぷりだったんですが。
ここでムシキ相手に若瓏とテュフォン・エフェメロスとの共闘というのは熱かった。やっぱり、エルゴの相棒で親友枠って若瓏が一番似合うというのを再確認した一幕でした。
って、普通にテュフォン・エフェメロスがFGOの特異点でもないのに降臨してるの、すげえよなあ。事件簿の方でサーヴァント・フェイカーが出てきた時も度肝を抜かれたものだけれど。
ともあれ、シオンとの会話の中でエルゴの記憶飽和がもうすぐ背中まで追いつかれてきているのがわかってしまった。フェムのカーサの記憶すらもう失われているのか。
もういい加減、猶予はなくなっている。とすると、やはりこの針の登頂こそがゴール地点になってしまうのか。星冠密議がいったいどういう儀式なのか、についてはロード・エルメロイ二世の口からも語られたのだけれど……星に触れる、か。この星そのものに触れるのに、星から最も遠いだろう頂きに向かうというのは不思議とも思えるし、登れば登るほど大地を感じられるのが登山というものなのかもしれないし。面白いものです。
なにより、この世界において針はテクスチャを縫い止めている切っ先でもあるわけで、その縫い止めている最先端に向かっていると思えば、星に触れる。テクスチャにほんの少しだけ手を加えることが出来る、というのも理解できなくはないけれど。
シャの国という実例があるにしても、この星のルールを少しでも変えられるというのは、また凄まじい話だよなあ。世界観そのものを揺るがす話なんですから。

そして、最後にあのキリシュタリア・ヴォーダイムが満を持して登場。ペペさんが登場したときから、もしかしてFGOにおけるクリプターと呼ばれた魔術師たちの登場の余地もあるかな、とは想像していたのですが、キリシュタリアさまが来たかー。
FGOでは敵グループのリーダーということもあってか、その人間性について明らかにされたのはクライマックスであり、なかなかその人となりを直接見ることは叶わなかったのだけれど。
本作では歳の頃も十代後半だし、クリプターの長として人類史の未来を背負っているなんて立場もなく、かなり素の彼を見ることが出来るかなあ、と期待してたんですが。
わぁぁぁ、初っ端からはっちゃけてるぅ! これはもうキリシュタリアさまじゃなくてキリシュタリア君ですね。なんか少年心が躍動している人懐っこいワンコみたいな見るもの感じるもの全部楽しそうなウキウキ少年だ!
いやあ、キリシュタリアくんがこれどう関わってくるんだろう。針の登頂には遅れて、ライネスと顔を合わすことになったのだけれど。グレイたんが嫉妬することにはなるまいが……。