【ようこそ最前線の地獄(職場)へ 軍師リナ、8歳です 1】  輝夜/コダマ GCノベルズ

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 アルカディア王国との長きにおよぶ戦争により、ガレリア帝国は陥落寸前まで追い込まれていた。過酷極まる戦場、その地獄のような最前線に幼い絶叫が響き渡る。

「話が違う話が違う話が違うじゃないですかぁぁ!!!!」

 声の主は、物心つく前から過ごした孤児院を救うため軍に志願した一人の少女。
 名前はリナ、年齢8歳。剣も魔法も使えない。あるのは地味スキル『多言語理解』と、ブラック企業での激務&戦略シミュレーションゲームに明け暮れた前世の記憶のみ!
「安全な司令部で高待遇のデスクワーク」を約束されたはずなのに、戦場のど真ん中で【謎の軍師】に仕立てられたリナ。その小さな手の采配が常識をことごとく覆し戦局を一変させることをまだ誰も知らなかった。もちろん彼女自身も――。
 なお本人は、何よりも甘いケーキを切実に所望しているもよう。


「多言語理解」というスキル、単純に翻訳や通訳でも十分に役に立つと思うけれど、この「理解」の部分を突き詰めて、単に外国語を母国語のように理解できるに留まらない、ある種のアンサートーカー……通常その言語から判別できる理解度からは桁違いの深度の深い理解が得られてしまう。というのはスキルの解釈としては非常に面白いものがありますね。
彼女を単なる通訳ではなく、暗号解読などのために雇用したリクルーターの役人、何気に優秀だったんじゃないだろうか。なんでこの娘を最前線に送り込んでしまったのかは定かではないけれど。
いや、最前線で即座に敵の暗号などを解読できる人員がいたら、即応性半端ないのでそれ自体は間違ってはいないのか。
なんでか、その娘が単なる情報解析要員に留まらず、現場指揮官のグレイグ少将のお茶目から謎の軍師に仕立て上げられ、作戦の立案にまで関わるようになってしまったのが彼女にとっての、そしてガレリア帝国の運命の分岐点。
そしてこの娘リナの瞠目すべきところは、流され巻き込まれているようで、いつだって重要な決断は彼女自身がしてきたところ。いつだって、やると決めたのはリナ自身。そして、この娘は自分の選択から逃げ出さず、小さい体を縮こませることなく精一杯胸を張ってやってやろうとした所なのでしょう。
孤児院のために、その能力を開陳してリクルーターに自分を売り込んだのも自分。後方のあんぜんな司令部で、という触れ込みだったのに最前線の司令部に放り込まれ、でもそこで情報解析班の一員として実力を示し、ここでやっていくという意思を示したのも彼女自身。
なんでかグレイグ少将に変装させられ、謎の軍師なんていう仮面を被らされて無茶振りされたあとも、やけくそではあったものの味方を勝たせ、国を守り、ひいては家族である孤児院の皆を守るために勝利を掴もうと奮起したのも彼女自身だ。
一方で、敵を倒すためだけじゃなく、味方を癒すためにリナとして負傷兵たちを見て回り、敵の捕虜すらも労ってまわった挙句に小さな聖女として讃えられるようになったのも、自分から王妃さまに正体を明かし、後ろ盾になってもらえるように図ったのも、全部リナが自分で決めたことだ。
その健気でひたむきな姿にこそ、皆が感化されたのだろう。幸いだったのは、彼女が送り込まれた最前線の司令部に詰める司令官であったグレイグ少将と副官のセラが、リナを利用しようとするのではなく守ろうとしてくれる人だったことだろう。それ以上に、彼女のやろうとすることを尊重してくれる人だったという所でもあるのでしょう。
最初から面白がってた上にリナを謎の軍師なんてものに仕立ててしまったグレイグはともかくとしても、セラは最初まだ子供に過ぎないリナが戦場に送り込まれてきたことに対して、彼女が本当に役に立つかも含めて非常に厳しい目で見ていたのに、どんどんと絆されていって、最終的には自分がこの娘を守護らねば、と思うほどになっていましたからね。そのリナに絆されて態度が柔らかくなっていく様子は見ものでもありました。
でもそれも、リナが能力を示したことよりも、幼い身の上でありながら強い意志を持ち、健気に頑張る姿に溶かされていった側面が強いように思います。ようは凄く良い人だったんですよね。
グレイグ少将もリナを謎の軍師にしてしまった張本人ですけれど、同時に極力この幼子が戦争という地獄に負担を感じないように、軍師という立場になってしまって背負うようになってしまった責任をなるべく肩代わりするように、と常にリナを守るように動いていて。
リナも、戦場で出会ったこの二人を本当の家族のように思っていくわけです。

面白いのは、小さい女の子という正体を隠して謎の軍師としてデビューしたリナは、同時に正体がバレていないのも相まって、小さいながらも献身的に働く幼い書記官リナという正式な立場でも兵士たちの人気を獲得し、振る舞う料理で兵士たちの胃袋をつかみ、健気に負傷兵や敵国の捕虜を労ってまわって、帝国の聖女なんて風に呼ばれるまでに名声を得ていくわけですよ。
救国の英雄として、謎の軍師と聖女様の名前が帝国の庶民の間でも取りざたされるようになるわけですが、それ両方とも同じ人物なのよね、えらいこっちゃ。
ってか、リナさん年齢関係なく働きすぎ。

まあこれだけ活躍して人気を獲得してしまうと、帝国本国も無視できないですよね。というわけで、この謎の軍師を帝都に召喚して皇帝陛下直々に褒美を与えよう、という流れになってしまったのですけれど。
変に隠そうとせず、思いの外あっさりと皇帝陛下と宰相閣下に正体を明かしたのは意外でした。ってか皇帝陛下、最初の方に名君らしいとは描かれていたものの、言うて戦争の趨勢は悪い方に傾いているし、リナの暮らしていた孤児院も経営悪化していて治安も下り坂、という感じでしたから、名君って言うほどじゃないんじゃない? と、薄っすらと思っていたんですけれど。
いやあ、名君ですわこの陛下。わずか8歳の軍師の存在を受け入れてくれただけじゃなく、軍師としての才覚を認めながら、子どもとしての大人に対する素直な期待や願いも汲み取ってくれる、君主としても大人としても立派な人だったんですよね。
その上で、リナがはっちゃけたアイデアや献策をぶっ込んできても、最大限認めてくれた上に、リナが期待するような皇帝や宰相として振る舞おうぞ、と明言して、自分達で自分達の器拡張していってるんですよこの人達。
また、リナが自ら正体を明かして、後ろ盾になってもらった王妃さまも。リナの事を私のリナみたいな事まで言いながら全面的に応援してくれるようになったし、若き皇太子さまも軍師どのの言葉に感化されて、それまでどこかなよっとしていた所が解消されて、男子3日会わざれば刮目して見よ、とばかりになんかスケール大きくなって。
なんとも、帝国の未来はたった一人の少女の、勝利を手繰り寄せるその智謀よりも、湧き出るアイデアよりも、その献身によってどんどんと明るい方向へ向かってるみたいな雰囲気があって、安心感があるんですよねえ。
それも、グレイグ少将とセラさんが全力で守ってくれているから、という暖かみも凄く感じられるわけで。

確かにタイトル通り、戦場は容赦呵責のない地獄そのもので、そういう描写もしっかりとあるのですけれど、そういう地獄に無分別に女の子を突き落とさず、守ろうという大人達の賢明さが常に感じられるので、安心して見ていられるところがありますね。
これだけ後ろ盾がしっかりして守られてる感があると、リナ自身もそれだけやる気がメラメラと燃え上がっていくわけで。単なる戦場の軍師の域を超えた、国の行く末を左右する施策にまで手を出しはじめたぞ、この娘。やる気沸騰しておる!