たったひとつの冴えた殺りかた (HJ文庫)

【たったひとつの冴えた殺りかた】 三条ツバメ/赤井てら HJ文庫

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異能力が売買され、個人が圧倒的な戦闘力を持つ時代。強力な異能が高額で取引されるなか、代金の支払いを滞納する者を追うための「債権回収機構」が組織され、活動していた。機構の凄腕エージェントであり、情け容赦無さで名高いノーマンはマフィアが支配する町バリオスにて高性能の異能の滞納者の情報を得る。早速、相棒でありボスであるアイビスと共に異能回収に向かったノーマンだが、待ち受けていたのはマフィアの抗争だった。圧倒的なパワーで無慈悲に敵をなぎ倒す異能バトルアクション登場!
なんだ、この正義感の無いダーティハリーみたいな男は!? って、それだとただの無法者になってしまうんだけれど、このノーマンという主人公、無法者というにはちょっと違う気もする。いやもう、やってることを見ると無茶苦茶以外の何者でもなく、倫理も正義も良心も規範も何もなくやりたい放題やってるようにしか見えないんだけれど、どう見ても悪人以外の何者でもないんだけれど、アウトローという軽い感じでもないし戦闘マシーンというには何気に楽しそうだし、この手の巌のような男が発するような陰鬱さはあまりなく、世を倦んでいるという感じでもないんですね。なんちゅうか、主人公としては異色だわなあ。
振り返ってみるとこの男の内面描写って、一切なかったんじゃなかっただろうか。あったか? なので、淡々と破壊し殺しなぎはらっていくこの男が何を考えているか、実際は読んでいるこっちもさっぱりわからない、未知の男なのである。
なんか、ターミネーターが主人公みたいだ。襲い掛かってくる敵を片っ端から圧倒的な力で叩き潰し、逃げ惑う敵を大股の揺るぎない歩みで追い詰めて片っ端から始末していく姿なんぞ、まさにターミネーターって感じでこいつどうやったら止まるんだ!? という威圧感と殺気の塊なのである。
彼が回収に向かったバリオスの街では、マフィアの内部抗争と企業の介入によって権力闘争が錯綜しているのだけれど、陰謀やドラマが様々な形で踊り狂っている舞台にノーマンは無視するわけではなく、利用し乗っかり利用し利用して、って振り返っているととかく敵も味方も外部の組織も利用しかしてないな、こいつ。とにかく、ドラマや陰謀のさなかに飛び込んでいるにも関わらず、そしてそれらを利用しているにも関わらず、それらを一顧だにもせずに、邪魔になったら片っ端から潰していくんですよね。まるでここで起こってる出来事に対して寄与しようとしない。利用はしても全く利用されようとしない、物語の登場人物になろうとしないのである。
終わったあとを振り返ってみると、ただただノーマンが蹂躙していたばかりで、そこにあったであろう物語も根こそぎ根絶やしにされてしまっている。なんなんだ、こりゃあ。
ノーマン本人にも物語はなく、終わってみるとひたすら暴れていただけであり、結局それが目的だったと言わんばかりの態度なんですよね。ノーマンを起点として確かに起承転結はあったはずであり、他の登場人物は概ねその起承転結に則って動いていたような気がするんですけれど、肝心の起点であるノーマンがそれを徹底的に無視していたというか、起こること端から叩き潰していたというか、なんなんでしょうねこれ!?
ヒロインだかなんだかわからないAIのアイビスが、もう徹底して賑やかし以外の何者でもなかったのも、このただただ蹂躙する物語、物語なのか? お話を象徴していた気もします。だって、これヒロインがどうのとか、関わりようが一切ないもんね。下手に関わると、もろとも叩き潰されそうな勢いで、そりゃ生身のヒロインとか無理だわー、とか思ってしまった。一見無駄に思えるアイビスの大騒ぎが、実際無駄なんだけれど、居ないとひたすら殺伐なだけの意味不明なものになりかねないのを、無駄なキャラが無駄に騒いでいるという余地があるだけで、辛うじて息継ぎの隙間になっていたのかもしれない、と思わないでもない。もしかしたら、本当に無駄だったのかもしれないけれど。
まーこう、なんというか、何が起こってどう展開が転がってもターミネーター無双、というお話でした。おおう。