【娘のままじゃ、お嫁さんになれない!】  なかひろ/涼香 電撃文庫

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高校教師と女子高生。恋人未満<家族未満の二人が贈る、日常系ラブコメ。

高校教師の見取桜人、26歳、独身。銀髪碧眼女子高生の星咲藍良、15歳。
冒険家の祖父が亡くなったのをキッカケに桜人は藍良を引き取ることに――
「起きた? おはよ、ご飯できてるよ」
「お風呂上がったから、お次にどうぞ」
「私……あの頃よりも、成長したよ? 今の私の……見たい?」
だけど二人は、教師と教え子の間柄でもあって――
「一緒に学校行ってもいいんじゃない?」
「え? 誰かに見られたら、変な噂が立つかもしれない……私は気にしないのに」
「『学校ではちゃんと先生って呼ぶんだぞ』って……バカ」
親と娘、先生と生徒、近くて遠い関係が織りなす年の差ラブコメ!
タイトルのポップさを見るとすぐにでも仮の親子のラブコメが始まりそうな勢いだったのですが、果たして現実のこの日本という国で赤の他人である若い男女が結婚以外で家族になるには、様々なハードルがかせられている。
いや、それをハードルと言ってはいけないのだろうけれど、公に認められる正式な家族という関係になるには、それだけちゃんとした手続きをしないといけないということだ。
その点を本作では適当に流してしまわずにきちんと向き合う形で描いている。まあそれでも、現実からするとだいぶ簡略化され、書類や手続きなどが受理されるためのハードルも下げられているのだろう。
そもそも、藍良の身の上からして冒険家の祖父が赤ん坊の頃にどこからか引き取ってきたという日本人ではない外国人の娘であり、日本国籍を持っていない。それどころか、産まれた国すらも定かではないので無国籍者という国家による法的な庇護から多くハズレてしまっている存在になってしまっている。
一応、桜人の祖父の娘、という形で引き取っていたようなので桜人とは親族のはずなんだけれど、正式に里子の申請をしていなかったというので、制度的には赤の他人なんですよね。
さらに、桜人の職業は高校教師。社会的な立場からしても年頃の娘を引き取るには色々と問題があるはずなんだけれど、教育委員会の方はほぼ責任放棄して桜人に丸投げしてしまったというのはともかくとして、同僚や上司は全部知っている上で受け入れてくれているのは助かりますよね、これ実際。
尤も、桜人自身は教師という職に思い入れはなく、教育にも熱を持っていないので、藍良との同居が周知されて問題になったら辞めればいい、と考えているので社会的立場についてはそれほど構えている様子はないのですが。
世間体や対面ばかり気にして自分を含めて子供達の進路や将来なども型にはめることしか考えていなかった家族とは不仲であり、人生の師ともいえる冒険家という一族の中でも異端だった祖父にばかり心を残している桜人にとって、幼い頃以来久々に再会した藍良を引き取って祖父の家で同居するという選択肢を選んだのは、彼なりの踏ん切りでもあったのだろう。

いきなり家族として一緒に暮らすことになった若い男女、となると感情的な行き違いが生じそうなのだけれど、実際のところ二人の関係は再会時こそ恨み言を言われたものの、それ以降は衝突もすれ違いもなく、お互い距離感を測りかねているという感じでもなく、お互い生活にすいて相談摺合せしながらだけれど、共同生活を穏当にはじめるんですね。
むしろ、社会制度や無国籍者という問題、親族との感情的行き違いや祖父や藍良を取り巻く事情など、二人の周りの環境が桜人と藍良が家族になるために整えなければならないものだった、という感じなんですよね。
二人が納得していても、そう簡単に家族ってのはなれないんだよ、とでも言いたいように。
でも理不尽に家族になりたい二人を引き裂くものでもないんですよね、制度も環境も。だから、ちゃんと一つ一つ手続きを通していくことで、二人が家族として暮らすための環境が整えられていく様子は、だからこそ二人の生活がふわふわとした現実感のないものではなく、しっかりと地に足がついたちゃんとした関係として成立していくもの、として実感が得られていくんですよね。
こういうのちゃんと描いてくれたおかげで、二人の同居モノとしての体裁に芯がしっかり通っていった気がします。
そうして環境が整った上で、では家族として暮らし始めた桜人と藍良は果たして具体的にどんな「家族」になりたいのか。そういった点にスポットがあたっていくのである。未だ教師の延長線上として生徒として藍良と接してしまう桜人。本人はそんなつもりはないのだけれど、それまでこの年頃の女の子とは教師と生徒としてしか接したことがなかったから、意識せず似たような対応を取ってしまっていた、というのは無理からぬところではあるんですけどね。
でも自覚があるくらい、教師としての職業に熱がなく、生徒への対応もシステマチックにこなしていたのだから、藍良との接し方もちょっとでもそちら側に寄せてしまった、というのはまあ下手くそでしたよね。家族関係がそもそも最悪で、ちゃんとした家族というものを体感してこなかった、というのも大きいのかも知れませんが。妹とだけは仲いいんだから、そっちに寄せていけばいいのにとも思わないでもないですけど。
まあ桜人のあの生活環境や健康への無見識っぷりは、家族云々教師云々以前の問題だと思いますけど。不摂生とか睡眠、食生活を蔑ろにしてしまうのは、若いうちは仕方ないけど、少なくとも身体に良くない、という認識や罪悪感みたいなものはあって当然だと思うのですが、この男、あんな生活しておいて何の問題意識も感じていなかったのだから、かなりやばいです。悪い、と全然思ってる様子がないんだもの。教師として、社会人としてあれはやばいでしょう。アホな大学生かよ。
でも、こういう大人って少なくはないんだろうなあ。
桜人のそれはひどすぎるので、藍良の生活態度へのお小言、説教、酒量制限は全然厳しくないと思います。完全に適切です。これ、誰かが厳しく見ておかないと、この男早晩死ぬわ。
その意味では元カノさんは放任主義というか、自分の趣味趣向は主張して譲らないものの押し付けるタイプではないようですし、そもそもあっちもちゃんとした生活してるのか怪しいタイプなので、くっついたままだったら二人共ヤバかったのかもしれません。
その点、藍良はまず前提として嫁になる気満々なので、旦那の健康については強く意識しますよね。
まだまだラブコメとしては始まっていないか始まったばかりですけれど、土台作りに比重を掛けた分家族ものとしてしっかり読み込ませてくれる一作になっていたのではないでしょうか。
ここから、二人のとっての家族の形がどう変わってくるのか。続きが楽しみです。