【いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら】 永菜 葉一/なび  MF文庫J

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青春の全てを捧げた、小説の世界は――戦場だった。

柊海人の日常は全てが灰色だった。可愛い妹と何かと気に入らないことがあればすぐに激昂してしまう父。アンバランスな家庭を守るため、アルバイトに明け暮れ、将来のことなんて考えられなかった。
天谷浩太の日常は全てが虹色だった。幼いころから欲しいものは何でも与えられ、何をしたって上手くいった。そんな二人に文芸部部長・神楽坂朱音は小説の世界の素晴らしさを説いた。そして、囁く
「君たちのどちらかがプロデビューして、私を奪って欲しい――」
いびつな関係の3人が小説という名の戦場に出揃うとき、物語は動き出す。小説に魅せられた少年少女が贈る、本物の青春創作活劇!
ああ、珠玉を見た。
これには「小説を書く」という行為にまつわるあらゆるものが詰まっている。
小説を書いた事のある人は、まず最初に自分の中からこみ上げてくる「物語」を文字にして打ち出そうとする行為そのものに、とてつもない大きな壁を感じ、恥ずかしさに躊躇い、清水の舞台から飛び降りるような心境を抱いた事があるのではないだろうか。
あの書いてみたいという欲求と、書くという分不相応とも思える行為への抵抗感のせめぎ合い。かつて二次創作という分野ではあるが、物語を書くという経験がある身としては、朱音に促されて海人が初めて自分の文章を書きはじめるまでの躊躇う姿に、随分と懐かしい思いを抱いてしまった。
あの越えた瞬間から、筆が走りはじめた時の開放感のような、未知の世界に踏み入った高揚感は未だに克明に思い出すことが出来る。
そんなふうにして、この海人ともうひとりの主人公、浩太の作家として歩んでいく二人の姿を見ていると気付かされるのだ。これは、思い出だ。経験であり、体験であり、過去から今に至るまで抱き続けた感情であり、モノを書くという事への理解であり、認識であり、未だ結論に至らない道程で振り返り、足元を見て、空を見上げて、これから征く道の先へと目を凝らす。そんな、作家としての有り様、在り方を一つ一つ腑分けして、分け与え、魂を吹き込んだのがこの作品の登場人物たちなのだ。
だから、彼らの叫びは生の叫びだ。青臭かろうと、演出過多に見えようと、ディフォルメされていようと関係ない。それは余分なものを飛び越えて、直截に此処に届く、響いてくる。
そこには、小説を書くことへの一切が詰まっている。書く喜び、書くことの楽しさ、苦しさ、辛さ、恐怖があり、高揚があり、喜悦があり、絶望があり、迷いがあり、達成がある。何故書くのか、何故書きたいのか、どうして書き続けるのか、書かなければならないのか。理性の産物であり、本能からの欲求ともなる執筆という行為。その根源を、ここに現れる登場人物たる彼らはすべて曝け出してくれている。
その中でも、彼ら主人公の海人と浩太はその体現者だ。そして二人はそれぞれ、小説を書くという行為に対しての人生における位置づけが異なっている。それは光と闇という表現で区別され、二人はまったく別のスタンスで小説を書くことに人生を賭している。
その対比が重要なのだろう。主人公が二人いて、二人それぞれの視点で小説を書くという行為に向き合うことが、視野や焦点を狭めることなく、たった一つの答えではない幾つもの作家としての在り方を肯定することに繋がっている。ひいては、文学部の先輩達それぞれの作家としてのスタンスの違いもまた、小説を書くという事への向き合い方への多様性を肯定していると言えよう。どれもが間違いではなく、尊重され、肯定されるに相応しい立ち方なのだ。
それは、浩太と海人にも該当する。生い立ちも、その人生の歩みも正反対のように異なる二人は、作品への向き合い方も、小説を書くという行為に対する在り方もまったく異なっている。しかし、彼らはお互いを否定はしない。むしろ、相手の在り方にこそ憧れている、と言っていい。そして同時に、自分の在り方に確かなものを見出している。もちろん、迷いが生じるときもある。反発が生まれるときもある。しかし、誰よりも相手を認め、尊敬し、だからこそライバルとして鍔迫り合い、時としてその選択を許せずに己の信念をぶつけることになる。
そうやって際立っていくのだ。相反するかのように見えた光と闇の、作家としての在り方はどちらもまた本物なのだ、と。その両方が、きっと彼の人、この作品を手掛ける永菜さんの中に内包されていて、両立しているのだと。それを描き出すのには、主人公はどちらか一人では足りなかったのだ。海人と浩太の二人であったからこそ、相乗させ全部引き出せた、描き出せた、と思えるのだ。
だからこそ本作は論ではなく、談である。
これほど自分自身を腑分けして直接それらを叩きつけながらひとり語りになるのではなく、登場人物たち一人ひとりの「人生=生きる事=書く事」への全力を描き出した青春物語と成しえて見事に完成させた事に、感嘆を禁じえない。
一読者として、心揺さぶられる作品でした。心に沁み入る作品でした。

ラストシーン、海人くんの現況は色々とご自身のそれが投影されてる感じもありますが、打ち切りなんかにゃ負けん欲しいです。わたしゃ、永菜さんの作品、どれもこれも大好きですよぉ。てか、なんでどれもこれも一巻だけなんだよ、どれもべらぼうに面白いのに!! 納得いかーん!!


永菜葉一・作品感想