はましま薫夫

バケモノたちが嘯く頃に ~バケモノ姫の家庭教師~ ★★★☆   



【バケモノたちが嘯く頃に ~バケモノ姫の家庭教師~】 竜騎士07/ はましま薫夫 電撃文庫

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『ひぐらしのなく頃に』の竜騎士07最新作、新たな鮮血の物語の幕が上がる

「磊一よ、私からの持て成しと、同じバケモノ同士への親愛の証じゃ。食え」
そう言って彼女が突き出したそれは、人間の“はらわた”だった――。
昭和25年晩夏。名家の令嬢の家庭教師として、村を訪れた青年・塩沢磊一。そこで彼が目にしたものは、死体のはらわたを貪る美しき“バケモノ”、御首茉莉花の姿であった。淑やかな令嬢の変貌は病か、それとも祟りによるものか……?
時を同じくして起こる少女の連続失踪事件。失踪者の特徴は、茉莉花の部屋で見た“それ”と一致していて……。
バケモノ姫の家庭教師・塩沢磊一がすべての謎を解き明かす――!!

ひぐらしの新アニメがはじまるのに合わせて、竜騎士07さんの最新作が小説で読めるということで早速手にとってみました。
ゲームのシナリオや漫画原作では幾つもの作品を手掛けている竜騎士07さんですけど、小説という媒体で見ると【ひぐらしのなく頃に】のノベライズが星海社から出ている以外では、本当のオリジナル作品はこれまで出していなかったんですよね。出てないですよね? 
【ひぐらしのなく頃に】は同人ゲームとして世に出た当時からハマった口でしたから、何だかんだと影響は大いに受けているはず。
しかし、読み始めてみるとなかなかしんどかったんですよね。
まずもって塩沢磊一のバケモノ論というかバケモノ語りがしっくりこない。うん、言っている事はオーソドックスと言っていいくらいの話だったんだけれど、どうにも飲み込みづらい。納得しづらかったのだと思うのです。それは、バケモノたちの間でだけ通るルールじゃないのか、と。一方的で、犠牲になる「人間」にとっては何の意味もないものなんじゃないかと。「人間」を踏みにじっておきながら、捕食される「人間」たちの事は一顧だにしないにも関わらず、自分たちは苦しみ藻掻いているのだ、と。ただささやかに自分たちが在る事を認めて欲しいだけなのだと主張しているかのようで。
随分と自分たちにばかり都合の良い、自分本位の、それこそバケモノみたいなロジックに見えて、胃の中が重くなるような感覚だったわけです。
でもその一方で、果たして本当にそういうことを主張しようとしているのか、と違和感みたいなものがこびりついていたんですよね。上記のように主張しているにしては、どうにも言がちぐはぐというかしっくりこないというか、読んでいてむしろわからなくなってくるというか、そもそも何を言いたいのかよく分からん! と、もやもやが募るばかりだったわけです。
いっそ、本当に独りよがりのバケモノ論を押し付けてくるのであれば、分かりやすいし反発にしろ様子見にしろ、物事が明瞭になるのですが、言いたいことの不鮮明さが作品そのものに霧がかかったように不明瞭な代物になってきたのでした。
それが、なんとも気持ち悪い。居心地が悪い。ちゃんと見て聞いて読んでいるのに、なんだかはっきりしない、何が繰り広げられているのかわからない。

で、はたと思い出すわけです。これ、ひぐらしのなく頃にを作った人の作品だった、と。

そうかー、そういう話だったのかー!
と、具体的に何が起こっていたのか、というのが明らかになった時、面白いほどにこれまで不明瞭であやふやだったものが、いっぺんにパーッと開けて霧が晴れて、もやもやしていた部分が振り払われたのでした。何が言いたいのか、意味不明だった部分に電気が通るように意味が通っていく。塩沢磊一の語るバケモノ論の本意が、そのただ一事が明瞭になったことで実にわかりやすく理解できる論へとひっくり返ったのでした。
まさに、なるほど! そうだったのかー! と、パンと手を打ってしまうように。
ああ、このどんでん返しはこの作者さんのおなじみの手管でありましたわ。
そもそも、登場人物の五感から得たと思しき情報をそのまま信じてはいけない、というのが大前提であるべきだったのかもしれません。今回は、本当に素直に見たまま聞いたままの情景をあるがままに受け取っていたものですから、それが全ての前提になっていたんだよなあ。
バケモノ姫のバケモノたる部分を完全に誤解したまま、すべてをそれ前提で解釈してしまっていたが故に、実際の世界と解釈を通して見ていた世界の齟齬が、そのまま気持ち悪さとなって何もかもを不鮮明にしていたのだろう。そしてそれが、この竜騎士07さんの特徴的な手法でもあるんだよなあ。ひぐらしのなく頃にを振り返ってみると、余計にそう感じるわけで。
でも、小説でこれをやられると全部がひっくり返るまでが本当にしんどかったんですけど。そもそも、塩沢磊一と御首茉莉花にまったく共感ができない状態でしたからね。
逆に齟齬が解消されると、塩沢磊一と御首茉莉花への共感が大爆発してしまうのですが。彼らバケモノたちの苦悩と、ルールを遵守しようと懸命に自己を律する姿に健気さ以上に敬意すら抱いてしまうほどでした。
全部が明らかになると、茉莉花という少女がどれだけ絶望し苦しんでいたかもよくわかるし、彼女のうちに希望が戻り人としての体裁を取り戻していく過程も、そこに健気なほどの初々しさが垣間見えるのも、しごく当然の姿だったんですよね。
何もかもをさらけ出しているようで、実際は心のうちのバケモノを、本当の意味で解き放たずじっと
抑え込んでいた、ずっと堪えていた我慢、克己心はむしろ立派と言えるほどで、だからこそ最後の外の世界に1人で踏み出していく、女性の自立など思いもよらぬ時代の中で、想い人を自分の力で追いかけていく勇敢さは、ほんとうの意味で強い女性である事と可愛らしい女の子である事を見事に両立させていて、実にヒロインしていたんじゃないでしょうか。

時代的に存在自体が許されず否定され踏みにじられ無かったことにされて消し去られようとするもの、いや現代だとて全否定しようという意思は無視できないでしょう。社会からは大手を振って受け入れられるものではないでしょう。
しかし、内なるバケモノが生じてしまえば、それはもう在るわけです。無かったことには出来ない。心は縛れない。それはもう、その人自身なのですから、それを否定されると、心の中まで否定されてしまえば、存在自体を否定されてしまう。
かと言って、内側からバケモノをはみ出させてしまえば、自由に野放しにしてしまえば、勝手な理屈をつけて表に出せば、それは人の営みを踏みにじる害悪となってしまう。
それを律することが出来るか、制御も出来ずに暴走させるか。
でもそれって、ただの普通の人が持つ欲望や感情も変わらないはずなんですよね。制御を失って、野放しに解き放ってしまえば、どんな欲望も感情も容易に他人を傷つけ、社会に害をなすことは何も変わらないはず。
昔ながらに心の中の自由すら許さないという主張する人たちの存在が目にとまる事が多くなったこのご時世、色々と考えさせられる話でもありました。

にしても最近よく漫画などで狩猟などで鹿など捕獲した動物を捌いて解体する場面を見ていただけに、ハラワタはアカン! 内臓のうちでも特に腸は傷つけるとエラいことになってしまう! という意識付けがされていたんでしょう。茉莉花ちゃんがハラワタをはむはむしはじめたのを見て、グロい云々とはまた違った意味でうぎゃーー、となってしまったんですよね。思えば、あれが「気持ち悪い」の発端でもあったのかもしれません。思えば、あれもまた茉莉花が名家の深窓のお嬢様であるが故の知識不足、という側面もあったのかもしれません。現代と違って、生き物の解体についてなんかも簡単に情報を手に入れる事は出来ないでしょうし、想像にも限界あるだろうしなあ。

泳ぎません。 2 3   

泳ぎません。 2 (MF文庫J)

【泳ぎません。 2】  比嘉智康/はましま薫夫 MF文庫J

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その日、神卵太郎は学校の本校舎屋上で困惑していた。学校一の美少女と謳われる小田部桜子から呼び出され、交際を申し込まれていたからだ。だが卵太郎は丁重にお断りしてしまう。その夜、実は水恐怖症で泳ぐことが全くできない卵太郎は、近所の女の子の美唄と一緒に、日課となっている近所の大型プール施設に行く。もちろん、いつも通り水が怖くて泳いだりはできないのだけど。そこに現れた桜子が美唄とプールで遊びはじめ、卵太郎は振り回されることになる。さらに水泳部の顧問・野々宮先生までやってきて……? すこぶるつきの彼女たちのプールサイド・トーク、サイドB!
おいおい、一巻でメインだった水泳部の三人を放置プレイにして、今度は卵太郎視点で別の女の子たちとキャッキャウフフしはじめたぞ!?
一巻では水泳部の面々が長すぎる休憩時間を謳歌する様子を描いて「泳ぎません。」のタイトルでしたが、この二巻では水恐怖症の卵太郎が水が怖いので「泳ぎません。」というタイトルに当てはめたらしい。その割にはほとんどのシーンがプールサイドになっていたのですが。
一応、卵太郎の水恐怖症を治そうぜー、という流れでお話は進んでいるはずなのに、なぜか余計に卵太郎の水恐怖症が悪化するような展開に。桜子さんがフリーダムすぎる! この人のどこがいったい完璧超人なんだ!? むしろ完璧にアウトの人なんだが、色々な方面に向かってw
お陰で卵太郎、水恐怖症に加えて女性恐怖症まで発症しそうな勢いに。この場合、女性が怖いと言うよりも桜子怖い、とした方が正鵠を射ている気もするけれど。口うるさくておしゃまな美唄の方は何だかんだと可愛げがあってイイ子でしたし。小学生だけどな!! でも、小学生だろうが精神的にはしっかりしているし、十分に女性としての気概を持った既に一端の女の子。ロリコンとは言うなかれ。そこそこ歳の差はありますけれど、卵太郎はもうこの子の気持ちに応えてあげてもいいんじゃね? と、彼女の真剣なきもちに打たれてしまいました。作者の描く女の子の本気の気持ちは、どんな形であれ蔑ろに扱ってしまうには貴くて、一途なのです。幸いにして卵太郎は、相手が小学生で妹分でしかない子であろうと適当にあしらうような真似はしない迂闊な男ではないのでよかったですが。
でも、巨乳の方が好きなんだよな、うん。……美唄も水着の挿絵とか表紙を見ると、小学生としては望外に育っていらっしゃるので、将来とてつもなく有望そうではあるのですよ? ……って、そう言えば二巻の表紙、美唄なんだ。あれ? 他の女性陣差し置いて? わりとマジでメインヒロイン格だったんだろうか。他の人達差し置いて早々に告白まがいの事しているし、もしこの作品が恋愛ターンに入っても何気に中心から動きそうにない存在感もあったので、適当な人選だったのかもしれない。桜子さんがイロモノ過ぎたからなあw
まあそれも、三巻以降も続いたら、の話だったのでしょうけれど。
なぜ二巻で終わる!?
いやあ、二巻でシメはないでしょう、幾ら何でも。見切りが早すぎるよ。これから水泳部の面々とも卵太郎が絡んできて本番だったろうに、二巻でさらに面白くなってきたのに。
いきなりの終了宣言に、脱力バッタリでありますよ。うあー、がっかりだ。

一応、もう一迅社の方で新作出す予定が決まっているようですし、すぐに比嘉さんの作品が読めそうなのは不幸中の幸いでしたが。あー、デビュー作、二作目と傑作を書き連ねてきたこの人のシリーズがこんなにあっさりと終わってしまうのは、どうも残念でならない。次に期待しましょう、うん。

1巻感想

泳ぎません。3   

泳ぎません。 (MF文庫J)

【泳ぎません。】 比嘉智康/はましま薫夫 MF文庫J

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だがスク水。
グラウンドから野球部のランニングの掛け声が聞こえてくる。「おーっ、ぱいおっ、ぱいおっ、ぱいおっ!」……なんで「おっぱい」って叫んで走るの? 綾崎八重はビニールボートの上でボンヤリ考える。ここは学校のプール。ほかにはストレッチしてる茂依子と、ござを敷いて本を読んでいる榛名日唯。たった3人だけの水泳部。別に大会とか目指してないから放課後は毎日こうやってプールでのんびりしてる。「あたしって学校生活の三分の一以上、布きれ一枚で過ごしているんだなぁ……」徹頭徹尾スク水! でも泳ぎません。すこぶるつきの彼女たちのプールサイド・トーク!
泳ぎません。この句点の「。」がポイントです。「!」じゃないんですよね。これが【泳ぎません!】といったタイトルなら、何やら断固とした理由があって頑なに泳ぐまいとしているかのような内容になってしまうのでしょうが、本作はあくまで【泳ぎません。】なのである。
いっそ【注:泳ぎません。】でも良かったんじゃないか。
というわけで、水泳部員たちが長すぎる休憩時間を利用して、プールサイドでだらだらと時間を潰す、ただそれだけのガールズトーク・ストーリー。いや、ストーリーというほどの物語も起きないのだけれど。本当に、だらだらと駄弁っているだけなのである。
前作の【神明解ろーどぐらす】も、基本的に下校路でわいわいと駄弁りながらブラブラするだけのお話でしたけれど、この【泳がない。】が凄いのが、舞台が学校のプールから全く動かない所なんですよね。ホントに場面がプールサイドから殆ど動かない。何度か学校内の別の場所でのワンシーンがあるくらいか。【神明解ろーどぐらす】はあれで毎回帰るルートを変えての寄り道が恒例だったのでいろんな場所でシーンを展開できたのだけれど(逆に校内での描写はほぼ玄関のみで極力排していたのが面白い)、ここまで場面を固定してしまうと本気でトークだけがメインとなってしまうので、話広げるの結構たいへんだったんじゃないかなあ。
そう考えると、神卵太郎というイレギュラーは、基本的にプールの外の存在で、校内をうろちょろしているだけにも関わらず、外から様々な刺激を八重たちに送り込んでくる不思議なファクターなんですよね。彼女たちのトークの材料となり、好奇心の対象となり、心を擽る存在に徐々に徐々にスライドしていく。彼がプールサイドに現れて彼女たちと会話するのは僅かに一回。メインキャラの八重ですら、それ以外ではたまたま校内で遭遇した時に一言二言言葉を交わしただけの関係にもかかわらず、プールサイドからチラチラと見える校内のあちこちを動きまわる神卵太郎の小さな姿や、校内放送から聞こえる声だけで彼女たちの中に妙な存在感が増してくるのである。
この奇妙な関係性の盛り上がりの流れ、変な感じなのだけれど、これがなかなか擽られるのだ。面白い。

平和な日常モノと思われていた【神明解ろーどぐらす】が後半に凄まじい超展開があった事もあり、デビュー作の【ギャルゴ!!!!!】の内容も相まって、この第三シリーズもまさかの超展開、プールサイドを舞台にした猟奇事件でも発生するんじゃないかという不安だかwktkだか分からない警戒心が消し切れないのだけれど、さすがにもうそれはないよね? ないよね? 

一応【神明解ろーどぐらす】とは学校が違うはずなのだが、何故か「勝ち越しの会」の名前があったぞ!?(笑

しかし、また最近の長文タイトルに挑戦するかのような、短文一言スタイルのタイトルである。やがてこちらへの潮流も発生するのだろうか。何気に長文よりも短文一言の方がセンスが求められそうだけれど。たった一言でインパクトと作品内容をズバリ、或いは面白く言い表したタイトルってかなり難しいと思う。その点この【泳ぎません。】はかなり素晴らしいですよね。たったワンフレーズでよくもまあ……。
 

2月22日


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