ま@や

絶望同盟3   

絶望同盟 (一迅社文庫)

【絶望同盟】 十文字青/ま@や 一迅社文庫

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この人が描く、生きることそれ自体に苦しみもがく若者たちに向けたそっと肩を抱くような優しさは、それがあると信じているものではなく、あって欲しいと思い焦がれる願いのように感じられる。
この物語に登場する四人の男女の抱く絶望は、決して精神の死や心の歪みに繋がるような激しいものではないが、その絶望は生きる上において一生ぬぐい去ることのできない類のものであり、何らかの形で妥協を繰り返しながら、生涯付き合い続けなければならないものだ。
彼らはその性癖、その在り様に絶望するというよりも、斯く在る自分自身にこそ絶望している。故にこそ、彼らは積極的に他人と関わることを避け、自らを余人から遠ざけようとしている。いずれ社会に出ることで彼らは否応なく、現在の他人との距離を表向きは解消することになるのだろう。だが、自分自身への絶望が解消されることはない。それは自身の内側へと内包され、露骨に表面に出せないまま、永遠に抱え込むことになる。仕舞い込むことになる。
露骨に表にサインを出す事が叶わぬ侭、生涯絶望を内面に秘めることになる。それは、どれほどの孤独だろう。誰にも知られる事の無い絶望こそ、真の絶望の一つではないだろうか。
それは、とてつもなく寂しいことである。
だが、それは普遍的に起こりうる事でもあるはずだ。世の中の少なくない人たちが、形や性質が違うとしても、このような絶望を誰にも知られぬまま、内面に飾っているのではないだろうか。

そんな中で、彼ら四人は出会った。
思う。
他人を遠ざけながら、普通の人とは違う挙動を示すことで、彼らはサインを出していたのではないだろうか。誰かに、自分の絶望に気づいて欲しい。この絶望を知って欲しいと。
だからこそ、彼らは他人から離れようとしながら、距離を置きながら、この四人同士からは離れようとしなかったのではないだろうか。

作者の優しさは、まさにこの四人が出会ったこと、そのものにあるように思う。
絶望を抱える四人の男女が出会い、各々が抱える絶望を知った。絶望が解消される云々は関係が無い。絶望の事実を共有することそのもので充分なのだ。それだけで、起こりえない奇跡なのである。その上で、彼らは絶望の先に在る希望を、共に過ごし共に在ることで見出すことになる。希望が在ることを、彼らは知るのだ。もう、寂しくはないのだと気づくのだ。
これが、願いでなくて何なのだろう。
微笑ましくも温かい結末が彼らには訪れる。その優しい光景は、どこか憧憬によって成り立っているかのようだ。
その憧れに似た祈りに、私はひどく共感を覚える。


その中で、一人絶望しない小野塚那智。
この第九高校シリーズの中で、彼女の存在は異色であり出色である。
彼女の物語が描かれる時こそが、このいつの間にかシリーズとなってしまった作品群の結末にして集大成が現出するのだろうか。
彼女のことが知りたくてたまらない……。

ヴァンパイアノイズム4   

ヴァンパイアノイズム (一迅社文庫 し 1-7)

【ヴァンパイアノイズム】 十文字青/ま@や 一迅社文庫

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よくぞまあ【ぷりるん】から殆ど期間が開いていないにも関わらず、こんな皮むきして中身の果実だけをポンと置かれたようなモノを、書き出してくるもんだ。この作者の中ではどれほど描きたい情念が渦巻いているんだろう。
でも、【ぷりるん】でもそうだったけど、この手の迸る内面を加工せずにそのまま叩きつけたような作品って、それだけ書き手の生々しい感情とかがそのまま伝わってきそうなものなんだけど、この人の書くそれは異様なほど客観的というか、冷静な観察者的な視点によって支えられているんですよね。恐ろしく情緒的なものが、空恐ろしいほど淡々と、しかし生々しく描き出されている様は、ちょっと背筋が寒くなるくらい。
多少なりともこんな話をこんな風に書いたら、情念に引っ張られてフラフラしそうなもんだけど、その辺は怖いくらいに冷徹なんだもんなあ。
あとがきでは、この物語は十代・二十代の方々に届けたい、って触れているけど、果たしてこの話がそれらの世代に共感を覚えさせるものかどうかは、ちょいと疑問に感じてしまう。まさに、十代・二十代の世代に直撃するような内面が克明に描かれている作品だからこそ、当事者である世代がこれを直視するのは、かなりキツいんじゃないのかなあ。自分なんか三十代で、ある程度突き放した立場であの頃を振り返る事が出来るから、懐旧とともに沁みるような共感を覚えるけど、十代のころにこんなの読まされてたら、気持ち悪くて恥ずかしくて参ってしまってたんじゃないだろうかと思えてくる。
でもまあ、投げ捨てるような話じゃないんですよね。詩歌との関係なんか、成り立ちといい、現状に至った経緯といい、非常にアレで耐えがたくも甘美極まりないものなんだけど、それを直視せずなあなあで済ますのではなく、二人でちゃんと語りあい忌憚なく暴きあい、率直に想いを打ち明け合う、というシーンは、ある意味正しくフィクションもので、エンターテインメントしてると思うんですよね。現実として人はなかなかここまで率直に話し合うことなんてできないし、自分の気持ちをここまでさらけ出し合い、生ぬるくも心地よい関係の正体を暴いてしまうなんて、出来るもんじゃない。本当に生々しくも気持ち悪いだけの話なら、この二人はこのままずっと向き合わず、自然消滅するまでなあなあで時間が過ぎていくのを待っているだけ、となるんだろうけど、この作者はどんなにギリギリの崖っぷちを渡っていても、物語としての幻想は投げ捨てないんだよなあ。
それがどう評価されているのかは定かではないんだけど、自分としてはそここそが、この人の著作を好きな根源的に理由なのかもしれない、と思っている。


今回の一迅社のこの本の帯は、趣向がきいてて面白かったなあ。
よげん【予言】
詠み終えたら、あなたはきっとこの地味な眼鏡娘が愛おしくなる

やれやれ、大当たり。

ぷりるん。 特殊相対性幸福論序説5   

ぷりるん。―特殊相対性幸福論序説 (一迅社文庫)

【ぷりるん。 特殊相対性幸福論序説】 十文字青/ま@や 一迅社文庫

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これ、桜庭一樹著の【砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない】でも感じたことだけど、著者がふと思い立って一気に、本当に一気に書き上げてしまった作品って、独特の生々しさが匂い立つように感じられるんですよね。
脳内物質がドパドパあふれ出しているのがもろに伝わってくるような、その人の書き手としての根源が剥き出しになったような、憑かれたような勢いが。
なんかもう、読んでる途中で分かっちゃいましたもん、ああ、これ加工してない天然モノだって。【砂糖菓子の弾丸――】と同じ書き方だって。
その意味では、この作品は十文字青という作家の根底がさらけ出されてると言っていいのかもしれない。薄汚れ醜く吐き気を催すような醜悪な現実にのたうちまわりながら、だけれどその果てに辿り着くのは絶望でも闇でもなく、希望であり光であり温かなぬくもりであり、確かに存在する愛であるという、ごく自然な善性の信奉者としてのそれが、ここにはあますことなく描かれている。

桃川みうとの関係の変転。
親友だと思っていた可賀池ノボル
部活の先輩、小野塚那智
姉の綾
妹のうずみ

それぞれの関係は、泥沼に陥り、嫌悪にまみれ、停滞に入り、敬慕を弄ばれ、失望に突き放され、主人公ユラキの日常は徐々に暗転し破滅の淵へと落ち込んでいく。
そのひとつひとつの出来事は、誰にでも起きかねない生々しいまでの現実社会での悲嘆であり、生きていくうえで時に遭遇を免れない醜悪な人間の負の一面だったのだろう。不幸にも、ユラキはその重石を多重連鎖的に背負うはめになり、徐々に彼の精神は摩耗し、心は押しつぶされ、虚無に塗りつぶされていく。
心が、傷つき悲鳴を上げて突っ伏してしまったのだ。
正直、ここまでの彼には同情を禁じ得ない。彼が傷だらけにされた一連の事象の中に、彼の責任だったもの、彼が悪かったものは特に見当たらなかったからだ。とはいえ、だとしたらそれは相手の責任だったのか、というと多少の責はあったとしても、それは価値観の相違やタイミングの悪さ、桃川の場合はかなり性質が悪い部分はあったものの、その大半は不可抗力だったと言っていい。
だからこそ、そこに悪意がなかったからこそ、ユラキが傷つき潰れていく姿は、現実の侭ならなさ、生々しいまでの醜悪さがにじみ出ていたように思えてくる。
だが、そこからすべてのカードがひっくり返されていくのだ。まるでカードに裏と表があるように、現実の醜悪さの裏にこそ、鮮烈な、もしくは仄かな善性が潜んでいるのだと告げるように。

桃川との間に芽生える友愛。
ノボルとの間に始まる、本当の友情。
那智先輩との間で決した、優しい過去の清算。
姉が与えてくれた家族の愛情。
妹が教えてくれた、兄妹愛。

傷つき、苦しみもがいて倒れ伏した彼がそこから見つけたのは、傷つけられたはずの相手から与えられた抱きかかえられないくらいの一杯の愛。
ここには、十文字青という人が作品の根底に込めているモノの原型が、もとも原液に近い形でぶちまけられているように思えてならない。
彼の描く凄惨で残酷で醜く悲惨な物語の数々が、それでも胸を熱くさせ読み終えたあとに温かい優しさの欠片を感じさせてくれるのは、そこに、こんな風に人には、現実には、愛や優しさが詰まっているんだということを信じようとしているからなんだろうと、そう思う。

読み終えるまで、ぷりるんの存在の意味がよくわからなかったのだけれど、こうして考えてみるならば、きっと彼女の存在は、一つの象徴であり、結晶だったのではないだろうか。
拒絶し、無視し、捕まえようとして手に入れられず、傷だらけになって皆の愛情に抱かれて、はじめて見つけられたもの。

それがなんなのかは、読めばきっとわかるはず。

かなり荒削りでぶった切るような強引な部分も目につく、さすがはプロットも何もなく一気に書き上げた代物という雑然としたところも多い作品だけど、それ以上に勢いゆえの迫力とパワーがビリビリと伝わってくる、渾身の一作でした。
 

10月3日


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10月2日

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