【ワトソン・ザ・リッパー ~さる名探偵助手の誰にも話せない過去~】  SOW/りーん LINE文庫エッジ

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「俺の名はジョン。ジョン・H・ワトソンだ」

十九世紀、世界の半分を所有したと言われる大英帝国の首都・倫敦(ロンドン)。
これは名探偵『シャーロック・ホームズ』と同じ時代、同じ場所で、世間を騒がせたもう一つの伝説『切り裂きジャック』の物語。

英国国教会が牛耳るこの街にカトリックの若き神父、ジェイムス・H・オーランドは、裏の顔であるヴァチカンの汚れ仕事専門部隊『贖罪者』の一員として、倫敦を賑わす殺人鬼『切り裂きジャック』に狙われる少女・マーガレットの警護にあたる。簡単な任務と思われたが、突如現れた異能の悪魔、そして英国警察(スコットランドヤード)の秘密兵器・蒸気甲冑までもがオーランドに襲いかかり、事態は予測不可能な展開へと舞台を進めていく。
「世界最悪」と言われる倫敦の貧民街を舞台に、国教とカトリック、英国警察の思惑が絡み合う。そしてカギとなるマーガレットと、『ブラッディマリー』とは!?

あれ? ワトソンは? ホームズは? と、冒頭にチラッと謎解きしている探偵らしい人が出た以降は肝心の名探偵もその助手なお医者さんの影も形もなく、メインとなる登場人物はカトリック教会の特殊部隊の工作員なオーランド神父にその関係者ばかり。切り裂きジャックの謎を追うのもオーランド神父。首を傾げながら最後まで読んでみたら……ちょっとまって、これって実質、前日譚じゃね?

とまあ、これをホームズとワトソンの話だと思って読んだら肩透かしかもしれないが、19世紀の霧の魔都を舞台にしたダークファンタジーにしてスチームパンクとして読むなら、どっぷりと雰囲気に浸ることが出来るだろう。
世界帝国の首都というにはあまりにも光届かない薄暗さに包まれた街ロンドン。そこはまさに覗いてはいけない深淵の縁。霧の中は、もう異界そのものと化していたのかもしれない。
そんな只中で、切り裂きジャックと呼ばれるあまりにも不可解な殺人鬼の正体を、任務であるマーガレットという少女を護衛する上で追求していくオーランド。ただその解き明かされていく事件の真相は、どこを切り取っても救いのない無常の断片ばかり。
その身その生まれその生命そのものが罪であると断じられた異能者オーランド。生まれてきてはいけない者だったと定義された存在である彼が望むのは、祈るのは、この世に生まれてきてはいけないものなどいないのだ、という優しい真理。だが、世界はそんな彼を嘲笑うように生まれながらに許されざる者たちの存在を、彼に突きつけていく。
それでもなお、彼は自身の祈りを貫けるのか。
楽を食って生きる悪魔は、そんなオーランドに目をつける。それは彼の苦しみを楽しむためなのか、それとも彼が希望を諦めない姿の輝かしさを楽しく思うが故なのか。少なくとも、この悪魔の趣味趣向は決して悪趣味なものではなく、人の善性を楽しんでいる気がするんですよね。いや、このフェイという女悪魔が悪趣味なのは間違いないけれど、その享楽は決して人を陥れ傷つけるものではないと思いたい。むしろ、オーランドを庇護するいと高き方の方がどうかと思うところか。果たしてかの方はオーランドの祈りを尊いと思って彼を守っているのか、それとも嘲笑い永く永く弄ぶために彼を守っているのか。いずれにしても、オーランドの試練に安易な死による逃避は存在しないのだろう。苦しみは続く。その果てに救いがあるのかはわからない。

しかし、オーランドはともかくとして、フェイが腰を据えた配役は予想外過ぎて吹いた! そしてホームズの存在がトリックスターすぎるんですけど、ある意味こいつの存在が一番謎なんじゃないだろうか。