【「私と一緒に住むってどうかな?」 1.見た目ギャルな不器用美少女が俺と二人で暮らしたがる】  水口敬文/ろうか HJ文庫

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放課後はふたりで同棲・・・・・・のための家づくり!?

手先が器用な男子高校生・高村劉生と、料理だけ上手な不器用美少女・伏見扇奈は親友同士。家に帰りたくない事情のある二人は、古民家をリフォームし、放課後の居場所にしようと動き出す。
すると、「二人きりなら思う存分イチャイチャしまくれる! 」と気付いた扇奈が劉生に猛アピールを開始!!
一緒に食卓を囲んだり膝枕したりと、友達から同棲カップルのような雰囲気に……!?
いつも一緒なのにじれったい、傍目バカップルな二人が繰り広げるイチャイチャDIYラブコメディ!!

これ、タイトルだけ見たら最近流行りの同居モノかと思ったら、まず同居するための家をボロボロの空き家状態からDIYして直しましょう! というお話だったのか。そもそも、主人公別に同居するつもりとかさっぱりないし!

幼馴染同士の扇奈と劉生、二人にとって思い出ある扇奈の祖父が生前に暮らしていた家が、長く空き家になっていたため今度取り壊されることになったと聞いた二人は、この家を暮らせる状態まで直して取り壊すという判断を撤回して貰おうと考える。
とはいえ、家をまるまる一件リフォームするのを高校生二人でどうにかするのは流石に難しいと思うのだけれど、流石にいきなり職人顔負けのスゴ技、とかは使うこと無く、二人は高校生が出来る範疇であれこれとボロボロになった畳や障子、壁紙や庭などに手を入れていく事になる。
意外と堅実だ。
まあ技術だけじゃなく、家をリフォームするとなると材料費も馬鹿になりませんからね。工具の類もあまり持っていないみたいですし。実際、作業の大半が庭の雑草抜きだったりして、扇奈が早々に根をあげたりも。地道に雑草抜き続ける劉生、飽きて放り投げないところとか結構偉いよなあ。
電気水道ガスとインフラも止まっている中なので不自由も多いのですが、それでも弁当を持ち込んだり、井戸から水を汲み上げて上手く工夫してお湯を沸かしてお風呂に入ったり、バラしてあった耐火レンガを使って竈を作りキャンプみたいに料理作ったり、とこれはこれで本格的な秘密基地作りみたいなノリで、二人きりの時間を楽しむ劉生と扇奈。
さても周りからはバカップル呼ばわりされ、実際傍から見るといちゃついているようにしか見えない二人ですが、現状付き合う様子は皆無なんですよね。
扇奈の方はもう劉生しか目に入っておらず、必死にアプローチしているのですが。
この娘、なんでか友達もおらずぼっちなんですよ。これだけコミュ力あったら昔なにかやらかしてても高校生にあがったところで変わってくると思うのですが、劉生にべったりひっついていることもあってか他に友達一切おらず。劉生の方はそれなりに友人がいるのにね。
そもそも、扇奈が孤立してしまったのは周りよりも早く二次性徴を迎えて、突出して一人だけ成長して大人っぽい女の子の身体になってしまったために、男の同級生たちからは酷い色眼鏡で見られ、同性の女の子たちからもハブられ、本人もかなり心傷ついた状態で孤立してしまったんですね。
そんな彼女を、変に女扱いせずに友達として接し続けた劉生だけが、傍で扇奈の親友で居続けたわけだ。これ、劉生自身けっこう意識して女扱いしてなかったみたいなんですよね。そのせいで扇奈が孤立してしまい、彼女が自分の女らしさを強く気にしてしまっていた事も気が付き理解していたため、彼女が嫌がることを避けながら扇奈の傍らに居続けたという気遣いの男なのである。
惜しむべきは、思春期を迎え高校生になっても、その当時の意識のまま扇奈に接してしまっている事なのでしょう。これまでの経緯から、劉生の優しさや気遣いに惚れ抜いた扇奈はそのまま異性として彼の事を好きになり、だからこそ自分が女性である事を受け入れて、むしろ女の子らしさや色気を武器にして劉生にアプローチしまくるようになっている。
のだけれど、劉生は扇奈を女の子扱いするのは彼女を傷つけることだと思いこんでいるので、扇奈の必死のアプローチを徹底して無視してスルーしてるんですね。
単純な主人公の鈍感、というわけじゃなく、ある種の気遣いの結果、というのがまた残念な現状維持に落ち着いてしまっているわけだ。大切にしているからこそ、気をつけて適切な距離を保っている。保ってて、あのイチャつきっぷり、という時点で劉生の距離感の方もだいぶ狂ってはいるんでしょうけれど、それでも肝心の所ではどうしても距離が詰まらず扇奈は空回りしつづけるのである。
いやもうそれ、はっきり告白したらいいんじゃない? と、思う所なのですけれど、それが出来ないのが彼女の不器用極まるところ、なのでしょう。

登場人物それぞれが、親に対して不満や不平、距離の隔たりを感じているのですが、さてそれがただの反抗期なのか、親にも問題があるのか。
まあ問題があるのは確かなのですが、子どもたちが思っているほど親の側に愛情がない、という訳でもないようで。少なくとも扇奈の親子関係の方は親と娘両方の不器用さが拗れてしまっている、というくらいなのでしょう。劉生はちょっと父親のダメさ加減が子供側からの視点ではかなりあかん所なのですが、これ父と母の夫婦間ではまた違う了解があるのかもしれないので、なんとも言えず。
ただ寺町奏の方はこれ両親に完全に失望してしまっているので、ここが一番修復無理っぽいのかなあ。
ともあれ、扇奈のパパさんは頑固で融通きかなさそうだけどちゃんと娘を心配してるし、条件付きとはいえ家のリフォームも許してくれたので、理解ある親の範疇なのでしょう。どうせ、高校生二人でちゃんとしたリフォームなんて無理に決まってる、という判断はわりとまっとうにも思えるし。
ただ、この残念な娘さんに対して劉生はかなり得難い理解者なだけに、邪魔するのではなくむしろ積極的に娘を応援して貰ってもらう方針に変換した方がいいと思うんだがなあ。
父親の方も、あれこれ娘空回りしてないか?と気づいた節もあるので、娘のポンコツ具合を承知すれば劉生みたいな物件は逃がす手はないと思うのだけれど。

しかし、このタイトルとなってる台詞の使い所は面白かった。散々引っ張っといてそこでタイトル持ってくるかー。そして、タイトルにするぐらい密かに気合入った台詞にも関わらず、劉生の塩な対応である。……どんまい。


水口敬文・作品感想