ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件 (ダッシュエックス文庫)

【ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件】 紙城境介/文倉十 ダッシュエックス文庫

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祭りの最中、少女が炎の海に没した。密室かつ衆人環視、そのうえ千年前の伝説を模倣した形で。魔女の手によるこの事件に、新米騎士ウェルナーと『魔女狩り女伯』ことルドヴィカが挑む。だが二人は知らなかった―事件の裏に眠る超歴史的真実の存在を。さらに追い打ちをかけるかの如く、ルドヴィカの前に異端審問官の少女・エルシリアが立ちはだかる。旧友にして天敵同士の二人は、とある悲劇を共有していた―少女達の対立、魔法に彩られた事件、千年間解かれなかった謎。そして偽りの真実が牙を剥いた時、少年は己が正義の在処を知る。第1回集英社ライトノベル新人賞“優秀賞”。精妙にして峻烈なるファンタジー・バトル・ミステリ!!
千年の間解かれなかった謎、それはこの日この時、彼女に解かれるために用意された謎だった。祭りの日、皆が見つめるその先で燃え盛る炎に焼きつくされた少女。事故と思われたそれは、千年前の伝説を模倣した殺人事件、それもこの世に十二しかない魔法を使った異端の魔女の仕業である、と。
まさにミステリー。事件の謎を解き、そこに込められた意図を、想いを詳らかにして、真実を明らかにする。これをミステリーと言わずしてなんという。
ファンタジー世界の物語であり、魔法だの魔女だのといった要素が介在するとはいえ、きちんと事前にルールを提示して、筋道立てて謎の発端から事件の発生、混迷の過程を経て、事件の真相を劇的な形で紐解いていく、というこれ以上なくちゃんとミステリーしてましたよ。
特に好ましかったのは、ルドヴィカという少女の真実に対する狂熱である。真実によって世界を正そうとする彼女と、真実を手の内にして世界を手に入れようとする異端審問官のエルシリア。同じ悲劇を共有しながら、その先に選んだ道を決定的に違えた二人。憎みあい、そして愛しあう。お互いに認め合うからこそ、決して許せず、しかし友情を喪わず、だからこそねじ伏せなければならない相手同士。この二人の偏執的と言っていいくらいの真実への狂熱が、物語の粘度を飛躍的に高めてるんですよね。余人には理解できない執着こそが、ミステリーという属性に圧倒的な質量を与えてくれる。丹念に積み上げられた謎とは、人の抱いた想いそのものであり、人間の内面というものを露骨なくらいに具象化したものだと言えるのだから、それを詳らかに開陳する役目を担う探偵は、それに相応しい人傑であり、人の闇の体現者でなければならない。それを、この二人は見事に成立させている。否や、その二人の対立こそが、それを成立させていると言ってもいいのか。
常にある種の弱さを抱え込んでいるルドヴィカよりも、個人的にはエルシリアの狂奔の方が惹かれるものがあるかなあ。あれほどルドヴィアに焦がれながら、その焦がれを殺意へと転換しなければ正気を保てないほどに至ってしまっている彼女。その行動は、ルドヴィカの考え方そのものを全否定しているかのようでありながら、どこかそうであって欲しいと願っているようにも見える。友情は確かにそこにあり、しかしだからこそそれを踏みにじって殺してあげたいと、切に願っている様は明らかに矛盾の中にいて、恍惚としている。彼女もまた純然たる殺し愛の信徒ではなかろうか。こういう複雑怪奇に入り組みきった憎愛の輩は、好みドストライクなのよねえ。しかし、だからこそ彼女は孤独であり続けなくてはならない。彼女に共感するものを、彼女は決して許さないだろうから。
しかし、ルドヴィカにはこの世でもっとも純朴で真っ当な正義が着いた。あらゆる秩序をかなぐり捨てて、ルドヴィカを信じた正義がそこにいた。まったく鈍くさくて、不器用だけれど、だからこそ揺るぎがない、まるで白馬の王子様。愚かで愛しい大馬鹿者。魔女だろうとお姫様だろうと、こんな馬鹿者に肯定されるほどに嬉しい事はなかろうて。得られるのは、自分を信じる勇気だ。自分のあり方を信じることの出来るぶっとい柱だ。
クライマックスは、こうした噴き出るような情熱が場を炎上させ、盛りたてる。激情のぶつかり合いが、秘密の暴露の場を演出する。そして、探偵の独壇場だ。見せ場としてはこの上ない。
ラストに至るクライマックスの怒涛の展開は、ある程度謎の真相が予想できたにも関わらず、大いに沸き立たせてくれたのではなかろうか。手に汗握る最終局面であり、ふとした瞬間吹き込んできた清涼な風を感じたような、ラストシーンだったんじゃないでしょうか。
実に狂と熱の乗った良いミステリーでありました。見せ方、心得てたなあ。