【オトギロワイヤル 長靴を履いた猫vs.桃太郎】 幹/hncl 講談社ラノベ文庫

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“人生に必要なことは童話が教えてくれる”。自他とも認める童話オタクの幸也は改変・改訂版のすべてを読破したいと、時間があれば図書館や書店に足を運んでいた。そこで呼び寄せられるように手を取ったのは『長靴を履いた猫』。何度も読んでいる作品だったが、その本は特別だった。そこから登場人物のオーガが現実の世界に飛び出した! オーガは幸也に襲いかかり物語の結末を変えようとするが、それを阻止するべく、猫耳少女……同じく本から出てきた猫が幸也を守ろうとする。彼女は幸也を主人(公)とし、身を守ることを約束、暴れるオーガを本に戻そうと街へ出向いた。しかし、二人を待っていたのは別の作品の登場人物・桃太郎!?

タイトルでVSとなっている主人公格の二人のキャラクター。だけど、対戦相手ではなく世界観を越えた共闘相手でした、というの昭和のアニメとか特撮の映画テイストですなあ。
さても、この物語において主役となるのは、本の中から飛び出した童話のキャラクターたち。
【長靴を履いた猫】って読んだか読んでなかったか、憶えてないや。高校生ながら外国語版も含めて古今東西の童話を読み漁っている主人公と違って、さすがに自分は童話の類は幼い頃にしか読まなかったと思う。それも絵本という形で。というか、文字の本という形で読んだことがあっただろうか。それでも、有名所の童話はなんやかんやとその内容については外から入ってくるので大体は知ってはいるのだけれど、長靴を履いた猫に関してはどんな話だったのか記憶になかった。
アニメ作品でやってましたっけね? それも、見たのか見てないのか。キービジュアルは強く印象に残っているのだけれど。
なので、「長靴を履いた猫」にオーガなんてものが出てくるなんて全然知りませんでした。オーガなの? オーガなんて単語が日本で通用するようになったのってここ10年20年ってところだと思うので、昔の長靴を履いた猫ではオーガじゃなかったような気がするなあ。読んだかどうかも定かではないにも関わらず、そう言ってしまうのもどうかと思うのだけれど。
最近ではオーガなのか。
そもそも、自分の中の童話の知識って……甲田学人さんの【断章のグリム】だったんじゃなかろうか。あれはこう、原典のさらにグロくてエグい部分を容赦なく直視しつつ、さらに解釈をえげつない方向に向かって掘り下げていく内容だったので、童話となるとどうにもこう、裏というか背景が気になってしまうという弊害が。
ともあれ、本作では本当は残酷だった童話シリーズや、赤ずきんが重火器振り回して凶悪に哄笑しながら暴れまわったりするようなキレキレの童話キャラたちの祭典というのではなく、かなり本来世間で一般的に認識されている童話作品に寄ったマイルドなキャラクターになっている。
と言っても、これ童話のキャラって長靴を履いた猫のネコ以外は殆ど登場しないような。オーガちゃんですら、チラッとしか出てきませんし。
そもそも、あんまりキャラクターの掘り下げもやってくれないんですよね。というか、ヒロインの立ち位置であるはずの薔薇垣さんや桃太郎役の吉備さんも物語の本筋には役どころはあるのですけれど、主人公の凛堂幸也の物語に深く入ってこれたかというとちょっと疑問なんですよね。お姫様役であり、頼りになる仲間役ではあったとしても、ヒロインとして主人公に絡めたかというと……。
薔薇垣さんなんて後半眠ってばかりで、彼女の想いというものをちゃんと形作る事叶いませんでしたし。薔薇垣さんは彼女なりに思いを育んでいて、それを伝えられたらと思う所もあったと思うのですけれど。吉備さんも、家柄として桃太郎やってますけど、そのことについてどう考えているのか、今こうして幸也と組んで動いていることにどんな思いを抱いているのか、という点などについて深く踏み入ることありませんでしたし。
その意味では、物語の進行重視だったのかもしれません。むしろ、黒幕であり敵役だったキャラの方が、幸也と向き合う機会が多かったくらいです。とはいえ、彼女もまたいまいち個性的とは言えず、動機もろもろも含めて定番的であったので存在感としてはあんまり印象に残るようなタイプじゃなかったんですよね。
総じて、全体的に見ても強烈に焼き付くような印象的な何かがあるわけではない、地味目なイメージに終始してしまったような気がします。内実も含めて。ネコもにぎやかであり続けてはいるんですけれど、軽々しいまんまで最後までいってしまった気がしますし、主人公の童話バカっぷりもあんまりこっちの興味まで引っ張られるような印象深いものはなかった気がします。童話薀蓄がたり、なんかを延々と熱心にされたら興味も湧いたかもしれませんけれど、触れてもサワリだけという感じでしたしね。フィジカル最強という設定も、余録という感じでそれを強い武器に出来ていたかというと、さてどれだけ活用できていたか。
なんとも大人しい感じのあっさり風味のお話になってたかなあ、という感触でありました。個人的にももうちょい濃い目でキャラの描写に重きをおいた作品の方が好みかなあ、最初のシリーズ【神様のお仕事】みたいな。

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