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カミツキレイニー

魔女と猟犬 2 ★★★★   



【魔女と猟犬 2】  カミツキレイニー/LAM ガガガ文庫

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静寂に包まれた“氷の城”で巻き起こる殺戮

“鏡の魔女”テレサリサと共にレーヴェを脱出したロロは、魔力の影響で眠り続けるデリリウムを連れてキャンパスフェローへと戻ってくる。だが、王国アメリアによって陥落された故郷は、流血と破壊に蹂躙され見る影もなかった……。

ロロとテレサリサは城下町に作られた隠れ処にて、城から逃げ延びた者たちと合流する。領主バド・グレースの留守を預かる宰相ブラッセリ―と、<鉄火の騎士団>の副団長であり、ハートランドの妻であるヴィクトリアをはじめとする九十二名の者たち。

彼らは隠れ処を捨て、<北の国>へ向かうことを決断する。そこには、バドが生前に同盟を結んだ雪王ホーリオが治める<入り江の集落ギオ>がある。きっと助けになってくれるはずとの目算からだった。そして、ロロには<北の国>へ行くもうひとつの目的があった。それは、氷の城に住むという“雪の魔女”を味方につけること――。

その頃、王国アメリアの王都にあるルーシー教の総本山“ティンクル大聖堂”には、魔術師の最高位を冠する九人の者――“九使徒”が集められていた。

これはッ、マジかーー!
いやあ、これは驚いた、マジかロロよ。一巻のあの怒涛すぎる展開もあまりにも予想外で驚愕させられたけれど、今回のそれも常道からは大いに外れていって、まさかそんな事に!? と、唸らされる事になってしまった。
容赦ないと言えば容赦全然ないよなあ。というよりも、主人公であるロロに優しくないというべきか、或いはロロにとって彼に背負わされてしまったものが重すぎた、という事なのかもしれない。
当代黒犬。殺す覚悟を決めた彼の実力は、それこそ比類なきものなのは疑いようもありません。アメリアに対抗するために魔女を集める旅ですが、ぶっちゃけ黒犬ロロはその魔女に引けを取らない「戦力」でもあるんですよね。魔法という未知すぎる力に惑わされ苦境に立たされますけれど、テレサリサが丁寧に魔法について講義してくれたお陰で、何もわからない意味不明の存在ではなく、ちゃんと戦う前から相手を考察する余地ができた。それは黒犬にとってゼロからとてつもないアドバンテージを得たも同然のことで、歴戦に魔術師を相手にしても一方的にやられてしまう可能性は大いに減じたのではないだろうか。
とはいえ、九使徒に連なるアメリアの魔術師たちは、謎多く対峙して相手の必殺を躱しながらその正体を見極めなければならないというハードルの高さなのですが。
突然、首が90度捻られる、とか完全に初見殺しじゃないですかー、怖いなんてもんじゃねえ。ホラー映画かよ。
そういうのを相手に出来るだけでも、化け物じみた戦力なんですよね、黒犬。
でも、戦闘力が高いこととロロという人間が強いことは、また別の話だったんですよね。真面目で責任感が強く、忠誠心も高く……それでもまだ十代の幼さが拭いきれない若者だったのだ、このロロという少年は。
そんな彼に、王の遺命が背負わされた。王が殺され使節団は全滅し、生き残った姫も目を覚まさず、それでもなお姫を守り、魔女を集めろ、という王の遺命に従い、アメリアの追手と戦いながら蹂躙された故郷を後に戦い続ける日々。
そんな素振り、一切見せていなかったけれど、見せていなかったことこそがロロがどれだけ張り詰めきり、限界に達していたかの証左だったのか。
我武者羅に必死に限界を踏み越えて頑張り続け……でもその重さに苦しさに辛さに、どこかで楽になりたいという願望が鈴を鳴らし続けていたのだ。
稀代の暗殺者、その後継であろうとも。この子は思いの外、普通の子だったのだ、きっと。

テレサリサにとっては、これはしごを外されたようなものなんだろうか。でも、ロロが本当はもう疲れ切り心折れて死にたがっていた事に気づいたテレサリサは、そのまま彼を死なせてあげたほうがいいんじゃないだろうか、と思ってしまうんですよね。そう考えてしまうところが、この魔女の優しさなんでしょうね。
それでも、彼女は雪の魔女ファンネルと共に彼の生命をつなぐことになる。それは、ロロがテレサリサの目的に必要な人間である、ということも理由なのだろうけれど。
それ以上の想いも、ロロに抱きつつあるのだろうか。ファンネルもそうだけれど、ロロへの「よすが」が感じられるんですよね。そこまで深く心交わらせるような関係はまだ無いはずなのだけれど、魔女となり人との交わりを絶たれていたテレサリサにとって、ファンネルにとって、ロロは魔女を恐れず怯えず人として接してくれた数少ない一人。それが使命ゆえであったとしても、ロロは常に誠実だった。そんな彼によすがを感じてしまう。心を幾ばくかでも寄せてしまう。それは、とても人間らしい情動なんじゃないだろうか。

魔女とはなんなのか。
同じ人と隔絶した存在として、アメリアの九使徒たちがいるけれど、あれらは本当に不気味で人として完全にハズレきってしまっているのがよくわかるんですよね。異常者たちであり異端であり、人の心を感じさせない、或いは人としての心を修復不可能なまでに歪めてしまっているかのような、異なる者ども。
それに比べて魔女たちは……その心根が人としてあまりに情深かったが故に魔女になった、そんな存在にも見えるんですよね。あまりにも人らしいからこそ人でなくなってしまった者たち。
その壮絶さは、美しさとなって容貌に映し出されている。表紙絵に描かれた一巻のテレサリサ、この二巻のファンネル。ともに、目に焼き付くような強烈な存在感であり、息を呑むような凄絶なまでの美しさだ。
そこに垣間見えるのは、一心不乱の生き様か。
こうして読み終えてみると、タイトルの魔女と猟犬というそれがすごくしっくり来る。確かに、この物語は魔女と猟犬が主人公の物語だ。彼と彼女らの切々とした在り方を書き記した物語だ。

個人的には、あの雪の国の姉と弟には、もう一歩踏み込んだ再会が欲しかった。別れも、再会も、弟はついに姉と向き合うことが出来ないままだったのだから。姉は、弱虫だからべつにいい、と言うのかもしれないけれど。この姉弟のお互いに対して抱いているだろう複雑な情念を、ぶつけることも交わすこともなく、通り過ぎていってしまったから。願わくば、もう一度何らかの形で再会と決着があれば、と思わずにいられない。

そして、まさかのカプチノ一人旅。しぶとい、このメイドしぶとい!


魔女と猟犬 ★★★★   



【魔女と猟犬】 カミツキレイニー/LAM   ガガガ文庫

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使命は、厄災の魔女たちを味方につけること

農園と鍛冶で栄える小国キャンパスフェロー。そこに暮らす人々は貧しくとも心豊かに暮らしていた。だが、その小国に侵略の戦火が迫りつつあった。闘争と魔法の王国アメリアは、女王アメリアの指揮のもと、多くの魔術師を独占し超常の力をもって領土を拡大し続けていたのだ。
このままではキャンパスフェローは滅びてしまう。そこで領主のバド・グレースは起死回生の奇策に出る。それは、大陸全土に散らばる凶悪な魔女たちを集め、王国アメリアに対抗するというものだった――。
時を同じくして、キャンパスフェローの隣国である騎士の国レーヴェにて“鏡の魔女”が拘束されたとの報せが入る。レーヴェの王を誘惑し、王妃の座に就こうとしていた魔女が婚礼の日にその正体を暴かれ、参列者たちを虐殺したのだという。
領主のバドは “鏡の魔女”の身柄を譲り受けるべく、従者たちを引き連れてレーヴェへと旅立つ。その一行の中に、ロロはいた。通称“黒犬”と呼ばれる彼は、ありとあらゆる殺しの技術を叩き込まれ、キャンパスフェローの暗殺者として育てられた少年だった……。
まだ誰も見たことのない、壮大かつ凶悪なダークファンタジーがその幕を開ける。

初っ端からハードモードすぎる!
いや、ハードモードを攻略するために魔女を集めようとしたら、結局ルナティックモードに入ってしまった、というべきか。
最初から実は詰んでいたのを、現実のものとして突きつけられたというべきか。
表紙の魔女は、明らかに見るからに見た目からして危険極まりない危険人物である。そもそも話が通じるかどうかも怪しい風貌をしている、正気とは思えない目をしている、まともな言葉を弄するのかも信じられない舌をしている。
こんなのを、味方につけるという時点で困難は予想されていた。実際、この魔女を集めて対アメリア王国の決戦戦力とする、という領主バドの案は臣下からも多くの反対を受けていたのをバドが押し切った形となる。
或いは、表紙の魔女はそのまま世間のイメージを具象化したものだったのかもしれない。人々にとって、噂される魔女とはまさにこのような見てくれの、狂気の、魔性の存在だったのだ。
しかし、バドだけはそうは見ていなかった。魔女を評判通りの邪悪で人心を持たぬイカレた魔物だとは思わなかった。
集めた直接魔女を見聞きして実際に目の当たりにした人の証言を聞き、その評判通りの残虐な行動の中に彼だけが違う真実を見出していた。
そういう人だったのだ、バド・グレースという人は。

隣国騎士の国レーヴェにて捕らわれたという鏡の魔女を、交渉で引き取るために領主バド自らとキャンパスフェローの重鎮たちと騎士団精鋭を引き連れて向かう使節団の中に、彼は居た。
通称【黒犬】。代々キャンパスフェローに仕える暗殺者の一族。その当代ロロ・デュベルである。
代々語り継がれる【黒犬】の威名は諸外国まで響き、国内でも畏怖される血まみれの血族。冷酷非情の殺し屋一族の結晶たる魔刃。そうした風評、評判を背に、彼は一族の長としてバドとその一族に仕えている。
彼が背負うのもまた評判だ。口さがない者たちが語るうわさ話であり、独り歩きしている詩である。バドが特にお気に入りとして傍に置き、遇しているのロロの真実はまた違う。バドが彼を好み可愛がっている理由こそ、彼が備える真実だ。
バドが持っていたのは、そういう評判に惑わされない人の真実を見極める目だったのだろう。善き部分を見逃さない目だったのだろう。
そういう人だったのだ。
だからこそ、彼は多くの人の支持を集め、尊敬を勝ち得、忠誠を捧げられていた。
思えば、レーヴェ王もまたそうだったのだろう。彼もまた、目の前の真実を見逃さない人だった。人を人のまま愛せる人だった。
こういう人たちだからこそ、逆に人の「悪意」や秘められた「邪」を見抜けなかったのかもしれない。

レーヴェへと赴いたバドたちは、そこで魔女とされる女性のよる結婚式での国王以下列席した国の重鎮たちの虐殺事件の決着と次期国王を巡る混乱に巻き込まれる。
そこで直面するのは、魔女を処刑せよという世論の要求に対して、事前の交渉どおりに魔女が引き渡されるか、という問題であり、虐殺事件に際して行方不明になっているレーヴェ王国の姫スノーホワイトの行方であり、魔女とされる虐殺事件の犯人、新たな王妃となるはずだったテリサリサは果たして本物の魔女なのか、という問題だった。
そして何より、虐殺事件の真相が話が進むにつれてどんどんと曖昧模糊となっていく。
物語は、サスペンス・ミステリーの様相を呈していく。
はたして、虐殺事件は本当に魔女の仕業だったのか。犯人は王妃なのか。これは、実はクーデターではなかったのか。
そもそも、本当の魔女は誰なのか。

バドの命で影に潜み、囚われている王妃テレサリサに接触し、またスノーホワイトの探索を行ってたロロは、徐々にこの国を覆う悪意へとたどり着いていく。
影に覆われた真実を、一つ一つ紐解いていく。
そうして、何もかもが最初から詰んでいたという最悪の真実に気づいたときには、すべてが手遅れであり、しかし最後の希望だけは辛うじてつま先に引っ掛けることが出来た。

魔女は居たのだ。

これ、本当に何もかもを取りこぼしていく、全部が無残に崩れ去っていくクライマックスの展開は辛かった。ロロは黒犬の名に相応しい辣腕だったけれど一線をまだ越えられない甘さを抱えた子であったし、何より作中屈指の凄腕である事は事実でも、何もかもを単騎で覆せるような無双の騎士、みたいな無敵キャラとは程遠く、そして何よりその時その場に居られなかった以上、彼の腕前は何の意味もなさなかったんですよね。いや、無意味ではなかった。ハートランド団長をはじめとしたキャンパスフェローの意地を、そのまま潰えさせずに希望を持ち帰ることが出来たのだから。
ハートランド隊長は、まさに騎士の鑑でござった。
一度は助けたカプチノを、一緒に連れていけなかったというだけでも、彼らがあまりにもギリギリだった事が伝わってくる。あの子、どうなるんだろう。

この作品に出てくる魔女のモチーフはどうやら童話に出てくる魔女たちらしい。この鏡の魔女はまさに「白雪姫」に出てくる真実の鏡を操る王妃様だ。もっとも、話の内容は白雪姫とは何の関係もない波乱の様相を呈するのだけれど。スノーホワイトと王妃様の関係も全然違ってきているし、獅子王と彼に見初められたメイドの愛の物語は、多くの人々に祝福されるはずのものだった。
童話とは異なる悲劇が、これからも繰り返されるのか。それとも、悲劇をねじ伏せる結集された魔女たちのワルプルギスがはじまるのか。
ともあれ、タイトルの【魔女と猟犬】。そして表紙絵から受けるタイトルへのダークな印象は、読み終えたあと見事に反転しているだろう。
これは魔女と猟犬という人ならざる化け物の物語ではない。託された希望を胸に、どうしようもない絶望と理不尽に敢然と抗う、真っ向から立ち向かう「人間たち」の物語だ。

カミツキレイニー・作品感想

それでも異能兵器はラブコメがしたい ★★★☆   

それでも異能兵器はラブコメがしたい (角川スニーカー文庫)

【それでも異能兵器はラブコメがしたい】 カミツキレイニー/切符 角川スニーカー文庫

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異能兵器”である彼女の願いは、ラブコメのような学園生活!?

俺・辰巳千樫は、クラスメートの市ヶ谷すずが好きだ。ラブコメに憧れる、引っ込み思案な不思議系女子。
そんなかわいい彼女との、待ちに待ったデート当日――この関係は始まった。
突然ビルは崩れ、降り注ぐ銃弾の中で、無傷のままの少女。
「……怖がらせてごめんね。私は、異能兵器だよ」
すずを狙ったテロに巻き込まれ死んだ俺は、復興庁終末局によって生き返り、“異能兵器(カノジョ)”が願う“ラブコメのような学園生活”を演出する《お友だち係》に任命され!?

たとえ何度死んでも、世界を敵に回しても――大好きなこの子とデートする。
新世代学園アクションラブコメ、開幕!!
ラティメリアタウンとか、なぜそんな名前つけたし!? そんなんトラブル見舞われるに決まってるからでし!
他にも縁切りに沖縄のユタが関わっていたりと、作者の他作品の要素がチラチラと散見されるんですよね。あくまでチラ見せで直接登場ではないのですけれど。世界観も別に繋がっているわけではなさそうですし。しかし、あそこまで強力な縁切りは十分異能の類だと思うんだけれどいったいどこから異能兵器扱いになるんだろう。
さて、最終兵器彼女である。改造じゃなく天然モノという違いはあるけれど。ってかそれ以前にカノジョじゃないんだけれど。
それを用いての戦争が起こっておらず、ある程度の抑止力として機能しているという意味では、戦略兵器として十分機能しているわけだが、そこまで絶対的な力があるのかな。
不意打ちだろうと奇襲は効いてますし殺そうと思うなら容易に殺せそうではある。とはいえ、前提として異能兵器の存在がそのまま国力や国際的な地位に繋がるという設定があるのでそこを問うても仕方無いのである。ってか、千樫くんに付与された再生力の方が実際ヤバイんじゃないですか、あれ? リミットが在るとはいえ、頭吹っ飛んでも瞬時に再生して意識も記憶も飛ばずに連続稼働出来るとか、どんだけ最強の不死身兵士なんですか。それ研究しろよ、研究。量産型異能兵器いけるじゃん。むしろ、他国はQを攫えよ、それか殺っちゃえ!
と、思わず殺意がほとばしるほどには、Qさん外道です。人でなしです。普通に人間のクズです。国のため、とかうそぶいているけれど、その手の信念を持っているようにも思えず、そもそも罪悪感の類を抱いている様子もなく、単なる免罪符として振りかざしているだけで絶対にあれ個人の性格だよね。
そしてそもそも、これラブコメじゃないですよね!
ラブコメがしたい! という希望は出されていらっしゃいますが、それが叶っているとは言えないですよね。ラブコメとは、ラブなコメディなんですよ。どこにコメディ要素がありますか? 主人公の頭がポンポンふっとばされるのはギャグじゃないはず。多分。

その体を張った、文字通り生命を費やしての懸命さは、異能兵器の少女たちの心を鷲掴みにする、という意味ではちゃんと女の子連中にモテてはいるけれど、コメディ分が圧倒的にたりない! ってか無い!
 むしろ、ひたすらに異能兵器として国同士のパワーゲームの渦中に放り込まれてなお、日常生活へ戻りたいと願いながら、しかし果たせず銃弾と殺意の飛び交う戦場と化した街の中で、互いに口に出すことも態度に見せることもせずに、想い合う少年と少女の悲痛なるピュアラブストーリー、というそっち方向への直球勝負じゃないですか。
ああ、そうか。もしかしたら、ラブコメは敢えて誰が誰に恋している、という事実を明示しなくても成り立つんじゃないだろうか。誰かへの恋心を秘密にしたままでも、心に秘めたままにしていても、男の子と女の子が居て一緒にドタバタ笑っていたら、そこからラブコメは発生してもおかしくない。
すずは、自分が本当は誰が好きなのかを明らかにしなくても始めることの出来るラブコメを、そして場合によっては決着がつかないままなあなあで終わることの出来るラブコメを、だからこそ望んだ、という向きもあるのかもしれない。本当の恋物語でもラブストーリーでもなく、ラブコメを。
でも、これだと。この終わり方だと悲恋になってしまうじゃないか。それで満足したら、悲しいラブコメなんていうありえないものになってしまうじゃないですか。
これを本当にラブコメにするのなら、したいのなら、千樫は腹を決めなければならない。まあ、この男、まったくもって最初から、決めるべき腹は決まりっぱなしなのだけれど。次巻に乞うご期待、てなもんだ。

カミツキレイニー作品感想

かりゆしブルー・ブルー 空と神様の八月 ★★★☆  

かりゆしブルー・ブルー 空と神様の八月 (角川スニーカー文庫)

【かりゆしブルー・ブルー 空と神様の八月】 カミツキレイニー/白狼 角川スニーカー文庫

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悪童〈ヤナワラバー〉が切り結ぶ、神様とのちょっと不思議な“縁”の話。

「人間の上でもなく、下でもなく。私たちのすぐそばにいるもの。それが沖縄の神々さ」
怪異を祓うため神々の住む島・白結木島を訪れた春秋の前に現れたのは、地元の少女、空。天真爛漫で島想い、どこまでもフリーダムな彼女に呆れる春秋だったが、空は神様との縁を切ることで怪異を祓う“花人”の後継者――春秋が島を訪れた理由そのものだった。未熟ながらも、島の人々とともに怪異解決に挑む少年少女の、沖縄青春ファンタジー!
先日ハヤカワ文庫JAから出た【黒豚姫の神隠し】に続く沖縄を舞台にした青い空と海のもとで繰り広げられる青春ストーリー。
ってか、黒豚の悪神ウヮーガナシーってそんなヤバい神様だったのか。こちらでも、伝承での黒豚神の危険度についてちらっと触れられているのだけれど、最高危険度じゃないですかヤダー。
それにしても、あちらの作品にしてもこのかりゆしブルー・ブルーにしても沖縄本島が舞台ではなくて、本島よりもさらに向こうにある架空の島、が舞台になっているというのは結構肝のようにも思える。けっこう、本島とそれ以外の島とでは雰囲気が違うという話も聞きますし、またこういう架空の島の存在がなんとなく許容できる、あっても何の不思議もなさそうな空気感が、あの南国にはあるんですよねえ。
まあ、例えば瀬戸内海なんかでも、同じように架空の島とか物語の舞台として出しても違和感ない海域だったりするのですが。
でも、沖縄の方だとなんというか、ニライカナイ的な要素があるだけに島の外から訪れた人にとっての、特別な時間、特別な思い出を生み出してくれる場所という印象が残るんでしょうな。
面白いことに、本作のヒロインであるところの青囲空という子。作者のカミツキレイニーさんが生み出したキャラクターではなく、元々挿絵担当の白狼さんが手がけていたオリジナルキャラクターなんだそうで。神との縁切りの巫女をやっているなど、本作出演するにあたって色々と設定は改めて小説用に書き直されているようだけれど、こうした形で他のところで活躍していたキャラクターを、小説のキャラクターとして役者みたく抜擢するというやり方は見たことがないだけに、なんとも面白い。
表紙絵を見ると驚かされるんですけれど、体操服着てるんですよね、この子。作中で普段着みたく着こなしているとしても、表紙絵でもわざわざヒロインに体操服着せて出す、というのは珍しいなあ、とも思ったのですけれど、空の由来を知るとなるほど青囲空というキャラクターにとっての体操服姿は一種のアイデンティティみたいなもので、ここでその服装というのが大事なところだったんだろうな、と納得した次第。
実際、見た目のインパクトというか、印象に残るという意味ではこの格好、なかなかのものがあったんじゃないでしょうか。
さて、中身であるところの物語はというと、ブルーブルーというタイトルや沖縄領域が舞台というイメージからスルところの爽やかさは、空をはじめとするこの島の住人たちの明るい雰囲気も相まって、裏切られることなく感じさせてくれるのだけれど、そのまま爽やかさっぱりとした気分で終わらせてくれないのがカミツキレイニー作品であります。そもそもからして、主人公が抱えている問題が非常に重い。問題だけじゃなく、この主人公の都会の政治家の息子のちょっと拗らせてしまってる少年の人間性が「重い!!」
そして、天真爛漫にして溌剌たる空だって、決して能天気なだけの娘さんじゃない。その明るい顔の裏には、中学生の女の子が背負うには重すぎるものを背負っている。彼女の語る言葉の、どこまでが本当でどこまでが嘘なのか。嘘と演技と本音が入り混じり錯綜して、彼女の想いの真実は決して見通すことが出来ない。そもそも、空自身がどこまでが本当かなんてわかっていないのだろう。だからこそ、わからないまま芯を一本自分の身体と心の中心に通しきっている。未熟でありながら、代用品でありながら、彼女がブレないのは空の抱える本当も嘘も、まるっとまとめて彼女の真実だからなのだろう。大した中学生女子である。
そして、主人公・春秋の口から語られる真実の愛の物語の、現実における顛末。熱い情熱も、恋心も、一度皮をむけば醜い人間の本性が剥き出しにしてしまう触媒となってしまうことを、春秋は凄絶な後悔とともに吐き出してくる。胸ときめくような、不器用な少年少女の甘酸っぱい青春の物語も、実際には無残なほどに淡々と崩壊する。
しかし、たとえ無残に壊れても、ボロクズのように破綻してしまっても、生ゴミのように腐ってしまっても、かつてあったキラキラとした夢のような物語は、無くしてしまっていいものでも、無かったことにしてしまっていいものでもないのだと、嘘と本当を区別せず内包する南国の島の少女は切々と語る。
だから、彼女が覚えていてくれる。それが、どれほどの救いなのかを実感できるのは、きっと春秋だけなのだろう。すべてを忘れてしまっても、きっとその実感だけは忘れないのだ。
神と人の縁は切られた。みっともないほど縋って掴んで離すまいとして恐ろしいことになってしまった恋の縁も、決断の果てに切られてしまった。それでも、何かもが切り離されて終わってしまうのではなく、空と春秋の縁が改めて結ばれたように、あたらしい縁は繋がっていく。縁切り巫女は孤独にならず、今日も元気に人の相棒と神の相棒とともに駆けずり回り、切れない縁を結んでいく。
終わってみればやっぱり、心爽やかになる南の国らしい青春物語でありました。

カミツキレイニー作品感想


七日の喰い神 4 ★★★★  

七日の喰い神 4 (ガガガ文庫)

【七日の喰い神 4】 カミツキレイニー/nauribon ガガガ文庫


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「何度言ったらわかるの? わたしは六花じゃない--!」
大事にしていたウミネコのサキちゃんに逃げられ、傷心のラティメリア。七日とのやりとりもすれ違う一方で、"六花のマガツカミ"を巡るプロジェクトは最終局面を迎えようとしていた。
祈祷士協会解散を目論むGHQと、「最後の切り札」を楯に祈祷士たちを利用し、自らの悲願を遂げようとする紙燭龍之介。
すべての六花のマガツカミを集め、紙燭龍之介が成し遂げようとしていたことは、過去に囚われたおぞましい計画だった--。
運命と策謀に導かれ、ついにラティメリアたち「六花のマガツカミ」は集結する。
マガツカミにその身をすべて喰われ、それでも六花が望んだこととは。そして、六花が最後に生んだマガツカミ、ラティメリアの想いは。そして七日は--。
「決めた。私は、人間を喰うわ」
七日とラティメリア--人間と喰い神。彼らの戦いは終わり、雪はすべての者に等しく降り続く。
シリーズここに完結!


貴女の名前はなんですか? 

そう、ラティメリアはラティメリア。それを、誰もが認めてあげることができなかった。七日ですら、結局ラティメリアに六花の姿を透かし見ていた。その呪縛から結局逃れることができなかった。
自分は六花じゃない、と叫びながら同時に友達だと思っていたウミネコのサキちゃんを無意識に食べようとしてしまったトラウマから、喰い神としての自分を認められなくなるラティメリア。
前回は喰い神が太るのか! と驚いたものだけれど、今回は喰い神が拒食症である。人食い云々以前に肉が食えなくなってしまうラティメリア。
七日では、その繊細な部分に寄り添えないどころか、余計に傷つける羽目になってしまった。二人の決裂は、仕方なかったのかもしれない。なし崩しではあったものの、ラティメリアが六花のくびきから逃れるには。自分の存在が自由に解き放たれていることを知るには、一度七日から離れることは必要なことだったのかもしれない。
六花はもうどこにもいない。存在していない。六花の残したマガツカミたちは、どれほど似ていようと、六花の要素を残していようと、彼女の願いを内包していようと、彼女とはもう別の全く異なる存在なのだと、それを受け入れることが出来るか、認められることが出来るか、求めることが出来るか、それが分水嶺だったように思う。当の、六花のマガツカミたちにとってすら、だ。
終わってみれば、六花の想いに引きずられたものたちは、軒並み潰えてしまったことを思えば、そして六花から自由になって、六花から解き放たれ六花を解き放った者たちが、生き残って先へと歩き出したのを思えば。
何もかもが、六花という一人の女性に纏わる物語だったのだなあ、と感慨深くなる。

彼女への想いにしがみつき、彼女の願いを知るための物語。

そう思えば、ラティメリアこそ常に六花という存在に抗って、彼女の願いを叶え続けた存在だったのだろう。それを周りの人たちが理解するために、いささか遠回りが過ぎたのかもしれない。
でも、その遠回りがラティメリア本人の願いを見出すための道程だったと思えば、そう悪いものでもなかったのだろう。だからこそ、そのラティメリアをずっと認めず、認めたら認めたらで満足して放ったらかしにしてしまった七日という男は、正しく人でなしである。まあ、実際に人でなしになってしまったのだけれど。
それでも、何もかもを失ってまっさらになったからこそ、彼もまた六花のくびきから逃れられたと考えることは出来るだろうか。
六花のすべては、死んだ彼女のマガツカミと紙燭龍之介が連れて行った。紙燭龍之介を、六花が連れて行ってくれた、というべきか。もう、彼女の思いは何も残っていない。残すべきものは、違うものに生まれ変わって受け取ってくれた人たちに託された。
ならば、ここからはラティメリアの物語だ。七日が名付けた世界にただ一人のラティメリアの物語だ。
ラストシーン、雪生と一緒に走り出した行く先に、ラティメリアの幸いがあらんことを。

シリーズ感想

黒豚姫の神隠し ★★★☆  

黒豚姫の神隠し (ハヤカワ文庫JA)

【黒豚姫の神隠し】 カミツキレイニー/Minoru ハヤカワ文庫JA

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沖縄本島の遥か南に位置する宇嘉見島には、人間を拐かす黒豚の悪神ウヮーガナシーの伝説がある。島育ちで映画好きの中学生ヨナは、古臭い慣習も閉鎖的な環境も大嫌い、いつか島から脱け出したいと願っていた。そんな彼のクラスに、東京から転校してきた波多野清子。『オズの魔法使い』をきっかけに接近する二人だが、清子は「私は黒い豚に呪われているの」と告白をする―。離島に棲まう神々と悪童たち、ひと夏の異界譚。
伝奇モノというよりもこれは児童文学寄りのお話だったなあ。子どもたちの冒険譚であるのだけれど……子どもたちのお話って、同時に親の話でもあるんですよね。子は親の鏡というけれど、親ってのはまだまだ子供にゃ計り知れない部分がある。それは悪い方にも良い方にも、ツマラナイ方にも想像を絶する方にも。それでも子供は親の計り知れない部分も含めて見えてるもの見えてないもの全部ひっくるめて把握しようとして、ちょっとずつそれを投影して大きくなっていく。
あくまでも子供たちのお話なんだけれど、ヨナの親にしても清子の母親にしても、なんかこう……凄かった。特に清子の母である。この人、いったいどれほどの苦悩と葛藤を抱えて生きてきたのか、それこそ想像を絶するものがあるんだけれど、それを踏まえての生き様にはもう敬服を抱くしか無いんですよね。清子の回想の断片から伺える彼女の行動だけでもすげえ母親だというのはわかるんだけれど、あとになってわかる彼女の抱えていた真実を思うと、そのすげえ生き方の中に内包していた「想い」の凄まじさには圧倒すらされてしまうんですよね。
その結実は、神をも仰け反らしてしまったのですから。
これをシンプルに「母の愛」なんて一言で片付けてしまうのはあまりにも不遜で、しかし果たしていかなる言葉で表現できようものか……。
いやあもう、なんかあのシーンに意識が全部乗っかってしまって、なんか諸々と吹っ飛んでしまってある意味清子の母ちゃんに全部持ってかれた感じなんですよね。
清子だって、彼女の抱えていた秘密の重さからして、尋常ならざる頑張りをこれまでずっと続けていたわけだし、ヨナは馬鹿丸出しで東京への憧れ方なんて足元ついてないふわふわっぷりで、こいつ考えなしだよなあ、という小僧だったんだけれど、だからこそなりふり構わず清子につきまとい、彼女が焦がれ続けていたものをまるっとあげられたことを思えば、子どもたちもまた大したもので、この子らの純粋で拙くも聡く、不器用な生き方は実に良きものだったんですけれど、神様たちや大人たちの狭い世界の中での身勝手さに負けない強い霊を感じさせるものだったんですけれど、そんな子どもたちだからこそ彼らに注がれただろう家族の愛情の確かさ、強さへの印象が焼き付けられるんですよねえ。

本作は、沖縄諸島の更に南の人口1000人くらいの島を舞台にしているので、これがもう沖縄方言を駆使した非常に沖縄色が強い雰囲気になってるんですけれど……、沖縄本島のそれとはまた全然違うんですよねえ、空気感が。本島と離れた島々とはまた違う文化や特色があるといいますけれど、なるほどなあ、と。
あと、主人公、名前ヨナって外国人風にカッコよく名乗ってるけど、本名米蔵なのな。よねぞうてw

カミツキレイニー作品感想

七日の喰い神 3 ★★★★  

七日の喰い神 3 (ガガガ文庫)

【七日の喰い神 3】 カミツキレイニー/nauribon ガガガ文庫

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人喰う神を乗せて、列車は走り続ける。
超高級蒸気機関車『カムパネルラ』に乗り込んだ七日とラティメリア。煌びやかな車内装飾に、豪華な食堂車、そして上流階級の乗客たち。そんな浮き世離れした世界とは異にする車両があった。祈祷士たちが強固に警備にあたる物々しい雰囲気……。この高級列車は、祈祷士協会によって捕らえられた“六花のマガツカミ”の一人である“掴み神”を秘密裏に移送するためにカモフラージュされたものだった。列車に潜入した七日の目的はただひとつ“掴み神”ヘリアンサスを斬ること。タイムリミットは目的地到着予定の深夜まで。そんななか、七日はかつて戦場でともに戦った元六花隊の一人と再会する。“妖刀使い”獅童巳月――彼は“掴み神”ヘリアンサスの移送を監督する看守長となっていた。一方、初めての列車旅行に浮かれるラティメリアもまた、ある人物と出会っていた――
「やあ、“喰い神”ラティメリア。君は本当に六花に似ているね」
マガツカミを殺す者と護る者、かつての戦友同士が繰り広げる熾烈な攻防戦! それぞれの思惑を乗せて列車は走り続ける。
デブメリア! って、喰い神なのに太るの!? 喰い神なのにダイエットするの!? 
第一話「肥やし神」での、美味しいラーメンに太らされてぽっちゃり体型になってしまったラティメリアの、このマスコット感たるや(笑
マガツカミとは人の強い想いから生まれいでるもの。その想いとは悪心や邪な念からだけではなく、純粋でひたむきな想いからも生まれるもので、その根源に善悪など関係ない。どれほど真摯な想いから生まれたもので、一度生まれてしまえば人を喰う。鬼怒川刑事がやりきれぬ思いで歯噛みするように、マガツカミという存在はそれほどに理不尽な、行き会うことが不運という災厄なのである。
でもだからこそ、そうなるとラティメリアのマガツカミとしての不可解な在り方が浮かび上がってくるんですよね。
喰い神なのに、人を食わないマガツカミ。

前回、友達になった雪生をついに食べられなかった、食欲という本能を拒絶したラティメリア。
六花の生み出したマガツカミの中でも、容姿も性格も最も六花に似ているというラティメリア。
暴走列車編、というアクションの王道ともいうべきシチュエーションの中で、かつて同じ六花隊だった面々である獅童巳月と紙燭龍之介の二人と再会する七日。過去の六花を知るかつての仲間、特に紙燭龍之介の方はあの過去の回想シーンからすると、六花と恋人関係にあったみたいなんですよね。元来のサイコパス的な気質を拗らせ、六花に似たラティメリアに執着を見せる龍之介。
でも、紙燭龍之介と七日が見る六花に瓜二つなラティメリアは、まったく違う姿なんですよね。六花のマガツカミ・喰い神としての在り方を肯定しようとする龍之介に対して、喰い神としての自分に逆らい続けるラティメリアに、かつてマガツカミの本能に抗い続けた六花の姿を映し見る七日。同じ六花を愛し、彼女の生き様を肯定しながら、決定的に道を違えている二人。
彼らの二人の決定的な違いは、喪われた人の形にこだわり続けるか、それとも違う姿違う存在になっても今生きているラティメリアを、そのままに見つめているかの違いなのか。
七日は、最近どこかラティメリアを六花の身代わりではなく、ラティメリア個人として見つつあるようなきがするんですよね。当初より随分と優しくなったラティメリアへの態度。ラティメリアの喰い神としての在り方を必死に拒絶する姿に向ける慈しみの眼差し。それはラティメリアに六花の映し身を透かし見ている一方で、彼女そのものをちゃんと直視できるようになった感じがあるんですよね。
まだ、その終着点として七日がどこを見ているのかはわからないのですが。

しかし、六花隊の祈祷師たちって伝説になるだけあって、ガチでバケモノ揃い。マガツカミとどっちがバケモノなんだ、と言わんばかりのキワモノばかりじゃないですか。精神異常者である紙燭龍之介はともかくとして、獅童巳月の方も完全に人間やめてますし。なるほど、雪生が六花隊の中で自分が弱いんじゃなくて、他が強すぎるんだ、と主張するのもわかるというもの。雪生自身、並の祈祷師とは比べ物にならないくらい超絶レベルの術師ですもんねえ。ヘリアンサス相手でも、他の祈祷師なら相対しただけで絶望感しかないのに、彼女が立つとなんとかしてくれるという安心感がありましたし。ってか、2巻から連続で彼女、出番あるとは思ってなかった。ラティメリアに七日のことを託した風に見せて、呼ばれたらひょいひょい着飾って来てしまうあたり、ちょろいなあ。そして、折角の一張羅をボロボロにされてしまうという不憫さ(笑
でも、馴れ合わずに状況によっては敵対しながらも、何だかんだと息があってるというか仲良さそうなんですよねえ、六花隊。相容れぬとしても、立場上剣を向け合わなければならないとしても、裏切られ騙されたとしても、相手を否定しなければならないとしても、どこか仲間の気安さだけは消えないこの人達の関係、なんだか好きですわー。

シリーズ感想

七日の喰い神 2 ★★★★  

七日の喰い神 2 (ガガガ文庫)

【七日の喰い神 2】 カミツキレイニー/nauribon ガガガ文庫

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明かされてゆく七日の凄絶なる過去

“六花のマガツカミ”の存在を報せる手紙を受け取った古川七日は、ラティメリアを連れて夏祭りで賑わうとある町を訪れる。手紙の差出人は、戦時中、ともに最前線で戦った女祈祷士の大坂雪生。七日との再会を喜ぶ雪生だったが、初めて見るラティメリアの容姿に驚愕する――「六花さんにそっくり……」。戦場において七日と雪生は、七日の姉・六花を中心に編成された祈祷士部隊に属していたのだった。。六花から生まれたマガツカミの脅威は七日もよく知っているはずなのに、なぜそれを側に置いておくのか? 雪生はラティメリアを斬るよう忠告するが、七日は取り合おうとしない。そんな折、祭りの最中に、古くから生き長らえる強大なマガツガミ・轢き神が現れる。轢き神の暴走を止めるため、その行く手に立ちふさがる七日だったが……。明らかになってゆく七日の過去と、その姉・六花の存在。そして、ラティメリアの誕生秘話。人間とマガツカミの異種コンビが魅せるダークファンタジー第2弾!
あかん、地獄や。ほんまモンの地獄や。六花をリーダーとする祈祷士部隊の最後の戦いは、人間性を全否定されるような地獄のような戦場でのものだった。史実の沖縄戦に相当する末期戦である。敵の戦力はあまりにも圧倒的。攻め寄せるそれは雲霞のごとく。味方の軍からは、軍からはすでに正気は消え失せ、倫理は崩壊し、形骸にしがみつき声高に叫ぶことで絶望から目を背けるしかない有様と成り果てている。敵を殺し、味方に狙われ、操るマガツカミは隙あらば人を喰おうと暴れまわる。周囲には狂気しかなく、それでも仲間と市民たちの命を守るために狂気の淵にしがみつき、素朴な善性を貫こうとした六花に襲いかかる、おぞましい人間の悪意。
六花の末路は、劇的なものでも美しいものでもなく、ただただ惨たらしく救いがなく、尊厳も何もかもを踏みにじられ、心を壊され廃人と化し、戦争犯罪人として遇された挙句に、まともな死体も残らず食い散らかされるというものでした。
その、一部始終を間近で見続けた七日。壊れていく姉を、守れなかった弟。なにも出来ず、姉の心がぼろぼろに崩れていくさまを指を咥えてみているしかなかった彼。彼には、六花しか居なかったのに。彼女だけが、七日にとっての全てだったのに。
六花の遺言が、七日を想って書いた言葉が、もう彼女自身の中からいっぱいになって溢れてしまったみたいな綴りが、切なくてねえ。
本当なら、此処で、姉が自分のマガツカミたちによって千切られ、食いつくされ、惨死した時点で七日という人間は、終わっていたのかもしれません。姉と同じように心を壊し、廃人となるか。それとも、姉の命を奪ったマガツカミたちを追って狩り殺すだけのバケモノと成り果てるか。
そうならなかったのは、彼が姉の死体なき血だまりの中で生まれた、唯一残された歯から生まれた喰い神を見つけてしまったから。生まれたての、何の穢れも帯びていない、姉ソックリの存在に触れてしまったから。
それを知ってしまえば、七日にとってのラティメリアがいったいどれほどの存在なのか、今更ながら染み入るように理解できるのです。あれほど邪険にしながら、憎んでいるようにすら見えるのに、決して離さず傍に置き続けるその複雑な想いの果てを。
七日にとって、ラティメリアは呪いのようなものなのでしょう。同時に、彼を人間のままで居させている唯一の錨なのか。それが救いなのかは、まだ定かではありません。でも、マガツカミとしての本能に逆らい、人の血肉を、友達となった人の命を、食べたくないと泣いた時、人喰いの運命に逆らって七日に助けを求めた時、可能性の光を見たのです。
純粋無垢な、罪なき幼子。無垢であるが故に正邪を解さず、きっとどこまでも残酷になれるであろうカミサマだったラティメリアは、でも他のどのマガツカミよりも六花の想いを受け継いでいた「娘」でもあったのではないでしょうか。彼女が信じた、人の善き部分を……悪意でも絶望でも怒りでも憎しみでもなく、彼女が笑顔で思い描いていたモノを、壊れ砕かれすり潰されで踏み躙られて最期に遺せなかったモノを、ラティメリアだけが引き継いでいた。七日が好きだった、姉の姿をもっとも純粋に顕現させたもの。遺してくれたもの。形見であり、娘であり、彼女自身であるもの。六花が成れなかった、六花の祈り、六花の願いそのものの映し身。
重たいなあ。でも、その重さがなければ、もう七日は生きていけないのだ。
いつか全部終わったあとも、彼がその重さを背負わなくても、生きていけますようにと願うばかり。もしそれが叶うなら、きっとその重さを取り払ってくれるのも、ラティメリアなのでしょう。
雪生は、誰よりもこの悲しい姉弟を間近で見続け、その悪夢を理解し、そして今、ラティメリアというカミサマの心に寄り添った彼女は、ラティメリアに託したみたいですし。七日の、未来を。

1巻感想

七日の喰い神4   

七日の喰い神 (ガガガ文庫)

【七日の喰い神】 カミツキレイニー/ nauribon ガガガ文庫

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夏の猛暑のさなか、行方不明となっていた少年が凍った死体となって発見された。警察は事件の異常性から“マガツガミ”によるものと判断した……。古来よりこの国には人間に害を為す禍々しい神々“マガツガミ”が存在する。そして、それらマガツガミを討伐する特殊な力を持った者たちを“祈祷士”と呼んだ。連携し独自に組織を作り上げた祈祷士たちは、マガツガミたちと長きにわたり戦いを続けてきた――。そして現代、天才的な資質を持ちながら祈祷士としての道を捨てた男・古川七日と、可愛らしくも残酷な“喰い神”の少女ラティメリア。人間とマガツガミという許されざる異種間のコンビは、法や常識に縛られることなく、彼らなりの理由と方法でもって禍々しい神々を葬っていく。

カミツキレイニー待望の新作は、「冷徹な最強の男」×「人を喰う神の少女」の異種バディもの! 共闘もするが、たまに殺し合いもする……そんなコンビが見せるダークファンタジー!
七日のラティメリアへの扱いは酷いものがあるんだけれど、その根っこには確かな愛情が……あるようには見えんなあ。でも、無関心でも道具扱いしているわけでもないんですよね。目線を合わせないように、焦点を合わせないようにしながらも、確固とした熱のこもった感情が、炙るようにしてラティメリアに向けられている。この複雑な思いの正体が何なのか、その理由は最終話でラティメリアの正体とともに明かされることになるわけだけれど、単純な情愛とは異なる当人にも把握しきれないほどに複雑に絡み合ってしまった愛憎を持て余し、というシチュエーションは大好物なのでこういうゴリゴリと精神を削るタイプの作品はやっぱり好きです。一方で、陰惨で鬱々とした主人公のそれとは対照的に、ラティメリアは天真爛漫で裏表が全然ない明るい性格で、酷い扱いをされながらも、全然引きずらないので作品の雰囲気を暗いながらも、息が詰まらないような空気にしてくれている。その意味では救いではあるんだけれど、彼女もマガツカミではあるので純粋ではあっても善良ではないんですよね。明るくても、倫理的だったり善人であったりするわけではない。当たり前のようにかまされる人間らしさの欠片もないバケモノとしての無邪気な言動に、ハッとさせられるのである。そんな時はどれほど冷酷でも、酷薄でも七日の方にこそ人間としての熱を感じるのだ。互い違いで定まらない異種間コンビ。でも、時折ふとした瞬間、価値観や存在の階梯、意識の相違を乗り越えて、まったく立ち位置が重なる時がある。ほんの偶然なのだろうけれど、優しさや情というものが同じ方向を向く時がある。だからこそ、七日はラティメリアという存在に憎しみだけじゃなく、在りし日の大切な人の面影を見てしまい、またそれとは関係ないラティメリアの不思議な柔らかさに目を細めることになってしまうのだろう。憎みきれず、しかし愛しめず、蔑ろにしながら大切にしてしまう。
答えの分からない、しかし確かにそこにあるものを抱え込みながら放浪する。彼と彼女に、たどり着くべきカナンの地が果たしてあるのだろうか。既に、どこにも辿りつけない今こそが着地点な気がしないでもないけれど、それは救いがないような気がするし、同時にこれが望むべき形のような気もするし。
この二人の場合、歩み寄ってしまえばこそ、救われない事になりそうで、なんとも言えない複雑さ。でも、ラティメリアは既にそのシンプルさを以って探すまでもなく在りようを定めている気もするけれど……でも、マガツカミとしては定まってはいても、その定まった地点から自覚なくウロウロと彷徨っている風なきらいもあるんですよねえ。
こればっかりは、一つ一つ話を積み重ねていかないと見えてこない霧中であるか。だからこそ、シリーズ続いてほしいな、これは。

カミツキレイニー作品感想

憂鬱なヴィランズ 5 5   



【憂鬱なヴィランズ 5】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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“絵本”を巡る悪役たちの物語――最終章

返却用のハンコをPOMに奪われ、“絵本”の返却はおろか、貸出期間を延長する術すらもなくした兼亮たちは、萩原きいろを確保し、彼女の『金の卵を産むガチョウ』の能力で新たな貸出カードを産ませようとしていた。そんな彼らの前にきいろ奪還のため、“絵本”をばらまいた張本人である“先生”が現れ、事態は急転、直接対決へ――。
だが、幻覚を使う『ハーメルンの笛吹き男』の能力は圧倒的だった。村瀬一郎は戦闘不能となり、貸出カードを破り捨てられた兼亮は、『赤ずきん』のオオカミに取り憑かれ、月夜チームは壊滅的状況に陥ってしまう。
そして、“イラストレーター”のエルモもまた、保護という名目のもとに月夜をPOMの研究所へ連れ戻すべく独自に動き始めていた……。

最悪な結末が描かれた“絵本”と、その悪役たちの物語、ついに最終章! 月夜と兼亮が行き着く結末は、ハッピーエンドか、それともバッドエンドか?
このシリーズは元々ジャケットデザイン素晴らしいのですが、この最終巻は文字通りの渾身の一作だったんじゃないでしょうか。もう見た瞬間、ゾクゾクっときました。これぞ、まさに美女と野獣、少女と狼。月夜を抱く狼の爪も去ることながら、兼亮の頬に添えられた月夜の手がもうたまらんかった。
本編もついにクライマックス。怒涛のようにこれまで謎、或いは未知だった事実が明らかになっていく。いやもうね、今回ばかりは本当に度肝を抜かれた。まさかまさか、ですよ。こればっかりは、これっぽっちも頭の隅にもなかっただけに、あの事実が明らかになった時には「マジで!?」と本気で驚かされた。なるほど、確かにこの巻で詳細が明かされた「エディター」というピースを当てはめると、まるで合致しなかった両者にラインが通ったんですよね。それにしても、これは鮮やかに死角を突かれた感があって、久々に「やられたっ!」と柏手を打つはめになりました。そうだよなあ、彼女は放置しておくにはあまりにも便利すぎる、万能すぎるファクターだったもんなあ。
しかし、今回の見所は何よりも「オオカミ」と化した兼亮と、千鳥姐さんでした。千鳥は、なんでこんなカッコいい女の子なんでしょう。いつだって、守りたい相手の為にズタボロになりながら報われないと知りながら、それでも胸張って仁王立ち出来るこの雄々しさは、悩んで迷って、涙を呑んで、痛みを堪えて、叫びを噛み締めながら振り絞ったものなのである。しかし、心からの選択なのだ。そいつの覚悟を、苦悩を、努力をそばで見続けてきたからこそ、そいつの顔を見た時にスルリと滑りだしてきたものなのである。
「良かったのか? 藤ノの目は誤魔化せん。あれは気丈にしておるが、人を傷つけることを恐れる優男じゃろう。噛まれた傷を見せて“側にいて”と甘えれば、いてくれたろうに」
「ふん。そんなの、あたしじゃないわ」
 千鳥は腰に手を当てて、胸を張った。
「あんたとの約束は“気持ちを素直に打ち明けること”でしょ。ちゃんと守ったわ。あたしはあいつに、大切な人を護れるような、格好いいやつになってほしいの。ちゃんと認めて、送り出せた。そんなあたしをあたしは――きっと、好きになれるんだわ」
こういう台詞を、スッキリなんの後腐れもなく言い放てるから、この人は、生駒千鳥はとびっきりにいいオンナなのである。何故か、女性の方にぞっこん好かれる傾向がある気もするのだけれど。
でもね、覚悟完了した兼亮は、そんな千鳥に格好いいと認められ、何の憂いもなく送り出されるに相応しいほど、かつてのヘタレを返上した、すっげえ男前っぷりだった。いやマジで一貫してカッコ良かったよ、このオオカミさんは。カードを破り捨てられオオカミに取り憑かれ乗っ取られ出したあとも、動揺することもブレることもなく耐え続けてましたし、それどころか取り憑かれた影響を逆手にとって反撃に出るほどの強かさも見せてくれましたし、クライマックスにおけるダークヒーローとしての姿ときたら、囚われの姫を救いに来た騎士ではなく、攫いに来た悪役さながらのワイルドさ、それでいてこれまで通りの兼亮のあの丁寧な喋り方とのギャップと相まって、そりゃ千鳥も、あの月夜ですらキュンキュン来てしまうわ。
前回の一郎さんと小雨のコンビといい、百六の無念にケジメつけようとした伊吹といい、このシリーズはほんと、どいつもこいつも、生き様がかっこ良すぎんよ!!
どれだけ惚れさせたら気が済むんだぃ。
そして何より、すねた月夜が可愛すぎる。笑った月夜が可愛すぎる。なんて素敵なハッピーエンド。
終わってみれば、最初から最後まで至福にたゆたえる最高のシリーズでした。デビュー作に、このシリーズと、作者さんの作品はどうやら自分にとって完全にツボに入ってます。こりゃあ、次回作も楽しみにしなくちゃしょうがないじゃないか。

シリーズ感想

憂鬱なヴィランズ 4   



【憂鬱なヴィランズ 4】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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“イラストレーター”急襲!村瀬一郎の反逆

夕陽ヶ丘恒例、獅子神神社の冬祭り。
その最中、月夜チームの面々によって行われた大捕り物。『不思議の国のアリス』の読み手である如月シェリーを捕獲し、村瀬一郎の自宅へと連行した月夜チームだったが、その時、事件は起きた――。
『天女の羽衣』の読み手である夏苅小雨による突然の襲撃。そこへさらに、新たな敵勢力となる絵本の作り手の一人“イラストレーター”のエルモ・ストーンヘブンとその部下の百伍が加わり、三つ巴の戦いに、事態は混乱を極める。やがて収束した時、月夜チームは、戦力の要である村瀬一郎が敵側に寝返るという危機的局面を迎えていることに気づく……。
謎の多い男・村瀬一郎と、彼がすべてをかけて捜し求めてきた『桃太郎』の絵本。その因果関係が明らかになる時、新たな悲劇を生む……。

最悪の結末が描かれた“絵本”ワーストエンド・シリーズを巡る物語、第四弾!


村瀬一郎が読み手となっている絵本『青髭』の悪役である「青髭」は、殺人鬼であり拷問を好む狂人である印象が強く、絵本『青髭』の拷問部屋を作る、という能力からも、他の絵本の悪役よりもより血生臭く陰惨で狂気を感じさせるもので、だからか村瀬一郎という人物そのものにも、どこか不気味な印象が付きまとっていた。彼自身、どこか冷徹というか倫理観を吹っ切っているような躊躇いのなさを感じさせる振る舞いが多かった事も印象を強くさせる理由だったのだろう。彼の言動を厳密に振り返ってみると、そこまで冷たいものではなかったはずなのだけれど、彼自身の他のメンツとどこか一線を引いた態度に目的の不鮮明さ、青髭の読み手というのも相まって、得体のしれない不気味さが付きまとっていたのだ。
村瀬一郎とは、何者なのか。
その答えが明らかにされたのが、この第四巻である。

『青髭』のモデルとなったかのジル・ド・レイという人物は、本来救国の英雄と言われたほどの「騎士」であった。その事実を、村瀬一郎の鮮烈な生き様を見て思い出した。
仄暗き清廉なる騎士。
あかん、こいつほんまもんのダークヒーローや!!

一瞬どころじゃなく、誰が主人公だったか忘れてしまうくらい、今回の一郎は主役を張っていたんじゃなかろうか。いや、本来の主人公である兼亮だって決してサボっていたわけじゃなく、月夜を守るための覚悟と力を十分見せつけ、振るってはいたのだけれど、今回ばかりは一郎があまりにも圧倒的すぎた。
いったい、どれほどの覚悟を持って彼は戦い続けてきたのだろう。まだ幼いと言ってすら良かった彼が辿った過去は、普通の家庭に普通の子どもとして生まれたものとしては、あまりにも残酷すぎる経験で、無邪気で…しかしこれ以上無く真摯で真剣だった騎士としての誓いに対しての、現実が示した答えがこれだったというのが、もう涙なしには見ていられない。優しくも明るい叔母に惹かれ、幼い騎士として大切な人を守ると誓った結果がこれなのか。
それでも、神に裏切られジャンヌ・ダルクを奪われ、心そのものを喪ったジル・ド・レイよりはマシだったのか。それとも、より残酷な悪夢が残されてしまったのか。いずれにしても、村瀬一郎は守るべきものを喪いながらも、なおも騎士で在り続けたのだ。彼女が遺してくれた、最後の宝物を守るために。最後のよすがを、助けるために。
しかし、彼の残された唯一それすらもが偽りのモノだったと知れた時、この時こそが彼にとってのターニングポイントだったのだろう。騎士か、青髭かの。
その意味では、「先生」の側の読み手であり、一郎たちと敵対する立場でありながら、なし崩しに一郎たちと行動を共にすることになった夏刈小雨の存在は、終わってみればとてつもなく大きかったのだと知れる。
彼女が花詠に示してみせた、全肯定こそが一郎と花詠の絶望を否定させた救いの縄となったんじゃなかろうか。うむむ、一体何がどうなって彼女がその立ち位置にハマりこんだのか、ほんとなし崩しとしか言いようのない流れでさっぱりわからないのだけれど、こればっかりは小雨姉さんがイイ女すぎるから、としか言えんよなあ。いやもう、まさか一郎とフラグ立てちゃうとか、びっくりだよ。花詠挟んで、若夫婦かっ! というような違和感のない佇まいにいつの間にかなってたし。男前度が高すぎるカップルになっちゃうじゃないか。

イラストレイターの介入により、「先生」を含めた三つ巴の争いになってきたワーストエンドシリーズをめぐる攻防。イラストレイターが所属する組織の底知れなさも去ることながら、先生は相変わらず悪意満載の不気味さで、正直どっちも敵対相手としてたちが悪すぎるんですよね。兼亮も、月夜を守るための覚悟を完了させ、一郎も一先ずではあるものの、囚われていた問題に対する答えを得て、今までよりも仲間として距離感を近づけることになり、身内としては結束しつつあるけれど、ぶっちゃけ「絵本」に対してどう対処すべきか見通しが真っ暗なんですよね。ただでさえ、絵本をレンタルし続けることに関しては、金の卵という抜け道があるにしろ厳しいものがあるし、そもそも花詠みたいな娘が出てきてしまったということは、全部無かったことにしてオシマイ、というわけには絶対いかなくなったわけで。
まさに、混迷深まるという感じで、ダークな方面に盛り上がってきました。むむむ、面白い、これはやっぱり面白いよ。作品の雰囲気そのものも、このほの暗さにキャラクターのコミカルさがうまくブレンドされて、なんかどっしりとした風格みたいなものも出てきたし。独特の世界観、と呼ぶにふさわしくなってきた。
ガガガ文庫の中でも要注目のシリーズであります。

シリーズ感想

憂鬱なヴィランズ 34   



【憂鬱なヴィランズ 3】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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明かされる月夜の過去と“絵本”誕生の秘密

「その絵本を作ったのが、帯刀月夜自身だとしても?」

月夜が『ワーストエンド・シリーズ』の作者!?
千鳥からもたらされた情報に困惑しながらも、兼亮は絵本の謎に迫ろうとしていた――。放課後の校舎内に突如響き渡る女生徒の悲鳴。文芸部部室にいた兼亮と千鳥が駆けつけると、女生徒の顔にはガラスを割ったような無数の亀裂が走っていた。すでに敵の攻撃は始まっている。正体不明の読み手から出題される“注文”をこなしながら、追撃を開始する兼亮たちだったが、時を同じくして、危険な“フック船長”の能力を持つ『ピーター・パン』の読み手までもが現れて……。学校内で暗躍する新たな読み手たちと、事件の黒幕“先生”の影。
そしてついに、兼亮たちはある人物から月夜の過去と、“絵本”誕生の秘密を聞かされることになる。
この物語の絵本の借主たちは、少なからずその絵本の悪役の生き様、行動原理に魅せられてしまったものたちで、しかしそれぞれが悪役の悪に飲み込まれることなく、その毒に抗いながら魅せられた悪役たちの姿に正の解釈を見出そうとしながら戦っている子たちなのだけれど、それは彼らがまだ成長途中の子供だからなのか。未来に可能性が残っている子供だからなのか。
少なくとも、【ピーター・パン】の読み手である印南は、絵本を借りる前からネバーランドに囚われながら可能性を否定し続ける大人でも子供でもない悪意の魔物、フック船長そのものだったと言える。世界は悲劇ばかりだと慨嘆して自らが悲劇そのものにでもなりたいかのように振る舞う壊れた子供。
悪役に打ち勝とうとする若者たちと比べて、この大人のなれの果ての醜悪さには顔をしかめてしまう。自分が大人だと誤解している残骸は、こんなにも無様なものなのか。事情がわからないのに咄嗟に日和を庇った先生や、警察官といったまっとうな大人たちが立派な人物だったからこそ、この男の醜さが余計に浮き彫りになる。
フック船長は、子供を憎んでいるのだろうか、子供に嫉妬しているのだろうか。あの悪意、あの剥き出しの敵意には怖気が走る。どうしてあそこまで幼い心を切り刻む事が出来るんだろう。幼い夜空にドクターがした仕打ちは、享楽性を感じない分余計に悪意として刺々しく恐ろしい。
振り返ってみれば見るほど、このドクターってフック船長そのものでした。【ピーター・パン】は、フック船長との戦いなどを通じて成長したウェンディが、大人になることを拒むことをやめるお話でしたけれど、この物語でウェンディ足りえる月夜も日和も、既にもう夢見る子供ではありませんでした。悲劇と惨劇を塗りたくられて、夢の国から強制的に追い出され、夢をみることができなくなった子たちでした。でも、彼女たちがもう大人になっていたのかというと、そんな事はなくてただただ無理矢理に子供で居られなくされただけだったんですよね。ならば、彼女らにとってこのフック船長との戦いはどんな意味を持っていたのか。
思ったんですよね。子供の頃の夢を取り戻す事もまた、大人になるという事の一つなんじゃないかと。悲劇をもたらした悪意を打ち破り、過去に奪われたものと向き合う覚悟を持った時、子供で居られなくなりながら大人になれずに居た彼女たちはひとつ階段を登りました。いや、自分が進んでいくだろう道を切り開いたのでした。喪ったものの残骸を取り戻したことで過去に戻るのではなく、先に進む意志を手に入れました。
一つ大人になりました。
「先生」と呼ばれる一連の出来事の真の黒幕は、自らを「笛吹き男(パイド・パイパー)」と名乗ります。子供を誘い何処かへ連れ去ってしまうという、ハーメルンの笛吹き男の笛の音。結局、子供であるかその軛から脱するか、その辺りがこの作品のキーワードなのでしょうか。

しかし、今回はまた大胆に大事件にしてきましたね。それも、堂々と表沙汰になるような大々的な。絵本「ワーストエンドシリーズ」の誕生秘話と月夜との関わりという物語の根幹にまつわる話が出てきた事から、ついに核心に迫ってきた感もありますけれど、まだまだ未登場の絵本も多い。フック船長はともかく、もう一つの読み手は完全に予想外でしたけれど。あれは、真相がバラされるまで絵本の正体もわからなかったもんなあ。まあ、読んだことが無かった、というのもありましたけれど、能力と読み手は普通ならまず連想として繋がりませんよ。絵本の元ネタがわかってないと。文字通り、あっと言わされました。
絶句させられたといえば、日和の兄ちゃんもそうだったなあ。彼については、真相が明らかになればなるほどその偉大さが浮き彫りになって来ます。彼こそが、一番強い人間だったと確信が深まるばかり。結局、最後の最後まで彼は負けていなかったのか……。彼の遺志を継ぐことはいろいろな意味で大変だ、兼亮も。

そして、相変わらず秀逸なのが、イラスト各種。毎回の表紙の印象的なのも去ることながら、今回のカラー口絵のあの揉み揉みシーンの絶妙な間と言ったら、笑った笑った。一枚絵であれだけ間を表現している絵もなかなかないですよ。千鳥さん、目がやばいですw 目次のSDキャラも酷いですし。一番何が酷いって、巻末の漫画ですけどね。あそこまで好き勝手私物化してやってるのも滅多ないよ!! もっとやれ!!

1巻 2巻感想

憂鬱なヴィランズ 24   



【憂鬱なヴィランズ 2】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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次々と現れる敵の読み手たち。激戦始まる。

所有した人間に悪役(ヴィランズ)の能力を貸し与える絵本“ワーストエンド・シリーズ”。
親友の失踪事件をきっかけに『赤ずきん』の読み手となった兼亮は、蒼い目の少女・月夜たちと共に町に散らばった絵本の回収にあたることに――。ある日のテスト中、クラスメイトの緘獅子きいろが卵を産む姿を目撃した兼亮は、彼女をワーストエンドの読み手と判断し追い詰める。しかしそれは仕組まれた罠だった。次々と現れる悪役の力を持った読み手たちの猛攻に、最大の戦力である一郎は負傷、月夜を敵にさらわれてしまう。最悪の事態に為す術のない兼亮と千鳥は、もう一人の仲間『かちかち山』の読み手と接触を試みるが……。
……か、かっけーーー!! 千鳥さん、かっけーー! やばい、ボロボロになりながら立ち上がり吼える姿に胸打たれた。感動してしまった。すげえ女だ、すげえ人だ。
ワーストエンド・シリーズという絵本は、その童話の悪役の在り様に惹かれてしまった人に悪役の能力を与える魔本。白雪姫の絵本の読み手である千鳥は、当然その白雪姫の悪役である王妃のあり方に惹かれてしまった少女である。幼い頃に刻まれた母親から受けた歪んだ愛情によって、大きな心の傷を負った彼女はある意味白雪姫その人でした。白雪姫たる弱い自分を憎み、孤高の強さを持つ王妃に憧れ、でも同時にその寂しさに苦しみ、かつて愛しい我が子の誕生をのぞみ喜んだ王妃のように、自分の家族を求めた彼女が得たのは小さなスノーホワイト。
彼女が多くの葛藤と悶えるような苦悩の末にトラウマを振り払い、嫉妬や憎悪を飲み下して本当の愛情を、孤独ではない強さを手に入れた時、そこに現れた光景は自らの身を挺して我が子白雪を守る王妃の姿。
千鳥が憧れた悪役の王妃ではなく、悪役となってしまった王妃こそが憧れるであろう母親の姿。
これ、童話の悪役の能力を得ると同時に、自分の中から悪役と同じ業を、悪意を、怪物を掘り起こしてしまうという宿命を負ったこの物語において、千鳥のたどり掴みとった勝利は、一つの理想なんですよね。物語の悪役が、その役を、自らの罪を乗り越えて、悪役でなくなる瞬間を、ズタボロになり自分の命を賭してまでスノーホワイトを、自分にとっての白雪姫を助けようとした王妃の、千鳥の在り様が見事に証明したのですから。
すごかった。圧巻だった。何より、目尻が熱くなるような感動でした。
たまんない、やっぱりこの作者すごいわー。ほんと、ダイレクトに感情に訴えてくる豪速球を放り投げてくる。それなのに、球筋が恐ろしく繊細なんですよ。力任せじゃなく、人間の内面を織物でも編むような丁寧な手際で見せてくれる。剛柔が凄まじく合一した手練手管なんですよね。
なるほど、思春期の若者たちの脆くも強靭な、冷めていながら泣きたくなるほど熱くて仕方のない心の在り様を描き出すにこれほど相応しい筆もないでしょう。
前回は状況も状況だけにかなりシリアス度が高くふざけたシーンは少なかったのだけれど、今回はまだ事件が発覚する前の落ち着いた日常状態からはじまったせいか、意外とコミカルで惚けたシーンも多かったのですが、これがまた妙にノリがよくて面白かった。いかん、手筋が本当に多い。どっからでも攻撃が飛んでくるオールレンジだな。
バトルの方も、実のところここで出てくる悪役の能力というのは殆どが攻撃向きではないんですよね。結果として、或いは発想の転換として相手に害を与えられる、というだけで実際は攻撃力なんて無いに等しいものばかり。なので、必然的に衝突の勝敗はどれだけ自分の能力、カードを伏せられるか。そして相手の予期していない手を打てるか。自分の能力に対してどれだけ自由な発想を生み出せるか、になってくるのです。そのおかげで、敵味方ともに能力の概要が明らかになっても、いったいどんな手で来るのかがまるで読めずに、びっくり箱の応酬みたいになっていて、見応えたっぷりだった。それぞれの能力が基本原則さえ守っていれば、かなり自由度が高いというのもあるんだろうけれど。青髭の能力なんか、普通に使ってたら大して何の役にも立たないものですしね。
しかし、数々の悪役の能力の中でも他の追随を許さない奇妙さを誇っているのが、やはり金の卵を生むガチョウでしょう……あれ、どこから生んでるんだ!? ってか、パンツ履いてないんですか!?
冒頭のカラー口絵の漫画から、正直あっけにとられてしまいましたがなw
あと、真性のロリコンにロリを献上するなんて、本気で危ないんですけど。それでいいのか千鳥さん!!
いやあ、二巻目に入ってどうなるかと想いましたけれど、想像以上に面白く手応えを感じさせてくれる内容でした。面白かった。ホントに面白かった。主人公含めて敵も味方も食わせ者、くせ者、変人、危険人物ばかり。そりゃ、悪役に惹かれてしまうような人ばかりなのだから当然なのですが、それでもその歪みや危なっかしさが魅力的で恐ろしくて、ココロ惹き寄せられてしまいます。
オススメ。

1巻感想

憂鬱なヴィランズ 4   



【憂鬱なヴィランズ】 カミツキレイニー/キムラダイスケ ガガガ文庫

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この物語を読んだ者は悪に染まる。 「それは憂鬱な結末が描かれた、決して読んではいけない残酷な絵本なんだよ」『赤ずきん』の嘘つきオオカミ、『白雪姫』のいじわる王妃、『青髭』の殺人男爵、彼ら悪役たちは“絵本”を所有した人間に取り憑き、その醜い欲望を剥きだしにする――。消えた親友、女子中学生の連続失踪と、高校生・笠木兼亮の周囲で相次ぐ異変。そして、登校中に発生したバスジャックの最中、彼は“絵本”を回収しているという蒼い目の少女・帯刀月夜と出会う……。悪役に借り受けた異能力を使い罪を犯す者と、それを阻止する者たちとの壮絶な戦いの幕が上がる。
やっばい、やばいわー、この人やっぱり何かぶっ飛んでるよ。デビュー作【こうして彼は屋上を燃やすことにした】で目の当たりにした戦慄はフロックでもなんでもなかったと確信させられた。カミツキレイニーという作家は、思わずバッターが何も出来ずに見送ってしまうほどの素晴らしいコース、外角低めのストライクゾーンぎりぎりに、ストレートを唸りを上げて放りこむピッチャーなのだ。
題材こそ、童話のダークサイドをそのまま人間のダークサイドに当てはめ、人間の持つ根源の悪と向き合わせるホラー仕立ての異能モノ、という感じであり、よく見る…とまでは言わないものの、決して珍しいとまでは言わないタイプなんだけれど……もうね、微妙な心理の機微の描き方が鬼気迫ってる。鬼気迫ってるのに、前のめりにならず描いてる作者まで迫真に酔っ払ってしまわず素面で冷徹に徹してるんですよね。登場人物に作者がハマらずに、恐ろしく突き放している部分が見受けられる。それでいて、それでいて、そこで描かれる人間心理には触れたらドロリとどこまでも沈んでいきそうなほどぬめりが帯びてるんですよ。人が人を思う気持ちって、ここまで濃厚にねっとりとなれるものなのかと思うくらいに。でも、それこそが美しい。見ていて、綺麗だと思ってしまう。
作中でひたすらに想像され語られるのは兄の気持ちや覚悟の方なんですけれど、むしろ壮絶なのは妹の方。わずかにかいま見えた真実や、幾つかの仕草や行為からしか、彼女の内面は慮ることは出来ないのだけれど、だからこそ凄まじい密度の情念が、端々から迸っているのである。それに気づいた時、クライマックスシーンからはもう立ちすくむしかなかった。

主人公の笠木兼亮も、ヒロインであろう帯刀月夜も、登場人物のほとんどが一筋縄ではいかないやるべき事を見定めているキャラクターなだけに、単純に流されていく部分がまるでないので、歯ごたえがあるどころじゃない。戦々恐々ですよ、これは。寒気がする、ワクワクするゾクゾクする、何か見てはいけない深みを覗いているような、怖さと喜びがある。
そして、登場人物の皆がそっと差し出してくれる哀しいほどの優しさに、泣きたくなる。
人が見せる一生懸命の優しさって、優しさがその人を必死にさせる理由であるのって、なんでこんなに泣けてくるんでしょうね。

うわーー、やっぱり私、この人、カミツキレイニーという人の作品、めちゃくちゃ好きですわ。好きというか、ハマる。底なし沼みたいに、ハマる。
絶品でした。期待に違わぬ絶品でした。この鋭利さを失わずに、願わくばどんどんと、新たな作品を世に送り出して欲しいです。

カミツキレイニー作品感想

こうして彼は屋上を燃やすことにした 5   



【こうして彼は屋上を燃やすことにした】 カミツキレイニー/文倉十 ガガガ文庫

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彼氏にフラれた私・三浦加奈は、死のうと決意して屋上へ向かう。けれどそこで「カカシ」と名乗る不思議な少女、毒舌の「ブリキ」、ニコニコ顔の「ライオン」と出会う。ライオンは言う。「どうせ死ぬなら、復讐してからにしませんか?」そうして私は「ドロシー」になった。西の悪い魔女を殺すことと引き替えに、願いを叶える『オズの魔法使い』のキャラクターに。広い空の下、屋上にしか居場所のない私たちは、自分に欠けているものを手に入れる。「鳥肌モノ」と麻枝准が賞賛した、心に残る青春ジュブナイル。

わはーーー。これはやられた。好みにどストライク。Marvelous!!
真っ向勝負の青春ド直球なお話なのだが、勢い任せのど真ん中じゃあないんですよね。言うなれば外角低めのストライクゾーンぎりぎりに唸りを上げて放りこまれたストレート。タマの切れ味と制球力が合わさった見事な一球というべきか。
青春モノらしく、此処に出てくる若者たちは皆、心に傷を負っている。自分を粉々にして死んでしまいたいと思い詰めるくらいの痛みに打ち震えている。彼らの心は繊細で、ガラスのように脆い。支えを無くし、立ち上がることすらもう出来ず、だから彼らは復讐で痛みを紛らわし、呪いを拠り所にして自らの弱さを耐えしのび、「その日」が来るのを指折り、屋上という思い出になってしまった場所で待ち続けていた。
心のないブリキ。知恵のないカカシ、勇気のないライオン。
自らの欠損をオズの魔法使いになぞらえた三人は、ドロシーのいないブリキとカカシとライオンのはずだった。彼らのドロシーはもういなくなってしまっていて、彼らは永遠に欠けたものを埋められない三人だったはずなのだ。
そんな終わりを待つばかりだった三人の前に現れた「三浦加奈」を、なぜ彼らはドロシーと呼んだのだろう。
予感があったのだろうか。それとも、心の何処かで期待をいだいていたのだろうか。ただ、道連れが欲しかったのだろうか。彼らがいだいていた死への渇望は、決して若者特有の流行病のような空気にあてられたものではなく、自身の愚かさと無力さに端を発した悲劇に基づく絶望であり、自分自身への憎しみだ。はたして、彼らがフラフラと現れた見知らぬ自殺志願者に、何かを期待したとも思えない。死を望む理由に上下の格を付帯するような子らでもないし、実際カカシはドロシーの悲嘆に親身になって共感してくれる。それでも、彼らがドロシーに何か特別なものを感じたとは思えない。
だが、三浦加奈は、しかし正しく「ドロシー」だった。

私がこのお話を特に好みに思えたのは、ドロシーを初めとしたこの子たちの感情が、演出過剰とは程遠い凄く率直で謙虚なものだったからなんですよね。この手の青春モノって、どこか作者自身が酔っ払って登場人物の内面にどっぷり溺れてしまっているパターンが結構合って、そういうのはどうもうんざりしてしまうのですが、これはその辺微妙に抑制がきいてる感じなんですよね。冷静とまでは行かないまでも、ちゃんとラインは保っている、ような。
彼らは一生懸命で必死なんだけど、その必死さがとても素朴で分かりやすい。ブリキたちの痛みもよくわかるし、そんな彼らの痛みを目の当たりにして泣きそうになりながら、それでも走りまわるのをやめられないドロシーの矢も盾もたまらないといった気持ちも凄く率直に伝わってくる。えらく上から大上段に切って捨てることもなく、ドロシーからライオンたちに投げかけられる視線も、ライオンたちから帰って来る目線も、何より読んでいるこちらとの目線も決して上下に差が出ることなく目が合うのです。情緒に訴える話でありながら、根本的なところでロジカルであり、ライオン、カカシ、ブリキの関係性とかかえる痛みが一気に連鎖し一綴になっていく、実は整いまくった構成力もまた、感性だけに任せた暴走気味のものとは程遠い作品で、理性と感情のバランスがもう絶妙なんだわ。胸にダイレクトに突き刺さってくると同時に、所々で「これは巧い!」と唸らされるのだからたまらない。特にラストのドロップキックのシーンなんか、状況自体は感情に任せまくったハチャメチャなシーンなのだけれど、物語全体で見るならば、回り回って皆の後押しを受けてドロシーが最後に綺麗に片をつける、気持ち的にも物語の構成的にも、スカっと清々しいこれ以上ない見事な締めだったんですよね。
一人ひとりでは耐えられない痛みでも、誰かと分かち合うことが出来れば、きっと乗り越えられる。痛みを抱えているもの同士だからこそ、分かり合える。きっと居場所は見つけられる。
死にたくなるほど、自分を殺したくなるほど生きることに一生懸命な人たちの姿は、何故か無性に愛しい。そんな彼らが、心から笑い合える日が来たことが、この上なく嬉しい。
文倉さんのイラスト。最後の挿絵は、もう最高でした。
新人作品ということで、まだ乱暴極まりない部分も結構あるんだけれど、それを補って余りあるほど美味しい作品でした。御馳走様。次の絶品も期待しております。
 
11月26日

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