【となりの彼女と夜ふかしごはん ~腹ペコJDとお疲れサラリーマンの半同棲生活~】  猿渡 かざみ/クロがねや 電撃文庫

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となりの彼女が「おかえりなさい」と「いただきます」を言ってくれる生活。

大手スーパーの文具部門で新任マネージャーとなった俺・筆塚ヒロトは、仕事漬けの毎日にすっかり憔悴しきっていた。そんな俺の唯一の楽しみは、深夜帰宅後につまみを作って酒を飲むことだけだった、んだけど……いつの間にか、隣に住む腹ペコ女子・朝日さんと賑やかな半同棲生活をすることになってました。

「し、深夜に揚げ物は犯罪なんですよ!」
「今夜こそ誘惑に負けませんからね…!」
「こんなに美味しいなんて優勝ですぅ…」

優勝――それは大切な人と美味い料理で食卓を囲う瞬間のことを言う、らしい。
腹ペコ女子があなたの暮らしを彩る深夜の食卓ラブコメ、召し上がれ!

いやこれ、腹ペコJDと深夜ご飯食べるのがメインじゃなくて、職場の総合スーパーで働く模様を描く方がメインのお仕事モノじゃないですか。
てっきり、仕事で疲れ切って帰ってきたところを、JDとイチャイチャしながらご飯食べて癒やされる日常ものというスタイルかとタイトルや粗筋から想像していたのですが、思っていたよりもかなりガッツリお仕事モノでした。
突然前の部署から慣れない文具部門のマネージャーをやらされて、売上も現場管理も部下との関係も何事も上手くいかず疲弊しきった主人公ヒロト。そんな彼が疲れ切って自宅のマンションに帰ってきた時、隣室のJDが居酒屋で鍵をなくして困っていて、縁あって彼女を部屋に入れて深夜ご飯を振る舞うことに。
そこで実に美味しそうにご飯を食べ、缶ビールを飲む朝日さんと愚痴を言い合うなかで、ヒロトは朝日さんに職場での部下への姿勢にお叱りを受けてしまうのです。
不本意だった部署の移動に余裕を失った事と不満から内向きになったことで、部下とちゃんと向き合わず現場を把握せずいい加減な仕事をしていた事に気付かされたヒロトは、心入れ替え今の部署のマネージャーとしてやるべき事をやり、部下ともちゃんとコミュニケーションを取って、おかしくなっていた現場を立て直し始める。
まあ言ってしまえばこういうことか。だいたい誰が悪いかというと、文具部門がおかしくなったのはヒロト自身の問題だし、彼のモチベーション管理を全くせずに放り出した人事部門の問題だし、しわ寄せは全部現場に来ていました、というのは仕事あるあるだよなあ。
実際、ヒロトはほぼ現場の人間の信頼を失っていたので、いきなりあんな新しい事をはじめようとしても、知らん顔されても不思議なかっただろうに、よくまあ助けてもらえたものである。パートの人たち、聖人だろう、これ。
まあ破綻状態にあった現場の環境が改善される、となったら協力するのもやぶさかじゃないのかもしれないですけど、いきなり一人でやろうとされてもねえ、というところもあるし。今まで現場出てこなかったのに、いきなり顔出すようになって特に話通さず相談もなく勝手にあれこれ動かされだしたら、相手が偉い人でもなんやねん、と思っちゃうんじゃないでしょうか。
去年の売上の百%超えも、前年がよっぽど低かったんじゃない?と意地悪なことを考えてしまう。
正直、心改めたからってそれからの彼のやり方はうまいもんじゃなかったと思います。本当にパートの皆様のお陰サマサマじゃないでしょうか。

さてJDの朝日さんとのお話の方ですけれど、女子大生っつっても高校卒業したばかりで右も左もわからない上京したての初々しい女の子、というわけじゃなく。そんな娘を餌付けしてご飯食べさせて癒やされる話、というふうではなく、朝日さんもう二十歳になってるんですねえ。なったばかり見たいではあるんだけれど、酒が飲める年齢である。
というわけで、夜食作って一緒にご飯食べて一緒にパカパカとビールの缶開けながらゲームしたり愚痴言い合ったりと二人して管を巻く、これ普通に宅飲みじゃないですか?
合コンの居酒屋で鍵なくして、部屋に入れなくて困っていた朝日さん。なんかぐだぐだな理由でヒロトの部屋に入り浸り、というほど図々しくはなく、むしろ申し訳無さそうに家事手伝ったり、と決して居心地良さそうにしているわけではなかったので、あんまり半同棲とかそういう雰囲気ではなかったですね。後半、住居侵入トラブルがあったあとは別の人の部屋に避難してしまったから、結局ヒロトの部屋にいたのは3日程度でしたし。
ただ、変に半同棲なんて言わず、夜中に宅飲みしてぐだぐだになって、ついつい二人して寝落ちして朝になってた、という実際の状況の方がよくある話である分生々しくて二人の間の雰囲気としては良かったんじゃないでしょうか。意図せず同じ部屋で寝ちまった、というのが何度か続いた方が意識してしまう所も大きいでしょうし。
それに、朝日さん、なんか最初こそ頼りなかったものの、よりどころ無くフラフラしてる女子大生じゃなくて、学生ながらしっかりと稼ぎを持ち、それ以上に自分の生き方をしっかりと見定めている大人の女性だったんですよね。むしろ、今現在迷走して鬱屈を溜め込んでしまっていたヒロトよりも、ここぞというとき大人びていたかもしれない。だからこそ、ヒロトは彼女の芯ある言葉に影響を受け、自分を見つめ直すことになったのですから。
とはいえ、彼女の方も自分の生き方を定めていたとはいえ、周りからそれを叩かれ否定されることも少なくなく、彼女の方もまたヒロトに負けず劣らず精神的に疲弊していた部分は少なくなかったのでしょう。
彼が困り果てていた自分を助けてくれたこと、そりゃもう美味しい夜食を振る舞ってくれて、お酒かぱかぱ煽る余裕をくれたこと、色々と吐き出させてくれたことは、間違いなく救いであり、張り詰めていたものへの癒やしだったのでしょう。他でもない彼に、自分の書いた2冊の本についての講評を求めたのは、彼が抱えていた仕事の苦しみの中に自分が耐えているものと共通したものを見出したから、だからこそこの人の意見を聞きたかった、というのもあるのでしょうけれど。
優しくしてくれた彼にこそ、自分の選択を認めてほしかった、という風に見えたのはラブコメフィルターの働きですかね。

あと、最後のは間違いなく犯罪なので、ちゃんと警察に通報しましょう。勝手に取引のネタにするの、余計に拗れると思うし、朝日さんの身の危険に直接関わるだけに、拙いんじゃないかなあ。