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ケモノガリ

ケモノガリ 8 4   

ケモノガリ 8 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 8】 東出祐一郎/品川宏樹 ガガガ文庫

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それでは、旅の終焉を始めよう。

才能は必ずしも発揮しなければいけないわけではない。

爆弾を作る天賦の才があったとしても。爆弾を作れば誰かが傷つくだろう。
人を殺す才能があったとしても。人を殺していいわけでもないはずだ。
なのに、僕は人殺しを選んだ。その時点で、誰が何と言おうと許されない。
罪は背負うと決めていた。その先に何が待っているかも理解していた。
それでも。ケモノを狩るためにケモノガリと成り果てた。
悪を狩るために、悪を許容することを選んだのだ。
正義ではない。正義を掲げるほどに、己の手が綺麗なはずはない。
だが全くもって躊躇いはない。あるのは幾許かの恐怖と高揚感。
様々な苦難を乗り越え、結末が、やっと見えてきた。
決着をつけよう、同じ才を持ちながら異なる道を選んだ者よ。
赤神楼樹は、最後の戦いに挑む。

アスライアとの最終決戦を控えた楼樹は家族の記憶を、友人の記憶を忘れ、人間らしさを捨てていく。そうやって殺すことだけに特化した存在になりながら、楼樹は決死の戦いへと歩を進める――。

殺人の才能をもつ少年の物語、ここに終幕! 興奮必死の終焉を見よ!!
これ、帯の鋼屋ジン氏のアオリ文が素晴らしいですね。
旅とは行きて帰りし物語である。そう。生きて還るのだ。

個人的にはさ、悲劇や虚しく寂寥とした結末を予定調和として整えている物語にこそ、ハッピーエンドを期待したいんですよね。絶望からの大逆転には燃えたぎるような力強い興奮を与えられるけれど、悲しみや嘆きからの大逆転には、救われたような気持ちにさせれるんですよ。痛みの向こうに見出す美しさも良いけれど、私は痛みを癒してくれる優しい物語がやっぱり好きなんだと思います。
その意味では、この物語はこれだけ殺し殺して殺し尽くすお話にも関わらず、とてもやさしい話だったように思います。例えばイヌガミとその妹にしても、アストライアにしても、終わることで癒やされた悲しい者たちですけれど、それも彼らと共に戦い、或いは刃を交えた相手であるロキが救われたからこそ、彼らの終わりにも報いがあったと思えるのです。たとえ、ロキに彼らとの記憶が残されていないとしても、彼の存在自身が、生存し、ケモノとしてではなく人としてこの後も生きていく事が、その証明となっていく。あやなという観測者が、その証人となってくれる。ちゃんと、遺して先へと持って行ってくれる。それだけで、十分に優しさが込められた物語だったんじゃないでしょうか。

正直、「悲哀」の噛ませっぷりが理想的すぎたので、残るクラブの「虚無」とアストライアとの決着が果たしてどこまで物語としてもエンターテイメントとしても意味のあるものになるのか不安だったのですが、「虚無」というクラブそのものの業との対決とその決着は、思いの外濁すことなく徹底してその狂った理念を踏みにじるものになってくれてスッキリしましたし、それ以上にアストライアのキャラクターがこの最後の局面にてここまで引き立つとは思っていなかったので、望外に感慨深い結末になりました。
特にアストライアは、その名前の本当の意味といい、想像以上にロキと相似にして対照的なキャラクターだったんだなあ、と。彼が、あやなに対してあれほど不可解な態度をとっていたのも、なるほどと納得させられたわけです。同情や共感を呼ぶようなキャラではなかったですけれど、最後の最後でアストライアの事はなんだか無性に好きになってしまったなあ……。
そして、ここに来て本当の意味で重要な要となってきたあやな。本来なら、最初の段階から外側に排出される立場だった彼女が、最後まで食らいついてきた挙句に核心部分そのものに成り果ててみせたのは、いっそ感嘆すら覚える力強さでした。彼女が一切揺るがなかったことが、物語そのものも最後まで一本芯を通して揺るがなかった要因じゃないかと思うのです。まさにキープレイヤーでした。

それにしても、メイン格がこれだけ大暴れしている一方で、CIAの連中もちゃんとみんな目立っている事に歓喜w
最強のCIA工作員たちが、お約束通り全滅してしまうのではなく、ちゃんとしぶとく生き残ってみせてくれるあたり、最高じゃないですか。それだけじゃなく、老兵たちにグレタにもちゃんと見せ場があり、決着があった事も……。

シャーリーについては、知らなかったんですけれど、なんか他の作品と繋がりあるらしいですね。
東出さんがシナリオライターやった【エヴォリミット】というゲーム。
というわけで、俄然そちらにも興味が湧いてきました。エロゲーのたぐいはずいぶんと長くやってなかったんだけれど(時間の問題で)、ちょいと調べてみたら、メインの雫がかなりストライクなんですよね。合間にポツポツやってみるかなあ。

というわけで、始まった当初からは多分想像だにしなかった、帰らぬはずの旅路の果て。よくまあ、たどり着いてみせた、いや帰り着いてくれたと感謝すら抱いた優しいエンディングでした。生き残った人も死んだ人も殺された人も、総じてお疲れ様でした。。

シリーズ感想

ケモノガリ 74   

ケモノガリ 7 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 7】 東出祐一郎/品川宏樹 ガガガ文庫

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――旅は終わり、終わりが始まる。

――終わりにしよう、と誰かが言った。
――まだまだ終わらぬ、と誰かが言った。
――終わらせる、と誰かが言った。
――続けさせる、と誰かが言った。
――殺してやる、と誰かが言った。
――殺されない、と誰かが応じた。
――戦おう、と誰かが言った。
――戦う訳がない、と誰かが言った。
――何故戦わぬ、と誰かが問うた。
――僕は答えた。
――お前などと戦うものか。お前は殺される側なのだ。

かくして、終わりが始まった。


天才ハッカー・シャテアの解析によりクラブの本拠地である島を発見する。その島は対空ミサイルを備えるなど厳重な武装警備状態で準備を要した。
上陸の前夜、楼樹たちは思い思いに過ごす。
一匹は姉との因縁を、一人は計画を円滑にするための作戦を、一人は思い出を忘れ人間らしさを消していく――そうしなくては勝つことはできない
から。それぞれが決意を固め、潜水艦に乗り込み決戦の地へと向かう……。

残る“聖父”はあと四人! 楼樹の果てなき戦いはついに最終局面へ!!
これが【ケモノガリ】ではなく、ケモナーガリだったなら、もっとファンシーなお話になったのかしら、などと頭の脳裏によぎったり。どうせ、エロゲになるんじゃないのかって? それもまた然り。まあイヌガミの取り扱いが非常に気になるところだけれど。

さて、本編はというとついに最終決戦ということで、楼樹の独壇場になるのかと思ったらば、敵の本拠地に攻め入るのは楼樹とイヌガミ、そしてシャーリーのいつもの三人だけではなく、なんとCIAから十人の最強の工作員が参加することに。いつものように殲滅戦を繰り広げる楼樹たちの一方で、シャーリーと凄腕エージェントたちの決死の潜入工作戦が行われるというまさかの展開。このエージェントたちがまたみんな個性的でカッコいいのなんの、というこっちサイドもコッチサイドで熱いやら燃えるやら、もう片方の主人公になってます。なんという冒険小説。アパッチ最強!!
CIAの工作員でありながら、クラブの非道を前にして、国のためではなくただ人としてやらねばならない、と決意した男女たちの決死行。それ以前に、このクラブとの決戦に挑むべきかがCIA内部で多数決によって決められるんだけれど、これがまた熱かったんだなあ。会議上では冷静に、クラブと敵対することへの損得を分析し話し合いながらも、結論として導き出されたものは……。
この作品、人間という存在の下衆っぷり、救われなさを「クラブ」という組織の存在だけでほぼオーラスに浮き彫りにしているにも関わらず、常に「人間って捨てたもんじゃない」というのを示し続けているお話でもあるんですよね。ケモノガリとして人の身から逸脱し、ついには人間の枠組みからこぼれ落ちようとしている楼樹だけれど、彼は常に憤怒し続けながらもついに絶望に陥ることはなかった。それは、常に戦う先々で人の道、人の心、人の誇りを守り戦おうとする人々と出会い続けてきたからなのでしょう。殺して殺して殺し続けながら、彼の血塗られた道には何も残らぬわけではなく、希望が残り、未来が残り、彼に続いて武器を手に取り戦おうとする「人間」たちが続いていこうとしています。立ちふさがる獣の群れに、抗う人の集いが動こうとしている。
その先兵として、切先として、敵の本拠地に乗り込む楼樹たち。うむむ、長い戦いも、まさかこうも世界を動かす熱い物語になるとはなあ。
CIAも去ることながら、この法王猊下の熱さはちょっとした見ものです。これほどの人物が、世界最大の宗教の長に就いて、味方になってくれることほど頼もしい事はないよなあ。そんな法王さまの方にも妙な情報が行っていたようだけれど、あれはなんだったんだろう。今回は明らかにならなかったけれど、最終回に繋がる大きな伏線のようだ。

さて、楼樹の戦いは量産型のエンターテイナーたちとの殺し合いによって幕を開ける。おなじみというべきか、復活怪人はヒーロー物の定番だったような気がするんだけれど、いやはやそこまで自分を改造してまで殺しを楽しみたいものですかねえ。もう、自分の名残が全然ないじゃないですか。劣化型の量産怪人と成り果てて、万能感なんて得られるものかしら。まあさくさくっとやられていく劣化怪人はモブとして、今回のメインはやはり最強最悪の兵士ジャック。問答無用の人間を明らかに越えてしまったスペックを持ち、何より心が残虐に歪みきった最凶の悪魔。あまりに品性も下劣すぎて、かつて戦ったロビンフッドや、ククリナイフを譲ってくれた戦士と比べるとどうしても怖さを感じないのだけれど、しかし強さに関してはどうしようもなく一級品。そんな相手を、どう殺すのか……って、こいつって明らかに最高の殺され役を与えられたキャラだよなあ、うん。カタルシス
そして、楼樹の同士であり戦友であった男の最後の戦い。自らの最後の戦いを果たし終え、自分そのものを失ってもなお友のもとに駆け続けた、その姿と最期にはただただ涙するばかり。演出も最高でした。
シャーリーについてはかなりビックリしましたけれど。いや、彼女がそういうつもりだったとは。気持ちとしてはわからんでもないんですが、これまで全く素振りも見せてなかったもんなあ。流石はエージェント、或いは流石は大人の女性というべきでしょうか。翻って、少女でありながらもうひとつの怪物的な存在感を見せ始めているのがあやな嬢。この娘も、いい加減一般人とは言いがたいメンタルですよねえ。覚悟を決めているとか、そういう範疇とは思えない。幼い頃からその片鱗を見せていた楼樹と育ち、あの事件を経ることで彼女もまた決定的に変質したのか。でも、これくらいでなければ、多少覚悟を決めた程度では楼樹を引き戻せるとは思えないので、彼女には徹底的に人という怪物になって貰わないと仕方ないのかもしれない。
いずれにしても、決着はすぐそこ。思いの外長い旅になりましたが、こうやって決着がつこうとしているのは何とも感慨深いです。

シリーズ感想

ケモノガリ 63   

ケモノガリ 6 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 6】 東出祐一郎/品川宏樹 ガガガ文庫

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クラブ壊滅へ。新たな戦いが始まる――。

――予感があった。
――決戦は近い。限りある命をガソリンのように消費している気分。
――予感があった。
――宿敵はすぐ手の届くところにいる。怨敵の影が見える場所まで近付い ている。
――予感があった。
――終焉は近い。何もかもの決着がつき、僕は消えて四散する。
――予感があった。
――別離は近い。それが一体誰との別れなのかは分からないけれど。
――これだけは、未知だった。
――全てが終わったとき、果たして僕は僕なのだろうか。それとも、僕以外 の何かなのだろうか?


楼樹たちはブラジルでクラブの会員に監禁されていた一人の少女を救う。だがそれは偶然ではなく必然。
そう、彼女の持つ才能がクラブ壊滅への新たな足掛かりとなるのだ――。
一方その頃、クラブでは7人の“聖父”が一堂に会する“聖霊会議”が開かれ、不穏な動きを見せていた。
楼樹たちにふりかかる新たなゲームとは!?
終わりに向かう始まりの戦いがここに!!
このCIAのオールドエージェントたちはみんな元ネタでもあるんだろうか。途中で出てきた引退したエージェントの爺さまたちがちょっとしか出番がなかったにも関わらずえらい存在感があったのでちと気になったのでした。あとで調べてみよう。
さて、ローマはバチカンという世界最大級の宗教上の聖地にて死のゲームを闘いぬいた楼樹たちの今度の戦場は、ラングレー。そう、すなわち世界最大の諜報機関であるCIA本部である。
CIA本部に潜入せよ!
いったいどんな鬼ゲーですか。ただ、此方には幸いにしてシャーリーというCIA職員の味方が居たおかげで内から崩すことができたわけだけれど、このCIA攻略戦は何気にシャーリーやシャテアが居なかったらどうなっていたか薄ら寒くなる。楼樹の力なら正面突破も容易かっただろうけれど、それもマトモに攻めてCIA長官のルシアン・カウフマンを掴まえられたかどうか。仮に成功しても、合衆国そのものを敵に回してしまったでしょう。それが、CIAと敵対するどころか世界規模でクラブ包囲網を構築出来るだけの体制を整えることが出来たのを考えると、シャーリーと出会えたのは運命的なものすら感じます。未だに、何がシャーリーを楼樹の味方となることに駆り立てたのかは微妙にわからんのですけどね。複雑な仮面を幾重にもかぶった彼女ですけれど、案外、アメリカ人らしい素朴な正義感が根底にあるのかもしれないなあ、と今回のCIAの申し子、というよりもCIAに関わる人達みんなにとっての愛娘みたいな立場にあったシャーリーの姿を見て、そんなことを思ったり。
ようやくクラブの最高幹部会の全メンバーが登場したわけですけれど、この怪物揃いを見ると最初に楼樹に殺された「節制」のミスタってどう考えても格下だわなあ。はっきり言ってここまで人間としての思想とか在りようから逸脱した怪物揃いだと、あんまりクラブの活動と彼らの実態とが合致しないというかそぐわない気がするんですよね。この連中が人狩りなんかして楽しいのかな、と。もっとも、当人たちがクラブの現状について嘆いていたので、彼らが目指しているクラブの姿はもっと違ったものなのでしょうけれど。個人的には自分だけ安全なところに居て下衆な行為を楽しんでいる連中を、同じ舞台に引きずり下ろして叩き潰すのが痛快さでは一番なので、クラブの幹部たちとの戦いには実のところあんまりカタルシスは感じないんですよね。
その意味では、悲哀のジャックには結構期待している。自信を世界最強で無敵と信じて疑わない幼稚な怪物が豚のように泣き喚く姿はそれはそれは胸のすくような光景でしょう、うんうん。

というわけで、ついにクラブの最高幹部会にまで手をかけ始めた楼樹。それは、この戦いにもついに終わりが見え始めたということでもあり、戦いが終わった後にも意識が行き始めるということでもある。もはや、人間の範疇すらも逸脱し始めた楼樹は、戦いの後に既に自分の存在の継続を認めていない。本物の怪物になろうとしている自分に、はや決着を付けるつもりである。しかし、それに待ったをかけるのが楼樹の幼馴染の少女だ。アストライヤをして恐ろしいと言わしめ、グレタをして狂気を宿すと畏怖された貴島あやなその人である。日常の象徴でありながら、彼女もまた常識どころか条理をも逸脱した、一種の怪物であることが徐々に明らかになりつつある。普通の娘には、楼樹はもはや近づくことも触れることすら出来ない果てにある。シャテアが楼樹に恋焦がれながら、実質全くといっていいほど噛み合っていない事からもそれは明らかだろう。もしかしたら、このシャテアという少女は凄腕のハッカーという以前の役割として、あやなの対比となる事を意味付けられた存在なのかもしれない。あやなが如何にして、破滅していく楼樹と対決するのか。実のところ、此処に至り一番ワクワクと胸を高鳴らせている戦いは、それなのだ。どのような形で終わるにしろ、この物語の終わりに相応しい結末をあやなが導いてくれることを期待するばかりだ。

シリーズ感想

ケモノガリ 5 3   

ケモノガリ 5 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 5】 東出祐一郎/品川宏樹 ガガガ文庫

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ローマ編最終章“十二使徒のゲーム”開始!

楼樹の前に立ちはだかる第二の“ゲーム”

さあさあお立ち会い!
この世のあらゆる快楽を貪り続けた皆々様!!
第一のゲームはいかがでしたか?
続きまして、第二のゲーム。このゲームの勝利者が、かつてミスターと呼ばれた男の権利を継承できるのです!
そう、即ち七人目の“聖父”となるのです!
ただし今回賭けていただくのは、皆様自身の命!
勝利すれば“聖父”になれるなら安いものですよね?

貴方がたは究極の快楽に溺れるため自身の命を賭けるのです!
しかし、ご安心ください!
赤神楼樹でも今回のゲームで生き残る確率はほぼ皆無です!
なんせ、彼は悪鬼羅刹たる十二人の娯楽提供者を相手にしなくてはいけません!
そう第二のゲーム“十二使徒のゲーム”!
最凶にして最悪なる大戦争になることは必然です!!
さあ皆々様!
自身の命を懸ける娯楽提供者をお選びください!
そして、『ケモノガリ』赤神楼樹を殺すのです!!

前巻から続いたシリーズ最大のスペクタクル『ローマ編』完結巻!!
いきなりオチから入るのは反則じゃありませんか?
これまで様々な奇人怪人たる娯楽提供者が出てきましたけれど、この夜叉刀だけは最後まで忘れられそうにありません。あらゆる意味で印象が強すぎて脳裏に焼き付いてしまいましたがなw
なんかもういっそ「癒し系」と捉えた方がいいんじゃないでしょうか。血風吹き荒ぶ殺伐とした空気の中で、彼が登場していたシーンは一種の清涼剤として作用していた気がします。凄いぜ夜叉刀。素敵だぜ、夜叉刀。
しかし、癒し系和み系のエンターティナーなど早々居ないのも当然のこと。残る十一人の娯楽提供者は多種多様の怪人揃い。完全にイカレ狂った怪物系から、その戦闘技能を極めきったプロフェッショナルまで様々なタイプのそれが並び立つ。ローマ編に入ってから連戦が続いていたとは言え、先の小国では一昼夜休むこと無く戦い続けたほどの楼樹くんである。スタミナに関してはそれほど問題はなかったはず。それなのに、どの娯楽提供者も一蹴とは出来ず、かなり瀬戸際の苦戦が続くことになる。無辜の罪なき相手を殺しかけてしまったことで、ケモノと人間の境界から転げ落ち掛けた事は想像以上に彼の精神を疲弊させていた、というのもあるのだろうけれど、それでも事ここに至ると出てくる娯楽提供者たちも相当の強者揃いということなのだろう。
だからこそ、夜叉刀さんが清涼剤となり得たのですがw
ゲームのプレイヤーであるクラブの会員たちが、それこそ自分の命をベットして挑むゲームですからねえ。生半なものじゃありません。逆に言うとこんなゲームでバンシーやファイアスターターみたいな連中に自分の命を賭けてしまえる人達はちょっとギャンブルが過ぎるんじゃないだろうか。あんな正気を失ってしまった連中によく運命任せてしまえるものだ。それだけ、クラブのメンバーたちもイカレているということなのだろうけれど。

そして、十二人の娯楽提供者の中に居た、人類最強の男。これまで出てきた敵の中で、本当に一番強かった相手って、ゲテモノやバケモノみたいな連中ではなく、あのロビンフッドだったと思うんですよね。純粋に戦闘技術と殺戮本能を昇華させた戦場の怪物。今回の最大の敵は、そんなロビンフッドさえはるかに上回る、ただ戦いと強さを求めた戦いの求道者。鉄量と火薬が決する戦争ではなく、血と剣が謳歌していた古の戦争こそが相応しい時代を間違えた英雄。純粋に、楼樹を超えた実力の持ち主。
近現代における自他共に認める最強の兵士 グルカ兵。
そう言えば、ロビンフッドもあれ、ネイティブアメリカンでしたっけ。やっぱりいまの時代の精悍な戦士って、そっちの人たちが担ってるイメージ強いのかなあ。グルカはガチですけどw
今回ばかりは、楼樹一人ではとても乗り越えられなかった苦境。イヌガミやシャーリーが居なかったらどうなってたか。特に、シャーリーはサポート役としても戦闘補助役としても多芸多才で本当に頼りになるんですよね。キレ者中のキレ者だし。CIA内部で問題児を通り越して危険人物扱いされて任務にかこつけて抹殺されかかってる、というのも分かる気がする。これで、なんだかんだと支持者が多そうなのも。
このローマ編は、ただ目の前の悪しき敵を殺戮していく、というこれまでの単純な戦いと違い、誰が本当の敵なのか、悪意はどこに眠っているのかというのを掘り起こし、探り当てなければならないところからはじまり、さらについに日常に戻したはずのあやなの身までも再び危険に晒し、と楼樹を精神面から追い詰める展開がなかなか厳しかった。最後に殺す敵なんぞ、彼にとっては初めてのシチュエーションでしたしね。場合のよっては、致命的な破綻すらあったかもしれない。クラブの上層部の不気味さはいや増すばかりですし、戦いもどんどん泥沼化してきたなあ。
そんな中で、一般人にすぎないあやなの動きこそが何気に目立つ。解放された彼女が向かったのは、日本ではなく、かつて楼樹が解放に参加した独裁国。そこで彼が出会ったあやな以外唯一心を許し預けた相手、ゲルタの元に。そんなヒロイン同士の出会いは、この血まみれの物語に何か影響をもたらすのか。彼女らの動向にも注目したいところである。

1巻 2巻 3巻 4巻感想

ケモノガリ 43   

ケモノガリ4 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 4】 東出祐一郎/品川宏樹 ガガガ文庫

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少年よ、ローマを目指せ。殺人のために!!教皇が危篤状態に陥っている。そのニュースは全世界を駆け巡り、多数の信者がローマへ押し寄せていた。騒乱の中で暗殺のチャンスを伺う"ケモノガリ"赤神楼樹。標的は次期教皇最有力候補のヴァレリオ・ロベルティ、殺人クラブのメンバーである彼の息の根を止める! 自称CIAのシャーリー、人間の脳を移植された生体兵器イヌガミを引き連れ、ローマのホテルに潜伏する赤神。だがクラブの調停者アストライアにより突然ホテルが爆破され、新たな殺人ゲームの開始が告げられる。聖都バチカンは完全に包囲された――!
楼樹くんの精神面でのタイトロープが半端ない。こと実践面での無敵っぷりは周知の通りなのだが、彼の強みはむしろその鋼鉄の精神だったと言っていい。その鋼のごとき硬く冷たく揺るぎのない強靭な意思こそが、肉体を牽引して標的をずんばらりんと狩り倒していたのでした。ところが、今度の敵はその楼樹くんの揺るがないはずのケモノガリの精神を揺さぶってくる戦術に打って出てきたのです。
そもそも、彼の鋼鉄の精神というものは、人間とケモノの狭間に立っているからこそ成り立っているもの。人間として破綻しながらも人間として壊れず、ケモノのごとき殺意を燃やしながらも心までケモノに堕ちきらない。そんな絶妙のバランスの上に立っているからこそ、赤神楼樹は人の心を持ったケモノとして活動できているわけです。そんな彼がもし、人の心を失えば、或いはケモノの本分を忘れて人に戻ろうとしてしまえば……それは彼の破滅を意味してしまう。
この物語が凄いのは、主人公が人間としてのマトモな心を取り戻すことが、愛情に身をゆだねることが、そのまま主人公がゲームオーバーになってしまう、という制約を課しているところでしょう。普通なら逆ですよ。非人間的だった登場人物が人らしさを手に入れることで、より意味のある強さを手に入れる、というのが王道といえば王道の展開なのに、赤神楼樹が置かれた環境はそんな優しくぬくもりに満ちた展開を一切許してくれない。過酷で残酷で冷酷な、ただただ暴力によって物事が決してしまう状況においては、人である事は弱さ以外の何者でもなく、弱さはすなわち死に直結している。しかし、同時に一切の人間性、人の心を失ってしまえば、それは彼が戦っている相手と同じ存在になってしまう。彼が戦う理由、行動原理そのものが破綻してしまうという、綱渡りのような精神面のバランス感覚を要求されているわけです。
そこをまあ、イヤというほど攻めてくる攻めてくる。
まさにこの時のために、これまでこの手段はとっておいたのでしょうね。赤神楼樹の最愛の人、あやなを人質に使うという手段は。
まさか、また再びこうしてあやなが出てくるとはなあ。いずれ何らかの形で登場するだろうとは思っていましたけれど、このタイミングは想像していませんでした。第一巻以来の本格登場のあやなでしたが……やっぱりこの娘こそが真ヒロインだわ。
赤神楼樹という異常な殺人者をそのまま受け入れた女性だけある。覚悟が尋常じゃない。たとえ離れ離れになったとしても、彼女には楼樹くんと共にあり続けている、という気概が感じられる。共に在り続けるってのは、
楼樹くんがやっていることを全部承知した上で、彼が負うであろう負債も苦痛も、彼の行動の結果のすべてを共に背負うということ。だから、彼のせいで自分がひどい目にあっても動じない。そりゃもちろん、怖いし辛いし、彼が心配でたまらないのは当然です。でも、彼を待つと決めた時点で、それは最初から覚悟していたものだったのでしょう。彼のために苦しむ覚悟、彼を苦しめる覚悟を彼女は日常の中に置き去りにされながら、ずっと保ち続けていたのです。彼女の覚悟は、あのアストライアをして、恐ろしい人だと言わしめるほどでした。
こりゃあ、敵わないわ。あやながこのあやなで在り続ける以上、楼樹くんにとっての絶対者は揺ぎ無く彼女で在り続けるでしょう。残念ながら、他の娘がはいる余地は微塵もありませんね、これ。そして何より、このあやななら、楼樹くんを幸せに、誰もが思い浮かべる通りの幸せを与えてあげられるんじゃないだろうか、と思わせてくれる何かが、彼女にはあったんですよね。これまでは、どんな形で決着するにしても、血に塗れすぎた主人公にハッピーエンドなんてシロモノは存在しないと考えていたんですが、その考えを覆すほどのナニカが貴島あやなのはあったのです。ほんと、大したヒロインですよ。

ローマ中を巻き込んだ破壊と暴力のデスゲームは、この四巻で終わりきらずにそのまま五巻に続きます。表紙を飾ったヒロインのセシリアは、今回は特にこれといった活躍をしないまま、というか楼樹くんの足を引っ張るよう配置された役でしたが、次回はなんらかの重要な役割を担うのでしょうか。

1巻 2巻 3巻感想

ケモノガリ 34   

ケモノガリ 3 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 3】 東出祐一郎/品川宏樹 ガガガ文庫

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いま、“クラブ”の真実が紐解かれ始める!
罪無き人を狩る“クラブ”がこの世には存在する。罪無き人を狩る“ケモノ”がこの世に蔓延っている。世界は相も変わらず騒がしい。どこかで戦争が始まり人が殺されたという。事故が起こって人が殺されたという。おそらくその報道の九割ぐらいは、事実がありのまま晒け出されているのだろう。だが、残る一割は、ひょっとしたら──違うのかもしれない。人を狩ることに喜びを見出した権力者(ケモノ)と、彼らの手先となって動く娯楽提供者(エンターティナー)による仕業なのかもしれない。それが、この僕──赤神楼樹の敵である。
さすがに二巻の「アレ」ほどインパクトのあるキャラは居ませんでしたが(居てたまるかッ、という意見も大いにありますが)、敵の人外化は留まるところを知らず、というかもはや人間じゃないし!!
いやあ、でも今回もあのカラー口絵の壮観さは、二巻のあれにも引けはとってないかもしれない。そういうものだ、と受け入れずに冷静に眺め直してみると、相当に狂ってるもんなあ。一瞬、生ゾイドかと思ったし。っていうか、元ネタゾイドだろ、これ(笑
生物兵器、というネタ自体は珍しくもないものかもしれませんけど、ここまで身も蓋もない改造をされてしまった生物兵器って、案外といないんじゃないですか? 普通はもっと技術的にも凝るもんなあ。作中で楼樹くんが呆れてますけど、確かに「ぼくのかんがえたさいきょうの〜〜」をそのまま具現化したような代物で、それを実際にやられてしまうと醜悪を通り越して馬鹿馬鹿しいとしか言えなくなるわな。ただ、その材料が生きている動物となると、途端に笑えなくなる。そうなんだよなあ。二巻の「アレ」はもう笑ってしまったけど、今回のは笑えませんでしたよ、全然。ヒドイ話にも程がある。

今回は楼樹くんもこれまでのような殺戮スキルを存分にふるえる状況ではなく、苦戦を強いられる。やはり、戦いの基本は相手より強力な力で押さえつけるのではなく、得手を封じて力を振るえなくする事が一番というわけだ。特に、一人無双状態な人物が相手なら。CIAのネーちゃんがサポート役になってくれてなかったら、相当ヤバかったかもしれないですね、今回は。まあ、民間人の救助を諦めたら一人で力技で全部抜け出せたかもしれませんがw

さらに、今回は楼樹くんのライバルとなろう相手の登場と共に、楼樹くんに比肩する力を持った仲間が加わることに。そうだよなあ、楼樹くんみたいなキャラの相棒となるには人間のキャラじゃ無理だもんなあ。孤高のダークヒーローにもし仲間が加わるなら、まさに今回登場したこの子みたいなのでないといけないわけですよ。やっぱり分かってる、この作者はこの手のパターンはまさに掌握しまくってる。かゆいところに手が届くってなもんですね。
ただ、敵に楼樹くんと対等の力を持った敵が現れるというのは、諸刃の剣になりかねない展開かもしれない。これまでは、どれほど強大な敵ではあっても、狩りだったんですよね。楼樹も敵も、相手を獲物を見定めて狩り合うハンティングだったのが、今回現れた魔人アストライアとの戦いは、狩りではなく闘争なんですよね。【ケモノガリ】というシリーズのコンセプトからどうしてもズレるであろう、アストライアとの戦いがはたしてこのシリーズをどう導き変質させるのか。
次こそがある意味、見所でしょうね。

1巻 2巻感想

ケモノガリ 24   

ケモノガリ 2 (ガガガ文庫)

【ケモノガリ 2】 東出祐一郎/品川宏樹  ガガガ文庫

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 bk1

いやいやいやいや(爆笑
あれはないだろう、あれは!! ものすごくシリアスな場面であり、予想の斜め上どころかまったく想像の埒外にあった展開に見舞われて度肝を抜かれた直後だっただけに、これでどうだと言わんばかりのあの挿絵にはね、もうね、どう反応したらいいものか、完全に頭真っ白になってしまいましたよ(苦笑
あまりと言えばあまりの絵面に、どっかでストッパーが掛かったのか、どうやら自分の中ではあの絵は見なかったことになってしまったらしく、何事もなかったかのようにスルーして最後まで読みきってしまいました。おかげで、素直に感傷に浸れたぜ(ふぅ
あとでもう一度じっくり見直したときは、おもいっきり爆笑してしまいましたが。いや、だってあれはないでしょう!!
当人たちは至って真面目で深刻にこの悪夢めいた状況に対して立ち向かっているのだけれど、変なところでギャグになってる部分があるんだよなあ。メイド服とか、メイド服とか。その発想はまともを装っている分、明らかにおかしいヨ。

僕の名前は赤神楼樹。つい数ヶ月前まで平凡な日本の男子高校生だった僕は、馬鹿げた殺人ゲームに巻き込まれた。友人は死に、先生も死に、それでも僕は生き残った。そして、僕は僕が生きた日常に別れを告げ旅へ出た。世界中で殺人ゲームを愉(たの)しむケモノたちを一人残らず抹殺するために──。僕は赤神楼樹。僕は、ケモノガリだ。リストに刻まれた名前がまた一つ減る。「問題は、次か」リストの名前を見て呟く。コリキア・リンドマン……北欧の小国バレルガニアの終身永世大統領。つまり僕は──今から、一国を相手に戦いを挑まねばならないのだ。
ついに一国の中枢丸ごとを相手取ることになった楼樹。この主人公が凄いというか特異なのは、魔術や異能などの特殊能力や、戦闘技術云々ではなく、単純に、純粋に、人を殺すのが上手い、という部分のみを特化して最大化している点にあるんですよね。そこには力の強弱や技能の上下など一切関係なく意味がない。楼樹って、余程の相手以外は「戦って」ないんですよ、「殺して」いるだけで。彼の場合、「殺した」という結果が先にあって、殺すための殺人行為はオマケにすら思えてくる。
最近だと富士見ファンタジア文庫の【火の国、風の国物語】のアレスなどがリアル一騎当千の無敵キャラとして認知されているけれど、ああいう強さとは一線を画していると思うんですよね、楼樹くんは。原初的な意味での「死神」というのが程良く似合っている。
チートキャラには違いないんだけれど、彼が常に見ている側にとって痛快であり続けるのは、その在り様がもはや呪詛や天災に近い無茶苦茶なものであると同時に、精神性が弓から放たれた矢であり、既に撃ち放たれた銃弾であるがために、一切ブレがないからなのでしょう。と、同時に人間で在り続けようとする努力を惜しまない。惜しんでいないにも関わらず、自分がほとんど人外の存在と化している事に苦悩も後悔もない。故に、見ている方に変なストレスが溜まらない。そして、この人たらんとしている撃ち放たれた銃弾は、同情の余地の一欠片もない極悪人を片っ端からなぎ倒していく。これを痛快と言わずして何を痛快というのか。
今回は最初から楼樹くんが覚醒しているからか、エンタメ作品としては一巻よりも明らかにレベルアップしている。話の展開も、単純な一本道ではなく、二度三度と大どんでん返しが待っていて飽きさせてくれない。実際、この北欧の小国で起こっていた惨劇の真相は予想を遥かに上回るものだったし、その後に待ち受けていた展開はそれまでの驚愕を完全に上塗りしてしまうほど衝撃的だった。もっと単純なアクションモノかと思って、おもいっきりミスリードされてたもんなあ。
今回のヒロインとなるグレタは、一期一会となるだろう逢瀬の相手としては最上級。如何に人たろうとしていても、最愛の人と別れて殺人の権化として異国の地で独りさすらう少年が、果たして人らしい心をどれだけ保っていられるか。そんな中で、彼女との一時を過ごしている時の楼樹くんは、確かに年頃の少年らしい顔をしていたし、彼女の幸福を願い、彼女を守ろうとする少年の心は十分人らしいものだった。大切に思う人が増えれば増えるほど、それは彼にとって良い事のはずだから。
……クールに見えておもいっきり泣き虫とか、完璧です、はい。

個人的には新たにできた旅の道連れに興味津々ですよ。この人はいい具合に引っ掻き回してくれそうだなあ(笑

1巻感想

ケモノガリ4   

ケモノガリ (ガガガ文庫)

【ケモノガリ】 東出祐一郎/品川宏樹  ガガガ文庫

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お見事!! これはもう、お見事と称賛するほかどうしようもない。これだけ思う存分に書きたいことを書き倒されちゃった日には、ねえ。
自分の好きなものを好きなように好きなだけ書き倒したそれが、これだけ面白かったらもう申し分ないわな。
筆者の手掛けたゲームや小説(原作付き)には、これまでどうにも楽しみきれないもやもや、っとした部分があったんですけどね。自分の好きなものに夢中になってて、提供された立場の此方はちょっと置いてけぼりにされているような、そんな感じ。エンターテインメント作品でありながら、どこかエンタメであることを蔑ろにしているような。
でも、この作品にはこれまで著者の作品に感じていたある種の歪さは見事に払拭されていたように思える。全体を俯瞰しても非常にバランスのとれた構成は、最初から最後まで疾走感の途切れない。余分なものを削ぎ落とし、徹底して精査し錬磨されながら、自身の<好き>な部分は一切取り落とさず完全に凝縮して詰め込みこんだストーリー。
まったく、お見事としか言いようがない。これは、書いた当人も満足、読んだこっちも満足、という良縁だな。

これだけダークなストーリーにも関わらず、完全にヒーローものとして立脚しているのは、やはり幼馴染の存在が大きいなあ。主人公の人格云々はあまり問題ではなく、この惨劇の中で開花させてしまった主人公の才能、人間としての領域を踏み外してしまった主人公の在り方を、幼なじみの彼女が拒絶も躊躇もなく、そのすべてを受容し、受け入れ、抱擁しているからこそ、この物語は主人公の苦悩や迷いという停滞を一切とりいれず、一瞬たりとも止まることなく、怪物と化した主人公に熱い血潮をたぎらせたまま、その決意と覚悟を奮い立たせ、その最後まで突っ走ることができたのだろう。

なんにせよ、面白かった。隙間なく、ピッチリとはみ出すことなく面白かった。
 
12月3日

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