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ザザ

戦うパン屋と機械じかけの看板娘 10 ★★★★☆   



【戦うパン屋と機械じかけの看板娘 10】 SOW/ザザ HJ文庫

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皆に祝福され、結婚式を挙げたルートとスヴェン。しかし、人と機械では生きる時間が違いすぎた。だから、スヴェンは人間になることを決意し、人化の方法を知るマイッツァーを探すのだが、彼は保安部の手によって誘拐された後だった。マイッツァーの救出に動いたルートたちは、否応にも聖女が画策する次なる大戦の火種に飛び込むことになり――今はもう英雄でもなく兵器でもない、普通のパン屋店主と看板娘が贈る街角パン屋繁盛記、感動のフィナーレ!!

エピローグまでしっかりやってのやるべきをやり尽くしての終演でした。これからも続いていく登場人物たちの人生を見送る形の終わりではなく、その行く末を見届けてのエンディングは満足感に浸れると同時にひどく寂しさも感じるんですよね。読み終えたあと、しばし感慨を噛みしめる。そうしないといけないくらいには、この作品のキャラクターたちには愛着を感じていました。
思えば登場当初から機械人形らしからぬ感情豊かさ、我の強さがロボ子の定型からは随分と外れていて、それがスヴェンというヒロインの魅力だったのを覚えています。そんなスヴェンですけれど、当初は機械的、というよりもマスター至上主義な所があってそれ以外に関しては酷く冷徹な所もあったんですよね。でも、パン屋の看板娘として多くの人と関わるうちに、ルートを経由するのではなくスヴェンが一人の個人として大切に思う人、関係が生まれてきてますます人間らしくなっていったんですよね。
そんなスヴェンですが、幾ら心を持とうと身体は機械。人間であるルートとの時間の流れの差は、結婚という関係の刷新を行ったからこそ尚更に彼女自身に現実を突きつけることになりました。
だから、マイッツァーを助けに渦中へと赴いたのは世界の危機を救うためではなく、ルートにとっては義父に会うため。スヴェンにとっては円滑な結婚生活のため、というあくまで個人的な理由によるもの、という建前で。
いやでも、実際建前でもないんですよね。
この物語、個々のキャラクターに焦点を合わせてみるとそれぞれ概ねみんな幸せを掴むに至っています。でも視点をマクロに広げて世界的な観点から見ると、ルートをはじめとするみんなの行動は聖女という悪意を退け、大きな意味での人類の行く末の破滅を防ぐことは出来ましたし、直接的な大被害をなくすことは出来ましたけれど、世界の危機そのものを回避することは叶わなかったんですよね。
これがもし、世界を救うための旅や戦いの物語だったとしたらこの結末はバッドエンドとすら言っていいかもしれない。でも、パン屋の新婚夫婦の物語としてみたら、苦労も多く背負うことになったかもしれないけれど、多くの別れを経たかもしれないけれど、でも大切な人たちの間では殆ど不幸を得ることがなかった、とても幸せなハッピーエンドだったと断言できるでしょう。
だから、これは間違いなくただのパン屋の店主と看板娘のお話だったのです。
まったく、ただのパン屋が幸せになるために潜らなきゃならない鉄火場のレベルじゃなかったんですけどね、一連のあれやこれやは。
結果的にですけれど、多分多くの友人たちとは二度と会えない形になってしまったと思いますし。ミリィが一番苦労したんじゃないかな、いきなりだっただろうし。
レベッカはあれ、人間になれたんでしょうか。レベッカとリーリエに関してはスヴェンが人間になる方法を用いることで、つまりスヴェン次第でなれてもおかしくないんですよね。二人とも、ズヴェンと同じく大切な人と一緒にいたいと願うでしょうし。挿絵ではレベッカ、少女然としたままでしたけど。
でもって、一番ままならなかったのはこれソフィア姐さんなんだろうなあ。多分、本人たちはこれで満足なのかもしれないし、報われていないとは露ほども思わないのだけれど、ただでさえルートの件で恋破れてしまったソフィアさんが、次の恋も傍らに置いておけなかったというのは胸に来るものがあります。でもあれ、ちゃんと恋人にはなったんですよね、ダイアンと。
あの結末はむしろダイアンの方が寂しがっていそうですけれど。それに、もっと後年になって戦後も遠くになりにけり、というくらいに戦争が過去のことになったら、また会える機会も一緒に過ごすことも叶わなくはない、と思えば……。
そのダイアン博士。この人もまた随分と定型から外れたキャラクターでした。いや登場当初って絶対に黒幕ですし、ラスボスかエクストラボスだろうというキャラだったじゃないですか。それがいつ裏切るか、いつ本性を現すか、と戦々恐々としていたら怪しげな素振りは欠かさないままズルズルとソフィアから離れないまま終盤まで来てしまい、終わってみれば全編通して味方側の黒幕として常に痒い所に手が届く働きをさり気なくやってくれてた上に、肝心なときにはいつも重要なポイントを解放して先に進めるようにしていてくれて、挙げ句に絶体絶命のピンチを覆す大どんでん返しまでそつなくやってくれていて、とシリーズ通して間違いなくMVPはこの人だったよなあ。
人格的には破綻していても、人間的には情深く愛を知る人であり、その出自からして人を愛することの素晴らしさを誰よりも感じる形で育てられた人だった、という事で随分と見方も変わった黒幕さんでしたし。軽薄な胡散臭さはついぞ変わりませんでしたけど。ソフィア姐さんとは本当に良いコンビでした。
最後のルートとスヴェンが写った写真のイラストは珠玉で、エンディングを飾るに相応しいこの物語の結末の形を描き尽くした素晴らしいものでした。
二人の新しいパン屋での生活に関しては、チラッと電子書籍版の描き下ろし短編で描かれているのですが、異国の地での生活は本当に苦労したようで、でもそこでの新しい営みがスヴェンの独白から伺い知れて、彼女が幸せですと語る言葉が胸に沁み入るものでした。スヴェン、ルートのこと「あなた」と呼んで慈しんでいるんですよね。長年連れ添った夫婦という雰囲気が伝わってきて、良かったなあ。
終わるのがほんとに寂しい、良い作品でした。次回作も同じくらい長く楽しませてもらえるものになってほしいものです。

シリーズ感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉9 ★★★★   

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 8 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉9】 SOW/ザザ HJ文庫

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マイッツァーを狙った機械兵の襲撃により、スヴェンが機械であるとルートにばれてしまう。二人が状況を理解する間もなく、ダイアンとブリッツドナーまで現れ、混迷を極めるトッカーブロート。普段ならこの混乱を収める側に回るジェコブも、突然の父親登場にその場を立ち去ってしまう…。スヴェンが看板娘になっておおよそ一年。ついにすれちがい始めたスヴェンとルート。聖女が裏で動き出す中で、スヴェンとルート、二人の未来の行き先は―。トッカーブロートの「驚天動地の九日間」、幕開け!!
ルート、男を見せる。
いやね、これまでスヴェンの正体について薄々察しながらも、それについて一切言及しようとしなかったのはスヴェンがそれを知られたくなかったから気づかないふりをしていた、という理由だけではなくルート自身、触れることで現状を壊してしまうことを恐れていた部分は多分にあったと思うのです。
なあなあの関係で良しとしていた、とも言えますし、核心に踏み込もうとしないルートはヘタレていたとも言えるのでしょう。ただまあ、様々な事件に見舞われたとはいえ、まだスヴェンが現れて一年。時間で考えるなら、一組の男女の関係が進展するに早いとも遅いとも言えない期間ではないでしょうか。だから、ルートのその知らんぷり、な態度はまだ非難されるほどの段階ではなかったと思うんですよね。
ただ、スヴェンの父親を名乗る存在が現れて、曖昧だったルートとスヴェンの関係についてはっきりしなさいよ、という主旨の指摘を切り込んできた上で、スヴェンの正体がこれまでの暗黙の了解とは異なり、これ以上なく明示されてしまったわけです。
ここまで事態が急変した以上、以前のままではいられない。何らかの意思表明はしないといけない。
にも関わらず、この巻はじまった当初のルートの態度は、スヴェンの正体など知らないかのように以前のまま。これはさすがに、スヴェンが立場的にも気持ち的にも宙ぶらりんにさせられて、可哀想過ぎる! と随分と構えてしまったのですが……さすがに彼もそこまでヘタレ尽くしたドぐされ野郎ではなかったようで、スヴェンには内緒でサプライズの企画を周囲の人達を巻き込んで企てていたのです。
って、それでも女の子を不安にさせた時点で女心をわかってない朴念仁、という汚名は頭から被っておかないといけないと思うのですが。
ルートってば、スヴェン相手だけじゃなくソフィア姐さんにまでドキツイのカマしちゃいましたからねえ。いや、マジで姐さんが自分に懸想してたことまったくこれっぽっちも気づいてなかっただなあ。でなければ、あんな残酷な役目、ナチュラルにお願いしたりしないでしょう。ってか、このサプライズで一番サプライズされてしまったのって、スヴェンよりもソフィアさんの方だよね、絶対。
あそこですぐに再起動して、ルートのポカをフォローする姐さん、マジ男前である。大丈夫だ、姐さん。あんな朴念仁よりもずっと大事にしてくれそうなイケてる男がすぐそこに居るじゃあないですか……。イケてるかどうかは定かではないか。あと、まともでもないし頭おかしいし人としてどうかというレベルでマッドサイエンティストだけれど。とても家庭人として役に立たなさそうだし、ほんとアレだけれど。
でも、ちゃんと人の心を持つイイ男なんですよねえ、ダイアン教授。
まさか、この人がルートに対してスヴェンのこと、あんな風に忠告してくれるなんて場面を見るとは思わなかった。それも、スヴェンの心を、気持ちを慮っての助言であり叱責ですよ。それを、あのダイアンが言うような展開が訪れるとはねえ。
ダイアン教授といえば、登場当初から悪役ムーヴ、絶対にこいつがシリーズの黒幕に違いないという怪しい態度、マッドな思想、胡散臭い言動、真っ黒な暗躍、という姿を見せっぱなしで、いつルートたちを陥れる動きを見せるのか、いつスヴェンたちを苦しめる企みをはじめるのか、いつ黒幕として敵対行動をはじめるのか、とずっと警戒を解けないままシリーズ続いてきたのでした。
にもかかわらず、ついにこの最終局面に至るまで敵側に回るわけでもなく、しかしはっきりと味方になるわけでもない、という不思議な立ち位置のままここまで来てしまったわけです。その意味では、非常に興味深いというか面白い立ち回りをし続けたキャラだったんですよねえ。これだけ曖昧な立ち位置にいながら物語の枠外にいるのではなく、何気にルートたちよりも物語の核心部分に立ち続けてもいたわけですから。
どうやらソフィア姐さんに対する好意が、単なる玩具を愛でる人でなしの興味や好奇心の類ではなく、胡散臭い言い回しとは裏腹にこれはガチで好きなんじゃないのか? と思われるような態度を見せ始めたあたりから、ようやくこれは黒幕じゃないんじゃないのか、と疑念が晴れてきて、でも本当の本当に確信を持って大丈夫敵側じゃない、と思えるようになったのはダイアンの過去が明らかになり、目的が明らかになり、そしてこの世界の本当の敵が明らかになった前巻でようやくでしたからねえ。
そう確信出来てから、ダイアンのソフィアへの態度を見ると何気にずっと一途で献身的であったようにも見えてくるわけで、いやまあなんだかんだとソフィア姐さんがガチで毛嫌いしていたのが絆されていったのもわからなくはないのである。
ソフィア姐さん、今晩はガチで羽目外してしまいそうだなー。この人はやらかす、絶対やらかすw

ブリッツドナーもドサクサに紛れて家族と再会。紆余曲折ありつつも、ようやく家族と一緒の時間を過ごせることになり、スヴェンとルートの関係もついにあるべきところへと辿り着き、と大きな変化を幸福にして平穏な方向へと迎えることになったパン屋とその周囲の愛すべき人たち。
しかし、大きな物語としてはこれぞ前哨。まさにここから、世界は究極の局面へと突入するのである。
そして、スヴェンの抱いた「人間になりたい」という願いもまた……。
戦うパン屋が戦う必要なくなり、機械仕掛けの看板娘が機械ではなくなる、そんなタイトルが雲散霧消するような結末が訪れるのか。クライマックスとなる次巻が待ち遠しい。

シリーズ感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉8 ★★★★   

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 8 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉8】 SOW/ザザ HJ文庫

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ある日、トッカーブロートに謎の男・マイッツァーが現れる。彼は自らをスヴェンの父親と言い張るが、機械仕掛けの彼女に血のつながりなど存在しないはずで……。一方王都では、ソフィアがヒルダたちと新大陸国家ノアから来た正体不明の将軍を出迎えていた。また、ダイアンはある物の調査で、ブリッツドナーと共に敵国オーガストへと潜入していた。離れた場所の別々の事件が次第に交わり、より大きな事態に繋がっていく。登場キャラ総動員で動き出す人気シリーズ第8作!!

ロボ子のスヴェンに父親なんているわけがないじゃん。仮にいたとしても製作者はダイアンとわかっているので、父親扱いするならそっちだろうし。
だから、今回は父親を名乗る詐欺師の話かー……と思っていたらどうしてどうして。
あれ? 本当に父親なの!?
これはまったく予想外。そういえば、だいたい心を持つ機械人形って製作者を父親みたいなものとして認識していることが多かったのだけれど、ダイアンに関してはスヴェンはもとよりレベッカなんかもダイアンに対してボディの製作者という以上のものは何も感じていなかった。それは、彼女らの人格であるAIがルートたちが乗っていた猟兵機の支援AIであって、ダイアンが一から作り上げたものではなかったから、という認識だったから特に不思議とは思わなかったのである。
ダイアンを父と呼ばないのはそういうもの。スヴェンやレベッカが搭乗者であったルートたちを慕うのもそういうもの。そもそも、彼女らが機械にも関わらず人間のような心を持つに至ったのも、まあそういうものだから、というファジーな受け止め方をしていて、それで済む話なのかと思っていたのだけれど。
それでは済まなくなったのかー。
何気に、ルートがスヴェンの正体を知っているのかいないのか、というあたりにも容赦なく答えが突きつけられてしまったわけだ。もう素振りからだいたいのことは察せられていたのだけれど、そう言えばなぜルートがその事についてスヴェンについて問いたださないのか、という点については深い疑問を抱かなかったように思う。
それも、それがルートの優しい性格からくるものであり、そもそもスヴェンがそれを知られたくないと思っている以上、ルートから踏み込むことはないよな、という確信があったからなんだけれど。
言われてみると、それは停滞そのものなんですよね。関係性は、そこで行き止まりになってしまっている。それが悪いのか、と言われると首を傾げてしまうのだけれど、そうだよねー、何の関係もない他人……じゃなくても、友達や親しい仲でもこれに関してはなかなか言うことも言えないけど、女性側のお父さんからしたら、そういうなあなあな関係って認めがたいものがあるわなあ。
それでも、スヴェンが機械人形である以上、現状維持以外のどんな進展があるんだ、という話でもあるんだけれど、その前提がひっくり返るとなると、そりゃあもう話は変わってくる。
ってか、その前提ひっくり返るの!?
どうやらスヴェンの出自には、えらい歴史の深淵が関わっているようで、今まではルートの過去からいろんな罪やら想い出やらが追いかけてくる展開だったけれど、ここに来てついにヒロインであるところのスヴェンが、核心となって物語が動き出すのか。
何気に、前回確保されてしまったマリーさん。単にゲーニッツの残党に捕まったのかと思ったら、もっととんでもないモノに絡め取られてしまっていたみたいだし、想像以上に闇が深すぎる。
本来なら関わったり触れたりした途端に100%抹殺されるだろう展開から生還してみせるダイアン博士、この人なんだかんだとやっぱり凄えわ。
今回、ルートのパン屋さんが舞台のところと、ダイアンとブリッツドナーの門探索、そしてソフィアとヒルダのダグラス将軍接待編の三パートが同時展開していたわけですけれど、結構毎回違う場所で起こっている事件を同時進行で描いたり、という構成はあったものの、今回はさらに特別なクライマックスへと持ち込んでいて、これ物語そのものがクライマックスに突入したという盛り上がり、ばっちりですよね。何気に、全員揃ったのって初めてだろうし。まさにこの面子が主要人物として動いていくことになるのか。
これはラストに向けてテンションあがっていきますぞ。

シリーズ感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉7 ★★★  

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉7 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉7】  SOW/ザザ HJ文庫

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新章突入!過去の亡霊と決別を。スヴェンの前に広がったのは、強盗犯が立てこもるトッカーブロートの姿だった。立てこもり自体はルート(と、突入したスヴェン)によって無事解決したものの、これは最悪の始まりでしかなかった。“善意”の市民団体による抗議活動で客は減少、証人として出頭した裁判所では、ルートが戦時中に行なった作戦が槍玉に上げられる。さらに、死んだとルートが思いこんでいたマリーまでも姿を現し、ルートは再び過去の亡霊に悩まされることに…。パン屋を諦めかけた相棒にスヴェンがとった行動とは!

マリー、以前からこっそり動いていてかなり入念に調べ回っていたので、もっと社会的に一撃必殺のクリティカルショットをキメてくるのかと戦々恐々としていたのだけれど、思いの外こう……大きく振りかぶりすぎてあっちこっちに隙のある攻め方をしてきてしまったなあ。
これ、彼女自身がルートをどうするのか決め切れないまま高ぶった感情を抑えきれずに攻め込んでしまった、というところなのか。マリーの経歴からしてその優秀さは折り紙付きだっただけに、彼女が本気でルートを抹殺するつもりだったなら、事態が動き出した時点でもう取り返しのつかない致命的なところにルートが追い込まれてもおかしくなかったのに、こんな穴だらけの裁判に持ち込んでしまっているわけですからね。ルートの弁護士が裏で相手とつながってた以上、スヴェンが居なかったらやばかったのは確かですけれど。
ルート自身が、マリーが直接訪ねてきて虐殺事件について語れと言ってきたら自分は正直に告白した、と述懐しているように、ただルートが犯した罪を、軍が起こした事件を弾劾するだけならやりようはいくらでもあったはず。それを、こんな形でルートを陥れるように動いてしまったのは、彼がパン屋を営んでいるという事実を否定し、貶めたかったのであろうし、以前変装して会いに行ったときにまったく気づいてもくれなかった事に、想いの分だけ憎悪が滾ってしまったのだろう。
それはすなわち、それだけルートへの想いが深かった、ということでもあるんでしょうね。愛するが故に憎むしかなかった。
彼女の観点で抜けていたのは、もうすでにルートが1人ではなかったこと。彼の営むパン屋が欠かせない日常の一部として、周囲から受け入れられていたこと。
もし、最初の頃のルートなら、自分ひとりで完結していて外につながりを持っていなかったルートなら、あっさり諦めてこの結末を受け入れていたのでしょう。でも、これまで彼がパン屋として働いてきた日々は、それが失われればその分、彼のパン屋に関わってきた人から日常や幸せを奪ってしまうまでに、密接に繋がるに至っていたのだ、と落ち込むルートにスヴェンが叩きつけていたんですよね。
ロボ娘であるスヴェンの方が、そういうのちゃんとわかってるのがこの作品の醍醐味であり、多分最初の頃では出来なかっただろう、スヴェンがルートを叱って立ち直らせるなんて真似が出来たのは、それだけスヴェンもまた成長してる、って事なんでしょうなあ。

と、本筋こそルートの抱えていた罪が過去から追いかけてきた、というものでしたけれど、それを枝葉にして国際情勢の裏側で蠢いているのが、今回露呈した平和教と呼ばれる正しさを振りかざして息巻く者たちとゲーニッツの思想を継ぐものたち。前者はそのあり方の質の悪さが迷惑を振り切って思想テロになってるし、後者は後者である意味ゲーニッツという重石が外れている分余計にやばいことになってそうだし、さらに暗躍している者もいる、となるとこれかなり混迷が深くなってるなあ。
果たしてこれ、どこまで「パン屋」が関わる話になるのか。

シリーズ感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉6 ★★★★  

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉6 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉6】 SOW/ザザ HJ文庫

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エウロペアの聖女を讃える聖誕祭を年末に控えたオーガンベルツ。お祭りの夜に街にやってくるという、良い子にプレゼントを配る「聖女」と悪い子を連れ去ってしまう「悪魔」。この2役の仮装をすることになったスヴェンとルート。新しいお菓子作りと仮装に奔走する2人の「聖誕祭」の話。その他「魔導師」ダイアン・フォーチュナーの秘密に迫る話、「お嬢様予備校」と呼ばれる士官学校に編入されたヒルダの話、の3編を中心にゲーニッツの反乱後のキャラクター達を描いた人気シリーズ6作目!
ゲーニッツの反乱というシリーズがそれで完結してもおかしくない大事件が終わって、それでも続くとなると話の持って生き方が難しいんじゃないだろうか、蛇足にならんだろうか、という危惧をふっ飛ばしてくれる間奏回。スヴェンとルート、ヒルダ、そしてダイアンという三組のキャラクターたちを中心に、あの事件の後の様子を描くと同時に次に起こるだろう出来事への準備期間として仕込みが成されていくのだけれど、ここまでで本当にキャラがみんないい具合に育ったなあ。これ見てると、ヒルダなんか彼女主人公にしても一シリーズ作れるんじゃないか、と思えるくらいに良いキャラクターになったよね、彼女。親衛隊解体に伴って士官学校に入り直してやり直すことになったヒルダ。15歳にしてあれだけ人生の悲哀を味わって苦労したせいか、随分と性格も練れたというか落ち着いたんだけれど何故か受動的トラブルメーカーになってしまっている不思議。そりゃ、大人しく首を竦めて問題をやり過ごすよりも毅然と突っ込むのが彼女の気質なんだろうけれど、その無視できない問題がどんどん向こうから彼女の前に転がりだしてくるのは、ヒルダ悪くないですよねw
元親衛隊のエリートという悪名のみならず、様々な異名が実績伴ってヒルダに積み上がっていってしまうのには笑ってしまった。そこまで暴れてないだろうに、後ろ盾がいつの間にか大きくなりすぎてる、本人関係なしに。
でも、彼女一人だけだとなかなか話も膨らんでいかないだろう、と思うところにちゃんと彼女にもパートナーとなる娘が登場するわけで、このコンビで幾らでも話広げていけるんじゃないだろうか、これ。表紙にもなってるあの東方の国の人もこうなるとむしろヒルダにひっついて行かざるを得ないだろうし、ヒルダとトリオで本編の方にも絡んでくるんじゃなかろうか。
それにしても、機械人形のお嬢さんたちはなんで揃いも揃ってヤンデレな変態ばっかりなんだ!? いわゆる「心」の起動条件が病むほどに熱烈な痴情というのは色々とヤバイ気がするんだが。
まあ、スヴェンを見ても分かる通り、最初にはただ一人に向けられていた感情も時間を置き多くの経験を経ることでそれ以外の人にも広がっていくようなのだけれど。レベッカも、そんな感じですしねえ。

そんな機械人形たちの生みの親である天才博士ダイアン・フォーチュナーの過去が明らかになるのがもう一つのお話。シリーズ初期は、というかもう最近までこいつこそがラスボスだろう、という怪しさと胡散臭さ満載だったダイアン博士。ところが、彼が生み出した機械人形たちは情緒豊かで人らしい心を持った存在で、むしろ博士は計算外ではなく意図して兵器ではなく、心ある存在として彼女たちを創り出そうとしていた節が伺えてきたところに、身を挺してソフィアを助けるような真似まで見せて、人でなしのマッドサイエンティストに見えていた外殻がようやくポロポロと剥がれ落ちてきていたわけですが。
それでも、この人物の出自の不明さ、一体何を考えているかわからない、人からどこか外れた存在感への恐れはつきまとい続けていたのであります。丁度、ソフィアさんが彼に向ける警戒と恐れ、でも信じて心開いてみるべきなんじゃ、というダイアンに対する戸惑いはそのまま読者の気持ちの鏡写しのようなものだったように思います。
とは言え、このままではダイアンという人への不気味に感じる思いは晴れないまま、どこか未知の部分がある信じきれないジョーカーカード、という観点で見続けるしかなかったのでしょうけれど、この中編で一気にダイアンの正体と素性と過去が明らかになったことで、色々と一変したんじゃないでしょうか。
まず、その特殊すぎる出自と才能は退けておいて、人ならざるものに人そのものの愛情を篭めて育てられた、愛を知り愛を求める存在だった、とわかったことでどうしてダイアンがスヴェンやレベッカのような存在を積極的に作ろうとしていたのか、どこか人として外れたような側面と人そのもののような懐っこさをどうして同居させているのか、などなどようやく理解が及んできたんですよね。恐れとは未知や不理解を源泉とする、という観点からすればダイアンというキャラをこの間奏で思い切って地に足をつけさせてきたなあ、と意外に思うところでもあるのですけれど、今後思いの外彼が本筋に絡んでくる準備でもあったのかもしれません。

ラストのスヴェンとルートの話も、今後の展開を思うと色々と考えさせられる話でもあるんですよね。穏やかな、恐らくはルートとスヴェン二人の思い描いた理想のような日常を丹念に描くことで、その理想が何を踏みにじって出来上がったものか、をラストの独白が浮き彫りにさせてくるこの構成。暖かな暖炉の火が照らす明るい室内を散々映したあとで、雪が積もり凍りついたような静けさに暗く沈む冬の屋外を思い出させて照らし合わせたような、置いてきた消せない罪が、今追いついてきたその寒々しさが、次の物語の開始を謳うにはまた威力十分なんですよね。
キャラみんなに愛着が湧いてきているだけに、なおさらに。だからこそ、楽しみも増すわけですが。

シリーズ感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉5 ★★★★   

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉5 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉5】 SOW/ザザ HJ文庫

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ついに正体を現した宿敵、ワイルティア親衛隊中将・ゲーニッツにスヴェンを奪われてしまったルート。王都ベルンではソフィアまでも捕らえられ、兵器開発局は親衛隊の手に落ちてしまう。かつてない窮地に追い込まれたルートは己の忌まわしき過去を乗り越えて、愛すべき看板娘と共に再びパン屋『トッカーブロート』を開くことが出来るのか!?

レベッカって登場当時はスヴェンと対比する形でより機械人形らしい感情を排した同型機というスタンスに見えて、そんな無機質の中にもスヴェンと同様に自分のマスターだった人への思いやその息子への情を滲ませる、という奥ゆかしさを感じさせるキャラクターだった気もするんですよね。
そう思ってた時期もありました。
いやいやいや、レベッカさん、あんた完全にスヴェンと同類じゃねえか。そのあからさまな変態入ったマスターへの偏愛っぷり、スヴェンと殆ど変わらんじゃん!! 人型兵器のAIはみんなこんなんなんか!!
暴走乙女回路を実装していないと、スヴェンやレベッカみたいな魂魄実装型にはならないんだろうか。博士の場合、仕方なくではなく好んで彼女たちの豊かな情緒をそのままにしているようにも見えるんですよね。もっと機械人形らしい機械人形も作れていたようなのに、それは失敗作として放棄していたみたいですし。
博士ってマッドサイエンティストとして、序盤は黒幕なのかなーと思ってましたし実際、黒い行動も多いのですけれどスヴェンやレベッカに対しては邪魔もせずむしろ積極的に支援してくれるサポート役になってるのは面白い立ち位置だなあ、と。
そして、なんだかんだとソフィア姉さんへのアプローチが成功しかけている件について。博士、いつの間にかソフィア姉さんにガチでマジになってしまってるじゃないですか。最初の頃は博士本人もからかうと面白いから程度の玩具的な扱いだったと思うのだけれど、いつごろからマジになってたんだろう。まあおちょくられているのを除けば、博士のソフィア姉さんへの対応って基本献身的だったのを考えると姉さんがグラっと来てしまったのも無理ないかなあ、と。何だかんだと大事にされてしまっている、という感覚あったでしょうし。
まあ、囚われのところを助けに来てくれた王子様なルートがおもいっきり自分は上官兼姉であって女性としては眼中になかった、というのを思い知らされてしまった、という理由もあるんでしょうが。

肝心の記憶を消されてしまったスヴェンがルートとの絆を取り戻すシーン。ルートの覚悟、というかスヴェン=アーヴェイを大事に思うがゆえに、彼女をあらゆる頸木から解き放つリセットを行う決断は良かったんですけれど、もうちっと盛り上がりには欠けたかなあ、という印象。実のところ、今回の事件に関してはルートはスヴェンに対して一心不乱というわけでもなく、むしろルートとゲーニッツ、二人の物語という感が強かったせいもあるんじゃないかなあ、と思うんですよね。
兵器としてのルートを求め続けたゲーニッツですけれど、当人は最後まで気づいてなかったようですけれど、あのルートへの執心は優秀な兵器を得るためではないのでしょう。むしろ、たった一人の友人としてのルートに、自分の歩む道についてきて欲しかった、という理由であった方がゲーニッツの言動には筋が通るんですよね。
人と交わらぬが故に、友を得るという意味を最後まで理解できなかったゲーニッツ。しかし、一方でルートに対して残していた誠実さや執心は、ゲーニッツが自覚なくルートを友として扱っていた、とも言えるわけで、そのアンバランスさが哀しく、ゲーニッツの死にこの世でたった一人涙を流して悲しんだルートの姿に、切なさを感じると共に一人でも泣いてくれる人が居たんだなあ、とゲーニッツという黒幕にして最大の悪役のキャラに感じ入るものがあったのでした。
ただの野心家の悪人では醸し出せない雰囲気があったと思います。惜しむらくは、だからこそもっとルートとゲーニッツの間の因縁をもっと以前から前に押し出していたら、このクライマックスも盛り上がっただろうに、というところですか。

あと、一時勘違いしていた伍長の正体が、まわりまわって本当にあの人になった、というのは上手い試みだと思いましたねえ。想像していた通りのキャラクターで、いい意味で裏で暗躍してくれるキャラが増えたなあ。
さて、シリーズ通じての大事件が一段落したわけですが、これで仕舞いではなくまだ続くのですね。ここからパン屋のままどう展開していくんだろう。

シリーズ感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 4 ★★★★☆   

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉4 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 4】 SOW/ザザ HJ文庫

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感謝祭用のお菓子作りを依頼されたルートだが店の仕事も増え、疲労もピークに達していた。そんな中、親衛隊のヒルデガルドと「人狼」と呼ばれる工作員がルートの命を狙いオーガンベルツに現れる。
スヴェンがあっさりヒルダの変装を見破り、2人を捕えることが出来たが、「人狼」にルートがかけた言葉は「あんた、パンは焼けるかい?」だった。
ぐああ、効いた。全然予想だにしていなかった展開に、これは見事にテンプルぶち抜かれた。
油断を突かれた、と言ってしまうとそれまでなんだけれど、この読者側の油断を誘う構成が絶妙なんですよ。このシリーズ三巻に渡って重ねられたイメージという観念を見事に利用された、いや既刊だけではなくこの4巻中だって親衛隊のヒルダという少女の最悪に近かった印象をひっくり返す再生と成長の物語が完璧に近い出来栄えだったからこそ、この【戦うパン屋と機械じかけの看板娘】という作品が構築する「枠」を勝手に決めつけてしまっていたわけだ。なんという巧妙なお膳立て。
「伍長」の正体だって、そりゃもうイイようにミスリードされてしまっていましたよ。全然気づいていなかったし、同時進行していたソフィアが居る開発局の襲撃事件の方とのリンクもまさかのカラクリだったからなあ。
そもそも、本作のラスボスたる存在からして、そりゃもう胡散臭くて怪しくてマッドでサイコなダイアン博士がどうやったって怪しかったわけで。そりゃ、この人ソフィアさんにご執心だし、何だかんだとスヴェンやルートたちの都合に合う暗躍をしてくれてましたけれど、あくまで当人の好奇心や欲望優先で、どうやったって味方になってくれるような人ではなかったわけで、何だかんだと結局最後にはこのダイアンが障害になるものだと思っていたのですが。
うむむ、こうしてみると今までこの物語を読んでいて、こういうモノだと思い込んでいた勝手に決めつけていたものを、片っ端から一から十まで見事に土台からひっくり返されてしまったんじゃなかろうか。
いやもう、お見事としか言いようが無い。
何より、ありふれた悲しい無慈悲な出来事の一つとしか思っていなかった開発局の、ソフィアの傍で起きた悲劇が……まさか、こんな風に繋がっているなんて。ハイドリヒの一言にいったいどれだけ愕然とさせられたか。
一つ一つだけ取り上げても、無情な結末としか言いようが無いのに、それをつなげてしまってより惨たらしい事実をあからさまにする、この構成。二人が再会できる可能性があったことが、ハッピーエンドとなる筋道がじつは合ったことが同時に知らしめられることで、余計に威力を増してるんですよね、これ。
もうなんか、うわぁぁ、ってなりましたよ。きっついなあ。

三巻でのやりたい放題で印象最悪だったヒルダが、彼女がそうなった人格形成の過程である過去の出来事と、現状の彼女を支えるもの。それを揺さぶり彼女が必死にまとって鎧っていたものをふるい落として本当のヒルダを剥き出しにしていく、少女の再生の物語。そして、自分もまたそんな彼女の変化に揺さぶられ、人間のような心を育てていくスヴェンの成長の物語。この優しいハートフルなストーリーが本当に完璧でねえ……。
それを自分から盛大に巨大ハンマーでふっ飛ばして粉々にしてみせる作者の豪腕さ、好きだわー。愛おしいからこそ、思わず千尋の谷に突き落としてしまう悦楽。そこから這い上がってくると信頼しているからこそ、そのキャラクターたちを徹底的に蹴り落とすこの偏愛。これぞ作家の業であり、物語をよりビンビンに漲ったものにしてくれる贄なわけで、ここからの盛り返しに関してはもう確信の領域である。
かなりダメージ喰らいましたが、この大転換には次巻にかぶりつくより他ありません。

シリーズ感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 3 ★★★★  

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉3 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 3】 SOW/ザザ HJ文庫

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スヴェンとジェコブは新営業戦略として隣町サウプンクトにパンの出張販売に訪れていた。しかし、そこで起きたジェコブの運命的な出会いが「トッカーブロート」を揺るがす大事件の発端になろうとは。ジェコブを巡るパン売り上げ戦争の勃発にワイルティア親衛隊の思惑が絡み、事件は混迷化の一途を辿る。果たしてルートに安寧の日は来るのか!?
ここで見事なレベッカ推し。スヴェンの姉妹機にあたるものの、情緒豊かを通り越してやや過剰な感すらあるスヴェンに対して、レベッカは実に機械的に何の感情も挟まず、監視任務も命令通り密かに粛々と続けていて、これまで本当に本編には関わることなく傍観者に徹していたのですけれど……レベッカもスヴェンの姉妹機ということは元は人型強襲兵器のサポートAIであり、本来なら相棒であった搭乗者がいたんですよねえ。
今回の話は、レベッカの相棒にも深く関わってくる話となり、彼女も無関係ではいられない……いや、無関係で居ようと思えばなんぼでも居られたはずなのですけれど、レベッカもレベッカで乙女よなあ。
ってか、このAIたちみんな揃って情熱的な乙女すぎる(笑
常識はずれなスヴェンと違って、レベッカは実にオーソドックスなクール系機械少女と言えるのでしょうけれど、その秘めた想い、ずっと心に宿している相棒への情熱たるやスヴェンにも負けず劣らずの一途っぷりであり、熱量であり、博士博士、あんた相当のマッドでイカレ野郎のくせに、なんでこんな乙女ばっかり作ってるの!?
ってか、ハートが乙女でないと起動しなかったんだろうか。AIであった段階ではスヴェンもレベッカも性別はなかったみたいなのにねえ。
しかし、相棒であったルートに一直線でアプローチできているスヴェンに対して、レベッカの方はもう少し複雑な話になってるんですよねえ。レベッカの相棒にはちゃんと相手がいるわけで、彼女はそのままジェコブの方に行くんだろうか。

パン屋になってもやたらと国絡みのゴタゴタに巻き込まれるルートですけれど、彼の場合銀狼の勇名に誘われて向こうから事件がやってくる、というわけではなくて、本当に誰かが後ろで糸を引いているというわけではなく偶然巻き込まれてるんですよねえ。スヴェン絡みでもありませんしねえ。スティーブン・セガールでもあるまいに(笑
でも、ルートが偶然巻き込まれている事件はどれも単発で起こっているものではなく、悪化しつつある国内事情にまつわるものでもあり、一連なりになっているとも言えるわけでなんとなく雰囲気が戦後の混乱期から安定に向かうのではなく、むしろ大きな戦乱の前を感じさせるような不穏な雰囲気になってきてるんですよねえ。
その原因となっている人物が今回明確にされたわけですけれど……国軍と親衛隊の内部抗争という構図になりつつあるのかー。これもう、組織内のパワーゲームで収まる雰囲気じゃないじゃないですか。内乱になってもおかしくなさそうなのが何ともはや。
シャイロック爺さんという辣腕の武器商人にして、被差別民族の側にある登場人物として、このシリーズで一貫して触れている民族問題、戦勝国と敗戦国の意識格差、階級による貧困差別などに関しても、欠かさずグイグイと蹴りこむ話になってますし、バックグラウンドのきな臭さは寄り濃くなってる感じだなあ。
果たして、一パン屋としてこれらの問題にどれだけ立ち向かっていけるのか。でも少なくとも、今までは「パン屋」としてこれらのややこしい問題の数々に、地元だけとはいえ改善傾向に持ってってるのだから、実に真っ当にパン屋として戦っているんですよねえ。単に戦闘で戦ってるだけじゃない、というのはホント偉いと思いますよ。

シリーズ感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 2 4   

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉2 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 2】 SOW/ザザ  HJ文庫

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徐々に経営が安定し始めたパン屋「トッカーブロート」の店主ルートの元に、巨大飛空船で開催されるワイルティア・旧ペルフェの親睦パーティの招待状が届く。
そのパーティで供されるパンを焼いて欲しいというのだ。
お店の知名度アップを目論むスヴェンに説得され参加を決めるルートだが、その裏には政治的な思惑や陰謀が渦巻いているのであった。

相変わらず、機械人形なのにクールどころか感情が溢れすぎてて若干暴走気味ですらあるスヴェンが可愛すぎる。うん、クール系も好きですよ。マシンマシンした娘がふとした瞬間に垣間見せる感情の萌芽みたいなものは愛でるに十分な要素ですけれど、スヴェンの情熱的な性格は機械人形キャラのイメージをひっくり返すパワフルさで、実に素晴らしい。ちょいと嫉妬がすぎやしませんか、というくらいルートにコナ掛けてくる女性に対して威嚇しすぎなきらいがありますが。
しかし、スヴェンは気づいていませんけれど、これもうルートの方はスヴェン=アーヴェイである事に気づいてるんですよね。一巻の終わりに気づいたような素振りみせてましたけれど、疑惑段階じゃなくてもう確信してるようなんですよね。元愛機のAIがいきなり女の子の姿で現れたことに対して、さして気にした様子も見せてないあたり、この男大らかがすぎるんじゃないだろうか、と若干焦りすら覚える。元上官のソフィアもだけれど、彼をよく知っている人であるほど、この男を放ってはおけない、という気持ちになってるのもわからなくはないなあ。どうも、男女の機微云々どころじゃなく本当の意味で鈍いようなところがあるし。それでいて、かなり繊細な面もあるからなあ。ソフィアは、ルートへの対応完全に間違えてますよね、これ。いや、罵倒と手足が同時に出るのは性格みたいなので、間違えてるんじゃなくて最初から終わってた、というべきか。まあ激しく叩かないと反応が返ってこない感じだから気持ちはわかるけれど。
と、話が逸れたけれど、ルートの方はスヴェンの素性についておおよそ検討をつけている、というか戦場で誰よりも信頼していた相棒だと察したからか、一巻の時よりもスヴェンの行動や判断に対する信頼感がはるかに増しているので、彼女との息もピッタリなんですよね。けっこう、スヴェン乱暴なこともしているのですけれど、その場面においては必要な事でもあり、それをルートは邪魔したりせず彼女に任せるので、かなり厳しい場面の連続にも関わらず、スムーズに対処が進んでいたあたり、二人のコンビは先の大戦の頃の黄金期に勝るとも劣らないレベルに戻っていたような感じすらあります。それも、軍人としてだけではなく、パン屋の主人とウエイトレスとしても、黄金コンビになってたんじゃないかなあ。
こうして、二人でパン屋としてやっていける。おいしいパンを作って、美味しいと笑って食べてもらう。それをスヴェンと成し遂げる成功体験を、この事件以前に得ていなかったら、さてルートはソフィアの強引な、そして彼のことを親身になって心配した彼女の引き戻しに逆らえたかどうか。
ソフィアが指摘した、パン屋として働くことが逃避であり代償行為にすぎないというのは1面の真実だったのでしょう。でなければ、あれだけルートが動揺する理由がない。少なくとも、スヴェンが来るまでのルートでは否定しきれなかったでしょうね。でも、先の事件を通じて、彼はちゃんとパン屋としてやっていける、自分のパンが笑顔をもたらしてくれるという実感を得ることが叶っていた。この時点で、ルートはすでに過去に対して自分なりに区切りをつけることが出来ていたのでしょう。もちろん、なおも揺さぶられ、引き戻され、振り替えさせられることは起こるでしょうけれど、すでに彼は進みだしていたわけで……ソフィアお姉ちゃんの心配は、すでに彼の方で勝手に解消されてしまっていたわけだ。それは祝福スべきことなんだろうけれど、自分と関係ないところで、というのは忸怩たる思いがあるだろうなあ。彼女にとっては、ルートは自分の手の届かない所で傷つけられ、自分の知らない所で立ち直って先に進み始めていたわけですから。
彼女の愛情は不器用すぎて苦笑しか浮かばないレベルなんだけれど、その不器用さが可愛くてねえ、私は好きなんだけれどなあ。

大戦が終結し、しかしまだ世情が落ち着かない世の中。ワイルティアと旧ペルフェの融和の象徴として取り上げられることになったルートのパン屋だけれど、そういう宣伝が必要とされる時点で両民族の関係がこじれていることが明らかであるし、実際現場でルートたちが凄まじく蔑ろな扱いをうけたことそのものが、融和の実態がどれだけ酷い有様なのかを示している。社会問題化している戦災孤児は、さらにテロの捨て駒として使い棄てされ、さらに世情の不安を煽り拡大を企むグループもいる。
戦争の終わりが決して平和の訪れを意味せず、戦後という言葉の裏でより深く、より陰湿に争いの種がまかれ芽吹いていく様子が、この物語の中では丹念に描かれている。憎しみ、恨み、妬みといった負の感情が、戦時のような爆発的なそれではなく、じわじわと煮立つように燻っている様は、胃の腑が重たくなるような雰囲気だ。
だからこそ、純朴とも言えるルートの、美味しいパンを食べてもらって、笑顔になってほしい、という願いに切実な希望を感じるのだろう。それを体現しているであろう、ミリィの変化はだから一つの救いであって、随分と眩しいんだなあ。

1巻感想

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 4   

戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉】 SOW/ザザ HJ文庫

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人型強襲兵器を駆り「白銀の狼」と呼ばれた英雄ルート・ランガートの夢はパン屋を開くこと。戦争が終わり、無事パン屋を営むルートだったが、その怖い顔のせいか、さっぱり売れない。そこで窮余の策で募集したウェイトレスとしてやってきたのは、ルートの軍人時代の愛機「アーヴェイ」のAIから生まれたという白銀の髪と赤い瞳を持つ美少女だった。
これ、ジャケットデザインが大勝利仕様じゃないですか!? もう見た目一発でキュピーン!ですよ。パンの絵を全面に押し出しているのもさることながら、ルートとスヴェンの重なった立ち姿の構図が非常に面白い。それに、敢えて真ん中に立たせるのではなく、端っこに立たせてタイトルをバンと置いて目立たせてる構図が、むしろ二人のシルエットに目を引かせる要素になってるように思うんですよね。凄く印象に残る。久々に表紙絵見てグワングワン脳内揺さぶられる感覚を味わいました。
ジャケットでまず掴みはOK、さらにあらすじでヒロインの娘が軍用兵器の元AIということで、AI好きとしてはドストライク決定。作品読む前からこれだけガツンガツンこられる作品はなかなかないですわー。
とはいえ、AI少女スヴェンの性格、キャラクターは思ってたのとかなり違ってたんですけどね。思い込みとして、やっぱりAI系という出自のヒロインというとロジカル、冷静、健気、献身、秘めた情熱という論理的クール系美少女という思い込みがあったんですけれど、スヴェンはまさかの感情アッパー系。健気で献身的という基本は押さえているものの、凄く感情豊かで情熱的で思い込んだら一直線で、というある意味マシンタイプのヒロインとは裏腹の可憐なキャラクターでした……だが、これがまた素晴らしい!
人型強襲兵器のAIだった頃、別に女性人格じゃなかったというのがむしろいいんですよ。ルートの愛機のAIとして同じ戦場を潜り抜け、生死を共にし、相棒として戦い続けるうちに芽生える自我。AIでしかない自分をまるで人間の相棒のように扱う主に刺激され、徐々に育っていく情緒。そうして生まれてしまった人格は、やがて戦争が終わりルートが軍人を辞め、自分を置いて去っていくという別れを体験することによって、決定的なものへと至ってしまうのですが……彼女はある意味、ここで自分で自分を「彼女」として既定するのですよね。勿論、強襲兵器搭載型AIだったアーヴェイを、まったく別の存在へと「改変」した人はいるんですけれど、彼女が彼女になったのって、外部の意思ではなくあくまで彼女自身の意思であるわけです。人の姿となり、兵士としてのルートの相棒という枠を逸脱し、彼の生きることすべての相棒として彼を支えたい、ずっとついていきたいという願いが、ただのAIだったものを「彼女」へと進化させたのである。
私はこういう、本来ヒロインと成り得なかった、何者でもなかった在り得ない立ち位置から自力でヒロインの座をもぎ取る決然とした覚悟と意思と貪欲さバイタリティを持った娘って、大好きなんですよね、大好物なんですよ。その点において、彼女……スヴェルゲン・アーヴェイはまさにドストライク。素晴らしいの一言。
ルートは、彼女がかつての相棒だと知らなくて、それどころか機械人形であることも知らないのだけれど、姿形どころかAIだった頃の彼女とは情緒の豊かさや感情の激しさとか全然違うはずなのに、その言動から度々AIアーヴェイを重ね見てしまうんですね。不器用で人付き合いが決して上手くない彼が、苦手なはずの歳若い女の子相手にも関わらず、彼女といるとかつて愛機を駆っていた頃の安心感、信頼感を感じてしまう。この知らず、通じ合った関係がまたキュンキュンきてしまうんですよね、もうキュンキュンですよ。
作中の雰囲気は決して明るくなく、戦争が終わった後もなお引きずられる国同士の因縁、実際に戦争で傷つき喪った痛みによって負の感情がわだかまり続ける「戦後」という終わらない、いや一度終わったからこそ続いてしまっている「平和の影の部分」が、重苦しい雰囲気を醸し出しているのだけれど、スヴェンの情熱的なまでの一途さと、ルートの素朴な人柄、そして平和な世の中でパン屋を開きおいしいパンを作って多くの人に食べてもらいたい、という自身の心の傷を超えて思い至った夢への純粋な思いが、そして彼の夢の純粋さに感化された人たちの優しい気持ちが、この物語を重苦しいものだけではない、温かいハートフルな物語へと育て上げ、押し上げている。
恨みや憎しみを単に否定するのではなく、受け止めた上で次へと進めてくれる素敵で、いい話じゃあないですか。
問題は、ルートはもう完全に街のパン屋さんであるスヴェンはパン屋の看板娘なので、果たしてパン屋さんと看板娘という立場のままで、何やら不穏な動きのある国際情勢や暗躍する謎の超技術に関わる組織、とかとどう絡んでいくのかがえらい難しそうなんですよね。続きはもちろん、大いに望み求める所なんだけれど、一体どう話を広げていくんだろう。
ともあれ、スヴェンの可愛らしさ、十分堪能させていただきました。機械少女最高っ。

SOW作品感想
 
12月3日

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