【ベン・トー 9.5 箸休め~濃厚味わいベン・トー~】 アサウラ/柴乃櫂人 スーパーダッシュ文庫
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欲深い、味わい。先の短篇集【箸休め】を、箸休めというには厚いし濃すぎるよ! と喚いたら、今度の短篇集は濃厚と自ら銘打っていた(笑
狼たちの至極の箸休め!
半額弁当争奪バトルに青春を賭ける佐藤洋は、冬休み明けの部室で槍水の掃除を手伝うのだが、そこで起きたアクシデントをきっかけに禁断のフェティシズムの世界へと飛翔することになり…!? そして白粉が初体験した年末年始のビッグイベントにおける豊潤なエピソードや、それを見守る白梅との過去が明らかに!
書き下ろしの他にウェブ掲載された短編や、雑誌掲載の『間食版』、白粉花の新作『獣道』をアツくレビューする『ANの5時の読書会』まで収録! 様々な意味で濃厚に仕上げた(当社比)庶民派シリアスギャグアクション、狼たちの欲望うずまく9.5巻!!
今度はサブタイトルに偽りなく、濃いは厚いは……そして味わい深いなかなかしっとりとしたお話もあり、と何だかんだと盛りだくさんで、これもまたパーティーサイズとでも言うのか。
【ボーダーをブレイク】
佐藤が基本的に白粉と対して変わらない高レベルの変態だというのを改めて実感するまでもなく奴は変態なのだけれど、それでもなお変態性を畳み掛けてくるあるフェティシズムの局地を、しかし局地と見せずに平常運転で運行している事が尚更に変態性を極めて居るのだということを実証している実録挿話である。
槍水先輩の太ももをモミモミ。
女性の御御足を蹂躙したことはともかく、その感覚を後生大事に寮にまで持ち帰って長く反芻するつもりだった佐藤キモいw
揉む奴も揉む奴、揉まれるヤツも揉まれるヤツ。さり気なく先輩も無防備なので、あらゆる場面で反対の餌食になっているのである。この人もその内悪い男に引っかかりそうだな。ウィザード、なんとかしてやれ。
【簡単な質問】
沢桔梗は末期である……。
この人、ホントになんでこんな得体のしれない方向性に突っ走っちゃったんだ? 「どうしてこうなった?」の実例である。最初からこうだったのなら、なおさら嫌だなあ。しかし、この姉は恋人は姉妹で共有というのは考慮するまでもない自明の事実以外の何物でもないのか。それはそれで凄いが完全にエロマンガの住人である。鏡の苦労が偲ばれる。が、妹が逃げ出さずに何だかんだとこの姉といつもいっしょにいるのは、この面倒くさいほど手間のかかる姉が好き、なのか姉の面倒くさい世話がかかる部分が好きなのかは興味の湧く部分である。もし後者だったならば、案外男の趣味も姉に似た面倒くさい男なんじゃないだろうか。自分では、自分と一緒になって姉の暴走を食い止めてくれる自分側のタイプ、と言っていたけれど。私は、案外高清水くんはこの姉妹と波長の合うタイプの男だと思うのだが。性欲はまあなんとかなる……ならんか。やっぱり、佐藤とその寮のメンツくらいの変態性がないと持たないのか。
【有明の狼】
白粉の夢とは言え、それだけ半額弁当奪取戦とこのお祭りには共通性があるということなのか。レギュラーが茶髪、坊主、顎髭だというのは、白粉の認識の中で彼らの比重は他の二つ名持ちの狼たちよりも大きいからなのか、単に身近だからなのか。顔見知り程度、という距離感がいいのかな。
【間食版4 その存在価値】
間食版は、槍水先輩が新米のぺーぺーで先輩たちに囲まれて居た頃のお話である。こうして見ると、槍水仙って烏頭というひねくれた先輩に、最初はちゃんと可愛がられてたんですよね。性格は悪いけれど、烏頭は烏頭なりに仙を育てようとしていて、仙もそれに応えている。理想的な先輩後輩とは、相性も良くないし、行かなかったんだろうけれど、それでもちゃんとした先輩後輩ではあったんだな。
あと、酢豚とパイナップルの関係は知らなかったよ!!
【白粉花の年末】
……血迷ったことを言うようだが、【獣道】って凄く面白そうじゃね? アンさんの紹介記事が抜群に上手いからなのか、普通に白粉の本が面白いように見えてしまったw
そして、白梅が持ってきてくれたサンドイッチとサラダの美味しそうなこと美味しそうなこと。ただのサンドイッチとサラダのはずなのに、なんでこんなに美味しそうに描写できるんだ!?
どん兵衛の描写も去る事ながら、この作者の美味いもの描写はオリジナル弁当のみならず、むしろこうした普段から食べて味を知っている軽食やジャンクフードの時こそ引き立つのかもしれない。
【だいたいいつもそんな感じ】
佐藤と著莪の平常運転だそうである。特にオチやら前フリがあるわけでもない日常ネタだそうである。
何と凄まじい日常生活風景だよ!!
佐藤の両腕が著莪の胴にゆったりと巻き付けられてきた。他に誰もいない家の中で、二人きり、しかも風呂あがりという状況でこのしっとりとした空気感。ってか近い、距離感がチカすぎるよ、あんたらは!!
「……なんだよ」
佐藤は応じず、膝立ちのまま寄りかかるように体を密着させると、著莪のうなじに唇をつけるように長い金髪に顔を埋めてきた。鼻から大きく息を吸い、そして吐き出した彼の吐息がくすぐったい。
「少し……こうしていたい」
あまりはっきりとは言わなくても、佐藤がこうして自分の髪に鼻をうずめて犬のように匂いを嗅ぐのが好きなのは、著莪も流石に知っている。だが、ここまでストレートにされたことはあまりなかった。
著莪はグラスを傾けながら苦笑する。
「別にいいけど、今日のは佐藤のと同じシャンプーとトリートメントだよ」
それでも……こうしていたい。それはいつものような張りのない、佐藤の声。でも、耳のすぐ近くで囁かれると、どこか重みがあるように聞こえた。
この後、普通に二人ちゅっちゅしてますし。キスするくらいはもうなんでもない事なんですよね、この二人。
【やっぱりいつもこんな感じ】
ノーブラTシャツ一枚とショートパンツの著莪と一緒にお風呂に入って抱き合うお話。
いやマジでw
結構……いや、滅茶苦茶エロいです、この話。著莪と佐藤の二人の話は大概エロいんですが、そろそろ限界突破しだしてる。ってか、エロ漫画の領域です、もう。
【間食版 特別編 いい塩梅】
ウィザードこと金城って、わりとくたばってるシーンの印象が強い。最初期の、弁当をダッシュしたものの力尽きて路端で倒れ伏しながら弁当を食ってた、というシーンが焼き付いているからか。倒れても倒れても弁当を離さない、という姿が結構ウィザードのイメージアップに貢献しているような気がする。ああいう姿勢がないと、容易にスカした兄ちゃんになってしまいそうなくらいスタイリッシュで格好良い人だもんなあ、金城って。
【波の音】
著莪と佐藤が二人で遠出して初日の出を見に行く話。この話で著莪と佐藤が、物心付く前から普通にチュッチュしていたという事実が明らかになる。というか、高校生になった今でも同じようにチュッチュしていることが明らかになる。ってか、初日の出を見ながらチュッチュする話である。
……さて、一体誰がどのようにしたらこの二人の間に割って入れるんだ?
【白梅梅】
白梅梅の愛情が、決して浮ついた思春期の迷いだったり勘違いだったりするのではなく、人生を賭けた熱量の賜物だというお話。その恋は本気であり、その愛は本物である。たとえ、それが同じ女性へ向けたものであったとしても。たとえ、未来に待っているのがどれほど困難で世間から認められない苦行の道だったとしても、既に覚悟は完了しているのでありました。ここまでガチで、冷静に理性的に覚悟しているのなら、むしろ応援したくなる。いいんじゃないですか、その道を征くは。梅さんは、けっこうイイお嫁さんになれるタイプの人だと思ってたんで勿体無いっちゃ勿体無いのだが。ってか、唯一彼女だけは佐藤とくっつける可能性があると思ってたんですけどね。梅なら、著莪も咥えたまんま佐藤を踏みつけられるし……って、発想が沢桔梗の方に走ってる走ってるw
ところで、本作ってちょっとアレを思い出します。
【バニラ A sweet partner】。作者のアサウラさんのベン・トー以前のガチ百合ガンアクションピカレスクロマンの良作。またこの頃からすると随分と違った道に進んだものだなあ、と感慨深い。また、こっち方面も読んでみたいところですけどね。
シリーズ感想