【ダンジョン・ザ・ステーション】 大泉貴/ 紅緒 LINE文庫エッジ

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迷宮主(イニシエーター)を名乗る謎の人物の宣言により、突如新宿駅は、底の見えない巨大迷宮と化した。
そこには駅員(ガーディアン)と呼ばれる危険な怪物も出現。
国は迷宮駅攻略のために探索員制度を制定するが、どうにも個性的な強者ばかりが集うように。
最強の殺し屋聖女、常に眠い魔法使い幼女、元救世主のステゴロヤクザ、謎多きアイテムコレクター。
そしていま、行方不明になった妹を探す少年が一人、混沌とした物語に足を踏み入れる。
迷宮駅の大いなる秘密をその手に携えて。
新宿駅で繰り広げられる果てしなき冒険譚が––ここに始まる。

現代人にとっては、いきなり洞窟型ダンジョンが現代日本に出来ました、というよりも梅田駅や新宿駅が迷宮化しました、と言われたほうが具体的なイメージは湧くんだろうな、というくらいには昨今、ハブステーションのダンジョン化が描かれる機会がある。本作はそんな中でも直球というべき、新宿駅がダンジョン化してしまった世界のお話なのだけれど、何気に新宿のダンジョン化というのはメインではあっても全てではないっぽいんですよね。そもそも、なぜか探索員の中に現れる異能の持ち主とか、ダンジョンに潜るようになってから発現したものではなくて、元々そういう能力を持っていた者たちが……という展開みたいだし。
あらすじにもあるような殺し屋聖女、魔法使い幼女、ヤクザの兄貴とみんな実のところそれぞれに主人公張れるような独自の世界観とバックグラウンドストーリーを有している。様々な設定群が盛りだくさんに詰め込まれてるんですよね、本作って。
惜しむらくは、その詰め込んだ設定を突っ込んだ奥から表までろくに引っ張り出せなかった、というところか。無計画に押し入れに突っ込んだモノは、取捨選択して好きなものだけ取り出すということは出来ない。せっかくの設定なのに、みんなそういう背景を持っている、という話だけでそれぞれ全然掘り下げるだけの物語的な余裕がなかったもんだから、場合によっては異種格闘技戦的なごった煮の戦闘シーンが見れたかも知れないのに、大した特徴ある展開もなくそのまま押し流されてしまった感がある。ストーリー全体が急ぎ足だったせいか、個々の掘り下げも結局大してないままだったし。
そして肝心の新宿ダンジョンについても、主人公が持っていた情報の価値が殆ど活かされないまま潰されちゃったんですよね。せっかくの、未知の戦闘法だったラッシュも、ただ肉体強化の倍率をあげていくだけでひどく単純なパワーアップでしかなかったんですよね。これで、様々な方向に能力を拡張してけたりしたら、色んな事が出来るようになって面白かったんだろうけど、これだと単にステータスの数値があがるだけで、発展性が全然なかったもんなあ。
主人公の目的である妹の捜索も、思わぬ形で決着ついちゃったし、シスターと妹の関係というか因縁も思ってたよりもかなり拗れてた割にこうねちっこい関係性は見当たらなくて、さっくりしちゃってたからなあ。
とにかく、一通り起承転結を形作って一先ずの決着を、という意識が強かったのか全体的に急ぎすぎて、腰を据えた形でのじっくりと描かれるべき部分がおおむね急かされてしまっているので、ほとんどのところが中途半端で終わってしまった感がある。
あれこれと詰め込んだ設定が、練られているぶんひどく勿体ないと感じさせられてしまう作品でした。

大泉貴作品感想