ディエゴの巨神 (電撃文庫)

【ディエゴの巨神】 和ヶ原聡司/黒銀 電撃文庫

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新大陸の発見に沸き立つ変革の時代。海洋国家スピネイア王国に住む青年ディエゴは、違法とされる陰陽術の研究を進めていた。そのことで彼は、力の出所を疑う謎の娘に襲われ、さらには神聖教会にも目を付けられてしまう。打つ手のないディエゴは、腐れ縁の友人アルバロと共に、新大陸遠征軍の船に乗り込むことを決める。
黄金の大樹がそびえ立ち、巨神が森を守る新大陸。そこで二人を待ち受けていたのは、水の檻に囚われた少女レラだった。遠征軍のホアキン船長の命令で、陰陽術を使い少女を檻から出す方法を探るディエゴ。だがレラの目覚めと共に、スピネイアで襲撃してきた娘ローゼンが現れる。彼女が駆るのは、森の巨神“タンカムイ”。ディエゴは海洋国家と原住民族との大いなる戦いに巻き込まれてゆくことになり――?

【はたらく魔王さま!】の和ヶ原さんがデビュー作以外で初めて手掛ける新作は、大航海時代の新大陸もの。と言ってもこの地球世界のそれではなく、別の世界の話ではあるんですがベースは殆ど史実を踏襲しています。海洋国家スピネイアはスペインですし、新大陸を発見した冒険家コロンはコロンブスですし。
そして、旧大陸人が一攫千金を求めて新大陸へと上陸すれば、起こるのは略奪と殺戮という侵略と収奪の歴史なのであるけれど、この新大陸の原住民はただやられるだけではなく、巨神という銃も何も通じない巨大兵器を持って侵略者たちに対抗し続けている、というのが現状。
そんな中、主人公ディエゴは長年続けていた異国の呪術の研究を教会に異端として目をつけられたことで、友人のアルバロと新大陸へと新兵応募にかこつけて逃れてきて、そこで旧大陸では気づかなかった、知らなかった様々な現実に向き合うことになるのである。
そう、これは個々人がそれぞれに抱えている夢と現実が対立し火花をちらし、そしてすり合わせていくという大航海時代というロマンとは裏腹の、己と世界の現実と向き合う話なんですよね。狭い世界を飛び出して、広い世界を知ることで逆に現実に向き合わざるを得なくなる、という話なのだ。その意味では辛辣な話でもある。でも、自分の世界に閉じこもっているだけでは決して得られることのできなかった見地でもあるんですよね。
主人公のディエゴは未知の呪術の研究に取り憑かれた、ある意味夢追い人ではあるんですけれど、その大きな望みの源泉は決して浮かれたものではなくて、むしろ切実で痛切で後悔と絶望から来るもので、雲をつかむようなものであっても、より良き未来を世界にもたらそうという大望であったんですね。しかし、その願いをもたらそうと彼が研究していた手段は、彼が望んでいた世界をもたらすどころか、むしろ破滅をもたらす代物であったのだという現実を、新大陸に渡って思い知らされることになるのである。ローゼンも、コロン提督もそれぞれの立場と考えで、自分の寄ってたつ世界を守ろうとする現実と戦う人たちであったのだ。その事実を前に、ディエゴもそしてアルバロも、新たに知ったこと、広がった自分の世界を元手にしてもう一度、自分の戦うべき現実を見定めていく。
こういう、自分の世界を変えることを恐れない、恐れてもなお前に進んでいけるのは若者の特権だわなあ。個人的には、色々と独学で学んだ陰陽術やコロンへの反発など拠り所となるものが最初からあったディエゴよりも、本当に何も持たないところから自身の努力で語学を学び、そして自分の知らなかった世界の残酷な事実を目の当たりにしてそれを素直に受け止めて、自分の欲と絡めつつもすごく善良な想いを胸に秘めながら、着実に自分の出来る範囲で、しかし範囲を広げようと頑張りながら、世界を変えていこうとしているアルバロの方がどちらかというと好ましかったですねえ。あの子がむしろアルバロの方に惹かれたのもなんとなくわかるのである。あれ、なかなか積極的なアプローチじゃないですか。アルバロ、撃墜されたんじゃね?
一巻でまとめたせいか、作者の微に入り細を穿つ情景描写や仕草の描写、丁寧な心の動きを描く心理描写など、やや影を潜めるか後半まで駆動が鈍い感じがしたのがちと勿体なかったかな。それでも、後半になってぐんぐんと物語が動き出したあたりはさすがである。
一応、これ一巻でキレイに完結してるっぽいですね。続編は話的にも出しにくいか。

和ヶ原聡司作品感想