ノロワレ

ノロワレ 参 虫おくり3   

ノロワレ 参 虫おくり (電撃文庫)

【ノロワレ 参 虫おくり】 甲田学人/三日月かける 電撃文庫

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―死ね。死ね。天井から聞こえる微かな物音。少年の意識には、その音が狂おしく囁いているように思えた。そして…。社で始まる「虫おくり」祭りの準備中、街では蜂の被害が広がっていた。その被害は特に、七谷地区よりも深い山奥にある棄谷という集落で酷くなっている。棄谷には信乃歩の読書クラブの友人と自殺したという少年が住んでいた。少年の家族は引っ越してきて以降ずっと、この集落に馴染めなかったらしい。そして少年を虐めていた人間がまた一人、蜂の犠牲になっていく。果たして呪いと虫おくりの関係とは―。甲田学人が放つ呪いの物語、第3幕!
蜂は嫌ぁぁ!! 虫は全般に苦手なんだけれど、特に苦手なのが羽音を立てて飛んでくる虫。中でも蜂だけはあの「ぶーん」という音を聞いただけで身を竦ませて固まってしまうほどの大の苦手なので、今回の話はひたすら「うぎゃーーーーっ!」と耳を押さえて七転八倒したくなるものでした。勘弁してくれ。もう蜂に集られて刺される描写のエグいことエグいこと。ラストの惨劇なんか、もっと酷いことになってたと思ったのに、あの被害で済んだというのが信じがたい
ただ今回は蜂の恐怖という以上に胸糞悪かったのが、呪詛の被害者となる人間たちの悪意の方でした。この作者の描く作品のホラーの被害者って、当人には殆ど責任のない理不尽な理由で巻き込まれ、無残極まりない目に遭うケースが多くて、だからこそ悲惨さや恐怖感がいや増す面もあったと思うのです。ところが、今回の被害者たちは、これは自業自得だろうと思ってしまうような吐き気のするような悪意を、一切の呵責なく垂れ流しにしていた上に、自分たちの行いについて最後まで省みることなく一方的な言い分を吐き出しているばかりで、こいつらが呪詛に見舞われることに関して、恐怖を感じるどころかむしろ当然の報いだろう、と思ってしまうほどだったんですよね。それどころか、被害がこの程度で済んでしまった事に鬱憤がたまってしまうほどに。自分でも嫌な感じ方だと思うのですけれど、一つの家族をあそこまで惨たらしく破壊して破滅に追い込み死に至らしめた連中が、自分たちの所業に何の痛痒も感じず正しさを信じたまま、何も変わらないまま終わってしまったというのは、これこそ理不尽極まる話のように思えてくる。ただ一人、正常な感覚で一連の出来事を捉えていた猿枝だけが、恐怖と罪悪感に囚われ、おそらくはこの後の人生もずっと後悔を抱えたままであろうというのは、やっぱり理不尽じゃないですか。確かに、彼女だけはまともな人間性をこれから育んでいけるかもしれませんけれど、少なくともこの棄谷という排他的な集落では、そのまともな人間性というのは彼女に何の幸せももたらしてくれないんですよね。このコミュニティーの中では、あの狂い果てた腐臭のする反吐のような感覚の方が正しく、それに基づいて動いているこの集落の人間たちは、それ故に概ね日々を平穏かつ幸福に過ごしていくのですから。正しい人間性なんて、持っている方が地獄です。最悪ですよ、なんだこれ。
前回とは全く違う意味で同じ言葉を繰り返したい。死ななきゃいいってもんじゃないですよっ!

1巻 2巻感想

ノロワレ 弐 外法箱3   

ノロワレ 弐 外法箱 (電撃文庫)

【ノロワレ 弐 外法箱】 甲田学人/三日月かける 電撃文庫

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「また自分の知らない風習か…」
同級生・日高護の祖母の葬式に出席した真木現人は、そこで騒ぎに巻き込まれる。部外者であるはずの少女が発したこと―それは日高が過去に祖母から聞いていた『神様の入った箱』を差し出せというものだった。一方で現人の双子の兄・夢人は、その箱と同時に日高の家系にも興味を持ち始める。それは七谷という土地で脈々と引き継がれている『憑き物筋』で、呪いの本尊をその箱に収めているという。兄の話に怒りを覚える現人だが、呪いはすでに浸蝕を始めていた。現人が通う高校に巻き起こる怪異、そして―。甲田学人が放つ呪いの物語、第2幕。
昔、漫画【うしおととら】で、お外堂さんという箱に入った妖怪を遣う外堂使いなる女性のキャラクターが出ていて、その時は箱に入った妖怪というものを変な設定の妖怪だなあと不思議に思っていたものですけれど、今思うとこれがまさに「憑き物筋」の呪物だったんだなあ。あの漫画では直接の攻撃手段となる使役獣みたいな扱いだったけれど、これは少年漫画のバトルようにアレンジされたものであり、正しくは呪詛をもたらすための呪術の要であったのだろう。これは「犬神」のたぐいも似たような扱いをされることが多いので、むしろうしとらの外堂使いは非常に緻密な設定に基づいていたとも言える。祖母から孫娘が箱を受け継いだ、というのも単に女性のゲストキャラを出したいからではなく、キチンと女系に受け継がれる憑き物である、という流れだったのだ。
しかし、うしとらでは「憑き物筋」が忌避される存在であるという事は巧妙に避けて描かれていた。そもそも「憑き物筋」については言及がなかったですしね。ただ、無視するのではなく巧妙に直接は触れないように、しかし言外には忌避され畏怖される存在であるというのを匂わしてはいたので、その辺りはやはり巧妙だなあ、と。
自分が始めて「憑き物筋」というものについて知ったのは、京極夏彦【姑獲鳥の夏】が最初だったでしょうか。それまで勝手に抱いていた犬神などのイメージが大きく変わることになったので強く印象に残っています。
しかしこの作品の舞台となる集落、七谷という土地は「憑き物筋」まで内包しているとか、どれだけ多様な因習を抱え込んでいるのか。普通、特別な何かを一つだけ受け継いでいるだけで田舎の村落などそれでキャパシティが一杯になってしまいそうなものなのですが、この土地には通常の寺や神社と違う筋の巫女さんが地縁を統べているようですし、胡散臭さが尋常ではない。なまじ、本物っぽいだけに尚更に。
ただ、この作品が本当にしんどいのは、こういうオカルトサイドの闇深さやおどろおどろしさよりも、普通の人間たちの粘性の強すぎる剥き出しの負の感情なんですよね。今回については、日高の亡くなったおばあさんの偏執的なまでの嫉妬深さが、伝聞を聞くだけでもしんどい。この手の嫉妬って、直接当人のコンプレックスからくるものならまだいいんですよ。でも、その嫉妬心が当人の努力や行動で賄えるものではなく、今回のように孫と他者との比較から燃え上がるようなものだと本当に質が悪い。嫉妬心を自分だけで抱え込むのではなく、それを自分の写身となる対象者へと押し付けることになるのですから。
このお婆さんは特に酷い。聞いているだけで胸が悪くなるような酷い罵倒をずっと幼い孫に聞かせ続けていたんですから。よく、彼が根性歪まなかったものだと思いますよ。善悪の区別なくもろに感受してしまう幼い頃はどうあれ、高校生になった彼は非常に健全なメンタリティの持ち主で、祖母の悪影響と思しき性格の歪みは殆ど見受けられなかったのですから。
この作品の本当にエグいところは、因果応報、じゃないところなのかもしれません。まあこの作品に限らず、甲田さんの作品は大概そうなのですけれど、悪いことをしたから報いがあるのではなく、別にその当人が善人であろうと悪人であろうと無関係に、何も悪いことをしていなくても平等に「惨劇」の餌食になるんですよね。それこそ、ホラーの犠牲者の法則すらも鑑みないほどにのっぺりと飲み込んでいくのです。こいつ、ここまで酷い目に遭う理由があるのか? と愕然としてしまう。そう、理由なんて「たまたま触れてしまった」という以外無いに等しいんですよね。それも、意図して触れたわけでもなく、それこそ向こうから車が突っ込んできた此方に責任が皆無な交通事故並に。
犠牲者に罪科が殆ど無い惨たらしい地獄絵図は、読んでるこっちもゴリゴリと精神が削られていきます。
これで、せめて現人が主人公らしい働きをしてくれたらいいんですけれど、コイツときたら始終イライラと刺々しい空気をまき散らしているばかりで、空気の悪さの現況は半ばコイツなんじゃないでしょうか、と思うほど。ここまで不機嫌で居続けて、しんどくないんだろうか、この子は。正直言って、夢人の方が悪意があろうと歪んでいようと粘性自体は少ないので不快度はないんですよね。感情をコントロールできず、自分の中の鬱屈を持て余して飲み込めない現人の方が見ていてしんどいです。若さ故の未熟な部分なのかなあ。しかし、この感受性豊かな時期に、これだけ人間不信を加速させるような出来事ばかり続いたら、このままおとなになってもより内向きに刺々しさを尖らせていきそうで、なんとも暗澹たる気分です。
ところで、今回登場した表紙にもなっているおみこさまの後継者の娘は、本作のヒロイン役になるんでしょうか。一応、歴とした能力もあるようですけど、一方で精神的に閉塞してしまっている点については現人サイドの人間のようですし、周りに理解者がおらず孤立しかかっていた現人サイドのヒロインとして、今後も本格的に関わってきそうな予感。もっとも、現人と打ち解けたり仲良くなったりする様子が全く想像出来なくもあるのですが。
今回も……誰も死ななかった? でも、死ななきゃいいってもんじゃないですよっ!

1巻感想

ノロワレ 人形呪詛4   

ノロワレ 人形呪詛 (電撃文庫)

【ノロワレ 人形呪詛】 甲田学人/三日月かける 電撃文庫

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双子の弟・真木現人は兄の夢人のことが嫌いだった。主人公の虐めと呪いをテーマにした小説『呪験』で十五歳にして作家になり、上京した夢人。そして、その内容に影響された殺人事件により帰郷するのだが、彼は七屋敷薫という婚約者を連れていた。―七屋敷は呪われている。七屋敷の花婿は、呪いによって、二年と経たず早死にするのだ。そんな『呪い』が噂される婚約だが、夢人は嘲り笑いを浮かべるだけだった。そして、夢人を尊敬し慕う妹の信乃歩に、彼らを蝕む呪いの物語が、静かに始まりを告げていた―。甲田学人が放つ呪いの物語、開幕。
うわぁ、ヤバイヤバイヤバイ。本邦屈指のホラー作家甲田学人の新シリーズは、もうのっけからヤバイ感じが荒れ狂っていて、もうやだ怖い。
前回が「童話」をテーマにした物語だとしたら、今回は「呪い」をテーマにしたお話なのでしょう。その導入というべき第一巻は、呪いの中でも最も有名でありましょう人形に纏わる呪詛。なにしろ、主人公(?)となる夢人からして、「呪い」を蒐集している人物であるからして、そりゃあわんさと呪いも集まるでしょうよ。
そんな呪詛に纏わる物品や逸話を集めたり関わったりして、夢人本人がノロワれないのか、呪いが恐ろしくないのか、と当然のように疑問に思い、その性格の破綻具合に戦々恐々としていたのですが……彼が呪いを求める理由の正当性を知ってしまって、頭を抱えることに。こりゃあいかん、呪いが効かないと確信していたり舐めてるわけじゃなく、むしろ相当に切実な理由があるじゃないですか。どんだけ切羽詰まってるんだ。あまりに切羽つまりすぎて、おかしくなってるとも言えるのですが、むしろ精神がおかしくなってないと耐えられないんじゃないかという状況でもあり、とにかくヤバい。
どう見ても性格破綻者、異常者の類か異端者かと思われた夢人のロジックが、真相が明らかになることによって完全に筋の通ったものだとわかった時には納得すると同時に背筋が震えました。そりゃあこんな事情を抱えていたら性格も歪むよ。
でも、考えてみると夢人が抱えている事情って、地獄が信じられていた時代にはすべての人間が置かれ抱えていたものでもあるんですよね。悪いことをすれば地獄に落ちるよ、という考え方を今の人は多分軽く捉えているけれど、かつて地獄や極楽といった死後の世界が本当に信じられていた時代においては、地獄に落ちるという末路がどれほど真剣に、深刻に恐れられていたか。地獄という世界の悲惨さ、無残さ、残酷さの描写は調べてみると想像を絶するものがあります。凄いですよ、マジで。よくまあ、こんな残虐な刑罰を思いつくな、と感心するくらい。これを死後、実際に味わうのだと信じていたら、とてもじゃないけど悪事なんて働けませんよ。
尤も、生前から地獄堕ちを決定づけられている人間なんて居ないわけで、それを思うと夢人が置かれている立場というのは悪夢どころじゃないんでしょうけれど。

しかし、いつ殺戮がはじまるかと震え上がっていたんですが……あれ? あれれれ!?
誰も死ななかったぞ!?
……誰も死んでませんよ!?
えええええええ!?
ちょっ、このパターンだと最低でも関係者は全滅。無関係な人が巻き込まれて死ななかったら御の字、という普通四、五人は死んでておかしくない展開だったのに。まあ、そのペースで人が死んでいくと、この村や学校から住人が居なくなってしまいかねないんですが、それでも誰も死ななかったことに安心を覚えるのではなく、むしろ不安を覚えてしまうのは、甲田作品に慣れ親しんでしまった証拠なんでしょうか。
だって、いつ地獄絵図がはじまるか、爆発寸前の爆弾が燻ってるようなものじゃないですか。しかも、ほぼ確実に爆発する予定のw

もう一つ以外というか虚を突かれたのが、夢人の婚約者である七屋敷薫が思いの外まともな人だった事。なにげに妹や現人と比べても、普通にまともな考え方の人だったんじゃないか? 勿論、あの夢人の理解者という時点でどう間違っても普通でもマトモでもないんですが。

甲田学人作品感想
 

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