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マグダラで眠れ

マグダラで眠れ 8 ★★★★   

マグダラで眠れ (8) (電撃文庫)

【マグダラで眠れ 8】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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 Kindle B☆W
クラジウス騎士団の追っ手が迫る中、クースラたちは、フェネシスの一族"白き者"たちが起こした大爆発により、一夜で滅んだという旧アッバスに向かうことに。
空からやってきたという白き者の真相を明らかにすることで、クースラたちは彼らの行方を探ろうとする。空を飛ぶ方法、なぜ町が滅んだのか――全ての謎を解き、真理のさらに奥へ。そしてその先にある、理想の世界「マグダラの地」を目指して。
仲間たちとの実験と研鑽の日々に、心地よさを覚えるクースラ。だが、クースラたちの持つ新たな技術を狙ってアイルゼンが現れたのだった――。

これもうクースラ、フェネシスのこと好きすぎじゃね? とりあえず寝る時は常時抱きまくらなんですね? 眠らない錬金術師を安眠させる抱きまくら、素晴らしい。
あれだけひねくれていたクースラに、これだけ素直に、を通り越して赤裸々にお前が大事だ、大切だ、離したくない、という内容の言葉を連呼させるフェネシスって考えてみると凄いよなあ。クースラ、自分がどれだけ恥ずかしいこと言ってるか自覚がないのか、それとも恥ずかしいとも思わなくなっちゃってるもんなあ。ある意味男をダメにする魔性の女、とも言えるのかもしれないけれど、ダメどころか男としても錬金術師としても柔軟に成長させ、奮起させる燃料になっているわけで、とびきりのイイ女と賞賛するしかない。
とはいえ、アイルゼンに窘められたようにクースラのロマンチストとしての側面は恐らくフェネシスとの出会いの頃からしても、加速してるんでしょうね。あの頃のクースラたち錬金術師の好奇心は業や妄執に近いものだったように感じていたので、質としてはより純粋なものに昇華されてきたのかもしれないけれど。
これだけ非科学的な観念を否定し、現実的な論理に基づいた現象による結果を追求する錬金術師、という生業に勤しみながら、クースラたちって決して現実主義者ではないんですよね。あの、白き者たちの起こした大爆発の理由について、彼らが幾つもの推論を熱く語る中に一度たりとも「事故」という要素が出てこずに、本気で違う土地へと空を飛んで旅立って行ったのだ、というのを信じているのを見てると、こう凄くロマンチストなんだなあ、というのをしみじみと思ったんですよね。そして、今の彼らはまさにその思い描くロマンを実現してきた只中に居たんですよね。だとすれば、自分たちのロマンに酔いしれていた、というのも宜なるかなというものじゃありませんか。
それに冷水を浴びせたのが、アイルゼンだったのですが。
残酷なようですけれどアイルゼンの提案というのは、ビックリするくらい友好的だったと思うんですよね。友好的どころか親密ですらあったかもしれない。現実を見ろ、という彼の言葉は辛辣ではあるものの、提案の内容を含めてクースラたちがショックを受けるほどにはクースラたちをぞんざいに扱ってないと思うんですよね。利用する、駒として使うみたいな冷めたものではなく、もっとこう「自分とも遊ぼうぜ」というような、いつまでも自分たちだけで遊んでいないで、現実を見て、その上で己のフィールド上に舞台を用意するからそこで一緒に遊ばないか、というお誘いだったと思うのである。もちろん、有無を言わせぬ断る余地を持たせないものではあったのでしょうけれど。
だからこそ、最後のクースラの発見であり概念の大どんでん返しであり、堂々としたあの宣言は、アイルゼンの提案に対してあんたの舞台で一緒に遊んでやる、でもその舞台そのものをあんたの知ってるものとは根本からひっくり返してしまうことになるだろうけど、もちろん付き合うよな!?
という、逆にお誘いを掛けるようなものに見えたんですよね。反抗でも対立でもなく、共犯者であり同志であり仲間へのお誘い。固定観念であり生きる上での土台となっていた概念を揺さぶられ、それが覆されていくのを楽しいと思ってしまう業。そう、アイルゼンもこれに乗ってしまう以上、書籍商のフィルさんと同じになってしまうわなあ。

白き者たちの行方。それに大胆な仮説を示し、この世の常識を引っくり返す大勝負に錬金術師として、いや科学の徒として、というべきか。挑む決意を固めたクースラたち。
これにて白き者たちの軌跡を追いかける第一部は完結、という形らしい。どうやらこれで完結ではなく、まだ第二部が続く可能性はあるみたいだけれど、ともあれ人として完全にダメでアウトな人間だったクースラたちが、一皮も二皮も剥けて真っ当な夢追い人になっていくさまは、フェネシスにずぶずぶにデレていく様子も含めて非常に楽しかった。
より大きいスケールの常識を覆す錬金術師としての大勝負となるだろう第二部も読みたいですねえ。

シリーズ感想

マグダラで眠れ 7 ★★★★   

マグダラで眠れ (7) (電撃文庫)

【マグダラで眠れ 7】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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錬金術師たちの次なる目的地は、太陽の召喚により一夜で滅んだというアッバスの町。クースラは、長く旅を続けていく中で巡り合った旅の同伴者たちに、居心地の良さを感じていた。その気持ちを振り払うかのように、天使が残した『太陽の欠片』の調査を始めるクースラの前に、書籍商を名乗る男フィルが現れる。フィルもまた異端審問官アブレアが残した伝説の足跡を追っており、アッバスの町に古くから伝わる『白い悪魔の生贄の儀式』こそがその手がかりではないかと語る。儀式が行われる祭壇を調査するうちに、伝説の真相に近づいていくクースラたち。だがその時、思いもよらない事態が彼らを待ち受けて―?
ああ、この書籍商のフィルってスピンオフ作品の【少女は書架の海で眠る】の主人公だったフィル少年なのか。そりゃ、クースラとも意気投合するよなあ。おんなじタイプの業の持ち主だし。クースラとしても一番共感を持ててしまうタイプの夢追い人なんじゃなかろうか。
しかし、随分とふくよかというか貫禄がついてしまって。すっかり青臭さは消えて強かな商人らしさを纏うようになったけれど、むしろ自信と実力がついた分、思う存分夢を追い掛け回しているようなキラキラしてる感が出ていて、充実してるんだなあ、と。
しかし、フィルがこれだけ大人になっているとなると、あの作品でヒロインだった少女はどうしてるんだろう、という方にやっぱり意識は向けてしまうわけで。その話はあるのかなあ。

さて、クースラたちの旅だけれど本当にクースラは丸くなった。彼だけじゃなくウェランドまでがすごく安定してきてるんですよね。フェネシスのことだけではなく、ウェランドとイリーネの四人をひっくるめてこうして一緒に旅をし、謎を探求する時間を掛け替えのないものと感じ始めたクースラ。餓えた獣のようにガツガツと真理を探求し続けていた危険な男の陰はそこにはなく……しかし、当人たちのメンタルが安定するのとは裏腹に、彼らをひごしてきた神殿騎士団の方がどんどん立場を崩壊させてってるんですよね。竜のカラクリを復活させたことで、現地の北方派遣軍の方は持ち直したものの、現場の勝利だけではどうにもならない大きな事態が本拠の方で起こり、その激動の余波がクースラたちの元まで押し寄せてくることになるわけだ。
クースラが見つけたマグダラは、まだ容易に失われかねない脆いもので、見つけたからこそクースラは必死でそれを守らなくてはいけなくなったのだけれど、それを楽しく嬉しいことと思えるならば、幸せなんだろうなあ。
いや本当に、ちょっと幸せ満喫しすぎてませんかね、クースラさんw
もうフェネシスに対してデレッデレじゃないですか。友達と別れることになったり、色々と心細い環境になることで落ち込むだろうフェネシスに、俺を頼れよっ、なんて言って慰めようと、イリーネにアドバイスまで貰ってキリッと待ち構えていたのに、成長したフェネシスは全然頼ってきてくれなくて、めっさ拗ねてるクースラさんがちょっと可愛すぎやしませんかねw 構ってちゃんか!
でも、変な見栄をはらずに自分をごまかさずに、素直にイリーネに頭さげて助言してもらったり、自分からフェネシスにイチャつきに行ったり、とこの男わりとストレートなんだよなあ。賢さを抉らせて迂遠に自分たちの気持ちを偽りまくっていたホロとロレンスのカップルと比べると、ほんとこのクースラとフェネシスは不器用だけれど分かりやすくイチャイチャしてくれるので……いやまあどっちも同レベルでこっ恥ずかしいんですがw
気持ちに余裕が出来ると、人間関係まで余裕が出てくるのかウェランドとさえ、なんかイチャイチャしはじめるし。なに、この思わず目があったら微笑み合ってしまうような熱々さはw おまえら、もっと刺々しい信頼できるのは錬金術士としての在り方だけで、人間的には殴り合い殺し合い上等、な関係だったのにいつの間に、こんな普通の親友みたいな関係になってたのかしら。
まあウェランドからして、ヤクキメてるんじゃなかろうかというくらい危なっかしい何をしでかすかわからない剥き出しの刃物でお手玉してるようなヤバイ感じがしてたのが、いつの頃からか気心がしれて背中も預けられる、うまいこと気も使ってくれて、フェネシスやイリーネと拗れかけても仲裁してくれたり、と頼りになる人になってたもんなあ。
まったく、恥ずかしいくらいに息の合う関係になっちまって。
人間関係も充実してしまったクースラですけれど、それと錬金術士の業はまた別で、新しい発見を前に実験に嬉々として没頭する姿は以前と何の変わりもなく、本質的にクースラもウェランドも純正の研究者なんだよなあ、と改めて思い知ったり。イリーネも、これまた生粋の鍛冶師だし、自分たちのやりたいことをやりまくれるって、そりゃ充実してるし楽しいし、その上で仕事仲間は同志であり友人であり愛する人であり関係は円満極まる、となったらもう……羨ましいくらいに満たされてるよなあ、これ。
でもだからこそ、今彼を満たしているもののどれかが永遠に失われてしまったら、今度こそ悲しいだけでは済まないんだろう。大事なものを見つけたからこそ、それを守るための必死さを得たのだ。

つまり、クースラがフェネシスを好きすぎてどうしようもないw

シリーズ感想

マグダラで眠れ 6 3   

マグダラで眠れ (6) (電撃文庫)

【マグダラで眠れ 6】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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かつて天使に作られた町で紡がれる、ガラス職人の青年と町娘の恋の行方は――。

異端審問官アブレアの足跡を辿るクースラ達は、天使が降臨し、金銀を生み出す灰を授けたという不思議な伝説の残る町ヤーゾンを訪れた。町の教会でアブレアの署名を見つけたクースラは、町に語り継がれる伝説が真実であると確信を得る。
さらにクースラは、調査のため立ち寄った薬種商の娘ヘレナから、ガラス職人たちが伝説を紐解く手がかりを握っていると訊き出す。だが同時に、町を取り巻くガラス職人達と町の間の確執を知ることとなるのだった――。
かつて天使に作られた町で、眠らない錬金術師が恋に奔走するシリーズ第6弾。
クースラ、なんか色ボケしてないか、こいつ(苦笑
浮かれているとは言わないけれど、今のクースラって満たされてしまっているかのようで、かつてのようなガツガツと貪るように錬金のネタにかぶりついていく飢餓感が感じられない。とはいえ、尖り他を顧みないその生き方は危ういの一言で、夢のためなら自分の身も他者の身もまとめて破滅させかねない危なっかしさがつきまとっていたのだけれど、本当に大事なものを手に入れた彼は、随分精神的にも安定して余裕が出てきているようだ。それが、果たして錬金術師としてプラスなのかマイナスなのかは未だわからない。フェネシスという大事なものを手に入れたあとの方が、彼女を守るために実際に大きな功績を手繰り寄せているわけだし。
ただ、フェネシスを可愛いと言うか言わないかで一喜一憂、悩み落ち込み張り切り満足している様子を見ていると、あの「利子」と自称し忌み嫌われた錬金術士も、丸くなったなあ、と思わざるをえない。
なんか、商人としての強かさを練り上げていったロレンスよりも、クースラの方が随分と甘いんじゃないかと思えてきた。フェネシスのことだけじゃなく、まったく無関係で会ったばかりの街の人間の、内紛に関わるような恋模様におせっかいを焼いてしまうとか、思わず自分とフェネシスの関係をカップルに照らし合わせてしまったとはいえ、肩入れする理由としては随分と大盤振る舞いである。むしろ、夢見がちだったフェネシスの方が、現実の厳しさを理解して、二人が結ばれない事は仕方ないことなのだ、と物分りの良いところを見せていたのに。
フェネシスは、クースラについて幻想を抱かなくなった、という点でむしろよりクースラに深く愛情を抱いているのが見て取れるのに対して、クースラはもしかしてフェネシスにもっと自分に幻想を抱いて欲しいのか、と思うような張り切りっぷりを見せてるんですよね。単純に、好きな娘にいいところを見せたい、というだけなのかもしれないけれど、見栄張りを見栄だけで終わらせずに現実に手繰り寄せてしまうのが、彼の凄いところというか、今回については運も良かったのだろうけれど。材料自体は揃ってたわけですし、イリーネも独自に発見してたわけですしね。これはクースラやイリーネが凄いというだけではなく、内部で完結してしまっていると気づかないことでも、外部からの視点で新たな発見があるケース、というものでもあるのでしょう。技術を内部で抱え込むことで、逆に発展を遅らせてしまう、というのはこの作品内でのギルドの秘密主義でも度々垣間見えてることですしね。
ガラス職人のギルドは必要に迫られていたからとはいえ、新たな技術を得ようという意欲がある分、技術を継承するだけに終始して、何一つ付け加えることも許すまいとしていた、イリーネが居た鍛冶ギルドなんかよりも随分マシにも見えたけれど。あれも、ひとつの街に籠る閉鎖的な組織ではなく、街から街に渡り歩く漂泊の性質を備えていたからこそ、外からの風を受ける素養があったのかもしれないなあ。

しかし、これだけラブ寄せしてくるとは、シリーズ当初からは想像もしなかったけれど、クースラの恋愛不器用さは殆ど成長のあとが見られない! イリーネがやきもきしてあれこれと手をつくしてくれるのをもうちょっと申し訳なく思うべきだと思うよ、クースラくん。あれで彼女、複雑な思いを抱えている部分もあると思うし。ただ、クースラが面倒なままな分、フェネシスの方が大人になったというか、この人は絶対に自分を裏切らないという確信を得たからなのか、あたふたと無意味に慌てなくなって、クースラの無様を鷹揚に受け入れることができるようになってきたのも大きいんだろう。でないと、もっと頻繁につまらないことでこじれてただろうし。段々と主導権取られはじめているの、きづいてるんだろうか、この男。

シリーズ感想

マグダラで眠れ 5 3   

マグダラで眠れ (5) (電撃文庫)

【マグダラで眠れ 5】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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炎を吐く竜を使い、カザンの町から脱出した騎士団とクースラたち。港町ニールベルクで各地から逃れてきた騎士団と合流し、起死回生を図ることになる。しかし、ニールベルクにはある問題があった。神の祝福を授ける教会の鐘楼が無いのだ。製造が上手くいかず、作る度壊れてしまうのだと言う。そんな中クースラは、フェネシスの一族の手掛かりを得る。新たな発見に高揚するクースラだが、騎士団から呼び出され、鐘を作るよう命じられてしまう。鐘の製造の失敗、それは即ち、“破滅”を意味していた―。眠らない錬金術師の本格ファンタジー、神に見放された町を舞台にした第5弾!
やはり前回で、一人で生きるよりもたとえ死ぬかもしれなくても二人で居る事を選んだことで、クースラとフェネシスの「二人で生きる」という在り方がより顕著になった5巻でした。ほんとうの意味で相棒になった、と言う事なんでしょうネ。クースラの考え方の前提条件が最初の頃とまるで違っているのです。何をするにしても、まず自分とフェネシスが一緒に在る事を大前提として物事を考えるようになってきていて、同時にフェネシスの扱いも対等に近い扱いに変わっているのです。勿論、彼女の無知な部分や危ういところ、ダメな部分については前と同じく躾けていってる感じなんですけれど、彼女の考え方や発想、自分には理解が及ばない行動についても、非常に信頼を置いているのが随所に見て取れるのです。もう自分と対等の、自分の身を預けることも出来る相棒として認めている言動が常に見えるようになってきた。
それに呼応するように、フェネシスも自分の言動に対して自信を持つようになってきて、面白いというか可愛いことに彼女の場合、その自信が過信になるのではなく、よりひたむきに努力を重ねるようになるのと同時に、クースラに対してうまく甘える事が出来るように繋がってるのです。クースラの反応を怯えながら伺うのではなく、純粋に楽しみ、擽ったがるように噛みしめるようになってきた。
結果として、出来上がるのはイチャラブカップルである……激甘である。
フェネスシを自分の膝の上に座らせて、一緒に読書とか……どれだけやねん!!

ただ、クースラの場合はフェネシスという守るものが出来てしまった分、姿勢に守りが入ってしまい、それが余計に事態を悪化させてしまう、というこれまでの彼ならばまず選ばないだろう悪手を選んでしまうんですね。危険を回避して慎重に立ちまわったところ、逆に進退の効かないところに追い込まれてしまうという形で。
奇跡は、起こらないからこそ持て囃されるものであり、一度現実に起こしてしまえば、それはもはや消費されていく代物に成り果てる。
結局、クースラは自分たちが作り上げた奇跡のあまりに上手く行ってしまったことに調子に乗っていたのだろう。というよりも、自分とフェネシスが二人で生きて行く事に対して、すべての物事が祝福してくれたかのようにうまく回り出したことに、浮かれていたというべきか。
しかし、浮かれたしっぺ返しは順当に彼らを見舞い、しかし彼らが築き上げたものはすべては空虚な代物ではなく、確かに積み上げられ、祝われたものがあったのだという事実も浮かび上がってくる。
冷徹に自分たちを道具として消費し、使い捨てるだろう立場であり人物であったはずの騎士団の上司アイルゼンが、損得勘定とは別の好意をクースラとフェネシスに示してくれたことなど、その最たるものだろう。彼のよううな人間の好意なんて、それこそ神の奇跡に近しいものに見える。
そして何より、守られる存在だったはずのフェネシスこそが、窮地に陥ったクースラを支え、さらに二人で生きる道を拓いてみせた事でしょう。彼女は、クースラの相棒としての自分への信頼に見事応え、さらに二人の間に芽生えているものが、愛情というものなのだということを、この錬金術士に認可させたのです。ほんと、大した女ですよ、このお嬢さんは。イイ女になったなあ。

さすがに最後の詐術は色々と言い訳がきかないものになってしまっただけに、今度は街を離れて旅の空、となりそうだけれど、イリーネとウェランドはどうするんだろう。

シリーズ感想

マグダラで眠れ 44   

マグダラで眠れ (4) (電撃文庫)

【マグダラで眠れ 4】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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「諸君に、帰る場所はない。故に、進む以外に道はない」
 新天地を求め、クラジウス騎士団と共に、改宗宣言のあった異教徒の町カザンに入植したクースラたち。異教徒の技術を得るため、まずは騎士団の手が伸びる前に、町に残る文献を読みあさることにする。そこでクースラたちは、カザンに残る竜の伝説を知る。そんな中クースラたちは、新たな工房を得ることに成功。カザンの町で、仲間四人での穏やかな生活が始まるかと思われた。だがその矢先、彼らにある過酷な運命が降りかかり―?竜の伝説が残る町で、クースラたちは大きな決断を迫られる。シリーズ第4弾!
やだもう、完全にラブラブじゃないですか、お二人さん。
これまではまだイチャイチャ・レベルだったはずなんだけれど、それってまだお互いの反応を手探りで確かめ合うような伺いあう段階とも言えたんですね。意識せずに相手の反応、相手と触れ合い心の動きを楽しんでいるような。
それはそれで十分甘やかな関係ではあったんですけれど、でもまだどちらかというと少し間をあけて眺めている、というレベルの距離感だったわけです。これはクースラだけじゃなくてフェネシスも。自分がいろんな行動を取ることに対して様々な顔、表情、態度を見せるクースラを楽しんで眺めていた、そんな段階だったと思うのです。フェネシスについては、クースラに自分の存在を認めてもらうのに必死だった頃に比べれば、本当に余裕出来たと思うんですけどね、この段階でも。余程、クースラに一杯食らわし認めてもらったことが良かったのでしょう。
ホントにね、この状態でも十分甘やかだったのに……。
あの、二人が別れ別れにならざるを得ないと覚悟し決断した末に、それでも一人で確実に生きるよりも二人で死ぬ可能性を乗り越えよう、という道をクースラが選び、フェネシスが求めた時、苦闘の道を二人で歩こうと決めた時、二人の関係はさらにもう一段深みを増し、距離がなくなり、本当の意味で寄り添う関係になった気がします。具体的にはラブラブに!!
ラブラブに!!
イリーネ姉さんは本当にいい仕事したなあ。なんか、彼女が加わったことで人間関係がすこぶるよどみなく回るようになった気がします。フェネイスも同性の友人であり仲間が出来たことで随分と心に余裕ができたみたいですし、折に触れて面倒くさいクースラやフェネシスの背中を押し、発破をかけ、水をぶっかけて目を覚まさせ、と七面六臂の活躍でしたし。それでいて、彼女自身は隙だらけで何でもできるお姉さんキャラみたいな嫌味もないですし、何というかウェランド含めて四人で一組というパーツにしっかりハマりこんだ感じです。ウェランドも当初の危なっかしさというか何を仕出かすかわからない危険な感じがだいぶなくなって、丸くなりましたしねえ。

これから入植するはずだった侵略した異教徒の地が、それを治める異教の女王が改宗したことで同じ宗門の街となってしまい、戻る場所もなくハシゴをはずされてしまったかのように見えた前巻の終わり。幸いにして、街への入植はそのまま行われることになり、クースラたちはまだ見ぬ新技術や未知の知識を求めて街へと飛び込むことになるのだけれど、むしろ街に駐屯することが出来たせいで袋のネズミに陥ってしまう、という街に入れないというよりも危機的な状況に。入った段階で長居は出来ないんじゃないか、という雰囲気が漂っていましたけれど、状況はさらに予想していたよりも最悪でした。辺境の異教徒を相手に団結していたはずの同じ宗派の味方が、どんな政治的策謀が渦巻いたのか、異教の女王が改宗したことで敵味方が逆転し、異教徒との対決が気がつけば同じ宗門内の異端を討伐する、という形に敵味方をシャッフルしなおして定まっていたという。これは、騎士団としては青天の霹靂もいいところだわなあ。と、同時に政治闘争において完全に後れを取ってしまった、ということでもあり……この辺りの騎士団が異端とされてしまうのは史実のテンプル騎士団そのままか。騎士団が金を握り財務機関として怪物化している、という情報を聞いた時点でああこれはテンプル騎士団だな、と想像はついていたのですが、隆盛を極めていた騎士団の斜陽の時期がこれほど早く訪れることになるとは。クースラたちは、騎士団の庇護を受けていたからこそこれまでかなり自由に立ち回れていたはずなので、今後騎士団が異端認定されて壊滅への道をたどることになったら、クースラたち錬金術師の立場もかなり見通し暗いんですよね。たとえ、今この場を生き残れたとしても、果たして今度いったいどうなるのか。
クースラがようやく、自分が求めているものの具体的な形が見えてきただけに、この四人がバラバラにならずに思うように生きられる場所を見つけ出して欲しいものです。特に今回、フェネシスはかなり危ない橋を渡ったからなあ。悪い意味で世間に知れ渡ってしまったでしょうし。人間関係の好転と進展とは真逆に彼らの置かれた環境がどんどん最悪の方に流れていくのが、心配でたまりません。

1巻 2巻 3巻感想

マグダラで眠れ 34   

マグダラで眠れ (3) (電撃文庫)

【マグダラで眠れ 3】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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ついにカザンの町への入植を許されたクースラたち。鍛冶屋組合の少女イリーネと共に、グルベッティの町を出る準備を始める。しかしその最中、ウェランドが、“錬金術師ではない”という疑いを掛けられ、入植団に加われない危機に陥ってしまう。最初は放っておくしかないと思っていたクースラだが、「仲間を大事にしたい」というフェネシスの熱意に打たれ、ウェランドを助け出す決心をする。そして、“自分たちが錬金術師であること”を証明する方法を探り始めるのだが、これがなかなか難題で―?眠らない錬金術師と白い修道女が贈る本格ファンタジー、シリーズ第3弾。
フェネシスの耳って、猫耳だったのか!! 今まで獣の耳とは言ってたけれど、猫と明言されていなかったような。改めて猫耳、と言われるとガツンと来るものがありますね。曖昧に獣耳と言われてもピンと来なかったものが、急に具体的になってきた。フェネシスはネコミミ少女!!
さて、今回はクースラとフェネシスがお互いに意地を張って冷戦状態になってしまうという、一見修羅場なんだけれども、よく見るとやっぱりイチャイチャしているようにしか見えないというさりげに難易度の高い糖分補給をやってのけているお話でした。
なんか、ロレンスもそうでしたけれど支倉作品の主人公は、というか頭のいい人は自分に良い訳するのが好きですねえ。【狼と香辛料】の場合はロレンスとホロの両方が自分の気持に色々と勝手に理屈付けて決めつけてしまっていたんで、女神父さんにガツンと直言されるまでえらい遠回りしてしまったものでしたが、コチラのクースラもまた自分を定義付けてしまうのが好きなタチのようで、自分では仕切りと冷たい人間であり、フェネシスだって甘やかさないし、なんでもお願いしたらホイホイと叶えてしまうような気のいい人間じゃないんだよナメんな、と斜に構えてカッコつけてるんですが……いやいや、あんたフェネシスにお願いされたら結局何だかんだと全部叶えてあげてるし、思いっきり甘やかしまくってるじゃないですか。そのくせ、自分はクールだからそういう甘いことはやんねえんだが、仕方ないからやってやっただけで、本当は俺はクールな男だから自分がフェネスシのお願いを聞いてやったなんてのは隠しておこう、知られたらいい気になっちまうからなアイツ、とか気取ってるし。
そのくせ、フェネシスに怒って無視されると、イライラし出すわ気にして焦りだすわさり気なくフェネシスの気を引こうとし出すわ……で、実は全部フェネシスにバレバレだったりするし。

おいおい、もしかして端から見てるとクースラって相当に恥ずかしいやつなのか?(笑

とはいえ、フェネシスももうクースラのそういった部分については概ね把握しているようで、手を引かれて導かれる側だったフェネシスが、クースラの性格を読み切って彼をうまく自分の思うとおりに誘導する、なんてことまで出来るようになっていたとは。今回は人見知りスキル全開で、随分と弱い部分を丸出しにしていたフェネシスだけれど、何だかんだと良い感じで強かになり、クースラにおんぶに抱っこではなく、一端に彼の隣に立てるくらいにはなってきたような実感も伝わってきて、何とも微笑ましい限り。今回の一件って、端的に言うとフェネシスが甘え上手になりました、てなもんだもんなあ。これからより一層クースラの甘やかしが過剰になっていく予感すらするぞ。
ちょっと意外だったというか驚いたのが、イリーネが完全にクースラたちの仲間入りをしてしまったこと。もうちょっと部外者的な立ち位置で、カザンまでの旅程に参加してくるのかと思ったら、まさか工房に住み込んで一緒に行動することになるとは。さすがに未亡人のヒロインというのは珍しいんじゃないだろうか。まあ、クースラとフェネシスの間に割って入るようなことはまずないんだけれど。それどころか、クースラとウェランドしか頼る相手が居なくて、いささか逃げ場というか退避場所がなかった感のあるフェネシスにとって、同性で姉御肌のしっかりもののイリーネの仲間入りは、精神的にも随分助かるんじゃないだろうか。まあ、最初は居場所を取られたみたいに、隅っこに追いやられて小さくなってましたけれど。そのあたり、確かに子猫だなあ。でも、イリーネは本心からフェネシスの全面的な味方になってくれるみたいなので、実に頼もしい限りである。フェネシスの秘密についても知ることになったわけですしね。

とまあ、錬金術師たちもこうして四人組となり、新天地カザンへ向けて出発! となった途端に、大変な出来事が。うわぁ……これって、もろに梯子を外されたようなもんじゃないですか。どうすんだ、これ。

1巻 2巻感想

マグダラで眠れ 2 4   

マグダラで眠れII (電撃文庫)

【マグダラで眠れ 2】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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『狼と香辛料』の支倉凍砂が贈る、眠らない錬金術師の物語。
伝説の金属を巡る、第2弾登場!


 異教徒最大の鉱山の町カザンに、近々入植があると気づいた錬金術師のクースラとウェランド。二人はなんとかカザン入植の波に乗るべく、手柄を立てようと画策する。そんな二人のもとに、“伝説の金属”の噂が舞い込んでくる。どうやら鍛冶屋組合の若き長である少女イリーネが、その金属の秘密を知っているというのだが──。
 眠らない錬金術師クースラと白い修道女フェネシスが贈る、その「先」の世界を目指すファンタジー第2弾!!
なんというスパルタな過保護。
フェネシスを招き入れたクースラが、はたして彼女をどんなふうに扱うかについては前巻の終わりから気になっていた所だったのですが、厳しくも優しいクースラの振る舞いに思わず「プリンセスメーカー」という単語が脳裏を踊ってしまいました。いや、件のゲームはプレイしたこともないんですけれど……。
いつか自分の手で生み出したいと願っている伝説の武器。その武器を以て守るべきお姫様となるに相応しい素養を持つフェネシスと出会ったクースラなのですが、この男、伝説の武器を作るための金属を追い求めるのみならず、既に手に入れたフェネシスについてすら全然満足していなかったんですな。満足していない、と書くと不満に思っているようにも捉えられるかもしれませんが、多分フェネシスを不満には思っていないはずです、クースラは。ただ、より輝くように、より理想の姫君に近づくように彼女を磨き上げることに余念がない、というべきか。その方向性が、フェネシスを自立した女性に育て上げる、という方に向いていた事にはちょっと驚かされたけれど。もっと蝶よ花よ、とまではいかないけれど宝物のように大事に扱うか、もしくはもっと容赦なく厳しく接していくか、と思ってたんですよね。
それがどうしてどうして。この男、フェネシスをきちんと一個の人間として扱っているんですよ。勿論、彼の教育はなかなか厳しく、甘えを許さない鋭さに終始しているし、また融通の効きにくいフェネシスをからかってばかりいる。でも、彼の指摘は常に的確であると同時に突き放すことなくいちいち親身で、フェネシスが理解し納得しやすいように言葉を尽くしてるんですね。それでいて、押し付けるのではなく彼女が自分の頭で考え判断できるように配慮している。常に彼女に自立を促し、しかし傍でじっと寄り添いながら見守り続けているのです。
その眼差しは、驚くほどに慈愛に満ちているのです。惜しみない愛情を感じさせるのです。もし、クースラにフェネシスへの独占欲などがなかったら、それが師弟愛や親子愛かと錯覚してしまいそうなほどに。
元々、何かに依存しなければ生きてこれなかったフェネシスは、容易に心を絡めとる事の出来る娘です。人間心理に長けたクースラなら、本当に簡単にフェネシスの心を虜にしてしまえるでしょうし、実際何だかんだとフェネシスの心が自分から離れないようにあれこれと手管を使ってもいます。でも、それでもなお、この男はフェネシスが自分で歩ける自立した女性に仕立てようとしてるんですよね……それが、自分が守るに足る姫であると信仰しているように。まったく、難儀なほど女の好みが贅沢な男じゃないですか。
自分が人を愛せる人間なのだと自覚できた途端に、これだけ潤沢に愛情を注げるようになってしまうのだから、全く大した男です。
フェネシスもフェネシスで、意地悪されからかわれる度に美味しすぎる反応ばかりで、ああもう可愛らしいったらありゃしない。なんだ、このホロとロレンスとはまったくベクトルが違うものの、質量的にはまったく劣っていないイチャイチャっぷりは(笑
何だかんだとお互いに愛し合っていることを認めるまでが長くてモドカシイ部分もあった【狼と香辛料】と違って、こっちはクースラがまだ明確な異性への愛情とはまとめきれていないものの「こいつは俺のもの」とハッキリと所有権を主張しているので、その点ではスッキリしていますし、フェネシスも依存ではない信頼から徐々に情感の篭った仕草をクースラに向けつつあるので、多分空気は濃密になる一方なんだろうなあ、とこれ辟易するべきなのかニヤニヤするべきなのか困りますねw

フェネシスに一方的に導きを与えているようなクースラですけれど、彼女を得た事による変化は彼にも訪れているようです。単に自分が人並みの情を持った人間だと自覚した以上に、フェネシスの存在は彼に精神的な余裕を与えているようなんですよね。切羽詰まった場面でも、彼が一旦立ち止まって周りを見回す気持ちの余裕があるのも、今までの彼にはなかった視点で物事が考えられるようになったのも、フェネシスという拠り所が彼の中に生まれているからのような気がします。少なくとも、彼女が傍にいなければ今回の一件ではここまで上手く立ち回れなかったんじゃないかなあ、と。その意味では、彼もフェネシスと一緒に成長していっているのかもしれません。実際、一巻の時よりも一回り魅力的なイイ男になった気がしますし。
これはもう、利子という意味の名前も返上ですなあ。

1巻感想

マグダラで眠れ4   

マグダラで眠れ (電撃文庫)

【マグダラで眠れ】 支倉凍砂/鍋島テツヒロ 電撃文庫

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『狼と香辛料』の支倉凍砂が放つ新シリーズ、
“眠らない錬金術師”の物語、ついに開幕!!


 人々が新たなる技術を求め、異教徒の住む地へ領土を広げようとしている時代。錬金術師の青年クースラは、研究の過程で教会に背く行動を取った罰として、昔なじみの錬金術師ウェランドと共に戦争の前線の町グルベッティの工房に送られることになる。
 グルベッティの町で、クースラたちは前任の錬金術師が謎の死を遂げたことを知る。その足で出向いた工房。そこでは、白い修道女フェネシスが彼らを待ち受けていた。彼女はクースラたちを監視するというが──?
 眠らない錬金術師クースラと白い修道女フェネシスが紡ぐ、その「先」の世界を目指すファンタジー、ついに開幕!
【狼と香辛料】の魅力というと、何よりもロレンスとホロの丁々発止の掛け合いの面白さと、男女の駆け引きのニヤニヤさせてくれる度合いでした。とはいえ、幾つかのショートストーリーではロレンスやホロが出ない話もあったのですが、それでも抜群の面白さがいささかも陰りを見せなかったのを思えば、新作への不安など無きも同然でありました。
あとは、いったいどんな話なのか。メインとなる登場人物たちの為人はいかなるものなのか。募る興味の方向性と言えば、そんなものばっかりだったと言えます。なので、最初に本作の表紙とあらすじを見た時には、硬質で鋭く容赦のないタイプのヒロインが、キリキリと錬金術師の主人公を締めあげていきながら、付き合っていくと同時にその厳しい態度に柔らかさが混じりだし、真剣なぶつかり合いの中にもほんのりと温かい交流が生まれ出す、というパターンを想起していたんですよね。特に、女性上位という点については疑いもしていなかったのでした。まあ、完全に思い込みだったのですが。
まさか、こんなにも純真でか弱く疑うことを知らない子羊みたいな娘さんだったなんて。狼さんからすると、ついつい甘咬みしながら甚振ってオモチャにして遊んでしまうタイプの子だよなあ、これ。ホロだったら、これ咥えて離さないぞ。
これには結構驚かされた。思い返してみると、【狼と香辛料】では殆どこうした「弱い」子は出て来なかったんですよね。どんなタイプの人でも、それぞれに生きることへの強かさを懐剣のように握りしめていた強い人達だったように思う。皆が、立場や現状に関わらず、自立して生きるという気概に満ちていた。
その点彼女…フェネシスは常に拠り所を必要とせざるを得ない生き方を強いられてきた子だったと言える。故郷も居場所も、生きる意義も価値も何もかも奪われ、許されず、認められず、生存そのものを否定されてきた子だった。
彼女は、強さなど持ちようのない環境で辛うじて生き延びてきた、弱いことを運命づけられた子だったと言っていい。逆に言うなら、フェネシスは弱いなりにここまで生きてこれるだけの何かを持ってたという考え方も出来るんですよね。諦めに朽ち果てそうになりながらも、今まで生きることにしがみついてこれるだけの執着があった。それでいて、歪むこと無くうつむいて視線を落してしまうことはあっても、人を見るときはまっすぐ見つめることの出来る子で居続けた。考え方は浅慮ですぐに思考誘導を受けてしまうほど単純だけれど、じっと物事の本質を、他人の心の在り様を、その純真さ故に、単純さ故に、深く深く一筋に見抜く事のできる子で居続けたのでした。
その人当人ですら見失ってしまうほどほころびてしまった真実を、歪んで曲がって見えなくなってしまった真理を、見つけてくれるほどに。
何故、異端者で破綻者で探求者である錬金術師のクースラが、こんなか弱く儚い少女に惹かれていったのか。その理由については本編を御覧じろ。しかし、これだけは間違い無いと思うのだ。ここで描かれる恋は勘違いなんかじゃない。幾つものベールに覆われた心の奥底を、本音と本性と真実をチップにして繰り広げられるゲームの執拗な駆け引きと狡猾なやり取り、無意識の選択と無数の決断、容赦のない踏み込みと暴きによって、生まれたままの姿にまで剥き出しにして、そうして見つけた「マグラダの地」が、夢のカタチが、フェネシスの姿をしていたのだ。クースラにとって、それこそが錬金術師としての真理であり、夢を叶えたその向こう側だったのだろう。
その「先」へ。

やはり、支倉さんの物語は素晴らしい。何故、この人の話はこんなにも心をときめかせるのか。多分、常に手探りで、見えない相手の心の内を覗き見ようと手練手管を駆使して行われる、会話や駆け引き。そんなコミュニケーションという摩擦によって生じた化学変化による色取り取りの火花が、パチパチとちらついて、本来なら見えない他者の心の内側を垣間見せてくれるからなんだろう。そして、火花は綺麗なもので、ついつい胸高鳴らせ目を奪われてしまうものなのだ。
そして、そんな火花は背景が深く重く質実であるほどに、よく映える。
重苦しいほど重厚で、どこまでも沈んでいきそうなほど深みを感じる中世の時代感。その狭間で生きる人々の営みと、それを囲う社会の在り様。それすべてが、そこに生きる人々の心の在り様に莫大な暗闇と、光を求める意志を与えてくれる。光とはまた夢であり、他者であり、理解者であり、共に闇を共有してくれる人のことでもある。そんな闇を恐れ、しかし光を求める人達の、強かな切実な飢餓の先に、支倉さんは満ち満ちた想いを用意していてくれるのだ。
だからこそ、安堵に温まり、にやけた笑みが浮かんでくる。困難の果てにある達成感に、心が踊る。それすべてが、ときめきでありきらめきなのだろう。だから、素敵な物語なのだ。

自分の夢の輝きを取り戻した二人の男女。その物語は、まさに今ここに始まったばかり。取り戻したその先に待つ輝きは何なのか。これから始まる素敵な真理の探求に、今から心浮き立つばかりです。
あー、フェネシスは癒し系だなあ。

支倉凍砂作品感想
 
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