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メディアワークス文庫

宮廷医の娘 ★★★☆   



【宮廷医の娘】  冬馬 倫/しのとうこ メディアワークス文庫

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凄腕の闇医者×宮廷医の娘。この出会いが後宮を変える—中華医療譚、開幕!
黒衣まとうその闇医者は、どんな病をも治すという——。

由緒正しい宮廷医の家系に生まれ、仁の心の医師を志す陽香蘭。ある日、庶民から法外な治療費を請求するという闇医者・白蓮の噂を耳にする。
正義感から彼を改心させるべく診療所へ出向く香蘭。だがその闇医者は、運び込まれた急患を見た事もない外科的手法でたちどころに救ってみせ……。強引に弟子入りした香蘭は、白蓮と衝突しながらも真の医療を追い求めていく。
どんな病も治す診療所の評判は、やがて後宮にまで届き——東宮勅命で、香蘭はある貴妃の診察にあたることに!?

法外な治療費を毟り取る黒衣の無免許医というと、ブラックジャックを想起しますがモデルではあるんだろうか。
舞台は中華風異世界の平原国。中華ファンタジーではないっぽいんですよね、ファンタジー要素ないですし。それとも異世界モノだったら全部中華ファンタジーの範疇になってしまうんだろうか。
ともあれこの平原国、文明レベルは中近世くらいに見えるのですけれど医療水準についてはかなり高そうなんですよね。そもそも、医療科挙という国家試験が存在し医療に関する国家資格があるという時点で、医学に対しての社会的な意識や地位が高いということですし、技術に関しても簡易的な外科手術なんかも行われているようで、基礎的な知識もある程度共通認識として共有されてるんじゃないだろうか。
香蘭はそんな国の元宮廷医の家系に育った医師一族の選良。幼い頃から医学を志ざす、というよりも医学そのものにのめり込み夢中になっていた。人形遊びで人形を分解して外科手術ごっこをしている時点で相当である。今は医療科挙の突破を目指し勉学に励む堅物な生真面目な娘なのだけれど、その女子力を完全に放り捨てた脇目も振らない性格と医学についての好奇心は、闇医者・白蓮との出会いによって見事に刺激されることになってしまう。元々の医学への好奇心がなかったら、平原国で常識とされる医術とはステージが異なっている白蓮の医術をああも純粋に受け止める事は出来なかっただろうし、貪欲に吸収しようとも思わなかっただろう。秩序や枠組みを重んじるように見せかけて、必要とあらばわりとうっちゃってしまえる性格なんじゃないだろうか、この娘。マッドの気質あり、と睨んでいる。
さて、そんな香蘭に色んな意味で目をつけられた医師・白蓮。彼の正体については何者かとは明言されていないのだけれど、明らかに現代水準の医療技術と知識を身につけている以上、中華風異世界版『JIN-仁-』さんなんだろう。医局政治への嫌悪感をむき出しにしていることから、白の巨塔紛いの政争に巻き込まれた経験があったのかもしれない。皮肉屋で世の中を斜に構えて見ているなかなかに性格の歪んだイケメン医師である。
評判のぼったくりに関しては、マジぼったくりで金持ち庶民で区別せず、きっちりと高額報酬を受け取る姿勢は徹底している。金持ちからはふんだくるけれど、貧乏人からは金とらないよ、的な古典的な名医な在り方からは傲然と背を向けている。
かといって守銭奴なのかというと、そういうわけでもなく。ただ、現代レベルの医療をこの文明レベルの世界で行うには、それ相応の元手が掛かるということなのだ。技術費さっぴいても原材料費とか諸経費相当掛かってるんじゃないだろうか。薬や医療器具など金に糸目をつけていないみたいだし。
現代の日本だって、健康保険や高額医療費制度などで控除されている分を取っ払ったときの医療費のはめっちゃ高いよ。なので、白蓮の請求する治療費は法外とは言えないのだろう。
でも、庶民相手でも手心は加えないけれど、むしり取れる所からはより毟り取ってるよね、これ。というわけで、金にがめつい面は着実にあると思われる。
そんな医は仁術とか知ったコッチャないね、という姿勢の医者に弟子入りした堅物の医師の卵の娘が主人公の物語である。

病気に怪我に、それらにかかり負ってしまう患者たちには、病気になるに至る背景があり、また負った怪我によって見舞われる事情がある。香蘭は、医師の卵として病気や怪我よりも患者の抱える問題に踏み込み、その解決に奔走することになる。人と向き合うのが医者の仕事だと言わんばかりに。
当初、白蓮に対してその仁術に背を向ける在り方に反発していた香蘭だけど、弟子入りしてからはさっさと全幅の信頼を師に置いてるんですよね、この娘。そう書くと思い込みの激しい娘に見えるんだけど、案外と柔軟というか師の合理性に判断基準を置くようになっているからなのか、思い込みから暴走して失敗してしまうというような事はなかったんですよね。まあ、思い込みが強いなんてのは医療では致命的なだけに、いろんな可能性を考慮しながら物事を見るという姿勢をちゃんと確立しているということなのかもしれませんが。自身の正義感をたぎらせているときでも、相応に師にお伺いを立てていますし。そういう所、育ちがいいっていうんでしょうね。

最後の話で早速というべきなのか、宮廷の奥に入り皇太子―東宮の寵姫の治療に携わることで、宮廷政治の闇に踏み込んでしまうのですが、東宮の知遇を得たこともあり、今後は宮廷と下町を平行に舞台にしながら話は進んでいくんだろうか。
個人的には、なんかすでに東宮と友達だったという白蓮の過去も気になるんですけどね。医療器具などを作れる職人を探し出したり、抗生物質などの薬品を作り出したり、そういう医療体制を立ち上げられるほどの生活基盤や人脈を整えるまでには、相当の苦労があったはずですし。多分、身一つでこの世界に放り出されたんでしょうしねえ。
いずれ、そっちの話も出てくるんでしょうか。




絶対城先輩の妖怪学講座 十二 ★★★★   



【絶対城先輩の妖怪学講座 十二】 峰守 ひろかず/水口十 メディアワークス文庫

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傍若無人な黒衣の妖怪博士・絶対城の活躍を描く伝奇譚、第12弾!

『真怪秘録』をまとめる中で、妖怪学の限界を感じたという絶対城。熱意を失った彼は、文学部の非常勤講師として妖怪学を教えてくれないか、という織口からの誘いも断ってしまう。
そんな中、礼音が何者かに狙われていることが発覚。大切な人を守るため、事件の調査に乗り出す絶対城だったが、一方で、その一件の解決をもって妖怪学徒を廃業するとも宣言し――。
猫また、猫ばば、五徳猫。事件の鍵を握るのは『猫』!?
絶対城阿頼耶、最後の事件!

礼音さんがタフすぎるw 礼音が狙われてた案件、あれ彼女じゃなかったらほとんどが普通に事故死しちゃっているケースのはずなんだけれど、素の身体能力の高さからひらりひらりと回避して当人ケロリとして最近ちょっと運が悪いなあ、くらいの認識でしか無いあたりがさすが礼音である。このあっけらかんとした性格が、絶対城先輩の心の助けにどれほどなってきたか。
今回なんぞ見てて微笑ましいほどの仲睦まじいカップルでしたもんね。礼音は元より絶対城先輩もわりと素直なので今更好意を照れ隠しとかしないので、率直にお互いを気遣い合う関係は見てて温かいものでした。かと言ってそれほどベタベタしないサッパリしたところは二人らしいのですけれど。
はからずも同棲生活になってしまってからも、まるで色っぽいことにはなってませんでしたし。いやそう言えば恋人になる前も一緒に住んでた時期があったっけか。その時より関係は進んでいても、それでイチャイチャしだすかというとそういう二人ではないんですなあ。
それでも、旅行に行った時のあのギューッと抱き合ってぬくもりを伝え合うシーンは、恋人というよりも、そして夫婦というのでもなく、なんというかこれからもずっと人生のパートナーとして共に歩んでいくという仲睦まじさを感じる場面で、二人の関係の結実を思わせてくれてジーンと来たんですよね。
白鐸という目下の脅威を退けて、『真怪秘録』の編纂も一区切りついてしまったところでいわゆる「燃え尽き症候群」のようなものに罹ってしまった絶対城先輩。一方の礼音も大学三回生に進級するにあたって今までのまま経済学部で勉強していくのではなく、今最大に興味ある妖怪学の道へと進んでみたいと考えるようになり、とお互い次の段階を考えるところに来ていたんですね。
そこでこの「猫」の事件はさて最後の後押しになったのか。絶対城先輩に妖怪学の奥深さをもう一度教えてくれる、という意味ではよいきっかけになったのでしょうけれど、何気に今までで最大のピンチとなりかねない最大の敵だったんじゃないですか、これ!?
杵松さんとの雑談で出てきたパソコンの連結についての話が伏線だったとは思いませんがな!
本作では実際に本当の「妖怪」は出さない、という方針で一貫していたと後書きでも触れていましたけれど、今回の「猫」を含めてどれもある意味本物の妖怪よりも突拍子もない「正体」で、いやあぶっ飛んでたなあ。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、じゃなくて幽霊の正体見たりビオランテ、みたいな感じのものばかりで、その突拍子もなさがまた面白かったんですけどね。
でも、それで不気味だったり得体の知れなさが陰気な感じにならなかったのは、礼音の明るさに牽引されるどこか作品全体に流れる呑気な雰囲気ゆえだったのでしょう。メインとなる絶対城先輩も、傍若無人なんてあらすじに書かれていますけれど、実際は非常に紳士で人柄が伝わってくる優しいキャラクターでしたので、この人を見てて嫌な感じになった事はなかったですし、相対する「敵」はみんな想像を遥かに超えた存在でありつつ、今回の猫のようにどこか「スットボケた」愛嬌を持っていたのが、和やかさにつながっていたように思います。この物語の持ち味というか特色でもありましたね。
礼音と阿頼耶くんには幸せになってほしいものです。二人の将来、についても具体的に色々と考えているようでしたしね。心残りは、杵松さんと織口先生の関係がどうなってるの? と、そこんところ不明のまんま終わってしまった所ですけれどw
これで終わってしまうのが本当に寂しくなる、慣れ親しみを抱かせてくれた作品でありました。


シリーズ感想

妖怪解析官・神代宇路子の追跡 人魚は嘘を云うものだ ★★★★   



【妖怪解析官・神代宇路子の追跡 人魚は嘘を云うものだ】 峰守 ひろかず/七原しえ メディアワークス文庫

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鷹橋川で発見されたミイラ化した遺体の上半身と、それに合致する巨大な魚の下半身。
怪事件に悩まされていた新米刑事の御堂陸は、手がかりを求め、美貌の科学者・神代宇路子の許へ押しかけることに。私生活はちょっぴりだらしないが、妖怪、特に人魚について語り出すと止まらない彼女は、陸が追う事件についても何か知っている様子で──。
生真面目な刑事と妖艶な解析官が人魚の秘密を解き明かす! ……ただし、人魚は嘘をつくことがあるのでご注意を。

終わってみると、陸くんってよくまあこんな真っ当な正義感に育ったよね、という境遇なんですよね。偽善もまた善と言いますけれど、たとえ表面上だけ繕われた正義であっても建前だけで鎧われた言葉であっても、虚であろうとそれを信じた人がいるのなら、良きモノは生み出せるということなんでしょうかねえ。
この主人公の御堂陸くんは自分が正しいと信じたことの為には猪突猛進するきらいがあるのだけれど、彼はこの手の迷惑な正義感、或いは正義という棍棒を振り回していきり立つ輩とはまた根本的に違う人間でありキャラクターなんですよね。どうしてなんだろうと物語を読みながら考えていたのだけれど、彼の「正しさ」って否定じゃなくて肯定なんですよ。正義に当てはまらないものを敵として攻撃したり排斥したり認めないのではなく、正しいと信じたことを、人を、心情を受け入れることなんですね。
勿論、邪まな欲望や思想などは決然と否定するし妥協もしないのだけれど、彼の脇目も振らぬ真っ直ぐな正しさというのは、闇に惑う人たちにとっては眩しいくらいに差し込んでくる光なのである。自分自身が信じきれずに疑いながら、疎みながら、倦みながら、それでも諦めきれずに手繰り寄せようと足掻いていた宇路子さんにとっては、彼の真っ直ぐな信念は、肯定は光そのものだったのである。アナタは正しい、アナタは間違っていない、自分はアナタを信じる! と、どんな誘惑にも社会的な強制にも揺るがず、一顧だにせず、一瞥すら向けず、即答で応えてくれる陸くんのそれに、果たして彼女はどれだけ救われた想いを抱いたのか。ぜひ、作品を以って確かめてほしい。
あの「即断即決」にはホントに感服させられた。あれほど迷いなく、間髪入れず自分のすべてを否定するだろう黒幕たちの思惑を蹴っ飛ばしてくれて、自分を選んでくれたら、自分のあり方生き様を信じて肯定してくれたら、これほど報われたと思えることはないんじゃないだろうか。

陸くん、あれで杓子定規ではなくて法的にはアウトじゃないの、というような宇路子さんのやり方にもめっちゃ懊悩しながらだけど目を瞑って協力してくれるので、陸くんの精神的な負担を無視すれば良いコンビなんですよね。
さすがにこの街、ほんとに日本かよというくらいなんか悪徳の都と化していましたけれど、何気にこの日本でありながら微妙に異界のような俗世でありながらおとぎ話の世界のような雰囲気、というのは高橋留美子さんの「人魚の森」リスペクトなんですかねえ。人魚の効能云々に関しては、あの名作を特に意識していらっしゃったようですし。
しかし、あの宇路子さんのオフィシャル向け人見知りキャラは、作中で宇路子さん自身がこんな設定するんじゃなかった、と後悔してましたけど、ほんと特に必要ないキャラ付けでしたよね。本来の宇路子さん、ジャケットデザインから想像するようなシャープでアグレッシブな格好いい系のお姉さんで、わりと無茶苦茶する乱暴なところも含めて魅力的なキャラだっただけになおさらに。まあ、ほんと人見知りキャラは冒頭だけで、陸くんと行動はじめてからはずっとこっちだったので全然オッケーなのですが。
今回は一巻まるごと「人魚」にまつわる話でしたけれど、続編あった場合なにやら違う種類の「妖怪」話も盛り込まれそうなネタがラストにツッコまれてきましたから、ぜひ続きも出してほしいものです。

峰守ひろかず作品感想

農村ガール! ★★★☆   



【農村ガール!】 上野 遊 メディアワークス文庫

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敏腕キャリアウーマンを目指して一流企業「月見食品」に就職した華。念願叶って希望の部署に配属されたと思いきや、勤務先は秋田の山奥にある営業所だった!赴任初日に熊に襲われ、指導係のイケメン上司は時代錯誤の頑固者。さらに与えられた仕事は想像もしなかったとんでもないもので―!?豊かすぎる大自然の中で生きる意味を見つめ直す、お仕事奮闘物語!
いやあ、これタイトルちょっと違うんじゃなかろうか。タイトルからしても、ジャケット見ても、都会の女性が農村に来て農業やる話だと思うじゃないですか。
農業じゃないんですよ、猟師! 猟師やるんですよ!
業務の一環で、農作物を荒らす害獣となる野生動物の駆除のために狩猟免許を取得し、雄大で美しいしかし危険な山を体感し、命を奪うという行為に向き合うという、どちらかというと「猟師ガール」なお話なのである。
まあ、普段の業務は提携農家相手の仲介だったり営業だったりと猟師やること自体少ないし、
舞台が農村であることは間違いないのでタイトルもハズレているわけじゃないんだけど。でも、どちらかというと「狩猟」が主題に近いだけにちょっと農村ガールじゃわからないですよね。
昨今、狩猟免許を取得する人が減り、趣味だったり実益のための副職だったり自分の農地を守るために免許を取得するのではなく、公務員……市役所だったり村の職員なんかが害獣被害の対処のために免許取ることがある、みたいな話は聞いたことがあったのだけれど、まさか一般企業でも似たようなパターンがあるとは。
普通に東京で大卒で就活して一般企業に就職できて、入社と同時に地方に行かされて現地でいきなり、じゃあ狩猟免許取得してね、はさすがに想像つかないだろうなあ。青天の霹靂である。
仕事の内容なんてほんと千差万別で、実際何をやるかなんてその時にならないとわからない、というケースも決して珍しくはないだろうけど、これは変化球極まっている。
しかも、上司の本城は前の部下で大失敗したおかげで、最初から都会人でしかも女性な華に対してどうせ山は合わないんだからさっさと辞めろ、という酷い態度で最悪なんですよね。彼なりの理由はあるんですけれど、華からしたらこれ知ったこっちゃないわけですし、言い訳のしようもないろくでもない対応なんだよなあ、これ。不器用で済まされんでしょう。
負けん気の塊である華でなければ、早々に挫けても仕方ない理不尽さでしたし。今どき華みたいな体育会系の負けず嫌いって希少種なんじゃなかろうか。
ただこの子もかーっとなると冷静さをすっ飛ばす娘であって、かなり無謀な行動を反射的にしちゃうところがあるし、考えなしに動いてしまうところがあって危なっかしいことこの上ない。
ラストの展開なんぞ、あれ彼女だけじゃなくて助けに行った先の子供だって危なかったんですから。一言、誰かに連絡でも言伝でもしていれば後から続いてきてくれただろうに、これだと遭難者が一人増えちゃっただけに終わっていた可能性もあったわけですし。
華を一般的なキャリアウーマンではなく、山奥の営業所に行かせた社の人事の人、彼女の性格的にこういう現地密着型の現場の方が似合っていると見抜いたのは慧眼なんだろうけど、同時にこういう危なっかしい娘に実際危ない山に行かせてしまったのはどうなんだろう、と思いたくなってしまう。まあ、都会でも道路に飛び出れば車に惹かれるし、強盗に立ち向かえば怪我をするし、何より大きな案件で暴走されると被害がえらいことになるので、どっちもどっちか。
そこまで無鉄砲で考えなしの暴走娘、というわけでなくちゃんと社会人としての常識わきまえた娘さんだ、と言いたいし普段はその通りだと思うんだけど、実際二回はやらかしてるだけになあw
さすがに肝心の銃に関しては臆病なくらい慎重に取り扱っているので、誤射とかは大丈夫そう。
最近は狩猟免許に関する漫画やなんかもあって、そのプロセスについては目にすることもあるのだけれど、改めて話としてみるとやっぱり銃という危険物を取り扱うためにかなり二重三重のチェックが入るんですよね。とは言え、チェックに引っかかりさえしなければ面倒ではあっても大変な苦労をしてとらなければならない、というたぐいのものではないので、必要あって取得しようという人にとっては決して無闇にハードルが高いものではないのではないでしょうか。
でも、生命を奪うという行為は必要であってもやはり心理的壁が高いものです。そんな機会のなかった都会の人間にとってはなおさらのこと。可哀想、とかそういう中途半端な気持ちとはまた違うんですよね。ただただ純粋に、怖い。殺すという行為に竦んでしまう。
華は、ただ仕事のためというのではなく、山での暮らし、農村での暮らしを好きになっていく上で、そこで生きていくために、撃つ覚悟と向き合っていくことになります。その過程が普通に山ぐらし農村ぐらししてるだけでは経験できないハードさ加減だった気もしますけど。あれだけ熊に何度も襲われてめげない華は、ちょっと不屈すぎやしないですかね!?

上野遊作品感想

絶対城先輩の妖怪学講座 十一 ★★★★   



【絶対城先輩の妖怪学講座 十一】 峰守 ひろかず /水口十 メディアワークス文庫

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『白澤』の脅威は、ついに杵松にまで及ぶ。親友を救うため手掛かりを探す絶対城と礼音は、郊外にある国立文書館へとたどり着く。そこで白澤の正体と目的を知った二人だが、白澤の追手から逃れるため身を隠すことに。しかし、その先にも魔の手が迫る―。白澤に対抗する手段を探し、師匠のクラウス教授や、同じ妖怪学徒の櫻城晃の協力も得る。しかし白澤は絶対城を取り込むべく、妖怪知識の全てを得られると誘惑し…。最愛の先輩を救うため、一人残された礼音は―。

今回の表紙絵の絶対城先輩はいつもにも増して妖しい雰囲気だなあ、と思ってはいたのですが、なるほど今回の話には相応しい姿ではあったんですなあ。
まあ絶対城先輩って各表紙の妖しい怪しい雰囲気とは裏腹にえらい実直な人なんですけどねえ。見た目と存在の胡散臭さはほんと見た目だけで、付き合ってみると不器用だし生真面目だし誠実だし、非常に可愛らしい人だもんな。そういう人だから、礼音みたいな娘が対等にお付き合いできているんじゃないかと思うんですよね。
今回なんぞ特に、礼音の側が弱気になってる絶対城先輩をずっと支えてましたからねえ。
てっきり敵側になってしまった杵松さんがしばらく暗躍するのかと思っていたら、さすがは絶対城先輩、速攻で見抜いてしまうのだからこの人やはり凄い。決して疑り深い人間じゃないのに、誰よりも信頼しているはずの親友が裏切っていたことに気づいてしまうのですから。気づいてしまうからこそ傷ついてしまうとも言えるのかも知れませんが。
でも、バレた途端に杵松さん、キャラ変わりすぎですよ。元の杵松さんの方が泰然自若として何事にも動じず何を考えているかわからないところがあって、でもなんでも出来るし頼もしいしとこの人がラスボスでも黒幕でも何らおかしくないという底知れなさを感じる人だったのに、白澤になった途端にえらい小物じみた言動しだして……杵松さんはそんなこと言わない!w
ただ見知っているどころか信頼している人が次々と敵側に回ってしまうという追い詰められ方はさすがに緊迫感がありました。白澤には社会的に相手を抹殺するような権力も握ってましたし、さすがにあの人が敵に回ったときには人物が人物だけにたまらんものがありましたし。
ただ、今回の一件に関しては弱気になっている絶対城先輩に対して、礼音の方が慌てず騒がずどっしりと構えていて、絶対城先輩の精神的支柱として踏ん張っていたので、追い詰められていたわりには切羽詰まった感じはなかったような気がします。絶対城先輩自身はそりゃもう切羽詰まってましたが。今回に関しては先輩的に打開の手段がなく為す術なし、という状況だったからかもしれませんが。それに、知識に関する誘惑も効いてましたし。
だから、その分本当に今回は礼音が頼もしかったです。全然怯えずパニックにもならず変に気負うこともなく、精神的に参っていた絶対城先輩の解説の聞き役をうまくこなしてストレスもうまく逃してあげてましたし。パーフェクトサポートですよ。
とどめにラストの一本だたら=すいとんフォームでの登場はなんだかヒーロー見参!って感じで実に格好良かったですし。
あの格好というか装いというか装束? はビジュアル的にもキマっていてあれは挿絵がアレば是非見てみたかったかも。
しかし、先輩なんだかんだと全部謀っていたのか、と思ったら全然そんなことなかったのね! 単に衝動的にしただけだったのね!
それだけならまだいいんだけれど、あとでしたり顔で後付の説明を付け加えて知らん顔しようとしていたあたり、この人もう可愛いなあという印象しか出てこないんですけど。

なんか色々と懸案も片付いてしまって、これで締めと言われても不思議ではない終わり方だったのであれ?もしかして完結した!? と驚いてしまったのですがもう一巻出るようでちょっと安心した。もうちょっと余韻に浸りたかったですしね。
次はついに最終巻。結構な長期シリーズになりましたが、どう〆るのか楽しみです。

シリーズ感想

帝都フォークロア・コレクターズ ★★★☆  

帝都フォークロア・コレクターズ (メディアワークス文庫)

【帝都フォークロア・コレクターズ】 峰守ひろかず メディアワークス文庫

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きまじめ書生と噺家崩れの優男が妖怪の伝承を追う、帝都発あやかし伝奇譚!

激動の大正。帝都東京に見える怪しき影は、二人の青年。黒のマントに詰め襟学生服、生真面目な銀髪の青年・射理也(いりや)。そして、女物の鍔広帽に着流しを纏い、軽薄な笑みを浮かべた噺家崩れの淡游(たんゆう)だ。
求職中の少女・静が見つけた新たな職は、『彼誰会(かわたれかい)』なる奇妙な組織の書記担当。彼らの目的は「百年使える妖怪事典の編纂」だという。
静は同僚の射理也、淡游と共に、日本各地に残る妖怪伝承を集めることになる。だがやがて三人は不思議な事件に巻き込まれていき――?
『絶対城先輩の妖怪学講座』の峰守ひろかずが贈る、帝都発あやかし伝奇譚。

柳田國男って、そんな偉い人やったんかーー!? ここがもう一番の驚きでした。民俗学者なんていうと、やはり自身の足でフィールドワークしてまわる権力や金銭には縁が薄い人種、と思ってしまうじゃないですか。そういうイメージで固定されてしまってる現代があんまりよろしくないんでしょうけれど。それにしても、貴族院の書記官長って、当時の官僚制度の中でもかなり高い地位なんですよね。これだから、戦前の帝大関連の人は侮れないのだ。
それでも、実際自分の足でフィールドワークして、日本の民俗学というジャンルを確立するに至る研究をされたと思ってたし、実際に全国各地を調査旅行してまわったようなのだけれど、この人の経歴を見ると高級官僚として働き、また国連でも活動していたり、と相当忙しい身分だっただけに自分一人で調査して回るには時間も余裕もなかっただろうし、そう考えるとエージェントを雇って現地の情報を収拾してきてもらう、なんてことも実際していたのかもしれない。
そんなこんなで、某御大尽の肝いりで全国のフォークロア……民間伝承などを集めてまわるために雇われた三人の男女の、大正時代という近代化の波が全国津々浦々にまで押し寄せつつも、まだ色濃く古い世界の名残が残っていた時代の不思議探訪譚がこれである。
同じ作者の【絶対城先輩の妖怪学講座】と趣旨的にはよく似ているのだけれど、何しろ現代と大正時代とではやはり違うんですよね。リアルタイムで旧時代の闇が払われていっている真っ最中、という感がある。静たち三人組は、言わば近代の側から消えていく闇を記録して残していこうという立場の人間なわけだけれど、面白いことにこの三人、同時にその消えゆく闇の側に深く関わる、というかむしろ彼らこそがそちら側、という人たちでもあるんですよね。そこを皮肉ではなく、消えゆく側であったはずなのに、うまいこと近代化していく光あたっていく側へと馴染んだり、潜り込んだり、と生き残る、或いは適応したような対象としても描かれている。
彼ら自身が、闇は消えてなくならない。形を変えても、ちゃんと生き残って未来へと続いてく、というのを証明しているのである。そんな彼らが、失われていく民間伝承を記録し残して伝えていく側としても活躍するわけで、それが回り回って絶対城先輩たちが喜んでかぶりつくだろう資料を残したり、自身たちが血を残し記憶を残していくことで、妖怪のようなものや異能者みたいなのが現代でもなんだかんだと元気に潜んで生き残っていく、という形になっていくのであると思えば、また面白いものじゃないですか。
最終話で静さんが「弱くて古くて小さくて、いつかは消えていく側で充分です!」と啖呵を切ってましたけれど、それを堂々と誇れるのなら、むしろそういう方がしぶといものなんですよね。

しかし、噺家の淡游さんが喜々として、日本語じゃない「フォークロア・コレクターズ」なんてのを自身で標榜して名乗ろうとするのも面白いなあ。言葉に対して敏感、というのはときに保守的になるものであるとともに、逆に革新へと走るものなのかもしれません。

あと、時代が時代だけに、さらっといずれ著名となる文豪たちが生の人物としてそのへんうろついてたり、すれ違ったりと行き会うことがあるのは、この時代の醍醐味ですねえ。こう、同じ時代を生きている、という感じがすごくしました。

峰守ひろかず作品感想

奈良町ひとり陰陽師 ★★★☆   

奈良町ひとり陰陽師 (メディアワークス文庫)

【奈良町ひとり陰陽師】 仲町 六絵 メディアワークス文庫

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古都・奈良にあって、歴史的な趣きを残した町家が立ち並ぶ「奈良町」。奈良町の一角にある「くすば菓子店」の息子・楠葉シノブは、奈良ではもう最後となる、由緒正しい陰陽師だった。シノブが取り仕切るのは、奈良で起こる不思議の一切。祭りの夜を待つ青衣の女人、ご機嫌ななめな女神様、走る大黒様まであらわれる奈良町で、猫又の墨香や幼馴染のゆかりに見守られながら、シノブは今日も不思議を解きほぐす―歴史薫る古都から贈る、優しいあやかしファンタジー。
陰陽師というと、本場は京都。時点で帝都たる東京であり、それ以外となると奥まった古い伝統を今も残す村落、なんて場所が活躍の舞台となる事が多いんだろうけれど、なるほど意外と奈良は聞いたことが無い。古都としては京都よりも歴史ある都市なのにねえ。まあ陰陽師というと、やっぱり陰陽寮のある都市がメインだろうし、在野ですら播磨とかあっちの方が有名で、奈良というとどうしても興福寺の影響が強いせいか、お寺の国という印象が強いんでしょうねえ。それ以外というと、葛城山の役小角と言ったところで修験道のイメージもあるのかも。
調べてみると、奈良は奈良で陰陽道との縁は十分深いものがあるようなのですが。
ともあれ、そんな陰陽道の本流からはやや外れた奈良の街で、廃れゆく伝統工芸の唯一の担い手、みたいな感じでたった一人陰陽師として働くシノブくん。まあ陰陽師は裏稼業で、本職は和菓子店の跡継ぎって感じではあるのですけれど。とはいえ、別に陰陽師の需要が減っているわけではないようで、おらが街の陰陽師さんの元には幽霊やら妖怪の成りかけやら神様の端くれなんかがひっきりなしに困りごとの相談に訪れてくるので、結構忙しいご様子で。権威ある存在でも異能の術士でもなく、気軽に相談事に乗ってくれてマメに解決のために走り回ってくれる便利屋さん、という風情でこれはこれで使いっ走りみたくも見えるのだけれど、深い信頼が寄せられないと任されないだろう打ち明けられないだろう相談事だったりもするので、シノブくんは若いなりになかなか頼られてるんですよね。
幼い頃に爺ちゃんの教えを話し半分に聞き流していたお陰で、肝心な時に幼馴染を危険な目から守りきれずに悔しい想いをした経験から、物事に対する取り組み方は非常に真面目で穏やかな物腰でしっかりと話しを聞いてくれ、サクサクっと動いてくれるその様子は、確かに若さに似合わぬ頼りがいがあるんですよね。そんな彼に全幅の信頼を寄せて、颯爽とした女子大生生活を送りながら、彼の日常にふんわりと寄り添ってくれる幼馴染のゆかりとの関係がまた、ほんわかとした甘さが漂っていていい雰囲気なんですよね。彼女も、過去の事件からシノブくんと同じ世界を見ることの出来る目を持っていて、同じ世界観を共有している、というのも大きいんだろうけど、大らかで快活で物怖じしない好奇心たっぷりのいい子でねえ。ただ、シノブくんの方がちょっと引け目持ってるんですよね、彼女に。引け目というほどのものでもないのかもしれないけれど、遠慮があるというかなんというか。
もうお酒も飲める歳なんだし、ほんのりとした甘さをもうちょっと積極的にしても良さそうなもの。まあそのままでも、ほんのりとくっつきそうではありますけれど。
キーキャラクターであるシノブくんのご先祖様の陰陽師。また別の作品の登場人物なのか。陰陽師にして、中東の方から来た妖術師というのはなかなか色っぽくて良い出自じゃないですか。そっちの作品もそのうち目を通してみたい。
ともあれ、ほのぼのとして安心して読める地元に根ざした街の物語でした。奈良のことが観光宣伝とかじゃない地元視線で見れるのも良かったなあ。

絶対城先輩の妖怪学講座 十 ★★★★  

絶対城先輩の妖怪学講座 十 (メディアワークス文庫)

【絶対城先輩の妖怪学講座 十】 峰守ひろかず メディアワークス文庫

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四十四番資料室の怪人・絶対城が紐解く伝記ミステリ、待望の第10弾!

『白澤(はくたく)』に襲撃された狐からの情報を受け、警戒を強める絶対城たち。そんな中迎えた夏休み。つきあって初めての長期休みにもかかわらず、礼音は一人、牧場で短期のアルバイトに励んでいた。
優しい夫妻が営む牧場を気に入る礼音だが、いるはずのない子供の影を見てしまう。心細さを感じつつ、休日に近くの川で水浴びをしていると、そこには礼音を心配した絶対城の姿が。二人は牧場主夫妻の発言に疑いを持ち始め──?
“予言”に纏わる妖怪たちの謎に迫る第10巻!
前巻のラストの急展開に胃がキューッとなってたんですが、良かった、さすがは狐さんである。せっかく、絶対城先輩と礼音が付き合い始めたというのに、あんな事があったら浮かれてなんていられませんもんね。
もっとも、この二人が付き合うって具体的になにするのよ? と想像もつかなかったのだけれど、どうやら当人たちにとっても全くイメージが湧かなかったようでお互いどうしたらいいのかわからず、何となくぎこちなくなってしまっているご様子で。
それでも、傍から見てる感じだと本人たちが気にしているほどギスギスしてる事はなくて、当人たちは居心地悪いのかもしれないのですけれど、普通にイチャイチャしてますよ、貴方たち。変に会話が続かないってわけでもないですし、反応に失敗して気まずい雰囲気になったりということもなく、なんだかんだと柔らかい空気感が二人を包んでますし。まあこの二人の場合、定番の妖怪話というネタがありますからね。絶対城先輩はウンチク語らせてたらそれだけでペラペラ喋ってくれますし。それに、こうして見てると礼音ってかなり聞き上手なんですよね。合いの手を入れるタイミングも絶妙だし、疑問に思ったことも良いタイミングで尋ねるし、的はずれなことを聞いて相手を閉口させるような真似もしませんしね。無知だったり素人だったりしても、相手の話をちゃんと興味を持って聞いていたら、変なことは聞かないんだよなあ。お陰様でか、絶対城先輩も随分と喋りやすそうで。
そうやって普通に妖怪の話をしているだけでも、二人の間に流れる空気はポカポカしていて、ご馳走様ですってなもんであります。世間一般の恋人同士とはそりゃあ全然違うんだろうけれど、この二人はこれで十分ラブラブカップルしてますよ、うん。

さてさて、物語の方はというと、ついに白澤と呼ばれる何者かの謎へと踏み込むことになってきた絶対城先輩たち。また、白澤に近しい「予言獣」と言われる妖怪たちが今回のテーマにもなってましたけれど、たしかにこの予言獣ってわりと最近の言葉なのかなあ。「件」などの話で他の作品でも予言獣という言葉はチラホラと見たことはありましたけれど。
しかし、一連の様々な予言獣の正体をこう関連付けていくとは。実在する予言獣の真実をこのような形で位置づけたのは面白かったんだけれど、同時に予言獣と白澤との関連性にも言及していた以上は、あの予言獣の正体ってのは白澤の正体とも無関係ではないってことなんでしょうねえ。
前回のラストにも引けを取らない最後の衝撃的な展開も、あの予言獣の正体に関連付けてみると色々と想像の翼も羽ばたいていきますし。しかし杵松さん、ずっとこう「あれ」なポディションだなーと思いながらも四巻あたりで怪しい役回りを請け負って以来、一切変なとこを見せなかったものですからそろそろうがった見方するのはやめようと思ってたらこれですよ。ついに来たなあ、という感じですねえ、うんうん。
それにしても、準レギュラーの礼音が通う道場の小学生・蒼空くんが一つ年上の剣道少女の海晴ちゃんとと同級生の子清香、二人共以前事件で知り合った子たちだけれど、二人の女の子と面白い関係になってて、この野郎である。まあ三角関係というより、海晴←蒼空←清香という一方的なそれなんだけれど、小学校六年生でこの野郎である。長ずれば主人公だなあ、うんうん。

シリーズ感想

噂屋ワタルくん ~学校の怪談と傍若無人な観察者(カウンセラー)~ ★★★☆  

噂屋ワタルくん ~学校の怪談と傍若無人な観察者~ (メディアワークス文庫)

【噂屋ワタルくん ~学校の怪談と傍若無人な観察者(カウンセラー)~】 柳田狐狗狸 メディアワークス文庫

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自分の知っている噂話と引き換えに、校内で流れている噂話の真相を教えてくれるという文目沢高校の怪談“ワタルくん”。羽水、風間、藤咲の訳アリ女子高生3人組は“ワタルくん”に接触を試みるが、彼女たちを待っていたのは、「お前たち、俺の下僕になれ」―傍若無人なイケメンカウンセラーだった!?都市伝説や学校の怪談といった噂話の蒐集が趣味だというスクールカウンセラー渡邊先生。そんな彼に“弱み”を握られた3人は『ベッドの下の男』等の噂の真相を調査することに!?型破りなカウンセラーと“噂”を巡る奇妙な物語。
この表紙でカッコつけてるカウンセラーの先生、本当に何にもしないんですけど! 彼が主人公みたいなイメージですけれど、あくまで主人公なのは羽水。風間、藤咲のハグレ者女子高生三人組であって、渡邉先生はこんな噂があるからその真相を調べてこい、と指令を出して、彼女たちが集めてきた話を聞くだけ、というだけで安楽椅子探偵のように座ったまま事件を解決するということもせず、あれこれマジでサブキャラなんじゃないの、ワタルくん?
一応、噂話に彼女ら三人を関わらせることで、それぞれが抱えている問題に向き合い彼女らの中で解決が促されるようにと、意図が込められてはいるんだけれど、黒幕というには動きが本当に少なくて、実は真面目にカウンセラーに徹している、というべきなのかもしれないけれど、存在感がない。
しかも、藤咲の一件では失敗しかけて、慌てる羽目になってるし。
かくの如きよくわからないポディションのワタルくんだけれど、彼のことをあんまり気にしなければ、相応に生々しい事情を抱えて周りから孤立し、現状に鬱屈を抱え、軽い絶望を肩から下げている三人の女子高生の不器用な青春譚、と見れば三人共にキャラが立ってて、よく出来てると思うんですよね。
ってか、メインであり実際の主人公である羽水ちゃんのボッチ理由がぶっ飛んでて、それが暴露されてしまった事件はマジでひっくり返ったんですけど! いやいやいや、繊細な女子中学生が心に傷を負ってそれまでの日常からドロップアウトしてしまう理由としては十分な過程ではあるんだけれど、その根本原因たる羽水ちゃんの特性というか特殊性というか、得意技が凄まじすぎて、なにこのリアルバーサーカーww
ってか、このアスファルト・ジャングルでその暴れ方はヤバい。またやっちゃった、じゃないですからね!!
彼女に比べると、イキってる風間の方がよっぽど可愛くみえてくる。その不器用なグレた理由からしても。乙女を拗らせてヤンキーになるって、この子はこの子で相当にちょっとあかんタイプなんだけれど。
藤咲含めて、対人関係にある種の嫌悪や忌避、拒絶感を持つに至ってしまった三人の少女たち。その初対面は最悪のひとことで、しばらくはマジに仲が悪いと言うか余所余所しいというか、ちょっと生々しい感じの距離のひらいた関係だったんですよね。それが、渡邉先生のお陰で取りあれず一緒に行動せざるを得なくなり……この仲良くない同士が同じ空間にいるという微妙な空気感のキツイことキツイこと。
ただ、羽水も含めて三人共上っ面だけ合わせる、ということも出来ない子たちであることが、ある意味彼女らを孤立させると同時に、一方通行ではない遠慮のない衝突が三人を噛み合わせて往くのである。
あからさまに仲良くなっていくわけではない、しかしいつしか息が合い、会話からも刺々しさが取れ、いつしかお互いに信頼の芽が芽吹いている。
そんなささやかな関係の変化と進展に、不器用な三人はなかなか気づかず、だからこそ自覚が生じた瞬間に一気に景色が変わっていく流れがまたいいんですよね。まあ、その自覚が生じてしまうには相応の事件があり、自分を見つめ直さざるをえない深刻な局面に陥っていて、往々にして手遅れだったりするのですけれど。
渡邉先生、けっこうマジで焦ってたでしょう、羽水ちゃんに泣かれたとき。でも、彼は状況をコントロールするのではなく、あくまでカウンセラーとして自分であれこれ動くことなく、この件に関わった全員が自分の力で自分たちを救うことを促していた、と考えるなら、彼の徹底した不動っぷりも理解できるのですが。
操るのではなく、そこに到れるだけの状況を提供するだけ、というのは結構辛くも在ると思うんですよね。先生の場合、カウンセラーとして手に入れた情報と噂屋として手に入れた情報を駆使して、それこそ黒幕のごとく全部操作することも出来たでしょうから。その意味では、プロとして逸脱せずに徹しつつ、羽水たちを信頼していた、ということなのでしょうか。
ところでこの渡邉先生って、前作のトオルくんなのもしかして?



絶対城先輩の妖怪学講座 九 ★★★★   

絶対城先輩の妖怪学講座 九 (メディアワークス文庫)

【絶対城先輩の妖怪学講座 九】 峰守ひろかず/水口十 メディアワークス文庫

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絶対城を頼り四十四番資料室を訪れた、「狐憑き」に悩む女子学生、葛木葉子。こっくりさんの儀式でお祓いを行う絶対城に対し、葛木は「笑わせないでよね!」と言い放ち、真怪秘録覚書『狐』の資料と共に姿を消してしまう。突然の事態に動揺する一同。しかし、何故か礼音は葉子の声に聞き覚えがあった。声を頼りにして、お祓いと同じ日に礼音が巻き込まれた事件を調べ始めると、海辺のリゾートホテルで開催されるマジックショーに辿り付く。そこで待ち受けていたのは―。
おう、絶対城先輩がこれだけ見事にしてやられたのって初めてじゃないだろうか。クラウス教授にも散々っぱら誂われたけどもうちょい予防線は張れたと思うし。
しかし、ヤラレっぱなしでは済まさないのが絶対城先輩である。やられたらやり返す、と安易じゃないところも絶対城先輩である。相手の土俵で勝負するにはまず相手の土俵って何なのよ、というところから地道に調べ始めるあたりが、フィールドワーク主体、調査主体の妖怪学の徒なんですよねえ。奇術師のフィールドに、ちゃんと妖怪学で勝負しに行ってるのだから面白い。あくまで自分は妖怪学士であるという自負と挟持がなす業なんだけれど、だからといって違うルールで殴り掛かるのではなく、あくまで相手の土俵で挑むあたりは意地っ張りではあるんですよねえ。
まあ、普段から詐欺師紛いのネタを仕込んだだまくらかしをやってるもんだから、似た者同士なのかもしれないけれど、だからこそ余計にしてやられたのが悔しかったんだろうなあ。
しかし、それで感情任せに振る舞わずに礼を失わないのがこの先輩のカッコイイところなんですよねえ。傍若無人に見えてその実、この人礼儀正しさや他者への敬意は事欠かないですからねえ。礼音に対してあれだけぞんざいなのは、まあ甘えであるし肝心な場面になるとすげえ気を使いまくってるしなあ。肝心の礼音には残念ながらあんまり伝わっていないのだけれど、一番根幹の大事にしているという部分についてはちゃんと伝わっているのであんまり問題ないのだけれど。
そう、問題ないことが問題だったんですよね。今の関係で上手く行っちゃってたもんだから、両者ともに踏み込むに踏み込めなかった、とも言えるわけで。お互い、自分の評価というか、相手からどう思われているかについては全く自信持ててなかったですからねえ。傍から見るともうあからさまに好きすぎでしょう、という反応してるのに、肝心の相手がそれにさっぱり気づいていないという鈍感カップルでしたからねえ。さすがに、織口先生も杵松さんも黙って見ていられなくなって、よちよち歩きの幼児の手を引っ張ってあげるような感覚で誘導してくれましたけれど、よっぽど焦れったかったんだろうなあと微苦笑が浮かんできてしまいました。だって、二人ともいちいちそういうお節介するようなタイプじゃないんだもの。その二人が背中押しに来るまでに我慢できなくなったんだから、よっぽどだったんだなあと。

さて、今回の主題は『狐』。妖怪譚としては定番かつ大物でありながら、実在の動物でもあり、また伝承にある狐の話はどれも実際の病気や自然現象などで説明できるものも多く、ネタの豊富さのわりに今回は当初は絶対城先輩も乗り気じゃない感じであんまりテンションあがってなかったんですけれど、本物の「狐」の登場によって、というか見事に狐に騙されたことで俄然やる気を漲らせてたわけですが。
これまでのシリーズだと、その正体は古代の巨大生物だった! みたいな突拍子もないネタが待ってたりしたんだけれど、狐に関しては狐なんだから真怪としての超生物は存在しないんだろうなあ、と思ったら思わぬどんでん返しが。
いやいやいや、うん。クラウス教授の蝉に比べると愛嬌もあってもうマスコットでいいんじゃないか、と思うくらいの代物だったんで良いんですけれど、良いんですけれど。やっぱり狐はイメージ通りの「狐」がいいなあ。

んでもって、ラストでは随分と不穏な展開になってたんですが、幾らなんでも狐舐めすぎてないですかね、それって。あれだけの海千山千がそうそう簡単に脱落するとは思えないのだけれど。
あと、例の人物、身近の誰かって話みたいだけれど普通に考えたらあの人以外考えられないんだが、いやそれにしても、今まで怪しい素振り見られなかったんだが。まあ存在自体当初からずっと微妙に胡散臭い人ではあったけれど。なかなか謎が深まってきた。

にしても、絶対城先輩と一緒でなくても、目を離すと一人で勝手に詐欺師集団と激闘を繰り広げてたりする礼音さん、根っからのヒーローだなあw

シリーズ感想

絶対城先輩の妖怪学講座 八 ★★★★   

絶対城先輩の妖怪学講座 八 (メディアワークス文庫)

【絶対城先輩の妖怪学講座 八】 峰守ひろかず/水口十 メディアワークス文庫

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絶海の孤島を舞台に、妖怪博士・絶対城が「ダイダラボッチ」の謎に迫る第八巻!

「のっぺらぼう」の力を持ち、真怪でもある妖怪学徒の桜城晃(さくらぎあきら)。彼女が四十四番資料室に持ち込んだ女神像は、「ダイダラボッチ」の謎に迫る手掛かりだった。
すぐさま御場島(おんばじま)と呼ばれる絶海の火山島へ向かうことを決める絶対城と晃。そんな二人のやりとりを見た礼音(あやね)は、女性として、そして絶対城のパートナーとして、晃には遠く及ばないと感じてしまう。
火山島へは一緒に行かないと宣言した礼音は、杵松(きねまつ)と一緒に織口(おりぐち)の「二口」の治療を行ったり、一人でオカルト絡みの相談を解決していく。
そんな中、島にいる絶対城との連絡が途絶え──。
こ、この二人は……。もうね、いい加減両思いにも関わらず、恋愛に対して不器用とか恋愛ベタを通り越して、パソコン触ったこと無いのにいきなりパーツだけ揃えて与えられて、はい自作してみて、と言われた人みたいに「????」が乱舞してるんですが。
ただの無自覚なら自覚認識したらある程度でもなんとかなりそうなんだけれど、絶対城先輩にしても礼音にしてもそういう文化が一切自分に関わらないところで生きてきたもんだから、鈍いとかそういう段階じゃないんですよね。まず、「恋愛」という概念が自分の中にも結実しえるものなのだ、という現実を知覚しないことには始まらないんだろうなあ。ほんと、今の段階だと自分の中に生じている感情についてアホみたいにポカーンとなりながら「???」と首を傾げて右往左往してるばかりだし。これには、ライバルを自称したい晃にとっても苦笑モノなんだろう。現段階においても戦いようがないし、もし礼音が本当の意味でライバルとして機能してしまったら、その瞬間勝負は決してしまうのだろうし。
まあお互い何にもわかっていない状態でも、手探りと本能でわりといい感じに甘酸っぱいことにはなっているので、周りの人たちもおせっかい焼く必要もないでしょうし、みんなこれに関しては結構放ったらかしだよねえ。あの絶対城先輩の礼音への過保護っぷりを見たら、要らんこともしたくなくなるか。絶対城先輩、最初の頃は率先して礼音を引っ張り回してけっこう危ないことにも首を突っ込ませてたのに、今となっては晃さんに巻き込まれただけでも、血相変えてるくらいだし。最近、いちいち礼音への反応がお可愛いんですけど、先輩w
うんうん、こうなると杵松さんにしても織口先生にしても、いい意味でも悪い意味でも余計なことはしないタイプですしねえ。その意味では、率先していらんことをしたがるだろう晃さんをぶっ込んだのは、刺激を与えるという意味においては重要だったのかもしれないけれど、礼音は反応せんからなあ。それでも、モヤモヤ抱えてくれるだけまだ自意識に進展があるのだろうか。
ともあれ、今回のお話の主題はダイダラボッチである。なにかと巨大化ネタを投入してきた本作だけれど、これぞとびっきりも良いところの原典からして超巨大幻想体だもんなあ。それをどう扱うのかと思ったら、まさかの巨大化からの逆回転捻り。
また、最近ちょっとおとなしかった織口先生の悪女っぷりがフル回転していて、個人的には大いに堪能させていただきました。織口先生はやっぱりやりたい放題やってくれてた方がいいですわー。この人が頭抑え込まれておとなしくしているというのは何故かストレスが溜まってくる。だけに、自身のしがらみやら織口先生らしくない生き方を強いられる境遇に対して、快刀乱麻をバシッと断ってくれたのは痛快でした。この人って敵に回すよりも味方してるときの方が頼もしいというなにげに珍しいタイプだし。
ってか、この作品って味方黒い人たちばっかりのような。絶対城先輩と礼音のカップルが一番素直でピュアな気がしてきたぞ

お世話になっております。陰陽課です ★★★☆   

お世話になっております。陰陽課です (メディアワークス文庫)

【お世話になっております。陰陽課です】 峰守ひろかず メディアワークス文庫

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妖怪だって市民です! 京都の町を舞台に、妖怪たちの生活を守る新米公務員の奮闘記!

念願の公務員に採用され、京都市役所で働くことになった火乃宮祈理。入庁式を終えて彼女が配属されたのは、通称・陰陽課。京都の町には人間に紛れて暮らす妖怪がたくさんいて、そこは市民である彼らの生活を守る部署だというのだ。
混乱する祈理の教育係についたのは、白銀の髪に赤いシャツでガラの悪い、公認陰陽師の五行主任。妖怪の次は陰陽師……? と、訝しむ祈理は、陰陽師らしからぬ風貌の五行と、町を治める鬼や狐の親分との顔合わせに向かうことになるのだが……。
不良陰陽師×マジメ女子の凸凹コンビによる、不思議な公務員生活が始まります。
ずっと妖怪ものを書いてる印象だった峰守さんだけれど、実際に妖怪が出てくる作品書くのは久々だったのかー……いやぁ絶対城先輩のあれやこれやは実質妖怪と呼んでも過言じゃない存在だったような気がしないでもw
ヒロインとなる火乃宮祈理は、ちょっとお目にかかった事がないような四角四面の融通がきかない娘で規則規則と口うるさく、誰も読んでないような規約の隅々まで暗記しているような堅苦しい娘さんである。学生時代は生徒手帳を普段から手放さず、今の時代では意味がないような校則までカッチリ守ってるような娘だったんだろうなあ。学生時代の話とかは一切持ち上がらないのですが、友達とか居なさそうとか思ってしまうタイプである。
勉強家で暗記も得意ということで、むしろ法曹界の方に適性がありそうなものなんだけれど、彼女の場合なんとなく公務員になったのではなく、市民の奉仕者という市役所の職員という理念に本気で共感して市役所で働きたいがために、全国各地の公務員試験を受けてまわったという強者なのでやる気としては不必要なくらいに十分なのだが、回された部署が「いきいき生活うんたらかんたら」という何をやっているかわからないところで、居るのは年配の課長に、ガラの悪い主任の青年の二人だけ。意識高く勇んで働こうとして配属された部署がこれなら、拗ねたりやる気をなくしたりしそうなものなのだけれど、この娘の生真面目さというのは折り紙付きでそこが「陰陽課」なる珍妙な仕事内容の部署であるとわかってそんな怪しげな世界には全く関わりも関心もなかったにも関わらず、全然ひねたりせずに真面目に仕事に取り組み、必要な情報や覚えないといけない知識についても積極的に図書館に通ったりして習得していくのである。真面目最強だなあ、と思うのはこういうところで、自分の不満や不安を別枠において手を抜かないところは素直に凄いと思うし、武器でもあるのでしょう。一方で、そういう真面目さが物事をこじらせていく、という事もあったりするのですが。

この話、妖怪ものではあるんですけれど実のところ妖怪だ人間だというのは根本では関係なくて、規則規則と枠組みに縛られていた主人公が、実際に市民と接してその声を聞き、その思いを汲み取ることで市民のために働く、奉仕するということの意味を学んでいき、見た目では不真面目にしているようにしか見えなくても実際には真摯に自分のできる範囲で手をつくして、市民に奉仕し街を守る先輩職員の姿を追うことで、規則に使われるのではなく、規則とは目的のために使うものだ、という柔らかさを堅物娘が学んでいくお話なんですよね。
糞真面目な堅物の主人公とは正反対に見えるけれど、目指し願うところは同じだった先輩との共同作業。そこに、妖怪……この作品では「異人さん」と呼ぶのか、そんな異なる人たちが醸し出すもう一つの京都という不思議な、でもほんのりとした歴史と懐かしさがある生活感が根付いている世界観がくっついてきて、峰守ワールドがここでもきっちり構築されてるんですよねえ。
面白いのがこの先輩となる五行主任。まあ柄悪いし態度悪いし面倒くさい人なんですけれど……最後のあれみてしまうと、印象がガラッと変わってしまうというか、この人わんこ属性なんじゃないのか?
二巻でどうなってしまうのか心配になってしまうくらい、なんか従属属性醸し出してたんですけれどw

0能者ミナト 9 ★★★★  

0能者ミナト (9) (メディアワークス文庫)

【0能者ミナト 9】 葉山透/kyo メディアワークス文庫

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怪異を知る者でもにわかには信じがたい、神話上の存在。だが、それはいた。
身長2000メートル、超弩級の怪異。ダイダラボッチの出現は終末すら予感させるものだった。そのひと足で町が壊滅する。天災級の怪異に、公安調査庁、防衛省も動く事態に発展する。
防衛省幹部、幕僚らが居並ぶ席に、ラフな服装の青年がひとり。場違いな雰囲気をこれ見よがしに発散する湊である。人知が及ばぬ無敵のダイダラボッチに対し、湊は驚くべき作戦を提案する。それは神話を現代物理学で解明する、神への挑戦とも言えるものだった。
うほー、これはすげえ。ゴジラですら目じゃないじゃないですか。最大でも100メートルを超えるくらいのゴジラに対して、2000メートルですよ。富士山の中腹まで届くような巨身。大概の山なら山頂まで手を伸ばせば届くような。想像がつかん! でも、神話の描写を忠実に現実化するなら、このくらいになってしまうのか。神話パねえ!
と、普通ならこんなとんでもない存在を相手にする話となったら、怪獣特撮モノかモンスターバスターの話になってしまうと思うのですけれど、本シリーズの一貫して凄いところはこんなダイダラボッチみたいな相手ですら、ちゃんと怪異譚として、あくまで怪異を討滅する話になってるんですよね。現代物理学を駆使して怪異を討伐するくせに、怪異を決して現実的な生命としてのモンスターに引きずり降ろさない。怪異は怪異として、現代物理学のロジックで消し去るのである。これって難しい事だとは思ってたんですけれど、こんなダイダラボッチみたいな事例ですら、それを堅持してみせてくれたのには心から感心させられました。いやでも、実際にこれを倒した時の方法やダイダラボッチの解明された正体を考えると、むしろSF寄りにもなるのか?
面白いのは2000メートル級の大巨人が出現しながら、その巨体がもたらす目撃情報や被害が確定しないところなんですよね。これだけ見逃しようのない巨身でありながら、最初はそんなものが存在するのか、という段階から疑われ、パニックが広がっていくまでに若干の間があるわけです。これは、ダイダラボッチの存在ルールに関わる問題なのですけれど、ダイダラボッチ編が怪獣特撮モノになってしまわないロジックとしても、非常に巧妙に考えてあるんだよなあ。
いやしかし、このスケール感は凄いよなあ。2000メートルって、実在するとこんな風になるのか。

最近、話の展開上沙耶に対して厳しい試練が課せられるんですよねえ。湊も、あれでお子様二人を結構大事に……はしていないか、それでも雑には扱ってない……かなあ。甘やかさないという意味では優しく厳しいもんなあ……いや、全然そんな風には見えないけど。本当に見えないけれど。
箱入り娘だった沙耶や、ちやほやされて育ったユウキが色んな意味でたくましくなってきたのは、湊のおかげであるんだろうけれど、どうしても認めがたいですよねえ、うんうん。
湊のおかげでキャラ的に壊れちゃった人もいますし。理沙子とか、理沙子とか、理沙子とか。
あれだけひどい目にあわされておきながら、仲間はずれにされると拗ねるってこの人もたいがい面倒くさいというか、明らかに姪っ子の沙耶よりも精神年齢幼いですよねえ。その分、からかうと面白すぎるだけに、湊が会う度に弄り倒す気持ちもわからなくはない。孝元さんが、いつも何だかんだと一部始終を見物して堪能しているのもわからなくはないw

シリーズ感想

絶対城先輩の妖怪学講座 七 4   

絶対城先輩の妖怪学講座 七 (メディアワークス文庫)

【絶対城先輩の妖怪学講座 七】 峰守ひろかず/水口十 メディアワークス文庫

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「顰衆」との一件で、『妖怪学』への意識が変わった絶対城。自分なりの妖怪学論を執筆するため資料整理にあたっていると、紫から「座敷わらし」に関する情報を耳にする。一行は山間の巨木が佇む廃村神籬村を訪れ、座敷わらしの正体を突き止めることに。一方、東勢大学では謎のドラッグが広まりつつあり、絶対城のもとに織口が相談に訪れる。大学と神籬村という、遠く離れた場所での、一見関係のない出来事が次々と繋がってゆき…そしてその脅威は礼音にまで及ぶのだった。
おやおやまあまあ、絶対城さんがそんなことを口に出して言うなんて。妖怪学への意識だけじゃなくて、別の部分も大分変わっちゃってるんじゃないですか?
まあ、彼が礼音をどう思っているかなんて、今までも態度でバレバレではあったのですけれど、当人ではなく杵松さん相手とは言え、あの捻くれ者が思っていることを素直に告白するなんて、随分と人が変わったというべきか、それだけ惚れ込んでいると言うべきか。まあ杵松さんからしたら、あの絶対城が本音を自分にだけ打ち明けてくれた、というのは絶対城本人は実感ないかもしれないけれど、これは嬉しいですよね。杵松さんからすると、友達甲斐のあるやつなんだろうなあ、この変人は。
まあ付き合いの長い人たちからすると、この人のつっけんどんな態度は可愛げでしかないんだろうなあ。見ようとして見てたら、わりと何考えてるかわかりやすい人ですし、その優しさとか気配り上手なところとかも本人が思っているほど隠せてないですし。
段々、絶対城先輩を愛でるお話になってきた気がするぞww

さて、今回のお題は、家に繁栄を呼ぶあやかし、そしてそれが出て行ってしまうと家が滅びるという幸福と不幸の両方を体現している不思議な妖怪である「座敷わらし」。
今回は、その正体をどういう古代生物、或いは巨大生物で持ってくるのかと思ったら、なるほどこれは面白い「座敷わらし」の正体だなあ。一応筋が通っている……のか? 個々人が感じる幸福感と、実際の家の繁栄は違う気もするけれど、相変わらず突拍子もないネタを実に面白く料理して、妖怪話に仕立てあげるものである。この荒唐無稽さが面白いんだよなあ。
しかし、回を重ねるごとに礼音の女性離れした、というか人間離れしたタフネスさが際立ってきますねえ。今回なんぞ、普通の人間なら意識すら保てないくらいの状態だったはずなのに。絶対城先輩がいい所で颯爽と登場してくれるのですけれど、わりと放っておいても礼音さん、一人で切り抜けてしまいそうなほど頑丈というか打たれ強いので、段々と絶対城先輩も微妙に介入するタイミングに余裕見るようになって気配すら……w
でも、礼音のピンチとなると顔色変えてすっ飛んでくる度合いというか焦りっぷりについては、増し増している感もあるので、礼音のタフさを信頼しててもべた褒めしてる弱みかなあ、このあたりw
絶対城先輩も覚悟を据え、礼音は礼音で自分と絶対城先輩との関係について目を逸らさないように決めたためか、当人たちの想像以上に何とも甘やかな雰囲気が流れてしまって、ラブですか? ラブ寄せですか? みたいな感じになってきましたよ。正直、晃はタイミング遅すぎたような気もするのですけれど、いやでもむしろ絶妙のタイミングで三角関係となるべく割り込んできた、と考えるべきかこれは。礼音煽る気満々だよなあ、晃さん。

シリーズ感想

絶対城先輩の妖怪学講座 6 3   

絶対城先輩の妖怪学講座 六 (メディアワークス文庫)

【絶対城先輩の妖怪学講座 6】 峰守ひろかず/水口十 メディアワークス文庫

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「『鬼』の正体は探るな」。クラウス教授にそう忠告された絶対城だが、妖怪学における『鬼』の真相を探るため、節分の時期に行われる厄払いの儀礼「修正会の儀」に参加することになる。
政財界の有力者が集まるパーティで、絶縁した家族と対峙した絶対城は、『鬼』の正体はこの国のタブーであったことを知る。さらに、幼い頃に絶対城の世話をしていた元執事の高岩と再会し、秘匿されていた櫻城晃の死の真相を告げられることに――。
妖怪学最大の禁忌に、黒衣の妖怪博士絶対城が迫る! シリーズ緊迫の第6弾!
惚れたら負けよ、を地で行ってるよなあ、この先輩。礼音もなんで気が付かないかな、と思うくらい絶対城先輩の彼女への惚れっぷりはこっ恥ずかしいんだけどねえ。ドレスアップしてウィッグもつけた礼音を見た時の狼狽えっぷりなんて、そりゃもうむしろアンタを直視できないよ、というくらいなのさ。普通、絶対城先輩みたいな頭が良くて居丈高で何でもお見通し、みたいなキャラは容易に内心をさらけ出さない鼻につくキャラが多いんだけれど、絶対城先輩は他のことに関してはともかく、礼音に関する事柄については本当に態度が実にわかりやすいんで、そこが愛嬌というか微笑ましいんですよねえ。まあ、礼音の事以外でも情に厚くて結構感情的になることも多いんで、言うほど内心がわかりにくいキャラじゃないんですけどね。偉そうであっても意固地ではなく、自分が悪いと思ったら相手がだれでもきちんと礼を尽くして頭を下げる素直さや謙虚さもあるのが、好感度あげてるんだろうけど。
その意味でも、礼音への意地の悪い態度はあれ、完全に甘えてるとも言えるんですよねえ。小学生か。そのくせ、礼音になんかされたら簡単にぶちきれるくせにw
さて、今回はこの国の最大の禁忌、触れること能わずとされ、その謎に近づくものには謎の集団の魔の手が迫る、という「鬼」の秘密に迫る展開。政財界の重鎮たちですら、その影に怯え、実際絶対城先輩の妖怪バカ仲間がかつて鬼の秘密に挑んだが為に、謎の死を遂げ、新たにクラウス教授も警告を受けて危うい目にあった、というこのシリーズ最大の難関であり関門が訪れた、と思ったのだけれど……。
この国において、鬼の伝説はそれこそ無数にあり、「鬼」を定義することすら難しいくらい多種多様の鬼の正体が存在する。とはいえ、一番有名な鬼はなにか、というとやはり大江山酒呑童子の名が上がるわけで、今回もその路線へと入っていくわけだが……あの「古代生物」ネタは何があっても欠かさないのね(笑
ワニの話は、もっと突き詰めていっても面白かったと思うなあ。与太話としても、楽しめる。それよりも、個人的にはあの「街」の話の方が荒唐無稽でしたけどね。山の奥に孤立した隠れ里みたいな集落、とかだったらまだしも郊外都市とはいえ、インフラが普通に繋がって交通機関もアクセスしていて情報的にも物理的にも全く隔絶していない街が、あんな有り様になれるもんなんだろうか。
思いの外、チョロいというか前振りの大仰さに対して中身の浅薄さが顕著だったので若干拍子抜けしていたのだけれど、なるほど本命はあくまでそっちだったのねw
なんだよ、最初から格付けは全然逆だったってわけだ。結局、たちが悪くて手に負えないのって、絶対城先輩の周囲の人間ばかりじゃないか。類が友を呼ぶというのかなんというか。いや、クラウス教授にしても、今回の人にしても、絶対城先輩いいように振り回されてる節があるので、偉そうな態度のわりに実は立ち位置あんまり高くないんじゃないだろうか、絶対城先輩って。杵松さんにも何だかんだ手綱取られてるし、一番下っ端である礼音からして、惚れた弱みで何だかんだ弱いし……礼音相手に傍若無人に振る舞ってるのが、本当に可愛らしく思えてきたw

シリーズ感想

絶対城先輩の妖怪学講座 五4   

絶対城先輩の妖怪学講座 五 (メディアワークス文庫)

【絶対城先輩の妖怪学講座 五】 峰守ひろかず/水口十 メディアワークス文庫

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古い知り合いに年始の挨拶をするという絶対城に、荷物持ち要員として豪奢な屋敷へ連れてこられた礼音。二人を出迎えたのは、清楚な和風美女・櫻城紫だった。
研究の同志である絶対城と紫は、妖怪談義に華を咲かせる。疎外感を覚えた礼音は、近所の河原へと飛び出してしまうのだった。
そんな礼音の前に、朝霧シアンと名乗る不思議な雰囲気の少年が現れる。シアンは大学に戻ってからも、たびたび礼音の周囲をうろつくように。
その頃、礼音がシアンと出会った川に再開発の計画が持ち上がり、紫の周囲にも不審な噂が出始めるのだった――。
うん、これはもう絶対城さんが悪いね。親しき仲にこそ配慮あり、てなもんですよ。幾ら気心の知れた礼音だからと言って、いや気心の知れた礼音だからこそあんなふうにぞんざいに扱われてしまっては傷つくというもの。多少礼音も過敏になっていたものの、あんな風に扱われて何も感じないと言うことはむしろその相手に対して無関心と言っていいくらい何も感じていないという事になってしまう。好きだからこそ、大事に思っている人だからこそ、そんな相手から配慮を欠いた扱いを受ければ、痛いですよ。
まあ絶対城先輩が傲岸不遜で横暴な人物でありながら、嫌な人間ではないのは、悪いと思ったらキチンと謝れる事なのでしょう。この人、あれだけ偉そうにしながら、決して肝心な所では意固地にならず素直に頭を下げられるんだよなあ。本当の意味で誠意を込めて心から謝れる人って、案外少ないですからね。要らんところで凄まじく大人気なかったりもするのですけれど、それも愛嬌というもの。むしろそこが可愛らしかったりするのであります。
一方の礼音も、この娘も女性としては尋常じゃないくらいサッパリしてますよね。普通、あんな酷い言われようをしたら、根に持つ、とまではいかない間でもしばらくは引きずりますよ。でも、この娘の場合は一回泣いたらそこでキッチリと気持ちを切り替えられるんですよね。絶対城先輩があれだけ素直に謝れるのも、礼音の方にそれを引っ張りだす下地があるからなのかもしれません。性格的にも相性ピッタリなのよねえ。今となっては、何やら普通に絶対城先輩が礼音の部屋までご飯作りに言ったりする機会もあるみたいだし、場合によっては泊まってくケースも無きにしもあらずみたいだし。それで全く色っぽい話がないというのも、いい歳した男女でありながら変な話なんですが。ってか、礼音に危機感とか警戒心が全くないもんなあ。こいつ、本当に女か?
今回なんて、弱っていたとはいえ逃げ出した大型の野生動物を素手で押さえこんで捕獲してたりしましたし。あの、それってもう女性には無理というレベルじゃなくて、人類には不可能なレベルの所業にみえるんですけどw
合気道って確か人間相手の武術だったと思うんですけれど。

さて、今回も一連の展開は最初は勘違いが原因の妖怪話から、本物の怪異が相手となる真怪を巡る話となっていくのですが、一連の様々なエピソードがどんどん繋がっていって、本筋に束ねられていくミステリー小説みたいな展開はやっぱり面白かったなあ。
ある意味、今回もオチは古代から生き残っていた巨大生物、という範囲内なんでしょうか。河童だもんねえ。
さて、主題となる妖怪は最初から比べると段々メジャーなものになってきているのですが、知名度が高く有名な妖怪の方が、実は踏み込めば踏み込むほど奈落のように深くて広い奥底が広がっているもののようで、どうやら物語の核心となる妖怪は、おそらく日本において最も有名なあの存在……これはワクワクしてきましたよ。
何だかんだと、絶対城先輩と礼音の関係も熟しだしたようで、突拍子もない娘ですけれど、礼音もちゃんと女の子し出してる気がします……気がします! もうちと女子力! 女子力あっぷ!!

シリーズ感想

路地裏のあやかしたち 綾櫛横丁加納表具店 3 3   

路地裏のあやかしたち (3) 綾櫛横丁加納表具店 (メディアワークス文庫)

【路地裏のあやかしたち 綾櫛横丁加納表具店 3】 行田尚希 メディアワークス文庫

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路地裏にひっそりと佇む、加納表具店。店を営むのは、若く美しい環。掛け軸や屏風に込められた思念を鎮める仕事を引き受けている彼女のもとには、様々な事情を抱えた妖怪が相談を持ち込んでくる。
今回登場するのは、音痴なのにミュージシャンををめざす〈鵺〉、弁護士として働く〈天邪鬼〉、そして〈雪女〉の蓮華。
彼らの切ない物語に触れ合ううちに、高校生・洸之介は将来の進路を深く考えるようになる――。人間と妖怪が織りなす、ほろ苦くも微笑ましい、どこか懐かしい不思議な物語。多くの読者に愛されたシリーズも、これにて完結!!
前回のお話が、人の人生に寄り添う妖怪たちの話であったように、今回の「鵺」「天邪鬼」「雪女」のお話は、「将来」を想起させる話になっている。夢を追い続ける鵺。望む職につき、しかし現実に悩む天邪鬼。時を経て別れた人間の親友と再び会う事に悩む雪女。ずっと変わらずに居てくれる彼ら妖怪たちだけれど、何も変わらずにいるわけではないんですよね。変わっていく環境に併せて、或いは自分で変えて、変わりゆく関係を変わることで結び続けて、彼らもまた変化の中にいる。
それを知った時、実感した時、洸之介の中でどんな意識の変化があったのかはわかりません。そこに安堵を見たのか、勇気を得たのか。
いずれにしても、自分の中の本当にやりたい事を見出していく姿は、ここちの良いものでした。自分でも気づいていなかった、自分の中の将来への望みを、無理矢理でも強引でもなく、自然な形でかぶさっていたものが剥離していくように見えてくる様子は、とても自然なもので、この作品の妖怪たちの人との交わり方もそうだったのだけれど、この自然な感じがこの作品の根幹でもあったような気がします。
それでいて、決定的な後押しをしてくれたのが、家族である母親だった、というのは柔らかな思わずはにかんでしまうような優しい感触だったなあ。実に姉御肌な、というかそれを通り越して男前なお袋さんである。
てっきり、改めて環さんのもとで本格的に修行するのかと思っていたのだけれど、洸之介の中で芽生えた表具というものへの「欲」は、そんなところに留まらなくて、芸術家で絵師だった父親と、理系の研究者である母親の両方の特性を受け継いだ道へと展望を開き、環さんのもとで小さくまとまるのではなく、師匠であると同時に次の時代に新たな技術を取り込んで伝えていってくれる伝承者でもある環さんに、新しい技術を創りだして伝えたい、というのは、随分と格好いい展望じゃないですか。こうやって、やりたい事が具体的に定まって、邁進していけるって羨ましいです、素直に。それをずっといつまでも見守ってくれる人が、血の繋がった家族以外にもこんなにもたくさんいるというのが。いってらっしゃいと送り出してくれる人がいて、帰ってくる場所があるからこそ、気持よく旅立てる。
若々しくも落ち着いた、とても健やかな物語でした。

1巻 2巻感想

0能者ミナト 8 3   

0能者ミナト (8) (メディアワークス文庫)

【0能者ミナト 8】 葉山透/kyo メディアワークス文庫

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恐ろしい怪異が蠢く禁断の館。その最奥にいたものとは――元気に泣く人間の赤子だった。この異様な事件は解明されることなく、記録の奥底に眠ることになる。
赤子は立派な少年と少女に成長する。だが、そのささやかな平穏は破られる。赤子が怪異の子だという資料の流出。二人は追い詰められていく。
かくして退屈な依頼に殺されそうだった湊の登場である。なぜ怪異の館に赤子はいたのか。二人は本当に人間なのか。
不可思議な事象に湊の知性は驚くべき論理的解決を見出していく。だが見過ごした一つの可能性。それが恐るべき事態を引き起こすのだった!
さ、さすがに「メンデルの法則」まで適応されるとなると、じゃあ怪異って普通の生き物なの? という疑問が湧いてくる。遺伝子云々というルールに怪異も縛られるなら、それは怪異が幻想・超常の存在ではなく、既存の生命の系統樹に連なる存在なんじゃないのか、と。尤も、異類婚姻譚が成立する時点で怪異も既存の生命の範疇と考えて然るべき、という捉え方もあるわけか。
ただ、何れにしても無限令の試みは、怪異という存在に対するアプローチとしては御蔭神道と総本山のそれとは根本から違っていて、完全にオカルトの領域から外れた科学的なものなんですよね。そして、それが成立してしまっている時点で、この作品における怪異というものの見方そのものをひっくり返さないといけないのかもしれない。そうしないと、次の敵。無限令が対抗策を導き出そうとして叶わず、湊にその討伐を託すことになったラスボスっぽい大敵に対しては、そもそも立ち向かう事すら出来ないのではないだろうか。なんだか、それくらい無茶苦茶な大怪異みたいだし。
今回のお話は、怪異に対して湊が科学的アプローチで調伏していく、というこの作品における枠組みをやや逸脱した話だったと思うのだけれど、次のでっかい事件の前に、認識のパラダイムシフト、とまではいかなくても、今までよりもさらに柔らかく「怪異」という存在を捉えるためのワンクッションを置くための話だったんじゃないか、なんて想像すると、次がどれだけとんでもないスケールのお話になるのか自然とワクワクしてきてしまう。

と、その前に今回のお話だけれど、このオッサン、ほんとに信用出来ないよなあ。最近、度々本気で余裕ないケースがあったんで、今回もついつい信じこんでしまったのがなんだか悔しい。まあ、今回については湊が云々というよりも、スズという少女の度胸と肝の据わり方が並外れていた故、と割り切った方がいいのでしょう。実際の状況時における彼女の立ちふるまいはもとより、追い詰められても思いもよらぬ事が起こっても、動転してパニックにならず、あっけらかんとしていると思えるくらいブレないメンタル面の強さが運も結果も手繰り寄せたように思える。勿論、イチや沙耶のような信じられる相手、心から寄りかかれる相手が居たからだろうけれど、芯の強い女の子は格好いいわ。
沙耶も身近の歳の近い子がこういう生き方しているのを見て、何らかの影響を受けないものだろうか。世間ずれしてないのに、スズときたら一足先に……だもんねえ。……むしろ、関係ないけど理彩子の方が焦りそうで笑える。
何にせよ、今回の一件、湊の詐術では、御蔭神道や総本山という古く特殊であるがゆえに選良意識が悪い方に拗れた一面がある組織に対して、痛烈にしっぺ返し、というよりも、その一方的な見方がどれほど醜悪で愚昧でしかないかを身をもって知らしめる、という意味で実に痛快でした。御蔭神道や総本山も、決して腐りきった組織などではないのが、ちゃんと歪みに対しては自戒自浄が働きそう、というのもよくわかりましたし。単にやり込めるのではなく、組織を良い方向に向けさせる、なんてことを湊が果たして意識していたかはわかりませんけれど、口の悪さや態度の悪さと裏腹に、湊って案外……だもんなあ。

それにしても、ラストの湊と理彩子と孝元が毎回会合、というか集まって駄弁ってる喫茶店、いい加減利用するのも憚れるくらい、怪しい振る舞いしまくってるけれど、湊はもとより理彩子も孝元も気にせず毎回利用……というか、巫女服と僧服来たまま利用している時点で、わりと二人も大概なんだよなあ。
店側も大変である、これ。

シリーズ感想

時槻風乃と黒い童話の夜 23   

時槻風乃と黒い童話の夜 第2集 (メディアワークス文庫)

【時槻風乃と黒い童話の夜 2】 甲田学人/三日月かける メディアワークス文庫

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――少女達にとって生きることは『痛み』だ。現代社会に蘇る恐怖の童話ファンタジー第2幕。

「奈緒。わたし、可愛い?」
京本奈緒は、嘘が嫌いだ。その潔癖とも言える『嘘嫌い』のせいで親しい友達も少ない。だが唯一、天城紅美子だけは中学校からの親友と呼べる存在だった。
紅美子は奈緒が知る限り最上の美少女だが、過度の寂しがり屋と浅慮な言動のため、同性からは嫌われていた。
そんな紅美子の嘘や隠し事のないあけすけな言動は、奈緒にとっては心地よかった。
だが事件は唐突に起きてしまう。そして闇夜を歩く時槻風乃に出会い、二人の少女の間に黒い影が落ちる――。
「白雪姫」「ラプンツェル」など、現代社会を舞台に紡がれる恐怖の童話ファンタジー。
「白雪姫」と「ラプンツェル」というと、【断章のグリム】ではクライマックス、すなわち阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられた惨劇の元ネタとなった童話だったのだけれど、〈泡禍〉が介在しないこのシリーズでは純粋に人間の暗黒面が、少女たちを追い込んでいきます、と言い切れてしまえば楽なのだけれど、彼女たちを破綻するまで、破滅するまで追い詰めてしまったのは単なる悪意や負の感情じゃないんですよね。
強いて言うなら、幼い頃から家族が少女たちに強いてきた人格形成が、本来輝かしいものとして立脚するはずだった大切な人との「絆」を、逆に破滅への導火線へと変貌させてしまった、というべきか。彼女らにとって、結ぶに至った「絆」があまりにも強固でありすぎたが故の悲劇だったのか。
いずれにしても「白雪姫」にしても「ラプンツェル」にしても、決して「絆」を蔑ろにして相手を裏切る物語ではなかったのだ。両方共、最後までお互いの中の友情は本物であり、誰よりも、そう誰よりも大切な人だったというのは間違いなく……だからこそ起こってしまった出来事であり、だからこその惨たらしい結末だった。あまりにも、救いがない。
誰が白雪姫で、誰が継母の女王か。誰がラプンツェルで、誰が塔の魔女だったのかは実際に読んで確かめて欲しい。相変わらず、物語における配役は絶妙と言っていい。すべてが終わってしまったあとに童話の登場人物を当てはめてみれば、それは童話の登場人物の悲劇を現代における形に変えて、身震いするほどに再現されている。それは確かに現代の白雪姫で、現代のラプンツェルだったのだ。

それにしても、一巻からずっと続いているのだけれど、一連の少女たちの悲劇の発端となっている狂いを生じさせているのって、総じて家庭環境が原因だったりするんですよね。何らかの形で幼いころから少女たちに精神的な圧迫や思想の強制がつづけられた結果、どこかいびつな人格形成がなされてしまい、それが破滅を引き込んでしまっている。親や家庭環境というものが、どれほど子供に大きな影響を与えるものなのかがつきつけられているかのようだ。
今回に関しては、特に「ラプンツェル」が酷いなんてものじゃなくて、これほど惨たらしい子供の人格を無視した親としての在りようは見るに耐えなくて、あの手の平返しのはしごを外すシーンには反吐が出そう、という表現が相応しい。あれは本当にくそったれだった。あまりにも救われないよ。

風乃は、今回は言うほど導火線に火をつける役としては派手な動きを見せていなかったように思う。むしろ、洸平の方が起爆剤になってしまってるんですよね。彼が原因でもなんでもないんだけれど、偶然なのか何なのか、彼がその場面にただ居たこと、存在そのものが破滅の引き金となってしまっている、というのは、同じような悲劇を食い止めようとしていた彼の願いからすると、随分ときつい顛末なんじゃないだろうか。

1巻感想

絶対城先輩の妖怪学講座 四4   

絶対城先輩の妖怪学講座 四 (メディアワークス文庫)

【絶対城先輩の妖怪学講座 四】 峰守ひろかず/水口十 メディアワークス文庫

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『大日本護法息滅会』。東勢大学で最近問題となっている新興宗教団体である。織口准教授によると教祖は理工学部のOBとのこと。大学側からの相談に傍観を決め込む絶対城だったが、教祖が『憑きもの使い』との情報に、早速教団へ妖怪調査に向かう。
しかし、いつも絶対城に協力してくれる杵松が別行動を取ると言い出し何やら様子がおかしい。仕方なく礼音と二人で教団本部に到着すると、そこで待ち受けていたのは長身痩躯の青年教祖、罵王院光陰。
対峙した絶対城は教義の矛盾を突き、見事教団の正体を暴いたかに見えたが、その瞬間、礼音の身体に異変が起こり……。
もしかして、この絶対城先輩って……チョロい?
気むずかしく狷介でひねくれ者で、と性格も面倒くさそうに見える絶対城先輩だけれど、存外可愛らしくてマメなところもある、というのは前回のお話でよくわかったつもりだったんですけれど、今回の絶対城先輩ってそれどころじゃなかったような……。
ちょ、ちょっと礼音さん。あんた、目が節穴じゃないですか? 幾らなんでも女子力少なすぎやしませんか? 実は鈍感なのってあんたの方じゃないんですか?
これ、明らかに絶対城先輩、あんたのこと好き好きじゃないですか。傍から見てるとよく分かるのですが、絶対城先輩の礼音への扱いが劇的に変わってるんですよ。いや、変わっているというと違うのかもしれませんけれど、確かに前までも礼音のことは口ではぞんざいに言いながらも、結構大切に扱っていたのですが、それはどちらかというとまだ絶対城先輩の性格によるもののように見えました。なんだかんだときっちり者でマメで優しい先輩は、身内である礼音の身の安全やメンタル面には結構気を使ってたんですよね。礼音と来たら、自分からあっけらかんとトラブルに首を突っ込むくせに、わりと落ち込みやすいところもありますし。まあ、リカバリーも早いというか易いんですけれど。だからまあ、この危なっかしい後輩に対して、絶対城先輩は乱暴に使い倒すようにしながら、実際はかなり繊細に接していたように思います。
とまあ、ここまでは大切に扱いつつも、あくまで後輩の範囲だったと思うんですよ。礼音が絶対城先輩のことを意識するくらいには、先輩の方も礼音のことを意識はしてたと思いますけれどね。
でも、今回における先輩の礼音の扱いを見ていると、ちょっとそれどころじゃないような素振りが、あからさまに……。相変わらず礼音は、パカーっと口をあけて気がついてないというか気にもしてないようなのですが、先輩から礼音に対して、お前もっとちゃんと女らしく振る舞え、という光線がビシビシと放たれてるのです。まともに服も持っていない礼音に、ちゃんとしたドレスを贈ったりしてるのなんぞその最たるもので、他にも礼音からの恐る恐るのデート(仮)のお誘いにかなり前のめりにデート(本気)として了承してたり、偽装としての恋人設定に先輩のほうが実はノリノリだったり、となんか傍目の仏頂面とは裏腹に、中身の方浮かれてたり色呆けてたりしませんか、先輩!?
先輩の数少ない友人であり、礼音の他では唯一と言っていい相棒である杵松さんが、今回の一件では妙な動向を見せて先輩と礼音から距離を置いていたせいもあってか、普段よりも余計に先輩が寂しそうにしていたのも、礼音に余計に構っていた原因の一つではあるんでしょうけれど、それにしても先輩のアプローチはなかなか笑えましたよ、礼音が女子としては目も当てられないポンコツっぷりで、それらを受け止め損ねていたせいで。まあ、効果がなかったわけではなく、礼音の方もちゃんと理解してないながらも、何となく距離を縮めて行こうという素振りが見えたので、成果はあったんでしょうけれど。
まともな人間づきあいが出来なさそうな絶対城先輩と、食わせ物ながらもまともな人に見える杵松さん、この二人がどうして友人関係になったのか、その馴れ初めから今に至る信頼関係が築かれるまでのお話が語られて、その意味でもなかなか面白く興味深いエピソードでした。思ってた以上に杵松さんの影響力って大きかったのね。意外と親しくなった相手には依存するというわけではないけれど、結構のめり込む傾向が先輩にあるのはよくわかった。クラウス先生についても、前に対立した際は先輩のメンタルが面倒なことになったし。寂しがり屋かッ!
そのクラウス先生は今回も色々と引っ掻き回してくれた気がしますけれど、この人敵として立ちまわると本当に厄介というか面倒くさいというか鬱陶しいんだけれど、味方となるとやっぱり面倒ではあるんだけれど頼もしさが段違いだわな。絶対城先輩だけで十分頼もしいんだけれど、クラウス先生が助言をくれると安定感が違う。

肝心の怪異については、相変わらず前半の常識的かつ民俗学的見地からの怪異現象の解体から、後半のとんでも展開のギャップが楽しい。もう、普通に本物の妖怪だった、という方が安心できるようなぶっ飛んだ存在が出てくるもんなあ。普通に、黒幕の正体はそれまで登場した人物の中から予想していたのに、あれはちょっと予想の斜め上過ぎましたよw

杵松さん、以前からの実はこの人物語全体を通しての黒幕なんじゃ、という疑惑については概ね払拭できたと思うのですけれど、ちょっと違う方面で微妙に怪しい素振りが、ラストなんかでも垣間見えてきたような……。
まさかの三角関係フラグですか?

シリーズ感想
 
6月17日

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(オーバーラップノベルス)
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(MFブックス)
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(KADOKAWA)
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(ビッグガンガンコミックス)
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(ガンガンコミックスONLINE)
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(ヤングガンガンコミックス)
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(ガルドコミックス)
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5月24日

(あすかコミックスDX)
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5月21日

(MFコミックス アライブシリーズ)
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(アフタヌーンKC)
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(イブニングKC)
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(モーニングKC)
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(ワイドKC)
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(ガンガンコミックスJOKER)
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(アルファポリス)
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5月20日

(富士見ファンタジア文庫)
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(TOブックス)
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(チャンピオンREDコミックス)
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(ヤングチャンピオン烈コミックス)
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(ヤンマガKCスペシャル)
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