灰と幻想のグリムガル level.9 ここにいる今、遥か遠くへ (オーバーラップ文庫)

【灰と幻想のグリムガル level.9 ここにいる今、遥か遠くへ】 十文字青/ 白井鋭利 オーバーラップ文庫

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ジャンボという名のオーク率いるフォルガンとの戦いが混迷を極める最中、ハルヒロたちはかつてない危機を迎えていた。ランタのフォルガンへの寝返り。そして、一人また一人と散り散りになっていく過酷な撤退戦。パーティのみんなの安否がわからないまま、ハルヒロたちは自分たちにとってパーティの仲間が、どんな存在だったかを再認識していく。失いそうになってはじめて知るそれを、ハルヒロたちは本当に失ってしまうのか、それとも―。霧深き千の峡谷で、“孤独”という敵と相まみえる時、灰の中から生まれし冒険譚は新たな一幕を紡ぎはじめる。
今まで、一人がはぐれてしばらく別行動、みたいなことはあったと思うんだけれど、みんながこれほど散り散りになってしまうことはこれが初めてだったんじゃなかろうか。
厳密にはメリィはハルヒロと一緒ではあるんだけれど、みんな一人になってしまったからこそ、自分にとってパーティーメンバーがどういう存在なのか、というのを強く思い、考えることになる。
それは孤独感や別れ別れになってしまいこのまま二度と会えないんじゃないか、という恐れが、裏切ったと思しきランタの姿に背中を押されてしまったからこそ、の沈むような思考だったんだろうなあ。みんなの心配をすると同時に、自分自身も生き死にの只中に放り込まれて今にも死にそうな思いをしている最中だからこそ尚更に。
ダルングガルで長く過ごした影響も強いんでしょうね。あそこで、ハルヒロたちは自分たち以外人間がいない世界でそのまま一生を過ごす決意まで一時は固めていた。ダルングガルで、このメンツでずっと生きていくんだ、という思いまで抱いていたわけなんだから、それをただの仲間でもう括れないよねえ。
ハルヒロの、もう俺達は家族だったんだ、という趣旨の独白がじんわりと胸に染み入ってくる。離れ離れになりながら、みんな仲間以上の間柄になっていた家族を想っていたのだ。もう一度、絶対に生きて会うんだ、と自分を奮い立たせながら。みんな、大切な人を失った記憶をずっと胸に抱いているから。
自分が死んだら、あの悲しみを他のみんなに味わわせてしまう、と必死に生きて生きて生きようとする、あのユメのがむしゃらな姿には、もうなんか泣きそうになってしまった。
死にたくない、生きたい、仲間のもとに戻りたい、という思いはでも、ハルヒロたちだけじゃないんですよね。殺し合っていたはずのゴブリンのオンサと大狼のコンビと、言葉が通じないながら同じ瀕死の状態になったとき支え合って生き延びようという状態になったときなんて、もうねえ。
ランタがフォルガンの中で感じた思いというのは、異種や不死族相手でもわかり合って、仲良くやってけるんじゃないか、という思いは、決して荒唐無稽じゃないんですよね。少なくとも、ハルヒロたちはもうそれを受け入れるだけの下地は出来ている。ただまあ、その機会はなかなか得られないんだろうけれど。
家族同然のパーティーの中にあって、ハグレモノであるランタの思いがまた独特でありつつ不思議な関係性でちょっと感慨深かったですね。あれ、独りよがりでもあるんだけれど、ハルヒロたちと無言の同意が交わされている感じでもあるんですよねえ。でもそうなんだよなあ、モグゾーが居た頃はハルヒロと三人でよくつるんでたんだから、ちょっと変わってしまったのはやっぱりモグゾーが居なくなってからなのか。彼は、ランタの理解者というわけじゃあなかったけれど、ありのままのランタをそのまま受け入れられる稀有な大らかな人柄だったからなあ。ランタも彼をクッションにしてもうちょっと近い距離で他の連中とも付き合っていた記憶がある。まあ、モグゾーもわりとランタに辛辣だったりするときあった気もするけれど。
そう言えば、ハルヒロたちが例えていた家族の関係。女性陣はメリィじゃなくてシホルが長女なのね。これちょっと意外だった。てっきりメリィが長女扱いだと思っていたので。今となってはシホルの方が精神的支柱になってるのか。最初の頃のあの内向的だった印象が強く残っているだけに、強くなった今でも固定観念が残ってるんか。
あと、ランタ並に仲間同士の関係について考えをこじらせちゃってるのがメリィなんですなあ。えらい、あるべき姿にしがみついちゃってる。もっとシンプルに考えればいいのに、というのは他人事で人間関係というのはどうしたって深く深く考え込んじゃうものなんですけどね。それが大事な関係であればあるほど。
突然、ハルヒロに迫ってきて、取引として恋人関係を強いてきたセトラ相手にもうグチャグチャに思考を取っ散らかせちゃってるメリィですけれど、今まで通りの変わらない仲間関係で居たいと拘りながらもそこまでハルヒロについてばかり考えちゃっているあたりで、もうなんだかなあ、というところなんですけれど。
何あれ。かっこいい

ハルヒロのとある行動を目の当たりにして、素でこんなこと思っちゃってる時点でアレなのにねえ。ってか、もうなんかポロッとむき出しになりすぎてて、吹いちゃいましたがなこのシーン。この後の自分への言い聞かせ方が、それ誰に言い訳してるの、と言いたくなるような内容ですし。
一方でメリィって、ハルヒロの方は自分をどう思っているか、という観点に関しては一切頭にないんですよねえ。振り返ってみると、自分がどう思っているか、というところで一杯一杯になって溺れちゃってて、余裕がまったくなくなっちゃってるわけで。何気に、こんな状態のメリィに彼女の内面がどうなってるのか知らないまま、目を瞑ったままブンブン剣振り回しているようなメリィの言葉にぶった切られまくってるハルヒロが、かなり可哀想です。察しろ、というのはちと酷すぎる状況ですし。
ともあれ、もう一度会えるかわからないくらいの四散っぷりでしたから、怒涛の合流劇には安心するやら燃えるやら、落ち着いて感動の再会と行かない相変わらずの修羅場にハラハラさせられましたが、だからこそ感動もひとしおというやつでしたねえ。
一人残ったランタ、どうするかと思ったら実にランタらしいマクリを見せてくれましたし。こいつ、どうするんだホント。シレッと戻ってきそうな気もするけれど。
しかし、ほんとに他のメンバーからのハルヒロの評価って、本人の自己評価の低さに反比例するようにメチャクチャ高いよなあ。みんな、ちゃんと根拠あってハルヒロのリーダーっぷりや責任感を称えているので大いに納得できるのですけれど。ランタですら、しっかり認めてるしなあ。

シリーズ感想