【ロープレ世界は無理ゲーでした 領主のドラ息子に転生したら人生詰んでた】 二八乃端月/フルーツパンチ ファミ通文庫

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冴えない営業マンの俺は外回り中に階段から転げ落ち、目覚めると昔ハマったRPGに登場する領主のドラ息子ボルマンになっていた!父の勧めで貴族の娘エステルと婚約を結ぶことになった俺。ゲームの世界も悪くないなと思ったのも束の間、この世界がシナリオと同じ運命を辿ると村は魔物に襲われ滅びてしまうことに気づく。十二歳に転生したおっさんが努力と友情と舌先三寸!?でロープレ世界を生き延びる、チート不足の崖っぷちゲーム世界冒険譚!
よくある転生と同時に特殊能力特典貰えたり、転生したキャラが特に優秀だったりするような展開が一切なく、素のスペックだけで勝負させられる系統かー。しかも、最初の悪役キャラでシナリオ序盤に退場予定、という置かれた立場、状況が底辺から立て直していかないと行けないというハードモード。
ただ、タイトルにあるような無理ゲー、というほどではないと思うんですよね。将来滅びる予定の領地は現状では田舎だけど豊かで経済力もありそうですし、仕えてくれている隊長はかつては都でも鳴らしたツワモノらしいですし。
とはいえ、領地のトップである両親が俗物の底辺みたいな小物悪党なので、それをなんとかしなければ全部が瓦解してしまい、将来約束されている破滅を回避などとてもできないわけですが。

こういう原作シナリオが前提にあり、それを覆すために幼い頃から改革していく系の話って、結局正史と未来の結末を知っている人間が主人公本人しか居ない以上、結局全部独りで頑張って変えていく、というパターンが多い気がするんですよね。もちろん、仲間や協力者はたくさん作るんだけれど、本質的に彼ら正史改変者たちは孤独であることが多い。それも仕方のないことで、彼ら主人公の根源となっている情報であり原動力を誰も共有できないんですもんね。
でも、本作が少し違うのはボルマンが早い段階でヒロインであるエステルと、ゲームのシナリオとかそういう話はしていないものの、将来の破滅の情報に関しては秘密にせずに共有してるところなんですよね。それほどの秘密を打ち明けてでも、ボルマンはエステルと一緒になることを望んで、エステルの方もそんな破滅を知った上でボルマンの元に居ようとする。
幼い二人の恋と情熱、それを燃料に焚べて原動力とする努力と直向きさ、一途な健気さがほんと微笑ましくも応援したくなるんですよね。
漠然とした破滅への忌避、死への恐怖といったものが原動力ではなく、ただただエステルを幸せにするために、死に物狂いで頑張るのっていいじゃないですか。男の子、って感じが凄く出てて。
エステルの方も、最初は子豚姫みたいに言われてる節制出来ない女の子だったのに、ボルマンと出会って彼に恋して、彼とともに頑張るために自分を変えて、という努力する系の一途なヒロインでまた可愛いんだ。
ボルマンの中の人が目覚めるまで、本来のボルマンはまだ小さい子供にも関わらず悪行の限りを尽くしていて、他領にまで名前が響くほどの悪名を響かせていたのだけれど、それによって憎悪すら抱かれていた領民たちに、彼は誠実に償いを遂げていくのである。勿論、拭えない罪というものはあるし、ボルマンも自分のしでかしてきたことの大きさに痛感するはめになるのだけれど、彼は言葉や金銭だけではなく、ちゃんと体を張って罪の清算以上の領主の息子としての責任を果たすことで、許し以上のものを獲得していくのである。
自分のための破滅の回避ではない、彼の頑張りは見ていて心擽られるものがあるんですよねえ。
なんとか、エルテルと幸せになってほしいものである。
そう言えば、冒頭にちらっとだけ登場した本来のシナリオの主人公、全然姿を見ないけれどそのうち出てくるんだろうか。