【ワーウルフになった俺は意思疎通ができないと思われている 1】 比嘉智康/福きつね HJ文庫

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ある日、目覚めたら異世界でワーウルフに転生していた竜之介。しかもワーウルフは人間はおろか他の魔物とも意思疎通ができない種族だった! 超ハードモードな状況に戸惑う竜之介だが――「……わたしと一緒に、テイムロイヤル、出てほしい」テイマーを目指す美しいお嬢様・エフデを救ったことで、彼女のパートナーとして生活することに! しかしこのお嬢様、名家出身のはずが貧乏でバイト三昧と、何やら訳ありのご様子……!? 言葉はなくても心でつながる異世界ワーウルフ転生譚、開幕!

たとえ言葉が通じ合っても、意思疎通出来ているかというと一概にそうとも言い切れない。話している言葉の意味はわかっても、理解する気がなければ何も伝わらないしそもそも聞いちゃいない場合もある。自分勝手に好きな解釈をして意図を汲んでくれない時もある。
時として、言葉が通じても意思疎通は一方通行だ。ドドリアさんのエピソードなんてその最たるものだろうし、妖精アアリッコの言動も好意と善意に基づいているのだろうけれど一方通行で竜之介の意志なんて確認なんざしちゃいない。
ブレイクのエフデさんへのアプローチも意思疎通なんて一切考慮していない一方通行の押し付けがましい搾取に過ぎない。
ザボンさんの告白イベントに関してだけはあれよくわからないんだけど。うん、あれどういう事なの?
ともかく、意思疎通というのは気持ちを通じ合わせるというのは決して言葉が通じてこそ叶う、というものではない、という事だ。ドドリアさんの一件でどれだけ言葉を尽くしても、母親はそれを信じてくれなかったこともある。あとで誤解は解けたにしても。
だからなのだろうか。竜之介が発した言葉が伝わらないワーウルフになってしまっても絶望しなかったのは。いや、それとも言葉が通じなくてもコチラの気持ちを理解しようとしてくれる、自分の気持ちを一生懸命伝えてくれるエフデと出会えたからだろうか。
やはり言葉が通じない以上、エフデとだってちゃんと意思疎通が叶うわけじゃない。コチラがいいたいことをトンチンカンに受け止めてしまうことがほとんどだ。伝わらないことに、もどかしい気持ちを抱くことだって度々だ。
でも、通じることもある。
ちゃんと、意志が通る時もある。ちゃんと、わかってくれることもある。そのときに、伝わったと感じた時の嬉しさを竜之介は本当に大事にしている。伝わないはずの気持ちを意志を汲み取ってくれたときの感動を忘れられず、とても素敵に思っている。
だから、誰とも言葉が通じないこの世界で、でも竜之介は一度も孤独を感じなかった。
幸せだったのだ。
その幸せは、果たして人の幸せかどうかはわからないけれど。でもどうせ、アアリッコに誘われて浮上世界に行ったとしても、そこにあるのは意図を誰も汲み取ってくれず決めつけで押し付けてくるだけの家畜の楽園だ。

エフデさんとキズナと名付けられた竜之介の関係は、エフデの側から見たらペットと飼い主のそれなんだろう。どれほど心繋がり大切なパートナーとなっていたとしても、二人の間には決定的な隔たりがある。認識の差がある。それは、言葉が通じないというだけで説明がつかない断絶だ。でも、現状はともかくエフデさんが一族の彼岸として目指している、ワーウルフの低脳種からの知恵ある種族への復活は対等以上の関係を目指すもののはず。
家族を失い、他者には見捨てられ、社会システムには望まぬ結婚を強いられ、周りには言葉が通じる相手ばかりなのに誰よりも孤独だったエフデさん。その下に現れた言葉の通じないワーウルフのキズナは、でもエフデさんにとっても唯一心通じ合わせられる相手だったのだ。今は対等でないにしても。ペットと飼い主の関係に留まっているのだとしても。それでも、二人は家族になったのだ。
多分、これはきっとそんなお話。そんなテーマをお話するには、ちと色々ととっ散らかって集約できていなかった気もするけれど。
ともあれ、この健気な二人の人外カップルには、それこそ本当に人外カップルになれるように願うばかりでありました。

比嘉智康作品感想