【妖怪解析官・神代宇路子の追跡 人魚は嘘を云うものだ】 峰守 ひろかず/七原しえ メディアワークス文庫

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鷹橋川で発見されたミイラ化した遺体の上半身と、それに合致する巨大な魚の下半身。
怪事件に悩まされていた新米刑事の御堂陸は、手がかりを求め、美貌の科学者・神代宇路子の許へ押しかけることに。私生活はちょっぴりだらしないが、妖怪、特に人魚について語り出すと止まらない彼女は、陸が追う事件についても何か知っている様子で──。
生真面目な刑事と妖艶な解析官が人魚の秘密を解き明かす! ……ただし、人魚は嘘をつくことがあるのでご注意を。

終わってみると、陸くんってよくまあこんな真っ当な正義感に育ったよね、という境遇なんですよね。偽善もまた善と言いますけれど、たとえ表面上だけ繕われた正義であっても建前だけで鎧われた言葉であっても、虚であろうとそれを信じた人がいるのなら、良きモノは生み出せるということなんでしょうかねえ。
この主人公の御堂陸くんは自分が正しいと信じたことの為には猪突猛進するきらいがあるのだけれど、彼はこの手の迷惑な正義感、或いは正義という棍棒を振り回していきり立つ輩とはまた根本的に違う人間でありキャラクターなんですよね。どうしてなんだろうと物語を読みながら考えていたのだけれど、彼の「正しさ」って否定じゃなくて肯定なんですよ。正義に当てはまらないものを敵として攻撃したり排斥したり認めないのではなく、正しいと信じたことを、人を、心情を受け入れることなんですね。
勿論、邪まな欲望や思想などは決然と否定するし妥協もしないのだけれど、彼の脇目も振らぬ真っ直ぐな正しさというのは、闇に惑う人たちにとっては眩しいくらいに差し込んでくる光なのである。自分自身が信じきれずに疑いながら、疎みながら、倦みながら、それでも諦めきれずに手繰り寄せようと足掻いていた宇路子さんにとっては、彼の真っ直ぐな信念は、肯定は光そのものだったのである。アナタは正しい、アナタは間違っていない、自分はアナタを信じる! と、どんな誘惑にも社会的な強制にも揺るがず、一顧だにせず、一瞥すら向けず、即答で応えてくれる陸くんのそれに、果たして彼女はどれだけ救われた想いを抱いたのか。ぜひ、作品を以って確かめてほしい。
あの「即断即決」にはホントに感服させられた。あれほど迷いなく、間髪入れず自分のすべてを否定するだろう黒幕たちの思惑を蹴っ飛ばしてくれて、自分を選んでくれたら、自分のあり方生き様を信じて肯定してくれたら、これほど報われたと思えることはないんじゃないだろうか。

陸くん、あれで杓子定規ではなくて法的にはアウトじゃないの、というような宇路子さんのやり方にもめっちゃ懊悩しながらだけど目を瞑って協力してくれるので、陸くんの精神的な負担を無視すれば良いコンビなんですよね。
さすがにこの街、ほんとに日本かよというくらいなんか悪徳の都と化していましたけれど、何気にこの日本でありながら微妙に異界のような俗世でありながらおとぎ話の世界のような雰囲気、というのは高橋留美子さんの「人魚の森」リスペクトなんですかねえ。人魚の効能云々に関しては、あの名作を特に意識していらっしゃったようですし。
しかし、あの宇路子さんのオフィシャル向け人見知りキャラは、作中で宇路子さん自身がこんな設定するんじゃなかった、と後悔してましたけど、ほんと特に必要ないキャラ付けでしたよね。本来の宇路子さん、ジャケットデザインから想像するようなシャープでアグレッシブな格好いい系のお姉さんで、わりと無茶苦茶する乱暴なところも含めて魅力的なキャラだっただけになおさらに。まあ、ほんと人見知りキャラは冒頭だけで、陸くんと行動はじめてからはずっとこっちだったので全然オッケーなのですが。
今回は一巻まるごと「人魚」にまつわる話でしたけれど、続編あった場合なにやら違う種類の「妖怪」話も盛り込まれそうなネタがラストにツッコまれてきましたから、ぜひ続きも出してほしいものです。

峰守ひろかず作品感想