三上テンセイ

剣とティアラとハイヒール〜公爵令嬢には英雄の魂が宿る〜Second ★★★☆   



【剣とティアラとハイヒール〜公爵令嬢には英雄の魂が宿る〜Second】  三上テンセイ/緜 TOブックス

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国への忠義を果たすため、英雄からか弱い令嬢へと転生したセレティナ。魔物との一戦で呪いを受けた彼女は、前世の友を頼りギルダム帝国へ向かっていた。するとなりゆきで兵士たちを助け、「慈愛の天使」と崇められる羽目に。その上、悪徳領主に疎まれてお尋ね者となってしまう! 兵士たちの協力で難を逃れた彼女は、友の窮地の報せを受けて塞都市へ。絶望的状況の中、「呪い」の力で見違えるほどの剣さばきで魔物を薙ぎ払っていく! だが、その力は身も心も悪魔へ転化させる諸刃の剣だった……。彼女が友と再会を果たす姿は、天使か悪魔か――?新たな戦友を迎え、物語は怒涛の新章へ。英雄の魂を宿した深窓の令嬢が贈る、騎士道ヒロイック・ファンタジー第2弾!

セレティナ、自分の体臭がどうしても気になってしまったり、と元が厳つい大男だったと思えないくらい根底から女の子してるんですよね。
故あって髪を短くしなくてはならなかったときも、それが必要である以上躊躇いはしなかったものの結構気にして哀しい思いを噛み締めてるんですよね。これはオルティスだった時には絶対に生まれない感情で、魂から女性になっているのが伝わるのよなあ。
とはいえ、王家の王子王女たちに対する感情は同世代のものじゃなくて、国王陛下と同世代だったオルティスに沿うもので、忠義心と共に親世代が子供たちに向ける庇護者のものに近いので、ちょっと屈折してるんですよね。王家の若者たちはみんなセレティナに夢中なのに。
中でもちょっとかわいそうなのが姫様であるエリアノールで、彼女にとっての白馬の騎士が同じ女であるセレティナになっちゃったんですよね、これ。憧れを通り越してもう初恋と呼ぶ他ないときめきに浮かれながら、しかし現実に返りこの恋心が決して実らぬどころか表に出す事も許されないものであることを自覚して、折角抱いた眩い想いを封じ込めていく様子は辛いものがありました。
なんか訳わからないままあれだけ慕われてたのに突然拒絶されてしまったセレティナのへこみっぷりたるや、口から魂抜けてる状態なのがまたアレでしたけど。
王子様たちは、セレティナの凄まじさに怖気づかずにむしろ奮い立ってより自分を高めて彼女に見合うようになろう、と向上心を抱いているのはそれはそれで良い成長を迎えているのですけど、エリアノールは少し別の意味でいち早く大人にならざるを得なかったのだなあ、と思うとなんとも切ない限りなのでした。

一方のセレティナも、決して順風満帆などではなく、どれほど剣腕が唸ろうともそれを振るう体の方が全然ついてこない。病弱で体力のない深窓の令嬢という根底は克服できていない。鍛錬しているのに、なかなか体力つかないのはこれもう体質という他ないのでしょうね。
これをひっくり返すには「ズル」をするしかない。それも、魔女の刻印という厄ネタを用いたズルだ。どんなリスクがあるかわかったものではない。
そもそも、どうしてオルティスを貴族令嬢になど転生させたのか。魔女の思惑がどこにあるのか、未だ定かではないんですよね。しかし、戦い続けるために魔女の呪いを使い続ければ、いったい何が起こるのか。良い顛末が想像できない。
だが、敵を前に、魔を前に、人が死のうとしている時、魔物に民が食われようとしている時、都市が滅ぼされようとしている時、それを目の前にして見過ごせるなら、オルティスは英雄などと呼ばれる存在にはならなかったのでしょう。そして、セレティナはもはやオルティスではなく、男ですら無く、しかし男から女に魂から成り代わったとしても、英雄となるに至った魂の在り方そのものは変わらない。

クライマックスは大地を埋め尽くす雲霞のような魔物の群れ。そのうごめく海のただなかに孤島のようにぽつんと取り残された城塞都市、というもう見るからに壮絶極まるビジュアルの籠城戦。
映像になれば、大作映画さながらになるだろうスペクタクルで繰り広げられる、人間たちの生きるための戦い、守るための死戦。英雄的に抗いつづける人類の、しかし絶望だけで埋め尽くされたような阿鼻叫喚の地獄絵図。
戦争である。それも、交渉の余地のないどちらかが死に絶えるしかない絶滅戦争。
堰が切れるように城門が突破され、戦線を支えていた英傑たちが膝を付き、すべてが崩壊しようとした瞬間に、その只中に、僅かな仲間を引き連れて遙か空より飛び込んでくる、魔物の津波の前に立ちふさがり斬り込んで行くセレティナたち。ここの盛り上がりは、燃えるものがありました。
もはや断末魔だった人類側が、セレティナたちの圧倒的な勇姿に奮い立ち沸騰するように崩壊していた士気が吹き上がり、盛り返していくシーンのダイナミックさ、ドライブ感。みんな素晴らしい。
一方的にセレティナが蹂躙するのではなく、畳み掛けるようにここから二転三転攻防がひっくり返るところもスピード感あるんですよね。
セレティナが、生き残るため、救うために恐らくは越えてはならない一線を越えてしまった事も、魔女の策略が順調に進んでいることを実感させられ、不穏が高まるのでありました。人類側も、帝国の上層部サイドがどうにも闇深そうですし、セレティナの隣にも隙あらば食いついてきそうな狂犬が舌なめずりしていますし。もうちょっとセレティナの脇をしっかり固めてくれる人材がいてくれればいいのですが。と、その人材をスカウトするために帝国くんだりまで出張してきたのですけど、オルティスの友人であってもセレティナとは面識がない彼女。そして、この戦いで恐らくは初対面で関係に亀裂を生じさせてしまったこともあって、さて「彼女」との再会が果たしてどういう顛末を辿るのか。


剣とティアラとハイヒール〜公爵令嬢には英雄の魂が宿る〜 ★★★☆   



【剣とティアラとハイヒール〜公爵令嬢には英雄の魂が宿る〜】 三上テンセイ/小山内 富士見ファンタジア文庫

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魔物と争い続ける王国の英雄・オルトゥス(♂)は、生涯をかけ国を守る約束を果たせず戦死した。
――はずが目を覚ますと、公爵令嬢・セレティナ(♀)へ転生していた!
可愛らしい美少女でも変わらず、今世も国を護る騎士になろうと決意する。
しかし、病弱な身体な上に、過酷な淑女の宿命も立ちはだかる。
恐ろしい鬼母のマナー教育、したくもない男との結婚と難題ばかりで騎士への道は遠ざかっていく……。
その折、王城へ向かう道中、魔物の襲撃で誰も知らない彼女の真の力が明らかになる!
魔族を一刀両断する強さ、社交界でも踊りぬく可憐さで
人々を瞬く間に魅了する新ヒロイン誕生――?
見た目は可憐、中身は大胆不敵!
病弱令嬢の騎士道ヒロイック・ファンタジー開幕!


TS転生モノ。それも異世界じゃなくて、同じ世界に生まれ変わる形なので年代ギャップはあるものの、前世からの知り合いが沢山いる、という形になる。
TS転生(男→女)の難しい所は前世は男であったにも関わらず生まれ変わったら女だった、という肉体と魂の性差によって生じるブレをどう表現するか、という所にあると思うんですよね。
肉体こそ女であるものの意識としては男としての意識が非常に高いパターンから、肉体の方に魂の方が馴染んでいって女性としての自認が高まっていくパターンまで色々あると思うのです。この濃度に関しては個々人の好みにもよるのでしょう。なかにはTSしてる意味あるの?というものもあるし、やけに男を忌避してしまってラブコメ要素を自ら消し去ってしまっているものもあるので、塩梅にも難しいものがあるのでしょう。
個人的には女に染まってしまうパターンが好きです、はい!

本作はというと、前世の記憶が戻った当初は英雄オルトゥスの意識が強いものの、段々とセレティナとしての自分に馴染んでいっていて、オルトゥスとしての記憶や志ははっきりと残ってはいるものの、今世で家族となったアルデライト公爵家の人たちへと注ぐ愛情は、娘セレティナとしてのものであるようなんですよね。
幼い頃から厳しく母メリアに躾けられた淑女教育のおかげで、所作振る舞いは完全完璧に意識せずとも貴族令嬢のものとなっていますし、感情の高ぶり方や窮地に立っての勇ましさも、男の英雄としての雄々しさではなく、女性としての凛々しい麗しさ、といった風情なのでもうその在り方はほぼ女性に寄っていると見ていいのでしょう。何より物腰や思考の柔和さが、多少お転婆な所も含めて完全に少女のものなんですよね。
正しく、生まれ変わった別人であると言っていいのかも。
ただ、その国王陛下への強烈な忠誠心であり、王室への敬愛も変わらず、オルトゥス時代の知人友人への意識や捉え方は前世から変わっていないので、年上の人たちに幼い少女らしからぬ目線となっているのがまた妙に面白いんですよね。それも男目線じゃなくて、女性的な感覚になっている所なんぞが特に。オルトゥス時代にはまだ生まれるか生まれていないかくらいだった王子たちへの目線は、どこか親友の子供を見るかのようなものなんですが、王子からすると年上のように感じつつそれは雄々しき英雄からの如きものじゃなくて、母親のような慈母のごとき包容力を感じているわけで、その辺りからもオルトゥスではなく女性であるセレティナの方が本質になっている感じがあるんですよね。
さながら別人でもあり同一人物でもある。この融合の塩梅がなかなか絶妙な具合なんですよ。

また転生ものは、新たな家族を得る物語でもあります。本作においては当初は公爵家の家族たちは騎士を目指すセレティナの障害となる存在のように見えていました。厳しく貴族令嬢としてのマナー教育を躾けてくる母は、女性は女性らしくという凝り固まった思想にしがみつく旧来の貴族の夫人の典型のようでしたし、父である公爵や兄もまさに貴族らしい貴族、という感じに見えていたんですね。
しかし、それはセレティナが騎士になるという、守旧貴族の価値観からすれば異端とも異常とも言える夢を、本心を打ち明けたその時から一変する。
今まで教え込んできた貴族令嬢としての常識、淑女としてのマナー、女としての在り方を蹴り飛ばすようなセレティナの夢に激怒して、初めて反抗するセレティナに思わず手を上げてしまう母メリア。
でもそれは、型にはまった公爵家という枠組みの中に自らをはめ込んでいた彼らを、アルデライト家という家族に戻すきっかけになる一発でもあったんですね。
今まで人形のように母の指導に言いなりに従ってきた妹の初めての反抗に感心して、妹の勇気に寄り添って彼女を外の世界に連れ出した兄に、娘を叩いた手のひらの痛みに今まで自分がどれだけ頑なになっていたかに気づき、自分の原点を思い出した母メリア。
セレティナとなって生まれてはじめて剣を握って命のやり取りをすることになる事件を通じて、彼らは心から通じ合った、お互いへの愛情を十全に感じて信じられる家族となるのである。
オルトゥスの時代、孤児であった彼は王への敬愛や戦友たちとの友情こそ交わしたものの、家族の愛情だけは縁がなかったんですね。それを、今世では初めて無償の愛というものを両親や兄から与えられ、また自らも惜しみなく家族へ愛を捧げることの出来ることの幸せを知るのである。
かつて、国王陛下への強烈な忠誠心と、ともに戦う戦友たちとの共感が英雄オルトゥスの強さの源だったとしたら、今世のセレティナはそこに愛すべき人守るべき人のために戦う、というさらに強力な動機、戦う理由、命を懸けて全身全霊を振り絞るに十分な原動力を手に入れたと言えるのでしょう。
肉体的には非力な少女となり、その上生来の病弱さでどう鍛えても体力がつかないという前世と比べれば大きすぎるハンデを背負ったセレティナですけれど、ある意味彼女は前世よりもさらに強くなるファクターを手にしたのではないでしょうか。
愛する人達のために戦う時、人はもっとも強くなれる。
ありきたりだけれど、決して色褪せることのない強さの源だ。セレティナの戦う姿には、儚い姿で血に塗れながら凄絶に舞う美しさと同時に、気圧されるような迫力が感じられる。全身に漲る強い意志には、それに足る戦う理由が乗っている。これぞ、オルトゥスのときとはまた違う、新たな英雄像であるのでしょう。やっぱり、背負うもの強く希うものがあるほど、盛り上がるんですよね。
まあオルトゥスの時代も、彼が狂信的なほど忠誠を誓っていた国王陛下が、それに相応しいこの人のためなら死ねる! という人物だったんで、それはそれでオルトゥスが気合い入りまくってるのも当然だったんですけどね。啓蒙君主的な人であり、情に厚く孤児だったオルトゥスに身分に寄らず手を差し伸べ、彼の成長を見守り続けた王様なんですよね。激烈に支持を受ける層と、激烈に反発する層を生みそうな人物でもあるのですが、カリスマであることは疑いようがないよなあ。政治家として甘い所もありそうなんですけど。でも、王妃を失いながら子供たちを実に真っ当に育て上げたのを見ると人の親としても立派この上ない人ですし。
セレティナが、王様好きすぎて後添えになります、とか言い出さないか心配になるくらいなんだが。
王子たちや姫のことも、同世代というよりもどこか親世代な目線で見てる所あるし。

作中、一番度肝を抜かれたのはやっぱりメリア母様でしょう。いや、事情がわかれば彼女がどうしてあれだけ峻厳に子供たちに貴族教育を施していたのか大いに理解できるのですが、その来歴が明らかにされたときはまじかー!となりましたよ、うん。
まさか、この人が作中でも屈指の存在感を示すキャラになるとは、予想もしていなかった。でも、このお母様がセレティナに注ぐ愛情の強さ、深さがこれでもかと伝わってきて、うん終わってみれば本当に好きなキャラになっていました。
パパである公爵も娘のことを溺愛してるんですけれど、それだけではなくて嫡男であるお兄ちゃんののシーンがあれ、好きなんですよね。父と息子の交流であり、輝く妹姫のかげに隠れがちだけれどしっかりと次期公爵として努力し、同時に妹の事も兄として守っている息子をしっかりと認めて可愛がる、父親の鑑みたいなやり取りで。一方的にセレティナが愛されるだけの関係じゃなくて家族四人が深い絆と愛情で結ばれているのがわかるシーンでもあったんですよねえ。

黒幕である魔女と、オルトゥスの関係がまだ明らかになっていなかったり、裏で何が動き出しているのかまだまだ不鮮明だったりと、話はまだはじまったばかりの感はありますが、それだけにこれからどんどんとスケール大きな話になっていきそうで、実に楽しみです。
てか、ヒロインはエリアノール姫とウェリアス王子二人なのかこれ。なんぞ、兄妹でヒロイン競争はじめそう。実は魔女が真打ちっぽいけれど。

 

10月4日


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