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上月雨音

SHI−NO −シノ− 君の笑顔4   

SHI-NO-シノ-  君の笑顔 (富士見ミステリー文庫)

【SHI−NO −シノ− 君の笑顔】 上月雨音/東条さかな 富士見ミステリー文庫

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この表紙絵、黄泉終わるまでは気付かなかったのですけれど、志乃ちゃんの隣にいる人物って、真白じゃなかったんですね。なんで見切れているのか分かって感慨。

キララ先輩が凶弾に倒れるという凄まじい場面で終わってしまった前回から、いったいどうなってしまったんだとやきもきしていたわけですけど……最悪ではなかったものの、最悪ではなかったというだけの悲劇が待っていたわけでして。
正直、キララ先輩があれで生き残るとは思ってなかったんで、ちょっと拍子抜けした部分はあったんですけど、一応の理由づけがあったことは後々の犯人との対決で明らかにされるので、その部分については良かったんですけど。
でもキララ先輩は気丈だったなあ。もっと打ちのめされて立ち上がれなくなってると思っていた。自分の行動が招いた他人の死。それも幼い頃から見守ってきてくれた人が目の前で惨殺され、自分自身の夢さえも打ち砕かれてしまったわけですから。あの這いずり恥も外聞もなく救いを求めながら逃げ惑うキララ先輩の、今までの彼女からは想像もできない姿からは、彼女が持っていた矜持がグチャグチャに引き裂かれていくのをリアルタイムで目の当たりにしているむごたらしさがあったからなあ。
純粋で抵抗の仕様のない圧倒的な暴力の前に、どれほど自分の夢や正義が無力なものか。あのシーンには、純粋で輝かしいなにかが、容赦なく汚されていく、なにか恐ろしいものを目の当たりにしているような感覚がありましたからねえ。
多分、<僕>や志乃ちゃんが目にする事のないキララ先輩独りのところで、彼女が傷ついた心の痛みに苦しみもがきながら、それでも立ち上がり進みだそうとする、見るのも痛々しい物語がきっとあるんだろうけど、うん、彼女はそれを見せようとはしないだろうからなあ。
ここで他人に縋ってしまう弱さ、もしくは女性としての狡猾さがあったなら、キララ先輩は<僕>に異性として意識されることもあったんだろうけど。まあ、本人がその気なかったしなあ。結局彼女は男よりも、自分の夢と矜持を選んだわけだ。志乃ちゃんという存在が彼の中になかったら、そこはどうなってたかわからないところだけれど。

して、志乃ちゃん。
もしかしたら、ここから一気にダークエンドに転がっていくのかという危惧もあったわけですけれど。いや、実際に志乃ちゃんの横に<僕>という存在がいなかったら、わかんなかったんでしょう。それくらいには、彼の存在は彼女の中で大きかったわけだ。自分の中に内包しきれない他人。他人であるからこそ掛け替えのない存在。自分の中ではなく、隣にいるからこそ心震わせる存在。
真白との会話の中で、志乃ちゃんが明確にそんな彼に対する認識を、彼に対する感覚を「恋」と認めた瞬間は、驚いたなあ。驚いた。そんな感情を明確に定義づけることに価値を認める少女だとは思っていなかったから。
逆に言うなら、そんな少女が価値を認める恋心だ。それが志乃の心を占める絶対性たるや、如何ほどのものなのだろう。ちょっと、想像を絶するものがある。
なにしろ、彼女の在り様を根本から塗り替えていくほどの、大きなものだったわけですからねえ。

一方で、明らかに特異である少女・志乃への<僕>の接し方は、当初こそある程度の思い込みによるレッテルを貼っていたとはいえ、その時点でさえ<僕>は志乃という存在を丸々受容する態度で接していたわけで、その意味ではこの男の志乃へのスタンスというものは素直に称賛に値するものがあると思う。この男の面白い所は、志乃の存在を丸々受け止めながら、それでいて常に変化を彼女に求め続けたところだよなあ。受け入れながら変化を促すというのはそれ、矛盾しているとも言えるわけだけど、彼は違和感なくそれを成し遂げていったわけだ。
別の言い方をすると、志乃のような子に反発や拒絶を抱かせることなく、自分好みの女の子に染め上げていった、とも言えるわけで。いやまったく、この男の光源氏並みの凄まじい手練手管には感嘆を通り越して崇拝の念すら浮かんでくる。
ラストでの中学生志乃の圧巻の挿絵では、崇拝すら通り越して殺意を抱きましたけどねッ! 
この野郎、こんな可愛い少女が将来間違いなく嫁に来てくれるのかよ、と。
実際、あの挿絵はとてつもなく凶悪でした。漫画版を含めて、様々な志乃の姿を描いてきた絵師の東条さかなさんですけど、それまで描かれていた無表情な志乃の存在感、透徹とした美しさが素晴らしかっただけに、それだけにあの表情は凄まじい威力でした。なんという神々しくも親しみやすく、可愛い、志乃のはじめての笑顔。まさに最後にして会心の一枚だったんじゃないでしょうか、あれは。漫画版の傑作振りもありましたけど、この作品のイラストレーターに東条さかなさんを選んだのは、それこそ会心のクリーンヒットだったんじゃないかなあ。

内容には色々と思うところもありましたけど、なんにせよ志乃という少女の魅力は圧巻の一言でした。その魅力の変転の結末に、あんなのを持ってこられたら、もう文句の一つも出てきません。
つまりあれですね。嫁はやはり幼女から育てろ、と。
ただ、<僕>の育て方は、生半可じゃないですからなかなか真似は出来ないですよw 大学生のくせに、こいつ殆ど生活パターン、志乃中心で回してやがるしなあ。まあ、これくらい本気で腰を据えて掛からないといけないってことですな。無理w

SHI-NO ―シノ― 過去からの招待状5   

SHI-NO-シノ-  過去からの招待状 (富士見ミステリー文庫)

【SHI-NO ―シノ― 過去からの招待状】 上月雨音/東条さかな 富士見ミステリー文庫

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………嘘でしょう?(絶句


あらすじからして、志乃と「僕」が再会した時の事件がメインとなる過去編だと思っていたから、完全に油断していた。
この展開は、頭の隅にも思い浮かべていなかったから、なんというかその。「……冗談でしょう、これ」という顛末を信じられない言葉で埋め尽くされてしまっている。
いやもう、本当に。嘘でしょう?

過去に起こっていた猟奇殺人事件。犯人が自殺して終わったはずの事件が、今再び繰り返される中、「僕」が志乃ちゃんと再会した頃の回想や、まだ彼らに出会う前の鴻池キララ先輩が警察官に憧れ、目指すまでの回想なんかが描かれつつ、過去に終わったはずの猟奇事件と現在の猟奇事件の繋がり。正体不明のまま死んでしまった殺人犯の正体。うっすらと浮かび上がってきた巨大な影の存在に、これはなかなか大事になってきたなあ、と思ってたら。
本当に、どえらいことに。どえらいことに。
あれは。あの状況では。さすがにあかんやろ。

自分の常識を勝手に押し付け、志乃という存在を誤解していた過去の僕から、今の僕への成長。それと同時に、無機質だった志乃の確かな変化。
本来ならば好ましいはずの志乃の人間性の獲得が、この作品においてはたびたび逆に暗い予兆として囁かれていたのだけれど、僕と志乃の変化が結果として幸であったのか不幸であったのかが判明するのは、きっと彼と彼女の原点であるこの事件が決着するその時になるんだろうけど。
うわぁ。
実のところ、物語の帰着点に関してはけっこう楽観してたんですよね。なんだかんだ言っても、最終的にはハッピーエンドに終わるんだろうって。
ところが、その楽観を持ちえる象徴とも言うべき存在が……うわぁ、いや、もう何度も繰り返しになるけど「嘘だろう?」と首を振ってしまう。

次巻が、この作品の最終巻になるそうだけど。
思っていたよりも、遥かに凄絶なものになるのかもしれない。

それにしてもこればっかりは……絶句するほかないよ。

SHI−NO 空色の未来図  

SHI-NO-シノ-空色の未来図 (富士見ミステリー文庫 76-8)

【SHI−NO 空色の未来図】 上月雨音/東条さかな 富士見ミステリー文庫


今回は異常によくしゃべってたな、志乃ちゃんは。むしろ、この子は『僕』の傍にいる時の方が無口なのかもしれない。喋らなくても分かってくれるもんね。
ということで、今回は殆ど『僕』と志乃ちゃんは別行動。既に亡くなっているはずの<元カノ>から来た年賀状からはじまる、『僕』の過去にまつわる人間関係の清算がメインとなるため、あくまで主人公は『僕』。
予定にない『僕』の突発的な実家への長期逗留に、心配になって来てしまう志乃ちゃんはじめキララ先輩に真白ちゃんの三人組。
志乃ちゃんって、世間に対する無関心・無感動の度合いからすると『僕』への執着はこれ、かなり異常なくらいなんですよね。好意というどころではなく、彼女にとっての価値ある世界とは『僕』以外に存在しないんじゃないかというくらいに。
ただ、今回の微妙な志乃ちゃんの言動や反応を見てると、普通の恋する女の子みたいな部分も介在してきて、それが同時に志乃という完全にして危険極まりない存在に入った破綻に至る亀裂みたいな表現もされていて、微笑ましいエピソードもなんだか不安を煽るような形になってるんですよね、むむむ。
今回のエピソードとは一体なんだったのか。
主体としては妹の幸せを願った一人の未来予知能力者の少女の策略と想いなんですけど、同時に彼女――詩葉は『僕』と志乃がいずれ直面するのであろう問題か事件に対しても重要な布石を敷いている。それは『僕』への好意の表れなのか、自らの願いとその後始末をつけてくれた『僕』への報酬だったのか。
なんにせよ、この事件を通じて『僕』が抱くに至った決意と覚悟は、椎葉が『僕』がそれを得られるように仕組んだものである。そして、それらは『僕』と志乃の二人にとって破滅を回避するために、必ず必要となるものなのだろう。
だが、それらを与えた椎葉が得たものはなんだったのだろう。彼女はあまりにも多くのものを、彼女が大切に思った人々に与え、遺し、だが自らはあまりに報いの少ない末路をたどった。いや、自ら望んでその道を進んだ。それはまるで神様のような所業で、だからこそ哀しい。
そんな彼女が、幼馴染の彼にだけは何も残さず、ただ傷痕だけを刻んで去っていったのはなぜなんだろうと読み終えた後考え……なんとなく、それだけ彼に対してだけは、甘えや我儘、自分と言う存在の呪縛みたいなものをかけたかったんじゃないかなあ、と。彼だけが特別だったんじゃないかなあ、とふと思い、少しだけ彼女に対して安堵の気持ちを覚えた。
まあ、そんな呪縛に縛られて取り返しのつかないことになる前に、ちゃんと呪を解いてやる手段を用意しているあたり、やっぱり酷い女だと思うわけだけど。



SHI−NO 2.アリスの子守唄  

SHINO ―シノ― アリスの子守唄
【SHI−NO 2.アリスの子守唄】 上月雨音

私はこの本の紹介文に純愛ストーリーと銘打ったのは間違いではないと思う。絶対間違いではないと思う(力説!)

純愛、じゃないか!!!

いや、面白かった。サイコミステリー風な陰鬱な雰囲気こそ纏っているけど、主人公の青年……(名前出てなかったっけ?)が健全で、しっかりとした良識家なのがアンカーとなっているのか、もしくは事件の収拾の付け方がすっきりしているからか(これは憑き物落としに近いスッキリだと思われ)、ヒロインにして主人公である志乃ちゃん(小学生)が彼岸の彼方に片足を踏み込んでるような非常に危うい存在にも関わらず、陰鬱とした読み味にならずに済んでいる。かといって、退廃的な匂いやこの世の果てを覗いているような感覚も消えてはおらず、予想外なほど陰陽のバランスが取れている作品になっているんじゃないだろうか。バランスが取れている、なんて語ると中途半端に聞こえるかもしれないが、ならば【絶妙な】バランスが取れている、と付け加えよう。この両方の雰囲気を両立させるバランス感覚は、かなり並外れていると私なぞは思うのだが。

なんにせよ、志乃ちゃんである。
キタね。きたきた。ズキュンと心臓打ち抜くヒロインが来た。
小学生らしからぬ無機質な、この世の全てに無関心でいるかのような、それでいて殺人事件にだけは異様な興味を示す少女。そんな彼女が、主人公の存在だけはしっかりと認識している。それこそ、白紙に落ちた一滴の墨のようなものだけど、大事に思っているとか大好きだとか、そんな明確な意志として存在する想いでは決してないけれど、虚無の中から世界に繋がった命綱のように、彼女の中には主人公の存在が厳然と固着している。
これを純愛と言わずして、なんと言う。
これほど純粋で無垢な想いのつながりなどそうそう無かろうて。
まさに、富士見ミステリーにこそ相応しい作品である、と言い切ってしまえ!!

最高
 
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