【不死王の息子 1】  日向夏/大地幹 ヒーロー文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER

「薬屋のひとりごと」日向夏の新境地、カニバリズム・コメディ。
人外×不死身少女×死亡フラグ。
ある日、クラスに転校生が…?

『これ、何の肉?』 ----現代日本、でもけっこう普通に人狼や吸血鬼など人外たちが暮らしている世界。中学受験を控えた小学六年生の少女・由紀子のクラスに転校生がやってくる。
山田不死男と名乗るその少年は、「不死王の息子」だった。
ある日、由紀子は同級生を助けるために食人鬼に襲われるが、不死男によって命を救われる。
しかし、代償として由紀子は人間ではなく人外である不死者になってしまう。こうして由紀子は人外の中でも孤高とされる不死王の同族となり、彼らと接していくことになる。
食材扱いされる不死王こと山田父。
天然すぎて浮世離れした山田母。
ぶっ飛んだ両親と弟のために日夜周囲の人々に土下座をしまくる山田姉兄。
歩くだけでひたすら死と隣り合わせになる山田不死男。
どこをどう突っ込めばいけばいいかわからない不死者たち。
-----人外の中でも孤高とされる不死王の一族.彼らと接することで、小学六年生の日高由紀子のメンタルは鋼のように鍛えられていく。
食らえば不死身になれるという不死者の血肉を狙う食人鬼たちが、由紀子に近づいてくる。
明るく元気に死にまくる不死男との不条理かつスプラッタな日々。そして、無駄に明るい不死男にはとある秘密があるようで――。
真面目な普通の女の子に再び平穏な日常は戻ってくるのだろうか?
これは不死身になった女の子と不死王の息子が様々な死亡フラグにぶちあたるお話である。

【薬屋のひとりごと】の日向夏の新作、と言ってもかなり前にウェブ連載していて、既に完結している作品なんですよね。新境地って言っていいんだろうか。でも、この人の作品の中でもかなり好きな物語なんですよね。
まだ小学校6年生の砌で不死者になってしまった由紀子。不死者と言ってもこの時点で成長が止まってしまうタイプじゃなくて、本人の最適な肉体年齢までは普通に成長していくタイプなので永遠に幼女、というわけではないので悪しからず。
もっとも、この由紀子はとても幼女というメンタルじゃないんですけどね。確かにまだ子供っぽいところはあるけれど、常に冷めていてどこか達観したような大人びた目線で周りを見ているお子様である。表紙絵のあのクールな表情は伊達ではないんですよね。
なので、目の前で18禁なスプラッターな光景が巻き起こっても動じない。いや感情がないわけじゃなく、結構慌てたりもするのだけれど、それでもその辺の大人なんかよりもよっぽど冷静で頼もしい少女なのである。小学校6年生なのに将来を鑑みて中学受験にも真剣に向き合ってるし。
そんな彼女が色々あって不死者の仲間入りをしてしまった現状を、すんなりと受け入れてしまっているのは面白いというべきか。いや、これはまだ実感がないというべきか。
不死者となった弊害で、やたらとお腹が空いて不死男と二人バキュームみたいにご飯を食べるのに忙しい日々ですし。
そう、色々あって成り行きか自分を助けてくれた不死男の面倒というか介護、お世話をするはめになった由紀子。故あって頭の中がお花畑になっている不死男は、それこそ幼児が転ぶような頻度で簡単に死んでしまうし、トラブルを引き起こすのでどうしても誰かがつきっきりで面倒を見ておかないと、わりと酷いことになってしまうのだ。まあ由紀子が見ていてもたいてい酷いことになるのだけれど、それでも不死男の兄姉に土下座で頼まれたからといって、何だかんだと世話を焼く由紀子はクール系だけど情の厚い面倒見の良いタイプなんですよね。怪物に襲われて死ぬはめになった際も、アホなクラスメイトをとっさに助けてしまったからですし。

この世界は、人外の怪物たちが普通に人権を持ち戸籍を持ち、人の世界の中で暮らしている世界。不死王と呼ばれた偉大なる不死者の王も、今は一般家庭の主として田舎の一軒家、由紀子の隣の家(といっても田舎なので広い田んぼを隔てた向こう)に越してきた身。その子供たちも、今は社会人やニートとして人の社会の中に馴染んでいる。でも、結構兄姉は立場ある身ですし、人外社会の中でも企業人や研究者として一定以上の身分なんですがね。それでも、父や母、そして不死男が巻き起こす惨事のために土下座して回る日々である。世が世なら王族なのに、土下座姿に美しさすら感じるほどしまくっている、というのはご苦労さまとしか言いようがない。まあ実際、苦労性ですよね、兄アヒムと姉オリガは相当の苦労人である。めっちゃイイ人なんですけどねえ。
この二人がいなかったら、いくら不死男が捨て犬みたいな目でまとわりついてきても、由紀子ももうちょっとは邪険にしてたかもしれない。
と、人外と人間が平和な社会を築いている、ように見える世界だけれど、由紀子が死ぬ羽目になったようにその平和から逸脱してしまった人外も存在する。人食いと呼ばれる化け物たち。
由紀子は、不死者となってしまった以上、不死王の眷属となってしまった以上、人を食らうもの……そして不死王の肉を食い本物の不死者になろうとするモノたちとのトラブルに必然的に巻き込まれることになる。
それ以上に、不死男と当たり前に学校に通いながら今まで通り家族と過ごし、友達と遊び、中学受験のために勉強する由紀子は、徐々に自分が人間ではなくなってしまった事実と本当の意味で向き合うことになっていく。
いずれ、母や兄と、同い年の友達たちと、流れていく時間がすれ違っていく現実との対面。その時、彼女を支えるものが何になるか。既に、お母さんは娘の命が助かった代償を察していて、覚悟を決めてるんですよねえ。それでいて、表向きには何も変わらず娘を慈しみ、不死王の一家と家族ぐるみで心からお隣さんとして付き合うあのお母さんの肝っ玉というか、冷静さと面倒見の良さはさすが由紀子の母親だなあ、と思わせてくれる人柄なんですよね。

ある理由から頭がお花畑になってしまって、年齢よりも幼い無邪気な顔を晒しながら小動物のように懐く不死男を、仕方無しに世話しながらも何だかんだと絆されていく由紀子。無邪気で頭がパッパラしているけれど無神経ではなく、常に由紀子を気遣い、どこか大きな視座から人という種を慈しむかのような瞬間を垣間見せる謎多き少年を、少女はとても近くから見守ることになる。
それが、長い永い終わりのない日々の始まりであったと、知らないままに。いや、聡明な彼女は薄っすらと承知していたのかもしれないけれど。
でも、彼が自分にとってどういう存在になっていくのかは、察するにはまだ彼女は幾ら大人びていたとしても12歳の少女に過ぎないのだ。
これはそんな少女が、永く生きている大人を横目に見ながら、不死の少年の手を引っ張りながら、或いは引かれながら、自身も大人になっていく物語でもあるのだろう。