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京極堂シリーズ

今昔百鬼拾遺 鬼 ★★★★   



【今昔百鬼拾遺 鬼】 京極 夏彦 講談社タイガ

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「先祖代代、片倉の女は殺される定めだとか。しかも斬り殺されるんだという話でした」
昭和29年3月、駒沢野球場周辺で発生した連続通り魔・「昭和の辻斬り事件」。七人目の被害者・片倉ハル子は自らの死を予見するような発言をしていた。ハル子の友人・呉美由紀から相談を受けた「稀譚月報」記者・中禅寺敦子は、怪異と見える事件に不審を覚え解明に乗り出す。百鬼夜行シリーズ最新作。
京極堂シリーズ、あるいは百鬼夜行シリーズか。京極堂と呼ばれる古書店店長を探偵役とした傑作ミステリー。そのスピンオフである【今昔百鬼拾遺】が三作、なぜか全部違う出版社から出まして。角川文庫の河童、新潮文庫の天狗、そしてこの講談社タイガからの「鬼」であります。
時系列的にどうやらこの「鬼」が一番最初らしく、河童よみはじめたところで引き返してこの「鬼」を読み始めた次第。本編のメインメンバーである中禅寺秋彦や関口先生といった面々はお休みで、本作は中禅寺秋彦の妹である敦子と、【絡新婦の理】に登場した女学生である呉美由紀が主人公となって描かれる。
戦後すぐに女性雑誌記者として活躍する敦子は、本編では快活で活発聡明な若い女性として描かれているのだけれど、この作品では周りにもっと年若い女学生たちが登場するせいかどこか落ち着いた女性として描かれてるんですよね。
もっとも、本人からすると若い女性特有のキャッキャとした女の子らしさとは無縁どころか苦手としていた、と述べているので落ち着いているというよりもアッちゃんからすると冷めていると自嘲しているのかもしれない。
兄貴たちと同世代以上の男どもからすると、妹キャラなアッちゃんは元気で才気煥発としたイキイキとした女性に見えるかも知れないけれど、彼女自身が主人公となってその内面が描かれると結構この娘もジメッと湿ってるところがあるんですよね。意外とコンプレックスも抱えているのか、自分ではあまり明るい性格ではないと思っているのか。作品の雰囲気自体どこか湿った雰囲気があるのは、敦子自体がどこかネガティブなちょっと気鬱な気分を催しているからなのかもしれない。今回はあの無理やり空気をネアカにしてしまう榎木津探偵はいらっしゃらないわけですしねえ。

そんな敦子に、美由紀から持ち込まれた相談は友人となった少女が辻斬りに斬り殺された事件のこと。ただの無差別辻斬り事件と思われたこの事件が、どうやら殺された少女の血統に刻まれた因縁が絡んでいるものらしい、という事が明らかになっていくことで現在逮捕されている男の容疑が怪しくなっていくのである。そして、その因縁とは「鬼」と呼ばれる存在と人斬りに使われた刀が関わってきて、と。表題の鬼へと繋がっていくわけですが……鬼ってその鬼かーー!!
妖怪「鬼」についてはすでに以前にうんちく語られたんでしたっけか。そもそも今回は京極堂当人は登場しないので、妖怪についてあれこれと薀蓄語ってくれる人はいないのですが、彼が敦子に語った「鬼とはないもの」、存在しないのではなく「無い」というものだという話が、最終的にこの「鬼」の話を締めくくる肝となるのですが、まずその前にここで事件に絡んでくる鬼の因縁、鬼の刀の「鬼」って妖怪の鬼じゃないですよね。
えーー、そっちかよ! と思いましたがな。新選組鬼の副長である土方歳三である。鬼の副長って、この時代……戦後すぐ昭和二十年代終盤で語られてたんだろうか。そもそも、当時の頃からそういうふうに言われてたんですかね。
現在の新選組人気の端緒となるのはやはり司馬遼太郎大先生の【燃えよ剣】あたりから、になるのでしょうけれど、作中で語られているのはみんな新選組というと、ああ鞍馬天狗の敵役?みたいな反応なんですよねえ。自分、鞍馬天狗が勤王志士って設定自体知らんかったですわー。そもそも、今の若い人たちは鞍馬天狗って名前自体知っているのかどうか。四十路の自分だって、直接見たことないですよ!? 
すでに自白している宇野という青年が犯人と固まりそうなところで、どうにも状況に違和があると引っかかっていた刑事の賀川に、敦子が情報提供のために接触したことでお互いの情報が擦り合わされることで新たな真実と新たな謎が生まれて、徐々に事件の、鬼の因縁の全体像が明らかになっていくところは、久々に京極堂シリーズを読んでるなー、という実感が得られて実に楽しかった。
ただ、いつもの明快な敦子さんと違って今回のどこかジメッとした敦子さんは話が回りくどいというか迂遠というか、もっとズバリと切り込んでもいいだろうというところで妙に話が回り道するあたりがあんまりらしくなかった感じはあるんですよね。
その分、若い呉美由紀さんがガンガン押し込んでくれた感はあるんですが。この娘、絡新婦の理に出てた娘というのは前述したのですけれど、正直殆ど覚えてなかったんですがなかなか面白い娘ですよね。一連の事件で鍛造されてしまったのか、事件で自分がやれなかったことへの後悔がいい方向に彼女を強くしたというのか。
ラストの事件の関係者たちへの啖呵は、実に見事なものでありました。言葉の伝え方、というものに関して敦子の兄である中禅寺秋彦のそれにかなり感銘を受けていて、あの人のようなとまでは言わないまでも、事件のときに上手く伝えられなかった後悔を、自分なりに上手く言葉で伝えられるようになりたい、と憧れめいたものを抱いていたっぽい美由紀さんですけれど、ラストの啖呵については敦子曰く、兄よりも探偵さんの影響が濃い気がした、という評価には思わず苦笑。美由紀さん本人も、「私、あんなですかぁ」って仰ってまあ。あんなってw いやまあ、榎木津探偵はどこからどうみても「あんな」ですけどねえ。
他の二作でも敦子と美由紀の二人がメインで出張るようで、引き続き近いうちに読破予定。

京極夏彦作品感想

薔薇十字叢書 ジュリエット・ゲェム ★★★★   

薔薇十字叢書 ジュリエット・ゲェム (講談社X文庫)

【薔薇十字叢書 ジュリエット・ゲェム】 佐々原史緒/すがはら竜 講談社X文庫ホワイトハート

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昭和十七年四月、中禅寺敦子は兄・秋彦の薦めで、横浜の港蘭女学院に入学し、寮生活をはじめる。同室の麗しい先輩・紗江子と万里にかわいがられ、学校にも慣れた頃、学校で『天使様』というゲームが流行りはじめる。天使様のお告げで、紗江子が万引きの常習犯だと噂されるようになり、敦子は兄の知識も借りて、天使様の存在を否定する。ところがその翌日から敦子の周囲で不気味な事件が相次ぎ…。少女探偵・敦子登場!!

京極夏彦の代表作である【京極堂シリーズ】。そのスピンオフとして、京極堂シリーズの世界を様々な作家さんが手がける【薔薇十字叢書】という企画が、講談社X文庫や富士見L文庫などを中心に結構な数の作品が出ているのだけれど、本作はその中で中禅寺敦子……主人公中禅寺秋彦の妹であり、京極堂シリーズでも屈指の可憐なヒロインとして活躍している彼女を主役として描かれた物語だ。
中禅寺敦子の青春、である。
いや、本編でもまだ二十代の若い女性なんですけどね。新聞社務めの社会人とはいえ、女学生のような溌剌とした物腰には読者や作中の人物の区別なくファンも多い。その彼女の紛れもない女学生時代の物語である。まさに青春真っ只中。でも、彼女が学生の時代ってまさに戦時中、なんですよね。そのためか、戦時中の不穏な空気と、女学院というある意味時代と隔絶された世界である環境が相俟った、独特の雰囲気が醸し出されている。
戦時中というと戦争戦争で、世間の雰囲気もそればかりに凝り固まったものになっていた、と思われがちだけれど、戦時中でも庶民は当たり前の日常をそれぞれに過ごしていたのだ、というのをかの名作映画【この世界の片隅に】が、固定観念に風穴をあけてくれたものですが、本作もまたヒタヒタと迫ってくる破滅の空気と、どこかそれを実感できないままそれまでの日々を続けていこうとする人々の、現状と認識との齟齬と適応と変化しないモノ、建前と本音がそれぞれブレンドした形で描かれているんですよね。
昭和17年というと、まだ戦争末期のあの破綻は遠く、一般の人達は中国との戦争の延長線上という認識を拭い去れていない頃でもあるんですよね。幾ら英米と戦争が始まったと言っても、なかなか実感は得られないだろうしねえ。
一方で、この女学院という環境もまた特別なんですよね。
うちの亡き祖母も、あっちゃんよりはまだ年代上なのですけれど、戦前は女学校に通っていて、その頃の話を聞いたり写真なんかを見せてもらったことがあったのですが、全然「昭和」ってイメージじゃないんですよ、これ。
凄いハイカラ。
むしろ、戦後の高度成長期までの方がよっぽど野暮ったいように見えるくらい。
戦前の田舎の方と都市部との格差にはとてつもないものがあったのでしょうけれど、都市部での発展具合、都市部に暮らす人たちの文化レベルというのは、戦前というレッテルイメージ・固定観念を一度消し去った方がいいかもしれない。
この大半が、空襲によって焼き払われて消えてしまったからこそ、イメージと実情の断絶が起こってしまったのかもしれませんが。
ともあれ、何が言いたかったかというと、あっちゃんが過ごした青春時代の女学院の様子というのは、なかなか侮れないまでに実情に沿ってたんじゃなかろうか、と。ハイカラハイカラ。
女学校の英語教育の随意授業化も、まさにこの昭和17年あたりだったそうですしねえ。

女学校では、かなりのクセモノな先輩二人と同室になり、猫可愛がりされ振り回されながら一度しか無い貴重な青春時代を、あっちゃんらしい胸を張った自分を裏切らない生き様、というようなあり様で突っ切ってく彼女ですが、同時に兄・中禅寺秋彦との家庭環境に基づく微妙な関係というものに、ある種の決着をつけていく時代でもあったんですなあ。
京極堂こと中禅寺秋彦の家庭環境については、語られているようで何気にちゃんと語られていなくもあり、謎の部分も多々あったんですが、あっちゃんと元々離れて暮らしていて、初めて対面したのもだいぶ遅かった、というのは意外な事実でした。ってか、アニキよりも先に、後に京極堂と結婚することになる千鶴子さんとこの家族と住んでいたとは。むしろ、兄よりも義姉の方になついている、と言ってもいいんじゃなかろうか。実の姉妹さながらに暮らしてたみたいだし。
面白いのは、若き京極堂がけっこう妹に対して過保護気味だった、というところか。そりゃ、まだこの頃はあっちゃんも子供なわけで、一足先に成人となってやってる兄としては、親と離れている妹に対して保護者としての責任感もあっただろうしねえ。ただ、あの性格なのでところどころ失敗しているのはご愛嬌。それをうまいことフォローしてくれたのが、あの榎木津礼二郎というのが面白いなあ。この時代、というかあっちゃんとの関係において、京極堂って榎木津にかなり貸しがあるんじゃなかろうか、これ。

しかし、あっちゃんの女学校時代の先輩や友人たち、紗江子先輩や万里先輩、ひさ実といった人たちが本編の頃にはどう過ごしているのか、みんなキャラも立っていたし敦子との関係も掛け替えのないものになっていただけに、なんとも気になって思い巡らせてしまいます。

ってか、やっぱり佐々原さんは女の子が主人公の作品の方が、活き活きしてるなあ。

佐々原史緒作品感想
 
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