使徒戦記 ことなかれ貴族と薔薇姫の英雄伝(1) (モンスター文庫)

【使徒戦記 ことなかれ貴族と薔薇姫の英雄伝 1】  タンバ/新堂アラタ  モンスター文庫

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「使徒」と呼ばれる神秘の者たちがいる。およそ彼らは優れた能力を持ち、あるものは優秀な将軍であり、またあるものは一騎当千の猛者であった。エリアール大陸の中央部を領土とする、アルシオン王国の王都。転生者で貴族=ユウヤ・クロスフォードは少年期に、美しい少女・エルトリーシャとの出会い、そして別れを経験する。そして月日は流れ、二人が運命の再会を果たした場所は血と臓腑の匂いが立ち込める戦場。成長した彼女は、「白光の薔薇姫」と呼ばれる、名高き常勝不敗の名将となっていた!!


使徒戦記 ことなかれ貴族と薔薇姫の英雄伝(2) (モンスター文庫)

【使徒戦記 ことなかれ貴族と薔薇姫の英雄伝 2】  タンバ/新堂アラタ  モンスター文庫

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戦場にて運命の再会を果たした、アルシオン王国のユウヤ・クロスフォードと、レグルス王国の使徒にして、「白光の薔薇姫」の異名を持つエルトリーシャ・ロードハイムは、マグドリアの侵攻を受けるアルシオンの救援へと向かう。ユウヤは交戦中のアルシオン軍と何とか合流し、マグドリアの攻撃を阻止しようと図るのだったが、そこにはまたしても、あの黒き強敵の姿が―。「使徒」と呼ばれる神秘の者たちをめぐる戦いを描くファンタジー戦記。


基本的にシリーズものは、一冊読み終えたら先の巻を保有していてもその巻の感想を書いてから次の巻を読む、という方針を心がけているのだけれど、本作はネット小説ゆえの区切りの無さでえらいところで一巻が終わってしまったので、こらえきれずにそのまま二巻まで読んでしまい、結果としてこうして二冊まとめての感想記事をしたためている次第であります。
それだけ、中途半端なところで区切りを置くには我慢出来ないほど面白かった、という意味でもあるのですが。
使徒戦記というタイトル通り、特殊能力持ちが戦場の切り札として投入される、或いは軍を率いるケースが散見する作品ではありますが、それ頼りの偏ったバトルものではなくちゃんと軍勢と軍勢がぶつかりあう戦記モノとして、戦場での臨場感とスピード感、命と命がぶつかる迫真性をしっかりと描写しているかなり歯応えのあるタイプの戦記ものでした。
使徒の能力も、シミュレーションゲームなどで指揮官が持つ麾下の軍勢に対する付与効果、みたいなものと考えるとかなりわかりやすいかと。
ことなかれ貴族なんてタイトルにもされている主人公のユウヤですけれど、初陣にて押し付けられたのではなく、自分から率先して損する役回りを引き受けて敗戦での殿をつとめあげるとか、出世欲や野心のたぐいはないにも関わらず、無責任ではいられないタイプである。後方で軍配を差配する智将とか軍師型の主人公かと思えば、どんどん自分戦闘で敵中に突っ込んでいくあたり、わりとのんびり目の性格とは真逆の将帥としての資質に見受けられる。世間の評判も勇将のたぐいですし、味方の危機に果敢に飛び込んで全体を救う働きは、兵卒から一番慕われる型なんですよね。
こういう一般兵からの一番素朴で絶大な信頼を無視できない責任感を負うタイプは、色んな意味でどんどん追い込まれ祭り上げられていくのですが、ユウヤもまたその運命から逃れられないようで。
とはいえ、全滅必至の撤退戦を決死隊を率いて敵の大軍をかき回して最後には自分たちも脱出する、という孤軍奮闘の勇戦はそのシチュエーションだけでも燃える上に、戦場シーンの描写の止まれば死んでしまうかのような切羽詰まったスピード感がまた素晴らしく、久々にがっつりした戦記物を読んだ気分にさせてくれました。
わりと、実際に軍勢同士が戦う前の戦略面での駆け引きや作戦立案、指揮系統の確立や士気の維持なども疎かにせずに丁寧に描写されていましたし、ユウヤの故国のアルシオン王国も戦争から離れて平和ボケしていた、とされながらも将帥や士官クラスは普通に賢明ですし、この期に及んで足の引っ張りをするような愚かしい真似をしたりとかもせず、ユウヤの活躍に対しても妙な横槍を入れてこずに身分の上下などあまり関係なく素直に称賛していたり、と思いの外健全な感じではあるんですよね。
そのかわり、王族に対する評価は内外からも辛いものがありますが。放蕩王子であった第三王子も、実は密かに爪を隠していた優秀な人物、というほどではなくメンタル弱いし普通の人なんですけれど、でも彼の場合土壇場にはちゃんと肝も据わって命もかけてくれますし、身分関係なくちゃんと人の話は聞き、自分の命運を預けるのにためらいないくらい信頼を寄せてくれて、とある意味平凡な人間だからこその勇気や健気さを見せてくれる人なので、周りもなんとか支えてあげたいと思ってしまう信頼や忠誠を傾けるに足る人なんだろうなあ。

それに比べて、エルトリーシャ・ロードハイムは才気煥発とした気炎をあげる猛女なのですが……ってか、このお姫様他国の人だったんですねえ。最初の出会いのエピソードではてっきり自国のお姫様と下町で偶然に遭遇して仲良くなって、という展開だと思っていたので途中戸惑ってしまったのですが。
侵攻してきた敵国ではないものの、未だ同盟を結んでいるわけでもない他国の女公爵とのラブロマンス。何気にMF文庫Jのファンタジー戦記【魔弾の王と戦姫】を彷彿とさせるものがありますが、あの名作戦記に伍するだけのポテンシャルが舞台設定に備えられているという意味でも、なかなか楽しみな先行きなのである。
エルトリーシャのみならず、他にも手綱を握るのが難しい使徒姫たちを擁する彼女の国の王様、けっこう苦労しているみたいだけれどあれで食わせ者っぽいし、王としてもなかなかおもしろいキャラクターでどう動いてくるのか非常に興味深いところである。
あのマグドリアの新しく出てきた使徒将軍は、能力ズルすぎない? と思わないでもないけれど。あれ、どう対抗しようというんだろう。