【宮廷医の娘】  冬馬 倫/しのとうこ メディアワークス文庫

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凄腕の闇医者×宮廷医の娘。この出会いが後宮を変える—中華医療譚、開幕!
黒衣まとうその闇医者は、どんな病をも治すという——。

由緒正しい宮廷医の家系に生まれ、仁の心の医師を志す陽香蘭。ある日、庶民から法外な治療費を請求するという闇医者・白蓮の噂を耳にする。
正義感から彼を改心させるべく診療所へ出向く香蘭。だがその闇医者は、運び込まれた急患を見た事もない外科的手法でたちどころに救ってみせ……。強引に弟子入りした香蘭は、白蓮と衝突しながらも真の医療を追い求めていく。
どんな病も治す診療所の評判は、やがて後宮にまで届き——東宮勅命で、香蘭はある貴妃の診察にあたることに!?

法外な治療費を毟り取る黒衣の無免許医というと、ブラックジャックを想起しますがモデルではあるんだろうか。
舞台は中華風異世界の平原国。中華ファンタジーではないっぽいんですよね、ファンタジー要素ないですし。それとも異世界モノだったら全部中華ファンタジーの範疇になってしまうんだろうか。
ともあれこの平原国、文明レベルは中近世くらいに見えるのですけれど医療水準についてはかなり高そうなんですよね。そもそも、医療科挙という国家試験が存在し医療に関する国家資格があるという時点で、医学に対しての社会的な意識や地位が高いということですし、技術に関しても簡易的な外科手術なんかも行われているようで、基礎的な知識もある程度共通認識として共有されてるんじゃないだろうか。
香蘭はそんな国の元宮廷医の家系に育った医師一族の選良。幼い頃から医学を志ざす、というよりも医学そのものにのめり込み夢中になっていた。人形遊びで人形を分解して外科手術ごっこをしている時点で相当である。今は医療科挙の突破を目指し勉学に励む堅物な生真面目な娘なのだけれど、その女子力を完全に放り捨てた脇目も振らない性格と医学についての好奇心は、闇医者・白蓮との出会いによって見事に刺激されることになってしまう。元々の医学への好奇心がなかったら、平原国で常識とされる医術とはステージが異なっている白蓮の医術をああも純粋に受け止める事は出来なかっただろうし、貪欲に吸収しようとも思わなかっただろう。秩序や枠組みを重んじるように見せかけて、必要とあらばわりとうっちゃってしまえる性格なんじゃないだろうか、この娘。マッドの気質あり、と睨んでいる。
さて、そんな香蘭に色んな意味で目をつけられた医師・白蓮。彼の正体については何者かとは明言されていないのだけれど、明らかに現代水準の医療技術と知識を身につけている以上、中華風異世界版『JIN-仁-』さんなんだろう。医局政治への嫌悪感をむき出しにしていることから、白の巨塔紛いの政争に巻き込まれた経験があったのかもしれない。皮肉屋で世の中を斜に構えて見ているなかなかに性格の歪んだイケメン医師である。
評判のぼったくりに関しては、マジぼったくりで金持ち庶民で区別せず、きっちりと高額報酬を受け取る姿勢は徹底している。金持ちからはふんだくるけれど、貧乏人からは金とらないよ、的な古典的な名医な在り方からは傲然と背を向けている。
かといって守銭奴なのかというと、そういうわけでもなく。ただ、現代レベルの医療をこの文明レベルの世界で行うには、それ相応の元手が掛かるということなのだ。技術費さっぴいても原材料費とか諸経費相当掛かってるんじゃないだろうか。薬や医療器具など金に糸目をつけていないみたいだし。
現代の日本だって、健康保険や高額医療費制度などで控除されている分を取っ払ったときの医療費のはめっちゃ高いよ。なので、白蓮の請求する治療費は法外とは言えないのだろう。
でも、庶民相手でも手心は加えないけれど、むしり取れる所からはより毟り取ってるよね、これ。というわけで、金にがめつい面は着実にあると思われる。
そんな医は仁術とか知ったコッチャないね、という姿勢の医者に弟子入りした堅物の医師の卵の娘が主人公の物語である。

病気に怪我に、それらにかかり負ってしまう患者たちには、病気になるに至る背景があり、また負った怪我によって見舞われる事情がある。香蘭は、医師の卵として病気や怪我よりも患者の抱える問題に踏み込み、その解決に奔走することになる。人と向き合うのが医者の仕事だと言わんばかりに。
当初、白蓮に対してその仁術に背を向ける在り方に反発していた香蘭だけど、弟子入りしてからはさっさと全幅の信頼を師に置いてるんですよね、この娘。そう書くと思い込みの激しい娘に見えるんだけど、案外と柔軟というか師の合理性に判断基準を置くようになっているからなのか、思い込みから暴走して失敗してしまうというような事はなかったんですよね。まあ、思い込みが強いなんてのは医療では致命的なだけに、いろんな可能性を考慮しながら物事を見るという姿勢をちゃんと確立しているということなのかもしれませんが。自身の正義感をたぎらせているときでも、相応に師にお伺いを立てていますし。そういう所、育ちがいいっていうんでしょうね。

最後の話で早速というべきなのか、宮廷の奥に入り皇太子―東宮の寵姫の治療に携わることで、宮廷政治の闇に踏み込んでしまうのですが、東宮の知遇を得たこともあり、今後は宮廷と下町を平行に舞台にしながら話は進んでいくんだろうか。
個人的には、なんかすでに東宮と友達だったという白蓮の過去も気になるんですけどね。医療器具などを作れる職人を探し出したり、抗生物質などの薬品を作り出したり、そういう医療体制を立ち上げられるほどの生活基盤や人脈を整えるまでには、相当の苦労があったはずですし。多分、身一つでこの世界に放り出されたんでしょうしねえ。
いずれ、そっちの話も出てくるんでしょうか。