【アスラクライン 13.さくらさくら】 三雲岳斗/和狸ナオ 電撃文庫
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新たな機巧魔神(アスラ・マキーナ)《黒鐵(クロガネ)・改》を手に入れ、二巡目の世界へと帰還した智春たち。そこでは洛芦和高校の生徒たちが、洛高最大のイベントであるクリスマスパーティの準備に勤しんでいた。一見なにもかわらぬ平穏な日常。だが世界の崩壊の予兆は、そのときすでに智春たちの世界にも訪れ始めていた。
非在化を始めた世界。虚空に浮かぶ機械仕掛けの巨大な腕。そして魔神相剋者と化した炫塔貴也、自らの目的を果たすために建てた巨大な塔……。
かつてない世界の危機を前に、操緒と智春が選んだ最後の決断とは……!?。シリーズ衝撃のクライマックスへ!!
このシリーズ、当初から水無神操緒の立ち位置がわかんなかったんですよね。幼馴染にして智春に常時くっついて離れない幽霊(ベリアルドール)であるにも関わらず、智春が奏をはじめ、杏や佐伯妹といった女性陣が接近しても、多少状況によって邪険にされてムッとすることはあっても嫉妬したり女の子と仲良くすることを嫌がったりはしなかったわけです。それどころか、奏との関係なんかを茶化したりからかってたりすらしていて、これはもしかしたら操緒はトモに対して広大な親愛こそ抱いていても、女性として男性に向ける愛情は抱いていないのかもしれない。そもそもヒロインじゃないのか? とすら首を傾げる事度々で、二人の絆やつながりの深さは回を重ねるごとに伝わって来たものの、あの操緒の頓着の無さは一体なんなのか分からないまま、ついにこの最終巻まで来てしまったわけですが……。
此処に来て、トモと奏がついに結ばれたときに操緒が不敵な笑みを浮かべて呟いた一言で、一気にこれまでのあの操緒の態度の意味が、余裕の秘密が理解できました。
この女、おっそろしいなあ!!
いやあ、完全にこの操緒という少女のキャラクターを見縊ってました。あっけらかんとして執着だ女の業だのとは縁のない娘だと思ってましたけどとんでもないとんでもない、このシリーズに登場した女性の中でも図抜けて情念に満ちた怖いくらいに「女」そのものじゃないですか。
うわぁ、鳥肌たった。いろんな意味で。
男女関係でここまで揺ぎ無い自信と受容力と諦めを同時に持ち合わせるか。普通、ああ言う事を言ってしまう女性と言うのは大概受け身なんだけど、操緒はその点まったく違うもんなあ。いやあ、これは参った。確かに想いも身体も両方とも、奏と結ばれたにも関わらず、全部操緒に持っていかれた感じ。敵わんわ、これは。
なるほどつまり、そうかそうか。一巡目の智春が何故失敗したのか、二巡目の智春はまた違う見解を示しているけど、きっと多分それは、何の根拠も論理的でもないけれどこの一言で全部説明できるんじゃないだろうか。
すなわち、一巡目のトモには操緒がついていなかった、から。
二巡目の世界に来て、ついに言葉すら交わすことなく死に別れてしまった二人。環緒の最期の凄絶さは二人の関係の凄まじさをあらわしていたと同時に、二人はやっぱり一緒にいなきゃダメだったんだよなあ、と思い知らされた。
そして、ここでの二巡目の操緒の台詞や態度もまた凄まじい。それは冒頭で描かれる、操緒がベリアルドールになった時の話にも通じて、操緒が秘めていたトモへの想いの揺るがなさを示している。覚悟をすらも必要としない、当然にして必然、この世の摂理そのものであるかのような、その揺るがなさは、確かに余人が入る隙間が微塵もない。そして、間に割ってはいるようなことさえしなければ、この娘はトモとつながるあらゆるものを受容するのだ。それはもう寛容や許容ですらないのだ。ぶっちゃけ、相手にしていない。鼻にもかけていない。
そして恐ろしいことにその自信は独り善がりなどではなく、完全に双方向なのである。トモにとっても、別に恋人を作りその人を大切に思い愛したとしても、それと操緒はまた完全に別枠なんだから。
そりゃあもう、敵うわけがない。
加えて、こんな関係を受け入れられるのは、まさに奏しかいないわなあ。彼女のマイペースで余人とかなりピントの外れた鷹揚さがなければ、気が狂うぞ、これ。杏なんかも大概大らかだから大丈夫かもしらんが、佐伯妹じゃまずもって無理だわなあ。
と、操緒の正体に戦慄しっぱなしだった最終巻ですが、さすがクライマックスだけあって数々のなぞが一気に明らかに。と言っても、不明のまんま終わった設定も数あるんですが。その辺は、短編集や後日譚で明らかになるんだろうか。
なんにせよ、この最終巻で明らかになった最も大きい謎は、朱浬さんの正体だろう。てっきり単純に瑶が誤解していただけで、朱浬と紫浬が入れ替わっていただけだと思っていたんだが、真相は遥かに複雑怪奇に入り組んでいたわけだ。なるほど、単に瑶が誤認していたわけじゃなかったのか。確かにあれだけ仲が良く、生前は二人の区別がちゃんとついていた瑶が、なんで朱浬と紫浬を間違えたのか理由がわかんなかったもんなあ。
そして、大切な人を失って道を誤った部長や冬流会長と違い、一連の戦いの中で同じく大切な人を失った佐伯兄や、雪原瑶はちゃんと残された想いを違えず、自分の為すべきことを為していく。佐伯兄は、今回かっこよかったなあ。あの登場したときは融通利かない大迷惑だった人なのに、ラストでの頼もしさは素晴らしかったです。
しかしこれ、ラストは決して大団円じゃないんですよね。失われた命は戻らないし、悪魔の進行した非在化の症状は治らないわけでしょ。氷羽子や真日和の彼女の風斎美里亜はこのままじゃ長くないんだろうし。せめて非在化の件は後日譚で何とかして欲しいなあ。
心なしか急ぎ足に見えたのは気のせいなのかな。一巡目に戻ってからももう少し続きそうな感じだったんだけど。最後の書き方は、賛否あるように思えるし。それも、後日譚次第になるんだろうけど。
これは、なんとか出して欲しい。
和葉のエピソードは、どうもあとがきの内容からすると最初から考えられていたようで、だとすると彼女の出番が極端に少なかったのは最後のためだったのか。不憫な(苦笑
彼女の詳しい事情に関しても結局何一つ明かされないまま謎だけ増えたので、これも後日譚で……って、もう一つ書かなきゃ始まらないじゃないですか。出してくださいよ、お願いしますよ。
10巻 12巻感想