夏海公司

僕らのセカイはフィクションで ★★★★   



【僕らのセカイはフィクションで】 夏海 公司/Enji 電撃文庫

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自作小説のキャラが現実世界に? 作者の知識で理想のヒロインを守り抜け!

学園事件解決人・笹貫文士の高校生活は忙しい。学園内外のトラブルを引き受けながら、創作活動――Webで小説を連載する作家としても人気を博していた。
最新作『アポカリプス・メイデン』の評価は高く、有名イラストレーターがファンアートを描いてくれるほど。しかし今、文士の筆は止まっていた。この先の展開に詰まっていたのだ。
定期更新の締切が迫る中、学校からの帰り道でも、ヒロイン・いろはが活躍する山場のシーンに思考を巡らせる。ようやくイメージがまとまりそうになった瞬間──そのいろはが文士の目の前を駆け抜けて行くのだった──。
超常現象(ファンタジー)と現実(リアル)の境界を超えて、作者知識で無双せよ!? 謎が謎を呼ぶボーイ・ミーツ・ヒロインここに開幕!

うおおお、怒涛の展開じゃあ! 一巻完結なんですよね、多分これ。それ故の凝縮された密度とドライブ感。それ以上に足場からひっくり返されるどんでん返し。
そうだったそうだった、夏海さんと言えば電撃文庫でももう古参作家であると同時に屈指のガチガチSF者だったんでしたっけ。自作キャラであるはずのヒロインが登場するまでの初っ端の段階で、もう既に主人公の文士のキャラと活躍がインパクト強で面白すぎて、その辺さっぱりと忘れてましたわ。

そもそも、自作の小説のキャラクターが現実に現れて、という設定の作品はこれまでもありましたけれど、だいたいそういう作品って「痛さ」から逃れられない宿命を背負ってたんですよね。自分の妄想が現実に具現化する、というのは多かれ少なかれ痛々しさを伴うものです。
それ故か、そういう設定の小説の主人公、自作の妄想であるキャラクターと対面することになる人物というのは往々にして内向的だったり繊細で引っ込み思案だったり、とどうしても消極的だったり人当たりが弱かったり、と言うたらば陰キャ系統の主人公が多かったんですよね。
ところが、この作品の主人公である笹貫文士ときたら……いや、あらすじの段階で学園事件解決人なんて呼ばれている時点で、自分の世界に引きこもっているタイプじゃないよなあ、とは思っていたのですが。
ちょっと想像以上にアクティブでアグレッシブで、というか何こいつ!? という名探偵コナンくんでもそうはならんやろ! というくらいの超有能探偵だったんですよね。それも、あらゆる事件を解決するどころか、事件が事件として発生する前に事前に解決してしまうこともしばしば、というよく警察や探偵が感じているジレンマ。事件が起こってからしか、警察も探偵も活躍できない。自分たちは事件そのものを防げない、というのをこの文士は類稀なる情報収集能力で事件が起こる前の段階で防ぐことに成功しているケースが多々あるようなんですね。
冒頭の依頼なんぞ、依頼人が電話を掛けてきた段階で依頼人が依頼内容を口にする前に、事件は解決しました! と、その解決の経緯を喋りだすのですから、なんぞ!? となりますわ。
依頼人がなんで私まだ何も話していないのに、もう事件が解決してるんですか!? と、度肝を抜かれるのもわかるってなもんです。
そんなドアクティブな切れ者、自分から様々な事件を解決、事件になる前に解決、を繰り返すトラブルシューター、警察にも顔を知られ、学園内にとどまらずその能力を知られている学生探偵笹貫文士がそうやってあらゆるトラブルに首を突っ込んでいるのは……自作小説のネタ集めのため、というまあ凄まじい理由だったわけです。そりゃ、何事も取材して自分で体験した方が書き物には有効活用できるでしょうけれど、だからといって自作小説のためにこれだけトラブルに首突っ込んで片っ端から解決していくって、なんかこう……目的のための手段が吹っ飛びすぎてないですかね?
でも世界が羨むようなトラブル解決の才能を持つ文士が、心からやりたいことが小説を書くこと。トラブル解決ほどの際立った才能はないものの、それでも緻密な設定とシナリオを駆使してコツコツと人気を集めていくその努力家でもある姿勢は好感を持てるもので……。
っと、つまるところこの文士という主人公は、自作小説のキャラが現実に現れて、という設定のお話の主人公としてありがちな内向的なキャラクターとは、ちょっと想像を絶するほどベクトルが逆向いちゃってる個性的すぎるくらいの主人公だったんですよね。
だから、敵に追われている自作小説のヒロインと遭遇してしまったときも、そして実際にこの現実世界にはありえない異能を振りかざして襲いかかってくる自作小説の敵組織の幹部を目の当たりにしたときも、当たり前ですけれど混乱の極みに陥りながらも何故自分の作品のキャラクターが現実に現れてしまったのか、という理由原因要因は一旦脇に置きながら、今現実に襲いかかってくる脅威にアグレッシブに対処していくことになるのです。
巻き込まれ、じゃなくて明らかに自分から首突っ込んでってるんですよね。そりゃ、自作のキャラが現れてたら無視できないにしても。パニックになりながらも、的確にヒロインを追いかけ、敵の弱点をつき、何の異能力も持たないのに、いくら敵幹部の異能の詳細を知っているとはいえ現実に滅茶苦茶な現象を引き起こして破壊などを引き起こしている相手に、あれだけ見事に対応してみせるって……こいつマジすげえわ、と文士くんに感嘆するばかりで。
異能バトルもので、異能力に異能力で対応するのじゃなくて、現実的な手段と現実にある道具とその果断さ、発想やタフなネゴシエーションで勝利するって、それだけでもなかなか出来ない面白さなんですが、それをバリバリとやり遂げていく文士くんがもう面白すぎて、これはすげえ、すげえ主人公だ!
と、若干興奮気味に感じ入っていたのですが。
考えてみると、そうした感想を抱いてしまうことすら、予定通りの掌の上だったんですなあ。つまるところ、笹貫文士は紛うことなき「主人公」だったわけだ。
でも文士って、これまでの夏海作品に出てきた主人公らしい主人公でもあったんですよね。この人の書く主人公の少年って、普通に見えていやお前半端なさすぎだろう!? というとんでもないタフさの持ち主が多かったですし、ありえない舞台に引っ張り出されて立たされてこそ輝く、みたいな所も。
だから、そのまま受け取ってたんだよなあ。
そして何より、笹貫文士という主人公に魅せられていたという事でもあります。俄然、魅力的でしたもの。冒頭の掴みから思いっきり食いつかされましたし、彼が何するにしてもいちいち面白かった。
だからこそ、文士に負けず劣らずあのどんでん返しには愕然とさせられたわけです。
そして否応なく突きつけられるSF展開。これ以上は実際物語を読んでテンション揺さぶられることを推奨します。
いやあ、面白かった。久々にこう、ぶん回された感覚を味わわせてもらいました。初っ端から文士に心掌握されたが故のこの振り回され感でしたねえ。
おそらくは一巻完結でキレイに終わっていると思うのですが、読後も含めてキレの良い満足感を与えてくれる逸品でした。



ワールドエンドの探索指南(あるきかた)3 ★★★☆  



【ワールドエンドの探索指南(あるきかた)3】 夏海 公司/ぼや野 電撃文庫

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ついに垣間見えた、世界の真実とは――ボクと彼女のサバイバルファンタジー

地図と周囲の風景が違う? 探索を続け町を進行するタイキとヤヒロは、世界への違和感を強くしながらも、高層ビルの立ち並ぶ繁華街へとたどり着く。無数の落書きに迎えられたここは、どうやら2つの勢力が縄張り争いをする、戦場の真っただ中のようだ。
〈天文館〉と〈果樹園〉という二つの部隊は戦闘を繰り広げ、究極の〈秘宝〉を探し求めているらしい。そんな中で、双方に和解を呼びかける勢力、〈灯台〉に所属する陽羽里クイナと出会う。
目指す〈ミハシラ〉へは繁華街を通過しなければならず、タイキは両陣営とクイナを前に選択を迫られ──。

エグいなあ。黒幕の人、目的は自身が語ってくれていましたけれど、あれで一応本気で善意なのかも。いや、みんなを見下し嘲弄に染められているそれを善意と言っていいのか。結局、ゲートの保持が目的なんだからそんなはずないよなあ。
にも関わらず、さも自分は善意で彼らを妨害していたんだ、なんて事を平然と笑みすら浮かべて宣ええる時点でその性根は最悪である。
だいたい、ただゲートを保持するため爆発を阻止するのならやり方はいくらでもあったんですよね。なのに、わざと関係をこじらせるように誘導し、本来理性的なリーダーに率いられた穏当な集団を敵意どころじゃない憎悪というマイナスの感情に染め上げて、人間の醜い面を引き出すように誂える。あとは、見ているだけで殺し合いだ。目的を達するための殺害ではなく、殺すための殺しを行わなければ気がすまないまでに両陣営の精神を汚染する。目的を達成するためには不必要なそれは、悪趣味以外のなにものでもない。

そも、振り返ってみると最初に与えられた「天文館」と「果樹園」という集団の情報からして悪意たっぷりだったんですよね。どこの戦闘狂で人でなしの集団か、というような言い草でしたし。
しかし、実際に問答無用で殺されかけた挙げ句に同じ目にあった人からの中立の立場を装った立ち位置からの冷静な、これまで彼女が経験した実際に見聞きして両陣営と交渉した結果から抽出された情報、という形で出された話は実感とともに真実味があったんですよね。
タイキたちが両陣営のリーダーに直接対面しにいく、なんて真似をしなければ、実像はわからなかっただろう。
実際、完全に冷静さを失っている現場最前線を何とかくぐり抜けて、両陣営の幹部たちが集まる指揮系統の中枢までたどり着いて見ると、聞いていた話とまた随分と違ってきているんですね。
また、両陣営とも敵対するに至った理由を聞いていると、明らかになんかおかしい。いや、当事者からしたらそれ以外に真実はないのだけれど、第三者の立場から見てみるとどうにもおかしい。
ただ、これに気づけるのはやっぱり第三者ならでは、なんですよね。
だからか、早々に彼女がタイキたちに接触してきたのは。
予期せぬ形で、この状況に介入してくる第三者が、彼女がお膳立てしていた状況を台無しにしていた危険性に、速攻で気づいていたのかもしれない。でも、まずいちばん最初に接触することで一方的な情報を与えて誘導することは可能だし、そうでなくても近くにいればタイキたちが介入して変化する状況を、即座に修正することが出来る。狡猾だ。
話してみてわかるのだけれど、天文館、果樹園双方ともグループを指揮するリーダーが優秀なんですよ。単に能力が優れているというだけではなく、理性的でここまで憎悪が循環する状況でありながら、暴力だけに丸投げしてしまう思考放棄に逃げない粘りがあったんですよね。他人の話を聞くことができ、冷静さを失わない。人望も厚くカリスマもあり、半ば統制を失いながらもそれでもグループを崩壊させていなかったのはそれだけ手腕が優れていた、というのもあるのでしょう。
逆に言うと、これほどのリーダーに率いられながらも、彼らはほぼ一方的に良いように弄ばれてしまったわけだ。黒幕の悪魔的な人心操作の技術を感じさせられる。それも、最小の介入だけで、だ。

では、そんな彼女の正体はなんだったのか。
一応、彼女自身が全部タイキたちにバレたときに語ってくれているのだけれど、前提となる情報が殆どないだけに、彼女の立ち位置はよくわかんないんですよね。
そもそも、タイキとヤヒロはもともとどういう存在だったのか。彼らはどうして今、ここにいるのか。若者の姿で、ここにいるのか。かつて、彼らに何があって、今この状況におかれているのか。
断片的に夢という形で過去の様子を垣間見ることが出来るのだけれど、断片的すぎてやっぱりわからない! 世界の本当の姿、というのも今まで見聞きしてきたものに、ここで体験したものを含めてもやっぱり判断材料が少なすぎるんですよね。
具体的に語れるものが、今の所殆どない。

ただ、タイキとヤヒロは記憶のない昔から、分かちがたく離れがたい存在だった、という事だけは実感できたのだ。それがなんという関係なのかはわからない。兄妹なのか、恋人なのか、親友なのか、好敵手なのか。
死なば諸共、が一番二人を言い表している言葉だ、なんてヤヒロが言ってたけど、それって敵対している関係性の人間が、負けそうなときに地獄まで道連れにしてやるー、と相打ち覚悟で挑んでくるような状況を指すことばで、一蓮托生とはまた違う気がするのだけど。
なんにせよ、運命共同体。そう言い表せる関係だと、二人で実感して納得して受け入れて、それを良いと思えたのだから、それで十分なのかもしれない。
特にヤヒロは、その魂が欲していたものはタイキと一緒にいる、ということだけで十全だったみたいだし。今が、彼女にとって望み叶った状況なんですよね。振り返ってみると、タイキと出会ってからのヤヒロってなんか常に上機嫌、だった気がするぞ。

世界の真実の核心に迫ったようで、実のところ何がなんだかさっぱりわからないままではある。ミサキたちの正体と目的についても、前巻の最後にちらっと触れられたところから殆ど進展していないし。果たして、話はここから進むことが出来るんだろうか。次巻が出るなら、ありがたいのですけれど。



ワールドエンドの探索指南(あるきかた)2 ★★★☆   



【ワールドエンドの探索指南(あるきかた)2】 夏海 公司/ぼや野  電撃文庫

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“学園”を脱出したボクとヤヒロは、ミハシラを目指し、無人の街を進んでいた。しかし、進むにつれて凶暴さを増すミサキの出現や、物資の消耗に2人だけでの探索へ限界を感じ始める。そんな中、旧い前線基地の“工場”が近いと知り、補給のためにかつて“学園”が放棄したその施設へと向かうことに。そこで待ち受けていたのは、別拠点“教会”の遠征隊のメンバー、ツクシだった。たった一人で“工場”に立てこもるツクシに、敵対心を露わにするヤヒロ。他の探索メンバーの有無や、一人で見張りに立つツクシに不信感を持ったボクは、一計を案じ―。

こっれっはっ、気づかんわー! 分からんて!
視覚情報に完全に騙された。いやこれはちょっとズルくないですか? もう何も信じられないw
いやでも凄いのはタイキですよ、これは。ツクシとの出会いから合流までを再確認してみたのですが、こうしてみるとヤヒロの反応は正しい、というか普通のものだったんですよね。一巻では性格的には大雑把というか鷹揚で、他人から信用されていない事この上なかったタイキの事も端から信じて命預けてくれるような娘だったわけですよ。それが、この二巻ではやたらと刺々しいし、ツクシに対して警戒しまくるし、ああも他人を寄せ付けまいとするヤヒロはこれまでの印象とはまったく別だったので、キャラ変わった? と思うほどだったのですが……。いやこれは、ヤヒロでもそう反応するよね。むしろ、よくタイキの言うことを聞いてくれたというか、それだけタイキの事を信頼していたという事なのか。読んでいる最中は言うこと聞いてくれないなあ、とすら思っていたのだけれど逆じゃないか、実際は。
だいたいこの場面、反応というか対応がおかしいのは絶対タイキの方である。ってか、ナンナのコイツ? あの段階のあの場面で、あの咄嗟の状況でなんであんな冷静な対応が出来るの?
あれは、もう最初から可能性としてそれが「ある」と頭のどこかで考えを据え置いていなければ出来ない反応ですよ。だから、読んでいるこっちはまったく違和感に気づかなかったし、ツクシもまた微塵も気づかなかったわけだ。
あれ、タイキが当たり前のような顔しているから、ヤヒロの過敏な反応が単なるよそ者、一度攻撃してきた見知らぬ謎の人物、に対する警戒にしか見えなかったんですよね。
ヤヒロがそういうタイプの人間ではない、と知らないツクシからしたら、むしろヤヒロの方が当然の態度に見えたかも知れない。
しかし、そう考えるとタイキはほぼこの段階で、自分たちの目の前に聳えている「工場」の正体についてある程度当たりをつけたんじゃなかろうか。
さすがに中で何が起こっていたかについては、ツクシに聞くまでは知らなかっただろうけれど。
でも、それも聞いた段階で起こっている状況の大まかなところ、或いは原因の一番根っこの部分は気づいたんじゃなかろうか。
ヤヒロがぶっ倒れたあとのツクシが語ってくれたこれまでの体験は、その結論を補強し想定を具体化するための材料になったのだろう。でなければあれだけすぐに、教団側の探索チームが壊滅した、もうホラーじゃね?というようなSAN値直葬なケースへの対策を、お披露目出来るとは思えない。
いやほんとこいつどこまで見えてるんだ? ツクシに対しては勘働きを間違えたヤヒロですけれど、まず外さないその感性がタイキに対して全幅の信頼を寄せているの、よくわかったわ。
ヤヒロに関しても、一度ツクシに助けられてからのあのツクシへの打ち解けっぷりは、あれはあれで凄いのですけれど。いや、あれこそが本来のヤヒロというべきなのでしょう。

冒頭では、拠点を持たず流離うしかない二人きりでの探索に限界を感じているようでしたけれど、こうしてみるとこの二人と一緒に行動するというのは、能力云々とはまた別にこの二人の感性というか価値観というか、それについていける人でないと無理なんじゃなかろうか。
その意味では、ツクシという少女はついていけるか云々じゃなくて付いていってしまうというか、二人のハズレた所をわざわざ気にする余裕がないタイプだった気がするので、案外相性も良かったんじゃないだろうか。あの手先の器用さや雑務能力はヤヒロとタイキの二人にはない能力でしたしね。打ち解けてからのヤヒロのツクシへの可愛がりっぷりも、かなりお気に入りみたいでしたし。

これはツクシという少女の意地とも誓いとも取れる戦いの跡に、タイキとヤヒロが訪れたお話であり、その意志の強さにあらゆる意味でタイキたちが救われた話でもありました。タイキが作中でツクシに語っていたことですが、彼女が居なければまず間違いなく二人は教団の探索班と同じ末路を辿ったでしょう。あ、いやどうだろう。ああ言ってますけれど、タイキなら致命的になる前の段階で踏み抜かずに後ろに下がれたような気もしますけれど。
でも、ツクシが語ってくれた情報がなければ、彼女の存在がなければ、まずこの「工場」で何が起こっていたかの全貌はつかめなかったでしょうし、ひいてはこの世界の真実の一端を捕まえる事も叶わなかったでしょう。
そうこれ、この終わりを迎えたような世界の正体に、深く踏み込む展開でもあったんですよね。タイキは表に出ている部分は氷山の一角で、まだ相当の想定から推測からを既に頭の中で広げているんだろうな。
最後の最後で湧き出るが如くまた謎が吹き出てきましたけれど、次回でその深奥にたどり着けるのか。……道連れが、増えてくれると思ったんだけどなあ。


シリーズ感想

ワールドエンドの探索指南 ★★★  



【ワールドエンドの探索指南】 夏海 公司/ぼや野 電撃文庫

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ボクたちが生き延びるには『地図』が必要だ。安全な場所が記され、『ミサキ』と呼ばれる怪物たちを見つける道標となるものが。丘の上に立つ謎の“学園”で目覚めたボクは、今日も仲間たちと探索に出かける。6人でチームを組み、無人の街を調べ、力を合わせてミサキを倒す。貢献に応じて支払われるポイントで装備を新調し、更なる奥地を目指す。これがボクらの毎日。いつ終わるとも知れない冒険の中、ある時、ボクはこの世界への違和感を訴える女の子と出会い―。

そう言えば、なんであの怪物たちが「ミサキ」なんて名前つけられているのか説明ありましたっけ。なかったよな。いきなりミサキという単語が出てきて、なんだそれはと思っているうちにそれが怪物全体につけられた名前だと話の展開から理解して……という感じで。
やっぱり、7人ミサキが原典なんだろうか。だとすると、随分な皮肉が込められた命名である。
冒頭から中々に壮絶な展開。カラー口絵を見て素直に読み始めてたら、そりゃ一撃食らうだろうなこれは。それだけイラストを贅沢に使っているとも言えるわけで、ほぼレギュラークラスで出演しているにも関わらず、なかなか挿絵で描いてもらえないキャラとか羨ましいんじゃなかろうか。
同時に最初のスタッカートの面々、個々を面影までイメージできるわけですから強烈さも増すというもので、これ以上なく効果的とも言えるのでしょう。
自分の場合、ちらっとネタバレされてたからなあ。それがどういう形かは知らなかったものの、心構えだけは出来てしまっていただけに。
でもまああれ、タイキの方にも大いに問題ありなんでしょうね。正論が正論だから、正しい結論だから受け入れられるというものではない。正確な分析を導き出すのと、それが正確だ、極めて確率の高い可能性だ、と認めさせる事、物事を納得させる能力は全く別物なんですよねえ。
一概に、彼らが無理解だったとは思えません。最初の方はちゃんと意見を聞き入れていたわけですしね。当然、責の大半は情報を信じなかった面々にあるのは間違いないのですけれど、会話を聞いている限りあれは無理だろうなあ。それが正しいとわかっていてもイラッとする物言いですしw
それ以上に話を聞いてもらうための、話す内容を信じてもらうための説得力を付与する前フリ、あるいは餌撒きがないんですよね。いきなり「A」が正しい、だからそうするべきだ、と結論だけ述べて採択を迫る。これをするなら、よほど強権を有するリーダー格でないと容易にチームとしては破綻してしまうでしょう。それか、よほどリーダーにその能力を信頼されるか。
それですら、彼の言うとおりにするリーダーも含めて不満や不和が募っていくでしょうから……なるほどなあトモヤスのあのやり方というのは、タイキというピースの扱い方としては最上にして最適だったと言えるのでしょう。正直、タイキの悪評があそこまで天井に達していなかったら、もっと簡単に彼をチームに組み込めたかもしれない。あそこまで周囲から敵意を集める状態になってしまっていたタイキを、あのままチームの一員としてうまく活用できたかについては、凄まじい綱渡りを要求されそうな難易度だったと思うのだけれど、トモヤスのあの腹芸はちょっと並外れたものがあっただけに、普通に話が転がっていけばトモヤスをリーダーとするあのチームで、タイキも順調にやっていけたのかもしれないと思うんですよね。

まあ、「学園」の中で常識とされていた事が大前提から「アレ」だった時点でどう転がってもそうなる未来は無理だったのですけれど。
しかし、あの執行部の。リンのやり方は振り返っても何がしたかったのかわからない。あのやり方だと損耗が増えるだけで探索速度があがるとは思えないですもんね。無駄に腕の立つチームを消していくだけで、ノウハウも加速度的に失われていくし、どんどんジリ貧になっていくばかりでしょうに。合理的じゃないんだよなあ。一応、彼らのバックの存在とその暗躍が明らかになったけれど、基本的な目的に関しては最初からリンが言っていた通りだったのだとしたら、やっぱり無駄が多すぎて何やってんだコイツラ、と思うばかりで。結局、無理を押した所から破綻して情報が漏れて、全部おじゃんになってしまったのですから、とてもあのリンという人有能だったとは思えないなあ。サイコパスの類だったのは間違いないのでしょうけど。
トモヤスなんか見てたら、彼をうまく活用してたら劇的に探索進むようになってたんじゃないか、と思えてならない。ラストでの展開を見ても、滅茶苦茶有能だもんなあこの人。

色々とリンを通じて、この世界の仕組みについて明らかになってきたわけだけれど、まだタイキたちを含めた「子供」たちの正体。彼らの失われた記憶や世界の謎は定かではないのだけれど……少なくとも出揃った情報から鑑みるに、これって異世界ファンタジーじゃなくてやっぱりSFの部類ですよね? 夏海さんは、やはり徹底してSF者だぞ、これw

夏海公司作品感想

ガーリー・エアフォースXII ★★★★   



【ガーリー・エアフォースXII】 夏海 公司/遠坂 あさぎ  電撃文庫

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米国で新たなドーター適合機が発見された!調整のため小松にやって来ると聞き、妹ができると期待に胸を躍らせるグリペン。しかし、覚醒前で眠りについたままのそのアニマの少女、XF‐108‐ANM、レイピアを巡り、慧たちは不可思議な事態に巻き込まれてゆき…?その他、グリペン、イーグル、ファントムそれぞれの前日譚に、健気で人気なベルクトとロシアンアニマ三人衆の交流も収録。癖の強い先輩アニマに困惑するベルクトは、果たして任務を達成できるのか!?バラエティ豊かなエピソード満載でお贈りする、美少女×戦闘機ストーリー最終章!

「Episode1 ドリームウィーバー」
「レイピア」ってなに!? こんな戦闘機知らないよ!? と、思ったら形式番号にXがついてた。試作のまま終わった機体か。その印象的なシルエット、ペンシル型と言って差し支えないだろうデザインは過渡期のジェット戦闘機を象徴しているかのようで面白い。
と、それはそれで新アニマとか本編では出てこなかったのに、どう展開を処理するんだろうと思っていたらまたぞろ凄い展開に。いやこれ、レイピアを表紙にって微妙に詐欺じゃないですかぃ!? このアニマの子って、殆ど活動してないじゃないですか。
アニマがどういう理屈で誕生しているか、をザイの正体が明らかになった上でその仕組の詳細が自明の理になっていたからこその大胆な展開で、いやこれこのレイピアのパターンが可能ならアニマを作るのって戦闘機に限定されなかったんじゃなかろうか。真面目な話、空母とかイージス艦でも可能っぽいんだよなあ。ともあれ、同時にその定義の不安定さこそが、この第一話の大混乱にも繋がっているわけで、概念が現実世界に侵食してしまったという話なんですよね。物理的には何も変わっていないにも関わらず、人間の認識だけが世界規模で塗り替えられていくって、やばすぎるにも程があるじゃないですか。
それがまた、戦略空軍マフィアの夢、というのが実にイキっていて大好物なのですが。そうだよね、ロケットやミサイルのたぐいの開発が失敗した世界なら、弾道弾も存在せず宇宙開発もなく、人工衛星による地上偵察もネットワークの構築も存在しませんよね。そこから派生していく戦略空軍という滅びた概念の可能性。これ、爆撃機の類のアニマを直接誕生させるのではなく、新世代戦略爆撃機ノースアメリカンXB-70の護衛機として計画されモックアップで破棄されることとなったレイピアを持ってくるのはまた乙だよなあ、と。
今回の自体が進むに連れて狂想曲と化していく展開に対しての、グリペンの塩対応がまたひどいんですよねw いや、わりと大変な事態なんですからもっと一緒になって慌ててくださいよ、と言いたくなるけど、グリペンからすると何やってんだこいつら、という事になってしまうんですかねえ。こういう時にいつも慧の側で一緒に共感し一緒に奔走してくれるのがファントムというのは、やはり相棒感は緑髪の彼女の方が強かったなあ、と思う次第です。
この話はオチがまたキマってて凄く好きですw

「Episode2 プリンセスイーグル」
自由奔放なイーグルに八代通さんが振り回されるお話。おっさん、それはアニマだから精神構造が謎、なのではなくて年頃の女の子に共通する最大の問題、というやつなんですよ、きっと。
娘が出来たら同じことになる予感。まあこの人が結婚するというのが少しも想像できないのだけれど。

「Episode3 シアターブルー」
自由奔放すぎるイーグルにファントムが振り回される話。いつものことながら、策士策に溺れるを地で行くファントムである。我に秘策あり、何て言うのは失敗フラグだ、と自分で言いながら「我に秘策あり」と自分で言ってしっかり失敗するあたり、律儀ですらある。そして、何かあると基地からの逃亡を図るな、このファントムさん。本編でも何度もエスケープしてたし、この巻の第一話でも脱走してたし!


「Episode4 フェイクモキュメンタリー」
広報用ビデオの作成まで担当する八代通さん。広報というよりも資金源のためのPVなわけだけれど、この人技官なのにホントなにやってんだろう。


「Episode5 トリコロール・ヴィント」
本編の前日譚。まずはグリペン。あの上海からの脱出船団を急襲したザイを迎撃に現れたグリペンが、どのような過程で出撃したのかを描いたエピソードである。本来なら戦闘どころか飛ぶことすら、それ以前に覚醒しかままならなかったグリペンが、どうしてあの場面で救援に訪れて、慧の前に現れたのか。
すべてが明らかになり、そして終わったあとになってみると、偶然などではなくまさに会うべくしてあった再会だったんだなあ、と。

そしてイーグル。整備員のフナさんとのお話。慧を除くとあのヒゲの整備長なフナさんが一番アニマたちを人と同じように慈しんでいたんだろうなあ、と想像してしまう一編でありました。

最後にファントム。これは前日譚ではなく作中時間内での掌編という感じだけれど、やっぱりいちばん乙女な側面を見せてたのってファントムだよなあ、と思わせてくれる一片でありました。

「Episode6 ザ・ラスト・バタフライ」
最終決戦前に、宇宙から舞い戻ったベルクトが一時期ロシア組に加わっていた時のお話。新参者としてうまく馴染めるかどうかドギマギしているベルクトが、ロシアアニマ三人娘たちに一人ひとり配属のご挨拶していくお話。
いきなりラーストチュカへの印象がひどいベルクトである。眉毛ないです。触れる者皆、傷つけるような目をシています怖いです、て。いやそりゃ実際怖いけどw
そしてなぜか出会って即数秒で何故か愚痴られ悩み相談されてるベルクト。そして、なんでかスランプに陥っていたジュラーヴリクのカウンセリングをして、相変わらず逃げ回っているパクファを追いかけ回し、と最終決戦前に何気にヤバイ状態に陥っていたロシアチームの救世主となってしまうベルクト。この子、日本に亡命してきたときも癒し系だったけれど、ロシアでも頼られ系だったのか。長らく、具体的には6巻分ほど物語上から消えてしまっていたのがやっぱり勿体無いイイキャラクターだったんですよねえ、ベルクト。
それにしても、いつも強気なジュラーヴリクの姐御が弱気でヘタレている姿はなかなか新鮮で良かったです。慧たちに、そんな弱気な姿見せるわけなかったですしねえ。

というわけで、短編集はあくまで作中時間内か、前日譚のみという形で終始しました。あの本編でのエピローグ以後の後日談をやらなかったのは、それだけ本編で全部書き切った、このガーリーエアフォースという物語が映し出される情景はあそこまで、という自負が伝わってくるようです。
とはいえ、何がきっかけになってもう一度はじまるかわからない、というフリはかましてくれてますが、あとがきで。
ともあれ物語の余韻もここまで。良きSF作品であり、物語でありました。


シリーズ感想

ガーリー・エアフォースXI ★★★★☆  



【ガーリー・エアフォースXI】 夏海 公司/遠坂 あさぎ  電撃文庫

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ついにザイ殱滅への光明が差し、作戦準備を進める慧と独飛の面々。しかし、その作戦はグリペンを始め、すべてのアニマに大きな代償を強いるものだった。最終決戦目前、日本のアニマ達にロシアのバーバチカ隊も合流し、いざ決戦!…といきたい所が、気負う慧を余所に、いつも通りのアニマの少女達。イーグルは陽気にウォッカをがぶ飲み、ファントムとジュラーヴリクは憎まれ口を叩き合い、慧に絡むラーストチュカにマイペースを貫くバイパーゼロとパクファ。そして、時を超え慧への変わらぬ想いを抱えたグリペンを待つ結末は―。美少女×戦闘機ストーリー、蒼穹を駆ける史上最大の空戦が始まる!

最終決戦前に主人公が搭乗機を新型、或いは決戦機に乗り換えるというのはロボットもののお約束ですか? いやこれロボットモノじゃないけどさ。
シリーズ途中から、特に空母シャルル・ド・ゴール編、いやザイの正体が判明した頃からか。そのあたりから特にSF色を強めてきた本作だけれど、終わってみれば未来への選択、という以上にアニマという人間ではない存在とのコミュニケーションの物語だった、という印象が焼き付いてくる。
まるで人間と同じように笑って泣いて物を食べ触れ合うことの出来る存在だったアニマだけれど、人と想い合い、愛を交わすことの出来た存在だったけれど、それでも彼らはやはり人間ではない。その価値観は、在り方は、魂の拠り所は人間とは決して交わらない存在である、ということを結局慧はこの土壇場で理解することになる。
気持ちが通じ合ったのは本当、お互い好きになって愛し合ったのも本当。でも、その想いの土台となる「本質」は人とアニマではまた違うのだ、ということをわかっていなかったのだと、ザイ殲滅の結果アニマが今の形状を維持できない、という事実を前にした時に慧もグリペンも思い知ることになる。
いや、わかっていないことすらわかっていなかったからこそ、最後まで拗れた、というべきなのかもしれません。お互いにその違いを理解しないまま、想いを貫こうとするから、相手を想うことを貫こうとするから、食い違いが生じてしまうという悲劇なのか喜劇なのか。第三者だからこそ、或いはアニマであることと人間であることの違いを正確に把握していたファントムは、だからこそ慧に事実を伝えたんだなあ、と読者である私もまたようやく後になって理解した次第。
このあたりのファントムの感性って、当初思っていた乙女心の発露とか、慧を気遣って、というのとは実は微妙に違ったんだなあ。いや、そういう要素もあったんだろうけれど、彼女もまた一貫してアニマであった、というべきなのか。
ともあれ、ファントムに後押しされたとはいえ、このアニマと人間とは違う存在である、というのをグリペンとの交流だけではなく、イーグルや帰ってきたベルクトとの会話からちゃんと理解しようとし、今までの経験を踏まえた上でそれを飲み込んで慧は理解し、選択しました。自分で選びました。自分で見つけました。
アニマと人間が交わらない異なる存在であるというのを踏まえた上で、アニマと人間であるからこその繋がり方というものを、人間であるからこそアニマの存在意義を証明し続けることの出来る関係を、意志を持つ存在とそれを叶える存在との在り方を、人である慧を好きになったグリペンとそんなグリペンを好きになった自分の思いの在り処を、彼はちゃんと見つけたのです。
だから、その選択は辿り着くべきへ辿り着いたと言えるのでしょう。妥協の産物や諦めの結果ではありません。自分たちにとって最良の結末へと、彼らは納得して辿り着いたのです。悩んで苦しんでなにか一番良い結末かを思い描いて、でもそのどれもが自分たちが望んだものとは違うのだと理解して、そうして望むべき形が何なのかへと辿り着いたのです。
だから、その選択に何の不満を抱くことがあるでしょうか。本気で悩んで考えて考えて、これまでの物語を、登場人物たちが紡いできた関係を昇華させて手繰り寄せた結論だからこそ、思いの外すとんと腑に落ちたのです。びっくりするほど納得がいったのでした。
異なる存在同士の相互理解、コミュニケーションの完成、知性持つ存在を突き詰めて解体していき、その在りよう、「意志」というものが持つ力を解き明かしていく、という意味でも全力でSFしていたんじゃないでしょうか、この【ガーリーエアフォース】という作品は。
慧とグリペンが辿り着いた答えを見た時に、この物語は描こうとしていたものを見事に描き切ったんだなあ、という万感の思いを抱いたのでした。

シーンは描かれませんでしたけれど、アニマが消えオート・パイロットで次々と帰還してくるドーターたちを迎える、最後に戻ってきたグリペンから一人降り立つ慧を迎え入れる八代通さんたちの光景は、想像しただけで心が震えます。
八代通さんは、慧とは異なるこの作品のもうひとりの主人公、とも言うべき人でしたしねえ。傲岸不遜で冷酷非情で、でも尋常じゃなく頼もしく頼りになって、信頼に応えてくれる尊敬するしか無いとびっきりの格好良い大人の人でした。人の醜さ、社会の闇というものに一番身近に接していた、或いは彼自身がその体現者であったからこそ、ザイを送り込んだ未来人の絶望にもっとも共感していたのも彼なのでしょう。その彼が、希望を見出して慧たちを送り出してくれたからこそ、この物語の先に希望を抱けたような気がします。

ベルクト再登場は多分来るだろうな、とはわかっていても嬉しかったですね。振り返ってみても、アニマの中でぶっちぎりに正統派ヒロインらしかったの彼女でしたし。まあ、慧のヒロインではなかったにしても。しかし、ベルクトの新装備コンセプトって完全にエースコンバットか、ってノリでしたよね。
最終決戦で、慧たちを送り出すために次々と翼を翻していくアニマたちとの別れのシーンも感無量でした。たとえ結果がどうなろうと、これが終の別れとなることをお互いわかっているシーンなだけに尚更に。ジュラーヴリクはほんと、最初から最後まで格好いい姉御でしたよ。アニマはちっちゃいのにねえ。流石はロシアの最強戦闘機Su-27に相応しい存在感でした。
ラファールの方は、なんかもうやたらカッコつけてたなあ。あの突撃シーンでの台詞回しはちょっとノリノリすぎやしませんかね!? いやもうそこまで突き抜けると格好いいな!!と思ってしまいましたけど。

エピローグの十年後のシーン、ああなってもやっぱりイチャイチャしているように見えてしまうグリペンと慧の姿って、なんかもう完成されたというべきなんでしょうかね。ザイが現れるに至った未来へと行き詰まらないように、新たな未来を勝ち取るために今も飛び続ける慧とグリペンを包み込む一面の青い空・青い海。素晴らしいラストシーンでした。
まだもう少しだけサイドエピソードか前日譚があるようですが、それを楽しみにしつつこの傑作SF作品の終わりの余韻に浸りたいと思います。

シリーズ感想

ガーリー・エアフォース X ★★★★   



【ガーリー・エアフォース X】 夏海 公司/遠坂 あさぎ  GA文庫

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ロシアのアニマ達との共同ミッションを終え、ノヴォシビルスクでの祝賀会に参加した慧とグリペン。各国の要人に囲まれ恐縮していると、ジュラーヴリクから、パクファが調整のため小松へ向かうと聞かされる。フレンチベージュのエプロンドレスに微笑をたたえ、見た目は大人だが中身は赤ん坊な彼女を心配して、面倒を見て欲しいと懇願されてしまう。しかし、小松に帰還するなり行方不明になってしまい!?第5世代の最新ステルス機なので隠れるのはお手の物、ということで、騒然とする基地内を探し回る慧とグリペンだが―。ザイへの大反抗が始まる、クライマックス直前の第10巻!

千年前の地層から発掘されたF15イーグル。この本来ありえない存在が永遠に続く繰り返しを打開する鍵となるだろうことは予想できたんだけれど、まさかこうなってしまうとは。
うぁぁ……。
グリペンの記憶を元にザイの攻勢を効率的に叩き潰していた効果は、本来数年後だったザイとの決戦の前倒しという形になって現れてしまう。しかし、それでも勝てない未来は決定づけられてしまっている。だからこそ、グリペンの繰り返しに頼るかしかなかったところに、蜘蛛の糸として垂らされていたのが、あのイーグルでありそこに秘められていた真実から、慧が僅かな希望の光を探り当てるのだけれど……。
そのあるかなしかの可能性を絶対にあるというところまで押し上げて、それを実現するための道筋を凄まじい馬力と政治力と交渉力と発想力と技術力で構築してしまった八代通さんの、もうこの人すごすぎじゃね!? という凄まじさ。
慧の存在は確かに重要ではあるし、まさにキーパーソンであり、彼はその立場で必要以上の成果をあげていると言って良いんだけれど、彼が何かを成し得るために必要不可欠なすべてを準備し用意し作り出し引っ張り出し根絶やしにして奪い取り与えてくれるのは、全部八代通さんなんですよね。もう魔法使いだろうこの人。技術者としても日本のアニマ開発を主導してきた実績からもすごい人なんだろうけれど、それ以上に組織人としての政治力がバケモノすぎるんですよね。本来ありえないレベルで必要なものを必要なだけ必要な場所に持ってきちゃうんだから、もう信じられんですよ。
この人が居なかったら、本気で慧は何も出来なかっただろうし何にも関われず何も成し得なかったでしょう。癖のあるとんでもない人だけれど、はたしてこれほど頼りになる大人が味方になって、同じグリペンを助けてやりたい、という気持ちを共有して一緒に戦ってくれる幸運が他に在り得ただろうか。
ともすればたわごとにしかならなかっただろう慧の発想と発見を、八代通さんは見事に人類の存亡をかけた決戦にまで、あの僅かな時間で仕立て上げてしまったんだから、もう筆舌に尽くしがたい凄まじさですわ。いや、まじでこれこそが格好いい大人ってもんですよ。マジで格好いい!!
そんでもって、未だ戦力がすり潰されていない人類側の決戦戦力がこれ凄まじいことになってるんですよね。はたしてこの規模で航空機が投入されたのってWW兇任皹笋拜躾瑤埜爐垢襪らいで、一回の決戦で投入される機数としては空前絶後になるんじゃなかろうか。
それも高価極まる現代の最新型戦闘機で、ですぜ。
ザイとの交戦で世界各国、増産に増産を重ねていたようなので単価は下がってるだろうし機数は満たせるのだろうけれど。
映画インディペンデンス・デイかエースコンバットゼロのベルカ絶対防空戦略空域「円卓」ってノリで大いに盛り上がる展開なんですよね。語られる作戦概要を聞いているだけで鳥肌がたってくる。

だからこそ、最後にファントムが告げてきた起こり得る結末の姿が衝撃的すぎたんですよねえ。
まだ未成年の学生に過ぎない慧は、これまでもずっと分不相応なくらいの重荷を背負ってきましたし、グリペンによってもたらされた世界の真実は、慧の心をズタズタに切り裂いて絶望のどん底へと突き落とし、それでもなお立ち上がり諦めず、世界を救う、グリペンを救う筋道を見つけ出した彼に対する仕打ちがこれなんですからねえ。最後の最後まで、あまりに彼に厳しすぎる展開じゃないですか。
しかも、これに対して慧はもう逃げ場がないのですよ。
これまで引っ張り続けていた幼馴染の明華との関係についにケリをつけてしまったのですから。グリペンの真実を共有する過程で、蛍橋として生きた前の世界で慧はこれまで気づいていなかった明華の本当の気持ちを、彼女がどれだけ深い傷を負って生きてきたのかを知ってしまった以上、いつかは……そして早めにその精算をしなくてはいけなかったわけで。
唐突に訪れた、明華の生き別れの家族との再会に伴う別れの時に、行き場のないまま引きずり続け二人の未来にどうしようもない傷を残すはずだった曖昧な関係に、終止符を打った。
その直後にこれですもんね。
もう明華に慰めてもらうわけなんざ行かないし、彼女に逃げるわけにもいかない。振った彼女に背中を押してもらうとか支えてもらうとか叱咤してもらう、なんて見っともない無様な真似ももう出来ない。
この件に関して、慧は一人で決着をつけなくてはならなくなったわけですよ。
キツイなあ。正直この少年、決してメンタル強いわけではなく、自暴自棄になりやすいのに。

でも、この件を秘密にしたまま決戦に赴いてしまったら、いざ事が終わった時に慧に今度こそ立ち直れないほどの深い傷を負わせることになる、とファントムはわかってたんでしょうね。
だからといって、事前に教えることだってどうなってしまうかわからない。それでも、この件を伝えようと決意したことはホントにファントム、フェアだと思うしそれを誰でもないファントム自身が引き受けたあたりなんぞ、この娘の責任感の強さと優しさを感じてしまうのです。
そして、あのセリフ。あれを「私達」ではなく「グリペン」と、彼女一人を指して告げたあたりに、なんていうんだろう……ファントムの乙女の意地、みたいなものを感じたんですよねえ。
この作品、この物語は間に誰も入る隙がない、慧とグリペンのラブストーリーでありましたし、数いたアニマたち、何気にみんな仲間であり戦友ではあってもあんまりヒロインとしては立っていなかった中で、唯一ファントムだけが……グリペンに対抗しようとしたわけではないのですけれど、仄かに乙女心を垣間見せていた気がするんですよね。だからこそ、他でもない自分を恨めと言ってのけたところに、彼女の意地を見たのです。
面倒くさいけど、やっぱりイイ女ですよ、ファントムは。あと、キャップにパーカー姿のファントムは新鮮な可愛さがあって実にヨカッタです、うん。

ついに正真正銘のクライマックス。決着の時来たれり。空戦アクションにして壮大なSF作品として綴られたこの物語の結末、正座して手に取ります、はい。

シリーズ感想

ガーリー・エアフォース  ★★★★   



【ガーリー・エアフォース 宗曄_導 公司/遠坂 あさぎ 電撃文庫

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対ザイ戦線異常あり! 日露アニマ共闘の美少女×戦闘機ストーリー第9弾!

圧倒的な戦闘力を持つ謎の飛翔体・ザイと、美少女の姿をした兵器・アニマを擁する人との戦いは、グリペンの中に眠っていた「記憶」の解明をきっかけに新たな局面を迎えようとしていた。
しかし次なる作戦地、ベトナムで慧とグリペンを待ち受けていたのは、かつて死闘を繰り広げたロシアのアニマ、Su-27のジュラーブリクたち。共同で作戦を遂行する計画だというが、因縁ありまくりの両陣営はたちまち一触即発の雰囲気に。日露アニマの呉越同舟ですんなりミッションコンプリートといくはずもなく!?
世界規模の戦いに向かう、美少女×戦闘機ストーリー第9弾!

さり気なくハイパーゼロ、取り返しのつかないことしてませんか!? 明華にちゃんと謝って怒られてた方がマシだったんじゃないかこれ!?
グリペンの記憶が開放され、世界の真実が明らかになった前巻まで。絶望に囚われた慧もなんとか持ち直したとはいえ、結局解決に至る方策は何一つ見つかってないんですよね。
それでも、何度も世界を繰り返しているグリペンの記憶を元にして、反攻作戦に打って出る独飛。でも、この勝利の連続も局地的な勝利に過ぎず、最終的には物量に押しつぶされてしまうとシミュレーションによって答えは出ているわけで、勝利を続けても焦燥は募るばかり。
だったのだけれど、このグリペンの記憶というファクターはザイ側からすると関知しえない要素なだけに、なるほどあちらはあちらで危機感を過剰に膨らませてしまったのか。
ここまで来るとSF的な要素が凄まじい勢いで積み重ねられていって、詳しい内容についてはちゃんと腰を据えて一つ一つ読み込んでいかないと理解が難しそうな難易度になってきた。ですが、説明は丁寧かつ起こっている現象やその対処方法についての表現がわかりやすく端的なので理解が及ばなくても物語を読み進める上で十分な把握はできるんですよね。ビジュアルでイメージがしっかりと出来るように解説してくれているので、どんな理屈でこういう現象が起こっているのかはちゃんと頭使わないとわからないけれど、何が起こっていてそれによってどういう危機が巻き起こり、それをどうやって攻略するか、についてはパッと見でちゃんとわかるようになっている、というんでしょうか。

この期に及んで国単位での利害調整とか、人類そのものが滅びかかっているのにそんなんしている場合じゃないだろう、という所なんですけれど、そう簡単にはいかないものなんですよね。世界の繰り返しという真実にたどり着いてしまった慧たちからすれば、もどかしいことこの上ないのでしょうけれど。それでも組織の一員としてはそこに縛られてしまうし、真実を明かせない以上危機感は決して共有できるものではない。じゃあ明かしてしまえば、って明かしたら明かしたでそこからまた利害が発生するしその破滅的な内容からは感情に基づく混乱が発生してしまって、余計に酷いことになる、という冷静な分析はまあ全く事実なのでしょう。
だからこそ、ロシアのSu-27M、ジュラーブリクとこの真実が共有できたのは、今回の一見での最上の功績だったんじゃないでしょうか。ってか、あれを知ったからと言ってどういう反応を示すかわかったものではなかったのですが、ジュラーブリク姐御は極寒のロシア美少女とは思えない熱血漢なんですよねえ。
もともと、姉妹に対する熱い情愛からして身内に対しては本当に情深い娘であるのはわかってましたけれど、あのグリペンへの宣誓はちょっと泣きそうになってしまうほど真摯で情熱的で、そりゃ姉妹たちが慕うどころか信仰に近いものを彼女に抱いているのもわかる一幕でした。
まあそのために、グリペンや慧まで身内扱いしだしたお姉ちゃんに嫉妬して、ラーストチュカが暴走してしまうのですが。この娘、クール系に見えてヤんでるタイプだったのか! 見た目ちっちゃいジュラーブリクより、ラーストチェカの方が圧倒的にシャープで格好いい系お姉さんなのにな!

それにしても、ここしばらくのファントムのキャラの弾け方は素晴らしいです。ジュラーブリクとの喧々諤々の喧嘩といい、慧へのなんか定まらないツンデレっぷりといい、この娘こそ最初のクールで突き放したような醒めたキャラはどこに行ったんだ、と。まあ分身のトゥエルブの再登場、ファントムの黒歴史再び、というあたりでファントムのメンタル休まるところ最近全くなかったところにトドメきた、みたいな感じでしたしね。なんか、グリペンと慧の関係が完全に収束したのを目の当たりにして、若干やさぐれてる風でもありますし。

で、今回のMVPはなんといっても八代通さんでしょう。この人、天才科学者という以上に組織の運営者としての凄まじいパワーショベルのような行動力が何よりもデタラメなんじゃないでしょうか。
普通、たった数日でこんな大規模ミッションを実現可能なところまで持ってけませんよ。なんでそんな短期間で必要な機材手配して現地に持って来させるの間に合わせられるの!?
化け物か!! 化け物か!!
ロシア側の担当の中佐が唖然とするのも無理ないですわ。
世界最大離陸重量を誇るAn-225 ムリーヤの登場には胸熱でした。ってかこれ、世界に一機しかない機体なんですよ。最大離陸重量が600t! 600トン!! ドスゲエ。

さて、世界崩壊待ったなしの大ピンチの難局を至上の結果で乗り越えた慧たち。しかし、ここでまたありえべからざる矛盾点が浮き上がってくるんですよね。忘れてた! わけでもないのですけれど、それが現実の現在に現物として存在していることについて、そう言えばグリペンの記憶では説明つかないことでした。
そう、あれは一体どうしてそこに現れたんだ!?
これが、完全に詰んでいるこの世界の危機を、グリペンに押し付けられる定められた運命を覆す転換点となり得るのか。面白くなってきた!!

シリーズ感想

ガーリー・エアフォース 8 ★★★☆  



【ガーリー・エアフォース 8】 夏海 公司/遠坂 あさぎ 電撃文庫

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グリペンと世界、どちらを救う? 美少女×戦闘機ストーリー、第8弾!

アンフィジカルレイヤーで目の当たりにした出来事により、ザイの正体とグリペンの理不尽な定めを知った慧。彼女を解放するために、慧はこれ以上の戦いと、世界を救うことを拒否してしまう。
そんな中、新ドーターの運用試験を行っていたイギリスのベンベキュラ基地が、ザイの戦略兵器により突如消滅。そしてザイの次なる攻撃目標は――小松!?
防戦にあたる独飛の面々だが、慧とグリペンの不在により苦戦を強いられる。はたして慧の選択は――?
巻末には那覇基地の守護神、バイパーゼロの活躍を描く短編も収録した、美少女×戦闘機ストーリー、グリペンの運命に立ち向かう第8弾!

「俺は世界を……救わない」
前巻ラストでの衝撃的だけれど、決意の籠もった慧のセリフ。さあ、そこから彼が何をしでかすのか。この行き止まりの現実に対して、どんな打開策を示すのか。と期待を膨らませて本巻のページを開いたわけですが……。
だから何もしない…って、ほんとに何もしないだけかぃ!
それはもう、世界よ滅べ。日本も自分の住む街も身近な人間も全部殺され、人類が滅びるのを座して待つ、と言ってるのと変わらないわけで、それを淡々とグリペンに指摘されて思わず激高してる時点で覚悟も何も据わってないんだよなあ。あとはただの意地、意固地。拗ねて拗らせているだけなのである。
もちろん、彼がそんな有様になってしまうだけの絶望が、慧の心身を蝕んでいるのも確かだ。彼の中には幾重にもグリペンを見捨てて見送ってきた記憶が積み重なっているわけで。幾度も幾度もその幻視に苛まれ、その際の絶望感は身を焼き続けている。
こればっかりは、慧自身しか決して理解出来ないし、実感もできないのだろう。他人には、感じることのできない虚に、彼は囚われてしまっている。
まあ問題は、読んでいるこっちにもその絶望ってのは伝わらないものであるというところで。読者として共感してしまうのは、彼の事情を知りながらもその態度に憤りやもどかしさを感じて「イイィーーッ」となってしまったファントムが一番近いところにあるという事なんでしょうなあ。
それじゃあ何の解決にもなってないでしょうが、とか。みっともない、情けない、とかそう思っちゃうよねえ。
まあ、あれはグリペンも態度悪いよ、と思うところでもありますけれど。グリペンだってもう数え切れないくらいこれ繰り返しているにも関わらず、慧のこと煽っているのか、というようなセリフしか言わないもの。あれは男の子としては憤懣やるかたないところで意固地にもなりますわな。
というところで、回り回って見ると結局痴話喧嘩じゃないか、というところに収まっているようにも見えるわけで。
やっぱりどちらにしてもファントムさん激おこである。ファントム、おばあちゃんなんだから労れよw
むしろ、現在は平均的な平和ボケしたやる気ない女子高生に過ぎない姪っ子が、自分と同じ人でなしに成り下がる、そうなるほどの地獄を見てこの救いのない選択を掴んだことに密かにショック受けてた八代通さんの方の反応にこそ、絶望感を感じてしまうわけで。
そうだよねえ、傍観じゃなく足掻くよねえ、そうなったら。
足掻くこともし難いほどに、慧の方は繰り返しを浴びてしまったとも言えるんだけれど、その割にはわりとあっさり気持ち復活させたあたり、やっぱりこっちは痴話喧嘩だよ、うん。

だから、ファントムさんをいたわってあげてください。人類を救済するためには機械的になんでもやります、的にクールな女に成り切っていたファントムが、自覚するくらいに慧に期待し、失望させられた時にこんなショックを受けて動揺しまくるくらいに傾倒していた、というのはホント人間らしいというか、グリペンに負けずヒロインしてると思いますよ。だからお婆ちゃんじゃないんですからね。
やってることは縁の下の力持ちだし、ボロボロになっても頑張ってるし、内面かなりぐちゃぐちゃになってるのに、傍目には澄ました態度を崩さないとか健気じゃないですか、優しくしなさいよ、もう。

おまけ短編では、ついに今まで何度も戦場でスーパーサブして活躍しながらもコソコソ隠れてその姿を表さなかったハイパーゼロが、御本人登場である。
ってか、そんなどえらい設定抱えてたのか! そりゃ、御本人登場できんわ。というか、よく今回姿表したもんです。
ちなみに今回は表紙まで飾ってますけど、これハイパーゼロって言っていいのか!?
ともあれ、人見知り故に出てこなかった、というわけでもないのは幸いなのか何なのか。

シリーズ感想

ガーリー・エアフォースVII ★★★★   

ガーリー・エアフォースVII (電撃文庫)

【ガーリー・エアフォースVII】 夏海 公司/遠坂 あさぎ 電撃文庫

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バディを撃墜され、F‐15Jから降ろされた蛍橋三等空尉。失意に沈む中、彼をスカウトしに技本室長の知寄蒔絵がやってくる。半信半疑で訪れた技本で蛍橋を待ち受けていたのは、複座の軍用機JAS39グリペンと、ポルトガル語を操りペールピンクの髪をなびかせるアニマの少女だった。パートナーの少女グリペンに加えて、新たな翼を手に入れた蛍橋は、以前にもましてザイへの敵愾心を強めていくのだが―。ザイとの大空戦に世界中のアニマが大集結!?グリペンがその身を懸けた、次元を越えたもう一つの物語。

……想像以上に凄いのが出てきてしまったんですが。うわぁ。
本格的にSFに突入してきた、と前回の巻の感想で書いていたのですが本格的どころの話じゃなかったよ。完全にこれSFだわ。
ザイとはいったいなんなのか。モンゴルの鉱山で発見された千年前のイーグルの残骸の正体とは、そしてグリペンが抱えている真実とは。
これまでずっと伏せられていた物語の根幹となる部分の秘密が、ほぼすべて明らかにされたこの巻の内容は、ちょっとどころではない衝撃的なものでした。
世界の構造そのものに、そこまで手が加わっていたというのか。
既に現状でも慧たちの住む世界の状況は切羽詰まったを通り越してほぼ滅びへのカウントダウンへと突入してしまっているのだけれど、実情はそんな地点すらある意味通り越してしまっていたのである。
この七巻は、そのブレイクスルーに至る最初にして始まりのステージというわけだ。
それにしても、ここまで作品としてのスケールが三周りくらい一気にでかくなるとは思わなんだ。そして、その分だけグリペンが背負ってるもの、抱いている覚悟の密度もまた実は桁違いのものだった、ということが明らかになってるんですよね。そして、彼女が「彼」に対して抱いている愛情の深さも。そして、その揺るぎなさも。
アニマとは一体なにものなのか。どういう存在なのか。どうして、一機種に対してアニマ一体しか発現しないのか。わりと、この手の擬人化ものってどうして「擬人化」したのか、その仕組みに関しては曖昧にぼかすか、或いは詳細に設定詰めるか、の両方のパターンがあると思うのだけれど、本作は見事なまでに後者でありました。アニマの存在について詳らかにされていくがゆえに、その扱い方についても深く考えざるを得なくなってくる。もっとも、それを知らずしても彼女たちの「本質」とちゃんと向き合えることが主人公たちの主人公である資質ではあったのでしょうけれど。
その意味では、この蛍橋三尉という男はわりとロクでなしの類であったんですよね。ザイへの憎しみに荒れてたとはいえ、その素行は狂犬そのものでしたしちょっとまともな人間ではなかった。グリペンと出会ってからも、無神経の極みで視野も狭くまあひどい男でしたよ。
でも、そう言えば最初期の鳴谷慧のメンタルの不安定さを思い返してみると、あれをそのまま煮凝りのように固めてしまって年を経たら、なるほど蛍橋みたいな感じになってしまっていたのかもしれない。正直、選択肢が限られていたとはいえ、よくこの男を選んだなあ、と思ってしまいます。途中まで明らかにハズレ引いたとしか思えない状態でしたし。ある意味イーグルの相方が反面教師になったんじゃなかろうか。あれがひどすぎたぶん、蛍橋は自分を顧みることが出来たんじゃなかろうか。本質的に女性に対しても他人に対しても優しく気遣いの出来る人間であったとしても、あそこまで荒んでしまってたら、自力で修正していくにも時間かかったろうし。グリペンって受け身な方だから彼女の方から積極的に「彼」を変えていくみたいな影響力って何気にそんなに発揮出来なかったでしょうし。
ただまあ、お互い不器用な分思い込んだら一直線、というありさまがいわばグリペンをこの円環へと突入させてしまった、というのなら、無垢な愛というのは罪深いものなのかもしれません。
そうかー、第一巻でグリペンが初対面から慧を特別と認識した理由が、ついにここに回帰してきたのか。七巻まで引っ張ったというのは長いというべきか、一冊丸々こういう話に使えたというのは長期シリーズゆえですけれど、ずいぶんとスケール大きい構成組みましたよねえ。ここまで話広げられるか、はじめた当初はわからなかっただろうに。
表紙のライノも、なんで今さらこの娘? と思ったのだけれど、こうなってみると大いに納得。
いわばこっちのライノが本来の彼女だった、というわけか。本来の、というと若干微妙なところがあるけれど。一応、あれも計算によって構築された演技だ、という話ですし。でも、それにとどまらない萌芽が垣間見えたわけですけれど。逆にこっちではかつてのライノよりも酷いことになっていたイーグルの有様。普段のあの天真爛漫さが、今回のライノと被るところがあって、対比にもなっていたんでしょうなあ。
ともあれ全部を知ってしまった慧にとって、今後どうするか、どの選択肢を選んでも地獄なんですよね、これ。果たして、最後の場面での宣言は深い決断故のものなのか。いずれにしても、大いに悶着起こりそうです。なんかこうなってくると、腹黒ファントムが癒やしに思えてきたw

それはそれとして、明華の扱いがホント酷いんじゃないですか!?(苦笑

シリーズ感想

ガーリー・エアフォース 6 ★★★★   

ガーリー・エアフォース (6) (電撃文庫)

【ガーリー・エアフォース 6】 夏海公司/遠坂あさぎ 電撃文庫

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モンゴルの鉱山で、なぜかF-15Jの翼の残骸が発見された。しかも検査の結果、千年以上前のものだという。ザイの脅威が迫るモンゴルで、さらなる調査に向けまだ埋まっている他の部品を回収するため、グリペンたちに指令が下る。
現地に到着し、まずはご当地料理を楽しもうと目を輝かせる一同の前に、しかし三人のアニマの少女が現れる。
クロームオレンジに輝くリーダー格、Su-27のジュラーヴリク、アクアマリンの外観と冷徹さを湛えるMiG-29のラーストチュカ、フレンチベージュでいつも笑顔、機体不明のディー・オー。やはりF-15Jの残骸を狙う彼女たちと、グリペンたちはモンゴル上空で激突する!
今度の戦闘はチーム戦!? 日露のアニマたちが乱れ飛ぶ美少女×戦闘機ストーリー、第6弾!
いやいやいや、上空で空中戦をやる前に、がっつり地上で地べたを這いずり回るスパイアクションさながらの逃走劇が繰り広げられてるんですが!
ウランバートルを舞台にした、日露当局同士の暗闘……というほどやっぱり日本側は謀略戦には熟れてないわけで、モンゴル政府サイドの親日派親ロ派の駆け引きも相まって、ロシア当局の息の掛かった排外テロ集団に追い回されることになる慧たち。このロシア側の立ち周り方や、排外テロ組織のアラっぽいやり口がまた生々しくて、ちょっと未成年の少年少女が巻き込まれるにはハードすぎる本気の謀略パワーゲームの渦中なんですよね、これ。目の前で巻き添えで人死んでるし。
何気に日本側の外交官の人が、さり気なく荒事こなせる人だったのが意外というかさすがと言うか。そっちが本職ではなくてあくまで非常対応のノウハウは取得してます、という感じのプロらしい冷静さとあんまり慣れてなさそうな余裕の無さがまた緊迫感を煽るわけですよ。
ただでさえ、ガチの空戦に参加させているわけですし、今回のように長期に渡ってモンゴルへ出張、なんてケースも出てくるわけですからいい加減、学生の身分どうにかした方がいいんじゃないだろうか。周囲に秘密にしておくにも限界があるだろうし、そろそろそこに意味も感じなくなってきているし。

一方で、ザイとともにつきまとう世界の謎に関しては、どんどん加速度的に本格的なSFになってきている。前回の空母シャルル・ド・ゴールの事件で一気にブレイクスルーした感はありましたが、今回なんぞ最初からもうあらすじの段階で千年前のF-15J、とかいうワードが出てきてしまっているわけですし。
ここまで露骨な核心の物証が出てきてしまったら、そりゃロシアだってアニマ全力投入して確保しようとしますがな。もともと、ロシアはアニマやザイに関して既に他国よりも深い知見を得ているようですし。
しかし、アニマ自体ちょっとよくわからない存在のまま、だったんですけれど、千年前のF-15Jの中にあった残骸からすると、アニマの肉体ってまんま人間のものといって過言ではないんですなあ、あれ。ザイから培養された、という文言からも人の形をしているとはいえ、もうちょっと特殊な作りをしているのかとも思っていたんだけれど。
だとすると、彼女たちのメンタルが人間基準なのもまた当たり前でそれを道具扱い、というのは使い方として非常にそぐわないことになる。ジュラーヴリクが、冷徹な軍人の姿勢ながらさり気なく日本に亡命したベルクトのことを心配してたり、というのを見せられたら尚更ねえ。
となると、グリペンと慧がかなり甘酸っぱいことになっているのに対して、八代通たちアニマ担当の人間たちが普通の少年少女を見守るような感覚で見ていることも、おかしくはないのか。アニマを人間と同じように接することと、人間とアニマが恋愛関係になるという特殊事例はまた別物というか、一応観察対象になっても不思議ではなさそうなんだけれど。

んでもって、まさかのハイパーゼロ無双w 相性の問題もあるんだろうけれど、ハイパーゼロって日本のガチの切り札だったのか。八代通さん、掛け金ベットするとき中途半端しないのな。
今回は慧に怒られてしおらしいファントムも見れて、結構満足……。

シリーズ感想

ガーリー・エアフォース 5 ★★★☆  

ガーリー・エアフォース (5) (電撃文庫)

【ガーリー・エアフォース 5】 夏海公司/遠坂あさぎ 電撃文庫

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ついにフランス機が登場!空母シャルル・ド・ゴールが護衛艦隊とともに南シナ海上で消失。その積み荷とは、オニキスブラックに輝くドーター・ラファールだった!慧とグリペンに課せられたのは、空母からのラファール回収。フランス軍所属、黒髪パンツスーツのブーランジェ中尉とともに、ザイの大軍をかき分けて空母にたどり着くと、そこに待ち受けていたのは一人の幼女で―。可愛いチビファントムがいっぱいの新システムも発動&イーグルが慧の自宅に襲来して明華と一触即発事件も発生な、戦闘機×美少女ストーリー第5弾!
これ、本格的にSFになってきたなあ。いやシャルル・ド・ゴールの艦長、あの瀬戸際で貴重な情報となる言葉を残してくれるのはいいのだけれど、あそこまで詩的な文章になってしまったのは彼の言葉のセンスが良すぎたのか。あれって、単体ではさっぱり意味わからないよね。
しかし、無人となったシャルル・ド・ゴールの内部の異常を解析していき、かの艦が囚われている異常の正体が明らかになるに連れて、艦長の残した言葉の意味が深刻さを得ていく。
ザイの正体、少なくとも彼らがどこから来たのか、という大いなる謎に一つの有力な説が実証を伴って出てきた、というのは非常に大きいんじゃないだろうか。一方で、だからといってこれ……どうすりゃいいの? という話なんですよね。こうなると、出処がザイと同じであるアニマが単なる戦闘単位ではなく、コンタクト手段として重要となってくると思うんだけれど……。
八代通さん、恐ろしく冷徹に状況を判断しているな。最後のレポートの内容なんか、徹底して感情を排して結論を述べている。一番の後ろ盾の人がこれだけ冷徹にアニマという存在に対してスタンスを整えてしまっているというのは、やはり背筋に氷を突っ込まれたような寒気を感じてしまう。今までは厳しい現実的な事をいう人では在っても、保護者的な振る舞いを見せていた人だけに。信用出来ない、というわけじゃないのだけれど、いざというときに全く躊躇わないだろう、と確信させられる内容のレポートだっただけに、ねえ。
そもそもなあ。ロシアやアメリカも相当だったけれど、EUですらもあのアニマの扱いだというのを見てしまうと、果たして人類はアニマをザイとのコミュニケーションツールとして扱えるのか、と疑問に思えてくる。ザイのコアから培養されたとはいえ、あれだけ人そのものの生体を持っているアニマを、フランスでも大量培養して使い捨てみたいにしてた、と知ってしまうとねえ。
イーグルだって、あれサラッと爆弾発言していますし。イーグルが家に押しかけてきて、明華と修羅場に、という怒涛の展開に目を奪われてしまいますけれど、むしろあそこで重要だったのってイーグルがポロッとこぼしたあの発言、彼女の実状だったんじゃないでしょうか。やっぱり一番危なっかしいポディションに居るのイーグルだよなあ。
逆にその腹黒さ故に余程のことがない限りしたたかに立ちまわるだろうファントムは安心感が在る。相方はあくまでグリペンなのだけれど、色々相談したり一緒に方向性を考えたりしてくれる相棒格ってどうしてもファントムなんですよねえ。今回のシャルル・ド・ゴール探索でだって、ファントムが実質サポートついてましたし。
というか、なんですかあの分裂ファントムシリーズww スライスって自分のこと分割してしまうのも驚きましたけれど、それぞれ個々にキャラクターが違っているのってあれ全部元のファントムのキャラクターなんですよね。中にはかなり面白いのも結構混じってたんですが。ノリノリだったりテンションやばかったり。チビファントム可愛すぎでしょう。しかも、あのラストのあざとさ。何気にファントム、ジリジリと押してくるなあ。
まあ今度加わる新たなアニマは、今までファントム以外に居なかった大人タイプなのでそろそろファントムも好き勝手できなくなるかもしれませんが……あんまりあの人も真面目であっても、腹黒抑えられるようなクレバーなタイプじゃないから無理かしら。

アニマの方はいいとして、そろそろいい加減に明華の方なんとかしてあげてください。ちょっと扱いが雑すぎて可哀想すぎるんですけれど。グリペンが好きなら好きでもうちょっと清算はしておいてほしいなあ。

シリーズ感想

ガーリー・エアフォース 4 ★★★☆  

ガーリー・エアフォース (4) (電撃文庫)

【ガーリー・エアフォース 4】 夏海公司/遠坂あさぎ 電撃文庫

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Kindle B☆W
変態機動で一部マニアに大人気、Su-47・ベルクトのアニマが登場! 日本に亡命してきたベルクトは、記憶を失い、なぜ飛んでいたのかも分からない状態だった。 そんな彼女はしかし健気で素直で働き者で、基地内でも注目の的になる。お姉さん風を吹かせるグリペンにもだんだんと懐いていく。 一方、ときを同じくしてザイ襲来の激しさが増していく。未知の新型戦闘機も出現し、戦いはかつて無い大規模空戦へと発展する!

ベルクトかー。エースコンバットに親しんだ身からすると、実戦配備された機体みたいな感覚になっちゃうんだけれど、実際は計画破棄されちゃってるんですよねえ。ただ、実機が航空ショーなんかでよく飛んでるんで、知名度は高いんじゃないかと。
しかし、重ねてベルクトかー。ロシア機でこれを引っ張りだしてくるか、という所なんだけれど、敢えてベルクトを出しながら、それを戦うための戦力として物語に組み込んでこない点にこそ注目すべきなんだろうなあ。それどころか、彼女の存在はある意味グリペンと慧の関係の鏡であり、対比であり、未来であるわけだ。同時に、この世界最大の謎であるザイの正体、その核心に図らずも近づくための鍵でもあったんですよね。
ザイの正体とその目的、そしてアニマという存在がどうして生まれたのか、という点は思っていた以上にこの作品の核となる部分だというのがわかってきた気がする。ザイとの戦いというのは、物語の表看板ではあっても本質ではないのか。ぶっちゃけ、ザイが本気で進行してきた場合、人類側に対抗の余地はほとんどないんじゃないか、というのは今回のベルクトの一件で薄々見えてきているわけだし。
もし、ラストミッションのような状況があのベルクトに付与された特性抜きで発生した場合、対処のしようがないということですもんねえ。
だからこそ、問題はザイの正体と目的にある。そしておそらく、グリペンこそがそれに一番近く、或いは既に正解を知っている可能性すらある。彼女自身、意識してその情報にアクセスできないとしても。
それが、前回のライノの裏切りと、今回ベルクトとその開発者が至った領域に関するあれこれで定まったんじゃないだろうか。
問題は、日本におけるアニマの第一人者である八代通さんが、この件についてどこまで理解しているのか、そもそも推論を持っているのか、なんだよなあ。いや、ライノがなぜああなってしまったのか、ベルクトの特性がどうやって付与されたのか、という点を八代通さんがスルーしているはずがないし、ベルクトの記憶領域へのアプローチの理論なんかからしても、踏み込んではいるんだろうけれど、一番ダイレクトなところで実感しているのはやはり慧である以上、彼に主人公として期待されている、或いは用意されている仕事、役割というのは結局のところパイロットなんかじゃないんですよね。
それを、彼自身どこまで自覚しはじめているのか。そろそろ、どうしてグリペンに自分が乗っているのか、という点について、そうしないとグリペンが飛べないから、という観点じゃなく、飛べないグリペンがどうして自分が一緒に乗ることによって飛べるのか、をリソースの配分じゃない「アニマとは何なのか」という部分で能動的に考え始めないといけない時期に来てるんじゃなかろうか。ライノとベルクト、この両者との出会いと別れはそのきっかけとして十分なはず。

ともあれ、今回は最初から最後までベルクトの物語だったなあ。ベルクト(イヌワシ)の民話に基づいたような、切なくも美しい物語。そして、最初から最後まで見送るしかなかった物語。慧たちは彼女を救おうとして、実際彼女はそれで救われたんだろうけれど、もう慧たちと出会った時は彼女の物語は終わっていたとも言えるんですよね。だからこそ、彼女はあんなにも儚く遠く、手が届かなかった。
最後の光景は、きっと映像で見たら胸が締め付けられそうなほど、美しい情景だったんだろうなあ、と。
そして、彼女の終わっていた物語は、慧たちにとっては未来をたどる可能性を示してくれた。それを、彼らはどれだけしっかりと掴むことが出来るんだろう。

しかし、こうしてみるとファントムは憎まれ役買ってますねえ。他に厳しい正論を言える人がいないからで、彼女自身そういうスタンスを貫いているからだけれど、ポロッとこぼす乙女な本音に彼女の思うところ、自分だって、と思ってるような部分が垣間見えて、この娘の人間味とそれゆえに苦労を抱えてるなあ、という側面を感じて好きになってしまいます。

シリーズ感想

ガーリー・エアフォース 3 3   

ガーリー・エアフォース (3) (電撃文庫)

【ガーリー・エアフォース 3】 夏海公司/遠坂あさぎ 電撃文庫

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Kindle B☆W
お待ちかね、艦載機のアニマが初登場!米軍所属で明るく気さく、だけどどこか謎めいたスーパーホーネットのアニマ、ライノがグリペンたちの前に現れる!
そんな彼女も加えて、ついにザイへの反攻作戦が発動する。東シナ海洋上の空母ジェラルド・R・フォードより発艦、目指すは大陸への足がかり、上海奪還!
「ではお先に」ファントムは今日もクールにテイクオフ。「撃墜数勝負ね!」イーグルは今日も無邪気に士気軒昂。
「慧、行こう」そしてグリペンは慧の手を携えて、いざ蒼穹の戦場へ!
さあさあ、どんどんきな臭くなってきましたよ。国同士の国際関係も、ザイの正体と人間の関係についても。
こう、何を信じていいのかわからない状況になってくると、腹に一物抱えているファントムが逆に頼もしくなってくるんですよね。天真爛漫なイーグルにしても、無垢なグリペンにしても、いい意味でも悪い意味でも純粋で彼女のたちの場合、それが人間味に通じているのと同時にアニマとしての本能に無造作に親しいとも言えるのである。特に、グリペンは今回の話を見ていると、彼女自身理解しきれていない本能の部分で、ザイの真実を把握している節がある。彼女はその「真実」を人類の側の自分に言語化して持ってこれずに、ただあるがままそこに置いてしまっている感じなんですよね。彼女の無垢さは、その状態をあるがままに受け止めている、というべきか。多分、イーグルもあの性格からして対応は似たようなものだと思うのだけれど、ファントムに関しては、あの捻くれつつも戦闘機として人類側の戦力のアニマとしての自分に忠実であり、人格として理知に重きを置いている彼女なら、もしその自分の中の「真実」に気づいた場合、そのまま置物にしておくことが出来ない性格だと思うんですよね。ファントムは、色んな意味であれ、人間寄りなんですよ。だからこそ、真実の探求においては慧の相棒足りえるわけだ。ファントムが自分の搭乗者として慧を欲しているのも、彼女自身が口にしている理由には実際は留まらないんじゃなかろうか。彼女自身の自覚の有無はわからないけれど。勿論、ごくごくシンプルに、慧という人間のもたらす効果じゃなく、彼自身に対する興味や関心、秘めやかな好意からくる彼を独占するグリペンへの嫉妬や羨ましさがあるのはあるんだろうけれど。
いずれにしても、こうしてみると日本のアニマたちは複雑な内面を抱えていることがよくわかる。ややこしいファントムに限らず、グリペンやイーグルだって自然に芽生えたものを今までずっと培ってきたわけだ。その点において、ライノと一体どれだけの差があったのか。
アメリカのアニマの扱い方が一体どれほどのものだったのか、触りくらいのレポートだけでしかわからないのだけれど、あちらのアニマは記号として扱われ、徹底してそう振る舞わなければならなかったんだろうなあ。日本側のアニマへの態度だって、慧が来るまでの様子を見ていると決して良いものではなかったと思うんだけれど、その点については八代さんの見識によるものが大きかったのだろう。彼がどうして、こうも多くのアニマを生み出せたのか。ライノへのアメリカの待遇と八代さんの姿勢の差は、何気にアニマの秘密に直結している気がするんだが、どうだろう。ここにきて、対比するようにこういう展開を持ってきた上で、ライノの顛末ですもんね。
正直言って、一個人にはどうにも出来ない国家間の駆け引きなんてものは、その綱引きの上に乗っかった上でそこで出来る僅かな範囲の中でどうにかするしかないわけで、さらに何の権限もない一般人の延長にすぎない慧に出来ることなんて、本当に微小にすぎないんですよね。まだ成人もしていない一人の少年に負わせるには過酷すぎる状況ではあると思うんだけれど、国同士のパワーゲームも未知との衝突もそんな矮小な事実は欠片も考慮してくれないわけで、このへんのそっけない冷徹さは何気に好みなんだよなあ。
幼馴染の明華への、あのそっけなさすぎる冷徹な物語上の扱いにも、ゾクゾクさせられますけれどw 殆ど彼女の存在って、日常側における嫁も同然なんですけどねえ。嫁だからこそ、旦那の仕事に口を出せないのかw

1巻 2巻感想

ガーリー・エアフォース 2 3   

ガーリー・エアフォース (2) (電撃文庫)

【ガーリー・エアフォース 2】 夏海公司/遠坂あさぎ 電撃文庫

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真紅に煌めく戦闘機を駆る美少女・グリペン。空に焦がれる少年・慧のパートナー。想いはひたむきだが、世間知らずでその挙動は相変わらず不審で不安定。山吹色に輝く戦闘機を操る金髪美少女・イーグル。天真爛漫で自信過剰、明るく楽しく敵を倒せばいーんじゃん?そんな二人の前に新たな戦闘機美少女、ファントムが現れる。清楚で可憐なルックスながら、これが腹に一物も二物も抱えた曲者で…?個性も思いもばらばらな3機編隊は謎の敵性体・ザイを迎え撃つべく出撃する!戦闘機×美少女ストーリー第2弾!
イーグルちゃんの、あの頭弱そうなキャラはなんなのー!? 世界に冠たる主力戦闘機なんだから、もっと毅然としたカッコよさを持ってて欲しかった。超腹黒とはいえ、ファントムの方がまだ一本芯の通った心映えといい、戦いへの覚悟といい定まっていて、結構好きだなあ。
しかし、やはりというかなんというか、アニマを確立するのは一機種につき一機だけなのか。同じイーグルからは一人だけ。ファントムシリーズからも一人だけ。ただし、「F-15E ストライク・イーグル」みたいに同じイーグル系でもここまで中身が別物になっているものは、新たにアニマを作れる可能性あり、と。
これはストライク・イーグル登場フラグですよね!?
でも、ザイに対抗できるのがアニマだけ。しかも、一機種につき一つしか生み出せないのだから、幾らコストが掛かるにしても、そんな簡単に廃棄とか考えられるんだろうか。他に対抗策が生み出されているならともかく、ねえ。これって、一国の問題じゃなく世界規模の人類存亡に関わる話なのだから、もし日本がグリペンを廃棄しようとしても、アメリカとか他の国がじゃあうちが引き取ります、みたいなこと言い出しそうだけれど。それどころか、謀略を駆使して奪いにきてもおかしくない。貴重な戦力を保持しながら、その力を引き出せていないとなると尚更に。そう考えると、この話はそういう国同士の暗黒面というか、裏のドロドロの話については極力避けて書いてるっぽいんですよねえ……。作者の夏海さんって、デビュー作みてもそっちの謀略戦とか政治闘争の話とかむしろ長けている、政治サスペンスどんと来い、というライトノベル作家としては特殊なくらいの筆の持ち主なんで、想定してないことはないと思うんですよね。実は裏設定でかなりゴタゴタやってるとか、積み上げてても不思議ではない。個人的には、怖いものみたさにそっちの覗き見てみたい気もするんだけれど。八代通室長あたりが主役のw
無人機としての高機動性と、アニマがもたらす処理能力こそが最大の武器にも関わらず、生身の人間である慧という大きなハンデを乗せないと稼働できないグリペン。その、どうしようもない弱点を長所へとひっくり返すのが今回の肝となる展開だったんですけれど、これって高機動性そのものはオマケですよ、てな話ですよねえ。いやでも、本来の第四世代ジェット戦闘機の戦闘における考え方を踏まえるなら、格闘戦はやっぱり邪道とは言えないまでも本来のそれとは外れてるしなあ。
イーグルの戦い方なんか見てると、グリペンよりもむしろあっちに人を乗せろ、とも思うし。
ちょっと物足りなかったのは、肝心の空戦描写があっさりしすぎていたところか。イメージしにくい、というのもあるし、何より盛り上がりどころがあんまりなくてねえ……。ラブコメの方も、明華なんか出番自体殆どなくなっちゃってるし。これはちょっと可哀想よ。
それにしても、ハイパーゼロがステルスすぎやしませんかね? F-2はステルス機じゃないですのよ!?

1巻感想

ガーリー・エアフォース3   

ガーリー・エアフォース (電撃文庫)

【ガーリー・エアフォース】 夏海公司/遠坂あさぎ 電撃文庫

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人類の前に突如出現した謎の飛翔体、ザイ。災厄を意味するその存在は桁外れの戦闘力であらゆる航空戦力を圧倒した。彼らに対抗すべく開発されたのが、既存の機体に特殊なチューニングを施し、異次元の高機動を実現したドーターと呼ばれる兵器。操るのは、アニマという操縦機構。それは―少女の姿をしていた。パイロットだった母をザイにより失った少年、鳴谷慧が出会ったのは真紅に輝くスウェーデン製の戦闘機、そしてそれを駆るアニマ、グリペンだった。人類の切り札でありながら挙動が不安定なグリペンと、空に焦がれる少年の、長くて熱い物語がはじまる。
グリペンかー。うん、確かにこう、現代型戦闘機をズラーっと並べて、さてどれをヒロインにする? となると、イーグルだと主力で華がありすぎるし、ロシアのスホーイ、ミグ系統もメインとするにはちょっとシャープすぎるんですよね。しかし、あまりにロートルすぎてもヒロインとして弱すぎるし、スウェーデンのグリペンというのは、狙い目としては一番常道だったかも。いや、思いっきり正統派でF2とかでもありなんじゃないかとは思わないでもないんだけれど……F2だしなあw
個人的にはスーパーホーネットとかでメインヒロイン、というのも見てみたかった気もするけれど、むしろアメリカ製の方が自衛隊のドーターとして運用に持ってくるの難しいのかもしれませんね、設定的に。いや、このグリペンも相当無茶な経歴と、裏道使って入手したみたいですけれど。
しかしこれ、戦闘機の擬人化モノとしてはいささか微妙なんですよね。具体的に、なんで少女の姿をしているのか、とか理屈がさっぱり明らかでない上に、どうも戦闘機本体からアニマが独立しすぎてて、あんまり同一の存在という描写が少ないものだから、単純に戦闘機をパイロットとして動かしているようにしか見えないのがちょっと勿体無い。もっと、このグリペンという機体の付喪神的な存在として、グリペンのアニマが描かれてたら、ドーターに改造される以前のただの機械、ただの戦闘機の頃から無機物の魂に焼き付いていたものが、ドーターとして改造される事で人の形をとって現れた、みたいな感じでグッと感情移入出来ただろうし、グリペンが慧に拘る理由としても掴みどころになった気がするんだけれど。
今のところ、何故グリペンが慧を特別な相手として認識してしまっているかがまるでわからないんですよね。どこで繋がる要素があったのか。ドーターとなる前のグリペンとして関わりがあったのか、それともドーターの材料となった「ある物」が慧に関わっていたのか。
鳴谷慧という少年の視点から描かれるせいか、得られる設定の情報が随分と限定的で「イリヤの空、UFOの夏」みたいな感じではあるんだけれど、あちらの「少年と少女の世界」として閉鎖し、ブラックマンタや戦争についての設定を完全に「背景」として処理しきったあの作品と比べると、此方は単に情報の公開が不足していて穴ぼこだらけ、という印象が拭い切れないのが何とも残念。
キャラクターも、夏海さんの作品としては主人公も青いばかりで、クレバーさはあんまり見当たらなかったしなあ。グリペンも、ヒロインとしての主張がもうちょいインパクトが足りない様子。
題材としてはかなり美味しい作品だと思うんだけれど、スタートとしてはちょいと勢いに乗れないまま材料をばらまいてしまった、という感じかなあ。化ける可能性は十分にあるので、まだ追っかけるつもりではあるけれど。

夏海公司作品感想

なれる!SE 5.ステップ・バイ・ステップ?カスタマーエンジニア3   

なれる!SE 5 (電撃文庫 な 12-10)

【なれる!SE 5.ステップ・バイ・ステップ?カスタマーエンジニア】 夏海公司/Ixy 電撃文庫

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今度の試練は西日本出張行脚!? 話題の萌えるSE残酷物語、第5弾!

「あんた西日本と東日本どっちが好き?」
 立華のなにげないその質問が過酷な出張行脚へのはじまりだった!
 課されたミッションは、通信機器の現地設置作業。簡単に思えた業務だがすんなり行くわけないのがこの業界。理不尽なハプニングが行く手に次々立ちふさがる。
 そして最後に辿りついた先はなぜか工兵の実家。工兵の妹も初登場です!
これ、工兵の独立フラグが着々と立ってません? 勿論、工兵当人にはそんな考えも意識もないのですけど(信じがたいがまだ入社して一年未満の新入社員であるのだし、信じがたいが)、人脈の繋がり方がどうもただの一エンジニアに徹するのならちょっと不自然な感じがするんですよね。使えるエンジニアとして信頼されるというよりも、共犯関係? 駒じゃなくて、ある意味対等な視点で意見を交換し合える相手、みたいなところが、今回も含めて工兵を認めた人たちにはあるんですよね。面白いのが、そんな信頼関係の中にきっちり損得勘定が入っているところでしょうか。その辺が社会人が登場人物である仕事モノ、であって、友情や愛情や心意気だけで全部解決する類の話じゃないって事でしょうか。でも卑しい話じゃないんですよね。それだけ、工兵なら助けたり融通をきかせたりしたら、その分こちらにも利益を出してくれる、という信頼感があるって事である。この信頼は人間性と能力が噛みあった最上級のものだ。会社という組織にではなく、その中の個人に対して投資したいと思わせるって凄いことなんですから。

と、いろんな取引先の出来物たる人たちから注目を浴びる工兵の働きっぷりは相変わらず見事であり、正道にこだわらない手練手管には毎度毎度戦慄すら感じられるんだけれど……だからと言って工兵や立華に憧れる、というのは絶対にないよなあ、としみじみと思う。あまりにも、仕事環境が過酷すぎるw
ただただ人様のミスや不手際の後始末に追われる業務内容。殆ど神がかったと言っていい手腕で彼らは問題をリカバリーしていくのだけれど、ぶっちゃけ自分の身に置き換えてみるととてもじゃないが無茶ぶりすぎてゲームオーバーになってしまうこと請け合いなんですよね。絶対にあんなふうにするの、無理。むしろ、不手際をやらかす方に自分の身を照らし合わせてしまって、読んでると胃が痛くなってくる。
さらには、立華や工兵のようなデタラメな対処能力を持った連中ですら、血反吐を吐き精神が磨耗し悲鳴を上げ過労死するんじゃないだろうか、というギリギリの瀬戸際で七転八倒しているさまを見せられるのだ……けっこう、ドン引きである。
なんかこう、さ……自信無くすよね? 社会に出てやってく自信が。
言うなれば、「働きたくないでござる!」が量産されそうな勢いである。
いやあ、自分、ヌルい職場で本当に良かったわ。給料安くても、精神的に死ぬよりはよっぽどマシ。
「……うぅっ、社会人になってから初めて平日夜に家でご飯食べられると思ったのに」
ドン引きである。
幾ら仕事をやり遂げたあとの達成感や充実感を強調されても、マイナス分があまりにも大きすぎて、「いいなあ、羨ましいなあ」「良かったね」という感情よりも蟻地獄にハマって行くのを見るような可哀想に、という哀れみが浮かんでくる始末。こんな目に合うくらいなら働きたくないでござる。

今回の宣伝ポイントである立華を連れての実家来訪は、本筋と違うせいかわりとさらっと流されてしまった感あり。特にこれといったラブコメイベントがあったわけでもないですしね。肝心の妹ちゃんも、出番チョロっとだけだったし。ただ、立華に関してそこそこ重要なキーワードを残してくれたのか、これ?
今のところずっと仕事の話中心なので、あんまり個人のプライヴェートに踏み込む話にいかないんですよね。いずれは立華の話にもなるんだろうけれど、そうなると仕事話から外れてしまう事になるので簡単には立華の事情には触れなさそうだなあ。果たして、仕事に絡ませて異性間の関係に話を昇華するんだろうか。
完全に捕食者と化した梢に対して、立華は上司で先輩という立場から他の顔をなかなか見せないし。そろそろ動きは欲しいところではあるんですよね。
……関西弁の梢さんは、はにゃんとしてなかなかツボでした、はい。

1巻 2巻 3巻 4巻感想

なれる!SE 4.誰でもできる?プロジェクト管理4   

なれる!SE 4 誰でもできる?プロジェクト管理 (電撃文庫 な)

【なれる!SE 4.誰でもできる?プロジェクト管理】 夏海公司/ Ixy 電撃文庫

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今度はプロジェクトマネージャー!?
話題の萌えるSE残酷物語、第4弾!


 とある出版社の本社移転プロジェクトに参画することになった立華と工兵。とはいえ請け負ったのは一部ルーターの移設作業だけ……だったはずが、あまりの惨憺たる状況にプロジェクトマネージャーが逃亡。その代打を工兵が無茶振りされることに。
 新人にはハードルの高すぎる未経験の業務を前に途方に暮れる工兵。期限は容赦なく迫り、ベンダー各社はごねまくる。はたして工兵はPM業務を完遂できるのか!? そして立華のプライベートの一端も明かされるシリーズ第4弾!
誰でもできねえよ!! なんだよこいつマジで超人か!? 超人なのか!? もう無茶振りのレベルもここまで来ると頭がおかしいよ。この社長、何も考えてない、絶対に何も考えてない。全然リスクとか考えてないじゃん。というか、新卒の、しかも畑違いで何も知らない子にいきなりPMやらせるって。しかも、元のPMが逃げ出すほどの滅茶苦茶で話にならない案件を、途中からやらせるとか。PMってなんですか? って言ってるような子だぞ!? 普通なら失敗する、どう考えたって失敗する。だいたい、部下の名前も覚えてないような社長だぞ。能力を見込んで、とかじゃないんだぞ!? そもそも、部下のことなんか何も把握してないっぽいんだぞ!? 失敗したときに備えてのフォローとか何もしてないんだぞ!? 挙句、二進も三進も行かなくなってきたら、顧客と一緒になって嵩に懸かって頭ごなしに何とかしろと喚くだけとか……。
ほんと、この主人公はすごいよ。熱意といい仕事への誇りといい、心折れそうな、逃げて当然なブラックすぎる環境の中で仕事のやり方をモノにして、周りから信頼を得ながらやらされた仕事を「自分の仕事」にしてしまうその手腕は本当にずば抜けている。常軌を逸していると言っていい。
でも、だからこそ勿体無いよなあ。
結局、工兵が今回の件も含めてやってきたことって今のところ、他人の失敗の後始末ばっかりなんですよね。本来なら手抜きや適当な処理、見通しの甘さなどからポシャって壊滅するはずの案件を、彼が神憑った手腕でフォローしてってるだけで、実のところ適当な仕事をしやがったヤツは別段そのツケを払っちゃいないんだよなあ。だいたい、関わった人間がごく当然の真摯さを以て業務に携われば発生しないトラブルじゃないか。それを、結局真摯に仕事に携わっている部署がツケを全部払うハメになる。問題は、そうしたトラブルを大概の場合何とかしちゃう人たちがこの国にゃあ一定の割合必ず居るって事なんだよなあ。いや、すごいんですよ、そういう人たちは。凄いしエラいと思う。思うんだが、なまじ本来ならダメになるようなところまで何とか問題ないように着地させちゃうものだから、トラブルの原因になるような所が反省も何もせずこれでいいんだ、と仕事の適当さを常態化させてしまう。そして、そのうち処理能力が臨界を超えてしまい、途轍もない大破局が襲ってくる、という羽目になってしまうのが、この国でよく見受けられるパターンだったりするわけだ。
そもそも、そうした無理を実現してしまうような優秀な人材が、ツケ払いに奔走させられ疲弊していくのって、リソースの無駄遣いにしか思えないんだよなあ。普通にやればスタートがゼロで始まるところを、それを怠っているためにマイナスからはじまってしまっている所をゼロに維持しているだけの形になってるわけですし。いったい、どれだけのプラス分が失われているのか。
それは多かれ少なかれ、工兵たちこの会社のメンバーにも見受けられる。いやまあ、新卒の工兵にしたら今は何をやっても経験値貯まるんやろうけど。ただ、同じ無茶振りするにしても、工兵のそれはちゃんと振る側の事をよく見てるし、逆に振られる側も工兵を信頼して請け負ってるんですよね。着実に社外にも人脈を作りつつあるし、これだけ自分で仕事を作れるのだから、工兵は近い将来自分のスタッフを揃えて引きぬいて独立した方がいいよ、うん。やっぱり、今回の仕事を見ても実感したけど、彼は人の間で立ちまわるのが一番良く似合ってるし、他人の使い方が上手いというか堂に入ってるもの。
大体ねえ、いつの間にか橋本課長と飲み友達になってるとか、ないよ、ないよ。立華さんが発狂するのもわかる。女たらしというよりも、あれは人誑しだわー。橋本さんのメールの文章見たときは、さすがに引いたけど。よかった、プライベートがメールみたいな人になってなくてw 

1巻 2巻 3巻感想

なれる!SE 3. 失敗しない?提案活動4   

なれる!SE3 失敗しない?提案活動 (電撃文庫)

【なれる!SE 3. 失敗しない?提案活動】 

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話題の萌えるSE残酷物語、第3弾登場! 今度のミッションは営業活動!?

 とある企業から出入り禁止処分となったスルガシステム社長・六本松。しかし、その企業は大規模案件の発注を控えており、諦めきれない六本松がそのコンペに参加するべく自らの代打として白羽の矢を立てたのは、あろうことか新卒の桜坂工兵だった!
 右も左もわからないまま、立華や梢の力を借りて提案書の作成をはじめる工兵だったが……。立ちはだかるのは先方の潔癖キャリアウーマンに業界大手の競合企業たち。はたして小規模会社の新入社員・工兵に勝算はあるのか!?

……こ、これで新卒!? うへえ、こんなん即戦力どころの話じゃないでしょう、すげえよ工兵くん。いや、マジに凄い。一巻や二巻の段階でも新人としてはあり得ないくらい使える奴だったんですけど、それでもまだ今までの段階では与えられた、任せられた仕事で期待以上の成果を出す、というレベルだったんですけど、今回のは根本から違うでしょう。こいつ、新人のくせに自分が戦うべきフィールドを自力で構築しやがった。例えば、室見さんたちはまさに天才的な前線指揮官と言ってもいい才覚を持った人材ですけど、その才能を活かすための戦場がなければ何も出来ないわけです。その戦場を用意するのが、営業でありこの会社で言えば社長なわけですけど……工兵が凄いのは単に戦うための戦場を用意したのではなく、本来なら今回の案件は戦う前に敗北していたはずの状況をひっくり返してしまった事なのです。その広く高く柔軟な視野と発想は賞賛してあまりありますが、彼の特筆すべきところは何よりガムシャラで諦めが悪く負けず嫌いで頑固で闘志に満ち満ちているところなんですよね。食らいついたら離さない闘犬のようなしぶとさ、しつこさ。これってまさに「24時間働けますかッ」のキャッチフレーズが踊り踊っていた頃のサラリーマンの威風だよなあ。
あらすじの「SE残酷物語」という言葉はそろそろ撤去した方がいいですよ。明らかに、この作品の方向性はそっちから逸脱しつつある。デスマーチをボロボロになりながら生き延びる話ではなくて、過酷で残酷で悲惨で悲愴で人間扱いされていないよな仕事環境を嘆くのではなく、むしろそうあることがチャンスであり、成果であり、望むべき結果であり、耳まで裂けそうな笑みを浮かべてむしゃぶりつくべき甘露なのだと哄笑する話だ、これは。
働き狂うことを地獄に落とされたように苦しむのではなく、充足と光悦をもって満喫する話だ。達成感、充足感、自分が何をしようとしているか、仕事の意味も価値も十全理解し、何を成し遂げようとしているかをすべて理解している連中の話だ。
いや、今回は社長が取ってきて丸投げする形ではなく、室見や梢も携わり一緒になって掴んだ仕事だからこそ、その後に来るだろう修羅場に対しても悲鳴をあげるのではなく、むしろ嬉々として挑み掛かれるんだろうなあ。
……社長は、仕事はとってこれるのかもしれないけど、社員の使い方についてはやっぱりどうなんだろうと疑問に思うよなあ、これ。今回の案件だって、工兵に押し付けたあと放ったらかしだったみたいだし。あれ、どうなったの? とか聞いてこなかったのか、これw

正直、細かい部分は専門用語が多くて具体的にどういう内容の案件なのかさっぱりわからなかったんですが、そんなの関係ありませんでしたね。中身はわからなくても、その仕事がクライアントの側でどう扱われ、それをどう勝ちとり契約するに至るかの流れのラインはむしろ分かりやすいくらいで、バッチリでしたし。
工兵が突破口を見つけてからの疾走感に、アテられてアテられて、火がついたみたいに熱かったッ。
激燃えでした!

工兵はこれ、現場の1SEとしておくには勿体無いよなあ。二巻の運用部との折衝といい、機械を相手にしているよりも人間を相手にしている方が実に生きる。室見が言ってるように、間違いなく社長の側の人間だわ。とはいえ、いきなり上に引き上げるのも違うな。彼が新人というのは実に都合がいい。このままSE部に置いておきつつ、色んな仕事をさせて経験を積ませりゃ、とんでもないのが出来上がるぞ。
仕事が出来る男って……カッコイイなあ。

1巻 2巻感想

なれる!SE 2.基礎から学ぶ?運用構築3   

なれる!SE 2 (電撃文庫 な 12-7)

【なれる!SE 2.基礎から学ぶ?運用構築】 夏海公司/Ixy 電撃文庫

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 bk1

話題の萌えるSE残酷物語、待望の続編登場!

 システム開発会社に入社し怒涛の4月を乗り切った桜坂工兵。彼が出会った同僚の姪乃浜梢は、小動物系でちょっと天然な気もあるかわいい女子だった。
 しかし、システム運用担当の梢は、そのシステムを構築する工兵の見た目子供の鬼上司、室見立華と犬猿の仲で──。
 とあるモバイルゲームインフラを舞台に、工兵を板挟みにしつつ構築と運用の熾烈な戦いの幕が上がる!
 システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描くスラップスティック・ストーリー、第2弾!

 使えるとわかった途端、とんでも無い仕事振りやがるな、この藤崎さんは。OS部とSE部間の軋轢を解消するための旗振り役をやれて、それまだ入って半年にもなってない新人に任せる仕事ですか。しかも、失敗すると会社傾きかねないって、どんだけプレッシャーなんだか。
でも、無茶振りじゃないんですよね。ちゃんと工兵の対人交渉能力と特性を鑑み、梢や立華との現状での人間関係を考慮に入れた上で、彼なら調整が出来ると思ったからこそ、彼に任せたんだろうし。自分でやれれば、やる人なんだろうけどね。でも、室見の上司でSE部の管理職という立場はそれだけで、OS部との橋渡し役をするには難があったんだろうし。時間があれば、上役同士で手打ちして歩み寄り、みたいな着実な着地点もあったんだろうけど……この会社、そういう余裕なさそうだしなあ。というか、今まで出来てない時点で無理か。
まあ、でもこれもこじんまりとした会社だからこそ出来た人材活用なんでしょうけどね。社長の営業トークの、小さい会社だからこそのフットワークの軽さ、というのはあながち間違っていないような気がする。少なくとも、藤崎さんはその利点を遺憾なく利用しているようだし。その御陰で無茶振りの仕事を社長から投げ渡されてるのだから、ある意味悪循環な気もするけどw
無理したら出来るから、って無理し続けたら、際限なくハードル上げていくんですよね、この社長みたいな人種は。

しかしやはり面白い。仕事ものとしてはスポットの当てるところが絶妙なんですよね。システムエンジニアという職種に限らない、業務を行う上で共通の大事な要素が今回の話には詰まっている。
梢の自分の過去の失敗に基づくこだわりなんて、ほんとに大事なことですよ。出来る人に合わせてシステムを特化していくと、いざってとき、絶対に破綻するんだから。もしもに備えてフォロー出来る態勢を常に構築しておくというのは、大前提の安全保障なんですよ。
でも、案外これって気がつかなかったり後回しにしちゃったりするんですよね。何しろ、現段階では上手く回ってるんだから。それを、なぜ効率落としたり、レベル下げるような真似をしてまで余計なことをしなくちゃならないんだ、という意識はどうしても生まれちゃうわけです。
自分独りのことだったり、家族や身内のことならまだ判断も決断も出来るのだけれど、これが組織のこととなると身動きが取りづらくなってしまう。
先を見るって、言うは易くてもやっぱり疎かにしちゃいガチになってしまうものなんだよなあ、としみじみつぶやいてみたり。

でも、この会社の人達はやっぱり大したもんですよ、ブラック会社じゃないよなあ。自分の仕事に真摯であり続ける、というのは大事ですもんね、うん。いやね、ほんとに会社の事とか考えずに、好悪の感情だけで無茶苦茶する人っているもんなあ。

ちなみに梢は、これは地雷だな(笑
距離の詰め方がヤバすぎる。ストーカーの資質たっぷりですよ。プライベートでは絶対回避すべき人材だw これならまだ立華の方が日常生活者としては破綻してても、付き合える人間としてはまともに思えてしまうゾ

1巻感想

なれる!SE 2週間でわかる?SE入門4   

なれる!SE―2週間でわかる?SE入門 (電撃文庫)

【なれる!SE 2週間でわかる?SE入門】 夏海公司/Ixy 電撃文庫

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この主人公の工兵って、実際「当たり」の新人じゃないのか!? と読みながらしみじみと思ってしまった。新社会人であり、業界に対する知識も何にもない以上、仕事は出来ないし何も知らない、何も出来ない、というのはまあ仕方ないとして、その段階でも結構「使えるヤツ」と「使えないヤツ」って顕著に出てしまうんですよね。いや、何もできないこの段階だからこそ見極めやすいというべきなのか。ん、そこまで偉そうに言えるほどのナニカがあるわけじゃないんですけどね(弱気
その意味では、この工兵は間違いなく当たりだ。
右も左もわからない段階で、自惚れているわけでも図にのっているわけでもなく、むしろ初めてばかり事柄とひどい仕事環境に腰が引けまくっている状態にも関わらず、咄嗟に自発的に動ける、というのはそれだけで得難い資質。周りが見えていて、ビビりながら、自分から動ける、これってなかなか出来ないのよね。責任の何たるかも理解できずに自分勝手に動くヤツや、責任の何たるかに腰引けて言われた事しかしないヤツ、そもそもナニも考えておらず何もしないやつ、こういうのならナンボでも居るんだけどね。
ちなみに、自分も相当「使えないヤツ」の方に含まれてしまう人材なので、色々と身につまされるww
それでなくても、入社直後の自分ってなにもできないんだ、と思い知らされる数々のエピソードには胃がキリキリと痛くなるような、胸をガリガリと掻きむしられるような、もう勘弁してくれというキツい感覚に苛まれたというのに……(苦笑
あー、これは今働いている人なら多かれ少なかれ体験してる事だから、これは色々とクるものがあるだろうなあ、見たら。
自分が今働いているところなんて相当ぬるいから、自分なんか楽しまくってると思うんだけど、それでも「あうあう」と泡を吹きたくなったもんなあ(ww

専門用語については、もうサッパリわからない。わからないんだけれど、これってしっかり読み込みさえすればかなり理解しやすいように書いてるんじゃないかな、というのが伝わってくる。さっぱり用語がわからなくても、何をやってるんだろう、位の事はなんとなくわかる気がするし。わかる気がするだけかもしれないけど。

いわゆるブラック企業モノなんだけど、この会社、社長こそダメというか社員視点からすれば危険だけど、直属の上司になる室見さんといい、カモメさんといい、先輩連中はこれ、かなり当たりなんじゃないのかしら。室見さんの教え方は実際無茶苦茶で、工兵が憤り暗澹たる思いに沈んでしまうのも致し方ない所があるし、仕事っぷりも技術面はともかく、それ以外は相当飛ばしてるし、素晴らしい先輩、というわけじゃないんだけれど、新人に対する姿勢としてはめちゃくちゃ真摯で親切で熱心。頼むに足る人なんですよね。いやもう、ひどい人はひどいもんなあ。
とはいえ、仕事内容の最悪さはどう考えてもアレなので、やっぱりブラック企業か。でもでも、他のSEもの読んでるとまだまだこの段階が通常以下というのがわかるので恐ろしい。いわゆるデスパレードは、まともな人間生活勤しんでいる人間からすると想像の埒外にある領域だもんなあ。
まだ話としては、工兵くんがこの業界で働いていこうと思ってしまうまでしか進んでおらず、室見さんのプライベートの事情や、ソフト開発部、デスパレードなど話のネタはいくらでも残っているので、これ好評なら続きそうだなww
いや、実際これ、ライトノベルとしても非常に良質な出来栄えだと思いますよ。工兵くんは新人という範疇で出来る限りの頑張りを見せて、さらに主人公らしいヒロインへの心遣いとかさり気なくしてますし、エキセントイックな室見さんとの関係も、今のところは職場の仲間ですけど上手くそれ以上に発展させていくだけの基礎部分も構築されてますし。
この辺の、仕事ものとライトノベルとしてのバランスは絶妙に織りなされているように思います。伊達に1シリーズ完結させてない、って事で。
面白かったです、はい。

葉桜の来た夏 5.オラトリオ5   

葉桜が来た夏 5 (電撃文庫 な 12-5)

【葉桜の来た夏 5.オラトリオ】 夏海公司/森井しづき 電撃文庫

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近未来ボーイミーツガール、完結編!

 水無瀬率いる<水車小屋>の暗躍により、一触即発の事態を迎えた日本とアポストリ。学は前評議長の娘である星祭を呼び寄せて<十字架>の評議会へ送り込み、アポストリ側からの開戦の引き延ばしを図る。そして自らは<水車小屋>を止めるべく東京へ向かう。一方、葉桜は学との関係について思い詰めた様子を見せるが──。
 人とアポストリ、学と葉桜、それぞれの関係の緊張が高まっていき、本格的な開戦まで猶予のない中、学はぎりぎりの決断と行動を求められる。はたしてその決着は!? 堂々の完結編!

MARVELOUS!!

素晴らしかった。もう完璧に近いくらいに最高でした。ボーイ・ミーツ・ガールとしても政治・軍事サスペンスとしても、見事なほど完ぺきにしあげてきましたよ。MARVELOUS!!

まったく、何度も瞠目させられてきた南方学の政治センスだけど、今回のカードの切り方には戦慄させられっぱなしだった。星祭の使い方が尋常じゃないよ、これ。まさか、以前の灯籠との交渉内容を、ここでこんな風にカードとして切ってくるとは。正直、前回こそ灯籠との駆け引きには押し切りという形で勝ったものの、あれは灯籠がわざわざ学の舞台にあちらもあがってくれたから、という印象だったんですよね。不用意に彼と交渉してしまったから、と思っていたので今回彼に会う事すら拒否して彼の舞台に乗らなかったことで彼女に関してはどうにもならないと思ってたんですが……。
主戦派である灯籠が勇躍するアポステルたちの開戦選択の会議場での、あの顛末。学の繰り出した一手は、灯籠ほどの人物を殆ど一蹴と言っていいほどに無力化してしまうのです。いやもう、このシーンは滅茶苦茶鳥肌立った。学が星祭に託した灯籠への伝言。
「話し合いの機会は与えたはずだ」
には、もう総毛立ったどころじゃないですよ。震え上がった。この会議が始まるまで、灯籠は各方面に根回しを進め、幾多の策謀を巡らせ、度肝を抜くような政治的軍事的切り札まで準備して、アポストリ氏族全体の向かう先の流れをほぼ完全に掌握しきっていた。対して、学はといえば全権大使の父親は死亡し、力を貸してくれるはずの評議長は今や政治力を喪ってしまった状態。そもそも学は何の背景も持たない学生という身分にすぎないはずだったのに。灯籠は圧倒的優位な、比べるのもおこがましい立場にいたはずなのに。
あの傑物、灯籠を完全に手玉に取ったわけですから。もちろん、その手管は薄氷を踏むようなもの。少しでも想定外の事態が起これば余計に状況を悪化させかねない賭けだったわけですけど、もとより戦争へのタイムリミットは迫り、手持ちの札はろくにない状態。
ここで、あんな一手を打てる学の凄まじさには、震え上がるしかないでしょう。
そりゃあ、ここまで鮮やかにグウの音も出ないほどの敗北をくらった灯籠が、学にのめり込むのも仕方ないわなあ。彼に夢中になっていく灯籠の歪んだ情熱を思うと、将来的にも学はまた厄介な相手に見込まれてしまったなあ。

ここで勝ち取った時間は72時間。たったこれだけの猶予を持って、学はアポストリの居留区を出て東京に向かい、水車小屋を打倒しなければならない、というどう考えても途方に暮れるしかない状況から、学は父親が準備していたシステムに食らいつき、星祭をはじめとした人脈を使い尽し、持ち合わせのカードを最適最良の場面で次々にこれ以上ない効果的な手段を持って開いていき、それこそ身を投げ出すように、全身でぶつかるようにして、絶望的な状況に希望の光が差し込むように覆していくのです。

はたしてそれは、葉桜と過ごした故郷を護るため。アポストリである彼女と居られる世界を護るため。そのはずだったのに。
居留区を出た後のふとした瞬間、二人は気付いてしまうわけです。
何もかもを投げ捨てて、このまま二人、外国にでも逃げだしてしまえば、二人はずっと一緒にいられる。共棲の期間が過ぎればいずれ離れなければならない今の世界よりも、それは確実に二人に訪れる安息の時間。
お互い、危地に相手を送り込むことを怖れ、もし相手が死んでしまえば自分もまた生きてはいけない、それほどの想いを学は葉桜に、葉桜は学に抱いている事をそれぞれ自覚していくのです。
特に、葉桜が学に対している想いの大きさには、圧倒すらされました。茉莉花に、学は自分のマエスタだから、と宣誓する葉桜。人間にはないマエスタという概念。星祭がそれを説明してくれるんですけど、これがまた凄まじいもので。その上で、葉桜は自分の想いを学に告げるわけです。
葉桜の告白に対して、学がはっきりと自分の想いを告げられなかったのも、この緊迫した状況かと葉桜の精神面を思えば仕方ないよなあ。
それでも、葉桜と自分の想いを理解し知った上で、その上でなおアポストリと日本政府との間に起こるであろう戦争を止めるために、自分たちの身を危険に晒す。自分たちの幸せと、自分たちの住まう世界の平和。その微妙な齟齬に苛まれながらも、この男はひるまず邁進していくのです。前々から思ってたけど、両想いになろうと結ばれようと、その果てにこの学くんは葉桜に、今と同じような、もしくは今よりももっと大きな苦しい想いをさせるんだろうなあ。なんだかんだと、よく父親の南方大使と似てますよ、この男は。でも、葉桜はそういう彼だからこそ好きになり、そんな彼を誇らしく思い、その彼を助けることに誇りを抱くわけだ。いいパートナーじゃないか。
今のこの二人を見ていると、一巻の時の険悪な関係が信じられない。母親の死に深く関与したアポストリという種族を深く憎悪していた南方学の前に現れた、頑固で気まじめで融通の利かないアポストリの少女。反発し、衝突しあい、いがみ合っていた二人が、自分の生死を、存在すべてを委ねあえるほどの信頼を結び、情愛によって繋がれることになろうとは。
葉桜の想いに対する、学の告白もまた、これ以上ない場面での直球ど真ん中、それでいて状況的にも葉桜の鬱屈も払拭するのにも最も効果的で意欲的、先だって書き連ねた二人の懊悩への答えも含めた、将来の展望もひっくるめて、最高の代物でしたよ、ええ。これほど力強く、カッコいい告白も滅多と見ない一品でした。

まー、あの人の再登場にも仰天しましたけど。学は普通の人間だって言ってたけど、学本人も含めて二人とも普通の人間というにはその人を動かし状況を掌握する力は尋常じゃないよな。


彼らの勝ちとった平和は、彼ら自身が自覚しているように束の間の平和なのでしょう。また、世界が元の姿を取り戻したとしても、アポストリと人間である二人の間には、社会の認知、アポストリの寿命の短さを含めて、様々な障害が横たわっています。ただ、それを乗り越えるだけの多大な力強さを、彼らはここで見事に証明してくれたわけで。凄惨にして過酷な現実の在り様を踏まえてなお、とてつもなく希望に満ちた未来が広がっている、素晴らしいボーイ・ミーツ・ガールの完結でした。
あとがきを読む限りでは、防衛庁にもしっかり取材しにいってたみたいだし、政治情勢の描き方や、各公的機関の描き方、細かい機械システムの描写やその使い方といい、ライトノベルレーベルでは屈指の、というか殆どお目にかかった事のないレベルでの政治・軍事サスペンスでもあり、読み応えの確かさがもうハンパなかったです。
まったくもって、最高傑作でした。最高傑作でした。大事な事なので二回言いました。
これほどのものを読まされては、次回作が楽しみとしか言いようがない。たいへんたいへん、ごちそうさまでございました。

葉桜が来た夏 4.ノクターン5   

葉桜が来た夏〈4〉ノクターン (電撃文庫)

【葉桜が来た夏 4.ノクターン】 夏海公司/森井しづき 電撃文庫

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いいわ――、その誰も信用ならないという顔。全てを疑ってかかる歪んだ心。
あなたには才能がある。早く私と同じ立場にいらっしゃい。全てを騙し、謀り、嘘と真実を、正義と利害をいちどきに扱う世界に。



うははは、すげえすげえ。なんだこの主人公は。この南方学という青年は。背筋がそそけ立つ。まだ二十歳にもならないこの歳で、どの権力中枢とも関わりのない一般人の学生の身の上で、それどころか今回のあのとんでもない事件によって、後ろ盾と言ってもいい人脈が壊滅状態に陥るという状況下――何の武器も持たず、防具もはぎとられ、丸腰の状態で砂漠に放り出されたような有り様でありながら、数少ない手持ちの知識と人脈を駆使して現状で自分が為し得ることを引き摺りだし、もはや殲滅戦争という破局に向かって滑落していくばかりだった状況を、辛うじてとはいえ取り返しのつかない最悪の一歩手前で喰いとめたこの手腕。

怪物である。

物理的戦闘能力でもなく、絡まりあった謎を解く知力でもなく、その人間的魅力を以って大勢を動かすカリスマでもなく。
ことこれほど、純粋な政治力だけを武器として巨大な世界そのものへと戦いを挑もうとした主人公が、ライトノベル界隈にいただろうか。ちょっと自分の記憶からは発掘できない。
しかも、彼は王様でも国政に発言力の在る貴族でもない。官位も立場も何もない、後ろ盾すらなくなった子供に過ぎないのだ。実際、彼と葉桜の存在は南方学という個人の才覚に注目している人物こそ何人かいるものの、政治的にはまったく無意味な存在として、どの勢力からも無視されているのが現状だ。茉莉花は戒める。もう、事態は学や葉桜がどうこうできるレベルを超えている、と。監察官稲雀も云う。人が一人動いたところで大勢に影響はない。安全なところで嵐が過ぎ去るのを待ち、葉桜と二人、普通の子供らしく生きればいいではないか、と。
然るに、南方学と葉桜は凄絶ですら覚悟を以って、渦中へと飛び込む決意を固める。
何故なのか。
結局それは、茉莉花や恵吾が穏健派、融和派として長きに渡り政治闘争の激流の中で戦い続けた理由と同じものなんですよね。
愛する人が夢見た理想を守るため。大切な人と共に過ごせる世界を守るため。恵吾が、今は亡き鶺鴒の意志、願いを守るために戦い続けたように。茉莉花が恵吾や学たちとの関係を守るために、評議長の座に立ち続けたように。
そして今、学もまた、ただの子供として誰かが代わりにやってくれるのを待つのではなく、自らの手で葉桜とともに生きることのできる今の世界を守るために戦う事を選んだわけだ。
アポストリと人間である葉桜と学の関係は、アポストリと人間が友好関係にある社会であるからこそ維持できるもの。だからこそ二人の関係を守るためには、社会に干渉し、世界に働きかけなければならない。
幸か不幸か、学にはその才覚があったわけだし。
ある意味これ、セカイ系の対極なのかな?

なかなか興味深かったのは、南方恵吾と茉莉花の意見の違いなんだよなあ。自らの理想を託して、普通の世界ではなく、権謀術数の政治の世界に息子である学が飛び込む事を望んだ恵吾と、渦中から学を遠ざけ関わらせまいとし、(あの事件によって冷静さを完全に失っていたとはいえ)権勢の限りを尽くしてでも、学を守ろうとした茉莉花。
これって、父親としての立場と、母親としての立場の違いによるものなのかなあ、などということをつらつらと思ったり。あの態度を見てると、やっぱり茉莉花って、恵吾のこと、想ってたんだろうなあ……。
そして、学が選んだのは庇護されることではなく、母と妹を見殺しにした挙句に政治的に利用し、また息子である自分を政治の駒として扱う事を厭わなかった、憎むべき父の理想を後継すること。
この辺はやはり、学も男というべきか。


反アポストリ派政治家の暗殺を契機として、【水車小屋】の謀略によりアポストリと日本との関係は急速に悪化。もはや、二度目の戦争がはじまるのも時間の問題とみなされる世論に、彼と葉桜がどういった手管を以って立ち向かうのか。
権謀術数の限りを尽くして、この戦争を止めてやると覚悟を決めた彼の打つ手。薄らとその筋道は、学が最後に開いて見せた、彼が持つ最大にしておそらく最後のカードでもって見えてきたけど、いやもう実際どんな風にこの破局的状況をひっくり返して見せるのか、楽しみで仕方がない。


挽回不可能に見えて、なるほど実のところこの最悪の事態を打開する血路は、なくはないんですよね。今のところ、人間側もアポストリ側も世論は戦争へと傾いているけれど、総意としてそれが決定的になっているわけではない。それどころか、人間側で事態を悪化に導いているのは社会情勢や政府の意志決定ではなく、【水車小屋】という一点に集約されている。つまるところ、人間側は【水車小屋】を。アポストリ側は秋氏族を中心とする過激派を、なんとかすればいい。
幸いにして、両者ともパレスチナ紛争などでのマクシマリストなどのように妥協の余地のない集団ではない。以前の水無瀬の動きや意見などからも、彼らがアポストリを危険視しているのは感情的、恣意的なものではなく、現在のアポストリと日本との関係が将来的に国を危うくするものになると想定した上での行動と見受けられる。アポストリ側の過激派も、燈籠の言葉や茉莉花の語った内容からして、現状の人間との融和政策への一般世論の絶望感を背景とした現状打破のための戦争選択を指針としているわけで、それぞれ、戦争以外に改善不能とみなした問題点に対して、別の解決策、改善に至る証明を示せば、受け入れる論理性を保持しているように見えるんですよね。灯籠なんか危うそうだけど、話聞かない人じゃないからなあ。最後のあの人を守った行動も、自分たちが選んだ道とは別の可能性を閉ざさないため、とも見えるし……。

うーん、しかしこうしてみると、四・一八事件から二十年。二百万近い死者を出す羽目になった破滅的ファーストコンタクトから、南方恵吾や鶺鴒、茉莉花たちはよくぞここまでアポストリと人間との融和社会を構築したと言えるんだけど、同時にそれもここにきて行き詰まり出していたんだということが実感される。
稲雀が言っていたのとはまた別の意味で、恵吾たちは失敗していたのかもしれないなあ。もちろん、それを打開するための尽力を、ずっと恵吾たちは続けていたんだろうけど。でも、どれほど恵吾や茉莉花が奮闘しようと、現状は緩慢な壊死を迎えつつあり、その劇症が【水車小屋】であり、秋氏族の対応となってきたわけか。
結局のところ、一度何らかの形でアポストリと人間との関係は、現状を破却しなければならなかったのかもしれない。
それを戦争によって一度跡形もなく打ち壊すか、それとも今の理想が引き継がれるよう穏当に着地させるか。そのせめぎあいが今、起ころうとしているわけだ。

となると、学の勝利条件も見えて来るな。最後に彼が引っ張り出してきたカードは、それを叶えるための交渉の場に立つための立ち場づくり、ということか。


しかし、ここまで事態が急展開を見せ始めると、前巻で危惧していた葉桜の評議員候補の資格はく奪という事態からくる、拠り所を喪った彼女の不安定な精神をどうやって支えるか、という問題は、事態に巻き込まれてそれどころじゃなくなってしまったなあ。冒頭では確かに、ポッキリ折れかかった葉桜を、どう支えるか学が苦慮するシーンが続いていたけれど。
まあ、幸いというべきなんだろう。葉桜は、縁って立つべきものを、ばっちり見つけたみたいだし。お互いがお互いに寄せる信頼は、もう何があっても壊れそうにないしね。
だが、学の野郎は、もう、ねえ。実にあっさりと、何のためらいも逡巡もなく、前置きすらなしにポンと自分の命を葉桜に預けるあたり、葉桜も生きた心地しないよなあ、これ。三巻でもそうだったもん。信頼しているのはいいけど、いい加減にしないと葉桜の精神すり減るぞ、それ。
この気の利かなさは、父親譲りか。となると、将来絶対子どもと揉めそうだな、こいつ(苦笑

葉桜が来た夏 3.白夜のオーバード3   

葉桜が来た夏〈3〉白夜のオーバード (電撃文庫)

【葉桜が来た夏 3.白夜のオーバード】 夏海公司/森井しづき 電撃文庫

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相変わらず、この主人公の土壇場での肝の据わり方は凄絶ですらあり、震撼させられる。前回は他人の人生を秤にかけ、今度は自分の命をチップに乗せる。その時の状況における最善と信じる結果を引き出すために、そのタイミングを逃さない。その瞬間、一切躊躇わない。
ただ度胸があるだけではない。まず相手を交渉の場に引きずり出すために必要な要素を見極める洞察力、その要素を活用する応用力、論理力、説得力、演出力。最大限に生かすために必要なタイミングを見極める判断力。リスクを背負う事を躊躇わない決断力。
若くして、まだ青年と呼ぶのも躊躇われる年頃でありながら、既にこの少年には正しき資質、ライトスタッフが備わっているのだ。
彼には正しく政治家の、というよりも為政者、人の上に立つ者としての資質があるのだろう。他人の命を背負い、人生を背負い、それらをチップとしてより良い未来を引き摺りよせる覚悟を持つ器を備えている。
まだ誰も気づいていないだろうけれど……いや、彼の父親やアポストリの中枢の幾人か、そして今回の水無瀬を含めて幾人かは薄々と察し始めているかもしれないけれど、彼という存在が人間とアポストリを繋ぐ位置にいるということは、今後とてつもない大きな要素として両者の種族に重きを為していくのかもしれない。
今のところ彼は国家や種族などという大きな括りにとらわれず、個人の想いに基づいて、出来る範囲の事をしているだけなのだけれど、そういう立場であるからこそ、しがらみに囚われず両者の益となる結果を導くことが出来る可能性を秘めているように思えてくるのだ。
アポストリを憎悪し、人間を嫌悪していた彼だからこそ、その恣意的な行動は両者に対して公平な結果をもたらすように思える。

そんなあくまで個人の恣意で動いている主人公に対して、葉桜はアポルトリの重鎮の関係者という立場に自らを括りつけてきたわけだけど、今回はそれを思いっきり投げ出して、彼女個人の迷いを優先してしまったわけだ。
学はそんな葉桜の迷いを肯定してくれたけれど、彼女としては今まで自分の拠り所としていた部分を自分から放棄してしまったわけですから、次の巻あたりから新たなアイデンティティの構築にだいぶ苦労するんじゃないだろうか。
ただ冒頭の彼女の学への甘えっぷりを見る限り、私的な関係性においては学とのそれはもう単純な共棲関係をすっ飛ばしてるとしか思えないんですけどね。だから、公的な足場の置きどころを失っても、彼女が立てなくなるというのは無さそう。学も、そんなパートナーの不安定な部分を支えることはできるだろうし。

でも、この人間とアポストリの異種族間の恋愛には、今更ながらだけど大きな壁があるのだなあ、と実感。学が葉桜への感情を自覚するにつれて、その事実はよりリアルな現実として目の前に突きつけられてくるわけだ。
単純に、人間とアポストリとの間にはアポストリしか生まれない、という事実だけで、両者が本当の意味で混ざり合うことは不可能であり、いびつな共生関係を続けるしかない間柄を抜け出せない、という事になるわけだし。せめて混血が生まれるなら、長い時間をかけて両者の隔たりがなくなることもあるんだろうけど。
こればっかりは政治でどうにかなる領域ではないし。個人の視点で見るなら、二人が幸せならいいじゃない、で終わっちゃうんでしょうけどね。この物語の主人公である二人は、立場上、また性格上でもそういった一般市民の立場で自己完結してしまえる人じゃないしなあ。いや、学はどうかわからないけど、葉桜はね。
日本政府の方もきな臭い動きが見えてきたし、なかなか先行き厳しいなあ。

葉桜の来た夏 24   

葉桜が来た夏 2 (2) (電撃文庫 な 12-2)

【葉桜の来た夏 2】 夏海公司/森井しづき 電撃文庫



これは面白かった!
互いに敵意を持った異文明の少女との交流と相互理解を描いた第一巻から、一転迫真の政治謀略サスペンスに。いや、一巻の段階でその傾向はあったけど、この巻は特に後半にかけてその展開を一気に前面に押し出してきた感じ。
一人の少女を巡る日本政府・アポステリ双方の政治的攻防。いや、むしろ各々各陣営内の派閥対立によるパワーゲームが、星野智美という現在の政治状況を一気に激変させる政治的爆弾となりうる存在を引き金にして激化したというべきか。
この作者、もともとこの手の描写に相当のセンスがあったんじゃないだろうか。組織内によるパワーゲーム、明確な指揮系統が見えてこない非公式の暗闘、セクション同士の横の繋がりの欠如と軋轢。派閥抗争と、それに乗じた個人の独断専行。
主体的視点は、逃亡する星野智美に巻き込まれ一緒に逃げ回る羽目になった学と葉桜にあてられることになるんだけど、その外側で彼らを追い詰めるように蠢く様々な思惑が、非常に重厚な重みとなって圧し掛かってくる。その薄暗くも巨大で抗しがたい圧迫感が素晴らしい。
こういう政府レベルの大組織の重苦しい存在感を描ける人って、この業界意外となかなかいないので、新鮮でしたね。
なにより、クライマックスの主人公の見事なタフネゴシエーション。
これが凄まじかった。
そもそも何の権限も影響力も持たない一般人の立場から、交渉相手として自身の存在を相手に認めさせ、相手が置かれている状況、集団内での立ち位置をこれまでの行動から暴きだし、ブラフと自分の持ちえるカードを最大限に駆使して自分の主張を認めさせた上で、追い詰められた相手がテーブルをひっくり返そうとしてると見るや、攻撃材料であったカードをさらに広げてそれが相手にもプラスとなる材料であることを提示して妥協を引き出し、結果的に八方丸く収めた上で、元々の達成目標を手中に収める。
終わってみれば圧巻の手練手管。読んでるこっちもポカーンとさせられ、我に帰るや興奮の坩堝に叩き込まれました。
いやいや、ここまで見事な交渉術を見せられたのは、ライトノベル界隈ではちょっと記憶にありません。
この手の場面だと、だいたい感情に任せて力押しして、無理矢理に状況をねじ伏せる、言ってしまえば人の良心には忠実で美しくも、現実を無視した稚拙で強引でしかないまとめ方になってしまうことが多いのですが。
いやはや、これには感服させられました。
この主人公、目茶目茶厳しい。ただ泣いて助けてと請う少女に無条件に手を伸ばすのではなく、彼のやったことは助かりたければ自分で出来ることを全力でやれ、と突き放すこと。でも、単に突き放すのではなく、彼女が必死で頑張れば何とか出来る場を、あの絶望的な状況からちゃんと作ってるんですよね。ちょっとでも彼女が努力を怠れば身の破滅を招くかもしれないけど、彼女が生き残るための努力を惜しまないなら自分の居場所を作れるという状況を、こじ開けてみせた。それはとてつもなく厳しいけれど、親愛のこもった優しさが目一杯詰まってて、ちょっと不覚にも感動してしまった。

なんにせよ、この主人公、今後とも目が離せない。
葉桜との関係も、なんだかんだとお互い自覚モードに入ったみたいだし、次の巻もかなり楽しみですヨ。
 
1月26日

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1月21日

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(MFC)
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(MFコミックス アライブシリーズ)
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(KCデラックス)
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(イブニングKC)
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(モーニング KC)
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(モーニング KC)
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(モーニング KC)
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1月20日

(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(富士見ファンタジア文庫)
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(チャンピオンREDコミックス)
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(ヤングチャンピオン烈コミックス)
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(ヤングチャンピオン烈コミックス)
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(単行本コミックス)
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(ヤンマガKCスペシャル)
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(ヤングマガジン サード)
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1月19日

(ヤングジャンプコミックス)
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(ヤングジャンプコミックス)
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(ヤングジャンプコミックス)
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(ヤングジャンプコミックス)
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(サンデーGXコミックス)
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(裏少年サンデーコミックス)
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1月18日

(ガガガ文庫)
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(ガガガ文庫)
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(ガガガ文庫)
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(ガガガブックス)
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(ガガガブックス)
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(少年サンデーコミックス)
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(少年サンデーコミックス)
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(少年サンデーコミックス)
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(少年サンデーコミックス〔スペシャル〕)
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1月17日

(電撃の新文芸)
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(電撃の新文芸)
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(電撃の新文芸)
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(電撃の新文芸)
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(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(講談社コミックス)
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(講談社コミックス)
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(講談社コミックス)
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1月15日

(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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(アース・スターノベル)
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(富士見L文庫)
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(富士見L文庫)
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(富士見L文庫)
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(コロナ・コミックス)
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(コロナ・コミックス)
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1月14日

(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GA文庫)
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(GAノベル)
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(GAノベル)
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(GAノベル)
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1月12日

(ゲッサン少年サンデーコミックス)
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(ゲッサン少年サンデーコミックス)
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(ビッグ コミックス)
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(アース・スター コミックス) Amazon Kindle B☆W


(アクションコミックス(月刊アクション))
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(アクションコミックス(月刊アクション))
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1月10日

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1月8日

(BLADEコミックス)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(電撃文庫)
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(カドカワBOOKS
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(カドカワBOOKS)
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(カドカワBOOKS)
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(カドカワBOOKS)
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(カドカワBOOKS)
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(カドカワBOOKS)
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(カドカワBOOKS)
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(TOブックス)
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(TOブックス)
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(TOブックス)
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(TOブックス)
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(ドラゴンコミックスエイジ)
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(ドラゴンコミックスエイジ)
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(角川コミックス・エース)
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(角川コミックス・エース)
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(電撃コミックスNEXT)
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(角川コミックス)
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1月7日

(少年チャンピオン・コミックス)
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(マガジンポケット)
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(マガジンポケット)
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(マガジンポケット)
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(マガジンポケット)
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(good!アフタヌーン)
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(good!アフタヌーン)
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(good!アフタヌーン)
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(good!アフタヌーン)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(マガジンポケット)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(シリウスKC)
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(ガンガンコミックスUP!)
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(ガンガンコミックスUP!)
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(ガンガンコミックスUP!)
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(SQEXノベル)
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(SQEXノベル)
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(SQEXノベル)
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1月6日

(KCデラックス)
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(KCデラックス)
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(ヤンマガKCスペシャル)
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1月5日

(ヒーローズコミックス)
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(ヒーローズコミックス)
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1月4日

(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ジャンプコミックス)
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(ヤングジャンプコミックス)
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12月28日

(GCノベルズ)
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(GCノベルズ)
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(GCノベルズ)
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(HJ文庫)
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(HJ文庫)
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(HJ文庫)
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(HJ文庫)
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(講談社ラノベ文庫)
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(講談社ラノベ文庫)
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(講談社ラノベ文庫)
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(一迅社ノベルス)
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(角川コミックス・エース)
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(角川コミックス・エース)
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(ビッグ コミックス)
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12月27日

(ヒーロー文庫)
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(YKコミックス)
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(YKコミックス)
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(B's-LOG COMICS)
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