奴隷姫と過ごす日々 ~蒼の姫と召喚英雄~ (講談社ラノベ文庫)

【奴隷姫と過ごす日々 ~蒼の姫と召喚英雄~】 高野小鹿/あずーる 講談社ラノベ文庫

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中学生で英雄としての資質に目覚めて十余年、今や九頭竜雪彦は数多の異世界を救った経験を持つベテランの召喚英雄となっていた。そんな雪彦が「お姫さまの家庭教師」として召喚された異世界で出会ったのは――これまでずっと奴隷として生きて来た少女で!?
「九頭竜様。わたしのご主人様になって頂けませんか……っ!」
ひょんなことから《蒼の奴隷姫・シアン》の家庭教師兼ご主人様となってしまった雪彦だったが、二人の前には問題が山積み! 雪彦はシアンが立派な姫になれるよう努力をするのだが――ついつい彼女を甘やかしてしまう!? 今や奴隷とは虐げるのではなく、愛でるもの!? 奴隷と共に過ごす王宮家庭教師生活、開幕!
あかん、この主人公見た目がFF6のロックじゃないの? と思ってしまったので、それでイメージが固定されて動かなくなってしまった。
まあ見た目はこの際どうでもいいのだけれど、数多の異世界を救ったベテラン英雄というわりにはすげえ脳筋タイプであんまり難しいことは考えられないっぽいんだよなあ。これまで、よほど物理を上げてひたすら殴る、というスタイルだけで突き進んできたんだろうなあ。協力プレイとか、何らかの条件をクリアしないと倒せないボスキャラ、みたいなのには遭遇したこともないみたいだし、謀略などに引っ掛けられた経験もあんまりなさそうだし。これだけ固い敵を戦闘力でぶっ叩く、という能力に特化していると、わざわざ根拠地で呼び出すんじゃなくて、RPGの召喚獣みたいに現場で召喚して敵に攻撃させてそれが終わったら帰ってもらう、くらいの用法が適当なんじゃないだろうか。
それくらい、戦闘特化の主人公に何を思ったのか、姫の家庭教師を命じた女王陛下。結局、現状では彼女が一体何を思って、わざわざ奴隷出身の姫の家庭教師にわざわざ異世界から召喚した英雄をつけたのか、が最後まで謎のまんまだったんですよね。なにか、ちゃんとした特別な理由があったんだろうか。そんな手当をするくらいだから、女王陛下はシアンに対して何らかの思惑があったとしか思えないんだけれど、肝心の女王陛下がいきなりあんなことになっちゃったからなあ。
ともあれ、最後まで読んでみても実のところ雪彦くんって特に家庭教師としてシアンを成長させるような仕事はしてないんですよね……ああいや、シアンの雑種であるが故の特性を訓練によって引き出したんだから、家庭教師としての役割も果たしているのか。でも、能力の強化はちゃんとやってるんだけれど、シアンの精神面での成長に関してはぶっちゃけ彼女自身が一人で奮起している形であって、雪彦は特別なにかしたってわけじゃないんだよなあ。完全にシアン個人の資質であり意思の強さに基づくものだし。勿論、奴隷出身者として姫としての身分に馴染めずにいたシアンの拠り所となり、心の支えとなる優しいご主人様として、雪彦の存在はなくてはならなかったものなんだけれど、もうちょっと主人公として能動的にシアンを伸ばしてほしかったなあ、と。もう、むしろ望んでいたとおりにむっちゃ甘やかしまくっても良かったんじゃないか、と思うくらい。専門外の慣れない仕事だったからか、色々と難しく考えすぎて、動きが鈍っていた気もするのよねえ。
まあ雪彦の手を借りなくても、シアンは勝手に伸びるだけのものを持っていた、とも言えるのだけれど。奴隷として内向きの心映えと自信のなさから自覚ないけれど、シアンという子が元々持っていたその望みの大きさは、大それたと言っていいくらいの大望で、最底辺の地位にあったものだからこそ持ち得る視点でありながら、同時に奴隷出身者としてはあり得ないほど高みから世界を見渡した、高くも力強い願いを真っ直ぐに宿してるんですよね。それだけシアンのヒロインとしてのパワーが強いだけに、むしろ主人公の影を薄くしてるんじゃないか、と思うくらいで。まあ、シアンのキャラも決して濃いわけでもないだけに、もうちっとキャラに色彩がつけばいいんだけれどなあ。
その点、アルカナのブレのない徹底した悪逆っぷりと、クラリッサの腹黒さにはキャラとしてビシっと芯が通っていたので、雪彦くんにはこの子らに負けない存在感を示してほしいところである。

高野小鹿作品感想