徒然雑記

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嬉野秋彦

伝説のおねえさんたちが、勇者のいうことを聞いてくれないのですが ★★★☆   



【伝説のおねえさんたちが、勇者のいうことを聞いてくれないのですが】 嬉野 秋彦/ てつぶた  ファミ通文庫

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伝説の武具だと授かったのは――美女×2!?

「わらわのために戦ってくれるか、勇者ハルドール?」
各異世界に召喚され続け、最強となった勇者ハルの新たな召喚先は、魔王たちが大暴れする世界だった。召喚主は自分の平和な治世を守りたい“万能の魔王”じゃじゃさま。彼女はこの争いを勝ち抜くための望みをかけて宿敵である異世界勇者を呼び出したという。さらに伝説の武具を授けてくれるはずが……現れたのはとがり耳の美女二人!? 「勝負してもらおうか」と挑戦的な眼差しのクロ。「そういう怖いのやなの」とゆるふわに懇願するシロ。対極な二人を従えて、ハルは魔王乱世を勝ち抜けるのか!?

いうことを聞いてくれなくても全然気にしない勇者ハルドール。
てっきり、主人公の勇者がお姉さんたちに振り回されながら弄ばれてしまう系のお話かと思ったら、むしろお姉さんたちが良いように振り回されて、誘導されて、弄ばれてしまう系のお話でした。いや、弄ばれるというのは言い過ぎか。手のひらの上で転がすくらい。
よく考えたら、作者の嬉野さんはヒロインがどんなワガママを言おうがバッサリと切り捨てて好き勝手させない主人公を長年描き続けた人である。振り回される優柔不断系主人公はまずないよなあ。
そもそも、この世界では召喚されて肉体年齢若返って子供になってしまったハルドールですけれど、実際はダンディを売り物にしている渋みのありそうな壮年の男性だそうなので、そう思えば常に余裕を崩さない態度はベテラン感が出ていて、貫禄があるんですよね。いや、実年齢アラサーだそうなので、28,9でこれだけ落ち着きが在るというのも凄いんですが。それだけ重ねてきた経験が違うのでしょう。
貫禄と言えば、ハルドールを召喚した万能の魔王ジャマリエールことじゃじゃ様も、見た目完全にロリっ子なのですが、為政者としての貫禄と魔王としての威風にちょっとした茶目っ気も持ち合わせた、中身大人の女性なんですよねえ。
いっぽうでおねえさんなシロとクロ。マシュローヌとグローシェンカの二人はというと、見た目とは裏腹に言動は若くて尖っている。いや、二十前後の年齢からするとこの落ち着きの無さも短絡さもむしろ年相応なのかもしれないけれど、お姉さんキャラでは全然ないんですよね。
ハルに手のひらの上で転がされ、じゃじゃ様に言い負かされ、それでも記憶から消えてしまったご主人を求めて言うことを聞くまいとして自分勝手に振る舞おうとする様は、親に置いていかれた幼い子供めいたところも感じさせる。
なので、見た目とは逆転しておねえさんたちふたりが、幼い魔王と子供な勇者に反抗しながらも良いように使われてしまう、という話だったりするんですねえ。
と言っても、そこまでおねえさんなクロとシロが利用されまくる、という感じでもないのですけれど。一応最強の武具扱いなお姉さんズですけれど、与えた魔王からしても拾い物でしたし、もらったハルドールもほぼほぼ素手でも無敵に近い強さなので、そこまでシロクロにはこだわっていなくて、逆らっても言うことを聞かなくても、そこまで気にしていなくてわりと放置気味ですらあるほどで。
ハルなんか、本来のご主人さまを見つけたら解放するよ、とまで明言しているくらいだし。それでも突っかかってくるクロをついつい誘導して働かせてみせたり、グズってやたらと性格悪い発言ばかりするシロをイジるのを自然にやってのけるあたり、この勇者随分と女慣れしていると言えるのだろう。
いや、やってる事は女性への接し方というより、従順ならざるペットに構って遊ぶ感じなのだけど。報酬は美女のキッスとかほざいているわりに、女性相手にエロい視線とかあんまり向けないからなあ。クロやシロに対しても、あれだけ熟れた身体している相手に対して、やんちゃな子供の相手しているような素振りだけで、セクハラめいたことは一切しないし。性欲がないというんじゃなくて、ほんとに相手にしていないような。
こんな勇者とあらゆる意味で対等に渡り合っているじゃじゃ様。思考の深さや高さも釣り合っているし、乱世の到来で一気に動乱の世となっている世界で目指すべき方向性も一致しているし、パートナーとしてはまさにぴったりは二人なんではないだろうか。

そんな中で、ちゃんと見た目通りなケモミミメイドのケチャが、完全にマスコットで癒やし。いやこの娘、王宮の侍女としては自由すぎて放し飼いのワンコな何かなんじゃ、と思うくらいのお子様なんだけど、これが喋り方といい妙に偉そうな所といい、実に可愛いのな。なんか、ヒロインみんなペット系に思えてきた。
いや、脳筋で短気なクロと違って、あの性格ひん曲がっているシロはどう捉えても可愛くないんですけどね。あんな卑しい性格をヒロインに持ってくるの結構凄いなあ、とすら思うほど。でも作者からすると、むしろクロみたいなのよりこっちの方が扱い得意だったりするかもしれないので、シロのキャラにどうスポット当たっていくかはちょっと楽しみですらありますねえ。

嬉野秋彦作品感想

ご近所の平穏を乱す奴が相手なら、アラフィフ勇者の最強スキルを使わざるをえない! ★★★☆  



【ご近所の平穏を乱す奴が相手なら、アラフィフ勇者の最強スキルを使わざるをえない!】  嬉野 秋彦/ジョンディー エンターブレイン

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コネも金もなく王都で仕事にも就けずにいた青年ビム・ユンカースを拾ったのは、“ひだまりの館”に勤める美女ブルーベルだった。同僚は美女、仕事内容は魔王大戦後、失われつつある“技術”をもった老人たちに仕事を斡旋すること。その中でユンカースの役割は老人たちの仕事を補佐することだったが、彼が同道することになるメンバーはかつて魔王を倒した勇者、魔女、賢者のパーティだった!それゆえ斡旋される仕事も、現役騎士団すらも太刀打ちできないであろう魔物退治ばかりで―!?一癖も二癖もあるけれど、最強の“技術”を持つアラフィフ勇者パーティと、平凡な青年のレジェンドストーリー!!

これ、まんまシルバー人材派遣センターだ! 
ここで働いている老人たちは、アラフィフとタイトルにはあるけれど実際は50歳をみんな超えています。現代だと50代なんてまだまだ働き盛りと言っていいくらいには平均寿命が伸びているのですが、まだまだ文明が発展しきれていないこの異世界では大戦後数十年が経った今でも平均寿命は60を超えず、45歳をすぎれば老人と呼ばれるような社会なんですね。なので、彼らかつての勇者パーティーの面々は人生の晩年へと差し掛かっているわけだ。
もちろん、こんな世界では社会福祉が現代レベルで整っているわけではなく、年金制度があるわけでもない。人間、死ぬまで働かないといけないわけで。その意味では、この老人を雇用するという目的の人材派遣公社は王妃が出資している半公共機関みたいなものらしいけれど、立派な福祉事業なんですよね。
もっとも、そこに元勇者や賢者や魔女なんてのが所属していて、その組織の天辺が実質実権を持った女王陛下な王妃様だという以上、それだけが目的の組織ではないのだけれど。
しかしまー、世知辛い話ではあるんだ。魔王大戦の英雄である勇者パーティーが最晩年を家族もなく孤独に迎えているわけですから。
それを寂しい人生、なんて言ってしまうのは傲慢なんでしょうけれどね。家庭を持たなかったのも権力を求めなかったのも、彼ら自身が選ばなかった道であり、人の幸福なんてものはそれぞれが己で決めるものであって、他人が外から見てあーだこーだ言うもんじゃないですからね。ザッキさんやルードさんたちは、今の有様を当たり前のように受け止めていますし、家庭を持たなかったことを後悔しているわけでもない。ただ、心残りがあるとするならば、自分たちの技術の後継者すらもいないまま消えていくことだったのかもしれません。しかし、それも積極的に探し求めている、ということもなく自分たちの人生の終焉とともに失われていくことを、そういうものだと受け入れている。
ミロスさんは、子供を作れなかったことに幾許かの未練を抱いているようですけれど。ともあれ、若い連中に期待はしていないけれど、諦めてそっぽを向いているわけではない。もし運が良ければ後継者に巡り会えるだろう、くらいの気持ちではいるようなんですよね。狷介とも偏屈ともとれますが、これはこれで素直でもあるんだろうなあ。

そんな彼ら老人の前に現れた若者・ユンカースくんは田舎の農村出の朴訥な青年で何の特技があるわけでもなく、都会に出てきた目的も官庁の事務職狙い、というある意味現実的な手堅い生き方を目論んでいる奴なのである。だから、別に体力があるわけでも実戦経験があるわけでも秘められた力があるわけでもなく、変な野心があるわけでもなく、あると言えば家族経営の農業じゃ将来親が歳とって働けなくなったらやってけなくなるから、今のうちに都会で働こう、なんていう計算高さがあるくらいのガチで普通の青年である。いや本当に、ザックたちの荒事に担当職員としてつきあわされるようになっても、別になんの覚醒もしませんしね。
ただ、彼が凄いのはその図太さというか厚かましさというか精神的な鈍さというか、ザックにしてもルードにしてもかなり当たりきつい爺さんたちなんですけれど、毎回けっこうキツイ目にあって辞めたい辞めたい言いながらも、次の日になるとわりとケロッとして引きずった様子がないんですよね。それどころか、慣れてきたらズケズケと結構言いたいこと言って堪えた様子が全然ないのである。タフだなあ、と感心しかけたんだけれど、タフって打たれ強いとか我慢強いというイメージなので、そういうのとは違う感じなんですよねえ。そもそも、痛みを感じていないんじゃないか、というタイプの図太さというか。
おまけに、何かと言うと余計な一言が多くて、地味にユンカースくんの方が相手にダメージ食らわせているようにも見えますし。この子、地元にもあんまり友達いなかったんだろうなあ。無自覚にかなりザクザクと相手の心を切り刻むようなこと言ってますし。
ただ、その図太さというか厚かましさがわがまま老人なザックさんにはちょうど良かったのか、わりとしぶしぶユンカースの言うことを聞いているのを見ると、微妙に不良老人とその孫みたいに見えてくるから不思議です。
元勇者からしたら、何の見込みもなさそうなユンカースくんなんだけれど、その継がせようのないはずの技術というには感覚的すぎる「スキル」の後継者候補にユンカースくんのことを、ほんのちょびっとでも候補にあげている時点で、なんだかんだと彼のこと気に入ってるんじゃないか、と思えてくるわけで。微笑ましいには程遠いまでも、思わず微苦笑を浮かべてしまう老人たちと若者の関係なのでした。
彼ら勇者パーティーのみならず、人材派遣センターへの依頼者である農園の経営者の老夫婦の先行きと、彼らの元を飛び出していった孫の人生という、老後というものを考えさせられる沁み入る話で、なんとも味わい深いものがあって面白かった!

嬉野秋彦作品感想

いつかのレクイエム case.2 少女忍者と剣の悪魔 ★★★★   

いつかのレクイエム case.2 少女忍者と剣の悪魔 (GA文庫)

【いつかのレクイエム case.2 少女忍者と剣の悪魔】 嬉野秋彦/POKImari GA文庫

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「ここに最近、多くの呪物が持ち込まれたはずだ。……どこにある?」

女子高生と陰陽師の二重生活をしている少女ひよりと、その同居人で魔女術使いの青年レイジの元へと持ち込まれる依頼が急増していた。何者かが付喪神を宿した呪物をばらまいて騒ぎを起こしており、それを調伏して回るレイジ。一方、期末試験のため勉学に励んでいたひよりは、レイジ不在の事務所を謎の黒ずくめに襲撃されてしまう。ピンチに陥ったひよりだったが、相手もどうやら同年代の少女のようで――! ?

呪具をばらまいた犯人の目的は、そして黒ずくめの少女の動機は何なのか。謎が謎を呼ぶ、ウィザーズファンタジー第二弾、登場!
ライダースーツとフルヘルメットって現代における忍者装束と言っても過言ではないよなあ。防御力も高いし、迷彩力も素性の隠蔽性も高いし。
タイトルには堂々と少女忍者!なんて銘打ってしまってますけれど、実のところ本編でははっきりと忍者とは明言してないんですよね、してなかったよな? あくまでひよりがそう定義づけてるだけで、本人たちは忍者とは自称していなかったはず。ある旧家に代々使えている密偵、或いは隠密の類いということで、伊賀とか甲賀から連想する忍びとは違い、真言密教や修験道ベースのかなり呪術色の強い武術流派、というふうに語られている。実際、金剛輪なんかを得物として使ってるあたり、あんまり忍者色ないのよねえ。でも、密教系ベースの少女隠密って山田風太郎っぽくもあって結構いける口である。しかしこの少女忍者こと藍住沙代、わりと偉そうな上から目線の口ぶりのわりにそれほど腕前が隔絶しているかというと、あんまり本編でも活躍出来ていなかったんじゃないかな、この娘。比較対象がレイジだったり、相手の悪魔が格上だったりしたせいかもしれないですけれど、腕前がどうのというよりも仕事をちゃんと完遂できないまま中途半端に片付いてしまったケースが多かったせいでそう見えたのかもしれない。ひよりなんか、未熟は未熟だしレイジのサポートを受けているとは言え、結構ちゃんと最低限の目的は達しているし、与えられた自分の役割はきっちり果たしているのでなかなか頑張ってるな、というふうに見えるんですよね。
レイジが居ないときでも、なんだかんだと自力で窮地脱していますし。確かに現段階では呪術師としてまだまだ未熟なのは確かだけれど、着実かつ順調に呪力は上がって実力も見識も増してますし、何気にレイジがべた褒めに近い称賛を送ってるのも不思議でもなんでもないんだよなあ。レイジって、公平である分甘えたことしてたら容赦なく厳しく断じてきそうではあるけれど、逆に頑張ってたらちゃんと正当に評価してくれそうな人だけに、尚更に彼の評価が高いというのは大したものだと思うんですよね。
んで、今回一番面白いポディションで動き回ってたのが、警察の人間でひよりたちコンサルタントの担当をしている今城清十郎くん。彼自身は呪術に対して知識も素養もなく、この手の業務を請け負う民間業者としての呪術コンサルタントであるひよりたちの事務所に繋ぎをとる警察側の担当者、というだけの人であって、実際の事件に首突っ込んで活躍できるような要素はまったくないんだけれど、それ以外のところで組織間の調整や責任者として駆け回ったり、個人的にほんと誠実でいい人なのでまだ女子高生なひよりを心配して、何くれと無く彼女の助けになるように立ち回ったり、レイジの助手みたいにしてお使いやメッセンジャーや運転手役やら、色々やらされたり、と一番働いてるのこの人なんですよね。今回はいきなり襲われてえらい目にあったりと大変な思いもしてますし。食わせ者な上司に良いように使われ、傍若無人なレイジにこき使われ、ほんとご苦労さまですなのですが、それだけ清十郎くん活躍しているということで、結構な存在感でありました。
それにしても、ライバル出現ということでひよりもうかうかしておれんなあ。まあひより当人もまだまだ、そういうつもりも自覚もないんだろうけれど、自分だけの面倒見てくれていた青年に横からちょっかいかけられたら、そりゃあ面白くはないでしょう。そこは油断せずに精進精進。

1巻感想

赫光の護法枢機卿(カルディナーレ) ★★★☆   

赫光の護法枢機卿 (ファミ通文庫)

【赫光の護法枢機卿(カルディナーレ)】 嬉野秋彦/新堂 アラタ ファミ通文庫

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神の法に逆らうことなかれ――神の武器プレロマを手に、悪神を殲滅せよ!!

悪神【マラーク】に抗う唯一の神の武器【プレロマ】を授けられ、めでたく護法枢機卿【カルディナ―レ】となったアルゾラ。だが初陣を無事に切り抜けた彼女に与えられた聖務は、輿入れの最中に行方不明となった法王の妹君の救出。しかし一緒に聖務にあたるキュリアロスは、人の心を解さない超合理主義の失礼な少年だった。過激にも思える彼の発言にヒヤヒヤするアルゾラだったが、実は彼は最強の枢機卿と言われる“黒の巡礼者”で――神に愛を捧げる枢機卿達の苛烈なファンタジーアクション!
また凄え主人公来たなあ。嬉野さんの主人公の多くは正論でぶん殴ってくるタイプなのだけれど、このキュリアロスは合理性という意味ではこれ以上なく正しいのだけれど、人間倫理や社会規範、基本的な善悪基準など人間が人間であるための最低限のルールや社会性、或いは生物としての欲ですら放棄しているような、完全にぶっ壊れているタイプなんですよね。
ただ、過酷な戦場においては彼の人心を無視した合理性というのが案外無視できない「正解」であることが侭あって、簡単に切って捨てられないのである。何より、そのべらぼうな強さが、無私さが強烈な存在感となってそそり立っている。ヒロインのアルゾラは、それこそ成り立ての護法枢機卿でありしかも、長年修行してきて護法枢機卿になった類いではなく、突然プレロマに選ばれて急遽護法枢機卿に就任した「素人」さんなので、ただでさえ足を引っ張る方なのでキュリアロスに何か言えるもんじゃないんですよね。
それでも、言ってしまうところが彼女の図太さであり、魅力なのでしょう。
キュリアロスだけじゃなく、他の護法枢機卿たちも一癖も二癖もありそうな人たちばかりの中で、アルゾラは……まあこの娘も癖のあるタイプですわね。ただ、いい意味でも悪い意味でも感性が普通であり、だからこそ実家と軋轢を催して家を飛び出したわけで、なにかとズケズケとした物言いをしてしまうあたりも大したもんなんですよね。それに、わりと身の程は理解している方でオカシイと思ったことはちゃんと言うけれど、わからんこと出来ないことについては聞き分けが良いどころかむしろ自分から聞いていくような積極性もあるし。このガンガン行く属性は面白いなあ。
そんな彼女だからこそ、誰もが触れることも関わることも避けるキュリアロスに対しても、結構ズケズケと言っちゃうんですよね。彼にそれが届いている様子は残念ながらさっぱり見当たらないのですけれど、彼の異常性というのは後天的なものではなく、幼少期に故郷を家族ごとマラークに殺戮され、その際にプレロマに見出されて、まともな見識が形成される前の幼少の頃から戦い続けた、或いはそう育てられた弊害みたいなものなんですよね。あとから歪んでしまったものを治すのってかなり難しいのですけれど、まだ大人ではない年齢のキュリアロスくん。今なら横からワイワイうるさく言ってくる新たな雑音が、彼の在り方に影響を与えていく可能性というのは無きにしもあらず、なんですよね。
ラストにアルゾラが目撃してしまったモノが、果たしてアルゾラの意識に何を働かせるのか。ここで無視できないのが彼女っぽいので、恐らく積極的に関わっていくことになるだろうキュリアロスとのコンビがどう変化していくのか。嬉野さんの作品の主人公・ヒロインカップルのあの性格の不一致からの関係の変化は毎回楽しみですので、この二人もどうなっていくのか非常に楽しみ。

嬉野秋彦作品感想

いつかのレクイエム case.1 少女陰陽師とサウル王の箱 ★★★★   

いつかのレクイエム case.1 少女陰陽師とサウル王の箱 (GA文庫)

【いつかのレクイエム case.1 少女陰陽師とサウル王の箱】 嬉野秋彦/ POKImari GA文庫

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「箱」を巡り、魔術師たちが東京の夜を駆ける!


「何というか、実に……この国は無法地帯だな」
「居候のくせに、いつもいつも偉そうなんだから――! 」

西洋・東洋の魔術師たちが闇に潜みながら生きる現代。女子高生と陰陽師の二重生活をしているひよりは、同居人の『魔女術』使いレイジと共に行方不明になった父の遺した探偵事務所を経営していた。同業の女性魔術師、史鳳(シフォン)が受けた「箱を探して欲しい」という依頼に協力するひよりだ
ったが、簡単だと思われた箱探しは、時を同じくして発生していた連続殺人事件とも繋がり、事態は思わぬ展開を見せることに――! ?
嬉野さんの作品、ファンタジー異世界モノも面白いのだけれど、中華系と現代魔術モノも面白いんだよな。
ということで、本作の美少女女子高生陰陽師のひよりちゃんは、天台姫宮派の使い手なのである。天台姫宮派陰陽道というと、作者の作品の【ハルマゲドンバスターズ】、【シャイニングウィザード】シリーズでは主人公が使ういざなぎ流のライバルキャラが使ってた流派なので、途端みょみょみょみょ!となってしまった。懐かしの「式王子」なる式神も出てきましたし。
でも、ひよりって流派のあれこれとはほとんど関わってなくて、かなり独学入ってるんですよね。身辺事情明らかになってみると、あれほとんどこれってド素人じゃないの!? というくらい、父親から習った基礎をもとにして自分一人で構築してきてたみたいだし。いやいや、でも逆に独学であんな[
三面頬」みたいな式王子仕えてるのって、けっこうすごいんじゃないだろうか。
しかし、才能はともかく組織や一族血族に所属する形で魔術業界に関わっていないので、それだけダークサイドに踏み込んでおらず、メンタルも一般人寄りなんですよね、この子。実戦経験もほとんどないし、それ以上に素直で良い子すぎて、魔術界特有の黒い内実にもシビアで酷薄な世界観にも慣れてないとも言える。プロや玄人とは程遠いところにいるのだけれど、それだけスレてないとも言えるわけで、結構気が強くて頑固者ではあるんだけれど、基本的に聞き分けもよくて善人だし真面目で努力家だし、と作者のひねくれたキャラクターが多い傾向からスルと、なかなか珍しいタイプの子かもしれない。
一方で、彼女の心霊探偵事務所の居候で、実質師匠格であり、ひよりを助手扱いで事務所の主力を担ってるレイジくんはというと、いつものあれである。反論できないくらい直球の正論をバールみたいに握ってガンガン殴ってくるタイプの、超偉そうだけれど言ってることは全部だいたい正しくて思わず「むぐぐぐ」となってしまうお兄さんである。ただ、このレイジくん、この系統のキャラの中ではとびっきりに優しいんですよね。上からの物言いではあるものの理不尽なことは一切言わないし、間違ってたら反省するし、気遣いの言葉もけっこう絶やさないですし。厳しいことは言うものの、嫌味さは感じられないし、わかりやすく親切なんですよね。ひよりちゃんが、変に反発したり反抗するタイプじゃなく、偉そうな物言いにむっとはしながらも、だいたい素直に受け止め、アドバイスも真面目に捉えて、自分なりにちゃんと噛み砕いて糧にしていくし、レイジくんからしてもわざわざ嫌味言うようなシチュエーションにならないからなのかもしれないけれど、思いの外良いコンビなんだよなあ。レイジくんからしても、わりと鍛え甲斐のある世話し甲斐のある弟子なんだろう、ひよりって。変に業界スレしていない素人さが、むしろスポンジみたいに教えを吸収する土台になっているような感じでもある。それにしても、レイジくんのそれはスパルタではあるのだけれど。あれ、傍から見るとよく着いてってるなあ、というレベルなんですよね。愚痴はこぼしても文句らしい文句も言わずに素直に頑張られると、そりゃ気持ちも入るわなあ。
本来、レイジくんのキャラクターからして、かなりサバサバした、というよりも人間関係ドライなタイプなようにも見えるだけに、ここまで親切に見えるというのはそれだけ思い入れの強さにも見えてくる。
自分の見通しの甘さでひよりちゃんが怪我を負ってしまったとき、レイジくんかなり怒ったしねえ。彼のファミリアーであるミス・レオナも、あれひよりちゃんかなり可愛がってるように見えるし。扱い難しそうなJKっぽいくせに、歴代主人公というか歴代ヒロインの中でもかなりいい娘なんじゃないだろうか、この子って。

でも、レイジくんべったりではなく、同じく大学生と魔術師の二足のわらじ履いて活動してる史鳳と即席でコンビ組んで仕事を請け負って、と半人前なりに独自に情報屋とコンタクト取って活動したり、と自立した行動もとってるのである。この女学生魔術師コンビの半分アングラに踏み込んだような活動も、おおそれっぽい仕事してる、って感じで読んでて心浮き立つものがあったんですよね。
また、警察サイドでも魔術関係の事件の増加で、本物の魔術師のコンサルタントを活用する方針が動き出していて、その接触を受けて公的機関の下請けも兼ねて、みたいな事件との関わり方も出てきて、単なる現代魔術異能モノとは違う、お仕事モノというか、探偵モノみたいな要素も絡みつつ、謎の箱を巡る魔術師界隈の中でもやばい領域に首を突っ込む展開もあり、と現代社会の表と裏の境目、現実と神秘の世界を跨ぐような、ふわふわとしているようで地に足の着いた設定に基づくストーリーは、ベテランのお仕事らしく歯ごたえと味わいが両立してて、ほんと面白かった。
嬉野さんのこっち系統の話はまた読みたいなあ、と思っていただけに、どストライクだったかもしれない。これは期待のシリーズの開幕でありますよ。

嬉野秋彦作品感想

魔術師たちの就職戦線 2 ★★★☆  

魔術師たちの就職戦線2 (ファミ通文庫)

【魔術師たちの就職戦線 2】 嬉野秋彦/惠坂 ファミ通文庫

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二年朱雀組最強のギャル佐原閑丸、ユキナリ争奪戦に参戦!?

年二回行われるクラス対抗戦が近づき、代表者三名の選出で揉める二年朱雀組。実力的には自分とミオ、マルコがふさわしいと主張するカオリだが、嫌がるマルコと監督・山崎の推薦で三人目はユキナリに決定! さらにマルコの提案で、ユキナリはカオリと賭けをすることに。実力者集団“不動連”の思惑も錯綜する大イベントで盛り上がるその頃、学園都市に謎の少女が姿を現し、不穏な気配が不動台高専を包み始める……。
新世代学園異能バトル、第2巻登場!
あれ!? あれあれあれ!? これ、飛び入りじゃなくて閑丸がマジでメインヒロインじゃない。候補じゃなくて、この流れだと閑丸ことマルコがガチンコのメインヒロインなんですけど!
いやあ、毎度ながら嬉野さんって、他の作品じゃあ三番手・四番手以降のヒロインになりそうなキャラがメインヒロインを張らせるから面白いよなあ。【戦争妖精】でも普通メイン張るであろう女性キャラ全部押しのけて、あの人がメインヒロインになっちゃいましたし。そう言えば、同じ世界観かわからないのだけれど、【ハルマゲドンバスターズ】【シャイニング・ウィザード】のメインヒロインも回り回って南米の褐色美女が収まってたんでしたっけ。
しかし、思いっきりギャルな娘がメインヒロインかー。ただ、この娘は軽薄とは裏腹の超慎重型だし、手の内を晒そうとしない、という意味では学生という身分に甘えずに退魔師としてのスタンスを守っている、という意味でもプロ意識が強いとも言えるし、その上でラスト近辺でのユキナリに対する態度を見るとある種の健気さと、あっけらかんとした積極性を兼ね備えている女の子なので、ヒロインとしてかなりスペック高いんですよねえ。
犬毛まみれはどちらかというとカオリ相手に脇見している娘だし、肝心の姉のカオリは和解などとは程遠い面倒な状態になってしまっているし、であとがきでは三人ともヒロインベースで行くつもりみたいだけれど、今のところマルコが圧倒的すぎてちょっとどうにもならんでしょう、これ。
だいたい、カオリがメンタル的に幼すぎるからなあ。ユキナリも若干意固地なところあるけれど、他人に指摘されて反省できる程度には自分を省みることが出来ているのに比べて、カオリの方は人の話聞かないし、聞く耳持たないし持ったら負けだと思ってるタイプだし、その上で追い詰められると途端に動揺するタイプだし、追い詰められなくても自分で自分を追い詰めていくタイプなので、端的に言って凄くダメな娘なんじゃなかろうか。
女の子としてはもとより、退魔師としても何気に実戦弱いタイプなんじゃなかろうか、これ。それに比べて、ヤマザキやマルコはかなりの実践派であるからこそ、わざわざ学校で実力をひけらかすことをしない強かさが、食わせ物感を強めてる。
特にヤマザキ、まさか二年筆頭だったのか。そりゃまあ、赤の書なんか持ってたら只者どころじゃないのはわかってたけれど。一応アレ、赤の書じゃなくて深紅の書という類似品なのか別物なのかわからないけれど、ヤバすぎるあの魔導書そのものではなさそうでちょっと安心した。いや、十分同じレベルでやばい代物なのかもしれないけれど。
赤の書繋がりではないけれど、件の【ハルマゲドンバスターズ】【シャイニング・ウィザード】では、いざなぎ流陰陽術の後継者で佐原閑という小僧キャラが居たんだけれど、ここまで名前を寄せるということは逆に世界観は一緒じゃない、ということなんかな。使役しているものも使い魔(ファミリアー)扱いで、式王子という表記じゃないみたいだし。いや、何気に同類な気もするけれど。あと、あっちだと当麻家って修験道・飯縄使いの系統だったのだけれど、こっちじゃ呪禁道みたいだしねえ。当麻のおっさんの娘と閑がお付き合いしていた事から鑑みても、佐原家と当麻家の仲が密接、というのは筋としては通っているのではあるのだけれど。
まあいずれにしても、直接クロスすることは何となくなさそうな感じ。ちょろっとでも向こうのキャラが出てくれたら嬉しくはあるんですけどね。

1巻感想

魔術師たちの就職戦線 ★★★★   

魔術師たちの就職戦線 (ファミ通文庫)

【魔術師たちの就職戦線】 嬉野秋彦/惠坂 ファミ通文庫

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魔術師候補が集まる不動台高専を舞台に贈る、新世代学園異能バトル!

「……死ね」という言葉とともに気を失った進藤雪也は、編入先の“不動台術式高専”の保健室で目を覚ました。紹介されたクラスで彼を攻撃した少女を見つけたユキナリだが、クラスメイトとなった山崎雅明や網代木澪の話から、「この学園は素養のある生徒だけが集められた日本最高の退魔士育成機関」であること、そしてあの少女の名が蘭崎香織里であることを知り、彼女が幼い頃に別れた双子の姉であることを思い出す――!
アストラル骨法って、語感がすごい好きなんですけどッ。
いやいや、わりとフザけた名前に見えますけれど、骨法なだけあってアクション描写は也に痛そうなんですよね。概ね食らってるのは主人公のユキナリなのですが。霊体をぶん殴る古武術と古神道のハイブリッドという名目なのですが、カオリのオリジナルなだけにネーミングセンスはほぼ彼女の寄与されます。ってか、母親の詩織里も実戦骨法詩織里式なんて名前つけて自分で組み立ててたらしいので、血筋だわなあ、これ。
本作、なんか読んでるとこう懐かしいというか既視感を感じるというか、嬉野さんの作品は概ね読んでいるだけに今更懐旧を感じるというのは何なんだろう、と首を傾げていたのですが、赤い表紙の本が出てきた事でビビッと来たんですよ。思い……出したっ! てなもんで。
舞台が現代、そんでもって本格的な古今東西の魔術呪術を扱う話、ということで学園モノだったり主人公たちが十代の学生だったりとキャストの傾向こそ違うものの、魔術描写の手法的にはこれ作者の旧作である【ハルマゲドンバスターズ】【シャイニングウィザード】の正統な系譜なんだわ。世界観自体は異なるんだろうけれど、ブーメラン効果とか、まさにまさに。
しかしそうなると、赤い表紙の本なんか使ってる山崎くん、それだけで色々と怪しくなってきてしまうんだけれど大丈夫か、こいつ。そう言えば、作者の著作だと主人公の友人キャラはみんな山崎雅明という名前らしいんだけれど、確かに【戦争妖精】でも居たなあ、ヤマザキ。でも、今まで本編にがっつり噛んでくる山崎って覚えがないだけに、レギュラー化した山崎はこの山崎が初めてなんじゃないだろうか、山崎。
それにしても、相変わらずというかキャラの配置の仕方が絶妙に既存のライトノベルと異なっているのはこの人らしいなあ。普通どうしてもサブヒロインに収まってしまうようなキャラがメインヒロインになったり、というケースには事欠かないのですが、本作も順当に澪がメインになるのかと思ったらどう考えても双子の姉の香織里がどうあってもメイン譲りそうにないですし。いやでも、この姉弟長い間離れ離れで色々と拗らせてはいるものの、お互いへの感情は今のところあくまで普通の姉弟のものなのでそのままノーマルな姉弟モノとして行くんだろうか。取り敢えず、険悪極まる姉の感情がどのようにデレへと移行していくのかは楽しみでしかない。以前、仲が悪いなんてもんじゃないだろうという男女関係を見事にガチのラブロマンスにまで仕上げた実績があるだけに、その手腕への心配はないのだけれどそれも昨今の業界全体の早期打ち切り傾向からするとじっくり堪能できるかどうかやや心配なのである。
主人公のユキナリ、いきなりマシントラブルを起こした母の操縦する小型機からパラシュートで脱出してくる、という落ち物ヒロインならぬ落ち物主人公しかもアラスカ帰りという、魔術師高専という魔術師呪術師の卵たちというアレな人材が集まっている中ですら、なにそいつ!? な経歴の持ち主なのだけれど、魔術云々についてはさっぱりド素人な分、非協力的を通り越して近づくと殺す的な姉の振る舞いもあって結構苦労はしてるんですよね。性格的には言動見ても結構ヤンチャ系というか当たりの強い性格してると思うんだけれど、姉とのいざこざが原因で喧嘩っ早く見えるだけなのか、人の言にはかなり素直に耳を傾けるわりと人当たりは丁寧な人物なんですよね。その意味では読んでいてもなかなか掴みづらいキャラクターで、主人公としてはシンプルなようで複雑なところもある、何とも食み応えがある面白さなのである。
今回の事件に関しては、どうやら何事か裏で企んでいる黒幕が居る、というのがなんとなく見えてきただけの導入編ですっきりしないと言えばしないのだけれど、登場人物の紹介編と思えば多種多様なキャラクターの動向が伺えて、じんわりと楽しみが湧いてきているような塩梅である。あの行き過ぎなくらいサッパリしたママンは面白いキャラだなあ。
あとヤマザキ! こいつ年上の彼女がいるって、あの人と付き合ってるの!? おのれ!
個人的にはさらっとした描写なんだけれど、姉弟の思い出の料理であるマカロニグラタンの話なんかは凄い好きだったなあ。バチバチ反発しあってる姉弟ですけれど、ユキナリってわりとシスコンなんじゃないだろうかこれ。

嬉野秋彦作品感想

ダンジョン・サーベイヤー 遺跡の街の“人間嫌い" ★★★☆  

ダンジョン・サーベイヤー 遺跡の街の“人間嫌い

【ダンジョン・サーベイヤー 遺跡の街の“人間嫌い"】 嬉野秋彦/irua ファミ通文庫

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太古の魔導文明が眠る遺跡の街。そこへ向かっていたニコルは、山賊に襲われていたところを赤毛の少年に救われる。しかもその少年クローはトップクラスと名高い調査隊“人間嫌い”を率いる凄腕の“調査鑑定士”で、ニコルは埋文局の命により、彼のチームにその身を預けることに!個性的な三人の少女に続く仲間を求めていたクローは、ニコルの力を試すべく“キーンホルツの闇”へ挑む―!広大な迷宮都市を舞台に贈るダンジョンクロールファンタジー!
相変わらずキャラ濃いなあ。男一人に女性三人というチーム編成、しかもそのうちの一人は主人公のクローに好き好き光線出しまくってる、という状況にも関わらず、チーム内に色気の欠片もない!! まったくない!! 件のクロー好きのラムからして、凄まじい残念臭でチームの娘らにヒロインらしさがもう微塵もないという。キーンホルツギルド幹部の獣人の美女二人、といいビジュアル的に美しい女性陣は多いにも関わらず、ヒロインらしいのが全然いないんだよなあ(褒め言葉)。
一番少女らしさが強く、女子力高めで乙女全開しているのがアラフォーならぬアラフィフの支部長なのが、なんともはや。すごい!! いや、マジで可愛いんですよ、直接描写としてはチラッとしか出てないんですけれどw
【彼女は戦争妖精】や【黒鋼の魔紋修復士】では他のライトノベルからは一線を画した主人公観を見せてくれた嬉野さんですけれど、本作のクローも伊織くんやディーのように尖りまくってはいないものの、クレバー極まる食わせ者のしたたか者で、実にイイ性格してるんですよね。
サブタイトルの人間嫌いが誤解を招きそうだけれど、クロー含めてチームのメンバー、別に人間が嫌いという屈折したキャラクターではありません。むしろ屈折しすぎてる問題児集団なおかげで、周りの人間から敬遠され気味なおかげで人間嫌い、と呼ばれてるようなもので、別にわざわざ自分から壁を作ったり孤立したり他者を拒絶したりという思春期拗らせたような若い繊細な連中じゃあないんですよねえ。
むしろ、酸いも甘いも噛み分けすぎだよなあ、という。まあ異様に沸点が低くなるポイントを抱えてる娘もいるので、決して「出来た」人たちではないのですが、でも初心者同然のニコルくんへの、厳しいけれど案外突き放さない態度なんかは、実にプロフェッショナルらしい。
彼らの仲間づきあいというのも、ベタベタしたものではなくかなりサバサバとしたプロらしい「割り切り」が感じられるものなのですが、ちょっと面倒くさそうなラムは別として、他の二人とクローの関係なんかサバサバとしているからこそ、程よい距離感が居心地の良さをそれぞれに抱かせているようで、わりと仲良い感じなのは面白いなあ、と。
どうも、この人間関係はシリーズ進んでいくに連れて、色々と変わってくるようなのでその意味でも楽しみ。これまでのシリーズでも、最初期の関係がシリーズ終わってみるとまるで違うところに着地して激変していた、ということも多いので、このヘンテコチームがどう変わっていくのか、予想もつかずかなり興味深い。前作なんて、見たこともないくらい主人公とヒロインの関係がガチで険悪だったのが、ガチでロマンスな展開になったしなあ。
と、さらにおもしろいのがこのチームに新しく加入することになるもこもこ毛並みの狼の獣人であるニコルくんのキャラである。いや、ほんとにこの複雑怪奇なキャラ、どうやってキャラ付けしてるんだろうと思うくらい面白いわーw
ヘタレで弱キャラでおとなしく内向的に見せかけて、無自覚毒舌系。いや無自覚なのか? 作中のみんなも疑ってますけれど、つい正直に口をついてしまうと装って思いっきりわざと毒吐いてないか、こいつ? 卑屈で無礼、食い物に対する恨みは身内であろうと忘れず結構根に持つタイプで、しかもやたらと攻撃的で、何かあると「告訴しますよ、告訴!!」と騒ぎ立てる告訴キャラに仕上がってます、なにこれw
これだけ見ると凄まじく嫌なキャラに見えますけれど、周りの連中がいちいちちゃんと相手にしない曲者揃いなせいか、それともニコルくん自体の愛嬌のお陰か、おもしろキャラに仕上がってるのが凄いなあ。あとがきによると、ニコルくん、作者の旧作【チキチキシリーズ】の星秀に似てるんじゃないか、と仰られてますけれど、懐かしいな星秀くん! そう言われると親近感も出てきてしまいます。星秀くん、わりとクズだったような気もしますがw いや、あれで、女たらしの軽薄変態野郎だったけれど、あれで鳳月くんに対して友達甲斐はあったんだよなあ、うんうん。
第一巻はスタートということで、主だったキャラクターの紹介や人間関係、世界観やキーンホルツという特別な場所が置かれている現状などを描き出しつつ、現在進行形でキーンホルツに対して何かが策動している、という物語の始まりを感じさせる出だしで、盛り上がりには欠けるかもしれないけれど、長編らしい大きな巨体が身動ぎして閉じていた眼を薄っすらと開いた、みたいな感があって、はじまったというワクワク感を抱かせてくれる。さて、これも長期シリーズの醍醐味を味わわせてくれるだろうか。

それにしても、あのエルフとドワーフはちょっと人種違いすぎるんじゃないか、見た目的に!?

嬉野秋彦作品感想

剣魔剣奏剣聖剣舞 ★★★☆  

剣魔剣奏剣聖剣舞 (MF文庫J)

【剣魔剣奏剣聖剣舞】 嬉野秋彦/カグユヅ MF文庫J

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神より与えられし不壊の“神剣”とそれを駆る“剣聖”が祖国の威信をかけて戦う戦乱の時代。ラドガヴィガ王国から神剣を強奪した一匹狼の剣聖・リューインは美少女揃いの剣聖集団“絶華十剣”のひとり、ソーロッドの追撃を受ける。ソーロッドを軽くあしらって行方をくらました彼が逃げ込んだのは、王国と敵対するゼゼルク大公国の前線基地。盗んだ神剣をエサに大公国軍の食客となったリューインは、メガネっ娘書記官キリリクを引き連れ、ソーロッドがいる王国軍の要塞へ向かうが…?殺人、傷害、窃盗、脱獄、公然猥褻、覗きにセクハラ、あっちこっちでやりたい放題!?最強剣聖が世界を弄ぶ前代未聞の邪道戦記ファンタジー、堂々開幕!
うわぁ、凄まじく性格が悪い主人公だー。ちょっとえげつないくらい。
嬉野さんの書く主人公って、ズケズケとした物言いのキツイ性格のキャラが多いんだけれど、その人たちってお人好しでは全然ないんだけれど、決して性格が悪いわけじゃあないんですよね、キツイだけで。凄まじくキツイだけで。男女貴賎の区別なくキツイだけで。
ところがこの主人公リューインと来たら……悪い、本当に性格が悪い。嘲弄とせせら笑いがデフォルトみたいなヤツなんですよねえ。人の弱味や瑕疵となる部分を容赦呵責なくあげつらい、攻撃し、バカにして後ろ足で砂をかける。好んでヘイトを集めて回るような輩なのである。でも、言ってる事は往々にして正しくはあるんですよね。言い難いこと、わかっていても直視しがたい事を無神経に暴き立て、突き出し、煽り立てる。間違っていないからこそ、余計に感情を逆撫でするわけですけれど、立場もしがらみもない自由の身だからこその振る舞いでもあるんですよね。そこに、他者の目や評価、好意などかけらも価値を感じていない、という部分もあるのですけれど、これが悪かというとさてどうなんだろう。悪人か、というと断じかねるんですよねえ。
最初、悪人だー、この主人公は悪いやつだー、と思いながら読んでたんですけれど、読んでいるうちに悪党ではあるけれど、自分の欲望に素直なヤツだけれど、残酷で冷酷で人を人とも思わない無頼漢ではあるけれど、邪悪であるか、悪漢であるかというとちょっと違うのかなあ、と思えてきたわけです、思っちゃったんだなあ。
この作者が書いた作品だと、【神咒鏖殺行】という作品で、本物の人非人で極悪非道の外道という主人公を描いているので、それと比べるとリューインの中にあるのは邪な欲望ではなく、誰にも縛られない自由さ、というのが見えてくるわけで、悪人とは違うんじゃないかなあ、と。
それにもう一つ、神剣狩りを行う理由と目的が確固とした彼の生きる指針の中に組み込まれているようで、その中にソーロッドの存在があるようなんですよねえ。全然、彼女の好かれる気もなさそうなのに、どうして彼女を無理やり誓約によって縛り付けてまで、自分の傍に置こうとするのか。
まだこう、神剣や剣聖、国際情勢から人間関係まで、世界観の設定に関してこの一巻に関してはひたすらに広範囲に渡って種を蒔いて蒔いて、といった感じでとかく下ごしらえの回だった印象でした。
主人公のリューインは傍若無人の無法者だし、ヒロインのソーロッドと来たらこれまた、自分の大切な人たちに迷惑を掛けることを理解していながら、なお感情を制御しきれず気持ちに任せて暴走してしまう愚か者ときた。
前作のヒロインのヴァレリアも、急成長を遂げるまでは世間知らずのおバカさんだったけれど結構謙虚なところもあったんですよね。それに比べてこの娘は、バカに輪をかけて愚かだもんなあ。ちゃんと成長できるんだろうか、と心配になるんですけれど、この作者は女の子だろうと容赦なくアカンところはいやというほど叩いて叩いて矯正していく容赦なさがあり、実際ヴァレリアもそうだけれど立派な人間に成長させてるからなあ。そのへんの信頼感は結構あるので、とりあえずソーロッドが自分のダメっぷりをもう勘弁して下さいと想って心折れるまでリューインにイジメ倒されるのを待つとしよう。この主人公、嬉々としてそのへんに短刀突き刺してグリグリ捻ってくる人だし。

しかし、リューインの異名が【笑面飛虎】とか、【破軍明星】。【荊棘万刃】などの呼び名。それに、鉄鎖派など武林の流派が並び立っているあたり、名詞の多くは洋風なんだけれど世界観の様式としてはこれ、完全に「中華武侠」モノなんですよねえ。嬉野さんの武侠モノ、というだけでニヤニヤ笑いがとまらんですよー。
昨今、中華モノだとやっぱり書かせて貰いにくいのかもしれないけれど、じゃあ普通にファンタジーで、と皮を被って中身はがっつり武侠モノをやってくれるってのは、もうなんというか大好きです(笑
このタイトルも、インパクトあるなあ。それでいて、殷が踏んであって覚えやすいし。

嬉野秋彦作品感想

黒鋼の魔紋修復士<ヒエラ・グリフィコス> 134   

黒鋼の魔紋修復士13 (ファミ通文庫)

【黒鋼の魔紋修復士<ヒエラ・グリフィコス> 13】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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ディヤウスとしての己の出自を知った上で、その手でメルディエトを葬ったディー。彼の苦悩を包み込むかのように、ヴァレリアはディーと結ばれる。一方その頃、カリンと決着をつけたいと願うダンテと、ついにルオーマに直接攻撃をかける用意を整えたルキウスとオルヴィエトはユールローグを出立する。それぞれの相手を迎え撃つべく、カリンが、シャキーラが、そしてディーとヴァレリアが最後の戦いに臨む!大人気ファンタジーアクション、堂々最終巻!!

結ばれちゃってたんかーー! しまった、あそこから勢いで雪崩れ込んでしまってたのか。若いなあ。いや、ディーといえど身内を手に掛けた衝撃を受け止めるのに、ヴァレリアの愛情を肉の感触として必要としたのは仕方ない事なのか。元々覚悟を決めていたディーだけれど、家族だったルキウスとオルヴィエトに対するのに今回まったく動揺しませんでしたからね。その意味では、ディーにとっての至上をヴァレリアに揺るぎなく固定するのに、これは必要なプロセスだったのかも。
いやしかし、今に至ってなお、ディミタールとヴァレリアがこんなに情熱的なラブロマンスへと揺蕩う関係になるとは信じがたい結果ですよねえ。
第一巻を読んだ時の感想で自分、こんな風に書いてるんですよ。
ここから、二人に恋愛感情が芽生えるとか、まるで想像できんな!! あり得んよな!! あり得んだけに、見たくはなるんですけどね。想像できないだけに、そうなっていく時の過程がまた面白そうなんですよねえ。
まあ現段階ではやっぱり無いよなあ、というレベルの断絶が二人の間には横たわっているのですけれど。いやあ、無いよなあ。

ここから、あれだけどうしようもないくらい険悪だった段階から、本当にロマンスに至ったんだから本当にすごいですよ。それも、安易に一足飛びにではなく、一つ一つ積み重ね、徐々にお互いへの認識を変えながら、ですからね。まさに、険悪な仲から家族も国も敵に回しても構わないというほどの深い愛を抱くまでの過程を、余すことなくじっくり丹念に描き切って見せたのだから、感嘆の吐息をつかざるをえません。
その代わりと言っては何なのですけれど、一番可哀想だったのはやはりルキウスでしたね。彼自身、何も悪くはなかったのに、兄弟同然だったディミとたもとを分かつことになり、覚醒してしまうことで元の人格も殆ど変わってしまって、敵という立場に置かれてしまったわけですしね。
彼の真面目でちょっと苦労性で優しくて、イザーク王子に振り回されながらもテキパキと有能に仕事をこなしていくキャラクターは好きだったので、やはり可哀想だったなあ、と思ってしまうところであります。尤も、彼の性格からしてそんな運命ですら、割りきってしまった後となると粛々と受け入れてそうなのですが。いかんせん、彼には欲というものが良くも悪くも薄かったんだろうなあ。せめて、ティアルの想いに答えて忘れ形見を残してくれただけでも、良かったのか。

こうしてみると、色んな所で家族仲が深まったり、カップルうまく行ったりとわりと全体的にハッピーエンドなんですよね。
ついに全身鎧ガチャピンクから姿を現し、その容姿をイラスト化してくれたベッチーナ。以前、イザーク王子がその中身を覗いて驚いてたのって、そういうことだったの! イザーク王子も一目惚れだったの!? なるほど、それで自分以外顔見せないようにもっかい鎧の中に押し込めてたのね。
まさか、この世界でも有数の美少女だったとは。イラストの方も本当に可愛く描いてくれていて、嬉しい限り。まさに玉の輿で、ちゃんと正式にイザーク王子との婚約にまでこぎつけるに至るとは思わなかった。でも、頑張ってたもんねえ。
一番驚いたのは、カリンの好きな人でしたが。ちゃんと他に好きな人が居る、と言っていたけれど、まさかねえ。そう、好きな人が居るのに、自分に対して因縁を晴らそうとするダンテとちゃんとケリをつけに行ってあげるあたり、あれは優しいというよりもカリン男前って言うべきなんでしょうねえ。
いやしかし、まさかあの人だったとは。言われてみると、カリンの登場時からあれこれと絡んでいるので、そ、そうだったのかー、と思ってしまうんですけれど。でも、恋愛感情があると知ってるのと知らないのとでは、あれらの接触、見ても全然意味の捉え方変わっちゃいますよねえ。
ラムピトーもクロチルドも、順調に思いを遂げれそうですし、最大の問題は先送りとなり子孫にお任せとなっちゃいましたけれど、そこまで面倒は見きれんですし、概ねハッピーエンドだったんじゃないでしょうか。
長いシリーズでしたが、それに見合う濃厚で読み応えのあるストーリーで、大満足。次回作も既に準備済みということで、実に楽しみです。

シリーズ感想

黒鋼の魔紋修復士 12 4   

黒鋼の魔紋修復士12 (ファミ通文庫)

【黒鋼の魔紋修復士 12】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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教えてやろう。“ディヤウス”として生まれた意味を。

オルヴィエトの命により、各国の拠点破壊と神巫襲撃を続けるユールローグ一派。
それに合わせるかのように、ディーはかねてより自分を苦しめる悪夢の真実に気づき始める。
予断を許さない状況の中、ディー、ヴァレリアを含めたアーマッド首脳陣を招集した国王とシャキーラは、
ついに神聖同盟とレドゥントラの、本当の歴史について語り出す。
一方、虚無に囚われ圧倒的な力で殺戮を続けるルキウスにも変化が訪れ――。
真実、歴史、そして宿命が翻弄する第12巻!


なるほど、なるほど、そういう事だったのか。今までずっと謎だったオルヴィエトたちの目的とその動機が、アーマッドを始めとする国々が継承していた秘密や神巫の成り立ちとともに明らかになったことで、これまで意図がわからなかったり、意味が捉えられなかった出来事や言動がほぼ明快になったんじゃないだろうか、これ。ルキウスがどうしてあんな風になってしまったのか。なぜ、ディーが母親から殺されそうになったのか、についても明確な答えが。これは、どちらが悪とかそう単純な話ではないんだけれど、過去においては人間たちが、今においてはオルヴィエトたちが、様々なものを踏みにじってるんですよね。これで、ディヤウスとやらがまったく情を持たない存在だったとしたらもうちょっと割り切れるんだろうけれど、人間の持つ感情や価値観とは異なる理を持って動くのだといいながら、オルヴィエトにしてもメドウにしてもディーに対してちゃんと情らしいものを持っているだけに、決別せざるを得ない状況にやるせなさを感じてしまう。シャキーラとオルヴィエトにしても、本当にその間になんの友情もないままだったのか。その突き放せない、割り切れない繋がりこそが、この先のルキウスの対決に憂鬱さを抱かせる。ルキウス当人は元々すごく良いやつだったし、ディーとの友情や親愛は本物だったのに、その身の上やディヤウスに覚醒したことで立ち位置や価値観が変わってしまったが故に敵対することになってしまったけれど、彼個人には悪いところは何もなかったもんなあ。それでも、まだ本当に別人になってしまったのなら、人格から変わってしまったのなら割り切れるかもしれないけれど、ディヤウスになったからといって人としてのすべてが失われてしまうのかというと、オルヴィエトたちが緩やかながらそうと言い切れない態度をとっていることからしても、決して絆は全部切れてしまったわけではないのだろう。それが辛い。もう二人共、殺しあうことを覚悟し確信しているからこそ、尚更に。
もう、ディーは選んじゃってるしね。
人として、すべてを賭して守るべき、手放せないものをもう見出してしまっている。ヴァレリアとの関係、もっとラブラブになるかと思ってたんだけれど、嬉野さんのラブストーリーって意外とこう……愛が重たいのよね。【戦争妖精】の常葉さんとの恋愛や先生と叔父さんのそれもそうだったけれど、恋だの愛だのに浮かれている余裕がなくて、切実であり切羽詰まっていてそれ故に必死なんですよね。だからこそ、力強いとも言えるのですけれど。
素朴な正義感の持ち主で、国の事情や理不尽さによる不誠実さ、間違ったことに対して嫌悪を抱くような濁を飲むのが苦手であるヴァレリアが、ディーが傷つくと感じたら自ら手を血で汚すことを厭わないような、あの覚悟ですらない必死な想い。ヘヴィーな愛ですよ。
ヴァレリアって、もっと頭軽くて脳天気でふわふわしていたのをディーにメタクソに叱られ嫌味言われて怒られて、涙目でグギギギと悔しがっているのが当たり前だった娘さんだったのに。恋に恋するような女の子だったのに。
いざ本当に愛する人が出来てしまったら、ここまで女っぷりをあげてくるとは。もう、少女じゃないですね。神巫としての自覚や成長も著しかったけれど、ソレ以上に女として幾つも階段をかけあがってしまった。それが眩しくて、少し悲しい。
まだまだ二人して傷つくことが多く待ってイそうなんだけれど、なんとか二人には幸せになってもらいたい。切実にそう思う。
カップルというと、ベッチーナやクロチルドなど、わりとうまくいきそうな組み合わせがいるのに対して、カリンあたりはどうなんだろう。あとがきで、彼女には好きな人が居る、と明言されているんだけれど……。まーちゃん枠がこの作品にも存在するのにはびっくりしましたけれど。シリルとのあれは、読んでて変な声が出てしまった。クロチルドといい、けっこうイイ趣味してる人たちがいるものです。

シリーズ感想

黒鋼の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 11 4   

黒鋼の魔紋修復士11 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 11】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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カリン、シャキーラを一蹴しアーマッドを去ったオルヴィエトとルキウス。重鎮であったリヒテルナッハ家の罪を問う声は大きく、連座としてディーも獄中の身となってしまう。誰よりも信頼していたふたりを失い捨て鉢になるディーだが、彼の下を訪れたカリンから、同盟各国で起こる破壊活動にルキウスが加担していること、さらに自分への恩赦のため、ヴァレリアがイサークと婚約するという噂を知らされる。気持ちの揺らぐディーは決死の行動に出るが…!
えええっ!! ええんかい! 別にかまへんかったんかいっ! 衝撃の事実すぎて、変な笑いが。ちょ、この設定ってわりと重要というか、揺るぎないものだと思い込んでいただけに、シャキーラさんのあまりといえばあまりのぶっちゃけに、ひっくり返ってしもうたわ!
これ、絶対ディーとヴァレリアに教えたらいかんですわ。今のこの二人にこんな事実を教えてしまったら、歯止めがなくなるぞ。この男ならやる。今の此奴なら、躊躇いなくやる!!
しかしもう、嬉野さんの書く主人公というのは、前作の【彼女は戦争妖精】の伊織くんといい、マジ凄いわ。ライトノベルの主人公で、これほど女の扱いというものに対して容赦ないやつ、他に居ないよ。始まった時はさ、ディーとヴァレリアが、ラブロマンスに至るなんて有り得ねえ! と、喚いてしまうくらい二人の仲って最悪だったんですけれど、だからこそ嬉野さんならこの二人の恋愛、書くだろうなあと感じたんですよね。その予想というか直感を、思わず「やっぱり無いんじゃね?」と否定してしまいたくなるほど、二人の断絶は凄まじかったんですけどね。あれだけ容赦なく、ヒロインこき下ろす主人公とかw
でもでも、このあり得ないからこそやってくれたら面白くなるに違いない、と感じたのは間違いじゃありませんでした。最初の断絶が大きければ大きいほど、相手を認め、受け入れ、それがロマンスへと発展した時の激烈さ、濃厚さたるや、生半可なもんじゃありませんぜ?
だいたいあのディミタールが、普通にデレるとお思いか。あの男が、恋する男の子なんて可愛い顔見せるもんですか。デレたらデレたで、凄まじい獰猛さであるこの男。デレ方が人喰い狼みたいな獰猛さって、どういう主人公だよ。ヴァレリアが自分を助けるためにイサークと婚約するという噂を聞いた後のディーのとった行動を目の当たりにした時は、もう呆気にとられてしまいましたがな。あの冷徹と言っていいくらい冷静で、クレバーだった男があれですよ、これですよ。完全に理性焼かれてるし。頭おかしくなってるし。メーター振り切るにしても、ぶっちぎりすぎである。でも、こういう獰猛さはやっぱりカッコイイのよ。若いなあ、いいなあ。あれでディミタール、思いっきりテンパってるんですよね。テンパったら襲い掛かってくるって、獣か!!

しかし、シャキーラ様も思い切った手をとったもんだ。前回いい所なかったのを大いに挽回してくれた。さすがにここで国内でグダグダやってたら、致命的な事になりそうでしたもんね。イサーク王子の小細工といい、国王陛下の一刀両断の喝破といい、色々と煮詰まり行き詰まりかけてた雰囲気に、風穴があけられたような気分でしたよ。淀んでいた空気が吹き払われましたなあ。
同時に、これ王子とベッチーナのフラグが確定したような。イサーク王子とヴァレリアの婚約話、こうしてみるといろんな方向に影響力及ぼしてたのね。
でも、こうなるとルキウスの方がちょっとかわいそうになってきた。あんな状態になってるとはなあ。危なっかしいどころじゃないですよ。

シリーズ感想

黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 104   

黒鋼の魔紋修復士10 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 10】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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可哀相なディミタール。あの子には、過酷な運命が待っているでしょう――。

ダンテ逃亡の件でディルマに向かったカリンたち。
一方シャキーラの元を訪れたディーは、ヴァレリアではなく自分の紋章官にならないかと誘われる。
自身に下される危険な任務、そして、いまだ御しきれない左腕の暴走がヴァレリアを巻き込むことを懸念し思い悩むディーだが、
そんな折、ルオーマの中枢である魔法院から火の手が上がる。
その紅蓮の炎は、アーマッドに突如の訣別と大いなる混迷をもたらす戦いの合図だった――。
逃れられない宿命、第10巻登場!
ええええ!? これは、激震も激震。巻数も二桁に至ったところで、思いもよらぬ裏切りがディミタールを待っていたわけだけれど、こればっかりは幾らなんでも予想がつかなさすぎる。
今にして思えば、と振り返ってみることで伏線ともいうべき動向は幾つもあったんだろうけれど、そのどれもが後になって照らしあわせてみたらそうだった、というような事ばかりで、当時としては不審に思うこともなかった出来事や傾向に過ぎなかったんですよね。
そもそも、伏線だって事にすら気づいていなかった。最大の違和であったろう、オリヴィエがかつて神巫の候補者をいきなり降りて、結婚してしまったというのも彼女なりの事情があったんだろう、としか作中の人物の殆ども読者である自分も深く考えていなかったわけだし。その彼女なりの事情が、まさかこんな所でルキウスやディミを巻き込んで動き始めるなんて、想像もしていなかった。イサーク王子が、魔法院から徐々に権限を剥がそうとしていたのも、決して魔法院に何か怪しい動きがあったり、逆に魔法院が謀略を仕掛けられているというわけではなく、単なるイサーク王子の政治的バランス感覚の賜物であって、ルキウスやオリヴィエも特に反発している風でもなかったので、それらの件についても一切特別視してなかったんだよなあ。
そもそも、オリヴィエからして怪しい動きは微塵も見えなかったんだし。それどころか、ディミの家族として彼が捧げる献身に値する親愛を彼に寄せていたものだから、彼女に対して何らかの不審感を抱く、なんてことは本当に事ここに至るまでなかったんですよね。まあ、彼女のディミへの親愛は決して嘘ではなさそうなので、騙していた訳ではないのだけれど。
実際問題として、もしディミがヴァレリアの紋章官にならず、彼女と一緒に幾つもの事件を解決していくという「時間」がなかったとしたら、家族以外に何のしがらみもこだわりも持たない彼は、そのままオリヴィエたちと行動を共にすることを迷わなかったんだろうし。
すべては、ディミタールとヴァレリアが出会ってしまったことが運命だったのか。
いやしかし、前回でヴァレリアとディミ、二人共にお互いに対して火が付いてしまっていたのかもしれないけれど、今回の一件は否応なくお互いの気持を決定的なものにしてしまった。消えない炎になってしまった。二人共に平静で居られない激震の状況の中で、さらにヴァレリアの生命が掛かった選択の中で、ディミは何を選び、何を捨てるかの選択を強いられ、そして選んだわけだ。誰が一番大切なのかを、誤魔化しようのない決断として選んでしまったのだ。もう、これは燃え上がるしかない。
元々、内向的とは正反対の、苛烈なほど性格をした男である。正直、決断を下してしまった後の高まりすぎたテンションのせいだろうけれど、それでもあの生存本能を奮い立たせた結果の、強烈なまでの「この女は俺のものだ」という独占欲には滾らされた。この作者の主人公は、前作もそうだったけれど、この上なく冷静で強かで理性的にも関わらず、いざとなると女性に対して凄まじいまでに肉食系なのが、何とも頼もしい。

しかし、事は起こってしまったとはいえ、何が起こっているのか、オリヴィエが何を目的にしているのか、なぜあのルキウスが苦悩しながらも諾々と母に従ったのか。まだ何も明らかにされていないので、果たして何が起ころうとしているのかもわからないんですよね。尤も、世界を揺るがすであろう大事件の発生とは裏腹に、潔いくらいに主人公とヒロインはお互いを請い求める展開になりそうですけれど。濃厚と言ってイイ情熱的なラブストーリーですよ、これ。
1巻では絶対に有り得なさそうだった展開へと、見事に突入してきたなあ……。素晴らしい。

シリーズ感想

黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 83   

黒鋼の魔紋修復士8 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 8】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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あの女を馬鹿にしていいのはおれだけだ。
圧倒的な力を見せたギャラリナを逃がしたとはいえ、アーマッド一行は見事ロマリックの叛乱を鎮圧した。しかし妙に冷たいディーの態度の変化に、ヴァレリアはもやもやした思いを募らせる。そんな折、ビトーの神巫ソルグンナが亡命を望みアーマッドに逃げ込んでくる。
国家間の信頼維持のためソルグンナを返還したい首脳陣の意向に反し、臆病な彼女を助けたいと考えるヴァレリアだが、その気持ちがディーと決定的な溝を生んでしまい……!
謀略疾る第8巻!

イサーク王子、黒いなあ。確かにこの人、政治的に有効なら手段は選ばないだけの冷酷さは垣間見せていたけれど、いくら有効とはいえあそこまでの事をやらせるほどとは思わなかった。ただ、効果を考えると凄まじいんですよね。この一手で政治的劣勢が一気に覆ったどころか、その相手の政治的な立場すら足元から崩してしまったわけですから。正直、今回の対局者は誰が見てもやり手で隙の見えない辣腕の政治家であり謀略家だったと思うのですけれど、乱暴な手とはいえイサーク王子はこれを完全に上回ったと言えますね。
やはりプレイヤーとしては、イサーク王子という人は逸材ですわ。ただ、この人が本当に黒いな、と思ったのはこの一手をわざわざディミタールにやらせた所でしょう。彼に汚れ仕事を押し付けたことで、国内の政局に対しても色々と杭を打つ形になってるもんなあ。
ディミタールとしては、ヴァレリアをこうした権力の闇からは遠ざけたいところなんだろうけれど、なんにも知らないお馬鹿だと、いつ知らずに地雷を踏んでしまうかわからないし、しかし段々と現実の汚さを知るようになると、無邪気に憧れていた部分にも黒いものが蔓延っている事が理解できるようになってしまうわけで、気づく余地が増えていってしまうという事でもある。そして、このヴァレリアという娘は、そうした闇に対して自分の信じた正義を主張しちゃう娘でもあるんですね。お馬鹿のままでも賢くなっても、結局危なっかしいことには変わりないという二律背反。この娘の場合は、賢くなることは正義に妥協を強いる事とは異なっちゃってるからなあ。それに、ヴァレリアの正義って、大仰なものじゃなくてほんとに素朴で人間としての基本的な部分に根ざすものなんですよね。だからこそ、政治的判断という現実が往々にしてこうした正義を踏みにじるものだと理解し実践している人種から、ヴァレリアは……だからこそ、好まれている部分があるんですよね。何も知らず知ろうとせず、ただ善意を振りかざす者は蔑まれるけれど、ヴァレリアみたいにちゃんと勉強して現実の冷たさを思い知った上で、しかし芯を曲げない人というのは結構好意的に見られるんですよね。もちろん、苦言を呈し、皮肉で蹴飛ばし、現実を思い知らせて踏みにじったりするんだけれど、この作品でも彼女に対して本当に冷ややかに接する人って殆ど居ないんですよね。
とはいえ、まだまだヴァレリアは世間知らずで政治力学を本当の意味で理解しているとは言いがたい小娘で、だからこそ今回は今までで一番致命的な事をやらかしてしまうわけです。今まではわからないからこそ身の程を弁えて余計なことに首はツッコんでも、ディミくんにお伺いは立ててましたしね。
うーん、だとすると今回の暴走は変に距離を置こうとしたディミくんにも責任があるとも言えるんですよね。果たしていつも通りだったら、ヴァレリアもディミくんに事前に一言相談してたような気もするし。
……いったいこれ、いつの間にこんなラブロマンスになったんだ?
よほど前回のロマリックの内乱での絶体絶命の危機が障ったんだろうか。ヴァレリアのディミタールへの感情は、もっと迷いが絡んでたと思うんだけれど、今回の様子見てたら自覚は無いにしろ、少なくとも無自覚の上では完全に定まっちゃってるじゃないか。一方で、ディミタールの方も彼は彼でかなり変なことになってるし。
もし、ヴァレリアからの一方的な感情だったらば、ディーもあそこまで露骨に距離置こうとはしなかったと思うんですよね。いくらなんでもあからさまな上に露骨すぎて彼にしては下手を打ちすぎてますもん。前回、ヴァレリアが傷つけられてブチ切れていたのは、やっぱりそういう事だったのか。今回の台詞なんか見てたら、それ以上に、こう、独占欲みたいなもんが根ざしてるもんなあ。
まさか、本当にここまでロマンスになってくるとはなあ。1巻の時は、あまりの仲の悪さに果たしてこれ、恋愛感情芽生えるんだろうか、と本気で首をひねったものですけれど……。

シリーズ感想

黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 73   

黒鋼の魔紋修復士7 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 7】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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ボクは知りたい。“神"と“魔"、そして“魔紋"のはじまりを。

昏睡状態のヴァレリアを逃がすことには成功したものの、敵の手に落ちてしまったディー。
彼を連れ出したギャラリナは、それぞれの魔紋、そして神話について、不可思議な議論を求めてくる。
一方、街道が封鎖されたことにより混乱に気づいたアーマッド首脳陣は、
ガリード卿率いる軍の出陣に加え、ロマリックの魔法士に対抗するためカリンの同道を決定する。
“辺境伯"の野心が暴かれた敵地で、ヴァレリアとディーを待つ命運とは――!?
絶体絶命の第7巻!
ギャラリナさん、情に厚いのか冷酷なのか判断しづらいなあ。個人的にはあの弟をあの段階まで見捨てなかったのは十分情に厚いと思うところなんですけど。はっきり言ってアレ、使うにしてもメリットよりもあれが仕出かすトラブルとか損害を考えるとデメリットの方がどう考えても多いんですよね。姉弟だからって、決して姉を大事にしているとか愛しているという素振りもなく、本心では利用価値のある相手くらいにしか思ってないことも明白だし。それを、あそこまで見過ごしてあげたうえに、何度も忠告を繰り返してなお、それを徹底的に無視されて好き勝手やられたんだから、そりゃ切り捨てて当然です。切り捨てられて当然です。もっと早く切り捨てておけよ、とイライラしてくるくらいに、あのファティフという輩は最悪でした。もう此処まで存在がムカつく敵も珍しいですよ。こういう奴こそ、ディミタールの口撃でメッタメタに切り刻んでくれないと。結構ズタボロに言い返せずに顔を真赤にするほどネチネチ切って捨ててくれてましたけれど、それでも物足りないと思ってしまうくらいですから、ホントに最悪でしたよこのファティフは。
まあそれでも、思い上がったこの自信過剰野郎を真っ向から叩き潰してくれたディミタールはホント頼もしいったらありゃしません。捕まってどうなるかと思いましたけれど、彼のクレバーさは虜囚の身でも全く陰りを見せず。捕えられた相手がファティフなだけに何をされるかわからず、相当にハラハラさせられましたけれど。まあ一番生きた心地がしなかったのは、ファティフのおぞましさを身をもって体験したヴァレリアでしたのでしょうけれど。離れ離れになって初めて、というわけでもないんだろうけれど、こうしたディミタールが危ない、という形で別れ別れになったケースは初めてだったはずで、そうなって見て改めて今のディーとヴァレリアの関係みたいなものが透けて見えてきた気がします。ってか、この二人の関係っていつの間にか当初から随分変わったよなあ。それだけヴァレリアの成長というか、心構えが見違えてきたんだろうけれど、ヴァレリアを傷つけたファティフに対してディーがあれだけ憤怒してみせたのは、決して仕事上の都合だけではないはず。いや、怒ってた、あれは怒ってたから。一方のヴァレリアも、捕まったディーの心配の仕方を見るとねえ……あながち、ピンクの妄想も下衆の勘ぐりじゃないんじゃないかね。
正直言って、ヴァレリアとディーは性格的に合わないし、ぶっちゃけ相性悪いと思います。喧嘩や言い争いは絶えないでしょうし、喧嘩するほど仲がいい、などと言うにはディーの口の悪さはアレすぎますし。この二人が甘い雰囲気になるなんて、今もって想像だに出来ないんだけれど、嬉野さんって意外とビターテイストだったり、渋目の恋愛を書いちゃう人なので、ディーとヴァレリアの行く末については色々と期待しちゃうなあ。
うん、改めて見てもヴァレリアって面白い娘ですよね。聖人君子でも何でもない短気な娘なのに、普通の人でもまともに付き合えないようなディーに対して、逃げず避けずずるもせず、真っ向から言われたことに対してなんぼのもんじゃ、と向き合うわけですから。あのカリンが、マジでヴァレリア不慮の方に顔色をなさしめていたことからもわかるように、意外と人望があるというか、他人を寄せ付けないタイプの人間に対して案外受け入れられてるんですよね。カリンさま、本気でヴァレリアのこと友達だと思ってたんだ。結構今回、友達のピンチに果断に動きまくってた気がします、カリンさま。

さて、状況が動いているようでハッキリと今まで先が見えてきていなかったこの作品ですけれど、ギャラリナが残した示唆は、この作品の最終的な目標というか、倒すべき敵の姿がようやく見えてきた気もしますし、果たして相手はそんな超常の相手なのか。それより、国と国との質の悪い駆け引きの合間に、ヴァレリアたちが突っ込まされ続ける展開が続くんじゃないか、とも思えますし……いや、やっぱり何も見えてないじゃんw

嬉野秋彦作品感想

黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 63   

黒鋼の魔紋修復士6 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グリフィコス) 6】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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“紋章魔法"VS“邪術"! 緊迫の第6巻登場!

アーマッド南部の大都市、ロマリックを訪問することになったヴァレリア。“神巫"の行幸という形式ゆえに、同行するのはごく少数の護衛と侍女に限られることを懸念したディーは、ルキウスに頼みティアルを一行に加える。アーマッドに併合されたという歴史のため、独立の気運が強いロマリック住民の視察、慰撫を目的として現地を訪れた一行だが、ロマリックと裏で通じるビゲロウの者たちの罠が、彼らを陥れようと待ち構えていた……!
あれ? これはディミタールは自分の判断ミスと思ってるようだけれど、あそこでヴァレリアが付いてくると言ってきたのを跳ね除けて宿に置いて行ってたら、これ最悪の事態になってたんじゃないかしら? ヴァレリア、完全に殺されてたでしょう。
結果としてディミタールがヴァレリアの責任感に絆されたのが正解だったわけですけれど、これは知らず知らずとはいえ相当に綱渡りのところを歩いていたんだなあ。こればっかりは、ロマリックとビゲロウがこれほど密接にコンタクトを取っていたと把握していなかったアーマッドの情報網にも問題があるのだけれど、ビゲロウの密偵の実行部隊の中に論理性の破綻した殺人鬼が混ざっていて、誰もコントロール出来ていなかったところまで予想していろ、というのはさすがに酷か。ただ、ディミタールが純粋な護衛官として専念出来ていたらもうちょっと何とかなったのかもしれないけれど、ディミって使い勝手が良いせいか、何かと諜報官紛いのことも任務として請け負っちゃってるので結構出先で二重三重の任務の重複が起こってるんですよね。彼、優秀ですから両方を並行してこなしてはいるんだけれど、思い返してみるとヴァレリアの側を離れるケースはわりとあったんですよね。ヴァレリアが度々自分から首を突っ込もうとしなければ、その頻度はもっと増していたかもしれない。
図らずもそのお陰でヴァレリアも政治や統治のウラ舞台について見識を深める事にもなり、ただのお飾りの神巫に留まらない成長を遂げており、ディミタールも当初と比べてヴァレリアについてはだいぶ認めてきている節もあるので、悪いことではなかったのかもしれないけれど、でも同じ人物にあれもこれもと仕事をやらせようというからには、どこぞで齟齬が出てくるもんなんだよなあ。こればっかりはその人が優秀であるとか有能であるというのは関係なく、その人が人数として一人である、というところが問題なのでどうしようもないんだが。
それにしても、あのオカマは久々に癇に障るというか、こいつは盛大にやっつけてくれないとストレスが溜まって仕方ない、という悪人だったなあ。いや、実際これほど任務実行にも支障が出る上に、外交関係や国家戦略まで台無しにしかねない無軌道で思慮に欠けた振る舞いをする人間を、好き放題やらせてしまっているという時点でこの姉のギャラリナもどうかと思う。この愚弟に愛情なんて感じていないようだし、一族も持て余しているみたいだから、現場指揮官の判断としてちゃんと処断しないのは、果たして甘さなのか何らかの思惑があるのか。正直、任務の邪魔ばかりされていい加減キレそうなもんなんだけどなあ。

そして、まさかの絶体絶命のピンチ。今回の行幸についてはさして危険もなし、と油断していたのでこのハードな展開は予想外だった。ディミがああなってしまった上に、ヴァレリアも人事不省となるとベッチーナ頼りになるんだけれど、ガチャピンクじゃとてもじゃないが頼りにならねえ!! あとはティアルさんがどこまで働けるか、というところだけれど、本職メイドのこの人じゃ事態を全面的に打開するのは厳しそうですし……ここはヴァレリアの復活と大活躍を期待するしか無いのか。というか、ティミ不在のここでしょう、ヴァレリアの見せ場は。頑張れ、女の子!

シリーズ感想

黒鋼の魔紋修復士 5 3   

黒鋼の魔紋修復士5 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 5】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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忌まわしき記憶にふりそそぐ、“永世神巫"の光――。大人気シリーズ第5巻!

アーマッドが誇る“筆頭神巫"シャキーラの里帰りのため、護衛に就く封印騎士団。その中には、紋章官になる前のディーの姿が――【永世神巫と落第騎士】
国王より、静養先から帰還する王妃アルムデーナの護衛を命じられたディーとヴァレリア。一方その裏では、ルキウス率いる“青の右手"にも密命が下され――【蜜月の終わり、雨の日に】
甲冑娘ベッチーナが抱える切ない事情――【花々の宴、夏の日に】
本編を結ぶ、重要な三編のエピソードで贈るシリーズ第5巻!

【永世神巫と落第騎士】
ディミタールがどうして封印騎士団を退団するはめになったかという大人の事情のお話。案の定頭が悪くて度し難いほど愚かな貴族の坊ちゃんが絡んでいたか。意外だったのは、ディミタールがもう少し冷酷な立ち振舞に徹するかと思っていたところをかなり甘い対処に甘んじていたところ。あっさり見捨てると思ったんだがなあ。いい意味で彼はドライだと思っていたので、生かしておいても害しかなさそうな連中は消極的に始末していてもおかしくないと考えたんだが。もっとも、それが彼の温情かどうかはわからない。むしろ、恩ある叔母や従兄弟の為に自重して危ない橋を渡らなかった、と見たいところだけれど。
しかし、こういうくだらない連中が蔓延ってたんじゃあ、イサーク王子があれこれ封印騎士団の改革に乗り出そうというのもよく分かる。役に立たないどころか害悪にしかならないものなあ。たとえ、貴族からの集金機関として割り切るにしても限度というものがあろう。その点、集金機能を保ったまま実践能力をもたせようというイサーク王子の目論見は非常に食えないなあ、と感心させられる。

【蜜月の終わり、雨の日に】
王妃を囮に、進行している陰謀を暴き出そうという国王陛下の謀の尖兵として働くことになったディミタールとヴァレリア。何だかんだと華やかな仕事よりも裏方仕事が多いヴァレリアである。それも、ディミタールという使いやすく潰しの効く駒があるからこそなんだろうけれど、きっちり役割を果たせるようになっているあたり、お飾り同然だった当初と比べてかなり使えるようになってきたな、巫女様。しかし、生々しい現実をきっちり把握できるようになってきたとはいえ、その素朴な正義感はいささかも陰っていないのは、ディミタールが口うるさく現実を教えながらも、変に穢れてしまわないように気を使っているからとも言える。何だかんだととても大事にされていることを、ヴァレリアもあれでちゃんとわかってるんですよね。わかっているからこそ、悔しいんだろうけれど。だからこそ、彼に認められたいんだろうな。

【花々の宴、夏の日に】
なんでよりにもよってガチャとイサーク王子にフラグ立ってるんだ!?(笑
いやいや、そのつながりはあまりにも予想外だった。だって、ガチャだぜ? 未だに誰も中身を見たことのないという鎧の小娘に、なんでイサーク王子とのフラグが立つと思うか。まあ、実際はあまりにも身分違いすぎてどうやったってくっつきようもなく、ガチャも自分の恋が夢物語だとわきまえているし、イサーク王子に至っては別にガチャをそういう目で見てすらいない。ただ、イサークが素の顔、油断したというか余裕のない顔を見せたのは本編含めてもガチャが絡んだこの話が初めてなだけに、恋愛感情は抜きにしても結構本気でガチャとの人間関係は大事に思っているフシが在るのがまた意外。何気に王妃さまがガチャを気に入っているだけに、本当にただの夢物語で終わるかどうかは、まだまだ予断を許さないかもしれない。

嬉野秋彦作品感想

黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 4 3   

黒鋼の魔紋修復士4 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 4】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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その牙は幼く、汚れなく。彼女こそ--“いつわりの神巫"

隠されていたディーの紋章魔法により辛くも危機を脱したヴァレリアたち一行は、ユールローグの手の者を追いハイデロータの都・オーリヤックへ向かう。一方、国王の命を受けたイサークも今回の内紛に乗り出していくことに。ハイデロータとの関係を優位に進めるため、イサークとともに仲裁役としてユールローグへ向かったヴァレリアたち一行だが、そこにはディ-と死闘を繰り広げたあの少女の姿が……! “神巫"の誇りを懸けた戦いが、いま幕を開ける!
えええ!? クロチルドってそうだったの!? 無能な王子に振り回されて、要らない苦労を強いてられている可哀想な子、と思っていたら、どうも自ら好んで苦労を買っていた模様。なんだ、ダメ男属性だったのか。なまじ出来る女だと、出来ない男の子を可愛く思ってしまうものなのか。
いやでも、シジュベールくん、イサーク王子と比べると頭の回転も遅いしプライドばかり高くて空回りしているし鈍くさいし、といいところ無しの無能王子に見えるんだけれど、実はヴァレリアたちが思っているほど無能じゃないんじゃないかな。少なくとも、クロチルドのサポートをキチンと受け入れて機能させているというだけでも完全な無能とは言いがたい。本当の無能は周りがどう頑張っても全部台無しにしてしまいますからね。その点、シジュベールは足りない所だらけだけれど、その足りない部分をクロチルドによって補えているし、目に見える形でクロチルドの足を引っ張るようなマネはしていない。結構頑張り屋な側面も見受けられるし、その頑張りが無能な働き者という無残な方向に向かっていないだけでも評価に値する。ハイデロータの王族貴族のレベルが総体的に低いことから見ても、シジュベールはそこそこイケてる方なんじゃないかな。そう考えると、クロチルドの男を見る目も趣味もそれほど悪くはない気がする。
だいたい、結果としてみると今回イサーク王子の方がやらかしちゃってるんですよね。彼がわざわざ独断でハイデロータとユールローグの内紛に首をツッコんだ理由を鑑みれば、むしろ彼がでしゃばったお陰でやぶ蛇になってしまってるんですよ。その口八丁手八丁に遠大な戦略眼や捻くれた謀才によってハイデロータとユールローグを引っ掻き回し、いいように振り回していいとこ取りをしたように見えるイサーク王子だけれど、最後に油揚げを掻っ攫ったのはとんだ間抜けを晒し続けていたシジュベールだった、というのが何とも面白い。
クロチルドの助言があったのかもしれないけれど、意外と抜け目なかったじゃないですか、シジュベール。正直、かなり見直した。

とまあ、国同士の影に日向にの激しい駆け引きが続く中、巫女であるヴァレリアやカリンたちは否応なくその渦中に取り込まれていく。巫女それ自体が政治的な象徴を担っている以上、戦力として以上に象徴として相応しい行動を取らなければならない、というものなんだけれど、大変なお仕事だなあと感心してしまう。その政治的な象徴に徹してもいいはずの巫女さんを、積極的に活用しまくるイサーク王子も王様もまあ強かな人たちである。まあ他の国の巫女たちも、見る限りは使えるだけ使い倒されているので、有能なものはそれだけ酷使される運命なのだろう。逆に言うと、これだけ良いように使い倒されているということは、ヴァレリアもそれだけ使える人材と認められているとも言えるんですよね。術だけはよく使えるけれど、実践力も見識も何もないだけの巫女さんだったらば、それこそお飾りにしか出来ない、というかお飾りにして安置しておかないと下手に失われてしまったら困ったことになりますからね。幾ら補佐につくディミタールが有能とはいえ、限界もあるでしょうから。
そのディミタールの嫌味と皮肉と罵倒と嘲りが入り混じったお小言も、ここ最近はめっきりなくなってしまいました。いくらディミタールの口が悪くても、無理やり粗をほじくりだして罵ってくるような人間ではないので、ちゃんとしてさえいれば何も言われないのです。実際、傍から見ててもヴァレリアは先立っての世間知らずなお嬢様が嘘みたいに、キチンとしだしていますし。まあ冒頭からこの子、向上心はたっぷりありましたし、ディーの悪口にもめげずナニクソと努力を欠かさない子でありましたから、この成長は当然といえば当然なのでしょうけれど、それでも大したものです。反発が少なくなりお互いを認める機会が増えてくるに連れて、ヴァレリアとディーの間にも段々ともにょもにょっとした空気が流れるようになってきましたし、これは進展も期待できる状況になってきたのかしら?
きな臭い国際情勢と合わせて、二人の関係にも要注目。

嬉野秋彦作品感想

黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 33   

黒鋼の魔紋修復士3 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 3】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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クロチルド――ハイデロータに咲く、誇り高き“鋼鉄の白薔薇"

セリバ・ビラノバの件のねぎらいのため、国王ジェフレン一一世より王宮に招かれたヴァレリアとカリン。
その最中、同盟国ハイデロータから、新たに神巫として着任した彼女たちを正式に披露するよう催促の書状が届けられる。
アーマッドを目の敵に軍拡を推し進める相手の目論見を察しながらも、あえて二人を差し向けることにする国王とオルヴィエト。
イサーク率いる“封印騎士団"も共にした、この外遊の背後に潜む陰謀とは!?
混迷へ向かうシリーズ第3巻!
ヴァレリアとカリンのあの衣装については、やや露出過多な薄手の衣装、で全然納得できるんだけれど、このハイデロータの神巫用の服は完全に下着に軍服の上着だけ、にしか見えないっすねえ。しかもハイレグ仕様w
さて、そんなハイデロータですが、アーマッドとは同盟国にも関わらず、虎視眈々と同盟内での第一勢力を狙っている良からぬ野心に身をひたしている不穏な国であると同時に、内政の方も軍事優先で治安も悪化しているという、なかなか困ったちゃんの国なのでした。これが歴とした仮想敵国ならば堂々と警戒すればいいものの、なまじ同盟国であるだけに相応に気を遣わなければならないのがまた厄介な話なのである。時に、味方であるほうが面倒で鬱陶しくて邪魔な存在って、ありますよねえ、うんうん。まあウンザリするような厄介な味方に振り回される、ほどには我がアーマッドも素直でも純朴でもなく、むしろ一癖も二癖もある食わせ者が国王やイサーク王子、国の上層部に揃っているのは頼もしい限り。逆に、ハイデロータと来たら下は優秀でも頭にあたる人材は清々しいほどの無能揃いのようで、そういう無能集団の中では逆に優秀な人材というのは余計な苦労を背負ってしまうものらしい。表紙絵にもなっているハイデロータの神巫であり「疾風騎士団」の副団長であるクロチルドは、文句なしに優秀な逸材のようなのだけれど……まあ、無能王子に振り回され足を引っ張られ、とこれはこれで見ていてかわいそうになる苦労っぷりである。これでディミタールやイサーク王子みたいに「イイ性格」をしていたら、口八丁手八丁でハイデロータのバカ王子を操って自分のやりやすいようイイように出来るんだろうけれど、どうもこの子は堅物の生真面目ちゃんのようで……要らん苦労を背負っているご様子。もうちょっと強かさを身につければと思うところだけれど。もう一人のハイデロータの神巫の子も、ヴァレリアの方がまだだいぶマシだと思えるくらい、神巫としての自覚の足りない子のようで、足を引っ張ってますしねえ。
こうして見ると、ヴァレリアとディミタールは相性悪いように見えるけれども、これはこれで悪くない組み合わせだったのかもしれない。一巻当初と比べても、ディミタールがヴァレリアを容赦のない正論で打ちのめすシーンも減りましたし……いや、ホントにだいぶ関係穏やかになりましたよね!?
それというのも、ヴァレリアがあれだけてひどく罵倒されながらも、指摘された件についてはちゃんと律儀に次の機会には直すようにしてたからなんでしょうね。この子、確かに世間知らずで無知で考えは浅いし頭の回転も決して早くはないんだけれど、怠惰では決してないんですよ。むしろ勤勉で直向きであることは疑いようがない。普通、たとえ正論だったとはいえあそこまでディミタールに悪し様に言われりゃ不貞腐れそうなものだし、実際ヴァレリアもあの言い草には反発し怒り心頭で、そりゃもうギスギスしまくった関係になってたんだけれど、それでもディミタールの言い分が正しいことはちゃんと認めて、負けず嫌いもあったんだろうけれど指摘された不見識の部分を一生懸命補填しようと努力してるんですよ。
そうしたヴァレリアの努力と向上心、そして確かな成長はディミタールもちゃんと見ていて、自然とヴァレリアへの苦言も減ってきてるんですよね。いやあ、ディミタールがようやくヴァレリアを認めてくれだした日には、なんだか嬉しくなってしまいましたよ。この子への罵倒はそのまま読んでるこっちにもダイレクトで突き刺さるようなものばかりでしたしねえ。
そんなこんなで、ディミタールの辛辣な性格はヴァレリアを外敵から守る方へと比重が置かれ……こいつの性格のキツさって、敵に向かい出すと頼もしいってものじゃないですねえ。もう、ギッタンギッタンだもんなあ。
当初はこの二人が仲良くなるなんて姿、想像も尽きませんでしたけれど……現状でも恋愛関係になるなんて思いもよらない状態ですけれど、それでもなかなか相棒同士としては良い形になってきたんじゃないでしょうか。少なくとも、ヴァレリアはキツい事ばっかり言ってくるけれど間違った事は決して言わないディミタールに対して、そりゃもう苦手だし嫌いだし色々勘弁して欲しいという気持ちはあっても、信頼出来る相手、あれだけズタボロに貶されちゃあ繕うものも纏えなくて素で接する事のできる相手として、受け入れ出しているような雰囲気になってきているような気がします。なんか、こいつに認められたい! という気持ちになってきているような……。
それって、何だかんだと肯定的な関係なんですよね。わりと、ヴァレリアがころっと行く日は近いのかもしれない。
さて、物語の方はというと、ハイデロータの内紛にヴァレリアたちが巻き込まれた形になってきているのだけれど……ぶっちゃけ、アーマッドの立場からすると現状のハイデロータ政府よりも、反乱軍の支援した方が良い気がするなあ。裏でこう、上手いこと工作して。バカな相手のほうが対処しやすいとは言っても、制御不能なほどのバカになると、手に負えなくなりますしねえ。とは言え、優秀すぎても困りものなんですが。イサーク王子がそのへん、どうするつもりなのか、彼の次に打つ手がなかなか興味深いところである。

1巻 2巻感想

黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 23   

黒鋼の魔紋修復士2 (ファミ通文庫)

【黒鋼(くろ)の魔紋修復士(ヒエラ・グラフィコス) 2】 嬉野秋彦/ミユキルリア ファミ通文庫

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妖艶なる“氷のまなざし”――カリン・ルドベック出戦!
最低最悪の相性ながら、何とか初任務を成功させたヴァレリアとディー。その一件から“魔紋”を消す力の存在を知ったイサークは、ディーの愛剣ジャギエルカの開発者であるキケから、かつてともに“魔法工学”を研究していた人物の情報を入手する。そしてその者が滞在していたというビラノバへ、ヴァレリアたちに加え、もう一人の“神巫”カリンを派遣することに決めるのだが――!
正反対の二人の“神巫”が、“神聖同盟”を取り巻く暗雲に迫る第2巻!

あのヴァレリアの「〜〜だし」という語尾が思いの外頭悪そうな印象を付与するのに効果を発揮してるんだよなあ。何を喋っていても、この語尾のお陰で言葉が軽くなり、どれだけ一生懸命発言しようとも薄っぺらなイメージばかりが重ね塗りされていくのである。さり気ないけれど、この印象操作はなかなか見過ごせない。実際は中身の無い言葉しか語らなくても、喋り方が知的に見えるだけで何か意味深い言葉を発しているように見えてしまうように、ヴァレリアだってもっと普通のお嬢様っぽい喋り方だったりしたら、ディーにやり込められる姿にももう少し違和感やディーへの反感が付きまとったかもしれない。そう考えると、ヴァレリアのキャラクターというのは見事なくらいにバッサリ切られるための仕様にカスタマイズされている。

ヴァレリアって、ホントにあそこまでディーにギッタンギッタンに言われるほどどうしようもないアホの子じゃあないんですよ。そりゃ、認識は甘いし世間知らずだし察しは悪いし自分の立場がよくわかってないところは多々ありますが……なんか見てて身につまされるんだよなあ。人間誰でも、一を聞いて十を知る、なんて出来るわけじゃないんですよ。一から十まで全部聞いて、やっと半分解かるくらいが精々の人だってたくさんいるんです。自分とか! そんな、解って当然、事前に準備してて当然、それぐらい察して当然、みたいな顔しないでください。そりゃ、努力がたりないのは事実です。やるべきことを何もしてなかった、何をしていいのかもわかってなかったというのもその通り! 悪いのは自分であって、要求を満たせないのは自分であって、別に無理難題を言われているわけでもなく、自分のできる範囲のことをしっかりとやれ、と言われているのも当然わかるんです。能力的なものじゃなく、単純に心構え、心掛けの領分なんですよね。才能とか関係ない、仕事への姿勢や向き合い方の問題。
それがわかるからこそ、ヴァレリアだってキャンキャンと犬みたいに吠える事なく、ぐぬぬ、と悔しさと恥ずかしさを噛み締めてうつむくほかないんですよね。もう、その姿が身につまされて身につまされて……胃が、痛いです先生(笑
彼女をアホだの無能だのと軽蔑したり罵ったりするのは、モロに天に唾するような行為なので、とてもとてもw
むしろ、一緒になってディーのザクザクとナイフで切り刻むような辛辣な指摘の数々に、ヴァレリアと一緒になって涙目です。もう勘弁して下さいw
さらに、今回はカリンというヴァレリアと同期で同世代で同じ神巫という実にわかりやすい比較対象が居るために、どうして彼女にはできているのにお前は出来ないんだ? という強力極まりないボディーブローがこれでもかと叩きこまれて、完全にグロッキー状態。
よくまあ、ヴァレリアは心折れないよなあ。
むしろ、元々は普通のお嬢様なのに、あれだけ普通に隠密働きが出来るカリンのほうが変なんですよ、うんうん。などと、自分を慰めないヴァレリアはそれだけで偉いと思う。いや、この娘ホントに偉いですよ。確かに今は何にもできないし、自分のできる範囲のことすらちゃんとできていないんだけれど、そもそもこんな影働き、どころか現場や実戦とは縁のない世界で生きてきたヴァレリアには、何が自分にできる範囲のことで、意識を高く持つにしてもいったい何を意識すればいいのかもわからない。絶対的に知識と経験が足りていないわけです。でも、それを絶対に言い訳にはしないんですよね。出来ないことを当然と開き直らずに、この娘は恥ずかしいと思い、悔しいと唇を噛み締めてみる。勿論、滅茶苦茶バッサリと言ってくるディーのことはもうむかついて仕方ないんだけれど、言っている内容について反発したり拗ねて受け入れなかったりすることはしないんですよ。
確かに、今は「使えない奴」なのかもしれませんけれど、きっと「今は」にすぎないんでしょうね。時間は掛かるかも知れませんが、あれだけ自分を恥じる事のデキる子が、負けず嫌いでめげなくて反骨心にあふれた子が、いつまでも現状にとどまっているとは思えませんし。
ディーは、優しくしろとは言いませんけれど、いつかは認めてやってほしいなあ。
それに、本当にどうしようもない子だったとしたら、あのカリンが友達付き合いしてるわけないですもんねえ。一時は、ヴァレリアが一方的に友達だと思い込んでいるだけで、カリンは全然友達だとか思ってないんじゃないかと心配もしたのですが、ラスト近辺の様子を見ていると思いの外カリンの方もヴァレリアの事信頼している、というか親友として心を預けている節が伺えて、安心したというか肩の荷が降りたというか。いったいどれだけヴァレリアに共感だか肩入れしてるんだか(苦笑 だから、ヴァレリアは仕事は出来ない子かもしれないけれど、ちゃんと気配りも出来て勇気もあり決断力も身を賭す気力も、友を慮る優しさもある、いい子なんですよ。普通はそっちが強調されるんだけどなあ……嬉野さんの手にかかると、見事にメッタ打ち要員に(笑
なんかこう、カリンにしてもディーにしても、あの皇太子様にしてもみんな並外れて「デキる」人達ばっかりなだけに、ヴァレリアみたいな子はある意味癒しでもあるんですよねえ……別にヴァレリアみたいな子が正論で論破され辛辣にされて涙目になっているのが好きだとかそんなんじゃないんだからね♪
同じ出来ない人でも、今回の哀れな黒幕さんみたいな自意識ばっかり肥大してしまった人は、目を覆わんばかりの痛々しさばかりが募って、共感どころじゃないからなあ。あれこそはヤラレ役である。しかし、あの御仁への言い方を見てると、ディーって単に口が悪いだけじゃないのかとも思えてくる。いや、実際単純に口が悪いだけなんだろうけどw

で、肝心のヴァレリアとディミタールの関係だけれど……なんか、さらに仲悪くなってないか?w
カリンの方も、相棒で従姉妹の魔紋修復士の人と微妙に仲良くないというか、ギスギスまではしてないけれどえらくサバサバとして距離置いた関係なんですよね。こいつら、こんなんばっかしかよ(苦笑

一巻感想
 
12月2日

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11月27日

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11月26日

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11月25日

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11月18日

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11月17日

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11月16日

(アース・スターノベル)
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11月15日

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11月12日

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11月11日

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11月10日

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11月9日

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11月6日

(角川書店単行本)
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11月5日

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