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富士見ファンタジア文庫

ロクでなし魔術講師と禁忌教典 18 ★★★☆   



【ロクでなし魔術講師と禁忌教典 18】  羊太郎/三嶋 くろね 富士見ファンタジア文庫

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タウム天文神殿、メルガリウスの謎ーー決戦の時、来たる!

天の智慧研究会が、帝国に宣戦布告! フェジテに迫る危機を前に、頼みの切り札・セリカが姿を消した。向かう先はタウムの天文神殿。そこで待ち受ける最高指導者・フェロード=ベリフ。その、驚愕の正体はーー

グレン・レーダスにとってセリカ=アルフォネアとは如何なる存在だったか。
命の恩人であり、育ての親、魔術の師であり、彼が正義の魔術師を目指すきっかけとなる憧れの人だった。
家族であり、母だった。最も大切な人だった、と言っても良い。
そんな彼女が別れの手紙を残して姿を消した。しかし同時に王都を壊滅させた死者の軍団がフェジテに迫る。ここで追いかけなければもう二度とセリカには会えないだろう。しかし、彼女を追いかけるということは、フェジテに迫る破滅を前に教え子や友人たちを残していくということ。
グレン・レーダスは究極の選択を迫られた。その選択に正解はない。どちらを選んでも、生涯傷痕として残る後悔が刻まれる。
それでも、彼は選択した。苦しみ藻掻きながら、心を切り刻まれながら、魂を根こそぎ削り取られるような喪失感に耐えながら、それでも選んだのだ。
痛みを抱える覚悟を決めて、一生悔やみ続けることをわかった上で。二度とあの人に会えないと理解した上で。
それでも選んだ。
後悔の恐ろしさを知っている彼が、それでもさらなる後悔を刻みつけた。
尊ぶべき決断である。敬すべき取捨であった。
最後まで選ぶことができずにズルズルと流されてしまう事もできただろう。自分にはどちらも捨てられないと、意味なく抗う真似をして誤魔化すこともできただろう。
それでも、グレンはきっちり選んだ。それを、彼の成長だというのは、余りにも酷だろうけれど。
でも、彼が選択したからこそ、その大切なものを選別する選択を強要する状況そのものをひっくり返す皆の好意に、価値が生まれたのだ。
何も選べないまま、一方的に選択肢をなくされて送り出されるのと、自ら選択した上で自分たちは大丈夫だから行って来い、こちらは任せろ、と背中を押され託される事とはやはり根本から価値が異なってくるじゃないですか。
信義の問題である。グレンはそれに応え、それに応じて皆もまた信じて義を通して返した。それが彼を究極の選択から開放してくれた。
今まで積み重ねてきた信頼の、友情の、帰結である。長い長いシリーズ物の中で一人ひとり積み重ねて築き上げてきた人間関係の結実でもありました。長期シリーズの醍醐味でもあるんですよね、こういうのって。短いお話の中ではなかなか積み上げられない蓄積です。

しかし、最終的にパーティーはやはりグレンとシスティとルミアになるんですね。リィエルは、どうしても剣姫との対決、剣の究極にまつわる因果が待っているし、イヴはもう軍指揮官としての能力が極まってしまっているのでそちらの役割をどうしても求められてしまっていますし、立場上離れられないのは仕方ないのですけれど。
それに、黒幕との因縁を考えるとどうしても対象はルミアとシスティになってしまいますし。

そのシスティは、再生怪人じゃないけれど、死者から復活したあのジン=ガニスと再戦することに。ジンというテロリストは、システィが本格的に実戦に参加することになったきっかけとも言うべき人物であり、実戦の……殺し合いの恐ろしさをシスティに刻み込んだ人物でした。恐怖に押し潰されたシスティは実力を発揮しきれず、精神的に踏み躙られ泣き喚いて命乞いまでする羽目になった相手である。初期のシスティの精神的な弱さを象徴する相手でもあり、天才と呼ばれていてもシスティはあくまで一般人の少女に過ぎなかったことを示す相手でもありました。この頃のシスティは、グレンが抱えている闇にもルミアの秘められた過去もとてもじゃないけれど向き合える娘じゃなかった。戦いにも真実にも耐えられるような心の強さを持ちえていなかったんですね。
それなのに、本当の殺し合いの中に放り込まれて矜持も夢も意思も何もかもがぐちゃぐちゃに踏み躙られた。その相手こそが、ジン・ガニスだったわけです。
システィーナ=フィーベルがもう幼い小娘ではなく、一人の魔術師であることを改めて示すにはもっとも相応しい相手だったと言えるでしょう。システィの成長をこれ以上なく実感できる相手でした。
もう彼女は本物の魔術師であり、一人の戦士なのですから。今や特務分室の一員に加わっても遜色ない、と皆からお墨付きを得られるほどの、覚悟と実力を兼ね備えた凄腕の超一流の魔術師へと至ったシスティには、かつて自分が怯え逃げ惑ったテロリスト崩れなどもはや敵にもならなかった。ここまで手も足も出させずに一蹴するまでに、実力が隔絶しているとまでは思わなかったけれど。
命乞いをするジンを、一顧だにせず処理するシスティの冷徹さには正直痺れました。もうこの娘を、少女とは呼べないなあ。
黒幕フェロード=ベリフの正体についても、向こうから明かされる前に気づいて、正対することになっても動揺することなかったことも、システィの精神的な成長を感じさせて余りあるところでした。

しかし、ここに来て本格的にクゥトルフ神話要素が強くなってきたな。ジャティスのあの狂気に満ちた正義も、元来のものであるのは確かだけれど、外なる神の情報を直視してしまった事によるSAN値の欠損だと考えれば、よくわかるんですよね。
それ以外にも、歴史上において狂気に侵されたという重要人物たちも、SAN値が減少していき最終的に削れきってしまったと解釈できますし。あの鉄心のアルベルトをして、言葉にして出せずに精神に支障を来す素振りを見せるとか、通常の狂気とはどこか異なっていましたし。
魔王が王家に仕掛けてきた計画など、邪悪を通り越して狂気ですらありますし。
これまで幾つも仕掛けられてきた伏線が次々と明らかになり、この世界に、歴史に沈められてきた秘密が、真実が浮き彫りになっていき、狂気がすべてを覆い隠していく展開はまさにクライマックス。
いや、まだ最終段階に足を踏み入れたところ、なのかしらこれ。
セリカが思い出した真実とは、何よりセイカの本当の正体とは。まだ肝心な所が明らかになっていないだけに、こっからが本番だ。


古き掟の魔法騎士 1 ★★★  



【古き掟の魔法騎士 1】  羊太郎/遠坂 あさぎ 富士見ファンタジア文庫

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「ロクでなし魔術講師と禁忌教典」羊太郎、新シリーズ!

「お前の王道を見せてみろ」――伝説時代最強の騎士と謳われると同時、野蛮人の異名を持つシド=ブリーツェ。キャルバニアの若き“王子”によって復活を遂げた男は、魔法騎士学校の教官として、新たな生を決意する。

いやいやいや、全然野蛮人じゃないじゃん! せいぜい、物腰がワイルドで口ぶりがぞんざいというくらいで、いわゆる粗でも野でももちろん卑でもない。ぶっちゃけ、イラストがもっと見た目蛮族なおっさんだったら、野蛮人呼ばわりも仕方ないかなと思わないでもないけれど、細マッチョの爽やか黒髪イケメンですし。
まああくまで野蛮人というのは、伝説で伝わる異名ですので現在に蘇った彼を見て評された呼称ではないのですけれど、それにしてもむしろ性格も全然野蛮っぽくないんだよなあ。
堅苦しい所がなく自由人っぽいのは宮仕えしてる騎士には確かに見えないのだけれど、怒鳴ったり威圧したりせず、常に落ち着いた言葉で語りかけてくる当たり温厚そうにすら見えますし、いつも騎士たる者云々と騎士格言を口癖みたいに口ずさんでいるあたり、ちょっと騎士好きすぎるだろうというくらい騎士然としてるんですよね。
その騎士格言も、武や強さ云々に関わるものではなくて精神性、心構え、騎士としての在り方を語るもので、騎士道の探求者であり体現者であることを常に志しているような高潔さが見え隠れするんですよね。
旧主から頼まれて仮の主君となったアルヴィスへの対応も、これまた非常に柔らかい。
あくまで主君に頼まれたから守るのであって、忠誠を誓っているわけではない、と前置きしておきながらも、アルヴィスを試すような真似をしたり旧主と悪い意味で比べたりせずお前なんぞ主人とは認められんなあ、と突っかかったりせず、ほんとに仮ですか? と言いたくなるくらい親身に接してくれるのである。いい加減な対応は絶対にしないんですよね。
紳士的ですらある。
いやほんとに、どこに野蛮人要素が?

なぜ彼が伝説で悪名を謳われるようになったのか、忠誠を誓いながらなぜ主君アルスルに討たれる事になったのか。今なお結ばれるアルスルとの約束とは。など、彼の過去にまつわる謎、秘密に関しては今回では語られることはなかったのですけれど、いやほんとになんでこの人が野蛮人なんだ?

ちょっと面白いのは、千年近く前の伝説の騎士が蘇った、という突拍子もない話がわりと普通に受け入れられてしまっている所なんですよね。
シドの正体を隠すことなく、むしろ喧伝する形でアルヴィスが王家に伝わる秘術でシドを復活させ、騎士に列っした、と公に明らかにしているのである。それを、誰も嘘だと思わず疑わずに、シドに対する感情はともかくとして、彼が本当にシドであることについては誰も文句は言っていないのである。
千年も前の騎士が蘇る、そんな出来事が普通に受けいれられてしまう土壌が、この世界観にはあるわけだ。妖精がその身を変えて形作ってくれた妖精剣を騎士たちが身につけ、魔法が存在し、古き盟約が今も息づき、亜人や巨人、半妖精が人間と別け隔てなくヒトとして生きている世界。この世界は神話・伝説とまだ地続きの神秘が当たり前のように残っている世界に見えます。
未だ神代に片足を突っ込んでいる時代。そんな中では古き騎士の復活というのは滅多とない奇跡でありつつもあり得ないと疑うほどの出来事ではないのでしょう。
大概の異世界ファンタジー世界は、神話時代が遠くに去ってしまった時代なことが多いので、こういう時代感はちょっと新鮮でふわふわした感触がしていいなあ。

物語は、アルヴィスが男装の姫ながら弱き民を守る王としての資質を見せ、シドから真の忠誠を得るまで。シドが真の騎士としての在り方を、未熟で落ちこぼれの従騎士たちに示し、彼らに騎士として教官としての真の尊敬を得るまで、のお話。なんですけど。
アルヴィスについては最初から覚悟決まっていて、常に自分らしくあるままで、それをシドもわりと最初から好ましく見ていたので、彼らが真の主従となるのはわりと順当な流れだったんですよね。
むしろ、自分こそがアルヴィスの騎士であるとシドに反発し、しかし自分の未熟さを痛感して挫折しかけ、それでもシドに叱咤されて立ち上がる、というアルヴィスの幼馴染であるテンコの方が紆余曲折たどってるんですよねえ。
他の従騎士仲間たちのメンツは、まだちょい役すぎて名前もキャラクター性もあんまり覚えられず。この段階で、この中からあれを出してしまったのはちょっと早計だったんじゃないだろうか。まあ紛れ込んでいたという形である以上、長く居着いているとすぐバレてしまう、というのはあったのでしょうけれど、ほぼ衝撃としてはなかったわけで。もっと、長く親しく付き合ってたら、衝撃度も高まっていたのでしょうが。
しかし、この王国、王家にろくに権威も戦力もなく、戦力的にも政治的にも三公爵家が牛耳ってるのって、しかもどの公爵家も自家の利益しか考えておらずに王家にとって変わる気満々で、王国全体のこと全く考えてない、って現在魔国とほぼ戦争状態にも関わらずこれは亡国一直線すぎるでしょう。
王家の影響力を拝して国政を牛耳ろうとするにしても、あまりにも雑な力押しすぎて、ただの無能じゃないのか、こいつら。権謀術数の欠片もないじゃないか。
おかげで、アルヴィスが頑張ればそれだけで王家の権威と発言力がある程度以上取り戻せてしまったのですが。

結局、向こうの黒幕の思惑もまだ全然見えてこず、何人かの敵サイドの人間の動きを見せている分相手がどういう体制をとっているのか、よくわかんないんですよね。アルスルとシドの過去もまだ不明のままだし、取り敢えずは主人公サイドのメインの顔見せと立ち位置の構築、が主だった一巻だったと見るべきでしょうか。


オーク英雄物語 2 忖度列伝 ★★★★   



【オーク英雄物語 2 忖度列伝】  理不尽な孫の手/朝凪 富士見ファンタジア文庫

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オークの英雄は次なる花嫁候補を探すためエルフの国へ――

『大切なもの(童貞)』を捨てるため、旅をするオークの英雄バッシュはエルフの国を訪れ、衝撃の事実を知る。「異種族との結婚がブームらしいっす!」英雄は千載一遇のチャンスを掴むことができるのか……。

長寿を誇るエルフですら、生き残っているものは最長老含めて全員戦時中の生まれで戦争がはじまる前の世代が残っていない、って本当に長い間戦争やってたんだなあ。
お陰で戦禍によって種族としての伝統文化的な蓄積も消え失せてしまい、エルフ特有の選民意識、上から目線の排他主義も、マウント取るための根拠となる知識も何もかも喪われてしまったために、変なプライドの高さも解消されてしまった、というお話は面白かったなあ。
また千年も経てばプライドもすくすく育つに違いない、とは明言されているものの、今のエルフたちは謙虚に自分たちから喪われたもの、足りないものを認めて、足場を固めようと精力的に動いているわけで、良い意味でさすがは森の賢人、という立ち居振る舞いである。
というわけで、短期的に人口を増やすために他種族との婚姻を推奨するお触れが出されたこともあり、大規模な結婚・出産ブームが訪れているエルフの国にナイスなタイミングで入国することになったオーク英雄のバッシュ。
オークとエルフと言えば不倶戴天の敵同士、とも言える種族関係なんだけれど、前のヒューマンの国もそうだったけれど戦時中の遺恨は極力残さずに平和になったんだから、新しい関係を築こうよ、という考えになっているのは正直感心してしまう。
もちろん、オーク種族への警戒や忌避感はあるんだけれど、バッシュが普通の態度取っている限りは変なイチャモンとかも付けてこずにちゃんとした旅人としての対応してるんですよね。
最初に不老長寿のエルフですら、戦前を知らないほどに続いていた大戦争だったんだなあ、という感想を持ちましたけれど、それほどの戦争が終わってエルフですら知らない平和が訪れた、というのはどの種族にとってもとてつもなく偉大なことだという認識があるのかも知れません。どの種族も、ひとりひとりからこの平和を何としてでも続けていきたい、という心構えみたいなものを感じるんですよね。そのために、戦時中の各種族が他の種族から抱かれていたイメージを根底からひっくり返すようなイメージチェンジを皆が自ら図っている。エルフたちはその点、特に顕著ですけれど、他の種族も多かれ少なかれそういう面が見られるんですよね。
バッシュも彼個人として特に気をつけている部分はありますけれど、オーク種族としてもオークキングからの命令として、他の種族が禁忌としているような行為については行わないように改善を志して、意識改革を進めていて、他種族との融和を図っているんですよね。バッシュだけが異端、というわけではなく、あくまで彼は最先端ではあるけれどオーク種族の方針の上にあるわけで。
それに対して、ヒューマンやエルフなんかもオークという種族の性質に深い理解を示していて、彼らの譲れる部分譲れない部分に対してちゃんと認識していて、尊重もしてくれている。だからこそ、オーク側からの歩み寄りについてもしっかり受け止めてくれてるんですよね。
バッシュがどれだけジェントルマンな態度に終始していても、それを理解して許容してくれる下地が他の種族になければ、忖度なんてしてくれませんからね。
こうしてみると、各種族ともに折角辿り着いた平和を維持するために、凄く意識を働かせて努力している様子が伺えるんですよね。それだけ、皆が平和を望んでいる、という風にも取れるわけだ。

バッシュの嫁取り行脚は、何の因果か、この戦後の平和の中に再び芽生えかける種族間の不和を解消し、再び戦争に発展しかねない発火点を、ボヤのうちに消化してまわる火消しの役回りになっているんですよね。おかげで、オークの英雄だったバッシュはどんどんと全種族にとっての英雄、平和の守護者になっていっているのがなんとも面白い。
本人、そんなつもりないのにね。
ただ、本人にそんな高尚な目的はなくても、バッシュの人格そのものが皆から敬意を抱かれるのにふさわしい紳士であり誇り高い戦士であり誠実な男性であることは疑いようのない事実なので、彼が英雄であるのは誤解でも勘違いでもない、というのは錯誤のポイントがこの手の勘違いものとは違っていて面白いなあ、と。

そう言えば、今回のヒロインであるサンダーソニアも、かなりバッシュと似た立ち位置で忖度を受ける側なんだよなあ。当人は紛れもなく英雄たる心ばえの持ち主なんだけれど、誤解や勘違いから色々と忖度されてしまい、生き遅れて相手にも恵まれない、というあたりなんぞは特に。
秘術によって延命していて、エルフの中でもガチの最長寿なロリババアでなおかつメスガキ属性、という所は大いにポイント高いですよ、サンダーソニア。
一巻のヒューマンのヒロインと違って、ソニアさんはキャラの濃さといい立ち位置といい、この人が目下のメインヒロイン筆頭候補っぽくて、今後も登場してきそうなのでちょっと楽しみ。いや実際、この人がヒロインでいいんじゃないだろうか。ただ、今の所バッシュとの絡みはまだ限定されてるんですよね。クライマックスで共闘していましたし、戦時中には因縁もあり、と下地はあるんですけれど、落ち着いている時に普通に会話する機会なかったもんなあ。
ただ、バッシュと普通に話をするようになってしまうとそのままゴールインしてしまい兼ねないので、そのあたり難しいところなのかも。


キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦 9 ★★★☆   



【キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦 9】 細音 啓/猫鍋蒼 富士見ファンタジア文庫

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「さぁ燐。あなたは帝国に侵入なさい」――帝国潜入作戦、開始!

王家『太陽』の策略で、帝国へと拉致されたシスベル。そんな彼女を救うべく燐は、イスカたちを尾行する密偵として帝国へ潜入することになり!? 『魔女』を生み出す地で、災厄が胎動する。帝国潜入編、作戦開始!

嫌ですぅぅ! とガチ拒否したにも関わらず、無理やりアリスによってイスカたちに同行して帝国に送り込まれることになった燐。王宮守護星としてアリスの傍に常に侍る任務に就いているが故に、この女まるで自分が潜入工作員として送り込まれるとは夢にも思ってなかったのよね。
イスカとともに帝国に潜入する手段と人選のために考慮すべき条件を得意げに並べあげていたときは、てっきり自分に任せてください、と言っているのかと思ったんですよね。それくらい、燐が一番相応しい潜入条件だったもんなあ。いや、そんな条件あげたらアリスなら燐を指名することくらいわからんかったのか、このメイドさんw
アリスに心酔して忠誠を誓っているわりには、嫌なことはいやーー!と拒否るメイドさんである。もちろん、聞き届けてもらった試しはない。
というわけで、イスカたちと共に帝国サイドに潜入してシスベルを救出することになった燐であるが、まーなんというか主も主なら従者も従者である。
アリスと一緒にいるときもアリスがあんまりにも酷いから目立たなかったものの、一緒になってやらかす事も珍しくなかったので燐もアレだなあ、出来る女に見せておいて根本的にダメ娘だなー、というのはわかっていたものの、単独行動を取ることになってよりポンコツが際立つことに。
なにかと騒動を起こしそうになる燐に、イスカたちは揃って振り回されることになる。確か、イスカたちを尾行して帝国に侵入するという体裁のはずなんだが、とても放って置けずに面倒を見るイスカやジンたちがお世話様ってなもんだこりゃ。まあ、ここのチームはミスミス隊長のお世話で、トラブルメーカーの面倒をみるのは極めて慣れきっているのだが。

ともあれ、皇庁のヒュドラ家と通じてシスベルを連れ去ったのが、どうやら帝国中枢の公の指示ではなく、正式な命令系統からハズレたところからのものであり、シスベルが連れ込まれた先も中央から追放された研究者のもと、ということでどうやら内部で権力争いをしている皇庁と同様に、帝国の方も天帝ユンメルンゲンのもとに意思統一されているのは表向きで、こちらも派閥が分裂して主導権争いが生じていることが、今回の話で明らかになるわけだ。
具体的には八大使徒と天帝とで勢力が分裂しているんですね。使徒聖は天帝直属の戦力として数えられているけれど、イスカが天帝の正体を知らなかったように使徒聖もどうやらついている勢力がそれぞれ異なっているようで、璃洒が天帝の側近として動いている事は発覚したけれど、これ八大使徒側についてる連中も多いんだろうな。
というわけで、対立構図が単純な帝国対皇庁というものでは表しきれなくなっているのが段々と浮き彫りになってきているんですね。ヒュドラ家が八大使徒側とつながり、イリーティアもそちらへ寝返ったように。或いは形を変えてみるとイスカたちは明確にアリスたちルゥ家ともうこれ協力関係にあると言って過言ではないくらい密接につながっているし、今回でユンメルンゲンもイスカとルゥ家の関係に首を突っ込んできたわけですし。
これは対立構図の再編が起こり得る状態になってきたんじゃないだろうか。今回のはぐれ研究者のお姉さん、一発キャラでしたが状況の整理の触媒として機能したとも考えられるか。
シスベルは、もうちょっと引っ張られてしばらく捕まった状態になるかと思いましたけれど、捕まったままだと十八禁どころじゃない事になりそうだっただけに、早期に救出されることになって良かった。まあもうちょっと口に出しては言えない状態になっていても良かったんじゃ、と言ってしまうのはマズいですか?
しかしシスベルって、イスカにご執心というふうに見えるし本人もそのつもりなんだけれど、いつの間にか以前から何かと一緒に行動するようになったジンに対しての態度が妙に温度あるものになっている気がするんですよね。ジンてば対応が冷たいように見えてあれで親切極まる気配り上手なので、知らず知らずにハマってしまうのもわからなくはないんだよなあ。わりとミスミス隊長もジン寄りのところあるし、シスベルもジンの方に走ってしまってもいいんじゃないだろうか。
あの姉と張り合うのは無謀というかやめといた方がいいですし。何しろ、相手の盗撮写真枕元に隠し持って夜な夜なハアハアしてるヤバい人ですしねえ。
ちなみに、それが親バレしてガチ泣きするはめになってる次期女王であった。まんま、エロ本を親に見つけられて没収されるの図じゃねえかぃw
あと、さらっとミラベア女王、ショタの性癖暴露してるんですけど!!  美少年趣味を勢い余って口走ってるんですけど! 大丈夫か、女王陛下!?
……ルゥ家に皇庁を任せてはおけない! というゾア家とヒュドラ家の考えは実は間違っていないんじゃないかしら、と思えてきた今日此頃。


放課後は、異世界喫茶でコーヒーを 5 ★★★★   



【放課後は、異世界喫茶でコーヒーを 5】 風見鶏/u介 富士見ファンタジア文庫

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「小市民さん、そのナイトを誰にも渡さないでいただけませんか」

冬がすぐそこまで迫る頃。昼間営業に戻ったユウの店は実に穏やかだった。気がかりなのは、治療魔術師になるための勉強で忙しいリナリアとの空いた距離。そんな折、次々とユウにチェスの勝負をしかけてくる輩が現れ?

暖炉に火が灯る。
しんと痺れるような冷気を、炎の揺らめきがじんわりと温めていく。
冬の到来を感じさせると同時に、ドアをくぐればぬくもりと静けさとコーヒーの香りが迎えてくれる、そんなユウの喫茶店の雰囲気を味わい深く伝えてくれる、そんな冒頭の情景描写でありました。
前巻から長らく積んでしまって間が空いたのですが、一気に雰囲気に持っていかれた、そんな感じです。そういえば、前巻は歌姫の到来もあって随分とにぎやかなことになっていましたが、そんなお祭り騒ぎから一区切りついて、落ち着きが戻った静かな空気感を印象づける意味もあったのでしょう。
季節がかわり、冬が来て、どこかより人恋しさを感じさせる空気の冷たさが、感傷を強めていく。

リナリアが街を出る。

夢を追うために、治療魔術師になるために、受験の準備に忙しいリナリアはもう滅多に店に顔を出すことはない。それが、ユウの感傷を強めたことは否めないだろう。
突然異世界に放り出され、元の世界を恋しく思いながら故郷にしがみつくように「喫茶店」という形で拠り所を求めたユウ。やがてその店は、様々な客たちの居場所になりユウはマスターとしてそんな訪れる客たちの人生に触れていく。
時に客と店主の領分を越えて踏み込み、彼らの人生に関わっていく。そうして、ユウはこの世界、そして人との繋がりを深めていった。その一つ一つの出会いやエピソードは元の世界に未練を持ち、頑なにこの世界と深く関わることを拒絶して店に籠もっていたユウの心を解きほぐしていく。
いつしか、店の外に出て街を見渡すことが増え、覚えようとしなかったこの世界の文字についても、歌姫から送られてきた手紙の返事を書くために、ついに常連客のアイナに家庭教師を頼んで覚えていくことを決断する。それが、元の世界への未練に区切りをつけ、この世界に自分を刻みつける一因になるとわかっていても。
この世界に馴染んでいく。この世界の人々に愛着と親愛を抱いていく。そんな実感はユウの心に暖かな火を灯す。さながら、冬の暖炉のぬくもりのように。
でも、寂しさは不思議と募って消えることはない。この世界に馴染めば馴染むほど、元の世界との繋がりが断たれていくような感覚を得て。望郷の念は消えない。
チェス、という元の世界でもよく遊び、祖父に学び、結構本格的に研鑽を積んだ趣味。今回の話では、とある名職人の作による駒にまつわるチェス勝負に巻き込まれるユウだが、そこで拠り所になったのは元の世界での研鑽だった。彼の強さの担保は、元の世界での積み重ねだ。
しかし、その経験がチェス勝負の重要な武器となり、ひいてはアイナの結婚話に深く足を踏み入れることになる。或いは、アイナが目指す夢にまつわる話、というべきか。
無理やり意図せずこの世界に送り込まれたユウ。強制された未来、という意味ではアイナの望まぬ結婚話というのは、ユウにとっても見過ごせないものだっただろう。かと言って、客と店主の関係でそこまで無造作に踏み込むことはできない。それでも客としてではなく友人として、チェス勝負はまさにできる範囲のことだった。
そうして、ユウはこの世界に出来た友人の人生に、将来に、自ら進む道に手を貸すことが出来た。
彼の喫茶店は、そしてそこでカップを磨きながら客たちを迎えるマスターの存在は、幾多の人々の居場所となっている。翼を休める止り木として、掛け替えのない場所になっている。彼に背中を押され、自分の人生を選んで歩いていく人たちがいる。
そうやって、客たちの休める場所を提供し、彼らを送り出し、そうしてユウはふと寂寥に襲われるのだ。それは1人で故郷を恋しがりながら閉じ籠もっていた頃とはまた違う、親しく思う人たちが多く出来たからこその、世界と繋がったからこその、孤独。
誰かの居場所になれた自分を顧みて、しかし自分自身の帰る場所はここにあるのだろうか、という疑問。自分の人生を見つけて、旅立っていく親しくなった人たち。いっときここに留まったとしても、いずれ離れていく人たち。送り出す立場が、より彼の孤独感を深めていく。
リナリアの旅立ちが近づいているのも、ユウの心に大きな空隙をうみはじめているのでしょう。彼女の未来を応援しながら、しかし彼女の追いかける世界はこの店に居続けるユウにははるか遠いものである。日々がすぎるごとに、彼女は自分から離れる準備を進めていく。
コルレオーネ氏の、過去にまつわるお話が挟まれたのも、大いに意味のある構成なのでしょう。あれもまた、離れがたく思いながら人生を別かたれた物語だ。
彼女が街から居なくなる日が近づいている。別れは近い。

暖炉の前で丸くなってるノルトリが、完全に猫で癒やされました。てかこの娘、客じゃなくてもうただの飼い猫だろう、これ。


好きで鈍器は持ちません! ~鍛冶と建築を極めた少女は、デカいハンマーで成り上がる~ ★★★   



【好きで鈍器は持ちません! ~鍛冶と建築を極めた少女は、デカいハンマーで成り上がる~】 山田 どんき/希望 つばめ 富士見ファンタジア文庫

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一撃必殺の冒険譚! 鈍器少女の圧勝劇!!

万年落ちこぼれの少女ハンナが冒険者学園を追放されたある日、目覚めたのは鈍器の才能! 竜を倒したり、店を建てたり、国を救ったり――憧れの剣姫レイニーに追いつくため、今日も元気にハンマーで成り上がる!

タイトルの「好きで鈍器は持ちません!」って、鈍器なんか持ちたくない!って意味じゃないのこれ? いいのか?
ちなみにハンナ自身は、鈍器に目覚めたのは冒険者学園を追い出された後ではあるのですけれど、鈍器に偏見や嫌悪があるわけではなく、行き倒れ寸前だった彼女を助けて仕事を与えてくれた大工職人たちへの恩義や親愛もあって、鈍器を振るう事にちゃんと誇りを持っていますし、鈍器に対して偏見を持つ世間に対して憤りを感じているほどなので、タイトルちと中身とハズレてるよなあ。
そもそも、鈍器スキルに目覚めた以上大工としてなら幾らでも栄達を目指せそうなハンナが冒険者を再び目指したのは、育ての母で世界最強の冒険者であるエルフのレイニーを助けるため、というこれまでの目標以外に、世間にはびこる鈍器への偏見、ひいてはハンマーなどの鈍器を扱う職業の人たち、大工や鍛冶職人といった人たちへの見る目を変えるため、人々から蔑まれ差別される彼らの立場を向上させるため、自分が鈍器を振るって英雄となり鈍器の地位そのものを上げるため、なんですよね。
崇高な志である。
まあ、鈍器を司る神が邪神扱いで、魔物たちを操る存在の大元であり、今現在世界の討伐対象真っ盛り、というあたりが世間の風当たりの強さに繋がっているのですが。
いや、人々の生活に根ざしている社会に必須な建築や道具の作成に携わる職人たちが、被差別階級というのはなかなか無理がありそうなんですけどね。建物や道具を作る人が犯罪者があてがわれたり、といった人たちなら、幾ら経っても技術レベルも向上しないだろうし、これらの技術が上がらないと生活レベルそのものが酷いものになってしまうんじゃないだろうか。社会にそんな扱いをされたら、職人たちも向上心なんて持てないだろうし、どれだけ頑張っても報われないどころか虐げられるばかり、となると、ねえ。

現在進行系の世界の危機にまつわる邪神絡み、というのもまたマズい。直接的な危害を食らっているわけですし、脅威を感じているわけですしね。鈍器を扱う人たちには直接関係ないとはいえ、この偏見や差別は相当に根深いものになっている。これを果たしてどうやって覆していけるのか。
統治者階級や、英雄だった人が一番熱心に差別を推進し、正義を謳ってこれらの人々を虐げることに勤しんでいるのですから、権力や権威がそのまま敵に回っているのですしねえ。
しかも、相当に悪辣なやり方で。尊厳を踏みにじり、相手を全否定する形で。
ハンナは楽天家、というかいい意味でも悪い意味でも鈍感で前向きな娘であり、気っ風の良いカラッとした娘なのですが、それは自分がやられた事をさっぱり忘れられる、というのとはまた違うんですよね。虐げられ踏みにじられた者は、それをした側と違ってずっとその屈辱を、悔しさを、怒りを忘れられない。それは、ハンナのような娘ですら変わらない。
学園で自分をいじめていたローザを、謝ってきたからといって容易に許さずにいる所なんぞは深くうなずいてしまう。ローザは謝ったと言っても、仁義通してないもんなあ。とはいえ、本人は本当にハンナと仲良くしたいという気持ちを持っているのは確かなので、微妙にハンナが絆されているのもわかるんですよね。
でも、セシルはだめだ。その父親の学園の理事長はもっと度し難い。当人達は正義をなしているつもりで、実際は傲慢で自分の価値観以外を認めないし許さないという狭量さ、そして他人を貶め尊厳を踏み躙って正しいことをしていると胸をはる悍ましさ。自分の卑しさ、醜さに気づきもせず、理解する気もない厚顔さ。
これを、どう矯正しようというのだろう。いっそ、ハンマーで叩き潰してしまった方がスッキリするんじゃないだろうか。叩いて治るもんじゃないだろうし、もし叩いたくらいで治ってしまうのなら、改心してしまうのならそれはそれで興醒めってやつである。
こういう連中こそ「ざまぁ」を食らわせてやらないと、スッキリしないです。というか、もういいから有無を言わせずぶん殴って叩き潰した方がスッキリしそう。心入れ替えられたら逆にもやもやしそうです。
全体的に大雑把というか雑というか、世界観適当風味なんですけれど、主題として偏見差別に立ち向かう、というちょっと気合入ったお話にしている以上、雑に改心しましためでたしめでたし、とはしてほしくないなあ。
いいからぶちのめせよ、とは言わないから改心するにしても、安易にせずしっかり納得できる形でケリをつけて欲しいものです。

世界一かわいい俺の幼馴染が、今日も可愛い ★★★★  



【世界一かわいい俺の幼馴染が、今日も可愛い】 青季 ふゆ/Aちき 富士見ファンタジア文庫

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してみますか? ハグでも。……幼馴染ですから。

ネットから小説家を目指す高校生・米倉透。優等生の浅倉凛に片想い中だが、幼馴染という距離感が邪魔して告白できずにいた。
ある日透は、小説を投稿した後SNSに思いを発信する。

『俺は幼馴染が超超超大好きなんだああああーー!!!!』

以来、クールな凛の態度が変わりはじめて……。
手料理を振る舞ってくれたり、映画デートに誘ってくれたり、「私とハグ…してみますか?」とのお誘いも!?
「勘違いしないでください。あくまでも、疲労回復のためです」
「……(その割には準備万端だな)」
あと一歩素直になれない幼馴染たちの純度100%青春ラブコメ!


幼馴染というだけで幸せなら、そこからもう一歩進んだ関係になったらもっと幸せになるんじゃない?
と、思って幼馴染から恋人にジョブチェンジしてみると、なんかぎくしゃくしてしまって、というパターンの話があったりするけれど、本作の透と凛の二人についてはそれは絶対ないんだろうな、という確信がある。
それだけ、彼らは幼馴染から恋人に至るまでの過程を丁寧に歩んでいったから。幼馴染の恋を、しっかりと育んでいたから。
幼馴染キャラとの関係の利点というのは幾つもあると思うのだけれど、そのうちの一つが「理解」だ。ときに、幼馴染は家族を越えた理解者だったりする。熟年夫婦なんて言われることもあるけれど、透と凛の場合は空気のように馴染んだ関係、とはまた一味違う関係だ。
お互いがお互いの事をずっと見続けた関係だ。この歳にして、今までの人生の大半を相手と寄り添って生きてきた関係だ。相手のこと、幼馴染なのにわかっていなかった、と悔やむ場面が二人共にあるけれど、そんな事はない。誰よりも、幼馴染のことをわかっていて、考えていて、ちょっとした変化にも気持ちの上下にも気づくくらい、相手のことばかり考えていた二人だ。決して、致命は見逃さなかった。ピンチに陥ったとき、いつも急いで駆けつけてきて助けてくれたし、手を握ってくれたし、叱咤し声援を送ってくれた。
それは、お互いに抱きしめ合うように支え合う関係だった。
素晴らしいのは、それがお互いに依存になっていない所なんですよね。二人の中で完結もしていない。幼馴染のために生きていながら、同時に自分のために生きている。ちゃんと夢を持っていて、それに邁進している。そして、夢に向かって生きている事が、そのまま幼馴染の人生に寄り添うことになっている。今までも、これからも。
挫折しかけた透を、凛が励まし叱咤しあなたなら出来るともう一度立たせたあのシーン。下手をすれば一方的な期待の押しつけになっていた場面だった。出来るか出来ないかわからないことに人生を賭させる無責任な後押しになりかねないシーンだった。でも、凛は無責任に勝手に期待して勝手に理想を押し付けたわけじゃなかったんですね。幼馴染として、透の中にくすぶるものがあることを見抜いていたから。どれほど泣き言を言って諦めを口にしても、どうしても振り切れないものを抱えていることが分かったから。幼馴染だからこそ伝わる透の本音を受け止めたからこそ、引っ張ったのではない、透の本心を後押ししたシーンだったのだ。
甘やかすも、甘やかさないのも幼馴染の自由自在。これこそ、最大の理解者としての幼馴染のアドバンテージだ。そして、どうなっても人生を共に歩むと決めた、自分の根源に刻み込んだ幼、馴染の覚悟の強さだ。
そして、それは一方的ではなく幼馴染同士であるがゆえに、透の方からも還ってくる想いなのである。
くるくると永遠にお互いを循環し続ける無限の愛情。まさに幼馴染の恋は無敵だ。それを、余すこと無くまさにそこに焦点をあてて描いてみせた本作は、幼馴染ものの純粋結晶と言えるのでしょう。

嗚呼、素晴らしき哉幼馴染――。
堪能させていただきました。

余談ですが、読者視点からすると、ただ巧い作品よりも熱い気持ちのこもった作品の方が読んでて楽しいのは間違いないです。不思議と、書きたくてたまらないものを叩き込んだ作品ってわかる、伝わる、気がするんですよね。そういうのを読むと、なんかねーなんでかねー、嬉しくなるんです。
ああ、読んだー!という気持ちにしてもらえる、そういう喜びがあることをわかってほしい。
本作も、そんな作品の一つでした。でしたよ。

幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら 2.怖かった幼馴染が可愛い ★★★☆  



【幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら 2.怖かった幼馴染が可愛い】 すかいふぁーむ/ 葛坊 煽 富士見ファンタジア文庫

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じれったくも甘々な幼馴染への「好き」という想い
妹の家庭教師をきっかけに、親密な関係へと近づいていく幼馴染の愛沙と康貴。壊れてしまうなら今のままでいたいという想い、だけど抑えきれない好きという気持ちを抱え、二人は花火デートへ出かけることに。
思春期の男女の性差や同性の友達同士の付き合いもあってすっかり疎遠になっていた幼馴染同士。それを、愛沙の妹のまなみが一生懸命縁を繋いでくれて、色々と機会を作ってくれて、ぎこちない二人の間を取り持ってくれて、なんとか昔みたいな気のおけない幼馴染に戻れたかなー、というくらいの関係になった愛沙と康貴。
ところが二人共、疎遠になっていた時期のダメージが大きいのか、元の幼馴染っぽい所まで関係が戻ったことに大方満足してしまってたんですよね。もう一度、あの頃みたいに戻れたことが嬉しくて、前みたいなやり取りが出来ることが楽しくて、長らく手放してしまっていたものを、しばしじっくりと味わいたい、と言わんばかりに現状に浸ってしまう二人。
ところが、それを許さないのが妹のまなみである。姉と兄貴分の仲が昔に近いものになった!? だからどうした! と言わんばかりに休みもせず間髪入れず、プッシュプッシュ倍プッシュ!!てな勢いでさらに二人を急き立てていくまなみ。家庭教師抜きにして理由を作って康貴を家に招いて姉と一緒に過ごさせるわ、一緒に買い物をさせるわ、デートまで企画して準備してアドバイスしてメンタルサポートまで健気にこなして、至れり尽くせりのサポート三昧。
本来なら夏休みというのは、毎日通う学校と違って強制的に顔を合わせない分、どうしても会う回数も減るし一緒にいる時間も減ってしまうはずなんだけれど、まなみの尽力によってむしろ学校に通っている時よりも密度濃く一緒に過ごす機会が増えちゃってるんですよね。そこに家族ぐるみでの付き合いや愛沙たちの母親の影の支援もあって、お互いの家に入り浸ることになるし、学校の友人達も何だかんだと二人のことを見守って応援してくれるものだから、二人をくっつけるためのあれこれとイベントを用意し誘ってくれて、と本当に機会に関してはこれでもかというくらいの物量作戦だったんですよね。
さすがにそうまでされては、昔から康貴の事が好きなまま此処まできている愛沙だけじゃなく、康貴の方だって意識してしまいます。疎遠になっていた時期は嫌われていると思っていた事もあって無意識にか心理的な距離を置いていたところのある康貴ですけれど、元の幼馴染づきあいが再びスタートしたことで、段々と昔みたいに彼女の考えている事がわかるようになってきて、彼女の怖い顔も刺々しい言動もそのとおりに受け取るんじゃなく、その表に出せない意図を汲むことが出来るようになってきたんですね。そうなってくると、昔抱いていた彼女への好意が再び頭をもたげてくる。
そうなってくると、まなみの目論見通りなわけですわ。
普通に考えたら、ゆっくりゆっくりと進展していっただろう康貴と愛沙の関係ですが、手押し台車に乗せてダッシュしたかのように早送りでこの夏休み中でカタがついてしまったのでした。
いやもう、ここまで畳み掛けられると愛沙たちもテンション戻らないままだったでしょう。普通なら振幅があるはずの気持ちの盛り上がりも、ひたすら冷めないまま上がり続けたんじゃないでしょうか。それだけ、まなみが彼らに冷静になる余裕を当てなかった作戦勝ち、と言ったところかもしれません。まさに電撃作戦、指揮系統をズタズタにする一気呵成の侵攻でした。
あまりに捲くりすぎたせいか、作戦を主導したまなみの心もすらテンション上がったまま色々と自分の気持ちなど整理してる間も無く、最後まで行き着いてしまったのが、まなみ的にも誤算だったのかもしれません。或いは、彼女自身冷静になってしまうことで立ち止まって動けなくなってしまう前に一気呵成にやってしまわなければ、と心のどこかで思っていたのかもしれないんですよね。
だって、まなみも康貴の事が好きだったんだから。この子、姉の好きな人を自分も好きだったんだよ。にも関わらず、姉のことが大好きだから、頑張ったのだ。自分の好きな二人が一緒にいるのが好きだから、頑張ったのだ。
そんな二人と一緒に自分も居られる事が幸せだから。でも、二人が本当に付き合いだしたら、自分はいったいどうなってしまうのか。どんな距離感で、二人と過ごせばいいのか。自分のこの兄代わりの彼が好きな気持ちはどうしたらいいのか。
そんな様々な思いをちゃんと考える暇もないまま、どうやって整理して決着つければいいか考える余裕もないまま、この子は姉と兄と自分を追い立てて本当に疎遠だった二人を結ばせてしまったわけだ。
大したものである。
いやほんとに、もう康貴も愛沙もこの子には一生頭あがんないですよ。どれだけ彼女におんぶに抱っこだったかは、嫌というほど理解しているみたいだし痛感しているみたいだし。まなみが間にいなければ、まともにコミュニケーション取れるかも怪しい所だったんだから。
ちゃんとそれをわかって、まなみに対してこの上ない感謝と恐縮と申し訳無さをちゃんと二人が感じていたことには安心した。そこ、無神経だといただけないですものね。
まあ痛感しているからこそ、まなみの事はもう放っておけないでしょう。その意味では、この妹ちゃんは見事に二人の間に自分の居場所を作ってみせたわけだ。なにをどうしても邪魔者扱いされないし出来ないポディションを、築いてみせたわけだ。
別に企んでたわけじゃなあないのだろうけれど、策士である。愛沙としては、まなみにこれ以上はダメ、というラインをもう引けなくなったんじゃないだろうか、これ。まあ無理押しするような子では妹ちゃんないだろうけど。

さて、兎にも角にも幼馴染に戻った二人はさらにもう一歩先に進んで正式に恋人になれたわけですし、その間に堂々と妹ちゃんも居座ることが出来て、ある意味ゴールテープを切ったようにも見えるのですけれど、ここからさらにもうひとり幼馴染参戦するの? さすがにここから延長線は難しくない?
この高難易度になるだろう続きの展開、どう進めていくのかは非常に興味あります。もう一度、愛沙と康貴の関係を差し戻しで拗れさせるのもどうかと思うだけに、さて果たして新たなキャラの参戦をどう転がしていくのやら。


デート・ア・ライブ フラグメント デート・ア・バレット 7 ★★★☆  



【デート・ア・ライブ フラグメント デート・ア・バレット 7】 東出 祐一郎/ NOCO 富士見ファンタジア文庫

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さあ――わたくしたちの決戦を始めましょう

白の女王によって攫われた響。そして白の女王の正体――。絶望的な状況を前に狂三たちは、第二領域にて白の女王率いる軍勢との最終決戦に臨む。響、奪還の鍵は「わたくし、婚約した覚えはないのですが」悪役令嬢!?

いや、悪役令嬢要素は殆ど一つまみ程度もなかったぞ!
狂三のキャラクター的に昨今の悪役令嬢像ならノリノリにやったら結構はまり役になってもおかしくはなかったのでしょうけれど、さすがに白の女王との最終決戦ということであんまり遊んでも居られなかったか。カラー口絵の花魁狂三はそんな中でも僅かでもサービスを、という熱意を感じられて好き。
貴族令嬢のドレスは、むしろ普段のゴスロリよりも大人しく見えてしまう不思議。
さて、響が狂三の弱点として狙われるのを逆手にとって、響とともに練り上げた埋伏の毒の作戦。これを立てる時点で響が自分にとっての弱点、喪われる事でダメージを受けてしまう大事な相手である、というのを狂三自身がもう言い逃れできないくらい認めてしまっている、ということで響が調子に乗るのも仕方ないよね。
そして、白の女王の正体。ズバリストレートに、というわけじゃなく複雑な要素が絡み合った結果の存在であり、素直に狂三の反転体でもなく、山打紗和の亡霊というわけでもなく、という所だったのですけれど、あの紗和さんの声と姿は決して偽物、というわけではなかったのか。
その時点で、これは親友との対決であり自分の罪との対面でもあったわけだ。もっとも、狂三は分身体で本体ではなく、紗和さんも決して当人と言い切れない存在で、という写し身同士の相克というあたりが本作の悲哀を表しているようにも見える。この隣界という世界自体がまほろばのような場所であり、死んだ少女たちの魂が集ったような儚い幻のような世界。
でも、分身体であろうと狂三は狂三当人であり、この隣界で生きる準精霊の少女たちもまた、本物だ。かつて死んだのだろうと、今ここで生きている少女たちなのだ。
だから彼女達が今この世界で胸に抱いている如何なる想いもまた本物だ。ここで育まれた想いも気持ちも本物なのだ。
だから、時崎狂三がここで出会った緋衣響という少女とともに歩んだ旅も、二人の間に芽生えて育っていった「友情」という想いもまた、確かなものなのである。
思えば、時崎狂三という悪夢の精霊の在り方は恋に生きる少女であるという以上に、親友のために世界を敵に回すというまさに友情に殉じたものでした。
様々な思いを基に精霊となった少女たちの中で、一際「少女同士の友情」という根源を秘めていたのが時崎狂三だったのです。
そんな彼女が旅してきた隣界で出会った準精霊たち。各領域を治める支配者(ドミニオン)たちがそれぞれ胸にかかえていたもの、戦う理由として掲げていたもの、命をかけるに相応しい命題として携えていたものもまた、様々な形であったとはいえ同じ少女同士の友情でありました。時として生命を奪い合う結果となっても、後を託すことになったとしても、そこには彼女達が身命を賭すに能うだけの友情があったのです。
そして、今狂三たちとともに隣界の命運を担う第二領域を守るべく、その秘密を守り続けていたハカラ、真夜、アリアドネたちもまた、友情によって結ばれた三人だった。第二領域の秘密を三人で抱えることで、出し抜かれることを恐れて距離を起き、相手がいつ裏切るかを疑い、実際他の二人を出し抜く策を企んだ三人は、しかしついに疑い続けた末に……誰も裏切ること無く今白の女王という侵略者を前に立ちふさがるべくここに集った。
疑うということは、裏切ってほしいからじゃない。それだけ信じたいと願っているから。
「疑って疑って、それでもお互いが裏切らなければ。そこにあるのは『信じたい』っていう気持ちだけなんだと、わたしは思うなあ」
好きだから、信じたいから、だから疑ってしまう。
彼女達は、確かに友達だったのだ。そして、それを貫いてみせた。自分の中の、友達のことが好きだという気持ちをこそ、裏切らなかった。
友情に殉じたのだ。
それ以前も、これまで狂三と響が旅してきた隣界の領域を巡る物語は、そこで生きる準精霊たちが、まさに自身の友情に殉じる物語だったのではなかったか。
だからこそ、今この白の女王との決戦に、皆が駆けつけようとしている。自分たちの友情の行く末を、結末を、そのさきを、看取って見守って導いてくれた狂三たちを助けるために。
いやそうではない。それだけじゃない。そうじゃなくて、そんな余計な理由なく。

ただ、友達の助けを求める声に応えるために。

このシリーズは、この物語は、このお話は、だからきっと友情の物語だったのだ。
少女同士の睦まじい、儚くも力強い、キラキラと輝く友情を描いた物語だったのだ。

だから、狂三と決する相手は親友であるが相応しい。立ちふさがるのは、相対するのは、何よりも時崎狂三という精霊の根幹を為す山打紗和であるが相応しいのだろう。
最後の敵は、唯一無二の親友であるべきなのだ。
そして、だからこそ、狂三と最後まで、最初のはじまりから寄り添い続ける者もまた、唯一無二の親友であるべきなのだ。
最初から最後まで、狂三と紗和の二人一緒でありながらどうしようもなく一人であった白の女王と違って、狂三を絶対に1人にしなかった親友として。
緋衣響は、きっとそこに辿り着こうとしている。最初から、彼女にはその資格があったんじゃないだろうか。
もう一度時崎狂三にとって一番の友人になる。
そんな決意を胸に、その緋色の衣の下で全開で狂三への好きという思いを響かせている者、めくった奥にさらなる正体は存在するのか。
次回、最終巻。少女たちの世界のフィナーレがどんな形になるのか。楽しみで、少し怖くて、少し寂しい。

シリーズ感想

限界超えの天賦は、転生者にしか扱えない 1 -オーバーリミット・スキルホルダー- ★★★★   



【限界超えの天賦は、転生者にしか扱えない 1 -オーバーリミット・スキルホルダー-】 三上 康明/大槍 葦人 富士見ファンタジア文庫

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全てを司る森羅万象者として立ち塞る敵を滅し仲間・世界を救え!

レイジと少女・ラルクは人に能力を付与する天賦珠玉の発掘を行っていた。ある日最高レアリティの珠玉を見つけたレイジ。それは森羅万象を理解するもので、鉱山で別れてしまったラルクを探すため彼の冒険が始動する。
ウェブ版読了済み。現在ほぼ毎日連載中で、欠かさず追っている次第です。ベテラン作家ながら小説家になろうなどでの連載作も幾つも持っている方ですけれど、個人的には本作が一番面白いですわー。
あらすじからすると、まるで万能全知のスキルを手に入れたように語られるレイジですけれど、その森羅万象のスキルは決して万能無双なものではなく、便利は便利ではあるんですけれど使う人次第、なんですよね。まだ身体は10歳の子供に過ぎない、いや鉱山奴隷として劣悪な環境で育ったレイジくんは実年齢よりも発育不良の肉体で、得たスキルを使いこなせているかというと全然そんな事なくて。むしろ、自分の未熟を痛感することばかり。そして自分が分不相応のとてつもない天賦珠玉を手にしてしまった自覚もある。度々、天賦珠玉を外す機会があってその際に自分の中からごっそりと力が抜ける感覚を思い知っているので、それが自分の努力で身につけたものではない借り物の力だという恐れと自覚をちゃんと感じ取って、戒めてるんですね。
だからか、万能の力を振りかざすというよりレイジくんのスタイルはコツコツと自分の中に取り込んだスキルを努力して鍛え上げていく、センスよりも地道な叩き上げの熟練者という風情になっていくのである。もっとも、この段階ではまだまだ子供に過ぎず庇護される存在、自分が取り込んでしまった森羅万象の天賦珠玉の使い方を模索しつつ、周りに助けて貰いながら戦う術を身に着けていっている段階。といっても、そうは言ってられない局面へと、クライマックスにはなっていくのですが。

とまあ、こんな風に主人公のレイジくんの性質って、兎に角イイ子なのである。それも無差別の善良さや薄っぺらな正義の持ち主とかじゃなくて、人の心に寄り添える、相手の心を感じて、相手の思いを汲んで、それを力に変えることのできる子。素朴な勇気を振り絞れる子。懸命で献身的な子なのである。だから、そんな子の頑張りを間近で見て感じてしまった人たちは、この子のために何かをしてあげないと、という気持ちになる。こいつを守ってやらないと、と思ってしまう。この子が向けてくれる好意や善意を倍返しにして与えたくなる。そんな子なんですね。
利益だの恩義に報いるだの、そういう理屈抜きに、このレイジくんという子は咄嗟に人のために動ける子なのである。思わず、動いてしまう子なのである。森をさまよっているときに、たまたま見かけた冒険者パーティー、銀の天秤のメンバー。その彼らが気づかぬまま危地に陥りそうになったのを、自分の置かれた状況や立場も忘れて、思わず咄嗟に頭で考えるよりも早く、声を掛けてしまった場面が彼の本質を象徴しているのではないだろうか。
鉱山を逃げ出すときに、余命幾許もないヒンガ老人を陽の光の元へと連れて行こうとした行為に、打算などがあっただろうか。
そんな彼の行動、思いに応えるように、彼と知り合った人たちは目一杯の善意や信頼をレイジへと向けてくれる、与えてくれる。そんな時、少年の小さな胸の内は喜びや誇らしさで一杯になるのだ。優しく頼もしく尊敬できる人たちの在り方に、打ち震えるのだ。そんな彼らもまた、この小さな子どもの勇気と健気さに満ちた姿に胸打たれ、感動し、勇気をもらい、なんとしてでもこの優しい子のために、という思いを抱いているのと同様に。
そんな温かくも力強い思いが、両者の間を行き交っていく様子には思わず読んでいるこっちもグッとくるんですよね。
あの頼もしくとてつもなく大きなダンテスさんが、子供に過ぎないレイジを信頼して何も聞かず何も問わず、レイジに任せて預けてくれる姿も。
荒れ狂う嵐を心の奥に秘めたライキラさんが、いつしか生意気なガキなレイジを弟のように慈しみ、レイジの方も最初は刺々しい態度を取るばかりだったライキナに兄のように懐く姿も。
そこからより、相手の心のうちに踏み込んだ時。揺るぎない生き様を目の当たりにした時、決して余人には明かさないだろう自身の深い部分を曝け出すのを受け取ったレイジが強くも切ない想いを溢れ出させる時、心が激しく揺さぶられるままに叫んだ時。
ほんとに、胸に来たんですよねえ。グッと締め付けられるような、温かく擦られるような。ダイレクトに心に響く感触に、思わずこみ上げるものがあったのでした。
そして、折ある度にレイジが胸の内で反芻する姉・ラルクとの思い出。彼にとっての人格形成が、価値観が、その優しい在り方そのものがラルクとの思い出を根幹にしているのが伝わってくる。彼にとって、姉がどれだけ大事な人なのかが伝わってくる切ない想い。彼女を探してもう一度会うことが、レイジにとって人生の目標なのだというのがよく分かるんですよね。
これはレイジという少年の成長譚であり、広い広い世界をめぐる旅の話であり、彼を導き慈しみ様々なものを与え示し教えて注いでくれる素晴らしき人たちとの出会いを語る物語なのだ。

汝、隣人を愛せよ

ふと、そんな言葉を思い浮かべて噛みしめる機会を得る事の出来た作品であり、登場人物たちでありました。この次の巻にあたる第二章は、この作品でも最も好きなエピソードなだけに、是非続刊して欲しいです、いやほんとに。

幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら 疎遠だった幼馴染が怖い ★★★☆   



【幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら 疎遠だった幼馴染が怖い】 すかいふぁーむ/葛坊 煽 富士見ファンタジア文庫

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幼馴染との甘々でじれったい両片思いラブコメ!

学内でも人気の美少女で、遠い存在となった幼馴染の高西愛沙。康貴は愛沙の妹、まなみの家庭教師という形で再び接点を持ち始め……、愛沙の本当の気持ちを知ることに。甘々でじれったい両片思いラブコメ!

幼馴染と言っても、幼少の頃からずっと密接な仲を続けてこられた関係なんてものは珍しいくらいで、男女の差異を意識しだす思春期に一緒にいる事が恥ずかしくなったり、同性の友達との付き合いで距離を置いてしまい疎遠になってしまう事は決して珍しくないだろう。
そこからもう一度昔みたいな気のおけない仲に、というのは案外難しかったりする。作中でも当人同士が述懐しているけれど、どれだけ家族ぐるみ家族同然に過ごしてきた仲だと言ってもどうしたって幼馴染というのは他人同士でもあるわけだ。だから、一度距離をおいてしまうとすぐに元通りの関係には戻れない。一度疎遠になった幼馴染同士は、どうやったって以心伝心なんて訳にはいかないし相手のことなら何でも知ってる、なんていう幼馴染独特の特異なアドバンテージは失われてしまっている。
だから、一つ一つ手探りで取り戻していくしかない。それも、お互いが心から望んでこそ出来うる話。
本作は、そんな一旦疎遠になってしまった幼馴染同士が、もう一度昔みたいな関係を取り戻すまでのお話だ。そのプロセスをじっくり、というほど丹念ではないのかもしれないけど、一足飛びにはせずぎこちなくも距離感を取り戻していく様子が描かれている。
まあでもこれ、妹ちゃんのまなみの要所要所での好救援がなければ、とてもじゃないけれど復縁なんか出来なかったでしょうね。康貴にずっと好意を失わずに胸に抱き続けていたものの、それを伝える事もできないまま刺々しい態度に終始してしまっている愛沙。そんな愛沙の態度にどんどんと心の距離を遠くしていく康貴。特に康貴の方は思春期に関係をからかわれて距離をおいてしまった際に向こうからも突き放されるような事もあり、自己防衛的に愛沙と自分とは縁が切れてしまった、という風に感じている節が見受けられたんですね。成長するに連れてどんどんと美人になり、余計に違う世界の住人のように感じるようになり遠い存在になっていく。そんな幼馴染に対して、康貴のそれはもう「無関心」に近いものになっていたように見受けられる。鈍感を通り越して、無関心だ。愛沙の人間関係にも興味なかったようだし、友人から愛沙の異性関係について自分がちょっかい出してもいいのか、と突かれた際も随分と冷めた返答をしている。どうでもいい、という発言ではなくちゃんと愛沙と友人の相性を想像して答えているあたりは、本当に興味も関心もない他人と考えていたわけじゃあなく幼馴染としての親しみあっての事だろうけど、本当にそれでは「ただの幼馴染」だ。鈍感というよりは異性として無関心、と言った方が当てはまる。
愛沙の方はずっと「康貴に嫌われているんじゃないか」と心配していたようだけれど、実のところこれもっと深刻な状況だったんじゃないだろうか。
妹まなみが康貴を自分の家庭教師として乞うて自分の家、つまり自分と姉である愛沙のプライベート空間に招くことで、途切れていた縁を無理やりつなぎ直してくれなければ、これ本当にただの幼馴染、どころじゃなく昔幼馴染だった人、で終わってしまう所だったんじゃないだろうか。
このあとも、終始まなみは二人の仲を取り持ってくれる。最初無関心で積極的に愛沙と元の関係に戻ることも考えていない康貴に、拗れまくって素直になれない所じゃなくまともにコミュニケーションも取れない姉。そんな二人にアドバイスして、背中を押して、機会を作って、シチュエーションをを容易して、と傍から見ると妹ちゃん頑張りすぎである。まなみ本人も康貴には兄以上の好意を抱いているにも関わらず、シスコン気味なのか姉のことが好きすぎてついついキューピッド役に奮起してしまう妹ちゃんの健気さが何とも愛おしくなってしまう。
さすがにそんな妹の献身的な努力を姉として愛沙もちゃんと理解し感謝していて(もっと感謝しまくって五体投地しても足りない気がするけれど)、不器用なりに頑張り拗らせていた気持ちも立て直して愛沙なりに自分から距離を詰め、元の関係あるいはそれ以上を取り戻そうと踏み込んだことで、ようやく康貴の方も愛沙の事を意識しだし、かつて彼女に抱いていた気持ちを思い出していくことになる。
きっかけが訪れたわけだ。
そうなると話は早い。実のところ、二人の距離を妨げていたのは本当に二人の気持ちだけ、だったんですよね。周囲は家族や友人関係を含めて二人の関係を隔てたり邪魔したりするどころか、むしろ暖かく見守ってくれている。愛沙の交友関係であるカースト上位の面々もグループ外の存在だった康貴が愛沙と密接な関係になっていくのを邪魔に思わず、むしろさり気なくフォローしてくれたりと普通にいい奴らなんですよね。家族に至っては元々家族ぐるみで付き合っていたせいか、むしろ押せ押せですし。
というわけで、後半あたりから急速に遠慮とぎこちなさを解消していく二人はどんどんと仲睦まじい関係になっていく。愛沙はまったく好意を隠さなくなり康貴に我儘を言ったり素直に甘えたり、とだだ甘になっていき、康貴もかつて彼女に抱いていた好意を今新たに湧き立たせて、彼女の自分に向けてくる一挙手一投足に胸を弾ませ心踊らせるようになる。
しかし、未だどこかでかつて距離を置かれ距離を置いてしまったあの時の心のひっかかりが、康貴の中でブレーキとなって残っている。期待するな、望むな、と心のどこかで一線を引いてしまっている。それは自分を守ろうとする防衛線なのだろう。しかし怯懦でもある、臆病でもある。
それはあれだけお膳立てしてくれているまなみに対しても、勇気を出して踏み出した愛沙に対しても、ちと情けない。
彼はまだ、自分から何もしていない。与えられたものを享受してばかりだ。今彼はスタートラインに立ったばかりとも言える。ここから、自ら号砲を鳴らせるのか。彼には奮起を期待する。

ロクでなし魔術講師と追想日誌 7 ★★★☆  



【ロクでなし魔術講師と追想日誌 7】 羊太郎/ 三嶋 くろね 富士見ファンタジア文庫

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グレンと結婚した相手は――教え子たちの花嫁の座・争奪戦!?

突如セリカが開催したグレンの花嫁コンテスト。さらに、未来でグレンの子供をチェック!? ドキドキなシスティーナ、気合が入るルミア、食い気優先リィエル。結婚相手は誰に!? 特務分室の絆を描く書き下ろしも!

『最強ヒロイン決定戦』
セリカが主催で行われたグレンの嫁選抜戦のお話。強制招集じゃなくて希望者のみにも関わらず、数十人もの参加者が集まるあたり、グレン先生ってそんなに人気あったの!? と、白猫じゃないけれどちょっとびっくり。というか、セリカお母さんは息子に対して過保護すぎである。
このイベントに対して入れ込んでたのが、白猫じゃなくてルミアというあたりが興味深い。最近、イヴの台頭もあってかなりガチ目にヒロインレースで劣勢に立たされている自覚もあるのだろうか。
初期はわりと余裕を持ってたはずなんですけどねえ。
ルミアがこれだけ必死に見境なくして暴走するのは珍しくて、かなり面白かった。てか、銀の鍵をこんなしょうもないイベントで使うなし! ナムルスまで呼び出すし! 


『さらば愛しの苺タルト』
もうただの苺タルト中毒じゃん、リィエル。それは薬物依存症の症状と変わらんからw
ただ忙しいのに追試の準備やらするの、先生ほんとに大変らしいのでリィエルはもうちょっと恐縮するべき。まあハーレイ先生、私怨絡みで自分から首突っ込んでいるので自業自得と言えば自業自得なのだけれど。
というか、この短編集でみんな最終決戦とか満を持して使うべき切り札をポンポン繰り出しちゃってるの、奥義の無駄遣いなんですけど。ってか、それら減りますからね、色々と。


『秘密の夜のシンデレラ』
イヴ先生、実家を勘当されたのに生活レベルを下げられずに極貧に陥って、バイトをはじめるの巻。
わりとやってることがグレン先生と同レベルなんですけど、イヴさん。
本業の傍ら、こっそりと水商売でバイトとかガチであかんルートに入ってるんですけどー。衣食住のうち、衣の部分身だしなみだけはレベル落とせずに、住居と食生活で極貧を極めるイヴのソースなし塩パスタ生活が色々不憫すぎるw
いや、イヴってイグナイトに引き取られるまでは庶民生活送ってたんじゃなかったっけ。そこで見栄を捨てられないのは、なんともはや。振り幅大きいなあ。
んでもって、同じく魔術で変装してバイトしていたグレンとお互いに正体知らずコンビを組んで上級クラブで働くことに。
イヴはなんというか、もう彼女のエピソードあるたびにヒロイン度があがっていきますなあ。グレンと相性ヨすぎるんですよね、彼女。色々とリズムが合いすぎているというか。これって、お互い正体を知らないまま惹かれていく、という王道パターンだし。そして、実はその気になった相手がグレンだったとわかってときめいてしまうという。
この二人のカップルだと、貧乏暮らしで所帯じみたわりと地に足のついた生活になりそうなんですよねえ。
ガチで大番狂わせあっても不思議とは思わんぞ。


『未来の私へ』

オーウェル教授が天才便利すぎて、この人ならタイムマシン作っても全然おかしくないよね、という認識になってしまう。いやマジでどんな突拍子のない展開になっても、オーウェル教授なら出来るよね、となっているのがなんかもう凄い。異世界転生でも地獄門を開くでも何でもできそうだぞ。
というわけで、システィーナとルミアとリィエルの三人がいつものオーウェル教授の実験に巻き込まれて、いや普段巻き込まれるのはグレン先生なんだが、代わりにこの三人娘が巻き込まれて……未来に飛ばされてしまった、というシチュエーション。
当然のようにそこで出会ってしまうのは、彼女達三人に似ているようで全然似ていない三人娘。いや、さすがに白猫たちからこの娘たちが生まれるのはちょっと信じがたいぞw
いくら何でもキャラが濃すぎるw 白猫とルミア、完全に子育て失敗しているじゃないですか。リィエルはどう考えても血が繋がってないだろw
最初の嫁選抜戦もそうなんだけど、セリカはグレンが嫁を迎えることはむしろ積極的に推してるんですねえ。嫁いびりとか絶対にしないで、むしろ家族が増えたと喜んでて、グレンと一緒に猫可愛がりしている感じで、この人はほんと息子を独占したいとかは全然なくて、彼が幸せになるのが嬉しいんだろうなあ、と思うとほっこりとしてしまうのでした。
なんでイヴだけでないんだろー、とちびっと不満に思っていたのですが、あとがきでバッサリ出番がカットされてしまった理由が書かれていて、それはうん、出ないほうが良かったですね。


『特務分室のロクでなし達』
最新話相当での特務分室って、こうしてみるとほぼほぼ瓦解してるという他ないですよね。残ってるの、クリストフにバーナードにアルベルトの三人だけなんですから。って、そう言えばエルザが「運命の輪」で新加入してたんだったか。
ともあれ、特務分室全盛期だった頃に学生だったクリストフが、卒業を期に特務分室に配属を希望する、そのきっかけとなった彼が特務分室の面々と遭遇するお話。
前々から思ってたんですけれど、色々とおかしい人間しかいない特務分室の中でクリストフってあんまりこう人格に破綻した部分のない普通の人だなあ、と思うところ大きかったのですけれど、こうしてみると確かにメンバーの中で突出してまともな常識人だ。
そんな彼から見た頭のおかしい特務分室のメンバーの活躍は、やっぱり頭おかしいというほかなく、いやこんな事件しょっちゅう解決してたの? 帝国の治安ヤバくない? どれだけ国家に致命的なダメージ与えそうな事件頻発してたんだ?
ともあれ、グレンが現役でイヴが室長で、セラが健在で、ジャティスがまだ在籍していた頃の話。こうしてみると、軒並み分室から居なくなっちゃったわけですからねえ。途中加入してた連中は中途半端も良いところだったし。その意味でもエルザには期待大か。
……そう言えば、忘れてたけどリィエルも一応あれ現役の執行官メンバーだったっけか。


『レベル』があるなら上げるでしょ? モブキャラに転生した俺はゲーム知識を活かし、ひたすらレベルを上げ続ける ★★★   



【『レベル』があるなら上げるでしょ? モブキャラに転生した俺はゲーム知識を活かし、ひたすらレベルを上げ続ける】 珠城 真/八重樫 南 富士見ファンタジア文庫

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レベル上げが大好きな俺は、ゲームのモブキャラに転生してしまった。モブキャラに転生してしまったんだから、ゲーム攻略は二の次。プレイヤー時代の知識を活かし、効率の良いやり方でレベルアップに励んでやる!

レベルを上げて強くなることが好きなんじゃなくて、レベル上げという行為そのものにハマってしまったのか、この主人公・桜井は。
つまり、筋肉を鍛え上げることではなく筋トレすることそのものにハマったり、ソシャゲなんかで素材を得てキャラを強化するためじゃなく、周回そのものが楽しくなってしまった、というようなものですか。
その結果として筋肉が美しく仕上がったり腕力が上がったり、キャラが強くなったり、というのはあくまで結果であってそこまで興味あるものではない、と。
桜井の場合は、効率的にレベルが上がるために実は剣聖だったオッサンに修行つけてもらう事が大事で、その結果として使えるようになった剣聖の奥義なんかはそんなに重要視するものではなかったんだなあ。
キャラビルドとしても、桜井の強化はイビツなんですよね。あくまでレベル上げしやすいように強化されて行っているだけで、戦う強さとしては酷くバランスを欠いたものになっている。だから、レベル差は圧倒的に桜井が上だったにも関わらず、不意打ち気味だったとはいえ檜垣にあっさり打ちのめされてしまっているし。
だからといって、それで方針を変えたりするわけではなく、彼の中ではあくまでレベルを上げるという行為そのものが人生の中で最優先であって、それ以外の事は優先順位が下、というか興味関心そのものがないと言っていい。
かなり、人としてはダメ、というか終わってるのではないだろうか。
一応最初の方は他人に迷惑をかけないように、という心がけはあったものの、途中からそれすらも優先度が下がっていっているし。これは直向きというのではなく、取り憑かれているというべきなのだろう。両親からも勘当に近い扱いを受けているし。いや、子供としてマトモな接し方を家族ともしていなかったようだし。
このあまりにもレベル上げしか考えていない自分本位な生き方は、あまりに無分別であるが故に檜垣という激烈な敵対者を生み出してしまった事に代表されるように、逆に彼自身のレベル上げを阻害する邪魔を多く生むことになってしまう。
仮にも社会の中で生きるからには、あまりに自分本位すぎるとその行動を掣肘するような動きが自然と社会の中から発生してしまうのだろう。まあ、檜垣は檜垣で大いに問題あり。というか、彼女は彼女で気に入らない、我慢できないという理由だけで桜井の事を抹殺しにかかるという、ぶっちゃけ殺人犯以外の何者でもない行為をやらかしてしまっている危険人物なのだが。
桜井も檜垣も、自分たちが陥ってしまった陥穽についてお互い自分のレベル上げを邪魔する、或いは自分の人生の目標を踏みにじる相手を排除すべく殺し合って、実際死んでしまっても気付かないし治らないし、死後の世界で第二ラウンドはじめてしまうほどのアレだったわけで、そこでアイリスという冥府の管理者の1人に叱られ教え諭されるまで全く気付かなかったんだよなあ。
このアイリスのお説教が、なかなか突き刺さる内容だったんですよね。普通、お説教なんて上から目線で相手の立場なんか考慮していなくて、たとえ正しい事でも上っ面で滑って心に届かないものなんだけど、彼女のお説教というのはかなりグサグサくるもので、思わずそうだよなあ、とかなるほどと深くうなずいてしまうものであり、その上で相手の価値観に合わせて今までの自分の行為ややり方がどれだけ自分自身に不利益を与えていたのかを指摘してくれるもので、これはさすがの桜井も無視出来なかったんですよね。
それこそ、あなたのやり方生き方は敵を生みすぎてレベル上げのやり方として非効率的である、と言われたようなもんでしたしねえ。
檜垣の方への指摘もそうなんだけれど、二人へのアイリスの痛烈な非難と鋭い指摘と適切な改善方法というのは、それだけ作者がこの桜井と檜垣というキャラクターをちゃんと細かいところまで解体して掌握しきっていないとなかなか出てこない言葉だと思うんですよね。何となくとか勢いで書いてるだけじゃ出てこない分析でもあったのです。それこそ自分のキャラを掘り下げて掘り下げて、具体的に言語化できるまでに解釈しきるほどでないと。
そして、そこまで詳細に掌握しているからこそ、登場人物の在り方を次の段階に進める、それは成長でも変化でもいいのですけれど、そのキャラの根幹を変えないままに、もう一つ上積み出来るとも言えるんですね。
実際、桜井という人物はこれ以降もその価値観の最上位はレベル上げであることはゆるぎません。彼にとって大事なことはレベル上げ。それ以外は二の次なのですけれど、彼なりに反省して人との接し方を考えるようになります。
また、アイリスに叱られなかった桜井の行く先の一つとして、自分本位の塊のような人間として今回のボスキャラを対比として出してくることで、ああはなりたくないという形で桜井の在り方の方向性を修正していったように思えるんですね。
まあそれでも、それで人に好かれるようなキャラになったかというと、まだまだだと思うのですが。というか、こいつがヒロインに好かれる事があるんだろうか。檜垣とは和解出来たと言っても、親しむには程遠いというか未だにやっぱり嫌いという感情はこびりついているだろうし。アイリスはその世話好きの性格から、厄介な桜井と檜垣の面倒を見なければという気持ちを抱いているけれど、それを好意と呼べるのか。まあホントいい人なので知人友人としての好意は多分に持ってくれているのだろうけど。
いやほんと、問題児どころじゃないハズレた人物ばかりの中でアイリスは全くもって人間の出来た人だったなあ……いや、問題児は桜井と檜垣とラスボスだけでそれ以外の人は概ねちゃんとした人だったような気もするけど。メイン級の登場人物の大半がアレだったので、それだけアイリスのマトモさが目立つし清涼だし癒やしだった気がします。それ以上にしっかりした人でちゃんと悪い所を叱れる人で、叱ったあとで放置せずに熱心に世話焼いてくれるような人だったので。
アイリスがいれば、桜井たちも道を踏み外さないでしょうけれど、さりとてどうやったってマトモにはならない人間なだけに、さて次回以降があるとしてどういう道を歩んでいくのか。

たとえば俺が、チャンピオンから王女のヒモにジョブチェンジしたとして。 ★★★   



【たとえば俺が、チャンピオンから王女のヒモにジョブチェンジしたとして。】 藍藤 唯/霜降(Laplacian) 富士見ファンタジア文庫

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その男――世界最強の“無職”。Web発大人気ファンタジーが遂に書籍化!

天性の<職業>によって人生が決まる世界。 コロッセオにて最強のチャンピオンながら<無職>ゆえに蔑まれ疲弊していたフウタは自ら八百長計画に乗って追放される。その後、放浪の果てに王女ライラックに拾われ――
おおぅ、この主人公実際わりとガチ目にヒモだな。置かれた環境がどうのじゃなくて、精神性というか自分の人生相手に預けきることでむしろ安心しきっているそのメンタリティが。
まあ実際のヒモなる存在は、もっと厚かましいというか養って貰ってる女の人からせびったお金でプレゼントを買ってお小遣いくれた女性にそれをあげて得意満面、みたいな人種らしいので、この主人公とはまた違うのでしょうけど。え? それだとまだマシ? 貰ったお小遣いで買ったプレゼントを別の女に貢ぐやからも珍しくない? それは御見逸れいたしました。
ともあれ、この主人公は自分で築き上げてきた努力を自分で台無しにしてしまったが故に、誇りも尊厳も何もかも失ってしまった。全部、諦めていたのである。人生も生きることも何かを成し遂げることも。その果てに惨めに野垂れ死にしそうだった所をこのお姫様に救われた。命を救われたというだけではなく、自分の生き方を肯定してくれた。誰も認めてくれなかった自分の努力を認めてくれた。
どうにもお姫様にとってはそこまで大したこと、踏み込んだことではなかったようなのだけれど、主人公フウタにとってはそれはもう自分自身のすべてを、これからの将来も何もかも人生そのものを捧げきってしまわないと、報いきれない恩だったわけです。もう既に返しきれないほどの恩を受けてしまった以上、あとは返し続けるだけしかない、とまで思い切れてしまっている。
剣を通じて姫様が孤独で誰も信じられなくて、ずっと苦しい思いをしていると気づいてからは尚更に、この人の為に自分の出来ることは何でもしよう、いっそ自分の人生そのものを貰ってもらおうとまで思っている。
……彼の一連の言動を見ていると、この人って自分でも自覚あるみたいだけど頭悪いですよね、うん。だからこそ一途なんだろうけど、思い込んだらそれしか見ていなくて、その周辺に意識や視野が及ばないというかなんというか。愚直で不器用、なんだろうけれど生き辛い性格だよなあ。その果てに、自分の人生丸投げして預けきって万事お任せしてしまった、というのはそれはそれでアリなのかもしれない。ある意味、もう難しいこと考えなくてもいいものね。
彼は「無職」な自分でも出来ることがあるはずだ、と努力して強くなって闘技場の闘剣士のチャンピオンにまで成り上がったわけですけれど、結局強くなる努力しかしなかった、とも言えるんですよね。いくら勝っても勝っても人気が出るどころかファンは増えず、アンチが増すばかり。それは彼の戦い方に理由があったわけですけれど、それを彼は自分が無職だから本職の「闘剣士」のような華がない、だから本物ではないから人気が出ないんだ、という風に結局「職業」を言い訳にして八百長にまで手を染めるまで落ちぶれるのである。
強いだけで満足できないのなら、観客に認めて欲しかったのなら、人気を得て声援をかけて欲しかったのなら、そのための努力もするべきだったんじゃないだろうか。強くなるための努力しかしていないのに、それ以外のことまで求めて、それを得られないのを職業のせいにするというのはなんか違うんじゃないだろうか。闘剣士として魅せるような戦い方を、工夫を、演出を、やれる事はいくらでもあったはず。なのに、彼はそれをしようとせず、戦い方を変えようとも工夫しようともせず同じやり方を貫きながら、周りの反応が変わらないことに耐えられなくなって、もちかけられた八百長に手を染めて、って自業自得ですし結局自分の無職でもやれる事があるはずという努力してきた事実に、自分で後ろ足で砂をかけている。職業を言い訳にしてしまった時点で、彼は自分に敗北してしまっていたと思うのです。
それをバシっと指摘して、叱ってくれたのはお姫様じゃなくてメイドのコローナの方でした。
八百長はお前の職業のせいじゃなくてお前のせいだ。無職がどれだけ大変でもしんどくても、お前の行いは全部お前のせいですよ。
これは金言だったと思うんですよね。負け犬だった主人公にある意味芯を通してくれるお叱りだったように思います。まあそれで芯が通って前向きになった末に、姫様のヒモに全振りしてしまうのですが。
まー、個人的にも主人公のあの戦い方は、人気でないし嫌われても仕方ないんじゃないか、と思えてならないんですよね。むしろ、観客よりも対戦者に嫌われそうなものなんですけど。模倣、完コピなんて。それも毎試合、相手と同じ武器使って同じ戦い方で、って。
この模倣って、直接対戦する相手とリアルタイムでしか出来ないのだろうか。戦い終わったら、得たものは全部リセットされてしまうのだろうか。出なかったら、対戦相手の技量とか経験とかコピーして鑑写しで戦うだけじゃなくて、以前戦った戦士の戦い方で別の対戦相手と戦ったり、またこれまで得てきた模倣してきた戦い方を織り交ぜて、新しい技とか編みだすとかも出来そうな気がするのですが、彼は愚直に相手を模倣するばかり。
何かを生み出す、発展させるという事がなんか全然なさそうなんですよね。
対戦相手からはむしろ無敗のチャンピオンとして敬意と憧憬を持たれていたそうなのですが、そういうものなのか。対戦相手からしたら自分の可能性を克服する、乗り越えるみたいな目標が設定できるのかもしれないし、主人公に勝つのは自分に勝つ事にも繋がる、みたいな見通しもあるのかもしれないけれど、個人的には観客から人気無いどころかアンチまみれになった、という方にちょっと共感してしまう所がありました。むしろ、それなら開き直ってヒールやってた方がコアなファン層も構築出来たのかも。まあそういう立ち回りが出来ない真面目で愚直で視野が広くないからこそ、盛大に踏み外したのですから、まあ仕方ないわなあ。
なので、やっぱり人生姫様に丸投げして考える必要をなくしてしまったのは、まあまあアリなんじゃないかと。
一方で、メイドのコローナにあれこれ叱咤激励され厳しいこと言われながらも自分で考えで歩いていく人生もあると思うんですけどね。どうも姫様専属でありながら、このコローナさん、姫様と一線を画する部分あるみたいですし。というか、このコローナさん強烈なキャラだったなあ。生まれてはじめて接客業のバイトしている不真面目ギャルみたいな、とても城勤めのメイドとは思えないフリーダムで若干なんかキメてそうな言動で、いや真面目な話どうやってメイドになれたんだ、この娘w
とはいえ、そのぶっ飛んだ言動で作品そのものを賑やかにしていたのは、このメイドさんの功績でしょう。彼女いなかったら作品そのものがもっと抑揚のないものになっていたでしょうし。主人公真面目で面白味のないキャラですし、姫様も本質はギラギラと尖って色んなものをみなぎらせている濃いキャラのはずなのですが、猫被ってずっと澄ました顔しててなかなか角見せませんでしたし。
コローナもなんか影で色々あるみたいですけど、むしろこっちのメイドさんがヒロインの方がいいなあ。


デート・ア・ライブ アンコール 10 ★★★★   



【デート・ア・ライブ アンコール 10】 橘 公司/つなこ 富士見ファンタジア文庫

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十香と再会した「その後」を語りましょう

狂三と紗和の学園生活、士道の両親と真那の邂逅、美九の提案で開催される精霊たち全員集合の卒業旅行。やがて来る十香との別れの前の平穏な日常。そして「――みんな、ただいまだ!」十香と再会後の物語も語られる。

カラー口絵の大学生狂三さんが清楚系美人すぎて、ちょっとガチでキュン死してしまうんですけどー!!
いやまじで、今までのつなこ印のキャラクターの中でも頭一つ抜けて美人なんじゃないだろうか、この狂三は。
ふおーーー。
いやこれは、本気で強烈でした。すげえな、狂三。ここまでのポテンシャルの持ち主だったのか。でも、今現在のゴス狂三よりも、この清楚美人狂三の方が、黒歴史四姉妹がクリティカルヒットしそうな気がするぞw

【狂三フレンド】
本編ですべての登場人物が飲み込まれた天香空間。皆が望む最良を再現されたこの空間で、もっとも早くこれが作られた空間だと気づいたのは狂三でしたけれど、彼女がそれに気づくまでにこんな物語が繰り広げられていたのか。
自らの手で殺め、そしてどんな事をしてでも取り戻すと誓った親友・山打紗和を取り戻したあとの日常。狂三にとっては、こここそが望んだゴールとも言える世界だったわけですけれど、それに別れを告げて颯爽と駆け出す狂三は、やっぱりとびっきりにカッコいいなあ、と。
しかし狂三の黒歴史である狂三四天王が、もはや独立キャラとして存在感出しちゃってるんですけど。ついに名前までついちゃいましたし。全部狂三ではあるんだけれど、狂三をおちょくれる数少ない逸材でもあるからなあ。


【十香プレジデント】
戯れに十香に合併予定のお菓子会社の社長を任せて、幹部に精霊たちを配して好きにやらせてみたら、なんかしらんうちに巨大コングロマリットに成長していました、という十香の計り知れない才能を垣間見せる一幕。
これ、十香が何もしてないのになぜかうまくいく、という棚からぼたもち方式じゃなくて、結構ポイントポイントで十香、ちゃんと仕事してるところが侮れないんですよね。商品がヒットしたのも、十香のセンスですし、チャンスを見極めてうまいこと波に乗ってるのも十香の判断ですし。
しかし、みんなが会社の役職付き幹部に就任しているのに、一人だけ「アルバイト」になる二亜がブレない扱いである。ってか、ダークスーツにコートを羽織ってサングラスしてる十香が貫禄ありすぎて、わりと似合ってるのがなんともはや。
そしてここで最後にポカをやって台無しにするのではなく、ササッと跡を濁さず仕舞いにしてしまうのが十香の凄い所なんですよね。ギャグでもコメディでもオチで不用意にやらかしたりしないのである。
そっちの担当はブレない二亜さんで、はい流石です。


【真那アゲイン】
考えてみると、士道の実妹である真那もまた波乱万丈の人生を歩んでるんですよね。DEMに拉致されて肉体改造された上に記憶喪失となり、兄と同様に当時の年齢のままで三十年後の世界に来ることになり、気がついたら当時の親友と親しかった先輩が兄・士道の両親になっちゃってたわけですからね。
そのかつての親友と、真那が再会する話。が、なぜか五河母が旦那の浮気を疑って暴走する話に。この年令で自分の奥さんにラッキースケベかます五河パパに、かつての女難を垣間見ることができて、ママさんの不安もまあわからなくはないかなあ、と。真那が旦那をパパ呼びしているのを見て勘違いしたわけですけど、これ真那の顔見て旦那の浮気相手は行方不明の自分の親友の真那だと勘違いしなかったのは幸いなのだろう。そうなってたら、修羅場度がかなりエグいことになっていたんじゃなかろうかw
しかし、動転するママを諭すのが、六喰という人選なのがまた渋いというか、人間当時の記憶を取り戻した中でも六喰は、一方ならぬ人生をくぐり抜けた含蓄があるんですよねえ。言葉に重みと実感があるというか。何気に人間力が元精霊の中で一番高いの、六喰なんじゃないだろうか。


【精霊キャンピング】
天香空間内で行われた卒業旅行という名のキャンプ。ってか、精霊全員で旅行とか、平和にならなきゃ無理でしたもんねえ。これはさすがに本編後か天香空間でしかできないイベントだわなあ。
いや、この短編に限らずなのですけど、精霊みんなの集合写真、記念写真的な挿絵が多くて見ていても幸せな気分になれるんですよね。
そして、テント設営合戦では今まで見たことのない組み合わせでの精霊同士のタッグマッチで、これがまた新鮮なんですよね。ここまで来ると、どの精霊が組んでも違和感ないというか、それぞれの個性をマッチさせて仲良くいろんな顔を見せてくれるんですよね。最初の頃は仲の良い精霊同士にもっ傾向があったのですけれど、最終盤まで来たらそのあたりの壁みたいなものも殆どなくなりましたしねえ。八舞姉妹もわりと別々に行動して他の子と組むことも多くなりましたし。
狂三と四糸乃の小悪魔コンビとか、それこそここまで来ないと見れないコンビですよ。


【精霊ワーウルフ】
精霊たちみんなでやろう人狼ゲーム。人狼ネタは色々見たけれど「妖狐」は初めて見たなあ。
こういう智慧と機転が必要とされる場面で無類の活躍を見せるのが、毎度「彼女」なんですよねえ。
ってか、何だかんだとこの巻では十香が主役なんだよなあ。


【十香アフター】
タイトル通り、終了した本編のラストシーンからの後日談。そうなんですよね、本編の十香と士道の再会シーンは美しくはあったのだけれど、二人きりというのは寂しくもあったんですよね。
それをホントよくわかってくれてたんですよねえ。この後日談では、あのシーンのあとに改めて十香がみんなに会いに行く話なのです。
士道と二人きりの時間に耽溺するのではなく、自由になる時間を得て真っ先に願ったことがみんなに会いに行きたい、でしたからね。ほんと、この子たち同士仲良いのが伝わってくるお話で、なんか感動してしまいました。あれから一年経っているので、みんなちょっとずつ成長もしてるんですよね。中学生組が高校に通いだしているのも感慨深いし、高校生組もちゃんと大学生としてやってるんですよねえ。うん、年少組が十香に駆け寄ってみんなが抱きつくシーンなんか、十香って幼いようで年下組からもお姉さんとして慕われてたんだなあ、と改めて実感する次第。
そして、あれだけバチバチと不倶戴天の敵として相容れぬもの同士としてやりあってた折紙と、こんな風に笑いあえるなんてねえ。ってか、十香と折紙が顔を寄せ合って笑ってる挿絵、尊すぎるんですけど。折紙がこんな穏やかに笑ってる姿とか見たことないんですけど。
すべてが終わった後の再会のエピソードとしては、最高に素敵で温かなお話でした。

……それはそれとして、士道ってば高校では卒業したあとも伝説の先輩呼ばわりされてるのか。てか、「僕だけの動物園」が公の情報として出回ってるんですけどw
そして、それらの凄まじい自分の風評を聞いてもまったく動じずに朗らかに笑っていられる士道のメンタル、いつの間にか鋼鉄を通り越して超合金みたくなってるんですけど。すげえ、すげえぜ士道パイセン。

後日談としても実に綺麗に〆て貰えた、とも思ったのですが、もうちょっとだけ続くようです。狂三の件とか実際問題片付いたとは言えない事も残ってるのも確かですし、もう少しこの子たちの先の話も見てみたいだけに、アンコール11の刊行はやはり嬉しいです。


恋愛する気がないので、隣の席の女友達と付き合うことにした。 ★★★☆   



【恋愛する気がないので、隣の席の女友達と付き合うことにした。】 岬 かつみ/庄名 泉石 富士見ファンタジア文庫

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いつも一緒。だから愛おしい――秘密の偽装恋愛ラブコメ!!

「友近たち、付き合ってることにしちゃうのはどうかな?」高校一年となった凛太郎は新しくできた女友達・友近姫乃に告白される。周りの恋愛ブームにうんざりした二人は秘密の偽装恋愛関係を結ぶことになるのだが!?

なるほど、うむ。この友近って子、かなり難しい子だぞこれ。
言動は天然で、周りに迎合せずに自分の道を行くタイプ。でも強引に引っ張る我田引水な性格ではなく、むしろひっそりと気配を消して盛り上がってる空気から離れていくような。
しかし、内向的な性格というわけではなく人好きして、むしろ明るい雰囲気なんですよね。結構な人気者で男女問わず好かれる方で、だからこそ田舎特有の青春=男女交際という熱に浮かされた男子生徒たちから告白ラッシュを受けるはめになる。
それにうんざりして、主人公の和泉凛太郎に偽装交際を申し込んでくるのだけれど。
うん、告白避けとはいえ交際する事になるのだから、お互い意識しあって甘酸っぱいラブコメがはじまるのかと思ってた。或いは、最初からヒロインの方が意識していて、偽装交際を建前にしてグイグイと踏み込んでくるタイプのラブコメかとも想像した。
でもそういうのとはちょっと違ったんですよね。お互い偽物の恋人という関係にもっと右往左往するのかと思ったら、友近の方は天然ゆえの強さというべきか、堂々と交際しています、という顔を崩さず、和泉くんの方も友近と付き合い出した事に男どもからえらい追い込みかけられるのだけれど、あんまりあたふたした様子を見せずに、曖昧に誤魔化しながらもまあ付き合ってますよ、みたいな雰囲気を出している。
途中まで、文化祭の話が持ち上がるまで「あれ? この二人って普通に付き合ってね?」と思うくらいにはこの二人、当たり前に学校ではつるんで、放課後は和泉の家に入り浸り、たまに和泉から誘ってデートみたいな事もして、神戸遠征までした時は帰りのフェリーに乗り遅れてお泊りなんかまでしてしまったりして。
偽装恋愛とは? と首を傾げてしまうほど馴染んだ二人の時間を構築してたんですよね。
ただもちろん、それ以上の恋人らしい事をしているわけではない。舞台が瀬戸内海の島、これ小豆島がモデルなんだろうけど、四国は香川県圏内に位置する田舎ということで若者が遊ぶ場所も少なく、年頃の若者たちの話題といえば男女交際とセックスばかり、と多少偏見入ってませんか? という体で交際を始めたら進行も早い土地柄みたいなのだけれど、セックスどころかキスするような甘酸っぱい雰囲気にもならない。
交際していると言えば交際しているような、友達同士で遊んでいるといえば遊んでいるだけ、とも言えるような、なんとも平熱な関係なんですよね。
しかし、これはこれで友近は楽しそうにしているし、実質付き合ってるんじゃね? という風にも見えたのだけれど、これまで高校で行われていなかった文化祭が復活することになり、島外からの入学者で文化祭という概念をよく知っていて、実は生徒会長とか歴任したイベンターでもあったという突然何やら多様な属性を突っ込んできた和泉くんが文化祭実行委員をすることになったあたりから、微妙に空気が変わってくるのである。
文化祭の復活に乗り気になっている氷室や、中学生の天ヶ瀬などを巻き込んで、学校全体でうまいことイベントごととして和泉くんは文化祭の準備段階から盛り上げていくのだけれど、その「みんなで」の中からススっといつの間にか友近が離れていってしまうのである。
ああ、この子わりと本気で「告白避け」が主理由だったのかもしれない、和泉くんと偽装交際はじめたの、と思ったのがこのときだったんですよね。
もちろん、その相手が和泉くんであるべきだった理由というのはあるはずなのですけれど、友近にとって沢山の男子に日々告白されるために付き纏われる、というのは本当にキツいことで、どうしても避けたい事だったのだなあ、と。
みんなと一緒、みんなと同じというのはこの子にとって生理的に耐え難いことだったんですね。一対一の対面だとよく喋るのに、集団の中に入ると窮屈そうに居心地悪そうに居場所をなくしてしまう。
感心したのは和泉くん、その事を知るやいなやフラフラと集団から離れて遠ざかっていた友近のところに真っ先に駆けつけるのですよ。そうして、集団の中に連れ戻すなんて真似はせずに、みんなと一緒に楽しもう、なんて無粋なことは言わずに、友近の場所からでも楽しめるようなイベントを作るからそこから友近の好きなように楽しんでくれ、と告げるわけですよ。
そうして、イベントの中心となって盛り上げながら、一方で一人でフラフラしている友近の所までわりとマメに駆けつけて、二人の時間を作るのである。
この男、何気にソツがない。というか、友近姫乃という実際はかなり難しいだろう女性に対する最適解の接し方をしてるんじゃないだろうか。
多分、彼女との距離感のとり方を理解しようとしない類の男だったら、そもそも偽装交際すらも成立しなかっただろう。文化祭が終わればもとに戻る、と語っていた友近だけれど、和泉くんの対応次第ではそれも叶わなかったんじゃないだろうか。友近をほったっらかしにして集団の中に入り浸るか、余計なお世話で友近をグループの中に引っ張り込もうとして破綻するか。
パーフェクトコミュニケーション! という単語がファンファーレと共に鳴り響いたのが、文化祭の最中での公園での一幕でありました。
友近にとって、彼に偽装交際を持ちかけたのは告白避けの為であると同時に、期待もあったと思うんですよね。彼は、その期待に理想以上に応えてくれた。期待は確信に変わり、淡い思い出の縁は今現在の熱量へと変換される。
そう、この瞬間から友近の熱量が確かに変わるのです。平熱から、グッとハートが火照ってくる。
男がドキドキしてしまうのは、どうしたって女の子の本気を見せられたとき。さて、友近が平熱だったのと同様に、何だかんだと友近と仲良くしつつも熱量はフラットだったのは和泉の方もおんなじだったのですけれど、明確に変わってくる友近に対して果たして年頃の男の子が耐えられるのか。
わりと速攻でドキドキさせられるはめになっていて、むしろラブコメとしてはここからがスタートなのかもしれない。

しかし和泉くんよ、スマホなくしていながら利用停止しないのは本当に危ないからね。

岬かつみ・作品感想

新米錬金術師の店舗経営 04.ちょっと困った訪問者 ★★★   



【新米錬金術師の店舗経営 04.ちょっと困った訪問者】 いつきみずほ/ふーみ 富士見ファンタジア文庫

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錬金生物《ホムンクルス》で一心同体!

ある人物の紹介でサラサのお店を訪問してきたのは、魔物研究者ノルド。研究対象であるサラマンダーの棲み処への護衛を依頼されたサラサは、店を離れるわけにもいかず……同調した錬金生物で同伴することに!?

アイリスたち、ほんと優遇されてますよね。一応、追加料金は取っているとはいえ基本装備は無料貸出だし、ホムンクルスで遠距離サポートとかいたれりつくせりじゃないですか。
これでアイリスたち、サラサに借金している方なのですから。なにげにサラサの所に持ち込まれた商売外のトラブルってほぼアイリスたちが絡んでませんか、これ? 決してアイリスたちが悪いとか彼女らに責任があるケースばかりではないのですが、普通に見たらこれトラブルメーカーですよねえ。
今回も、サラサの代わりに受けた護衛依頼で、事前にサラサの判断を仰いでのことですから無謀な依頼授受ではなかったはずなのですが、結果としてえらいトラブルに発展してしまって。
これはでも、事前の調査不足ではあったんじゃないでしょうか。ノルド氏が行きたいとおっしゃってたサラマンダーの生息地の危険性ではなく、ノルド氏当人についての調査が。
いや、紹介状付きで彼が現れた時点でいささか問題のある人物、という情報は紹介状の文面からも読み取れた上に本人の話から、一度彼の依頼を受けた人間は二度と引き受けなくなっている、という事は承知していたのですから、ちょっと時間をかけてでも具体的になぜノルド氏の依頼を誰も受けなくなったのか、について調べておけば、もうちょっと何とかなったんじゃないだろうか。
そもそも、護衛依頼の具体的な内容がけっこう曖昧というかいい加減というかファジーでなんにも決めてないっぽいんですよね。同行の日数、必要経費について、護衛の具体的な内容(単に攻撃してくる魔物などから守るだけでいいのか、それとも実験の手伝いをする助手的な行為も含まれるのか、実験補助を行った場合の料金の上乗せについてとか)、具体的なノルド氏の行う実験計画について、とか。トカゲの捕獲とか護衛依頼とは関係ないでしょうし。
ともかく契約内容が全然詰められていなくて、なあなあで進んじゃってるんですよね。しまいには、ノルド氏が事前に説明もなくアイリスたちに了承も得ず、唐突に危険な実験を行った挙げ句に心構えや準備もなく突然いきなりピンチに巻き込まれ、ってあれは少なくともやる前に何をやるか、結果としてどうなる可能性があるか、についてある程度でもアイリスたちに説明さえしておけば、スムーズに逃走するための準備やルート策定なんかもできてたでしょうし。
なにはともあれ、その場その場の思いつきで事前の計画無視して先のこととか他との調整も考えずに勢いでややこしいことはじめるとか、ほんとヤメテ!!(働く勤め人の心の叫び
すみません、ちょっと実生活というか仕事でのあれこれの心身へのダメージがぶり返してきて……あふぅ。

これに関しては、護衛を引き受けたアイリスたちの備えというか、契約内容の詰め方が甘かったとも言えるのですけれど、サラサも口出ししなかったところを見るとこの世界ではアイリスたちのような依頼の受け方はむしろ当たり前というか普通なんですかね。細かい契約条項書き連ねて様々なケースに備えてガチガチに内容固める、なんてことしないんですかね?
そりゃ、ノルド氏みたいな依頼人ならあとで揉めるに決まってるよなあ。金払いがいいから、深刻なところまで行ってないみたいだけれど、あの経費の払いだって話の感じだと単にノルド氏の好意によるもので、ちゃんとした支払責任があったわけではないようですし。というか、後から両者で何となく話し合って何となく決めている、という工程が垣間見えたわけですけど。
いやそれ、ノルド氏が依頼人じゃなくてもやっぱり揉めるんじゃないかな、これ?

こうしてみると、当事者間で依頼の申込みと受付を行うよりも冒険者ギルドみたいな専門知識を有した仲介を経た方が確かにトラブルは減るんだろうな、と思ったり。

さて、アイリスとケイトが護衛の旅に出ている間に、サラサがついにロレアちゃんを正式な嫁に、いや弟子に。実質嫁だよね、これ。住み込みの弟子になった、というよりも通い妻が同棲になった、というだけだよね。錬金術を習うことになったものの、国家試験はどうやらちゃんと学校通わないと難しいみたいで、正式な国家認定の錬金術師になるのは難しそう、と分かっていながら、生涯サラサについていく、それも村を出る事になってもやっぱりついていく、という決意のもとですからねえ。
嫁でしょう。
なんかこの世界、同性婚でもOKみたいですし。子供まで作れる方法あるみたいですし。
うん、なんの問題もないな。
先を越されたアイリスがぶーたれそうですが、前例ができたと勢い込みそうですし。ってか、サラサの本格百合ハーレムになるんだろうか、これ。


キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦 8 ★★★☆   



【キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦 8】 細音 啓/猫鍋蒼  富士見ファンタジア文庫

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魔女の楽園の崩壊で、新たな始祖の血脈たちが動き出す!
魔女狩りの夜が明け、混乱の責任を問われ政権が大きく揺らぐ中、女王代理であるアリスは、シスベル奪還をイスカに託す。イスカもまた自分たちの目的のため、ヒュドラ家の研究施設『雪と太陽』への潜入を試みる!

上半身裸にロングコートを直接羽織って腰骨より下まで下げたローライズのパンツという大胆セクシー衣装で登場し、俺のミラになに手ぇ出してんだこらー! と暴れだすサレンジャーさん。

なんかすごい。

ちょっと語彙が削れちゃったよ、うん。
自分が陥れられて拷問され三十年近く捕われていた事には美学的に怒らなかったのに、ミラベアが傷つけられた途端に、激おこである。いやもうこれ、大胆告白以外の何ものでもないと思うのですけれど、相手人妻であるよ? いや、そう言えばアリスたちの父親については全然言及された憶えがないのだけれど、既に故人かなにかなのだろうか。未だにミラベアもサリンジャーのこと引きずってるっぽいからなあ。
アリスたち娘さんたちはサリンジャーと自分の母親の事は知らないんだっけか。今のミラベアは精神的にもへこみ切ってて落ち込んでるわ弱気になってるわ、という状態なので、サリンジャーの大胆なセリフ直接聞いちゃったらイチコロになってしまうんじゃないだろうか。なにしろ、チョロい事この上ないアリスやシスベルの母親であるからして。絶対妄想癖もあるに違いないw
まあサリンジャーもあれ、一つ間違えるとなんか中二病っぽいのを拗らせてるおじさんだしなあ。いやそれを言ってしまうと色々とお終いな気がするので、触れてはいかん。
それはそれで置いておくとしても、あの超上から目線な態度でこちらも超調子乗って傲慢に振る舞う魔女ヴィソワーズやヒュドラの王女ミゼルヒビィと言った小娘たちを弁舌では言い負かして負け惜しみを言わせ、実力では徹底的に足蹴にして踏みにじる、という蹂躙をかましてくれたのはちょっと痛快ですらあった。イスカみたいなくせのない爽やかな青年に任されるより、あのやたらと偉そうなおじさんに超馬鹿にされまくりめたくそにやられるのって、プライドずたずただろうし悔しかろう悔しかろう、わははは。

一方で、今皇庁内でめたくそに政治的にやられてしまっているのは、帝国軍の侵入を許し、王族たちの誘拐を見逃し、女王自身傷を負わされ権威を傷つけられたルゥ家である。意気消沈してしまった女王ミラベアは発言権を失い、ヒュドラの謀略だとイスカたちのお陰で気づけたアリスだけれど、それを手繰り寄せて武器として振り回してヒュドラに対抗するには政治スキルが皆無なアリス。
……アリス、この娘女王にして大丈夫? 脳筋よ、この娘。どんな詐欺にも簡単に騙されそうよ? なんでも信じちゃうよ??
それを言ってしまうとミラベアも政治力あんまりあったようにも見えないんですよね。世論を操作し謀略をはかるヒュドラのタリスマンといい、領袖を失いながら果敢に主導権を握ろうとするゾア家の仮面卿といい、他家には寝業師というべき政治力の持ち主が力を握ってるのに、アリスたちのルゥ家にはそれらしい存在が見当たらないんですよねえ。唯一、その手の手腕に長けていたと思われる長女のイリーティアは盛大に出奔してしまいましたし。しかも、星霊力の欠如のみを理由とした待遇の悪さが原因、というありさまで。星霊の力を重視する皇庁全体の思想ではあるものの、ルゥ家としてはこの娘を逃しちゃあかんでしょうに。長女どころか、姉妹同士で内紛まではいかないけれど権力争いをしていて、お互い信用も信頼もせずに牽制し合ってたんですよね。そりゃ、身内でこれだけ争ってたらヒュドラ家やゾア家といった他家に付け込まれて追い落とされるの、当然じゃないかしら、と思えてくる。少なくとも、ヒュドラとゾアは身内では一致団結しているように見えますし。少なくとも意思統一はされている。
挙げ句に、ルゥ家の娘たちは密かに帝国の元とはいえ使徒聖と通じちゃってるわけで。
いやこれ、客観的に見ると擁護のしようなくなくない?w 帝国軍引き込んだヒュドラもバレたら言い訳難しいだろうけど、こっちはこっちでバレたら同じくらい言い訳不能っぽいのだが。
それはそれとして、イスカのシャワー後の全裸シーンを監視カメラの映像でガン見してぶっ倒れるアリスさん、それはそれでアウトです。いや、ガン見してたのは直接ラッキースケベした燐の方かw

ちなみに、イスカが常々目指していた皇庁の王族を捕まえたら停戦交渉できるよね、という状況は叶っちゃったんだけど、イスカ的にはどうなんだろう。イスカは王族捕まえたら戦争終わらせられる、と言ってたわけだけど、やっぱりどう考えてもこれ終わらないですよね。どころか、より関係悪化しましたよ?

次回はようやく舞台を帝国に戻しての、今度は燐を伴っての珍道中と相成りそう。ってか、燐はあんな提案しておいて、自分が行くつもり欠片もなかったんかい。流れ的に自分が行く、と主張するものかと思ってたのに。わりとこの人もポンコツだよなあ。


ロクでなし魔術講師と禁忌教典 17 ★★★★☆   



【ロクでなし魔術講師と禁忌教典(アカシックレコード) 17】 羊太郎/三嶋 くろね 富士見ファンタジア文庫

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公爵家イグナイトの裏切り。クーデター『炎の一刻半』

魔術祭典決勝を襲った最大級の悲劇と天の智慧研究会の最高指導者、大導師フェロード=ベリフの登場――歴史の大いなる転換点で、アルザーノ帝国女王府国軍大臣・アゼル=ル=イグナイトもついに動き出す――。

イグナイト卿、クズ野郎、クズ・オブ・クズだとは思ってたけど、そこまでやるか。そこまでやってたのか。「彼女」の言葉じゃないですけど、「ははは、笑えねえ。死ねよマジで」ですよ。
うん、いっそここまでクソ外道だと清々しいですわ。同情の余地が一切なく、理解の必要がまったくない。ただただ己の野心のみに固執してそれ以外の価値を認めないクソ野郎。自分の子供を道具としか考えていない、という毒親キャラは珍しくないですけど、ここまで完全に道具扱いした奴は見たことないですよ。
これでまだ、その野心に見合うだけの才覚の持ち主。自分こそが帝国を率いるに相応しい存在であるという自負に見合うだけの力の持ち主であったのなら、世界の敵、国家の敵として十分だったのでしょうけれど。
権力の握り方も力尽くで凄まじい恨みと憎しみを買いまくってるし、決して権力闘争に長けているという風でもなく、作戦立案能力も消耗戦前提の力押しで、戦闘も火力馬鹿。人の操り方だけ、呪詛を使って小賢しく無理矢理に従わせるのがうまい、というだけのまあ自己評価の高さとは裏腹の人物なんですよね。
イヴからは、冷静に小物と切って捨てられていますし。
でも、そんな無能な小物だからこそ、そんな輩に帝国が食い物にされ、過去からこのクーデターに至るまで無数の兵士たちが無為に死ぬ羽目になり、そして何よりイグナイトの娘たちが無為にその人生を潰されることになった。父親と違って、本物の天才だった三人共が踏みにじられ、苦しみのたうちまわり、その輝かしい道を歩むはずだった人生を泥に塗れさせられた。
怒りもある、憎しみもある、悔しさもある、でもその原因がこの父親だったという、この小物に過ぎない男であるという事実に、虚しさを感じるのである。あまりに、その死が、人生の歩みが徒労すぎて、こんな男に消費させられて、報われなさすぎる。

今回の一件は、イグナイト家を、そして帝国そのものを覆っていた一人の男の醜い野心の呪縛を、それに苦しまされ続けた末娘が、ついに打ち破る話でありました。
「炎の一刻半」と銘打たれた歴史的軍事作戦の指揮を取る、イヴ・ディストーレの慟哭と決別の三時間。
限定された時間内での怒涛の展開だっただけに、まさに凝縮された密度の濃い、そしてスピード感に乗りに乗ったまるまる一巻でした。これ、本番の前哨戦に過ぎないんですけどね。
ジャティスの謀略による天の智慧の首魁の正体の世界への露見からはじまる、世界の終わり。まさにその端緒であり、色んな意味で誰もが躓いたイグナイトの乱。ほんと、他者の足どころか人生そのものを無為に引っ張るという意味で最大級の余計モノでした、イグナイト卿。そのぶん、ちゃんと相応しい末路を辿ってくれて良かったですけれど。
……にしても、イヴにしてもアリエルにしても、目的を達するために進んだ道が迂遠すぎるのはイグナイトの血筋なんだろうか。イヴなんざ、それで一時は目的見失ってるし。
ともあれ、最大のネックでもあったセラの殉職の件も、イヴはむしろ積極的に動こうとしていたのにイグナイト卿に邪魔された結果だった、というのがグレンにも伝わって、二人の間のハードルほぼ取り除かれちゃったんじゃないだろうか。
かつて白猫が、何度も何度も精神的にフルボッコされ、愛情たっぷりの棍棒で滅多打ちにされ、そこから這い上がってきてヒロインとして一枚も二枚も格を上げて覿面に飛躍してきた事を思い返せば、イヴもまた登場時から大転落して、何度もボコボコにされ続けた末にここでトドメとばかりの猛襲を受けてのた打ち回って苦しみぬいての、過去と呪縛からの脱出であり打破の集大成だったんですよね。これまさにまさに遅れてやってきた最強のヒロイン、ワンチャンありですよ。

しかしこれ、イリヤとイヴ、同じリディア姉に救われた妹でありんがらこれだけ歩む道が変わってしまったの、理由は色々あるのだろうけれどグレンと出会っていたかというのは大きな要因だったんでしょうね。たった一人で復讐にひた走ったイリヤに、リディアに代わって真のイグナイトを目指したイヴの違いとも言えるのでしょうし、リディアの末路を知ったか知らなかったかの差でもあるのかもしれませんが。

さて、高笑いしながら次元の向こうに飛ばされていったジャティスですけど、こいつ絶対これで退場とかないよなあ。余裕ヅラの黒幕さんに、ばっ馬鹿な!と愕然顔で言わせてくれそうなの、グレンたちよりも圧倒的に煽り属性持ってるジャティスの方なので復活が楽しみですらある。



ロクでなし魔術講師と追想日誌(メモリーレコード)6 ★★★☆   



【ロクでなし魔術講師と追想日誌(メモリーレコード)6】 羊太郎/三嶋 くろね 富士見ファンタジア文庫

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グレンとシスティーナのデートに父親同伴!―『お父様が見てる』。大天使ルミアが、ついにグレる!?―『名無しの反転ルミア』。グレンの仮病を暴くため、三人娘がアルフォネア邸へと突撃!!―『仮病看病☆大戦争』。そして再び登場するフェジテの華麗なる魔導探偵(笑)ロザリー=デイテート、その活躍を描く『魔導探偵ロザリーの事件簿 無謀編』。人気を博した傑作短編を同時収録!そして―「貴女に託すわ…私が誇りに思うイグナイトの名を」魔導の名門・イグナイトの次期当主イヴ=イグナイト。彼女の知られざる過去もついに明らかに。

イヴが実質メインだと思しき本編の最新刊を前に、どうやらイヴの過去編があるらしいこの6巻を先に履修しておかないと、という事でここしばらく積んでいた【追想日誌(メモリーレコード)】を崩してこの6巻まで到達。いやね、本編16巻読んでいたらいきなり知らないイグナイト家のお姉さんが出てきて、誰よこれ!? と、なったんで、これ短編集の方も読んでおかないと、となってたんですよね。
お陰様で突然現れたリディア・イグナイトがどういう人物だったのかわかったわけですけれど、これ本巻読んだ後だったら彼女が本編に登場した時の印象全然違ったんだろうなあ。

と、短編の方はいつもの便利なレギュラー、セリカと教授がほぼお休み、という異色のラインナップながら面白さはさらに勝るという、ここまでシリーズ来るともうキャラが活き活きしていていいですねえ。



『お父様が見てる』
白猫のパパさんが、娘のデートをストーキングする、という展開だけなら馴染みのものだと思うんですけど、まさかのママさんご同伴の夫婦で、という展開にママさんはストッパー役なんですねわかります、と思ってみていたらまさかのママさん、ストッパーどころか何かある度にパパさんの脇腹にナイフぶっ刺してグイッとひねるトドメ役だったよ!
レナード氏、まさかの魔術講師時代に生徒に手を出していた案件発覚である。ママさん、マシンガンさながらの怒涛のパパさんの過去へのアウト判定、笑った笑った。そりゃ、手を出された本人ですもんね。パパさんがグレンにダメ出しするたびに、貴方の時はもっと酷かったですけどね、とばかりにニコニコと指摘されていく黒歴史の数々に、レナード氏完全沈黙である。娘のデート覗きながらここまでボコボコにされるパパさん、はじめてみたよ。
しかしこれ、どう言い繕ってもパパさん、グレンのこと一ミリも非難できないんですけどっ。
とまあ白猫パパとママの方にばかり目がいってしまうデート回でしたけど、白猫パパのプレゼント探しという名目とはいえ、何気にグレンと白猫の雰囲気とても自然でお似合いなんだよなあ。


『名無しの反転ルミア』
悪堕ちルミナ、と見せかけたナムルスのセンスが爆発する回。単にいつも外から見ているばかりなのが寂しくなったナムルスがルミナの体を借りてグレンたちと一緒の日常を体験する、というだけの話しだったはずなのに、ナムルスの訳の分からんファッションセンスと女王様プレイのおかげでまるでルミナが悪堕ちしてしまったかのようになって、学園が阿鼻叫喚に包まれるという。
クールで頼りがいのあるキャライメージ……は、本編でもあんまりなかったか。やたらとチョロいツンデレムーヴを本編でもカマしていたけれど、さらにド級のポンコツ属性までここまで見せてくれるとは。あと、嫌い嫌いと言いながらこの娘、ルミアの事好きすぎである。


『仮病看病☆大戦争』
この教師、薬まで使ってガチで仮病使ってサボりやがったw
ロクでなしの面目躍如である。いや、まじで家でダラダラ過ごしたいだけで、そこまでするか、と。
……うん、まあわからなくもないけれど。休みたい時は休みたいよね。ただそのために生徒の前で急病のふりをして本気で心配させたのはアウトですね。システィが怒るのも無理はなく。
ただ、気づいたシルフィもさることながら、仮病をつかうグレンを見て本当の風邪の前兆症状を見抜いていて本気で看病しにくるルミアさんもやはり侮れません。


『魔導探偵ロザリーの事件簿 無謀編』
名探偵の要素とは推理力云々じゃなくて、事件そのものにぶちあたる引きの強さかー。まず事件を見過ごしてしまったら、推理も解決もあったもんじゃあないですもんなあ。
もっとも、ロザリーの場合はグレンが助手についていないとせっかく事件にぶち当たっても解決能力皆無なので、ほぼグレンに丸投げ、というのがなんだかなあ、という所ですけれど。
とはいえこれ、結局システィのお屋敷侵入編、みたいになってて、システィ、ルミア、リィエルの三人娘の家での様子をグレンが覗き見てしまう、みたいな話になっとるやないけ。


『炎を継ぐ者』
徹頭徹尾、イグナイト卿がクズ・オブ・クズすぎてドン引きである。
先代イグナイト卿、どういう教育施したんだ、この男に。さすがにちょっと歪みすぎじゃあなかろうか、まともじゃないぞ。長姉リディアには尊敬されていたみたいだけれど、息子の教育をここまで過たせた廉は無視できないですよ。
イヴもこれ、酷い境遇じゃないですか。これを見ていると、むしろよくあれだけマトモに育ったな、というふうにしか見えなくなってくる。それもこれも、リディアという姉がいたからであり、イヴがイグナイトに拘るのは父親ではなく姉の愛情があったから、というのはよくわかったのだけれど。
それで真のイグナイトを目指しておきながら、結局最初の志を忘れてしまって父親の劣化イグナイトに成り果ててたの本末転倒すぎて、さすがイヴさん、というほか無い。
まあ父親のプレッシャー、のみならず呪詛での強迫で常に圧迫を受け続けていたのを思えば多分に同情の余地もあるのでしょうが。何気にセラの一件を除けば一線を越えたことはないようですし、セラの一件も援軍を「送れなかった」という方が正しいですしね。
 
11月26日

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