徒然雑記

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富士見L文庫

ぼんくら陰陽師の鬼嫁 七 ★★★★  



【ぼんくら陰陽師の鬼嫁 七】 秋田 みやび/しの とうこ 富士見L文庫

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芹が呪いを受けていた!? 原因を除くため、形代の式神・青竜が目覚める。

“北御門”が呪詛で狙われた廃遊園地の一件を切り抜け、大学でも新年度を迎えるころ――ところが芹は、どうにも体調が優れない。
その様子に呪いの兆候を感じた皇臥は、芹に北御門への呪詛が効かなかったのは、すでに彼女が別の呪いを受けていたからだという可能性に思い至る。皇臥は事態を重く見て、災いを受け流す役割を持った式神・青竜を呼び覚ますのだが……なんとその姿は、若い頃の皇臥そっくりで!?
呪いも旦那も増殖中? 受難の仮嫁とぼんくら旦那は、呪いの源に迫れるか!?
ああもう、この旦那ホントにかわいいなあ!!
往々にしてこの手の下げる評価を受けてる主人公って、実は有能だったり天才だったりするのですけれど、皇臥って掛け値なしにぼんくらなんですよね。陰陽師としての腕前は最大限評価して普通。苦手分野多すぎるし、得意の式神製作も今回の青竜の如月も出来栄えはともかくとして、面倒がってアップデートしてなかったとか、何をやってるんだと。
本当の本当にやや駄目よりの凡庸な陰陽師で、覚醒の余地とか完全にないんだよなあ。
かといって頭のほうが冴えているかというと、こっちもぼんくらと言われても仕方ない右往左往っぷりで、オマケに芹に秘密に事を進めようとして、史緒佳お義母さんにこっぴどく叱られる羽目になってるし。
嫁さんの前で母親にガチで叱られるって、恥ずかしいなんてもんじゃないですよ。でも、それとなく皇臥を庇ってフォローする芹が実に良い嫁してて、史緒佳お義母さんもあとで感謝して褒めてましたけれど、あれは良いシーンでした。
という風にやることなすことぼんくらで、芹がかけられた呪詛に関してもあれ正体を見抜いたのって偶然の産物に近くて、皇臥が鋭く見抜いたってわけじゃ全然ないんですよね。それどころか、予想がことごとく外れるわ、芹を護るための防衛策が片っ端から効かないわで、文字通り右往左往してましたもんね。
ただ、芹のために必死で一生懸命頑張ってるのだけはこれ以上無く伝わってくるんですよ。余裕ない分、必死さが焦りが懸命さが余計に伝わってくる。芹に黙って対処しようとしていたのも、芹を不安がらせないためですし、芹の事が心配で心配でたまらないというのがヒシヒシと伝わってきて、もうそれが可愛いというほかなく。
形代という身代わりの生贄役である青竜を使いたがらなかったのも、皇臥が式神たちを使役する道具ではなく家族として愛情を注いでいるのが良く分かるエピソードでもありますし、彼の優しさというのは随所に見られるんですよね。そういうところが陰陽師として甘いところだと言われたとしても。
かっこ悪いところもたくさんあった、でもそういう時って自分のメンツ度外視して、芹の気持ちを組んで彼女の心身だけじゃなく芹の友人たちや置かれた環境ごと守ろうとしてくれている時で、それを叶えるためならどれだけ自分の無能をさらけ出してもいい、自身が格好悪いことになっても構わない、という姿勢って……カッコいいんですよ。
かっこ悪いのが、カッコいい。
いやほんと、あの兄貴に頼み込むシーンはダサダサで恥ずかしいしみっともなくてかっこ悪い事この上なかったんだけれど、それが本当にかっこよかった。
芹がそれを見ていて、もうなんかアテられちゃったの、凄くわかりますわー。
女の人が男のことを可愛くてたまらない、と思う場面ってこういう形もあるんだなあ。

その芹の方も、今までの生き方のせいか不安や辛いことがあっても、表に出さずに誰にも弱みを見せず大丈夫大丈夫と流してしまっていた自分に、友達からわりと厳し目に指摘受けてようやく気づくことになるんですね。自覚が全然なかった分、きっとたちも悪かったんだろうけれど。
目に見えて不調なのに、病院行ったらという心配に、全然大丈夫だから、と返すのって相手からすると何も安心できることはないんですよね。心配をさせてもらえない、気遣いを受けてもらえない、というのは心の壁になるんだろうなあ、これ。
そういうのを取っ払って、ようやく「家族」になるわけだ。芹としては、もう気持ちは北御門家の一員のつもりだったと思うんですよ。でも、家族という関係に今まで慣れ親しんでいなかった彼女にとって、意識しない所でこういう隔たりが生じていたんですなあ。まあ、皇臥たちもそんな壁とか気にするほどのものでもなかったんでしょうけれど、それでも芹が意識して皇臥たちからの心配を受け取ろうとしたことで、今まで以上に芹の中で心理的な隔たりが取っ払われたような気がします。
なんか皇臥との距離感も、元から全然近かったけれど、もっと深い所でしっかりと繋がった感があって、今まで以上に夫婦然として見えるようになった気がしますもんねえ。

あと、護里ちゃんと祈里ちゃんの可愛さが相変わらず天元突破なんですけど! この幼女バージョンも、蛇と亀の式神モードになっても変わらない可愛らしさといったら、なんなんですかね!?
仕草から台詞から、あのきゅーっと抱きついてくるところとか、もう何から何まで可愛いんですけど。かわいいなー、かわいいなーー!! 

さあ問題もすっきり解決して、平和な家庭の団らんが戻ってきた……と、思うんだけれど、なんだこの不穏な空気は。なんかまた怪しい人が暗躍してるっぽいし。できればこの家庭はほんとに平和で居て欲しいんだけれど。


浅草鬼嫁日記 九 あやかし夫婦は地獄の果てで君を待つ。 ★★★★  



【浅草鬼嫁日記 九 あやかし夫婦は地獄の果てで君を待つ。】 友麻碧/あやとき 富士見L文庫

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『――絶対に、連れ戻す。地獄の果てまで、お前を探しに行ってくるから。』

「茨木真紀は、まだ、助けられるぞ」ライの凶刃に真紀が倒れ、絶望に暮れる馨。そこへ助言を与えたのは、宿敵・安倍晴明の生まれ変わりである叶だった。
彼女は前世“茨木童子”の重ねた罪で、地獄に魂が囚われている。閻魔大王の判決を覆し、連れ戻せれば目覚める可能性はある、と。
一縷の望みに、馨は迷わず地獄へ向かう。そこでは姿が前世“酒呑童子”に変わり、鬼の獄卒として出世していくことになり……!?
彼岸花の咲く地獄の果て。朽ちゆく大魔縁・茨木童子――真紀が待つ、その場所へ辿り着くために。

おおっ、大魔縁・茨木童子モードの真紀ちゃん、見た目カッコいい!
前回、ライによって死んでしまった真紀ちゃん。いや、肉体的にはまだ死んでなかったものの、魂の方が地獄へと堕ちてしまったんですね。その真紀ちゃんを復活させるためには、直接地獄へと赴いて彼女の魂を連れ戻さないといけない。
こういうパターンだと日本の場合は黄泉の国へと赴くことが多いのですけれど、地獄まで行ってというのは結構珍しいんじゃないだろうか。地獄から戻る話って、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」くらいしかパッと思いつきませんしね。
つまるところ、地獄ってそれだけしっかりと組織だった「監獄」なんですよね。そこに落とされた死者は、裁判によって罪人と定められた囚人たちである以上、安易簡単にその罪を許して地獄から出してやるわけにもいかないし、勝手に抜け出したり連れ出したりしたら脱獄になってしまう。
そら簡単に地獄から現世に戻る話がないのも理解できようというもの。蜘蛛の糸の話は、仏様による恩赦あってのことでしたしね。
てっきり、真紀ちゃんは地獄に落ちようとあの真紀ちゃんなのですから、いつものごとく大暴れして地獄の鬼どもを屈服させるか心酔させて、お山の大将かみんなの姐御みたいになって地獄に君臨しててもおかしくはないなあ、と楽観的に考えていたのですが。
地獄というのは上記したようにしっかりとした組織によって運営されているもので、ならず者や無法者たちが好き勝手して暴れている場所じゃあないんですよね。ヤクザかチンピラ相手なら、真紀ちゃんが一発暴れて改心させて、という展開もあるのかもしれないけれど、地獄の鬼たちは鬼であっても獄卒というちゃんとした社会人であり、当人たち曰く社会保障制度によって守られた公務員という安定した職についている勤め人たちなのである。
いやそりゃ、真紀ちゃんと相性悪いわ。弱者を虐げている乱暴者相手に一暴れするのならともかく、真面目に働いている人相手に暴れたら、ただの悪い人だわ。
なればこそ、こういう時こそ馨くんの出番なんですよね。真面目で細かい所によく気がつくマメで責任感の強い馨くんが。まだ高校生にも関わらずバイト掛け持ちでよく働き、勤務先の評判もよく、社畜の気質もあるんじゃないだろうか、という勤め人気質の馨くんは、この公務員組織な地獄にもよく肌が合うんじゃないだろうか。というか、天職なんじゃないですか、これ?
実際、叶先生の手引で獄卒の採用面接を受けることになり、新卒として下っ端から採用された上に、その真面目な勤務態度と勤務成績から若手のホープとして順調に獄卒として出世していく馨くん。
……こいつ、前世酒呑童子で反秩序の旗頭みたいな存在だったくせに、なんでこんな組織の歯車として働く勤め人が似合う男になってるんだ?
いやこれで、ちゃんと家庭を大事にする所はしっかりしているので、家庭的だし家計を担う大黒柱としても頼もしいし、結婚する相手としては優良以外のなにものでもないんだよなあw
真紀ちゃんとしても、そのへん不満を覚えたこと一切ありませんし。

鬼が暮らす環境として、地獄は思いの外仕事環境のみならず、生活環境の方も公共福祉に至るまで完備されてて、実に暮らしやすそうなので、いざとなったら地獄の方に生活基盤持ってもいいんじゃないだろうか。獄卒の鬼のみなさん、みんなイイ人ばかりでしたしw
とはいえ、今の馨くんたちの故郷は現世であり、細かく言うと浅草こそがホームであり、待っている人たちも沢山いるのだから、夫婦で幸せになるのならやはりそこで、なんですよね。
これまで馨が知ることのなかった、大魔縁・茨木童子としての真紀の姿を目の当たりにすることで、彼女が千年以上に渡って抱えていた苦しみ、悲しみ、彼女が背負った罪と業を彼はようやく夫として受け止める機会を得ることになる。
きっと、それを知らなくても二人なら幸せになることは出来たかもしれないけれど、真紀ちゃんだけが罪の意識を背負い続けるのではなく、夫婦で分け合って背負っていけるというのはまた全然違ってくるものがあるでしょう。
叶先生、本当にこの二人には何の憂いも蟠りもなく、幸せになって欲しかったんだなあ。そのために、随分と胡乱で面倒くさい手順を踏むことをしていますけれど、いちいち説明しないのって変に言っちゃうとシナリオ通りに進まないから、というのもあるんだろうけれど、この人説明するのが面倒くさいと思ってる節があるように見えるんだけどなあw
おかげでやたらと胡散臭く見えてしまうけれど、仕方ないよね、胡散臭いし。まさか、こんなに裏表なく真摯に二人のことを思い遣っていたとは思わないじゃないですか。胡散臭いし。性格悪そうだし。いや、性格歪んでいるのは間違いじゃないでしょう、この人の場合w
ともあれ、ミクズの本当の目的もわかり、どうして彼女が裏切ったかの理由も理解できたので、だいぶ全体すっきり晴れた気がします。叶先生の正体の方もはっきりしましたしね。

なんか、次の展開浅草を離れて京都の陰陽師の学校での学園編開始! みたいなネタフリもあったのですけれど、シリーズとしては次回が最終巻なのか。学園編、真紀ちゃんが悪役令嬢ばりに暴れてくれそうで、結構読んでみたいんだけどなあ。


江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる ★★★☆   



【江戸の花魁と入れ替わったので、花街の頂点を目指してみる】  七沢 ゆきの/ファジョボレ 富士見L文庫

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歴史好きキャバ嬢、伝説の花魁となる――!【コミカライズ連載決定】

●第5回カクヨムWeb小説コンテスト 大賞受賞作●

歴史好きなキャバ嬢として活躍していた杏奈(あんな)は、ある日目覚めると花魁・山吹(やまぶき)に成り代わっていた!
現代に戻れないと覚悟した杏奈は、知恵と気っ風の良さで江戸の憧れである花魁の頂点になることを決心する。
しかし直後に、人気を競う花魁に、客から贈られた大切な着物を汚される事件が起こる。その馴染み客は数刻後には来楼予定。汚された着物を着れば機嫌を損ね、言い訳すれば格を落とす。"山吹"の危機に、杏奈は古典から学んだ教養と接客の機転で応じ……?
山吹花魁の伝説、ここに開幕!


この杏奈姐さん、ナンバーワンキャバ嬢として接客の粋を極めているだけでも並外れているのに、元レディースの総長として喧嘩無双してるわ、ちゃんと大学入ってるどころか主席で卒業してる学歴無双だったりというだけでもいい加減役満なんだけど、トドメに歴女なんですよね。
それも並の歴女ではなく興味ある分野だけ詳しいとかじゃなくて、時代背景からがっつり勉強してその時代の知識そのものを吸収してしまったような歴戦の歴女である。ってか、これだけ江戸の風俗や社会情勢や庶民生活の知識や各地の大名の歴代藩主を軒並み覚えてたり花街のしきたりやらに詳しい知識を頭に詰め込んでるって、もう完全に専門家じゃないですかー。さすがは金貯めて史学部に入り直して研究者になろうとしていた根性の持ち主だけありますわー。
この江戸時代に目覚めて、わりと即座に覚悟決めたのもそれだけ肝据わっているというのもあるのだけど、それ以上に「推し」の歴史上の人物やそれに連なる一族の人に直に出会えることに興奮して、イケイケで花魁道極めようとしてるんですよね。生きてる「推し」ってフレーズは新鮮でした。こりゃ、骨の髄まで歴女だわ。
そして何より、性格がイケメンなのがモテる証拠でもあるのです。元ヤンという度胸とキャバ嬢としての愛嬌が相まって、気風の良さと侠気で鳴らす姉御肌の花魁として一世を風靡するのです。
実際、鉄火山吹なんて異名がついて、お武家さん、それも大名クラスを中心に大人気になってしまうのである。それ以上に、この手の姐さんというのは同性にも慕われるタイプなので、禿の双子とは姉妹のように仲睦まじく山吹の方は双子をこの上なく可愛がり、双子の方は一途に慕うという関係になるのが凄く良いんですねー。
陰湿な嫌がらせをしてくる同輩の桔梗花魁とも、正々堂々花魁として彼女の負の感情を叩き潰してみせることで、彼女にまとわりついていた陰の気を吹き飛ばしてしまうのである。
こういう後腐れのない清々しさが山吹花魁の持ち味なのでしょう。これ以外にも迷惑な客なんかもバシッと派手に一発かましながらも、相手を追い詰めること無くむしろ引き立たせることで見事に清算して、より良い関係を導き出しているあたり、ただの鉄火肌じゃないんですよねえ。結構な気遣いの人でもある。誰しもが認めるカッコいい女性なんだなあ。
この当時の花魁というのは、アイドル的な持て囃され方もしていたものですから、江戸の女性たちにも人気になってしまい、押しかけファンまで出てきてしまうのには思わず笑ってしまいましたが。

江戸時代の、それも吉原という花街を舞台としているだけあって、ただの時代劇とは別格とも言える独特の世界観が存在しているのですが、それを見事に解りやすく描き出しているのには感心させられました。一章ごとに30近い注釈解説がついてくるのですが、これのお陰で隠喩や知らない風俗、言葉遣いなんかもすぐに理解できてありがたかったです。それだけ注釈が必要なくらい、かなり深度の深い江戸の知識が散りばめられているのですけれど、そういうのを上手いこと説明文にせずに物語の中に挟み込んで、しかもすっと理解できるように周りの状況や話の運び方なんかも工夫されていましたし、その上で注釈を置いてくれていたので、ほんとわかりやすかった。この巧みさはかなり瞠目に値するんじゃないでしょうか。正直、結構知らないことも多くて勉強になりましたし。
花魁が主人公なのに、やたらと殺陣が必要な大立ち回りがたびたびあるのは、さすがに大変そうと思いましたけど。幾ら元ヤンとはいえそんな喧嘩ばっかりしてられないでしょうに。
あと、松平のお殿様が典型的なバカ殿なんだけど、どうにも憎めないキャラになってて可愛いというかなんというか。でも、こんなおバカでちゃんと大名やってけるんだろうか、心配になってくるぞw

メイデーア転生物語 4.扉の向こうの魔法使い(中) ★★★★   



【メイデーア転生物語 4.扉の向こうの魔法使い(中)】  友麻碧/雨壱 絵穹 富士見L文庫

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首席を目指すマキアに立ち塞がるものは――? 魔法学校の期末試験、開始!

同盟国が集い、帝国の脅威に備えるなか、ルスキア王子たちの絆を繋いだマキア。安心したのも束の間、今度は救世主アイリが失踪し、トールとともに捜索に駆り出されることに。だがそんなマキアにもう一つの戦い、魔法学校の期末試験が目前に迫っていた。
いつもは頼もしい班員たちも、この時ばかりは首席を争う好敵手。次々と難題をクリアし、待ち受けていた最終試験・精霊探しゲームで、マキアは学校に隠されていた秘密の部屋を見つけて……?
“メイデーア”の命運を握る者たちに、等しく試練の日が訪れる。

くあーーっ、イイ所で、イイ所で終わったー!!
上中下の中編だから仕方ないんだけれど、電書で残りページとか確認する間もなく没頭して読んでいたものだから、ユリシス先生の大見得切りでぐおーーっと盛り上がった所で次回へ続く、と来ましたからねー。マジで次回早くしてください。

救世主のアイリが引っ掻き回してくれた件、マキアが自分の前世を明かすという爆弾を投じてアイリの事を諌めた、叱った、喧嘩吹っかけたのもあって、ルスキア王国内の混乱にも一区切りがついたと言ったところでしょうか。ギルバートとフレイの王子同士の拗れた仲にも一つの区切りがつきましたし。
落ち着いたからこそ、ここでマキアから離れて救世主の守護者となってたトールの側の心境を語るタイミングになったのでしょうね。これまで、トールを思いずっと寂しい気持ちを抱きながらトールの事を追いかけていたマキアが描かれていましたけれど、トールの方もずっと寂しい思いをしていたんですね。
トールにとってマキアの存在がどれだけ大きいか、オディリール家がどれほどトールを家族として迎えてくれたことが心の支えになっていたのか。だからこそ、そこから引き離されたトールの寂しさは取り残されたマキアに勝るとも劣らないものだったのでしょう。
ましてや、追いかけてきてくれたマキアは、しかし魔法学校でちゃんと自分の居場所を作り、掛け替えのない友人を作ってしまっている。オディリール家で過ごした日々を懐かしみ、あの日々に戻ることを願っていたトールと、我が家を出て自分を追いかけるためとはいえ新しい道を歩き始めたマキアとでは微妙なすれ違いが生じていたことを、トールは敏感に感じ取っていたんですね。
マキアはもう、過去に巻き戻されることを望んではいない。自分以外にも、失いたくない大切な人たちを手に入れてしまっている。いつしか、置いていかれているのは自分の方なのだという現実を、この青年は実直に直視ししている。目を背けることも否定することもなく、事実をそのまま受け入れいている。締め付けられるような寂しさに苛まれながらも、大切なお嬢に掛け替えのない友人たちが出来た事を素直に喜び祝福できるトールは、だからこそイイ男なんだよなあ。
でも、トールは少し勘違いしている。あの懐かしい日々に戻りたいともう思っていなくても、マキアの進む先にトールがいない事は絶対にないのだから。マキアがもう幼い日々に未練を持っていないのは、過去に抱いていたトールへの想いよりももっともっと今のほうが熱く強く限りないものを、今のトールに抱いているから。
過去に戻りたいと思わないのは、それだけトールとの関係に新しいものを、もっともっと先に進んだものを、求めているからなんですよねえ。
ネロやラピスやフレイに抱いている特別と、トールに注がれている特別は、根本的に違うものなのだということを、まだトールはよく感じ取ってはいないのだろう。
それは、これから穏やかに二人の時間を紡いでいくことで、ゆっくりと育てていくべきものだったのかもしれない。
しかし、世界の運命はそんな悠長な時間を彼らに与えてはくれなかった。

急転直下、平和だった時間はあまりにも突然過ぎる魔物たちの襲来に寄って打ち砕かれる。お祭りみたいな試験の結果発表会が、突如行われた帝国による侵入工作によって争乱の只中へと放り込まれたのだ。
そんな混乱の渦中で明らかになる、ラピスのトワイライト一族の生き残りとして抱く自分を見失うほどの復讐心、そして謎深かったネロの正体の一端が明かされることになる。
いずれにしても、彼らを取り巻く状況はとめどなく加速を続け、もう戻れない所まで押し流されていってしまった。たとえ、この争乱をくぐり抜けたとしてももう二度と、あの穏やかな学校での時間が戻らないことを明示するように。
白の賢者の生まれ変わりとして、ついにそのベールを脱ぐユリシス先生。そして、彼に導かえるように、かつて扉の向こうの魔法使いと呼ばれた偉大なる魔人たちの目覚めの時が迫る。

そんな中でこれまでダメさ加減を晒し続けていたアイリが、ついに救世主として立つ。夢見る少女としてではなく、現実に向き合い恐怖に震えながらそれでもなけなしの勇気を振り絞る、只人の救世主として。皆の希望として、皆の怯えを引き受ける柱として、マキアとトールに本当の意味で向き合える人間になるために。
思わず頑張れ、頑張れ、と応援したくなるようなアイリの奮起は、彼女の成長は、この物語の大きな柱の一つなのでしょう。

いずれにしても、次の巻こそがこのメイデーアをめぐる物語の本当のはじまりになるのでしょう。いや本当にいいところで終わってしまったので、早く続きを出してくれないとたまんねーですよ!


メイデーア転生物語 3.扉の向こうの魔法使い(上) ★★★★   



【メイデーア転生物語 3.扉の向こうの魔法使い(上)】 友麻碧/ 雨壱 絵穹 富士見L文庫

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戦いに備え動き出すメイデーアの国々。落第王子の秘めた想いは誰がために?

『何度生まれ変わっても、俺はお前を必ず殺す』かつてそう告げて“前世”の自分を殺した金髪の男と、巡り会うマキア。フレジール皇国の将軍カノンと名乗る、その男の転生を恐れるマキアをよそに、救世主アイリと守護者の旅立ちに向けて、ルスキア王国に同盟諸国の王たちが集おうとしていた。
いっぽう魔法学校では、第一学年最後の班課題が発表される。マキアたちの班も高評価を目指して活動をはじめるのだが、留年生のフレイがいつになく上の空で……?
落第王子の想いが解かれたとき、“メイデーア”の運命の扉が開く。

シャトマ姫、いや女王陛下だから姫じゃないんだけれど、作中でもちょっと触れられているけれど、この人って陛下じゃなくて姫なんですよねえ、なんでか。いやそれ以前に、シャトマ姫というよりも最初から藤姫なんですよ、この人って。なぜか「藤姫」の方が前面に出ている感じで、ついついこの人の事は藤姫と頭の中でも呼んでしまう。
ともあれ、前世の地球でマキアとトールを殺した男、カノン将軍の登場である。そりゃマキアも怖がるわさ、自分殺人犯ですよ。それがしれっと現れるのですから。これで、カノンの方が殺した記憶がない、とかならまだこう対等な立場から記憶が戻るまで交友を深めて、いざ記憶が戻る時に殺人の記憶に苦しんでー、とかいう展開になるのですけれど、このカノン将軍と来たらズケズケとマキナに近づいてきて真顔で、お前を殺す、また殺す。何度でも殺す。という殺人予告までかましてくるわけですから、怖いよ、そりゃ怖いよ。
これで感情的に憎悪や怒りが含まれていたなら、マキナの方も自分なんかしただろうか、と思う所なんだろうけど、無表情に淡々と必要だから殺す、という機械的な感じですからね。殺すというよりも、食肉処理される、みたいな感じですし理由もわからない以上どないせいっちゅうねん、てなもんですよ。
トールの方は前世覚えてないですし。自分だけでその恐怖を抱え込まないといけない。でも、覚えてなくてもマキナが怖がっているのを察してくれたトールが、庇ってくれるのは女の子としてはもうたまらんくらい嬉しいんでしょうけどね、このナチュラルイケメンめー。
しかしカノンの方も殺す予告をしておきながら、決してマキナたちの歩みを止める存在ではないのである。立ちふさがる壁でも追いかけてくる断罪者でもなく、進む道を途絶させる者でもない。
それどころか、彼こそが導く者であるということは、マキナに殺すと言いながらその前にたどり着くべき真実があると告げて、そのために行かねばならない場所がある、と指し示してくれるわけである。
このあたりの複雑な立ち位置が、通り一遍のキャラデザインじゃあないんですよね。

明確な敵として暗躍し、優しい人たちを陥れて、多くの者を不幸にしているのが「青の道化師」と呼ばれる謎の存在。それに比べたら、カノン将軍というのはかつてマキナたちを殺した存在にも関わらず、そして今も殺すと言ってはばからないにも関わらず、決して敵ではないんですよね。
そして、カノン将軍を伴って現れたシャトマ姫こと藤姫さま。藤姫という存在は数百年前に存在した大魔術師の名前でもあるのだけれど、そういう過去の大英雄、大魔術師を彷彿とさせる存在が今また一人また一人と現れ、集結しつつある。過去が、今に追いついてきているように。
一方で、今現在ここで生まれ生きている人々にとっても、差し迫る戦争の影は暗い影を落としつつあるのだけれど、今現在の人々の希望である救世主アイリは、さてそろそろ馬脚を現してしまった、というかどうしてあんなドリーム小説ばりの妄想抱いていたんだろう。ともあれ、夢から覚めてしまえばこの異世界だとてただの現実だ。すべてが都合よく転がっていく夢の世界なんかではない。だからといって不貞腐れるのはどうしようもない選択だと思うのだけれど。
それはそれとして、ギルバート王子の扉越しのプロポーズはまー女性陣には大不評だったご様子で。プロポーズするのに顔も見ずに外から一方的に、なんてのは言語道断、ぶっちゃけあり得ない、ものらしい。いやギルバート王子としては、アイリが救世主扱いされなくなっても、自分は味方ですよ、と伝えたかったんでしょうけど、うんまあプロポーズまではやりすぎですよね、うん。
彼が対人能力あんまり高くない、というのもこの一事をもって伝わるのかもしれない。ここから、ギルバートとフレイの兄弟の仲が拗れている要因にも飛び火していくんですね。
元々、異母兄弟ながらギルバートの母である正妃に実質育てられたフレイは、正妃とギルのことを慕い敬愛していて、幼い頃は特にギルとは仲良かった、というのはなかなかの驚きの情報でした。
それがまあ、正妃さまの死と前後してえらいこじれるはめに。これ、正妃殿下は意図的にこじれさせてるっぽいんですよね。亡くなる寸前にフレイにそんな言い方して突き放したら、そりゃフレイだって傷ついてグレるのも当然じゃないですか。その上、ギルバートにはフレイの事を頼むなんて言い残して。実の息子としては思う所あるでしょう、これ。なんかギルの婚約者だったベアトリーチェにも、こっそりギルバートの事をお願い、と託していたみたいで、彼女が変にギルにべったりするようになって仲拗れちゃったのって、それが原因じゃないんだろうか。
ともかく、なにやら各方面に歪みを生じさせてしまった正妃さまの所業なのですが、この人限定的ながら未来視の能力を持っていたそうで、やっぱり意図的にこういう構図になる事も了解した上でのこのだったんでしょうかね。実際、グレたおかげでフレイはマキアたちと同じ班になる事になったわけですし。
マキアが中心にフレイとギルバートの和解に奔走することになって、それが叶うというのもある程度見越していた、という事なんでしょうか。それはそれで結構ひどいなあ、と思うのですけど。フレイ、随分長い間傷ついてましたし、愛する家族から嫌われ憎まれていたと思って苦しんでいたわけですし。
あと、自分のために奔走してくれたマキアのこと、めっちゃ気にしちゃいだしてますよね。それも予定の範疇ですか? なんか、トールに対して牽制しだしているんですけど。それは道ならぬ、ってやつだよフレイくん。

ちょっと予想外だったのが、ネロの人間関係のほうで。まさかのカノン将軍の身内だったのか。いや、旧作ではネロという子は居なかったですし、確か。カノンは極めて孤独な存在で、そこに寄り添う形のキャラクターは見当たらなかっただけに、ネロがどう絡んでくるのか予測が難しくてかなり気になる立ち位置なんですよね。ラピスもそう遠くない未来にその血の因縁が明らかになってくるでしょうし、マキアのチーム誰も彼も一筋縄ではいかないメンバー揃いだなあ、これ。

かくいうそのマキア当人とトールの方も、いい加減自分達の真実に首まで浸からないといけない時期に差し掛かっているのでしょうけれど。なにしろ、ユリウスが積極的に画策しているからなあ。覚醒の時は近し。そして、アイリが実は斎藤くん推しじゃなくて、むしろ小田さん推しだったとは。
アイリがすべてを理解するきっかけが「ツナマヨ」というのは、なんというかさすがはマキナ、やっぱりマキナ、というべきなのかしらこれ。


ぼんくら陰陽師の鬼嫁 六 ★★★☆   



【ぼんくら陰陽師の鬼嫁 六】 秋田 みやび/しの とうこ 富士見L文庫

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廃遊園地を覆う呪詛――嫁のピンチに(ぼんくら)旦那が駆けつける!

“北御門”を狙う呪詛により、廃遊園地へ閉じ込められた芹たち一行は、その現象の主と目されるミステリ作家・鷹雄光弦と対峙する。一方で、急いで芹の元へと向かう皇臥には、光弦との因縁に心当たりがあって……?

作中ではいつもセットで行動している式神の祈里ちゃんと護里ちゃんんだけど、表紙を一緒に飾ったのは初めてですか。いや、白蛇と亀の姿も可愛いのだけれどこの娘たちの人間形態もイラストで見てみたいなあ。
芹に小松菜フルコースを用意するよという餌に、わいろには……ちょっとしかくっしません! と、見事に屈する護里ちゃんとかほんともう可愛すぎるんですけど。ここ、本巻の最萌ポイントでありました。
ちなみに、あとでお姑さんも密かな好物だったという洋食で同じようにわいろに屈しているあたり、お義母さんちびっこと同レベルですよ、と言いたくもあり、とりあえず餌で釣ろうとするこの嫁ってば、と呆れたり。いや、ちゃんと効果覿面なんで食べ物で釣る、は正解なのでしょうけれど。

ともあれ、今回は本間さんに笑ちゃんという一般人も一緒なので、芹ばかりを守っていられず彼らの事も芹から頼まれることで、いつも以上にピリピリとしていた祈里ちゃんと護里ちゃん。本間さんたちには祈里ちゃんたちの事は話していないのと、式神である彼女らは笑ちゃんたちには見えないので祈里ちゃんとのやり取りは八城くん以外の他の二人には内緒にしていたのだけれど、本間さんと笑ちゃんなら祈里ちゃんたちのこと話しても大丈夫そうなんですけどね。

ともあれ、鷹雄光弦によって遊園地の廃墟から出られなくなった一同。遊園地の周囲には浮遊霊の有象無象が集まってきていて容易に出るわけにもいかない、という理由もあるので、とにかく言うだけ言って姿を消してしまった鷹雄を探したり、この遊園地の様子を調べるために歩き回るのだけど。
その間にも、ふとした瞬間観覧車のゴンドラが次々と落ちていくんですよね。遠目にもどこからでも見える観覧車から、ゴンドラが落ちてすごい音が聞こえてくるの、けっこう怖いですよ。
まだ最初の頃は夕方前で明るかったために精神的に余裕があった、逆に夜になるとヤバいかもというのは当人たちのコメントでしたが、そう言えば芹と元々の霊感持ちの八城くんだけじゃなく、本間さんも笑ちゃんもそれぞれ事件で北御門にお世話になった関係でも有り、心霊現象の経験者でもあったんでしたっけ。
それもあってか、変にパニックにならずに意識して明るい雰囲気を欠かさないように皆が振る舞ったお陰で、閉じ込められたとはいうもののそれほど追い詰められたり恐怖にかられたり、という空気にならずに済んだのは幸いでした。いや、努力してのことですから幸いではないのでしょうけれど。
特に笑ちゃんは中学生なのに、むしろ率先してムードメーカーやってくれて明るくしてくれてましたからね。祈里ちゃんと護里ちゃんというガーディアンがいることを知っているのは芹と八城くんだけで、本間さんと笑ちゃんは知らないのを思えば二人共ほんとよく頑張ってくれたものです。
本間さん、こうしてみたら責任感も強いし頼りになるのになあ。
まず腹が減っては戦はできぬとばかりに焼肉パーティーをはじめてしまうあたり、みんな強いですw
しかし、得体の知れない状況に陥っているのも確かで、芹も不安は尽きない。その芹の不安の理由の大半が、側に皇臥がいないということ。陰陽師としてはぼんくらもいい所で、鷹雄光弦が片鱗だけでも垣間見せたその陰陽師としての実力からすると、比べるのもおこがましいくらい。そんなぼんくらな皇臥が来たところで、鷹雄光弦と対決なんて事になっても果たして役に立つのかどうか。それどころか、北御門家そのものを目の敵にしているかのような言動の鷹雄光弦の前に、皇臥が来てしまうのは余計に状況を煽るはめになるかもしれない。
それでも、いつも何かあった時には側にいた皇臥がいないという事が芹にとっては心許ない事のようで、折に触れて皇臥がいないことへの不安がこぼれだしてくるんですね。
普段から気丈、どころか何があっても動じないような肝の太い所をみせる芹としては珍しいくらいの姿で、それだけ日頃から何だかんだと皇臥の事頼りにしてたんだなあ、と。それだけ心寄せてたんだなあ、と。
これもう、皇臥はもっと自信持ってもいいんじゃないでしょうか。鷹雄光弦から皇臥の事を貶されたら、そりゃ実力はぼんくらかもしれないけれど本気で怒って、思いを馳せる芹の帰りたい家はもうあの小煩いけど可愛いお姑さんと式神たちが待つ北御門の家で。
契約婚なんておこがましい、もうほんとの家族じゃないですか。

そんな嫁のピンチに、慌てふためいて必死に幽霊だの呪詛だのが蔓延している遊園地周辺に無理やり突っ込んでいく皇臥が、なんとも可愛らしかったです。この兄ちゃん、いつもない余裕がいつもにも増してなくって、でもその懸命さが、芹を心配する様子が健気だし一杯一杯な様子が可愛げたっぷりで、ほんと可愛い男の人です。今回はよく頑張った。いやなにかして頑張ったかというと慌ててすっ飛んできただけのような気もするけれど、そのすっ飛んでくる一生懸命さがこの際は大事なのである。

しかし、すべての黒幕だと思われた鷹雄光弦が、なんか思ってたのとは全然違ったどんでん返しの展開は、まったく予想外でした。いやだって、完全にそっち系のムーブかましてたじゃないですかー。八城くんが喧嘩腰になるのも仕方ないですよ。祈里ちゃんと護里ちゃんも普段以上にピリピリして、鷹雄光弦には敵愾心剥き出しでしたし。
まさかそういう因縁だったとは。なんかこう、無闇に攻撃的に見せてしまうところとか母親似な所あるんじゃないですか、この人w

とはいえ、すべてがまるっと解決したわけではなく、むしろ余計に闇と謎が深まった感もあり、芹の身にまだ何か秘められたものがある事が発覚したわけで、本番はむしろこれからなのかもしれない。
すでに、芹の身に何かが起こり始めているわけですし。今回なんだかんだと何もしてない皇臥くん、いや駆けつけてきてくれただけで芹としては好感度アップ、なのかもしれないけれど。ともかく次からはつきっきりで芹の側にいて、旦那らしく嫁のために頑張らないと。


かくりよの宿飯 七 あやかしお宿の勝負めし出します。 ★★★★   



【かくりよの宿飯 七 あやかしお宿の勝負めし出します。】 友麻碧/ Laruha  富士見L文庫

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あやかしの営む老舗宿・天神屋で食事処を切り盛りする葵。秋祭りでの営業も盛況のうちに終わり、隠世の中心・妖都へ出張の大旦那様を見送った。ところがその帰りを待つ葵たちの前に、天神屋を目の敵にする大物あやかし・雷獣が現れて、不吉な宣言を下す。鬼神の大旦那はもう戻らない、この雷獣が新たな大旦那となるのだ、と―。天神屋史上最大の危機!銀次たち従業員は団結して動き出す。そして葵も大旦那様を捜すため、妖都へ向かう宙船ツアーの屋台で料理を振る舞うことになり…!?
そうかー、ちょうどアニメ化決まった頃だったのか、この巻出たの。なんやかんやと間があいて随分と積んでしまった。
大旦那様が行方不明になって、今までになく元気なくなってしまう葵。これまでどんなピンチに陥ってもめげずに前向きだった彼女。この隠世に突然事情もわからず連れてこられた時だって、奮起して頑張っていたのに。こんなに不安そうに心細そうにしている落ち着かない葵は見たことがなかったので、随分と読んでるこちらも心揺さぶられてしまった。
いつの間にかこんなにも、大旦那様の存在は彼女にとって重く大きくなっていたのだなあ、と実感してしまう。天神屋自体も大混乱に陥るかと思ったら、そこは白夜さんが取りまとめて方針を示し、それを若旦那の銀次さんが取り回して、他の幹部たちもどんとそれを腰を据えて受けて、と意外なほど混乱なく大旦那不在の状況に対処しはじめたのはちょっとした驚きでした。いや、それだけ幹部連中は頼もしい人揃いだったということでしょうし、個々の持っていた不安要素は何だかんだとこれまでのエピソードで解消されていた、とも言えるのでしょうね。それでも大旦那不在が長く続けばどうなるかわからないものの、当面は落ち着いて凌げそうとなり天神屋そのものの経営には気を回さず、葵の不調の回復に集中できることに……。
結局、葵は自分が大旦那さまを助けることに、天神屋に危機に何が出来るのか。大旦那の帰る場所を守れるのか。料理を作るしかできない自分が、果たして何の役に立てるのか。料理を作っているだけでいいのだろうか、という疑問が湧いてきてしまう時点で地に足がつかなくなってるんですね。

そう、果たして葵が料理を作ることにどういう意義があるのか。家庭料理の延長でしかない彼女の料理が、何をもたらしてくれるのか。それを葵自身が改めて見つめ直す機会だったように思います。
そのための、同じ人間で妖怪に嫁ぎ幸せに暮らす律子さんの元で過ごす日々であり、拒食しつづける幼い王子竹千代への、ご飯を食べることの素敵さを伝えるメッセージであり、かつての大旦那の同志であり伝統を掲げる菓子職人のザクロとの邂逅だったのでしょう。
これまでになく、痛烈に葵の料理の意義を否定するザクロの言葉に葵があまり動揺せずに済んだのは、竹千代の言葉もあったのでしょうけれど、この子の言葉が思い出させてくれたこれまで葵がこの隠世でどのように料理を提供し、どんな妖怪たちにそれを食べてもらい、どんな風に喜んできてもらえたかをちゃんと受け止めていたからなのでしょう。
敵対と言っていいほどバチバチ争っていた折尾屋が、今となっては葵が向こうに行って色々とやらかしたお陰で、今はこうして中央とガチンコでやりあおうかという状況になってもドンと構えて味方になってくれていう、という時点で葵のやってきたことの意義は示されていたとも言えるわけですしね。
もう、葵は自分が料理を作りそれを食べてもらうことへのスタンスを、これまでの経験体験から固めることが出来ていた。今回の一件はそれを改めて見直し、自覚を自信を持って成し続けるために必要なプロセスだったのでしょう。
まだ大旦那様は戻れないし、その正体を暴かれることで大変なことになるという危機は続いているものの、葵の覚悟さえ決まっていればあとは何とでもなりそうなだけに、一山越えたと言えるのでしょう。
何より、大旦那様不在でも白夜さんが頼もしすぎるからなあ。妖王さまにも真っ向から意見できるという謎の存在だった白夜さんの過去も明らかになった回でしたけれど、既婚者だったというのが発覚して大混乱に陥るみんなの姿に苦笑である。でも、その奥さんが天神屋に務める前に亡くなってるとはいえ人間の女性だった、というのはちょっとした驚きでもありました。なるほど、異種婚の実践者であり肯定者でもあったのか、白夜さん。それだけに葵を見る目は厳しくもあり、優しくもあったのか。
次はまた妖都を一旦離れて、天神屋で特に仲の良かった一人である春日が嫁いだ北の地に協力を求めて訪れることに。となると、今度は北方の寒冷地や雪国の料理が出てくるのかしら。

シリーズ感想

浅草鬼嫁日記 八 あやかし夫婦は吸血鬼と踊る。 ★★★★   



【浅草鬼嫁日記 八 あやかし夫婦は吸血鬼と踊る。】 友麻碧/あやとき 富士見L文庫

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千年の忠誠と思慕を胸に秘め、吸血の鬼と「最強の鬼嫁」は競い合う!

茨木真紀は、かつてあやかしの国を治めた鬼姫“茨木童子”の生まれ変わり。前世の夫“酒呑童子”だった天酒馨らとともに暮らす浅草で、毎年恒例のお祭り行事を心待ちにしていた。
しかしその喧騒の裏で、吸血鬼による事件が見え隠れしはじめる。前世の眷属で吸血の鬼である凛音を心配する真紀だが、その凛音に真紀自身が攫われてしまった。
浅草に帰るため、在りし日の仲間と刃を交える真紀。それはやがて、茨木童子と凛音が出会った千年前の勝負の日々を、二人に思い起こさせて――。

凛音、この子一番眷属でもしっかりした子だったんじゃないか。
人間になった真紀と再会してからも、敵なのか味方なのかあやふやなポディションで西洋の吸血鬼のコミュニティに属したまま、意図の読めない行動を繰り返してきた凛音。基本的には真紀のことを気遣っているのは確かなんだけれど、攻撃的な姿勢は否めず、そのどっちつかずな態度がどうしても凛音という子の不安定さ、のように見えてたんですね。
最初の方の事件で、眷属だった深影が茨姫の喪失に参ってしまって道に迷っていた、という印象も大きいのでしょう。西洋吸血鬼のコミュニティに深く足を突っ込んでしまっていて、余計な柵を抱え込んでしまっているように見えていた事も多分に影響ありました。
茨姫という柱をうしなって、凛音もまた長く長く彷徨っていたのではないか。自分が何をしたいのかわからないまま、悪い吸血鬼なんかとも関わってしまって、押し流されるようにここまで生きてきてしまっていたのではないか、そんな心配をしていたんですよね。
とんでもないことでした。まったく不要の心配でした。
ある意味スイ以上に、凛音は芯のしっかりした子でした。彼がもっとも、酒呑童子と茨姫の理想を継承して、想いを引き継いで自分の意志で歩いていた子だったのです。
勿論、内心は不安や怒り、自分のどうしようもない無力さに懊悩しながらで自分では迷い流され定まらないまま生きてきたように感じていたのかもしれませんけれど、傍から見れば彼の生き様はずっとブレないまま貫かれてきているんですよね。
日本を離れてヨーロッパを旅して回っていたのも、彷徨っていたというよりも日本という国に囚われずに広く見聞を広めていたとも取れるし、そこで虐げられた弱き西洋のアヤカシたちを救い守り、シェルターと呼ばれる庇護の空間に匿って回っていたのは、それこそ茨姫たちの想いを引き継いでそれを守り続けた結果でしょうし、結局大江山で潰えてしまった理想を凛音は広く世界で実現していたとも取れるんですよね。
吸血鬼のコミュニティに参加していたのも、流されての結果ではなく明確な思惑あってのことでしたし、何よりこの子、真紀ちゃんへの忠誠については最初から一切ブレてなかったんだよなあ。吸血鬼のコミュニティに属したのも、最初から真紀ちゃんを守るためだったわけですし。
それに、一人で抱え込んで突っ走っていたわけではなく、ちゃんと各所に根回しもしていて凛音の勝手な暴走、という形ではなくちゃんと計画的な対吸血鬼戦を構築するその主導を担っていて、頼もしいのなんの。
そうだよね、こういう場合暴走するの真紀ちゃんの方だよね。その辺一番理解していて、真っ先に彼女の身柄抑えたのは確かに正解である。真紀ちゃんも自覚あるので、話を聞かずに勝手に逃げ出すこともせずに大人しく凛音に従ったのは、彼への信頼を伺わせる。うん、人狼の子たちと同じく自分も真紀ちゃんもっと暴れるかと思ってたよ。
凛音の真意がどこにあるのか。彼の本心の奥底でうごめいているものが何なのか。彼が真紀ちゃんをどう思っているのか、ようやくそれを吐露してくれた。或いは、それは胸に秘めたまま口に出してはいけない思いだったのかもしれないけれど、それを言わせて肯定するのが真紀ちゃんの器なんですよね。
ある意味、凛音は茨姫という存在に今なお囚われているのでしょう。囚われて、自分の狭い世界を作ってしまってそこに閉じこもるのではなく、それを基軸にして広く大きく大成してみせたのが凛音の凄さだったのかもしれませんけれど、しかし茨姫が人間として転生し再び彼の前に現れたことで、彼はもう一度愛した人を喪うだろう苦しみを得ることになってしまった。
ここを、真紀の人生を見送ることを茨姫に囚われた凛音の人生の集大成にするべきだと、真紀は感じ取ったのでしょう。彼が自分を愛することを認めてあげることで、自分が幸せになり人生を終えたときに、彼が喪失に潰れることなく今度こそ自由に羽ばたけるのだと信じたからこそ。信じられるだけの大成を、彼が見せてくれたからこそ、わりと残酷にも見える凛音の愛を認め、しかし受け入れない宣言をやってのけられたのでしょう。
凛音にとって、それが一番報われることだったんですよねえ。可哀想とか報われない愛とかじゃあないんだ。ああ言って貰えることこそ、凛音にとっての本懐だったんじゃないでしょうか。

とか、言ってる側から早速ああなっちゃうのって、真紀ちゃんひどいw いや、真紀ちゃんが悪いわけじゃないんだけど、自分の生涯を見守れといった端から はい終了、お疲れ様でしたー となってしまったのはひどくないですか!?w
いやほんと、真紀ちゃんやられた側だから文句言われる筋合いまったくないんだけど。馨以上にこの展開は凛音がいささか可哀想になってしまった。
なんだかんだ、真紀ちゃんがいった先で大人しくしてる姿が想像できないから、というのもあるのですが。いやこの娘、地獄だろうと煉獄だろうと絶対大暴れして向こうの人たち困らせるか半泣きにさせるに違いないんですからw
まあそれが楽しみでもあるのですけど。

友麻碧作品感想

メイデーア転生物語 2.この世界に怖いものなどない救世主 ★★★☆  



【メイデーア転生物語 2.この世界に怖いものなどない救世主】 友麻碧/雨壱 絵穹 富士見L文庫

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“世界で一番悪い魔女”の末裔マキアは、“救世主の守護者”となり引き離された元騎士のトールと、舞踏会で再会を果たした。ところがマキアに守護者の印が現れたことで、事態は一変。“救世主の少女”アイリの相談役として、王宮通いを始めることに。トールに会えるようにはなったものの、使命の前に力不足を感じたマキアは、魔術師として成長するため魔法学校の授業に励む。だが救世主を狙う刺客は、否応なくマキアの前にも現れはじめ…。魔法世界“メイデーア”に選ばれた者たちの物語が交差する。

マキアが精神的にも弱っていて、凄く繊細で儚げな女の子になってしまってる。パワフルで前向きでガンガンいこうぜ、な元気いっぱい天真爛漫なマキアさんが、えらい落ち込んでしまって俯いてため息をついている様子を見るのは、やはりつらい。傍若無人なくらいにドーンと胸を張ってトールを引っ張り回すくらいの彼女が好きだから、やっぱりつらい。
でも、“世界で一番悪い魔女”も前作ベースだとしたら、わりとこう肝心な所で内気というか、大事な所で引っ込み思案になってしまう所があったし、精神的にも決して強いわけではなく恋に対して凄く臆病な所のあった人でしたから、こうもマキアとトールの間を引き離そうとする境遇が舞い込んでくると、そりゃ落ち込んでしまうわなあ。へこむし、不安を振り切れなくなる。
守護者になる、ということはトールと同じ立場に立つということで、離れ離れになっていたのがこれで一緒に居られるようになるんじゃないか、とも思ったのだけれどそう簡単な話ではなかったんですね。守護者とは、他のすべてを排して何よりも救世主を優先して守るもの。勿論、トールはいざというときマキアではなく、マキアを見捨てても救世主であるアイリを守らなきゃならないし、アイリを差し置いてトールとマキアで仲睦まじく、なんて真似をしてもいけない。
救世主をこそ、唯一無二としなければならない。
そんな守護者という役割が、むしろ今まで以上にマキアとトールの距離を引き離してしまうことになる。お互いに、こんなにも求めあっているというのに、手を伸ばしてお互いを抱きしめようとしているのに、彼らはこうして分かたれてしまう。
魔法学校で頑張って良い成績をとって、少しでもトールのそばに居られる役職につこうと頑張っていたのが、余計に変な形ではしごを外されたようになってしまい、踏み出すべき地面がかき消えて宙を掻くみたいになってしまったのも無理からぬことだろう。
それでも、トールに自分と救世主の二者択一を迫ることのないように、トールが自分を守る必要がないようにもっと強くなるのだ、と自他に宣言するマキアだけれど、どうしても無理しているようにしか見えなくて、痛々しいんですよね。前向きに奮起して頑張ろうというのなら、どんな無理でも無茶でもなんとかしてしまいそうなバイタリティのある娘なんですけど、今回のこれは空元気のようでほんとにツラい。
今となってはラピスたち魔法学院の同じ班のメンバーが心の支えだ。事情を知らずとも、マキアを心から応援してくれる彼らの存在こそが、マキアを支えていてくれる。他にも何だかんだとユリウス先生をはじめとして味方も多いのが幸いなのだけれど、肝心の救世主のアイリがマキアを絶対的に敵視しているものだから、否応なくトールとの間を引き裂くお邪魔虫になってくる。何より、その姿勢が陰湿なんですよね。それでいて、自分が被害者、弱者のように振る舞っている。
元々、マキアの前世と友達だった頃からあちらの地球でも陰鬱な内面を煮込んでいたみたいだけれど、こうなってくると果たして挽回の余地があるんだろうか。
一方で、株を爆上げしたのが傲慢令嬢だったベアトリーチェである。そのプライドの高さが彼女に品位をさげるような行動を許さなかったのか。ギルバート王子に後ろ足で砂をかけられたような状況であったにも関わらず、恨み言を一言も言わずに毅然と「諦め」てみせた上に自身の身内である執事を全霊をもって守ろうとした姿勢は、敬するに値するものでした。マキアも琴線に触れるわなあ、これ。だからこそ、ベアトリーチェを信じられたのだろうし、最後まで決して疑うことなく自分を信じて守ってくれたマキアに対して、ベアトリーチェのあの何があろうと自分は絶対に味方になる、助けるから、という宣言はホント、胸が熱くなる頼もしい言葉で、色々と弱ってたマキアにとっては嬉しいどころじゃなかっただろう。あんな風に決然と言ってのけれるベアトリーチェはホントかっこいいですわ。

マキアも、いつまでもグジグジとしていられず、このメイデーアの世界を、そこに生きている人たちの意志や尊厳を蔑ろにして悪びれない、悪いとも思っていない、そもそも人だと思っていない、自分の都合の良い物語としてしか捉えようとしていない現実から目を背け続けるアイリに、一発かましてやった展開には、やはりスカッとするものがありました。いっぺん、誰かがバシッと言わなきゃいけなかったところですし。一歩引いたままではなく、敢えて前に踏み出し、かつての親友として、恋敵として、真っ向からアイリと向き合って喧嘩する覚悟を決めたマキア。それは、前に踏み出したということ。やる気になったということ。まだまだ迷い落ち込み弱気になることもあるでしょうけれど、マキアらしいパワフルにガンガン行く姿が、この覚悟を持った今なら見られる気がします。
というか、あのヤンキー司祭なエスカがついに登場してマキアに絡みだした以上、お尻蹴っ飛ばしてでも俯いていられなくしてくれそうですが。このヤンキー兄ちゃんは色んな意味で頼もしいからなあ。
藤姫もまたその姿を現し、悪役たる道化師もまた暗躍をはじめ、そして最後にあの「本物」が現れる。
メイデーアという世界の物語が、歴史上の英雄たちの再臨によってとうとう本格的に動き出してきたぞ。


お直し処猫庵 お困りの貴方へ肉球貸します ★★★☆   



【お直し処猫庵 お困りの貴方へ肉球貸します】 尼野 ゆたか/ おぷうの兄さん(おぷうのきょうだい) 富士見L文庫

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口下手なOL・由奈はへこんでいた。お気に入りでいつもぶらさげていた猫のストラップ。それを彼氏に幼稚だとダメ出しされた上、道ばたで盛大に転んだ拍子に壊してしまったのだ。すると目の前を二足歩行の猫がすたこら通り過ぎていく。顔を上げると、そこは「なんでもお直しします」と書かれた店『猫庵』。「猫の手を貸してやろう」猫は短い前足で腕を組み(?)由奈を覗き込む。その瞳はまるで彼女の胸の内を見透かしているようで―!?猫店長にその悩み明かしてみては?にゃあんが紡ぐ小さな奇跡。

これって現代のマヨイガの一つなんだろうなあ。悩みを抱える人の前にしか現れない小さな修繕屋。なんでもなおすと看板たてるその店には喋る猫の店長(庵主)とその弟子だという青年の一匹と一人がかしましく丁丁発止を繰り広げていて……。
この猫、喋るもの立って歩くのも一切隠そうとしねえ。しかも妙におっさん臭い! いや、年嵩の年季の入った化け猫だかの類なんだろうから、そりゃ腰の据わったふてぶてしい態度もおかしくはないのだけれど。
それに、人がうちに抱えた悩みをスルッと引き出して、向き合わせるような語り口は愛嬌ばかりのにゃんこではなかなか難しい仕事でしょうしねえ。思わず胸の内を喋ってしまうような泰然として柔らかくも頼もしい猫店長の姿勢は、その手先の器用さもあいまった職人的な気風も相まって話しやすい老店主という感じなんですよね。口の減らない青年見習いとの気のおけないやり取りもまた、猫が喋っているし立ってウロウロと歩き回ってる、という異常事態を忘れさせてくれるぽややんとした光景で、凄く居心地が良いのである。
にしても、あの猫の手で細かい作業をちょちょいとこなすのはホントどうやってるんだろう。ってか、小道具の類どうやって持ってるんだろうw
オムニバス形式となっているのですけれど、話のたびにお客さんに茶菓子が出されるのですが、これが各地の名産のお菓子になっていて、これがまた美味しそうなんだ。特に、浅草は亀十のどら焼きとかメチャクチャ美味しそうに食べやがって、こんちくしょうw
にしても、わりと日本全国各地のお菓子が出されてるのですけれど、誰が買って来てるんですかねー? なんか仕入れの類はパンダの上野さんがしているらしいのですけれど……パンダ? いや、喋って歩いてうろつくパンダとか、「らんま1/2」世代の自分としては看板で会話するよりも馴染みやすいよね、という感覚なのですが、だからといって買い出し!?
まあ今どきは通販でいくらでも買えますけど、配送業者はちゃんと店まで来られるのだろうか。地味に住所不定店舗っぽいぞ、ここ。
そんなお店の名前「猫庵」。自分は普通に「ねこあん」と読んでいたのだけれど、猫店長……自称では店長ではなくて「庵主」らしいのだけれど、猫店長が主張するのは猫庵と書いて「にゃあん」なんだそうで……読めねえっすよ! いやでも、読めないけどこれはこれでいい読み方だとは思いますよ、センスあるよ猫店長。これが若い女性の店長だったり、シュッとした愛らしい系の猫の店長が言っているのなら「あざとい!」とか思ってしまうところかもしれませんけど、おっさん系猫だもんなあ猫店長。

ともあれ、そんな猫の店長とイケメンの弟子が迷い込んできたお客さんに促すのは、持ち込まれたそれぞれの人の大切な品の修理のみならず、様々な理由で傷ついたり行き詰まったりしているお客たちの心の内を紐解くことでもあったわけです。お茶と茶菓子でリラックス、そうして苦しくも喉に詰まったものを吐き出させる。そうして、ほんのちょっとの後押し。少し不思議な肉球印の落款が、お客たちの背中を少しだけ押してくれる。本当に少しだけ、そこから先はその人次第だけれど、貸してくれた猫の手の温かな人情は、彼らに今まで見えていなかった周りを見渡す余裕を与えてくれるんですね。それは勇気だったり、元気だったり、後悔の解消だったり。
その少しが、掛け替えのないものだったのだ。
明日からはもう少し頑張れる、今までと違った気持ちで進んでいける。過去を思い出に昇華して、受け取った優しさを燃料にして、次の日をより良い日に。これはそんな少し不思議ないい話。

メイデーア転生物語 1.この世界で一番悪い魔女 ★★★★   



【メイデーア転生物語 1.この世界で一番悪い魔女】 友麻碧/雨壱 絵穹 富士見L文庫

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魔法の息づく世界“メイデーア”。辺境貴族の令嬢マキアは、騎士の少年トールとともに、魔法を学ぶ日々を過ごし、強い絆を育んできた。ところがトールが異世界から来た“救世主の少女”の守護者に選ばれたことで、二人は引き離されてしまう。トールの不在に動揺するマキア。だが王都の魔法学校に行けば、再びトールに会う機会がある。彼に抱いた想いの正体を知るため、マキアは最高峰の魔法学校を目指す!これは“世界で一番悪い魔女”の末裔マキアが、自身の想いを伝えるための、長い物語のはじまり。
かつてこの作者さん、「かっぱ同盟」という名義にて富士見ファンタジア文庫から【メイデーア魔王転生記】というシリーズを出してらっしゃったんですよね。結局全2巻しか出なかったのですけれど、ウェブ版では元々【俺たちの魔王はこれからだ。】というタイトルで大長編としてすでに完結しているのですが、それはもう壮大な物語だったわけですよ。
なので、本作は新装版として改めてシリーズ化されたのかと思っていたのですが、あらすじ見るとなんか違うんですよ。F文庫版の【メイデーア魔王転生記】もウェブ版からトール視点でだいぶ改稿がされてたんですが、なんかそれどころじゃない展開の変化があらすじから伺えて、あれもしかしてこれただの新装版じゃない? と思ってた所で実際内容を読んでみて、度肝を抜かれたわけですよ。
あれ? なんか全然ストーリー違うよ!? キャラの立ち位置もなんか全然違うよ!? というかこれもう殆ど新作じゃね!?
というわけで、おそらく基幹となる設定や過去の歴史とかは共通しているであろうけれど、それ以外の大部分をザラッと総浚えして改めたと思しき、全く新たなメイデーアワールドのはじまりなのでした。
ってか、マキちゃん主人公じゃないですかー!
紅の魔女本人ではなく、あくまで紅の魔女の末裔という意識のマキアさんですが、そのとりあえずはガンガン行こうぜな生き様は変わることなく、その方向性も離れ離れになってしまったトールに再び会う、という一点に絞られてしまったためにそのパワフルさが目標に向けて集約されてしまうことに。
凄いぞマキちゃん、初っ端から恋する乙女全開じゃーないですか。理不尽な理由で引き離されてしまった想い人、そんな境遇に打ちひしがれるのではなく、自力で彼のもとに辿り着いてやる、と俄然やる気を出してガンガン頑張ってしまうあたりがこの娘の可愛らしさなのですが、少なくとも儚さとか薄幸さとは実に縁がなさそうな生き様である。今のところは。
本来ならトールがその制御役というか手綱役として機能していたのだろうけれど、その当人が傍らにいないのなら止める人はいないわなー。
ただ彼女の前世となる現代日本の様子からしても、マキちゃんが決してパワフルなだけの少女でなかったことはわかるんですよね。この娘は、色んな意味で一番大切なものを掴むことの出来なかった、掴もうと手を伸ばすことが出来ずに少し離れたところからじっと見つめる娘だったのだ。それをずっと後悔したままで、うちに抱えこんでしまい込む娘だった、というのを忘れないようにしてあげたい。それは、前世の女子高生だった頃だけの特質なのか、それともそれとも。
ともあれ、今のマキナは一貫している。トールに会いたい、という願いに一途でいられている。その願いに迷いはなく、だからマキナは一心不乱にガンガン突き抜けられる。そのパワフルさについていける人はそうそういなくて、紅の魔女の悪名を引き継ぐ家名もあってか彼女に近づく者も早々いない。それができるのは、結局訳ありな面々だけなんですよね。
というわけで、マキナを中心に揃ったパーティーは曲者ぞろい、或いははぐれ者揃いというべきか。
ここで早々にレピス嬢が出てきてマキナの傍らに寄り添うとは思わなかったけど。あの義肢の設定や空間魔法についてのあれこれからしても、彼女の基本的な設定も変わっていないっぽいけれど、留学生なんかやってるからには裏方ではないんだよなあ、多分。

まだ魔王も魔女も目覚めることはなく、賢者だけがすべてを知っていて見守っている、という状態か。それでも、徐々に紐解かれていく伝説となっている過去の物語。叶わなかった恋の物語。
今、こうしてマキナもトールもお互いを求め合い恋い焦がれている。再会なって今まで溜め込んでいたモノがようやく「恋」という名の想いであると確信するマキナ。でも、運命はその想いを伝え合うことをまだ許しはしないのだ。
すっごいラブストーリーしてるよなあ、濃度半端ないよなあ。まだ、前前前世な要素も殆ど出てきてないにも関わらず、現段階でこの熱量である。
しかし救世主なアイリさん、えらい邪魔者なポディションに収まっちゃって。夢見がちで現実ではなく自分の願望を直視するような在り方は随分ヘイトを集めそうなキャラになっちゃってるけど。ウェブ版でも同じく日本から召喚された救世主の女の子が登場するのですが、ほぼ別キャラになってますね。これは、背負っているバックグラウンドも全然違ってくるんだろうか。

なんにせよ、本当に元の作品と全然展開が異なっているだけに、果たして話がどう転がっていくのか全然見通しがつかないのがこうなるとワクワク感を後押ししてくれる。この段階ですでにメインの二人に恋の自覚がある、というのもラブストーリーとして強力な牽引力になりそう。今後の展開が実に楽しみな新シリーズと相成りました。

友麻碧作品感想

戦国昼寝姫、いざ参らぬ ★★★★   



【戦国昼寝姫、いざ参らぬ】 尼野 ゆたか/鈴ノ助  富士見L文庫

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時は乱世。昼寝を愛する公家の娘・鴻子へ、正室として嫁ぐように若殿・次郎左から声が掛かる。
「面倒だけど、ゴロゴロしていれば離縁だろう」と考えていたところ、次郎左から「我が右腕になってくれ」と命じられ、ぶったまげる鴻子。しかし、ふかふかの寝台の誘惑に、つい頷いてしまう。武家屋敷の生活では、家臣には馬鹿にされ、馬に乗れば筋肉痛で、正室としてもギクシャク。無謀にみえる嫁と軍師の二つの顔だが、実は彼女には秘策があった―?気楽に昼寝ができる世を目指し、ぐうたら戦国時代を駆け抜けろ!
これは面白い。ときは戦国。異世界ではなく、ちゃんと日本の戦国時代なのですが、主人公の鴻子の実家の公家・鷹峯家や次郎左の音浜家。地元の冬松や家臣たちも架空の人物なんですね。でも、彼らの主家は三好筑前守長慶という畿内を一時実効支配した戦国大名。冬松という架空の土地も、同じく隣地に飯丹という土地が出てくるのですがこれどう見ても伊丹なので、その近隣というと尼崎あたりのことかしら、と思って調べたら尼崎市と伊丹市の境あたりを作中でも語られている飯丹街道ならぬ伊丹街道が走ってて、富松城なる城跡があり、ここを三好長慶の勢力が押さえていた、とあるのでおそらくここがモデルで間違いないのでしょう。
というわけで、大きな大名家の話ではなく小さな小さな地方領主の物語なんですよね。いや、もうちょっと大きい土地なのかと思ってたんだけど、ほんとに小さかった。そんでもって、主君の音浜次郎左衛門は土着の国衆ではなく、三好家から派遣されてきた落下傘君主であるものだから、元の滅んだ旧主の配下だった地侍たちと、次郎左に三好家がつけてくれた家臣たちの間で微妙な軋轢があったりするわけです。しかも、次郎左衛門もどうも小姓からの出世者らしくて自分の家の郎党がいるわけでもなく、三好家からついてきてくれた家臣たちも腹心、というわけではないんですよね。彼らは、音浜家の家臣ではなく厳密に言うと三好家の家臣なわけだ。
これが、鴻子を股肱の臣として求めた最大の理由だったのではないかと。鴻子を正室として娶りながら、彼女に男装させて福田大炊介弘茂と名乗らせて仕えさせるわけである。おかげで、姫様正室と側近の二役を務めなくてはならなくなったので、全然昼寝できない羽目に。
でも、やれと言われてやるのではなくて、南蛮から取り寄せた西洋式ベッドを餌にされたり、次郎左自らが風呂焚きした風呂を褒美代わりに、とか結構次郎左ってば手を変え品を変え姫様のこと持て成しているというか、手ずから釣り上げているというか、自分の嫁さんに手をかけ労っているんですよね。
良い心がけである、と姫様も思ったのかどうなのか、結構マメに姫様働くのである。実際、姫様は過去に色々とあって智慧を絞ってあれやこれやと策を練り、人を動かすのが好きなんですよね。ぐーたら昼寝するのも、風呂でじわじわ疲れを癒やすのも好きなのですが、なんだかんだと動き回るのも好きなのじゃないかと。活発なのか引きこもりなのかよくわからない人なのです。いずれにしても、公家の姫様としては規格外なのでしょうけれど。
こうして鴻姫様こと福田大炊介は主君音浜次郎左衛門の肝いりの臣下として参画するのですが、決して天才軍師とか名宰相というような目覚ましい働きをするわけじゃないんですよ。そりゃそうです、ここは本当に小さな土地でやれることにも限界があるし、そもそも姫様はチートな能力を持っているわけでもない。ただ、小さくでも出来る範囲で自分のできることをやってみせることで、どこか行き詰まっていた現状に、家臣同士の関係に変化をもたらし、次郎左にも主君としての自覚を促していくのである。
実際、隣地の伊丹氏、じゃなかった飯丹勢と合戦になるのですが、そこでも姫様は将として参加するものの、戦術自体は結構堅くて決して奇抜な奇策で大軍を蹴散らして、みたいなことにはならず、ある意味すごく戦国時代的な立ち回りで危機を脱するのがまたいいんですよなあ。
ほんと決して派手ではなく地味とすら言える立ち回りが、むしろ堅実に戦国時代を描写していてこれがすこぶる面白いんですよね。何年か前にやっていた大河ドラマ「おんな城主直虎」を思い出してしまいました。あれも、戦国大名のせめぎ合う狭間で生き残りを図る小さな領地の国衆の生き様が舞台でしたもんねえ。
何だかんだと、冬松勢の幹部である武将たち、みんな一癖あるものの優秀なんですよ。微妙な軋轢があった、というもののこれが微妙な軋轢で済んでいた、というのが彼らの分別を物語っていて胸襟を開けて打ち解けてみると、みんな物の通りがわかる信頼できる人物ばかりだったんですよね。これ、姫様以上に次郎左にとっての幸いなんだよなあ。自分の一族郎党がいない次郎左は本来もっと孤立しててもおかしくないのですけれど、三好家から派遣された者たちも元からこの土地の侍だったものたちもちゃんと次郎左を主君としてもり立てていく気概を持っていてくれたのですから。それをうまいこと繋いで表に引っ張り出してみせたことこそ、姫様の功績だったのでしょうけれど。
これ、今の所姫様正体隠して臣下たちと付き合っているけれど、ある程度以上実績積んで信頼を得たらいつまでも正体隠しているつもりが姫様にも次郎左にもないので、これ話が続いたら正体バレのときが実に楽しみだったりする。
なんで次郎左が昼寝姫を正室として求め、何より自分の右腕として求めたのか、については姫様が気づいていないけれど、さらっと語られはするんですよね。ただ、もう少し彼が姫様に惚れ込んだ話については掘り下げた描写があってほしかったかも。
でも、姫様が主さまのことを次郎左次郎左と呼び捨てにする距離感の近さとか、働いた姫様を次郎左がせっせと風呂炊いて世話しているあたりが、まだちゃんとした夫婦生活送ってないのだけれど、いい雰囲気醸し出してるのであります。特に風呂入っているときのくつろいだ会話なんかは、姫様も次郎左のこと結構気に入ってるよなあ、というのが伝わってきてニマニマさせられたり。
ラストの猫将軍のくだりはほんと吹いた。次郎左、ちょっと可愛すぎないですか? それを目撃してしまった監物と木工助の反応が主君への親愛にあふれていて、あれは実によい幕引きでありました。
これは、姫様の正体バレも含めて色々と先が楽しみすぎるので、シリーズ続いてほしいなあ。

浅草鬼嫁日記 七 あやかし夫婦は御伽噺とともに眠れ。 ★★★★☆   



【浅草鬼嫁日記 七 あやかし夫婦は御伽噺とともに眠れ。】 友麻碧/あやとき  富士見L文庫

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茨木真紀は、かつて鬼姫“茨木童子”だった前世を持つ女子高生。前世の夫“酒呑童子”だった天酒馨らとともに、浅草あやかしを狙う「狩人」の騒動を退けて、無事に高校三年の新学期を迎えていた。陰陽局の津場木茜が転校してきたりと、少しずつ変わっていく真紀たちの日々。そんな折、法事で実家に帰る馨に、真紀はついていくことに。訪れたのは「御伽噺の隠れ里」と呼ばれる九州の片田舎。二人はそこで、夜毎屋敷をさまよう面妖な人間と遭遇し―。伝承と謎を相手に「最強の鬼嫁夫婦」も眠れない?
なんかもうねー、まいったなー。
ホロホロと泣いてしまったんですよね、これ。気がついたら、グワーッと泣けてきてしまってたんだ。
こういう思わず泣いちゃう時ってね、読んでて自分でも感情が沸き立っていくのがわかるし、わからない時はそれだけ夢中になってるか没頭してる時なんですよね。それでも、あっこれは泣いちゃう、というのは事前にわかるんですよ。
でも、今回はほんと気がついたら泣けてきちゃってて、自分でも「え? なに?」とちょっとびっくりしてしまったくらいで。あれ? これ自分、感動してる? と理解があとから追いついてきたんですよね。
それくらい、自分の中で馨と彼の母との和解というのは盲点で、もうあり得ない事なんだと思いこんでたんでしょう。
彼の母である雅子さんの馨への拒絶は本当に酷いもので、こと天酒馨の崩壊した家族関係はもう絶対に元に戻らないものだと思ってたんですよね。だからこそ、馨は真紀との関係に家族を求めて、正式に恋人となって将来を約束した今となってはもう彼の求める「家族」というものは眷属たちや仲間たちも含めて満たされた、と思っていたわけです。過去はもう過去であって、今更振り返るものではないと、克服したものなんだと。それは、諦めたとすら考えていなかった、決着のついたものだと、そう思っていたんです。
でも、真紀と結婚して夫婦になっても、それは前世で茨姫と結ばれた過去に並んだだけで、それ以上ではなかったんだなあ。いや、真紀とこのまま末永く生きていければ、悲劇に終わった前世よりもそりゃあ超えたものになるんだろうけれど。素敵な奥さんとの夫婦生活、というのはすでに前世で一度は得たものだったんですよね。それで足りないなんてことは全然なかったから、それ以上のことを別に何も考えていなかったんだけれど。
酒呑童子ではなく天酒馨という人間の男の子が本当以上の、最高の幸せを手に入れるには、幼い頃の悲しい思いを、得られなかった親の愛を取り戻して、辛い記憶を払拭することが最高の手段だったんだなあ。
それはでも、決して叶うものではないと思っていたのだけれど。そうか、時間を経て一度離れて距離を置くことで、そして馨が成長して大人にはまだなっていないけれど高校生になって、真紀との関係も幼い頃のあの必死で寄り添っていた頃よりも落ち着いたものになって、全体的に余裕ができた今でこそ。
そして雅子さんの方も、精神的に追い詰められてささくれ立ち過敏になっていた心が落ち着きを取り戻し、田舎の実家での生活によって余裕ができたときに、改めて自分の息子に対する所業を思い出してとてつもなく後悔していたのだ。
そうしてお互いに余裕ができたからこそ、落ち着いて向き合う機会というのは出来るもんなんでしょうね。
正直、馨の親への接し方というのは褒めれられたものがなかったのは確か。幼児からあんな態度取られ続けてたら、母親としてもノイローゼになっても仕方ないんじゃと同情してしまう部分はある。育児ノイローゼって非常にデリケートで周りの理解とサポートが必要なものですけれど、雅子さんもそのへん難しかったんだろうなあ。普通の育児の問題とはまた違う形ですし、馨との関係は。
馨としても、前世からして親と酷いことになってるわけですから、どう両親と接したらいいかわからない部分もあったでしょうし、元々人間関係小器用な方でもないわけで。
人として暮らした十数年間が。一般学生として同じ子供たちと一緒に学び、社会に出てバイトして、真紀と一緒に過ごしつつ他の人達とも遊んだりしていった経験は、確かに天酒馨のものとして酒呑童子のものしかなかった人生経験を上積みしてくれたんでしょうね。
再会した雅子さんと最初は恐る恐るお互い触れるのを怖がってなかなか近づかなかったけれど、事件を通じてちょっとずつ話すようになり、距離感を縮めていく間、馨の態度ってのはほんと、ただのちゃんとした高校生の息子って感じだったんですよ。ちょっとぶっきらぼうだけど、母親に接するただの十代後半の男の子の姿だったのです。
雅子さんの方も、どう考えてもおかしい幼児な息子よりも、高校生くらい成長した息子の方が違和感感じにくかったんじゃないかな。馨が結構普通にただの息子していたのを除いても、変に大人びたような幼児よりも、高校生くらいに成長した馨は精神年齢のギャップみたいなものが少なかったんじゃなかろうか。フラットに、接することが容易だったような感じなんですよね。
雅子さんって、過去の回想の印象からもっとヒステリックで神経質なイメージだったんですけれど、本来の彼女、改めて再会したお母さんってどこか頼りがいがあって姉御肌な部分もある懐の広い感じの女性で……何気に真紀ちゃんと似てるんじゃないか、と思えてしまう所すらある感じだったんですよね。
ああ、馨のお母さんって、こんな人だったのか、と。凄く新鮮だったんだよなあ。
ちゃんと、馨のこと愛してたですよね。そして、それは過去形じゃなくて今もちゃんと愛してくれていた。だからこそ、酷く馨を傷つけたことを後悔していて、自分の存在そのものが彼をまた傷つけるんじゃないか、と避けるようにしていたんだけれど。馨もまた似たような事考えてたんですよね。自分の異常さが家族を壊してしまった、母を傷つけてしまった、と。
だから、真紀が鎹になってくれなければ、この二人がまた家族になれることはなかったのでしょう。ちょっと真紀ちゃん、いい奥さんしすぎである。今までで一番良妻ムーブしてましたよ。真紀ちゃん一緒に連れて行くように言ってくれた馨の親父さん、ほんとグッドジョブである。
まさか、雅子さんに本当に全部、馨や真紀が妖怪とかこの世ならざるものを見ることが出来る、というだけではない、前世のことまで全部詳らかに打ち明けることになるとは想像だにしていなかったけれど。
一連の事件で、雅子さんは今度は決して逃げず、目をそらさず、全部受け止めてくれたんですよね。だからこそ、真紀も全部打ち明けなきゃ、と。そうすることで二人は今度こそ本当の母子になれる、と思うことができたんだろうけど。
あのもうどうしようもないくらい壊れてた母子が、馨と雅子さんがホントにただのそこらへんの高校生の男の子とその母親みたいな、普通の会話をしてるわけですよ。日々の生活の中でどこの家庭でもかわされてるような、ぶっきらぼうでふてくされたみたいだけどよく気がつく息子とそんな子供に遠慮なく背中を叩いて笑って叱咤するような元気なお母さん、みたいな光景が。
普通の親子の姿が、あったわけですよ。絶対にありえないと思っていた光景が。
もう、それ見てホロホロと泣けてきてしまったのです。
本当に、良かったなあ、と心の底から思えたんですよねえ。

これは徹頭徹尾、天酒馨という人間のお話でした。今回に限っては、酒呑童子という前世は関係ないんですよね。前世と紐付けされていない、天酒馨という人間が確立されたともいうべきお話で、茨木真紀が好きになったのは天酒馨という人なのだ、という彼女の想いを確かなものにする出来事でした。
ライ、というもうひとりの酒呑童子の魂を持つ存在が現れているからこそ、今回の話はとてつもなく重要だったのでしょう。馨のレゾンデートルを揺るがす彼の存在ですが、今回の一件で馨の側は強固に補強されたわけですから。
しかし、一方でライが酒呑童子の魂を持つ存在であることには違いなく、果たしてそれを真紀ちゃんが無視できるのか、という問題があるんですよね。真紀ちゃんが好きで愛しているのは、間違いなく馨です。これは揺るがない。彼女はとっくに選んでいる。でもだからといって、前世からの思いに苦しんでいるライを無視して関係ないと突き放せるような娘でもないわけで。選んだからこその苦悩が、彼女につきまとうことになるんですよね。
凛音の方もやたらとややこしいことになってるみたいですし。むやみに汚れ役しようとせんでもー。

シリーズ感想

ぼんくら陰陽師の鬼嫁 五 ★★★★   



【ぼんくら陰陽師の鬼嫁 五】 秋田 みやび/しの とうこ 富士見L文庫

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保護者代わりとして、笑と二泊三日の短期高額バイト旅行に出かけた芹。途中、父親の墓参りも兼ねて立ち寄った伯母一家の営む食堂で、偶然八城を含めた『廃墟研究会』のメンバーと会う。彼らはミステリ作品の聖地巡礼で閉園した遊園地に行くらしい。話を聞いた笑は興味津々。そのまま芹たちも同行することに。しかし、閉園されたさびれた遊園地に、墓参りで出会った黒ずくめの男、ミステリ作家の鷹雄光弦が現れて―?ぼんくら陰陽師の嫁、旦那不在で大ピンチ!?退魔お仕事物語!
お義母さん好きが高じすぎて、当のお義母さんにドン引きされて避けられてしまう芹。猫が好きすぎて構いすぎて逆に逃げられるのとおんなじ構図だw
お義母さん側とすれば一生懸命嫌がらせしているはずなのに、逆にめちゃくちゃ好かれて懐かれてベタベタしてこられるんだから、怖いよな。まあ相変わらずお義母さんの嫌がらせは気遣いが一杯詰まった優しいものなので、芹も楽しみにしてしまってるんだが。楽しみにしている嫌がらせってなんだよ、と言いたいところなんだけれど、皮肉じゃなく本気で楽しみにしてるんだよなあ。まあわかるんですけど。あれらは全然嫌がらせになってないし。
と、前回の一件で芹のお義母さんへの好感度が自分を差し置いて爆裂してしまったことに密かに焦っている旦那であるはずの皇臥でありますけど、お義母さん好感度の爆上げに隠れてしまっていますけれど着実に芹の皇臥への好感度も上がってるんですよねえ。
ふとした時に皇臥の思いやりは気遣いを察して気持ちを揺らしたり、今回は笑ちゃんとの旅行ということで離れて行動しているわけだけれど、何くれと無く皇臥の事に思いを馳せたり、いざという時皇臥のことを頼りに思ったり、と以前よりもさらに皇臥に対して物思う時にじんわりとした温かい熱が籠もるようになってきているのが、言動の端々から感じるようになってきているのであります。
芹自身も多少なりとも自覚があるのかもしれません。そういうのをまるで察していなくて空回りしがちなのが皇臥クオリティなのですけど。でも、彼の細々とした気遣いとかちゃんと伝わってるんですよねえ。
今回だって、笑ちゃんとの旅行は芹のことを慮ってのことですし。芹って忘れがちですけど、まだ遊びたい盛りの大学生なわけですしね。まあ遊びたい盛りと言っても芹の場合境遇からしてそんな遊び回るような環境でもなかったですし、性格的にも一ところで落ち着けるタイプですけど。でも、友達と遊びにいくのも決して嫌いではないでしょうし、それどころか、旅行にかこつけてお墓参りとか親戚への挨拶も、とか気を回してくれるのを嬉しく思わないはずもないわけで。

ところが、この旅行をきっかけに芹の両親。野崎の実家の、というか父親の知らざる姿が明らかになってしまうのは芹にとっても皇臥にとっても予想外のことだったでしょう。
てか、芹パパって見える人だったのか。どうして、芹が親戚に預けられる時に腫れ物めいた扱いをされたのかも、こうして事情がわかってくると納得させられる部分もあるわけで。ただまあ理由は納得できても感情としては納得したくはないよねえ。形見を処分させられたのとか。
ともあれ、父親の知らざる事情に加えて、父親の弟子だったという作家先生と遭遇するにあたって何やら不穏な展開に。ミステリ作家の鷹雄光弦、なんか格好が京極夏彦先生みたいなのを想起してしまってちょっと笑ってしまったのだけれど、この人マジもんの陰陽師なんだよなあ。その先生、どうやら北御門とは因縁があるようで。あちらも、恩師の娘が北御門に嫁いでいるなんて知らなかったものだから、余計に面倒なことになってしまったようだけれど。
しかもこの先生、どうやら本物の天才らしく、素人の芹が九字の一音を聞いただけで「あ、うちの旦那とは別格だわ」と悟ってしまうほど。ってか、あそこで「皇臥ってほんとに陰陽師としてぼんくらだったんだ」としみじみ考えちゃうのはさすがに失礼! 事実であっても失礼!!
でも、皇臥はぼんくらでも北御門の式神は、護里ちゃんと祈里ちゃんは相変わらず頼もしいので大丈夫大丈夫。それにぼんくらであっても頼りになる旦那であるのは間違いなく、突然の窮地に急いで駆けつけてきているだろう皇臥の存在はこの場面においてはやっぱり頼もしいんですよね。いやまあ来てもらっても何が出来るかわからないんですけど。陰陽師の実力としては果たして頼りにしていいものか疑問ばかりなのですけど。それでも頼もしく感じるのは、夫としての存在感なのではないでしょうか。うんまあ、夫としても大丈夫かぁ、と疑念がよぎってしまう感じはありますけど、うん大丈夫大丈夫。

今回、『廃墟研究会』の実際の活動に芹たちも参加させてもらってましたけれど、凄くちゃんとした活動内容で感心してしまいました。あっちこっちに許可貰って申請して、危険がないように事前に準備も欠かさず計画もしっかり立てて、と想像以上に用意周到で慎重かつ安全重視で。なるほど、真っ当な活動とかこういうものを言うんだなあ、と。まあ今回はそれでもトラブルに見舞われてしまったのですが、これは不可抗力だよなあ。

あと、芹のパパさん。幼い娘を残したまま事故で妻と共に亡くなってたり、霊視体質で苦労したり奥さんと結婚する際もトラブルあったり、と幸薄いしんどい人生送ったような印象を外から見ると感じてしまうのですけど、鷹雄光弦が芹と話している時たびたび芹のマイペースな言動にやっぱりあの人の娘だな!!と思わず叫んでいるのを見ると、芹に似てバイタリティ溢れた人だったんだろうなあ、と思わず笑ってしまったり。芹もずいぶん苦労した人生送ってきましたけど、そんな人生をあんまり想像させないたくましいキャラですものねえ。願わくば、もう少し芹パパの昔話を聞ける機会が訪れればいいのですが。
事件はまさしく後編へと続く、という展開に。おお気になる気になる、続きを早く早く。

シリーズ感想

浅草鬼嫁日記 六 あやかし夫婦は今ひとたび降臨する。★★★☆   



【浅草鬼嫁日記 六 あやかし夫婦は今ひとたび降臨する。】 友麻碧 /あやとき  富士見L文庫

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茨木真紀は、鬼の姫“茨木童子”だった前世を持つ女子高生。同じく元“酒呑童子”の天酒馨や、前世からの仲間たちとともに、浅草で賑やかな今世を送っていた。ところがそんな浅草あやかし界隈に大事件が勃発!あやかしを商売道具にする悪しき人間「狩人」に、次々と捕えられているというのだ。助けに行こうにも敵の正体は不明。頼れる味方も今は囚われの身。そこで真紀たちは、普段は犬猿の仲である陰陽局の津場木茜たちと協力することにして―!?捕われた仲間たちを救うため、浅草の最強チームが推参します!
表紙絵、茨木童子に酒呑童子とその眷属たち勢揃いでの百鬼夜行、という感じで勇ましくも格好良いデザインで非常にお気に入りなんですけど、よく見たら足元にちっちゃい手鞠河童たちがたくさん居るじゃないですかーー! しかも、みんな木の枝持って戦闘態勢ですよ、なにこれ可愛すぎるw
惜しむらくは虎さんと熊ちゃんのコンビがいないところか。これ以上人を増やすとごっちゃになっちゃうから仕方ないんだろうけれど、今回はほんとに身内総動員してのカチコミだっただけに全員集合は見たかったなあ。
全員集合と言えば、今回でとうとう茨木童子の眷属と酒呑童子の幹部が出揃ったことになるんですね。感慨深いと言えば感慨深いのだけれど、まさか大和組長がそうだったとは……。
いやあ、個人的にはこの人、馨たちとは縁もゆかりも無い今世ではじめて縁が出来た人であってほしくもあったんですよね。浅草のまとめ役として術師としての能力を殆ど持たないままで頑張り認められ慕われて、馨も真紀もこの人には本当にお世話になってきたじゃないですか。すっごく気にかけてもらって大事に大事に守ってきてくれたわけですよ。そこに前世からの縁、なんてものは関係なくその優しさも包容力も人徳も器の大きさも、大和さんがこの生まれで培っていたものである、というのは認めるところなんですけれど、それでも何の縁も柵もないところからこの大和さんには馨や真紀ちゃんを庇護してくれていた人、であった方がなんか尊い感じがしてよかったんですよね。彼の前世は今の馨たちとの間に培われた関係には余計な要素ではなかったかな、と。
ただ、馨からすればこれはこれで嬉しい真実ではあったんですよね。自分の身内が生まれ変わってもなお、こうやって縁が結ばれてこうして自分たちを何くれとなく守ってくれていた、ということは。
大和さん本人が何にも知らないまま、というのはそれで良かったんじゃないかと。こればっかりは馨たちの側が知っていれば良いことですもんね。大和さんが馨たちを慈しんでくれるのは、前世関係ないことなのですから。
しかし、もう一つの生まれ変わりの方は難儀な話になってきたなあ。ライは雷獣のライではなく……そっちのライだったのか。しかも、ただの前世の人物からの生まれ変わりなら、清明ほどでしゃばった存在にはならなくても、この生まれで新しい関係というのも紡げたのかもしれませんが、それどころじゃないもんなあ。
しかも、大和さんみたいに本人が知らない真実、なんてもんじゃなくライ本人はどうやらほぼ全容を把握しているようですし。そうなると、彼の真紀へのあの凄まじく未練がましいというか捨てられた子犬みたいな態度もわかってしまうわけで。
まさか、なんの障害もないだろうと思われた真紀ちゃんと馨の鉄板夫婦関係に、本格的なお付き合いの開始という進展なのか後退なのか微妙によくわからない変化が訪れた矢先に、こんな波紋を生じさせる大岩が投げ込まれるとは。
これ、真紀ちゃんの男気が試されるところなんじゃないだろうか。いや、男気というのもなんなんだけれど。馨が一番、と断言しているあたりなんぞ優柔不断の欠片もない気風の良さなんですが、相手はけっこう繊細そうなだけにどう対処すればいいのやら。
しかしこれ、叶先生てば以前意味深に真紀ちゃん、由理、馨にそれぞれ嘘をついている、と指摘して実際真紀と由理には大きな嘘があったのだけれど、馨に関してはこれ馨まったくご存じない話ですよね!? しかもこれ、安易に馨自身には知られてしまうとえらいことになってしまう案件だし。
真紀ちゃん、大丈夫なんだろうか。繊細に対処しないといけないの、相手さんだけじゃなくて馨にも該当するんだけど。真紀ちゃん、気配りも出来るし安易に下手こいてダレかを傷つけてしまうような言動はしない子でその点信頼感はあるんだけれど、それと同じくらい大雑把なところがあるだけに心配も尽きない!

心配といえば、凛音の方も渡欧時代の向こうの吸血鬼一族との関係がややこしいことになっているようで。凛音自身はもう真紀ちゃんのことどうこうしようとは思ってないみたいだし、殆ど眷属時代と変わらない距離感なんだけど……ってか、呼んだらどこからともなく出てくる、呼べば来てくれるってどれだけはべってるんだよ、て話なんだけれど、これだけ元の木阿弥になりながら向こうとの縁が切れてないというのは、それだけ柵みたいなものが出来ているということだし、まだ凛音関係のトラブルはつきまといそう。
ミクズも、スイの決死の活躍で残機減らせたものの、あっち側の猫さんといい食えない相手ばかりだし面倒は尽きないなあ。

シリーズ感想

浅草鬼嫁日記 五 あやかし夫婦は眷属たちに愛を歌う。 ★★★★   



【浅草鬼嫁日記 五 あやかし夫婦は眷属たちに愛を歌う。】 友麻碧/あやとき 富士見L文庫 

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人とあやかしが共に生きる町、浅草で暮らす茨木真紀は、前世で鬼の姫“茨木童子”だった記憶を持つ女子高生。鬼的には節分の、女子的にはバレンタインの季節を迎え、元“酒呑童子”の天酒馨や、前世で眷属だったあやかしの水連や深影たちのため、恒例のチョコ作りに奮闘する!深影のお使いや、水連の薬開発、熊虎姉弟の漫画を手伝いながら、今世でも家族のように助け合う真紀たち。そんな折、浅草を守る七福神に異変が起きたようで…?「最強の鬼嫁夫婦」と眷属たちの輝かしい日々がここに!

劇的な展開なく、お付き合いをはじめてしまったご夫婦。いやうん、本人たちも傍から見ている周りの人たちも読んでるこっちも既に「夫婦」という認識しかないカップルだけに、凄まじいまでの今更感……いや、今更というよりもなんなんでしょうね、これ。
実際に結婚しているわけではない以上、真紀ちゃんと馨の関係は彼らのことをよく知らない人たちからするとどういう関係なの?と聞かれるとどうにも名前のつけられない関係ではあったんですよね。夫婦です、なんて言えるもんでもないですし。
しかし、今更恋人です、というのも気恥ずかしいというわけでもないんだけれど、なんか違うのである。違和感があるわけじゃないんですよね。夫婦から恋人に「後戻り」しているというわけでもない。ただ、そぐわないというかなんというか。
でも、まだ夫婦じゃない以上、その前の関係というのを改めて今世では嗜んでみましょう、という二人の気持ちもよくわかるんだなあ。そのために劇的な展開があるわけじゃなく、自然に付き合おうぜという風に馴染むのも自然体な二人らしいし、恋人になったからといって無理して特別なことをするわけでもなく、今までどおりの距離感にちょっとした甘酸っぱさを添えつけたような幸せのエッセンスが、本当に二人らしくてなんとも素敵なんである。
生まれ変わって再び巡り合った運命の二人は、今人として生きて、一方でアヤカシたちも見守るかつての大妖怪としての振る舞いも忘れず、つまりは今彼らは幸せなんである。
悲劇的な結末を迎えた二人が、今幸せな時間を二人で過ごしている。それを見守っている彼らの眷属たちの感慨はいかばかりなんだろう。
再び転生するかもわからない主をずっと待ち続けた虚ろの日々。それは眷属たちの心を少なからず傷つけて、その傷は未だ癒えきったわけではないのは、スイをはじめとした眷属たちのどこか必死さが垣間見える主人たちとの接し方を見ても伺えるんですよね。
でも、一方で今世の幸せな主夫婦の姿に、そしてかつて以上に自分たちを慈しんでくれる彼らの愛情に、今眷属たちはこの上なく報われているのでしょう。凛音は悲劇で終わった過去に未だこだわっているけれど、その過去にしがみついて今の真紀ちゃんたちの幸せを壊してしまおうなんて不出来な真似は絶対にもうしないでしょうし。
奇跡のような再会がなった茨姫と酒呑童子。そんな二人に再び寄り添えた眷属たち。でも、生まれ変わった鬼夫婦は今は人間で、だからそう遠くない未来に彼らは再び老いて眷属たちの前から去っていく。それを、スイたちは忘れていなくて、時折胸をかきむしるような切なさに苛まれている。今が幸せだからこそ、未来を想うことが苦しい。
でも、同時にそれを受け入れてもいるんですよね、彼らは。いや、未だ子供な深影なんかは難しいのかもしれないけれど、スイなんかはそれをちゃんと受け入れている。悲劇で終わってしまったかつての別れは、後悔と痛みと苦しみばかりが残されたものだったかもしれないけれど、真紀ちゃんたちが今度はずっと幸せなままその第二の人生を終えることが出来たなら。
眷属たちにとって、今度の別れはどれほど寂しくても微笑んで送ることが出来るだろうか。身を引き裂かれるような痛みではなく、温かい思いで去っていった人たちを振り返ることが出来るようになるだろうか。
スイがずっと味わってきたという、真紀ちゃんたちと再会するまでの時間を想うと、切に考えてしまうんですよね。真紀ちゃんたちの幸せが、彼ら眷属を終まで幸せを抱くための大切な記憶に、思い出になってくれるように、と。
だから、残されたまだ出会ってない眷属の木羅々ちゃんと真紀ちゃんをちゃんと再会させてあげたいし、このまま真紀ちゃんと馨には幸せになってほしい。彼らの幸せは、彼らだけの幸せには留まらないんだ、というのをじんわりと実感できる、二人の夫婦を取り巻く「家族」のお話でした。

新たに清明の式神に新入社員よろしく加入した由里があっちはあっちで大変そうですけど。大変というか、向こうの古くからの式神である四神たちとの距離感をどうとろう、とお互い戸惑って微妙な空気になってる感が、なんともかんとも……微苦笑が浮かんできてしまう。
ラインかなんかわからないけど、メッセージアプリで式神同士やりとりしてるのが現代的であるけど、先生全員に携帯もたせてるのか、甲斐性あるなあ。ってか、術とかじゃなくて、普通に携帯で連絡取り合ってるのね、あの主従w

しかし、狩人側に出てきた「ライ」というのは誰なんでしょうね。雷獣かなんかかと思ったら、なにやら妖ではないみたいだし、かと言って人間でもないみたい、となると真紀ちゃんたちみたいな?
大和組長もなにやら抱えているようですし。ってか、組長実は凄い力を秘めてるというか封印されてる系の人だったのか。この人も何気に1シリーズの主人公張れそうなポテンシャルの持ち主なんだよなあ。

シリーズ感想

六道先生の原稿は順調に遅れています 三 ★★★☆   



【六道先生の原稿は順調に遅れています 三】 峰守 ひろかず/榊 空也 富士見L文庫

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文芸編集者の滝川詠見は、作家にして妖怪の六道〓馬(そうま)を担当中。新刊発売に文学賞受賞と、場数を踏んだ二人には、新作の立ち上げもお手のもの―ということもなく、相変わらず原稿は遅れていた。そんな折、六道先生の書いた昭和回顧エッセイが評判に。それなら先生の半生を描いた自伝小説も面白いのでは、と新作企画が立ち上がる。さっそく縁の地へ取材に向かう詠見たちだったが、やがて六道先生の記憶にない“六道〓馬”の足跡が見つかって…?編集女子と妖怪作家の、怪奇×お仕事物語、集大成!?

これまで編集者と作家のパートナーシップを中心に描かれてきた本作ですけれど、改めて詠見の立場から編集者とは、という在り方を見つめ直すような第三巻にして完結編でした。
と言っても、編集者としてどう働いていくか、どう作家と接していくか、どうやって協力して作品を作り上げていくか、という部分についてはこれまで六道先生との共同作業の中で探り探り見つけ出していき手応えを得てきたものですから、むしろここからは「編集」という仕事の苦しみや意義、クリエイティブに携わる仕事でありながら自ら創造するわけではない立場に対するモヤッとした思いに、詠見が向き合うことになるお話でもあったわけです。
尊敬する別の出版社の先輩女編集者の、折からの出版不況からくる志を折られた無情な末路。詠見の趣味であったハンドメイドアクセサリーが講師の人から認められ、プロとして働かないかと誘われることで生じる、モノを創るということへの自らの関わり方への疑問。
小説家視点から、本を作る、物語を描き出す、小説家として働き社会と関わってく、という主題について描かれていく作品は多々ありますけれど、そんな自分に置き換えて描ける小説家のお話と違って、対面にいる編集者を主役とした作品、そして編集者の立場や視点から業界や小説家たちとの関わり方を描いた作品って、比べるとやっぱり少ないと思うんですよね。
そこからすると、本作は穏やかながらその辺徹底して編集者視点で描かれた物語で、その意味でも新鮮なものでした。
自伝的小説を書いていくことで、自分のアイデンティティそのものと向き合うことになり、存在意義と自分の相反する側面に直面し、自己そのものを揺るがすことになる六道先生に対して、これまで生きてきた「小説家六道馬」を全肯定し、その存在を証明し認めることができたのは、この場合女性としての滝川詠見ではなく、文芸編集者としての滝川詠見以外はなかったんでしょうね。
物語の中で、あくまでこの二人が作家と編集者という関係で在り続けたのは、進展がなかったというよりも、それこそが重要であったから、と考えるべきなのでしょう。
もっとも、そんな作家と編集者という関係の中でもプライベートとして醸成されていく気持ちの部分は当然存在していて、ここからどう変化していくか、進展していくか、発展していくかについては六道先生の決定的な変質も加わって、ご両者に応相談というところでしょう。
見たところ、むしろ詠見よりも六道先生の方にこそ多く意識する部分があるようで、早晩なんらかの変化はあるのではないでしょうか。
でも、世間一般的には六道先生って孫が居てもおかしくない年齢ということになっているので、表向きには老いらくからの関係になってしまうのかw

シリーズ感想

ぼんくら陰陽師の鬼嫁 四 ★★★★   

ぼんくら陰陽師の鬼嫁 四 (富士見L文庫)

【ぼんくら陰陽師の鬼嫁 四】 秋田 みやび/しの とうこ 富士見L文庫

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ぼんくら陰陽師・北御門皇臥のプロ嫁として日々努める芹。嫌みな姑の史緒佳との関係も、意外と上手くいっていた。得意先の紹介で出張祈祷に出かけた芹たちだったが、突然の大雨で帰れなくなってしまう。幸い懐も温かいので、近くのオーベルジュに一泊することに。梅の花に囲まれた素敵な宿に美味しい料理…と思いきや、待ち受けていたのは、今まさに始まらんとする降霊会と元北御門の門人、そして自称霊能者で―?ぼんくら陰陽師の腕が試されるとき!?現代退魔お仕事物語!

自分がまだ子供だった頃に十代後半とか二十歳になったくらいの親戚とか身内の若いお兄さんお姉さんだった人が、ふと気づいたら三十とか四十越えてたりすると、思わず「マジか!」と声に出してしまう現象、よくわかります。
いや、今だと自分がマジか!と言われる方になってしまったのですが。
見た目が変わってるとかそういうんじゃないんですよね。結構三十路くらいだと見た目そんな老けてなかったり、というのは実のところ珍しくはないのです。でも、だからこそ逆に再会した時「あんま変わってないよねー、今いくつだっけか……マジか!!」になるのですが。
「え? あんたもう40なの? マジか!」と言われることもままあります。
今回登場の薙子さん、北御門の内弟子やっていたころはまだ十代から二十歳になる頃だったわけで、その頃皇臥くんはちびっこだったわけで、再会した薙子さん何年ぶりに会うのかと計算したら自然と年齢も数えてしまうわけで、そりゃあびっくりするわねえ。
とまあ驚くのは向こうも同じで、6つ7つも年下の弟分だった子供が再会したら弟子連れてるばかりでなく、嫁さんまで連れているわけだから、なおさらびっくりするものである。というか、自分の歳を顧みてしまうのである、ショック。
芹だって、まあ穏やかではいられない。なんせ、血は繋がっていないとはいえ彼女は姉のようなもので、家族同然だった人で、北御門の家人たちの過去をよく知っている、あるいは共有している、と言った方がいいか、そういう人なのだ。祈里や護里ら式神だって、「なぎこなぎこ」と呼んで親しんでいる。
とまあ、普通ならここで芹が気にしてもやもやしだすのは、旦那であり夫である皇臥くんと薙子さんの関係であり、二人が共有している家族の時間、過去の想い出に嫉妬したり鬱屈を覚えたり、というパターンなのだけれど……。
面白いことに、芹が引っかかってしまったのは北御門の姉である薙子ではなく、北御門の「娘」であった薙子の方だったんですよね。
折しも、降霊術で降ろそうとしている霊が皇臥たちが急遽宿泊することになった宿泊施設付きのレストランの前オーナーの、まだ幼稚園にも通わないくらいの小さな男の子の霊であり、母親に会えない寂しさが未練となって残ってしまっているタイプの子だったわけである。
芹自身、母親を早くに亡くしてその寂しさを抱えていた身。ちょうど、霊の寂しさと芹の想いがバッティングしてしまい、ややこしいことになってしまったわけだけれど、ここに「母親への思い」というものが重なって浮き上がってきてしまったわけだ。
芹ちゃん、ライバル関係みたいにうそぶきながら、その実姑である史緒佳さんのこと、そんなに慕うに至っていたのか。
そりゃあ、今回の出張でも今までしていなかった化粧の仕方なんかを丁寧に教えてもらったりして。友達とわいわい言いながら慣れ親しんでいくものとは違って、「母親」から教えてもらう化粧の仕方というのは女性にとっては特別なことなのでしょうか。幼い頃に死に別れてしまった芹にとっては、史緒佳から教えてもらったそれは、この歳になって初めての母親から教えてもらう特別な時間であり出来事だったんですなあ。史緒佳さん、チクチクと嫌味言いながらなんだけれど全然ものいい嫌らしくないし、今回なんか化粧品など試供品とか言ってたけれど何気に芹のために買い揃えてたものなんですよね。こう、度々芹の心をずきゅんと射抜くような心遣いや優しさを垣間見せてくるものだから……ちょっと皇臥くんよ、嫁さんのハートキャッチ、明らかに自分の母親に負けてるんですけど!
ついに、芹から「告白」された! と思ったら、皇臥くんじゃなくて「私、お義母さん大好き」ですもんねえ。ご愁傷様です、旦那さん。
出張から帰ってきたら妙に嫁が懐いてきて、パニクって恐慌状態に陥っている史緒佳さんも、なんというか皇臥の母親らしくて、なんか安心しましたけれど。このお義母さんほんと癒し系ですわ。
いやいや、皇臥くんの方も本人まったく自覚ないですけれど、ちゃんと芹ちゃんから意識されだしているので、日々の努力を怠らないように。なんか色々と駄目っぽいけれど。

しかし、降霊会だの自称霊能者だのと本物の陰陽師が関わると、詐欺事件をひっくり返すみたいな話になってしまうものですけれど、今回はあちらもなんだかんだと詐欺師でも偽物でもなく、幽霊の存在も実在していたので、なんか真面目に男の子の幽霊の未練を晴らすためにみんなでその方法を探し回る、というある意味真っ当な除霊になってて、逆に真っ当な除霊というか地縛霊を成仏させる話というのは新鮮でありました。
薙子さんたちの方も色々と裏はあったものの、真摯なお仕事っぷりでかつての身内が落ちぶれて、みたいなことになっていなくて良かったです。というか、薙子さん北御門に来た時の事情もさることながら、北御門を出たあとの来歴もパワフルというかバイタリティ溢れるというか。年の離れた弟くんに対して、姉というよりも母親のように守ってきたのが伝わってくる話ばかりで、若いみそらで大変だったろうに。そういう所も、同じく苦労してきた芹としては共感するところだったのかもしれません。
薙子さん本人よりも、弟の影臣くんの方が北御門に対して隔意を持っていたようだけれど、妙に八城と意気投合してましたし、なんというかなんだかんだと久々に身内と再会したときのぎこちなさと段々と昔みたいに打ち解ける和やかさみたいなのが相俟ってる上に芹と弟子くん、薙子さんの弟くんという、それまで面識がなかった者が介在してそこに相手側に対する複雑な思いなんかも絡んでいるが故の、昔通りとは違うお互いに家庭を持った同士の新しい関係、みたいなのってこれもまた一つの親戚づきあいという感じなんですかねえ。
そして、今回も伊周のレッサーパンダの存在感、パねえかったですw

シリーズ感想

土地神様のわすれもん ★★★☆  

土地神様のわすれもん (富士見L文庫)

【土地神様のわすれもん】 新井輝/あおいれびん 富士見L文庫

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「わすれもん」―とある地方の方言で、忘れられた存在を指す。世間から「わすれもん」扱いの作家・真金井光。彼が庭先の祠を掃除していると、中に置かれた猫の人形が動き、突然喋り出した。自分も「わすれもん」となった土地神だという猫は、同じような存在を助けようと光に持ちかける。「きっと普段得難い経験が出来る。作家の君にとってうぃんうぃんだろう?」肉球とガッチリ?握手で約束を交わす光だが、実は彼にも忘れている過去があって―。2人一緒なら百人力のコンビが皆のために駆け巡る友情物語。
あいやあ、作家なんて十年程度音沙汰なくたって忘れられたりしませんて、と思うのは自分だけだろうか。そも、新井さん前作2015年だからまだ三年しか経ってないよ。それでもしばらく音沙汰なかったのは間違いないので、お久しぶり。
本作と共に富士見ファンタジアの方でも新作を出しているので、これは一時的にでも作家活動を再開されたということでしょうか。だったら嬉しい。
しかして本作の主人公、あらすじでは頑なに光というペンネームで押し通しているけれど、何気に作中では殆ど光とは呼ばれなくて、本名の方で呼ばれっぱなしだ、この人。おーい、志男。
本名、苗字と合わせてこれだと確かに抵抗がある。
さて、この作者の描く主人公はある種の欠落を抱えた人間が多いのだけれど、彼の場合失われていたのは一部の記憶であって、人間性や情動の類が欠けているわけではないからか、かなり普通の人間である……のかなあ?
小説をまったく書けなくなってから、取材と称して色んな方面にチャレンジしているのですけれど、その尽くを免許皆伝レベルまであっさりと習得してしまってるあたり、この人って全方位に向けての天才っぽい。書けない小説も、最初に受賞したときはなんとなく書いたものがバカ当たりしてしまっているところや、土地神と遊ぶようになって書いた短編とかすごい受けているのを見ると、小説家としても天才、というのもあながち自称ではなさそうだし。
土地神さまに促されたとはいえ、特に抵抗もなく人様のお宅に訪問して、おたく祟られてますよ、みたいなことを臆面もなくのたまってしまうところとか、考えてみると全然普通の人じゃないのかもしれない。だいたい、それ普通なら通報されてもおかしくないですからね?
ところが、地元では彼の実家、鈴木家というのは妙な権威があり、神様に代々お仕えしている家、ということで少々不思議なことを言い出しても……神様がそう言ってるんですよ、とか言ってくるの少々レベルじゃない気もするのだけれど、鈴木さんところの人が言うんだから本当なんだ、とさらりと信じてもらえるのってちょっとこの地元の人達大丈夫ですか?と若干心配になるレベルで信用があるようで。
狸のお母さんから頼まれて子狸探しに来ました、という話まで子狸飼ってた一般家庭の家の人がそうですかー、と信じてしまった、むしろ正直に話してしまう主人公が大丈夫か、というところなんだけれど、それでも信じてもらえてしまうのは別に主人公の人徳でも何でもありません。鈴木家、この地方では何者だったんだ、ほんとに。
考えてみれば、旧家に引っ越してきて突然土地神と名乗る怪しい猫に話しかけられて、若干パニックになりながらもすぐにツッコミ入れながら対等に丁々発止しているあたりからして、この小説家先生も全然普通じゃないよね。ってか、相手神様と思って無くてこれ普通にしゃべる猫としか思ってないよね。
ともあれ、神様にせっつかれながら色々と案件をこなしていくのだけれど、様々なスキルを有しているとは言え、ぐだぐだと書けない小説を書こうとして十年粘っているような煮詰まった男である。颯爽と問題を解決、なんてスマートなことが出来るはずもなく、かなり行き当たりばったりでぐだぐだにアタックしていくのだが、兎にも角にも介入するということが場の空気を入れ替えることにもなるのだろう、きっかけにもなるのだろう。なんとなくまあ丸く収まっていくあたり、なにごともやってみるもんだ、というより解決の意思を持ち込むことが大事なのかも知れない。うまくいかなくても、とりあえずでもなんとかしようという意思が介在することで、問題になってる相手方の方でなんとはなく収拾つけてくれるみたいなところもあるものですから。
とまあ、そんな感じでまったく締まらない猫と書けない小説家のコンビの相応にのんびりした日常を堪能するところでありました。

新井輝作品感想

浅草鬼嫁日記 四 あやかし夫婦は君の名前をまだ知らない。 ★★★★   

浅草鬼嫁日記 四 あやかし夫婦は君の名前をまだ知らない。 (富士見L文庫)

【浅草鬼嫁日記 四 あやかし夫婦は君の名前をまだ知らない。】 友麻碧/あやとき 富士見L文庫

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浅草の今を生きる茨木真紀は、かつて鬼の姫“茨木童子”だった記憶を持つ女子高生。彼女と同じく元大妖怪の天酒馨や継見由理彦を巻き込んで、今世も悩めるあやかしのため、賑やかに駆け回る。修学旅行先の京都で、真紀は前世にまつわる嘘を明かし、すれ違っていた馨と向き合った。そして今度は約束していた江ノ島デートへ!ところがその頃浅草では、由理彦の妹の若葉が、見えないはずのあやかしと出会っていて…。冬の浅草を襲う異変に、また一つ暴かれる嘘。「最強の鬼嫁」夫婦と、友との絆が試される―!

由理の嘘って、先だっての真紀ちゃんの抱えていた嘘に比べたら別にバレても問題にはならないんじゃ、と前巻でその一端が明らかになったときには思ったものでしたが……。
大問題だった!!
そうかー、真紀ちゃんや馨にバレたところでそんな拗れることはない、というのは間違いじゃなかったのだけれど、清明が指摘してきた嘘の代償って結局自分にこそ返ってくることになるんだよなあ。
てっきり、真紀ちゃんや馨の転生に合わせて由理は継見由理彦になったのだ、と思ってたんだけれど、話を聞く限りでは完全に偶然じゃないですか。正しく運命的だったのか。
そしてそれは同時に、由理が決して真紀ちゃんたちに合わせて今の人生を歩んだわけじゃなくて、彼自身の望みのために人として生きていたわけだ。たとえ、それが嘘によって成り立っていたものだったとしても、そこで育まれた関係が嘘であったはずがない。歪であったはずがない。
由理だけが与えられて受け取っていたんじゃないんですよね。由理の家族もまた、由理から多くを受け取っていた。由理があってこその継見家だったはず。だからこそ、若葉は本当の由理を知りたがったはずなのに。もっと、兄が報われるために。本当の姿を知ることで、彼が自分がついている嘘に苦しまずに済むように、と。
でも、その嘘を暴いてしまったがためにすべてがなかったことにされてしまう、というのは由理だけじゃなく残された継見の家の人たちがまた辛すぎる。たとえ、何も覚えてない事にされてしまったとしても、喪失感は由理を愛していた分だけ抱え込んでしまうでしょう。
それもまた、残酷な話じゃないですか。
家族という存在に対して複雑な想いを抱いてきた真紀ちゃん、馨、そして由理彦。それぞれの形で、家族という存在に追いすがり、求めてきた彼らだからこそ、この継見家の結末は苦しいよなあ。
ちょうど同じ時期に、津場木くんところの家のあったかな関係……なんの衒いもなく家族は大切にするもんだろう、ときょとんと言ってしまう津場木くん、彼にそう言わしめてしまう津場木家の在りようを目の当たりにしていただけに、余計に来るものがある。
真紀ちゃんたちが目指す、家族の形の一つに成りえるんだろうなあ、あの家は。まあ、某親戚のオジさんによって家系そのものがえらい呪いを食らっているという現状もあるのですが。津場木家の呪いの話って、こっちで関係してくるのかそれとも「かくりよの宿飯」の方で関わってくるのか気になるところではある。
と、話が逸れたが継見家の件についてはこれが決着というにはあまりにも悲しいので、記憶が消されてもなお諦めていない若葉ちゃんの頑張りに期待したいところでありまする。清明先生も人間の味方だってんなら、由理はいいので妹ちゃんの味方はしてあげてほしいのう。由理はなんだかんだと自分で決着つけちゃいすぎる。さっさと身の振り方まで1人でなんとかしちゃいましたし。馨や真紀ちゃんからすると、ちともどかしいところなんでしょうなあ、そういうところ。

シリーズ感想
 
10月22日

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10月21日

(4コマKINGSぱれっとコミックス)
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10月20日

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10月18日

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10月16日

(電撃の新文芸)
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10月15日

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10月14日

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10月12日

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10月9日

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10月8日

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10月7日

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10月6日

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10月4日

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10月1日

(角川スニーカー文庫)
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9月30日

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9月28日

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9月25日

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9月24日

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9月22日

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