
【GENESISシリーズ 境界線上のホライゾン 4(中)】 川上稔/さとやす(TENKY) 電撃文庫
Amazon
奥州上越関東の安定化のための外交作戦として、里見生徒会長を招き入れ、列強三国へ外交官を派遣することを決定した武蔵。
その結果、最上家へ里見義康とアデーレが、上越露西亜の上杉家にトーリ、ホライゾン、メアリ、点蔵、ミトツダイラが、伊達家には鈴とウルキアガが外交官として赴くこととなった。
だがその一方、武蔵内部に潜入した伊佐、穴山たち真田十勇士は密かに活動を始め、更には武蔵の眼下、水戸領地に対し羽柴勢が戦闘を開始。事態は急速に動き出す!
これはキツいなあ。ここで明らかになった伊達最上上杉の奥州列強が抱えていた“約束”は「武蔵」にとって絶対に無視できないものだわ。だって、一緒だもの。純粋な子供の頃の想いが、幼馴染同士の無垢な絆が、政治的な必然に寄って引き裂かれてしまったという意味において。
トーリとその仲間たちが立ち上がり、世界相手に喧嘩を売ったその発端は、子供の頃からの思いを守るため、奪われたものを取り戻すためだったはず。だからこそ、同じように引き裂かれてしまった、或いは第一巻においてホライゾンが自害を強要された状況をそのまま踏襲してしまったかのような、伊達最上の、伊達小太郎と最上駒の選択は、傷ついた政宗や伊達成実、本庄繁長のお姉ちゃんたちの苦悶を、武蔵の連中は政治的な必要性を抜きにして、絶対に何とかしてあげないといけないもののはず。何より、こいつら自身が見ないふりをすることを許さないでしょう。
此処に来て、武蔵の目指す世界征服の指針の意味がよくわかってきた気がする。今のままの世界の在り方だと、泣く人が多く出すぎる。犠牲を強要された奥州側のみならず、話を聞く限り強要した側である秀吉も性格的にダメージ追いまくってるっぽいんですよね。そもそも敵役になっている羽柴・織田側からして、本能寺の変を皮切りに大量に出るだろう犠牲を前にして、じっと歯を食いしばって耐えているような様子で、痛々しくて見ていられないもんなあ。
涙をこらえて悲しみに顔を歪ませて達成する世界救済よりも、みんな笑顔で楽しく成し遂げる世界征服の方が、そりゃイイに決まってる。
12月発売の下巻で、奥州編は一先でも片付くんだろうか。なんとか、してやって欲しいなあ。伊達や最上たちが置かれた状況は、ちょっと可哀想過ぎる。あんな小さな子供たちが悲しそうにじっとこらえているのを見るのはしのびない。
そんな厳しい奥州の中で、やはり一番歯を食いしばって走り回っているのが伊達・成実。上巻でまっさきに表紙を飾ったのも宜なるかな。実姉じゃないけれど、どう見ても彼女が今まで登場したどのキャラよりも姉キャラを体現しているじゃないか。ウッキーことウルキアガとの絡みもやたら多いし、こりゃやっぱりウッキーとのフラグ乱立か? ウッキーに乳を揉まれ、裸Yシャツ(のーぱん)姿をもろに見られる、という時点でフラグ確定です、はい。それに、どうも成実は聖譜記述に従って一時的に伊達家から出奔しないといけない時期が迫っているらしく、これってどうみても武蔵合流フラグですよね? 成実さん、このシリーズでは希少種と言っていい、純情乙女系のようなので、是非ゲットしておきたい人材だ。何しろ恥辱プレイで顔真っ赤にして涙目になっちゃう娘さんだもんなあ。
奥州列強に羽柴がちょっかいかけてきた形で混沌とする外交戦とはまた別に、武蔵内部でも大久保忠隣が主導する戦争反対の生徒会不信任案提出、生徒総会の起立によって、事実上のクーデター発生。
おのれ、眼鏡め、そんなに眼鏡のくせに目立って眼鏡を独占すると元祖眼鏡が逆襲しにくるぞ……などとたわけた妄想していたら――ほんとに来たーーーっ! 真・眼鏡っ子トマス・シェイクスピア、英国より襲・来!!
ネシンバラがあんな事になった途端に飛んでくるあたり、愛されてますねえ……さすがストーカーw
とりあえず、この巻ではまだ来ただけで何もしてないけれど、来て何もしないはずはないからなあ。下巻での活躍を期待したり恐怖したりw
点蔵爆発しろ。
くそう、天然なメアリさんは無敵だぜ。東西無双を名乗るのは本多・立花の両将だけれど、実際武蔵で最強無敵なのって、メアリとベルさんの二人だよなあ、と羽柴十本槍の加藤・清正をネイトが同情してしまうくらいバッサリと正論で斬って伏せたメアリと、真田十勇士の猿飛・佐助と霧隠・才蔵を手玉に取ったベルさんを見てしみじみと思ったり。
東とミリアムは登場シーン少ないながらも通常運行。ってか、「駄目じゃないけど」ってミリアムさん難度さげすぎ! さりげなくOK紛いのこと口走ってますよ!?
正純、戦慄のウォーモンガー疑惑。彼女が対外交渉にあたると結論はいつも「よし、ならば戦争だ!」。あれだけ突っ込まれて「戦争しないよ!!」とか叫んでおきながら、奥州平泉の長老との交渉では「世界征服だ!」を連呼しまくってるあたり、「よし、ならば戦争だ!」と言ってるのと大差なかったような。
こりゃ、大久保忠隣との相対戦も結論は「よし、ならば戦争だ!」になりそうだな……て、なるに決まってるじゃないか。大久保忠隣は和平派で、正純は戦争継続派なんだから。最後は戦争になりますね、はいw
トーリと喜美の母ちゃん。ブルーサンダー亭の女将さんの正体発覚。元侍という触れ込みだったけれど、これまで名前が全然出て来なかったんですよね。ちょっとは変だなあ、とは思ってたんだけれど、そうか、名前明かしてなかったのは元襲名者だったからか。
その襲名たるや、まさかまさかの小野善鬼! かの一刀流開祖・伊藤一刀斎景久の一番弟子であるあの剣豪である。ってか、しかも父ちゃんは小野忠明って、その発想はなかった! そりゃあ強いわ。
メンタルスランプが続いていた本多二代に、師匠が必要だという話になったときは、そんなん務まる人居ないじゃんと首をかしげていたんだけれど、こんなダークホースが身近に隠れていたとは。こりゃあ、二代もここで一皮剥けそうだ。
さすがに下巻も来月発売の三ヶ月連続刊行、とは行かなかったものの、それでも一月開けての12月発売ということで間を開けずに送り出してくれることに感謝。ここで三ヶ月四ヶ月と待たされるのは悶絶ものですもんね。しかし、これ中巻がここで終わっているとなるお、下巻、また1000ページ超えるんじゃないか?
川上稔作品感想