左京潤

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。33   

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。3 (富士見ファンタジア文庫)

【勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。3】 左京潤/戌角柾 富士見ファンタジア文庫

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勇者試験直前に魔王が倒されてしまい、勇者になれなかった少年ラウル、父親である魔王が倒されて居場所がなくなった魔王の娘フィノ、そしてラウルの勇者予備校時代のライバル・アイリの三人は、王都にあるマジックショップで、なぜか一緒に働いていた。そんなある日、店長の提案で三人はミスコンに出場することになって―。「…ミスコンって、女の子が出るコンテストですよね?」「ええ。もちろんそうですよー」「俺っ、男なんですけどっ!?」勇者の卵と魔王の卵が織りなす、ハイテンション労働コメディ。
さて、当初から危惧していた作品のコンセプトに対する構想の練不足が露呈してきた感のある第三巻。
ラブコメとしては、正の感情に無知で無垢なフィノが恋心を知る、というそれなりに重要な展開ではあるものの、本来この作品のコンセプトであったと思われる夢破れた者が新しい道で自分の夢を見つけていく、という流れと訪れた平和の中に色濃く残された永年戦争の傷跡――「未だ終わらない戦後」というものが、今回殆どスルーされてしまっていた。ラウルの元勇者候補生という過去は、彼が魔法ショップ店のしがない店員にも関わらず侮れない実力を持っている、という力量の保証としてしか意味を無していなかったし、フィノに至ってはラストシーンで魔力タンクとしてしか魔王の娘であったという出自が関連してないんですよね。つまり、アイリを含めても単にスペックが高い理由としてしか、その出自が扱われておらず、ぶっちゃけ今回の話においては店長を含めて、彼らの持つそれぞれの背景というのは全くこれっぽっちも活かされない形で終わってしまっているのです。番外編、と言ってしまってもいいくらい、一巻から示されていた本作品の趣旨とは無関係のお気楽なドタバタ劇に終始してしまっているのである。
確かに、元勇者候補生と魔王の娘が、市井の名も無き販売店の一員として、未だに戦争の影を引きずったままの戦争当事者たちと向き合い、今はもう新しい時代なのだと示していく、なんて結構ヘヴィな話を上手く広げていくというのは難しいと思う。特に、ただのチェーン店の魔法道具店の一般店員なんて立場で、社会の歪みと相対させつつ毎回バトルも挿入する、なんて考えるだにハードル高いんだけれど、それを放棄してしまうと作品そのものの特徴まで放棄してしまうことになるので、なんとか粘って逃げずにしっかりと描いてほしいなあ。

ラブコメ的には、店長と副店長が意外といい雰囲気になってたのがちょっとビックリ。幼馴染とはいえふたりとも、そういう気はないと思ってただけに。店長の、副店長とふたりきりだと何話したらいいかわからない、というのは単に副店長ディスってると思うのじゃなく、もうちょっと甘酸っぱい方で捉えてみると、みんな幸せになれるんじゃないだろうか。

一方で、フィノは順調に恋する少女として成長している模様。ふっ、ヤキモチを知る歳か。無知な分、本能に忠実で、自分の中に生まれつつある感情に対して戸惑いながらも自分を偽ろうとしないのは、やっぱりかわいいよね。その点、アイリの方は小難しい性格もあってか、自縄自縛もいいところ。まあ彼女に関しては、未だにラウルから名前で呼ばれず「オールA」呼ばわりサれ続けているのは、ちょっとかわいそうだと思うところも無きにしもあらず。
新キャラ? はて?

しかし、あの店長。女性なのによくまあ男であるラウルと平気で身体交換するよなあ。それも、ミスコンに出場させるため、って。ラウル当人にその気が無くても、女性の肢体を意識してしまう状況ですし、かなり大胆ですよね。それだけ大らかなのか、ラウルを男とも思ってないのか。ただ、この人の強さの基準もよくわからない。この人の力からすると、今回みたいな失態はちょっと考えられないんだが。ラウルも、一般店員にしてはスペック高すぎるんだよなあ。もっとスキルを生かした職につくつもりはないんだろうか。と、転職を考えるにもそれなりに懐に余裕ができなきゃ無理なのか。適正云々を考えたくばまずは働け、という世の中は何処も変わらず、か。
世知辛いですねえ。

1巻 2巻感想

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 23   

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。2 (富士見ファンタジア文庫)

【勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 2】 左京潤/戌角柾 富士見ファンタジア文庫

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勇者試験の直前に魔王が倒されてしまい、勇者になれなかった少年ラウルと、父親である魔王が倒されて、居場所がなくなった魔王の娘フィノ。二人は王都にあるマジックショップで、なぜか一緒に働く日々を送っていた。そんなある日、業界最大手である『アマダ・マジック』が近所にオープンし、ラウルたちのお店は閑古鳥状態に。偵察のために敵地に乗り込んだラウルだったが、そこではかつてのライバルだった少女がレジを打っていて―。「『オールA』っ!どうしてお前がこんなとこに!?」「こ、これはっ、そのっ…せ、潜入警備よっ!潜入警備っ!」勇者の卵と魔王の卵が織りなす、ハイテンション労働コメディ。
この作品って労働コメディという宣伝文句の通り、結構ガチなお仕事モノにも関わらず、毎回キッチリとバトル展開を入れてくるのは感心するべき所か、危惧すべき所か中々の悩みどころである。そもそも、ラウルとフィノが務める店がわりと一般生活向けのマジックアイテムショップであって、戦闘職とは関係ない仕事なだけに、本来ならばバトル展開が入る余地ってあんまりないんですよね。フィノが魔王の後継として魔族と人間の対立構造を維持したい勢力から狙われているとか、揉め事に巻き込まれる要素はあるものの、そちらにかまけてしまうとお仕事モノとしての趣旨からズレてってしまいますしねえ。そうなると、ネタ出しにも困ってくるんじゃないかと要らない心配をしてしまう、と。マジックアイテムの不具合からもバトルにしてしまう作者に、そんな心配は余計なお世話なのかもしれませんがw
さて、此度のお話は前回までのラウルと同じく、勇者になれないまま望まぬ仕事に就いて鬱屈する元同期に、ラウルが現実を叩きつけるという、ある観点からすると夢も希望もありゃしない、なお話である。未来につながる夢や希望ならば歯を食いしばってしがみつく価値はあるかもしれないが、もはや潰えてなくなった夢にしがみつくのは、ただの現実逃避でしかない。でも、今までの自分の努力やそれに費やした時間が全部無駄になってしまった、と認めるのは辛く厳しく虚しいもの。ラウルは、フィノの真実やその直向きで純真な姿勢を目の当たりにして、自分の仕事に誇りを持つに至ったけれど、それをそのままアイリに強いるのはまた違う話である。まあ、アイリとしては、予備校同期の憧れだったラウルが身を持ち崩していたように見えたんでしょうけどね。そんな彼が、実はちゃんと前を向いて新たな目標を胸に歩いていると知る事は、彼に叱咤された以上に自分も新しい夢を見つけていいんだ、と許される思いに至るに十分な理由だったのかもしれない。
アイリが過去の呪縛から解かれ、復讐も勇者の栄光からも離れた、ただ自分の為だけの夢を自分の中に見つけ、それを語ってくれた時の微笑ましい気持ちは、ほんのりと温かな心地をしっかりと焼き付けてくれた。
いや、実際アイリが自分がなりたいものを恥ずかしげに話してくれた時には、この娘可愛らしいなあ、と思ったものです。なんか、本当に普通の職業で新鮮でしたし。

ラウルも、フィノも、そしてアイリも、今となっては望んでいるのは歴史に名を残すような勇者としての栄光でも、世の人に尊崇される救世主としての名望も関係ない、市井の中での成功であり、ささやかな充実にすぎない。でも、フィノはその望みと違って、魔王の娘という出自に周りも彼女自身も囚われている節がある。魔族の社会構造からして、フィノは魔王の娘ではあっても王族としてふさわしい待遇を受けていたわけでも、将来を約束されていたわけでもないのだから、魔族全体に高貴なる者の義務や責任があるとは思えないんだけれど、それでも彼女には人の世界で暮らす中で、人間に対して魔族を代表するという意識が強く残っているようだ。それって、否応なく王としての在り方であって、彼女が望み憧れた人間の社会の中での生き方とは程遠いものである。
果たして、フィノがこれからも市井の中の人として生きていけるのか。その世間知らず振りよりも、魔族という出自よりも、その尊い責任感こそが、彼女の夢に立ち塞がる最大の壁のような気がするのです。もし、彼女がその壁を前にして進むことも戻る事もできなくなった時、ラウルは彼女を支えることができるのでしょうか。彼女の自由な意志を守ることができるのか。
勇者じゃない、ただの魔法道具店店員だからこその、らしい選択を期待したいところです。
尤も、一巻二巻で示したラウルのセンスって、どうみても並の勇者なんぞよりも卓抜してるんですよね。それだけのスキルがあるのに、ただの店員やってるというのは、アイリじゃないけど勿体無いと思っちゃうよなあ。

1巻感想

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。3   

勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。 (富士見ファンタジア文庫)

【勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。】 左京潤/戌角柾 富士見ファンタジア文庫

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勇者試験直前に魔王が倒されてしまい、勇者になれなかった少年ラウル。幼い頃からの夢が破れて腐っていたラウルは、王都にあるマジックショップで働く日々を送っていた。そんなある日、一人のバイト志望が驚愕の履歴書を持ってショップに現れる―。名前・フィノ、前職・魔王の世継ぎ、志望動機・親父が倒されたから。魔王の子供・フィノの教育系に指名されたラウルだったが…。「敬語ってのはな、丁寧な、かたい感じの言葉遣いだよ」「フハハハハ。よくぞ我がレジまでたどりついたな、お客様め!」「ストップ!ストップ!…いったん落ち着こうか」勇者の卵と魔王の卵が織りなす、ハイテンション労働コメディ。第23回ファンタジア大賞金賞受賞作。
あらすじやタイトルから、てっきりファンタジー世界も不況で世知辛いんですよ、というシチュエーションだけ決めて、あとは適当に魔王の娘に慣れない生活をさせてその空気を読まない言動を主体にしたドタバタのノリで賑やかに押し切るだけのコメディだと思って手にとったんですが……いやこれ、わりとテーマが真剣というか、書こうとしている題材が思いの外重たく真面目で、殻こそドタバタコメディで覆ってますけれど、芯の部分は茶化して誤魔化す事無く、真剣に書こうという意図が見えていて、思わず感心してしまいました。
「みんな自分のために働いてるのに、それが他のみんなの役に立つんだよ! これって、ほんとにすごいシステムだと思わないかっ!? いったい誰が考えたんだよ、こんなこと! 人間って、ほんとにすごいなっ!」
弱肉強食、弱いものを虐げ強いものが欲望のままに振る舞う、という恐ろしく原始的で社会性というものが殆ど皆無に等しい価値観の中で育ってきたフィノが、人間の社会システムのシンプルだけれど根幹とも言うべき部分を理解した時の感動は、同時にそれを当たり前と捉えてきた自分たちにとっても、ある意味新鮮な驚きとして伝わってきたのでした。このセリフを見た瞬間、このシリーズはとことん付いて行こうと思いましたね。
タイトルこそ、「しぶしぶ就職しました」だけれど、この物語ってさり気なく働く事の意義を説く話でもあるんですよね。今の世の中、働くことって所詮生きるための金を稼ぐためにやらなきゃいけないことで、自分の仕事に、働くこと自体に誇りや意義を持ってる人って、一昔前に比べればやっぱり少なくなってきてると思うんですよ。かくいう自分も、そんな一人だという自覚があります。
でも、この話では実に真っ向から、たとえただ金を稼ぐためだとしても、世界のためでも世間のためでも国の為でもなく、ただ自分のために働き、金を使うこと、それ自体に意義があり、社会を健全たらしめているのだと、もう正攻法も正攻法で説いてくるんですよね。それを、生産性のかけらもない、ただ奪うだけの魔人の世界から来たフィノの視点から、とても素直で裏のない純朴な感覚から語られるから、こちらもついつい、ああ社会システムってのはシンプルに捉えれば、その根底ってそういうよく出来たものなんだなあ、と改めて素直に思うことができるのでした。夢破れて、いやいや仕方なく働いていた主人公のラウルからして、その事実は目からウロコだったようで、少なくとも自分がとても無意味に生きていると自虐と消沈に溺れる事はなくなったのでした。自分のしていることに何らかの意義があるのだと、思えることは幸せなことですよね。
それに比例して、「勇者」という存在もまた非生産的で、それどころか様々なものを「食い物」にして維持されてきたものだと分かった時、夢の正体を知ってしまった時にこそ、自分の立っている場所を改めて見直す事のできる余地があったというのは、ラウルにとってフィノの存在というのはなかなか運命的なものがあったのではないかと。
「勇者」システムも、本来なら必要不可欠で有用な存在だったはずなんですけどね。どんな制度もシステムも、現状を踏まえた上で適時変化を加えて行かなければ、容易に腐り機能不全を起こしてしまうものなんでしょう。たとえ、そのシステムを廃することで、これまで維持されてきた社会システムに大きな揺り返しが起こり、被害が出るのだとしても、そのまま放置していたら歪はどんどん大きくなる一方で、取り返しのつかないことになってくる。そうした真理って、耳に痛いですよね。現在の大きな損害か、将来のより大きな損害かの選択を迫られた時、ほとんどの人はついつい将来にツケを回すことを選んでしまう。結局、こういう現状の破壊というのは、大勢の意思ではなく、個人の独断でやってしまわないと成立しないものなんかなあ、と考えさせられたのでした。
ともあれ、一度壊れた旧来のシステムを、未練がましく取り戻そうと立ちまわる姿の醜悪さは、目を覆わんばかりの惨たらしさで、そんな我執、欲望に付き合わされるこれからを担うはずの若者こそいい迷惑なんですよね。
フィノも、ラウルも、約束されていた未来を破壊され、何も持たずに放り出されてしまった子たちではあるんだけれど、それは同時にこれまで世界を縛っていたルールから解き放たれた、無制限の自由を得た次世代の若者たちとも言えるんですよね。途方に暮れて、道を見失うのではなく、ちゃんと自分たちが何にでもなれるのだと気づいた彼らの先行きは、魔王や勇者なんて古いシステムなんかよりも遥かに輝いているはず。
まずは場末のチェーン店の店員から、というのは世知辛い話ですが、正社員! 正社員なんですから、夢も希望もたっぷり持とうよ! 何もかも失った境遇でも、目を輝かせて新たな価値観を得ることに喜びを隠さないフィノの可愛らしさも、そんな彼女の姿に感化されて地道に働く自分に誇りを取り戻していくラウルも、とてもイイ子たちで、このまま素直に応援してあげたい新シリーズでした。
いきなり不況の煽りで無職とか自宅警備員とか、ホームレスとかにならないことを祈りつつ、既に二巻はゲットしてあるので、さっそく続きを読みたいと思います。
 

9月29日


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