【幼馴染が引きこもり美少女なので、放課後は彼女の部屋で過ごしている(が、恋人ではない!)】  永菜 葉一/茨乃 角川スニーカー文庫

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高校生の俺・三上奏太には幼馴染がいる。誰が見てもとびきり美少女な女子高生・如月唯花だ。ただし―怠け者で甘え上手な、筋金入りの引きこもり。俺は放課後になると唯花の部屋を訪れて、そのダラダラ生活に付き合っているのだが…。課金カードのお礼にと抱きつかれ、隣同士で密着アニメ鑑賞、たまには添い寝もしたりして!?だが、俺たちは恋人ではない。
「―あたしのこと、好きになっちゃダメだからね?」
それは俺たちが“幼馴染”でいるための、今の生活を守るための予防線。なのに…どうしてキス顔で迫ってくるんだよ!?恋人以上な幼馴染たちの、放課後イチャイチャラブコメ!

もっと緩い引きこもりなのかと思ったら、ガチの引きこもりじゃないですか。それも、家族とすらマトモに顔を合わせられないくらいの。
なぜそうなったのかの原因については詳しく触れていない、ただきっかけとなった事件については既に奏太が解決してしまっているので現在進行系で彼女が問題を抱えている、問題に晒されているわけではないようなのだけれど、その件で受けた精神的なダメージが唯花に人と対面する事への拒絶感をもたらしている……らしい?
唯一、面と向かって普通に話せるのが幼馴染の奏太だけ。というわけで、日々唯花のもとに通う奏太くん。恐るべきは、彼女に会いに行くことに彼が義務感とか責任感とかを背負っていないところなんですよね。あくまで好きで会いに行っている。親に頼まれて仕方なく、という事は一切なく、面倒くさいとか仕方ないという感情は一切ないっぽいんですよね。
そしてそもそも、引きこもっているという事柄に関しても決して否定的な様子を見せていないのである。つまり、引きこもりを辞めさせようとか表に出れるように一緒に頑張ろうと、部屋を出させる事を目的とはしていない。押し付けがましく、正解を突きつけようとしていない。
ただあるがままに、唯花の思うようにさせている。それは全肯定なのか、すべてを受容しているのか。
おまけに、課金と称してバイト代を貢いですらいるのだから……あれ? これってヒモを養うアレな人じゃね? 或いは、女をダメにする男、というべきか。
当然、唯花はそんな奏太に依存しまくっている。甘えまくり懐きまくりベタベタしまくっている。会えないと寂しくて泣いちゃうレベルでベッタリである。
何気にこれ、唯花の家族も彼女のことを奏太に任せきっちゃっているところをみると、家族まるごと彼に依存しているようにすら見える。奏太からすると、バッチコーイってなもんなんだろうけど。
それでいて、唯花は自分を好きになっちゃいけないんだからね、と幼馴染という関係から逸脱しないように彼に釘を指している。奏太も、それが唯花の意志ならば、と尊重してちょっとエロい気持ちになっても我慢しちゃってる。我慢するなよ! この男、幼馴染の言いなりである。甘やかすのが楽しくて仕方なさそうなのが、業を感じる。

ただ、唯花が奏太に対して依存しきらずに一線を引いているのは、それだけ自分に対して諦めきっているから、とも言えるんですよね。こんな引きこもったまま既に人生終了している自分を背負わせたくない、いつか自分から彼を遠ざけて奏太には自分の人生を歩んでもらわなくてはならない。未来のない自分には関わってはいけない、というセーフティーが彼女の中にかかっているのである。
あれだけ甘えきっておいて、どんな言いぐさだよ! と、思わないでもないのだけれど、そういう罪悪感めいた相手を思いやる心がある、という事自体がまあ彼女の一線でもあるのでしょう。ホントの正真正銘のダメ人間、には成りきっていないわけだ。
奏太としては、もう唯花を完全にダメ人間にしてしまいたいんじゃなかろうか、という疑惑もあるのだけれど。

そんなアルコール中毒とか喫煙者、ダイエットするする詐欺師みたいに辞めようとしてやめられない。奏太依存症な唯花にとっては、幼馴染という関係は自分への言い訳みたいなものだったのだろうけれど、少なくとも作中において彼女は自分への諦めを覆す意志を見せるんですね。
変わろう、という意志を持つのである。奏太に促されてではなく、彼は何も促さないし導かないしただ見守るだけだ。だから、本当に彼女の意志だけで変わろうと思うに至った。
それは、希望なのだろう。深々と音もなく静かに降り積もっていく雪のような絶望と諦めに埋もれていくばかりだった自身を、立ち上がらせようと彼女は思い立つのだ。
自分には未来があると、思えるようになるために。
そして、未来があるなら、自分は奏太を好きになっていいんじゃないか、と思えるように。
そこで同時に、奏太に好きになってもらうんだ! なんて事を思っている時点でポンコツにも程があるのだけれど。この娘は、幼馴染の男の子が一日も欠かさず自分のもとに通ってきてくれる事実に対して、一体彼がどう思ってると考えてたんだろう。想像を羽ばたかせられないほどに、彼女の諦めというのは視線を俯かせてしまっていたのだろうか。

ともあれ、本作にファンタジーがあるのだとしたら……引きこもったままろくに外にも出ずに運動もしていないっぽい女の子が、美少女のままでいられるか! って、ところでしょうね、うん。
よっぽど節制して室内でひたすら運動して、各種ケアを欠かさずに、ってやってないと、なかなか愉快な身体になってしまうんじゃなかろうか。
まああれだ、はい、うん、本作はフィクションです。可愛い子はずっとカワイイのが真理。


永菜葉一作品感想