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影執事マルクの覚醒

影執事マルクの道行き5   

影執事マルクの道行き (富士見ファンタジア文庫)

【影執事マルクの道行き】 手島史詞/COMTA 富士見ファンタジア文庫

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恋敵の2人が仲良く家出!? 錯綜する想いを乗せ、豪華列車は進む

エルミナとカナメが家出した。慌てて後を追うマルクだが、なぜか料理人のセリアも同じ列車に乗り込んできて――。運命に導かれ、豪華な大陸横断列車に乗り合わせる契約者たちの目的は!? 疾走するロードムービー編!

もう私、ヴァレンシュタイン家使用人一同、みんなホントに大好きだわー。この人達素敵過ぎる。
確かにこの作品、マルクが主人公なのですが、何度かシリーズの感想でも触れてますけど、マルクを頂点としたピラミッド型の人間関係じゃなくて、誰もが誰かと繋がっている包括的な網目状の人間関係なんですよね。それどころか、一緒に生活し、一緒に仕事し、一緒に荒事を乗り越え、としているうちに、最初は縁のなかった人たちの間にも繋がりが生まれ、今やヴァレンシュタイン家使用人一同はひとつの家族、みたいになってるのです。
クライマックスでの、思わぬ組み合わせの二人のいつの間にか生まれていた温かい絆には、ちょっと泣きそうになってしまったくらい。今やもう、この人達はお互いの誰かが傷つけば、その人の為に怒り狂うことが出来、その人の為に泣くことが出来、その人のために自分が傷つくことも厭わない。もうみんなが大切な人になってるんですよね。
素敵じゃないですか、誰か一人だけじゃない、こんなにも一生懸命になれる相手がこんなにも居るなんて。自分の為に、あんなにも必死になってくれる人がこんなにたくさんいるなんて。
ヴァレンシュタイン家使用人一同の間にいつの間にか結ばれていた絆は、これほどまでに強力になっていたのです。いいなあ、もう、いいなあ。
恐るべきことは、これほどの絆によって結ばれたヴァレンシュタイン家の使用人が、一人ひとりが尋常でないほど凄まじい強さを誇る契約者って所なんですよね。並み居る同じ契約者の中でも、全員が異常なレベルだもんな。新大陸で名のある強力な契約者を上から十人並べろ、と言われると全員その中に入ってる、みたいなw
カナメやセリアは以前からその強さをよく見せてくれてましたけど、前巻のアーロンやオウマもとんでもなかったし、この巻なんかジェノバの凄まじさには度肝抜かれたもんなあ。<吸血姫>の名は伊達じゃない、ってか殆どデタラメじゃないですか。
ところが、毎回感心させられるんですが、この作品、みんなデタラメなくらい強いにも関わらず、一切能力のインフレバトルにはならないんですよね。能力の相性や、戦場となるフィールドとの適正などもあって、決して力押しのパワー勝負だけみたいな形にはならず、上手いこと自然にギリギリの駆け引きと見切りの勝負になっていくのです。能力を制限されることによるもどかしさやストレスも感じませんし、ストーリー全体のデザインから戦闘シーンまで、構成力がすごいですよ、このシリーズ。

前回、エルミナとカナメが二人連れ立って家出してしまい、この巻は二人の旅行記になるのかと思いきや、予想外にセリア姉さんがメインのお話に。
初々しい現在進行形であるマルク・エルミナ・カナメの三人の恋愛模様とはまた別に、セリアさんの今回のお話は悲しくも懐かしい、過去の淡い恋と復讐の物語。エルミナと契約した契約者たちにとって、ヴァレンシュタイン家が帰るべき家であり、同じ家で働く同僚たちはもう家族も同然だという事を強く印象づける話でした。そしてなにより、セリア姉さんの魅力爆発な回でしたよね。彼女のいろんな側面を見せてくれた今回の話でしたけど、やっぱりこの人はみんなの優しくも頼りになるお姉さんなんですよね。ヴァレンシュタイン家の女の子は何だかんだとみんなセリアのこと慕ってるもんなあ。
やっぱりというか確定されて嬉しかったのは、やはりセリアとアルバってイイ仲なんだ(笑
それでも、今回セリアの過去にまつわる人物が出てきて、これどうなるんだろう、とちょっとワクワクしてしまったのだけれど、決着の付け方が大人らしくてカッコよかった。さすがはセリア姉さん。
しかし、アーロンも普通にお父さんしてるのね。娘の好きな人の話になると、ちゃんと落ち込むんだ(笑

一方で、もうひとつの見所であるマルクとエルミナ・カナメとの三角関係はいい意味で泥沼化(笑
「覚醒」でエルミナ側がもはや挽回不可能と思われるほど決定的なアドバンテージをとったと思われたところで、「秘密」にてまさかのカナメの大逆襲。
ここで二人の間でグラグラに揺れてしまうマルクは優柔不断の誹りを受けても仕方ないんですが、でも仕方ないよこれは(苦笑
なあなあで済まさず、きっちり答えをだそうとしている所は誠実で好感度高いんですよ、マルクくん。ただ、二人が魅力的すぎるのでもう選ぶに選べないというのは同情してしまいます。マルクって、本気でエルミナもカナメも好きになっちゃってるんですよね。完璧に惚れちゃってる。これで選べと言われたら、そりゃもう頭抱えますよ。どっちを選んでも苦しいですし。
とはいえ、もう二人共一度はマルクにカードを切っているので、一旦ここでマルクは脇において恋敵同士であるエルミナとカナメ二人きりで顔を付き合わせての本音の話し合い。これがもう、ねえ。二人共、ほんとにもう、仕方ない子たちだよ、まったく(苦笑
よく思い出してみると、エルミナもカナメも同世代の同性の対等の友達ってお互いが初めてになるんですよね。アイシャはちょっと対等の友達というと違うし。
でも、こんなに仲良くなってるとは思わなかったよ。いや、ホントに仲良くなったのは、自分が相手を好きなように、相手も自分のことを好いてくれているというのがわかったのは、この列車の中で本音で話し合ったからなんだろうけど……うーむ。アイシャはどっちかハッキリしろと言ってますけど、二人のやりとり見てるとこれ、マルクは二人共引き受けないと収まらないんじゃないだろうか(苦笑
何気に他の使用人たちがエルミナ応援派とカナメ応援派に分かれつつあるのが面白い(w

と、列車内でのセリアの因縁の相手とのバトルとはまた別に、同時進行でエルミナの<アルス・マグナ>がどうやらえらいことになっている模様。マルク、こりゃあ色々と正念場だw

シリーズ感想

影執事マルクの秘密4   

影執事マルクの秘密 (富士見ファンタジア文庫)

【影執事マルクの秘密】 手島史詞/COMTA 富士見ファンタジア文庫

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前々から薄々と思ってたんだが……これタイトルの命名スタイル失敗だったんじゃないのか?(苦笑
ぶっちゃけ「影執事マルクの〜〜」でちゃんとマルクに掛かってるのって「天敵」くらいまでなんじゃないか。次の「忘却」はマルクじゃなくてエルミナだったし、「覚醒」はエミリオ。そんでもって今回の秘密もマルクではなく、ドミニクの話だったわけだし。

というわけで、使用人の中でも最古参であり、契約者でないにも関わらず他者を圧倒する実力の持ち主、得体の知れない謎の人物、家令のドミニクの過去に関わりのある人物の来襲編。
回想部分、誰が誰かというのはだいたい最初から想像はついてたんだけれど、ドミニクが本筋の方にさっぱり出てこないから、確信とまでは至らなかったんですよね。まー、口絵見たら間違いないだろうとは思ってたけど。
前回のエミリオとエルミナほど芸術的な対象認識の錯綜じゃなかったけれど、それでも最後まで疑念を晴らさせない描写バランスは絶妙ですね。
実は個人的には<ドミニクはエルミナたちの**>というのをこっそり期待してたんだけどなあ。この期待はかなりギリギリの所まで継続していたんだが、<彼女>からの手紙の内容を見る限りでは、その線はなさそうだ。
でも、過去の真実や、彼女とドミニクの関係がこんな風だったのを知ると、家令がどんな思いでヴァレンシュタイン家に仕え続け、エルミナたちを見守ってきたかが想像を絶してしまう。
そうなんだなあ。ドミニクの十五年があった先に、今のエルミナとエミリオの二人の代があり、マルクたちヴァレンシュタイン家の使用人たちが集った今の時間があるのだと考えると、ドミニクやペインたちが抱え込まなくてはならなかった苦しみを、繰り返せるわけないよなあ。
決着はつけなきゃならない。


さて、今回はカナメ逆襲編と位置づけられているだけあって、カナメが巻き返す巻き返す。と言うほどカナメ個人がガツガツと噛み付いてくるわけじゃないんですけどね。でも、控えめながら服の裾を摘まんで離してくれない、みたいな一途な姿が強烈極まりない。
このシリーズの面白いところは、主人公のマルクの恋愛観が驚くほど等身大な所である。先のエミリオの事件の終いに、他の使用人たちの見ている前でエルミナにキスされてしまったマルク。それをきっかけに、自分が主人であるエルミナに対して普通の女性として恋愛感情を抱いてしまっている事に気づくわけですが、そこからがマルクの面白いところで同じく女性として仄かに意識し、また薄々自分に対して好意を抱いてくれていると感じていたカナメとそれとなく距離を置き始めるのである。同僚として以上に近しい距離感だったカナメとの間に、きっちり線引きをしようとしだすのだ。それをマルクは、エルミナを好きになってしまった以上当然として行わなければならないケジメだ、と明言するのである。近年稀に見る異性関係に対して誠実な主人公である。
とはいえ、そこできっぱりとカナメと関係を清算出来るほど人間が枯れていないのが、マルクという主人公の愛すべき所なのだ。
カナメに対してもしっかりと、自分はエルミナの事が好きなのだ、と告げながらも、やっぱりカナメも可愛くて女性らしくて魅力的でいいよなあ、という思いを消しきれず頭を抱えて悶々としてしまうあたり、人間味がありすぎるくらいありすぎて、ついつい背中をバンバンと叩いて励ましてやりたくなってしまう(笑
さらにこの後、とある一件でマルクはこのカナメに対するモヤモヤとした気持ちが、エルミナへの想いと同じ、女性としてカナメを好きなのだと気づき、愕然とするわけなのだが、ここまではっきりと複数の女性に恋愛感情を自覚する主人公というのも珍しいなあ。
それでも、その後きちんと彼はエルミナの方を選択しようとするのだけれど、ここで思わぬ方向から待ったがかかるんですよね。決めちゃうのはちょっと待ちなさいよ、と。
マルクと同じく、彼の言う理由はよくわかんなかったんですけどね。エミリオの名前がどうしてそこで出てくるんだ?

一方でカナメの方もエルミナとマルクの決定的瞬間を目撃し、さらにマルクからエルミナを好きなのだと告げられ進退極まったところで、ついに決意を固めるのである。

主人公やヒロインたちが鈍感でも不誠実でも事なかれ主義でもないためか、何気にそこらのラブコメなどとは比較にならないほどダイナミックに恋愛模様が激動してるんだよなあ、このシリーズ。それでも、これまでは立場やまだ固まらない気持ちなどから、個々人の胸の内で揺れ動く恋心にとどまっていたのだが、それもカナメの決定的な行動によって崩れてしまった事から、ダムが決壊するようにえらいことになりそうだったのが、またラストで上手いことやりやがった。
これで、否応が無く問題が先送りにされるじゃないか。でも、先送りにされるだけでいざその時が来たら、これいったいどうなるんだろう。やばい、ニヤニヤが止まらない。

前巻を読み終わったときは、もう恋愛模様に付いては王手が掛かったと思ったんだが、まさかカナメ嬢がここまで巻き返してくるとは想像もしなかった。こりゃあ、まだ五分五分以上可能性があるかもよ?

著者作品の感想一覧

影執事マルクの覚醒4   

影執事マルクの覚醒 (富士見ファンタジア文庫)


【影執事マルクの覚醒】 手島史詞/COMTA 富士見ファンタジア文庫

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なるほど、エルミナとエミリオに纏わる以前からの奇妙な違和感は、こういう仕組みによって成り立っていたのか。単純な入れ替わりなら、これほど混乱させられる事は無かったんだろうけれど、正確な事実を把握している者と、完全に事実認識に錯誤を起こしている者、誤解しているものの違和感を抱いている者。これら三者がそれぞれの認識が食い違っている事自体に気付かず、もしくは気づいてもそのまま放置していたがために、それらがぶつからずに常にフラットに提示されてしまっている状態だったわけだ。おかげで、読んでるこっちは基本ベースはマルク視点ながらも、同じ事項に対して複数の事実認識が提示させられて、うまい具合に混乱させられるはめになっていたのか。
肝心の本人の片割れからして、完全に勘違いしていたのが致命的だったんだな。時折挟まれる回想がキーになっているのかと思ってたら、前提から間違っていたんだから。
それでも、それぞれの言動を冷静に吟味して行ったら、正確なところはつかめたんだろうけれど、紛らわし方が非常に絶妙で、露呈してしまえば別段複雑でもない単純な事実だったにも関わらず、本気で混乱させられてしまいましたよ。
思えば、先だってエルミナが記憶喪失になり、それまでの無感情な様子から一転、無邪気で快活な人格になってしまったのも、単に記憶喪失と入れ替わりの違いだけではなく、今回の彼女の言動から透かし見えてくる違和感を和らげるカモフラージュになってたんだなあ。普段の彼女からすると、この巻の彼女の細かな立ち振る舞いに浮き上がってくる違和感は、本来なら尋常ではなく引っかかるもののはずなんだけれど、つい先立ってそれ以上の変貌が彼女を襲っていたがために、紛らわされてしまったんですよね。改めて振り返ってみると、あからさまに別人だろう!? という振る舞いをしているのに(苦笑
そうやってちゃんと読み返してみると、エルミナとエミリオ、どちらがどちらの真似をしていたか。どちらが姉でどちらが妹か、というのは実にわかりやすい形で描かれているわけです。ただ、露骨でなくさり気なく、でもちゃんと分かるようにした描き方は絶妙で、読み返して思わず感嘆させられたんですけどね。
うむむ、これは人が増えて多人数になったのを持て余すどころか、逆に縦横無尽に活用しまくった、本気で上手い構成や心理先導だわ。
それぞれの屋敷内での立場や人間関係の立ち位置を最大限利用しつつ、内乱状態へと持っていく流れといい、一度は手の内を見せ合って同僚になったにも関わらず、逆に手の内がわかっているのを駆け引きの見せ場としつつ、さらに伏せていたカードを開いてみせたり、思わぬ契約者同士の連携の可能性を見せたりと、エンタメ的にも非常に盛り上がる演出がなされているんですよね。
なんか存在感無いのが売りみたいになってきていたオウマ君が、【魔術師】の異名に相応しい貫禄を見せたり、破壊力ばかりが先行していたアイシャがいつの間にか、一端の戦闘技術を手に入れてたりとか、アーロンの本気がちょっと洒落にならなかったりとか。
な、なんかみんな登場時点で既に尋常じゃない契約者ばかりだったはずなのに、さらに強くなってるようなw
それと同時に、みんなこの屋敷で働き過ごすことに遣り甲斐と幸福を感じるようになっているのが、そこかしこで描かれていて、じんわりとあったかくもあるんですよね。セリア姉さんの口から語られた心情と、この屋敷での生活に抱く想いの欠片は、今や皆にとってここがかけがえのないホームになっているのがなんとなく伝わってきて、素敵でした。
内乱状態も、それぞれが本気でこの屋敷や主たちを思っての事だし、あれだけ本気で真剣の対立が発生したにも関わらず、ごくあっさりと対立が収まり、まとまってしまうあたり、皆がなあなあで馴れ合っているのではなく、しっかりと繋がりを得た身内同士として成立しているが故なんでしょうね。ほんと、いいファミリーになりましたよ。
ファミリーといえば、アルバ兄さんが丸くなりすぎの気もするけど(苦笑
まー、アイシャとの仲睦まじさはほのぼのすると言うか、この野郎!と思うというか。いや、いいんだけど。結構世話好きで、何くれとなくエルミナたちをフォローしてくれるのはほんとに頼もしい人だし。人の心配している暇があったら、セリア姉さんの気持ちに気づいてやれよ、と思わないでも無いけどw

そんなこんなで、ヴァレンシュタイン家崩壊の最大の危機を乗り越え、これまで数人の心の中に秘められたままだった真実と今後の展望、そしてこの一連の事件を通じて打開策が明らかになり、一家使用人全員に情報が共有され、兎にも角にも一段落。これから、一致団結して目的のために邁進するのだ! となるはずなんですけど、またぞろ、でっかい波乱要素がーー!!
いやまあ、前巻のラストがなるほど、こういう事になってたわけか。これは確かに確固たる進展なんだけど、カナメは穏やかではないんだろうなあ。ラストの挿絵見ても、ちょっとキツそうなことになってるし。
こりゃあ、次回は修羅場か!


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11月9日

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